ルーナ・ラブグッドと闇の帝王の日記帳   作:ポット@翻訳

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30「ヤドリギ」、31「芸術家」、32「ペルー」

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30「ヤドリギ」

 

これから魔法をかけるよ。そのつもりでいてね。

 

—— 新しいのをみつけたのか? 使うまえにやりかたを相談しろとあれほど……

 

それじゃなくて。ページにヤドリギの痕跡みたいなのがある。

 

—— は? それがどうかしたのか?

 

ナーグルがくる。

 

—— え?

 

ナーグルはヤドリギに引きよせられるんだよ。でも大丈夫。言っておいたとおり、ナーグルよけの呪文があるから。

 

—— 言っておいてない。ルーナ、最近はぼくらうまくやれてたじゃないか。またたわごとをふかすのはやめてくれ。

 

たわごとじゃない。けさのクィブラーの記事でヨーロッパじゅうでナーグルの目撃談がでたって。だから心配……

 

—— お父さんが発行しているあれか?

 

うん。

 

—— じゃあ信頼できる情報源とはいえないな。

 

もちろん信頼できるよ。お父さんは裏づけ取材を熱心にやるから。

 

—— すまないが信じがたい。

 

なんでまたいじわるなことを言うの?

 

—— なぜまたおかしなことを言うんだ?

 

いじわる言うなら助けてあげない。

 

—— きみのせいだろう!

 

どうして?

 

—— このばかげた会話をはじめたのはきみだ。何週間もうまくやってきたのに。

 

それは何週間もあなたとあなたの問題のことばかり話してたからだよ。

 

—— そのとおり! それに戻ろう。

 

信じられない。助けてあげようとしてるのに。ナーグルにページをおそわれてもいいの?

 

—— 危険は承知のうえだ。

 

いいよ。でもあの記事を書いておいてあげる。せめて断わるまえにそれがどういう危険なのかわかるように。

 

—— やめてくれ。

 

この数カ月ますます多くのナーグルの群れがヨーロッパ各地で目撃されている。おもに西の海岸地域、および内陸の一部でも……

 

—— やめろ。

 

……この厄介な生物による被害の内訳は近年詳しく報告されるようになっており……

 

—— ルーナ。やめろって。

 

……したがって一連の増加傾向は危険な兆候……

 

—— ルーナ?

 

……

 


31「芸術家」

 

トム、ペルーにいくよ!

 

—— は?

 

お父さんからフクロウできいたの。夏休みにペルーにいってフィリーフライのトラッキング遠征隊にはいることになった。

 

—— 遠征隊? きみみたいなのが何人いるんだ?

 

何人かまだ知らないけど、世界中から専門家があつまるんだと思う。

 

—— あのなルーナ……変人と言っておくか。世界じゅうにきみみたいな変人が何人いるんだ?

 

いつもならいじわるを言われて気分をわるくするところだけど、いまは興奮しているから気にしない。

 

—— 実在しない生き物を追ってひと夏をすごすのは完全に時間の無駄だとぼくが言ってもか。

 

言ってもだよ。なにを言ってもムダ。だって、あなたをかばんに閉じこめて、夏のあいだじゅうそのままにしておくこともできるんだから。

 

—— そんなことはしないだろう。

 

もちろん。もしそうしたらフィリーフライの情報を書いてあげられないからね。あと二週間で出発するから、知ってることをぜんぶまとめておかなきゃ!

 

—— きみはぼくを拷問するのが好きなんだろう?

 

正直に言えば、ちょっと。じゃあ文句はそこまで。

 

—— やっぱり! きみが変人をやめたらぼくも文句をやめる。

 

わたしは変人じゃない。ただ開かれた心をもってるだけ。

 

—— ものは言いようだな。

 

あ、古い旅行日記にアオカエルピクシーの図があったよ。

 

—— おめでとう。

 

絵はみえるかな?

 

—— は?

 

あなたのページに絵をかいたら、あなたからみえる?

 

—— さあどうだか。正直に言わせてもらえば、アオカエルピクシーを見たいという気持ちはまったくない。ナーグルのすがたを知ってしまったという事実にぼくはいまだに悩まされている。

 

……

 

—— ルーナ? ルーナ、そこにまだいるのか? 絵をかきはじめたのか? あ……たしかにみえる……変なかっこうだ……予想どおりだが……なぜこんなに頭が大きいんだ? それに目がいくつもあるが? ……ルーナ? ……なにを……ほう。きみについてはいろいろまともでないことがあって、こういうことを言うのはほんとうに気がすすまないんだが、きみの美術の才能がすぐれていることはみとめざるをえない。

 

そう言ってくれてありがとうトム。

 

—— 誤解するな。こんな変なものはこれまでみたことがないし、実在するとは思えないが……けっこうきれいだ。ほんとうに才能があるな。

 

そう思ってくれたらうれしい。みせてあげたい生き物はいくつもあるよ! 古いノートをぜんぶさがしていちばんいいのをみつけてくる。

 

—— 本来抗議すべきところだが……おかしなことにそれほど悩まされそうには感じない。

 

ほめてくれたということにしておくよ。まえから芸術が好きだったの?

 

—— 芸術には今まで触れる気もなかったが……あの絵にはどこかひかれるところがある。魅力がある。

 

たまにはいいこと言ってくれるね。もっとはやく絵をかいてあげればよかったかな? すこしはけんかせずにすんだかも。

 

—— たぶんな。その遠征隊の話だが、フィリーフライはどういうすがたをしてるんだ?

 


32「ペルー」

 

7月9日

 

お父さんとわたしは今朝遠征隊と合流した。開始するのは明日。とても興奮してるよ。毎日トムと話す暇はないかもしれないけど、おもしろいことがあったら、かならず知らせてあげるから。

 

—— ああ。待ち遠しいよ。

 

……

 

7月10日

 

コルカ峡谷の北端にそって歩いて、フィリーフライを引きよせることが知られているジャイアントコンドルを追跡した。ハゲワシは何度もみたけれど、フィリーフライはまだみていない。

 

—— ナーグル用のヤドリギの探索にもどったほうがいいんじゃないか。

 

……

 

7月23日

 

モレイ地区で隊員が糞のあとを偶然みつけ、巣の興味深い形跡を発見。

 

—— ほう? こんどは想像上のうんちの追跡か?

 

……

 

6月7日

 

数人の隊員が目撃を報告。わたしはまだみていない。

 

—— その数人もだよ。

 

……

 

日記帳さんへ

 

今日は遠征隊にあたらしい人たちが合流しました。そこでロルフ・スキャマンダーという子にあいました。彼のおじいさんの本『幻の動物とその生息地』は最高の資料だと思います。それに、魔法生物にかんしてロルフほどものしりな子はわたしとおなじくらいの年齢ではみたことがありません。とても話がおもしろくて、こんどドゥクワカについて教えてくれると約束してくれました。その話をしてもらうのを待ちきれません。それに彼はすごくかっこいい!

 

—— へえ? 詳しく。

 

あ、ごめんねトム暗くて書く日記帳をまちがえたみたい。トム用の話じゃなかった。おやすみ。

 

—— は? おい止めるんじゃない! ここ数日でいちばんおもしろい話だったのに! ルーナ? 戻ってこい! それにもうひとつの日記帳というのはなんだ? どうしてそっちはいいネタがもらえるんだ?!

 

 


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