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—— ルーナ?
スネイプ先生?
—— いや、トムだ。
トム? ほんとに? 大丈夫だったの? 人間になったってきいたんだけど?!
—— ああ……変な気分だ……これは実際に書いている……羽ペンで……書くというのはいつ以来だったか……手もあるんだ!
すごい。早く会いたい!
—— ぼくも早く会いたい。
気分はどう?
—— 疲れた。痛い。体じゅうが。というか、体がある。
わたしはさっきからにやにやしてる。すごい。ここまでうまくいったのが信じられない。
—— ぼくもだ。
質問をひとつさせて。
—— 何だ?
トムが人間になったのに、どうして日記帳のページを使って通信できるの?
—— 正直よくわからない。
トムがそういう仕掛けをしたんじゃないの?
—— いや。あの日記帳はずいぶん長いあいだホークラックスになっていたから、影響が残ったんだろう。ホークラックスに肉体を与えた例はほかにない。空っぽになった物体がそのあとどうなるかは、だれも知らない。
まだ使えるのは便利だけど。
—— そうだな。こうやって話せるのはいい。
あ、もうひとつ質問。ヴォルデモートはどうなった?
—— 弱くなった。かなり。ぼくたちが勝てる可能性が高まった。
よかったね。
—— ああ。
スネイプ先生がいつ学校にもどってくるか分かる?
S> 間もなく出発する。
あ、先生。こんにちは。いたんですか。
S> こんにちは。十分後にわたしの居室に来てくれないか。ウィーズリー兄弟にも伝えてくれ。いっしょにダンブルドアのところへ行こう。
はい。二人はもう、ハリーとロンとハーマイオニーをおとなしくさせるために、行っていると思う。
S> つまりあの三人は起きているのか?
はい。
S> それなら彼らも連れていく必要があるな。お気に入りの三人がいじめられたと言って、ダンブルドアが機嫌をそこねてくれなければいいが。
—— はっきり言って、ぼくはいい手だと思わない。
いずれ校長先生には話す必要があるよ。
—— いまやる必要はあるのか? やっと体ができたんだ。即座にアズカバン行きというのはごめんだ。
そうはさせない。あなたは間違ったことをしていないんだから。
—— 最近はな。
ダンブルドアはわかってくれる。
—— そう願う。
……
ハリーは怒っている。
ハーマイオニーは憤慨している。
ロンは呆然としている。
ルーナは心配そうにしている。
フレッドとジョージはおもしろそうにしている。
スネイプは疲れて諦観の表情をしている。
ダンブルドアは椅子から身をのりだして、全員をじっくりとながめた。
「では、なにが起きたのか、一から話してもらえるかな?」
トム? いる?
—— ルーナ? どうなっている? ダンブルドアとの話はどうなった?
ややこしくなった。
—— 一から話してくれ。
ええと……最初はよかった。どういう代償があるか分かっているのかって叱られて……スネイプ先生がうまくさえぎって、あのポーションをかけてヴォルデモートを弱体化させる作戦のことを校長先生に説明してくれた。
—— あの老いぼれの反応は?
そんな呼びかたをしないで。ダンブルドアと意見があわないのは分かるけど、失礼な言いかたはよくない。
—— わかった……キラキラの紫色のローブを着たあいつの反応は?
いまのはスルーする。その作戦はとても危険だし、スネイプ先生が生徒を巻き込んだのも非常に好ましくないし、そもそもなぜ相談しなかったのか、っていう反応だった。
—— 成功したことは伝えたのか?
もちろん。それで少し態度がやわらかくなったけど、まだスネイプ先生をにらんでた。スネイプ先生はかわいそうだった。申し訳なさそうだったけど悲しそうでもあった。
—— 気にすることはない。ダンブルドアはもっとひどいやつも許してきた。明日の朝にはもう忘れてるだろ。
そうだといいな。
—— そのあとは?
トムの話をした。
—— はあ、結局そうなるのか。
校長先生にはぜんぶ話すって約束したから。
—— 荷物をまとめたほうがいいのか? ファーストクラスでアズカバン行きか?
ううん。あなたの居場所や、この日記帳で連絡できることはまだ伝えてない。
—— 伝えていたら、こうやって話はできていないだろうな。
たぶんね。
—— じゃあなにを伝えたんだ?
元ホークラックスでいまは人間で、わたしと何年も話していて、ヴォルデモートを攻撃する作戦に協力してくれたっていうこと。いまは秘密の隠れ家にいるっていうこと。
—— あいつはスネイプにぼくを引きわたさせようとしただろう? スネイプは断ったのか?
した。スネイプ先生は完全に話が終わるまで、場所は教えられない、って言った。わたしたちがトムのことを信頼していて、保証人になるつもりもある、っていうこともしっかり言っておいた。
—— ありがとう。
本当のことだから。
—— あらいざらい話したわけか。ポッターたち三人もこの話を知っているということか? 一緒にいたんだろう?
