私の前作『超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-』を読んでいてくれた方はお久しぶりです。
今回はオリ主が混ざった作品に挑戦してみたいと思いますので、よろしくお願いします。
最初に書き溜めを纏めて出してしまうので、誤字等を見つけたら纏めて報告してくれると助かります。
プロローグ1 約束と別れ、先導者の帰還
「じゃあ、ここでお別れだな……」
「ええ……」
駅のホームで黒い癖っ毛の髪を持つ少年と、銀色の髪をした少女は寂しさを見せながら向かい合っている。
この二人は小さい頃から一緒によく遊んでいる幼馴染みであり、互いにそれぞれ打ち込んでいる物があった。
そして、この二人の似通っている点として、打ち込んでいる物で上を目指したいという向上心の高さがあった。
それ故に二人は互いにその気持ちを理解し、相手側の実力が上がったことが分かれば相手を称賛し、自分も負けられないと気持ちを引き締めたりと、分野の違う競合相手とも見ることができた。
とは言え、それ以上に一つの物事を打ち込む者同士と言う親近感が強いのは事実で、互いに数年前から目の前の相手に淡い恋心を抱いていた。
「残念だわ……もうあなたと会えなくなるなんて……」
しかし、互いにその思いを伝えることは今までなく、少年の方の家族が仕事の都合で離れなければならなくなり、少年の家族が引っ越しするこの日が来てしまった。
少女が残念だと思っているのは本音で、互いに一つの道を走る身近な存在がいなくなるので、少女には不安が押し寄せていた。
それだけではなく、目の前の好意を持っている存在と会えなくなる。その事実が少女には辛かった。
「でも、これが今世の別れって訳じゃないだろ?大丈夫、生きてればまた会えるからさ……。それにほら、俺らがもう少し大きくなれば自分でここに来ることだってできるし」
少年は少女の寂しさを紛らわせればと思って言葉を紡ぐ。しかし、少年も辛い気持ちは確かにある。その理由は少女と同じだった。
それでも、少年は再び少女と会えることを信じていた。だからこそ、少年は新たな地で強くなり、少女の前に戻って来ることを決意していた。
「そうね……。それなら、私たちがまた会えた時……あなたに大事な事を伝えたいの」
「奇遇だな……それは俺もだよ」
何かの偶然か、少年と少女の考えは一致していた。類は友を呼ぶと言う事だろうか?それはわからなかった。
この時二人は気づいていないが、二人とも伝えたいことは自分の好きだという気持ちで一致していた。
「でも、ただ伝えるだけじゃだめ……だから、お互いに目標のステージに辿り着いたら伝えることにしましょう」
「お互いの目標か……。確かに、俺たちらしくていいな」
少女の提案を少年はすぐに受け入れる。お互いに高みを目指そうとする二人だからこそ、また会えると信じたからこその選択だった。
「なら、お前はどうするんだ?」
「私は……『FUTURE WORLD FES.』に出るわ……」
「ああ。お前ならきっと残せるよ……」
少女は歌うことに全力を注いでおり、今よりも小さい頃から努力している姿を少年は知っていた。
『FUTURE WORLD FES.』……略して『FWF』と呼ばれるそれは、入賞すればプロデビューも狙えるという大型音楽フェスのことだ。
しかし、出る為にはコンテストで結果を残すと言う至難の道になるが、それでも少女はやるつもりでいた。
少年は彼女らしいと感じ、同時に少女なら結果を残せると信じていた。
「……そう言うあなたは?」
「俺か?俺はもちろん……」
少女に問いかけられた少年は上着のポケットから一枚のカードを取り出し、少女にタイトルが載っている方の面を見せる。
「ヴァンガードで全国大会優勝だ」
少年は『ヴァンガード』に力を入れていて、開始自体は少女よりも遅れていたものの、少女はその努力する姿を認めている。
彼の道は、まず初めに地方予選で勝たねばそこで途絶えてしまう為、こちらも少女に負けじと厳しい道だった。
「ふふっ……あなたらしいわね。それなら、また会って約束を果たしましょう」
「ああ。また会おう……そして、その時に約束を果たすよ」
二人は互いに見つめ合って柔らかな笑みを浮かべた。それは別れを惜しむものではなく、互いの技術を高めてまた会うことを信じるものだった。
そして、そこまで話したところで遂に少年が乗るための電車が来た。ここで二人は互い暫くの間別れることとなる。
一緒にいた少年の母親が彼の肩を叩いて「乗るよ」と言ってきたので、少年は返事をしてついていく。最後に挨拶だけならできるので、少女もドアの前まではついていく。
「じゃあ、また会おうぜ……■■■」
「ええ……また会いましょう、■■……」
少年と少女が別れの挨拶を終えると電車のドアが閉まり、少年を乗せた電車はゆっくりと速度を上げていく。
少女は少年の顔を少しでも長く見ようとその電車を追うが、あっという間に少女では追いつけない速度になって走り去っていった。
「(また会えるかしら……?それまでにもっと上手く歌えるようになって見せるわ)……」
