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不遜にも偉大なるヴォルデモート卿の一部を自称する反逆者に告ぐ。こちらは闇の帝王さまの忠実なしもべ、バーティ・クラウチ・ジュニアだ。愉快な知らせがある。おまえの子飼いのネズミはわれわれが捕らえた。ただちにこちらへ出頭せよ。さもなくば、ネズミは無慈悲に処刑される。二日待つ。
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トムは校長室の机のうえに置かれた日記帳のページの一枚をじっと見た。そこにあるメッセージは、昨晩のある時点で出現したという。
ダンブルドアは背すじをぴんとして座り、眼鏡のむこうから少年の目をしっかりと見すえている。ルーナとスネイプと双子もみな机のまえでトムのとなりにいて、五人はメッセージを読もうと、半円状に肩を寄せあって並んでいる。
トムはため息をついて、校長に視線をあわせ、口をひらいた。
「救出に行く必要があるだろうな」
トムの左にスネイプが顔をしかめ、腕を組んだ。
「あるのか? わたしとしては、ほっておいて何の問題も感じないが」
「先生!」とルーナが怒って口をはさんだ。
「ほっておけないよ! 殺されちゃう」
そこでジョージが静かに言った。
「いや、ルーナ。そんな悪いことかな? あいつはあまり善人だったとは言えないし」
フレッドがうなづいて同意した。
「同じことはぼくにも言える」とトムが指摘した。平然としてはいるが悲しい声だった。
「というより、ぼくのほうがはるかに悪人だった」
茶色の瞳が友人たちのほうを向き、理解してくれ、というように見つめた。
「ぼくは二度目のチャンスをもらった。おなじように借りを返したい。実際あいつはよくやってくれたし、ときにはかなり危険な任務を引きうけてくれた」
みながそのことばを受けとめていると、部屋がはりつめた空気になった。ルーナがトムの手をとり、よくそこまで成長してくれたと言うように、しっかりとにぎった。トムはやさしく笑い返した。
最終的にスネイプがフンと言い、組んでいた両腕をほどいた。
「いいだろう。だがわたしは気がすすまない、ということははっきりさせておく」
「セブルスや」とダンブルドアがおだやかに笑って言った。ごくわずかに、からかうようでもあった。
「何であれ気がすすむことなぞ、ここ何年もなかったろうに?」
それを聞いてスネイプはあまり模範的とは言いがたい返事をしたかもしれないが、生徒たちは聞こえなかったふりをした。
……
「むこうはそもそもどうやってペティグリューを捕らえたのだ? やつはトムの隠れ家にいたはずでは?」とスネイプ。
トムはうなづいて同意した。
「そうだ……と思う。しばらく連絡をとっていなかった。多分もっとこちらから確認しておくべきだったな」
「つまり隠れ家に侵入されたってこと? それとも、あいつの外出中に?」とフレッド。
「何とも言えない」
ジョージはあることを思いついて、眉をひそめた。
「捕まったっていうのはほんとかな? むこうがそう言ってるだけだったりしない?」
「ピーターが持っていた日記帳のページが奪われている。奪われていなければ、このメッセージは来ていない」
「でも本人ごと奪われたとは限らないよな。うまく逃げたかもしれない。あいつ、そういうのは得意だったんだろ」
トムはその可能性を考えて、一瞬明るい表情になった。
「ふむ。たしかに。その可能性もある」
「隠れ家を実際に調べれば済む話だ。まだだれも現地に行っていないのか?」
そう言うスネイプの顔にいらだちがあらわれてきている。
最初にこのメッセージを見たのはダンブルドアなので、全員がダンブルドアのほうを見たが、沈黙が答えだった。
「セブルス。……ひとつ、頼みたい任務がある」
スネイプは両目を閉じて十を数えた。人生は彼の忍耐の限度を試すことが本当に好きらしい。
……
「やはりいないか」
そう言ってトムは無人の隠れ家を見渡した。
「ご慧眼恐れ入る」とスネイプが乾いた声で言った。
トムは反撃しようともしなかった。元死喰い人スネイプの無遠慮な態度には、もう慣れている。残りの面々を学校に残して来たから、いま反論して示しをつける必要もない。
自分はもう闇の帝王ではない、という事実をトムはすこしずつ受けいれつつあった。いまの自分は一生徒であり、たとえかつての信奉者であろうがスネイプは教師だ。だからといってたいていの場面では皮肉を言うのをやめるわけではないが、そうしたくなるのを抑えるのにもさほど苦労しなくなった。