あの三人は、ヴォルデモート攻撃のあいだ自分たちが縛られていたことと、わたしたちがハリーのマントを盗んだことを証言しただけで、部屋の外に出された。だからあなたのことは知らない。
—— それならよかった。ダンブルドアはいまどうしてる?
まだスネイプ先生と話してる。ヴォルデモートに使ったポーションの詳細を説明してる。それから、ムーディ先生も呼ばれていっしょに、ヴォルデモートが弱体化しているうちに攻撃する作戦を話しあってる。
—— 何て先生だって?
ムーディ。今年の防衛術の先生。言ってなかったっけ?
—— 聞いてない。
いい先生だよ。変な人だけど。闇祓いで、才能もあるけど、あんまり普通じゃない。透視能力があるガラスの目と義足をつけてる。ちょっと怖いけど、でもいい人だと思う。
—— ちょっと待て。聞いたことがあるような。前の戦争で死喰い人を何十人も逮捕したやつだ。ずいぶん評判だった。
そうそう。マッドアイ・ムーディっていうあだながある。いいあだなじゃないと思うけど、本人は気にしてないみたい。
—— ということはクラウチが化けようとしていたのはそいつだな。
クラウチ?
—— バーティ・クラウチ・ジュニア。ヴォルデモートに協力していた死喰い人だ。やつらはこのムーディという奴を誘拐して、クラウチが一年間そいつになりすまして、トライウィザードの優勝杯に偽装したポートキーでポッターを誘拐するというバカげた作戦をたてていた。
何で優勝杯に偽装するの? ハリーはトーナメントに参加しないよ。
—— ポッターを参加させるためのトリックがあったらしい。それと優勝させるための作戦も。
誘拐するためだけに? たしかにバカげた作戦だね。
—— もうひとりの自分があんなことを考えたのがちょっと恥ずかしいくらいだ。
ムーディー先生が誘拐されなくてよかった。今年はいろいろなことを教わった。
—— よかったな。やっとそれなりの防衛術教師に来てもらえたわけか。
ルーピン先生もいい先生だった。
—— 人狼で、脱狼薬を飲み忘れてきみを殺しかけた先生だ。
あれは事故だった。
—— うかつすぎると言っている!
見解の相違だね。
—— いや、それは認めない!
スネイプ先生もいい防衛術の先生になると思う。
—— 話をそらすなよ。
スネイプ先生は防衛術の教師になりたいみたい。みんなそう言ってる。
—— あの人狼の話だぞ。
何でダンブルドアはそうさせないんだろう。
—— ルーナ!
多分どの先生も一年しか持たないからだと思う。
—— あの人狼もそうだったな。本人がうかつなせいで。
スネイプ先生にいなくなられると困るんだと思う。
—— あの人狼もいなくなった。
スネイプ先生が防衛術の先生になったら魔法薬学の先生が必要になるし。
—— きみとウィーズリー兄弟でどうだ?
あ、わたしの話に乗ってきたの?
—— だってぼくの話は永遠に無視する気だろう?
うん。
—— ルーナ?
なに?
—— きみと会うのが待ちどおしい。
わたしも。
—— そのまえにダンブルドアを説得して、ぼくが昔のような悪ではないと認めてもらわないと。
ちょっと前は違ったけど。
—— それは言わない約束だぞ。
ちょっと前までは、少し邪悪だった。
—— そんなことはない。
わたしにクラスメイトをクルシオさせようとした。
—— あれはジョークだ。
ハグリッドのニワトリも殺させようとした。
—— それもジョークだ。
ビビデバビデブーと言えばドラゴンを飼い馴らせるって言ってだまそうとした。
—— 笑えるだろ。
変。
—— 意見が一致してよかった。
あなたが味方でよかった。敵同士だったら大変だった。
—— 同感だ。きみが敵だったら恐ろしい。
恐ろしくない。
—— 巨大ナーグルにぼくを追いかけさせた。
あなたがわたしの頭のなかに侵入したから。
—— 恐ろしい頭のなかだった。
あなたの頭のなかも見てみたい。
—— 見ないほうがいい。いい場所じゃない。
見たい。暗黒だらけだと思うけど、よく目をこらすと楽しい夢とか、ベルっていう名前の子猫もいると思う。
—— ぼくの頭のなかでそんなものを探すのはきみくらいだ。
ほかの人はわたしほどあなたのことをよく知らない。
—— たしかに。
ダンブルドアはあなたのことを分かってくれると思う。分からせる。
—— 分かってくれなかったら?
逃げればいい。
—— どこに?
どこでも。世界じゅう。
—— 夢としてはいいが。
夢じゃないよ。作戦。
—— 作戦か。
トムのよりはましな作戦。
—— それは言わない約束だぞ。