「(俺は頑張るから……待っていてくれるよな?少なくとも、戻って来る頃には全国に出れる腕にはなって見せるよ……)」
姿が見えなくなった後も二人は相手の事を想いながら、自分の信じた道を進むための気持ちを固めるのだった。
* * *
「……き……。……ゆき……。
「……ん、んん……?」
誰かに右肩を揺すられながら声を掛けられて、少年……
「ユリ姉……」
「ほら、駅に着くから起きて起きて」
『ユリ姉』と呼ばれた女性……遠導
二人は今日が引っ越しする日であり、今現在引っ越し場所に向かっている。両親は一足早く新しい家に付いているので、今は荷物を入れているのだろう。
そんなことを考えている間にも電車は目的の駅に到着したので、二人は電車から降りて改札口を潜る。
「(しかしまぁ……随分と懐かしい夢を見たもんだな……)」
改札口を出て駅の外へと出た貴之は夢の内容を思い出した。
今回の引っ越しは新しい場所に来ると言うよりは帰ってきたと言う感覚が強く、今回の引っ越し先になる家も五年前まで住んでいた家である。
その為、駅の外へ出るやこの変わってない景色を見た貴之は一つの安心感を覚えていた。
更にそれだけではなく、貴之はこの駅で一人の少女と大事な約束をしたことも改めて確認する。
「あいつ……どれくらい上手くなったんだろうな……?」
自分はヴァンガードをひたすら打ち込んだ。彼女は歌に打ち込んでいたが、お互いに一切連絡を取れなかった為に現状は何も把握できて無かった。
ただそれでも、彼女の歌は上手くなっているだろう。貴之はそんな確信があった。
「声に出ちゃってるよ……?今日会えるかも知れないし、会えたら告白しちゃえば?」
「ば……い、いいんだよっ!俺らでそう決めたんだから……!」
実のところ、貴之は彼女に好意を持っている。今回の引っ越しも、そんな自分に家族全員が合わせてくれたのだ。
本当なら大学にでも進学して、一人暮らしの際に引っ越すのでもいいだろうと考えていた貴之だが、父親が言い出したまさかの提案を家族全員が賛成したのだ。この事に貴之は感謝しても足りないと思っていた。
とは言え、これのおかげで家族関係が良好な状態を維持できていて、いずれ来るだろうと思っていた貴之の第二反抗期は忘れ去られているかのように起きなかったので、結果的に父親のこの判断は大正解だったと言える。
この小百合のからかいも、貴之の打ち込んでいる物に対する諦めない精神と、良好な家族関係があるこそできることだった。もし貴之に反抗期があった場合、冗談でもその時期だけは言えなかっただろう。
「全くもう、真面目なんだから……。まあいっか、それよりも行こう。お父さんたち待ってるし」
「ああ。行こう」
からかうのは程々にし、小百合は貴之を促し、二人は以前いた家への道を歩く。
「(帰って来たんだな……またここに……)」
自身の蒼い瞳に映る晴れ渡る空を見ながら、貴之は自然と笑みがこぼれていた。
* * *
「おっ、二人とも着いたな……」
「うん。お父さんたち早かったね?」
「ええ。私たちは二時間近く前に来ていたからね」
五年前まで住んでいた家に来てみれば、貴之と小百合の父親である遠導
現在は引っ越し業者の人たちが大荷物を運んでいる為、邪魔をしない為にも外に出ていたようだ。
「貴之、今まで我慢させて悪かったな……」
「そんなことないよ。父さんのお陰で戻って来れたんだ。これ以上は欲張りってもんだ」
「ふふっ、貴之が荒れないで本当に良かったわ……」
「うん。そうだね……」
孝一は一度目の引っ越しが決まった時、貴之に取って非常に申し訳ない気持ちになっていた。
しかし、貴之が彼女と会えるその時まで耐える事を選び、孝一も戻れるようになったらすぐに戻ると言う選択を話したことから、この二人の仲はおろか、家族関係も良好を保てていた。
明未は貴之が荒れないで安定した学校生活を送ってくれたことに安堵し、小百合も同意する。
その安定した精神面と、少し落ち着いて来ているが元々前向きな性格のお陰で、転校先でも心から友人と呼べる人はできた。
「あ、そうそう。二人とも聞いてよ?貴之ってば、こっちに戻って来るやもうお熱みたいなんだよ?告白しちゃえばいいのにね?」
「お、おいユリ姉……!その話はいいだろ?」
小百合が唐突に思い出したかのようにからかいのネタを提供すれば、貴之が頬を朱に染めながら反論する。
貴之自身、この手合いの話で弄られるのは苦手であるが、それでも約束を付けてその一歩を踏みとどまったのは自分たちである為、甘んじて受けるしか無かった。
踏み出せばこの弄りも消えるだろうと言うのは貴之自身分かっていたので、後は己の努力と知識、そして諦めない闘志を信じて突き進むだけだった。
「あらあら……その思いをぶつけられるのは、いつ頃になるかしら?」
「まあ、貴之がヴァンガード見つけて真っ先に報告しに行ってたもんなぁ……」
「うぐ……っ。ま、まあそうなんだけどさ……」
明未、孝一の順で発せられた言葉に何も反論できない貴之は肯定するしか無かった。
しかし、思い返して見ればあの時程心の奥底から、純粋に笑った瞬間は無かったかも知れない。
――聞いてくれよ!俺もやっと見つけたんだ!自分が本気で打ち込もうと思えた物を!