「ということは、家の外から不意打ちしてきたんだな」
「みごとな推理だ」
トムはこわばった笑みを見せたが、今度も反論しなかった。
「やはり捕まったんだと思う。襲撃をかわせたなら、またここに戻っていただろう」
スネイプは今度は真剣な口調で言った。
「たしかに、そうだろうな」
二人は視線をかわすと無言で防御結界から抜けだし、学校へと
……
「それで次の手は?」
アルバス・ダンブルドアは両手の指で山を作り、前のめりになった。
「状況を鑑みれば、最良の手立ては、ほかから支援を求めることじゃろう」
「ほかというと?」
ダンブルドアはこの提案が不評であろうことを意識しながら、ゆっくりと一息つく。
「闇祓いの手を借りることにしたい」
ほぼ予想どおりの反応があった。
「どうかしてるよ」とジョージが叫んだ。
「それじゃペティグリューは逮捕される」とフレッドが指摘する。
「救出するんじゃなかったんですか」
「トムのことがバレたらどうする?」とルーナが心配げに言った。
ダンブルドアは静粛に、と言うように片手をあげた。
「いろいろな側面から検討した上での判断じゃ。やはりこの案で行きたい。トムが復活したおかげでヴォルデモートは弱体化した。けれどもホークラックスは残っている。トム自身もその一つ。ホークラックスで生かされている以上、おそらくヴォルデモートを殺すことは不可能。となると、次善の手立ては身柄を拘束することじゃ。もっと早く手が打てていればよかったとは思うが、これはヴォルデモートの脅威を可能なかぎり払拭する——アズカバンに閉じこめる——この上ない機会かもしれん。そう思うからこそ、闇祓いに通報するのがよいと考えている」
「いままでは何で通報してなかったんですか?」とルーナが不思議そうに言った。
「これまでも通報してはみた」とスネイプが陰気につぶやく。
「受信がわのだれかさんは、ヴォルデモートが戻ってきたとは信じたがらず、虚言と見なしたようだったがな」
「それでなぜ、いまは信じてもらえると思う?」とトムが質問した。
「今回はヴォルデモートがいたと言って通報するのではない」とダンブルドアが補足する。
「あの場所に死喰い人の残党がいたと通報し、向こうにヴォルデモートを発見させる」
スネイプがうめいた。
「すばらしい。闇の帝王を捕まえるためにこれだけ手を尽くしながら、手柄は全面的に放棄せよと」
「スネイプ先生のおっしゃるとおり」とジョージ。
「マーリン勲章と、家からぬけだすのを一生ママに見逃してもらう権利くらいはもらわないと」
フレッドが愉快そうに笑った。
「手柄を取られるのはいいとして……」
このなかのだれもその点に強くはこだわらない様子なのを見て、フレッドは安心した。
「でも問題は残ってる。トムとペティグリューのことはどうする?」
ダンブルドアはまた片手をあげた。
「その点についてはこうしたい。ペティグリューを救出し、可能ならヴォルデモートとクラウチの両名を気絶させるか行動不能にして逃げられぬようにしたうえで、闇祓いに通報する」
「たったそれだけですか?」とスネイプが皮肉まじりに言う。
「ヴォルデモートと狂った手下の隙をついて気絶させ、捕虜を救出する。しかも単独で。何と楽な任務だ」
「いや、単独でとは言っておらん」
スネイプは眉をひそめた。
「ほう? まさか、この子どもたちを連れて行け、などと言い出すのではないでしょうな」
ダンブルドアは溜息をした。友人だと思っていたのに、セブルスはいつからこれほど自分を信頼してくれなくなったのだろうかと思いながら。
「セブルス、同行するのはわしじゃ」
「え……」とスネイプはショックでかたまった。
「本気ですか」
「いかにも」
全員がしばらく無言になり、作戦を吟味した。
「わたしたちになにかできることはないですか?」
ルーナが質問をぶつけた。教師二人が危険に身をさらすあいだ、なにもせず待っているのは嫌だと思った。
「きみたちには例の隠れ家で待機してもらいたい」とダンブルドア。
「ペティグリューが戻るまでに、念のため治癒ポーションを作っておいてくれ。必要になるとは限らないが、どの程度無事かは救出するまで分からぬ。そして、ペティグリューの安全が確保できしだい、闇祓いにあの場所のことを通報できるよう、準備しておいてもらいたい」
生徒たちはうなづいて了承した。
「では」と言ってスネイプは一歩さがって、部屋を見渡した。
「その作戦で行くとして、いつ実行しますか?」
ダンブルドアはトムに尋ねた。
「あちらの居場所を調べることはできるか?」
少年はうなづき、自分の魂の片割れとのつながりに注意を集中した。
「では今夜、打って出る」