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トム。図書館で調べたらおもしろいものがみつかった。
—— ぼくを人間にもどす呪文か?
ううん。
—— 薬?
ううん。
—— そういう呪文か薬が書かれている本を解説した本とか?
ううん。
—— じゃあ何なんだ?
卒業アルバム。
—— 卒業アルバム?
そう。あなたの。
—— ぼくの卒業アルバムを見つけたのか?
そう、本名がほんとうにトム・マールヴォロ・リドルなら。あ、写真もある! 日記帳になるまえはけっこうハンサムだったんだね。
—— きみからそう言われるとどこか不安になるが、一応ありがとうと言っておこう。
どういたしまして。あ、ハグリッドもいる! 友だちだったの?
—— あまり。
覚えてるかどうかハグリッドにきいてみようかな?
—— いや、それはやめろ!
何でだめなの?
—— それは、ちょっと変に思われそうだろ? 存在することを知った経緯すら説明できないような人物のことを聞きまわるというのは。それに、ハグリッドは退学させられたんだ。同級生のことをきかれると落ち込むかもしれない。ルーナはハグリッドを落ち込ませたくないだろう?
それはいやだ!
—— じゃあ決まったな。
うん。
—— よし。じゃあきみがやってくれている調査についてだが……
こっちにはきれいな写真が入ってる。
—— ルーナ。話を聞け!
あ、トムもネコ飼ってたんだ! 名前は?
—— ネコの名前はどうでもいい。
知りたい。
—— 忘れた。
そんなはずない。
—— あきらめろ。
よーし。オスカーかな?
—— 違う。
マーリン?
—— 教える気はない。
サラザールかな? あなただったら、寮の創設者の名前をつかってもおかしくない。
—— 違う。質問をやめなさい。
フラッフィ?
—— 違う!
じゃあ……
—— ベルだよ。ベルは……美人だったからこの名前にしたんだ。*1
ふふ。いい名前じゃない。
—— だまれ。ぼくもまだ十二歳だったんだから。
恥ずかしがらなくてもいいのに。
—— この話はここまでだ。
トム?
—— 何だ、ルーナ?
こうやって手つだいをしてあげてるんだから、わたしもちょっと助けてもらえたりしないかと思って。
—— まえから言ってるだろ、クルシオしろと。そうすれば間違いなくいじめはとまるさ。
それのことじゃない。
—— ほう。じゃあ何だ?
ちょっと恥ずかしいんだけど、わたしも思春期になって、最近いろいろ変化がでてきたんだ。
—— いやちょっと待て、たぶんそれはぼくにすべき話じゃないぞ。
ほかに相談できる人がいないの!
—— ぼくはそもそも人ですらない。日記帳だ。ほかの女の子にでも相談できないのか?
できない。本来はお母さんにきくべきことだろうけど、もう話したとおり、お母さんはだいぶまえに死んでしまってて、いま相談できる女性の親戚はいない。お父さんにもきこうとしたけど、恥ずかしがって役にたたなかった。
—— 助けてくれる女の子はクラスにいないのか?
いるわけない。どういう関係だか知ってるでしょ。
—— ジニーはどうだ?
友だちになったばかりなんだよ。このことを押しつけたりしたら、どう思われると思う?
—— ほうそれでぼくに押しつけるのはいいと?
あなたをもとに戻す手つだいをしてあげてるんだから、おかえしにそれくらいいいでしょ。
—— いいさ。それでなにをしてほしいんだ?
それがね、先週はじめて血がでて……
—— ナースだ! ナースにきけばいい。きっとぼくよりずっと助けになってくれるぞ!
あ。ばかみたい。マダム・ポンフリーのことを思いつかなかったなんて。
—— そうだよ! とにかくその人にききなさい。まさに適任者だから。
ありがとうトム。ほんとに助かった。
—— 勘弁してくれ!
—— いったいどうやってばれずに禁じられた書庫に忍びこんだんだ?
忍びこむのは得意だよ。珍しい生き物を探索する経験のおかげ。
—— なかなかの手際だ。
ありがとうトム。
—— どういたしまして。きみの珍妙な習慣も役にたつことがあるようでよかった。
わたしに助けてもらってるのを忘れてない?