そう言ってヴァンガードのスターターデッキを見せたのはおよそ八年程前であった。
貴之は幼馴染みである彼女の歌う姿にいつしか惹かれ、それ以来好意を抱くようになった。
彼女が一つの物事で頑張る姿が眩しく見えて、自分も見つければ彼女の眩しさがわかるかも知れないと思った貴之は、それ以来熱中できる物を探した結果ヴァンガードに出会ったのだった。
貴之は転校先でもヴァンガードを続け、次第に全国大会で安定して結果を残せるようになっていた。それでも優勝出来ていない為、彼女との約束はまだ果たし切れていない。
しかし、戻って来た以上は優勝して真っ先に彼女に伝えたい。貴之はそう考えていた。
「貴之……今回は勝てるといいね」
「ああ。今回こそ勝って見せる……!」
小百合の言葉に同意しながら、貴之は右手で拳を作って軽く握りしめる。
貴之は元々一つの分野に絞り込めば極められるタイプだというのを両親に気づかれており、彼女のように一つの道を頑張りたいと思った貴之に取って、その能力はこの上ない程マッチしていた。
そして、見つけた事を話して以来、二人は互いの打ち込んでいる物に関して度々話すようになっていた。もう一人幼馴染みの女の子はいたのだが、その話をする時に限って二人して気が付かぬ内にそっちのけにしてしまっていたのは、度々起こっていた光景だった。それ程自分たちの間では特別な空間になっていたのだと思う。
また、もう一人の方が入り込めない空間を作ってしまったことは、当時こそ気がつかなかったが、こっちに戻ってくれば中々酷い事をしていたものだと貴之は頭を抱えた。
「荷物入れ終わったんで確認お願いしまーす」
「はーい。それじゃあ行くか……二人ともちゃんと確認するんだぞ?」
担当の人に確認を頼まれたので孝一に投げかけられた貴之と小百合は頷いた。
と言うのも、今回引っ越しで戻ってきたのはここへの帰還を望んだ貴之と、大学への通学が楽になる小百合の二人で、孝一は仕事の都合上こちらには戻ってこれず、明未も孝一へついていく選択をしたからだ。
こう言った選択ができたのも、貴之と小百合が二人とも家事をこなせることと、仕送りはするから残りは自分たちでやってみるかどうかという孝一の提案に、二人が賛成したのである。
そして家に入って荷物を確認したところ、何も問題無かったので貴之と小百合はその旨を告げると、業者の人達の仕事は終わったので一言入れてからトラックを走らせて去っていく。
「さて……俺たちもそろそろ行くけど、もう大丈夫だよな?」
「うん。大丈夫だよ」
孝一の問いには小百合が答え、貴之も同意を示すように頷く。その返事を聞けた孝一と明未は満足そうに頷く。
「何か困ったことがあったら連絡してね?」
「分かった」
なるべくそうならないように気を付けたいところだが、初めのうちは分からないことが多いから聞くことになるだろうなと貴之は考えた。
また、これ以外にも小百合とは互いに度々連絡を取ることになるのは、目に見えているのもあった。
「あっ、もうこんな時間か……。本当はもう少し話したかったけど、もう行かせてもらうよ」
「二人とも元気にしててね。後、怪我とか病気には気をつけてね?」
「ああ。父さんたちも、元気でね」
「母さんたちも、体に気をつけてね」
時計を見たら十分な時間になっていたらしく、孝一と明未が一言ずつ残してから移動を始めたので、貴之と小百合も一言残し、二人が見えなくなるまで手を振って見送った。
「さて……それじゃあ整理しちゃおっか」
小百合の言葉に貴之は頷き、二人は持ってきたものの整理を始めるのだった。
先に自分たち一人でできる部屋に持ち込んだものの整理から行い、その後は食器などの共用して使うものの整理を行っていく。
「あっ、ユリ姉。これはどっちに入れるんだ?」
「それは左側の引き出しにお願いっ!」
客人用の物が混ざっていたりしたのもあるが、元々そこまで持ち込んできていた量が多くないのと、二人が上手く役割分担していたことにより、思ったより早く整理が進んでいった。
「ふぅ……とりあえずコレで殆ど終わったかな」