—— ほめてたんだが。
ええそうでしょうよ。
—— まあいい。なにが見つかった?
特定の人に結びついた物体への呪いの魔法的つながりを弱めるような薬。役にたちそう?
—— かもしれない。作りかたをこの日記帳に書いてくれ。見てみるから。
はーい。
……
どう?
—— おもしろい。ほしかったのとは違うが、これもいい。これから修正版を書くが、このレベルの調合は問題なくできるな?
できると思う。魔法薬学の成績はわりといいから。
—— レイブンクローのなかでそうなのなら、なかなか頼もしい。
ありがとう。
—— 羊皮紙はあるか? 今から書くぞ。
ある。いつでもどうぞ。
……
—— ラベンダーみたいな味がする。そういう効果だったか?
どうかな。これは物体用の薬だから、物体自身にとってどういう味に感じるかを気にした人はいないと思う。
—— それはそうだな。なにか変化はあるか?
ある意味ある。
—— なにも変わったように感じないが。
見た目が変わった。
—— そうなのか?
うん。
—— どういう風に? どうも期待していた効果はなかったようだな。
たしかに。なぐさめになるかどうかわからないけど、きれいな紫色になってるよ。
—— すばらしい。ずっとそうしたかったんだ。
きょうはとてもすてきなものを見た。
—— きみのばかげた生き物のことはどうでもいい。ここからぼくをだしてくれることについての進捗をきかせてくれるはずだったじゃないか。
ユニコーンの仔馬。すごくかわいかった!
—— ああ、こんどは想像上の生き物じゃなかったわけか? それでもたいして興味はない。
輝くようにまっ白だった。
—— ユニコーンはそういうものだ。ぼくの問題にもどるが、探してみてほしい本が……
あの女の子は森からまっすぐにわたしのところに来て、なでさせてくれたんだ。
—— 女の子だったってどうやってわかる?
毛並みがやわらかくてすべすべしてたから。
—— あのな、知るか。
そしてあの目。トムはユニコーンの目をみたことある? すごく青いの!
—— ぼくは何十年もこの本に閉じこめられているんだ。助けてくれると言ったじゃないか。だから集中してくれ!
……でも真っ青じゃなくて、とても青白い。光をうまくあてると銀色になると思う。でもまちがいなく青なの。
—— 小娘にのぞみを託したらこうなるということだな。
こんな長くこの学校にいながらユニコーンがこんな近くにいるのを知らなかったなんて!
—— きみがぼくを助けてくれると思ったなんて。
……それにほんとうにさわれたなんて。しかも美形の子ども。信じられる? すごく運がよかった。
—— 言葉にできない。
黄金パイプもやしよりも感動的だった。
—— ルーナ、ちょっとお願いしてもいいかな? ぼくを箱にいれて、きみが二十歳以上になるまでしまってくれ。
すてきなものはいろいろ見てきたけどこんなのははじめてだった。
—— そもそもぼくの返事を読んでくれてる?
人生最高のできごとだった。
—— ぼくはいつか世界を征服する殺人鬼だ。
たてがみのことを忘れてた! すごくぴかぴかで、水が波うつみたいに背中を流れてるの。
—— ダンブルドアは副業としてモルモットを売って一儲けしている。
……それにしっぽ! トム、あのしっぽったら!
—— ぼくはできるかどうか試しにウェディングケーキを自分で焼いてみたことがある。
いま、とてもすてきな気分で表現できないくらい。
—— そりゃよかった。表現しないでくれ。
わたしの手からリンゴをとって食べてくれたんだよ?
—— そうなのか? かわいいね。それでもなぜかどうでもいいんだが。
すごくやさしくておとなしいの!
—— ところで、ぼくが外に出れたあかつきには、きみとそのユニコーンをやつざきにしてやる!
とても幸せ。きょうは最高の日だったし、トムにそのことを話せてよかった。
—— きみはぼくにとって人生最悪のできごとだ。あのポッター野郎よりもだ。