その結果、昼を回る少し前の時間に大体の整理を終わらせることができた。
「そうなると、後は食器の方か……」
食器の方に関してはまだ新聞紙に包んだ状態のまま取り出しただけなので、これから一度包んでいた新聞紙を取り外し、それらを再び整理すると言う作業が残っていた。
「ああ。それなら私がやっちゃうから、貴之は出掛けて来ても大丈夫だよ」
「いや、流石にそれを任せっきりにするわけには行かないよ」
「うーん……気持ちは嬉しいんだけど、貴之はほら……」
小百合がまさかの一人で全部やろうとしたのは見過ごせず、貴之はその申し出を拒否する。
ヴァンガードによる大会が近いので、少しでも多くの時間を練習に使わせてあげたいと言う小百合の気遣いであったが、こうして他人のことを気遣う余り自分を蔑ろにしがちなのは小百合の悪い癖であった。
「いいからいいから。取り敢えず飯と飲み物買って来るから、休憩した後一気にやっちまおう」
「…………」
確かに自分のことを気遣ってくれるのは嬉しいことではあるが、いつまでも甘えっぱなし任せっぱなしにするつもりはないので、貴之はそのまま押し通すことを選択する。
普段は一回目を押しきれば自分から折れる貴之が、自分が譲れない場面と判断して二度以上食い下がったことと、今までと違って二人暮らしになることを思い出して少しの間考える。
「分かった。少しの間先にやってるから、お昼食べた後から手伝ってくれる?」
「もちろんそのつもり。じゃあちょっと行ってくる」
そして、遠導家
――確か、近くにコンビニがあったはずだ……。頭の中に周辺の地図を思い起こしながら靴を履き終えた貴之は、その記憶と現在の違いを確認することも含めて外に出るのだった。
その後昼食を取ってから作業をしたところ、小百合が先にある程度やっていた分と元が少な目だったこともあってものの二時間強で終わらせることができた。
食器整理の作業が終わったことで、貴之は改めて商店街に足を運ぶのであった。
* * *
商店街の街並みを銀色の髪を持つ少女が歩いていた。
彼女は五年前に一人の少年と交わした約束を果たすべく、『FUTURE WORLD FES.』の選考コンテストに出るメンバーを探していた。
当然、結果を残すつもりでいる以上、妥協は一切しない。その為生半可な技術や気持ちでいる人を選ぶわけには行かない。
自分と参加するのに相応しい人を探すべく、彼女は今日もライブハウス目指して移動をしていた。商店街に入ったのはあくまでも道のりの途中だからである。
「友希那~っ!」
「……リサ」
少女……友希那は後ろから声をかけてきた茶髪の髪を持つ幼馴染みの少女、今井リサに名を呼ばれてそちらを振り向く。
リサは以前までベースをやっていたが、今は辞めてしまっている。それでも辞めるその時まで、ベース自体は友希那の求める力量を持っていたので、もし続けていたら友希那は真っ先に誘っていただろう。
改めてもう一度誘ってみようかとも考えたが、友希那自身、自分の目的に無理矢理付き合わせてしまっていたようにも思っていたので、その罪悪感からやめにした。
「今日も探しに行くの?」
「ええ。そういうリサは?」
「今からアクセサリーショップ行くんだけど……途中まで道同じだし、良かったら一緒に行かない?」
リサはピアスを付けていたりする……所謂ギャル系の見た目をしてる影響で第一印象で勘違いされがちだが、何かと気遣い上手な少女だった。恐らく今回も、友希那が思い詰めてないかどうかを気にしているのだろう。
そんなこと抜きに自分と話がしたいのもあるかもしれないが、その気遣いは素直に受け取っておくべきだろう。
「……なら、そのお店までね」
「ありがとうっ!じゃあ行こっか」
少し素っ気ない回答の仕方になってしまったが、リサはそれで満足だったようだ。
話が決まった二人は、そのアクセサリーショップの近くまでは一緒に移動することになった。
「そう言えば友希那、メンバーは誰か一人でも決まった?」
「いいえ、まだよ……」
リサにいきなり痛いところを突かれてしまい、友希那は苦い顔になる。
実際のところ、自身がメンバーに求める物が大きいのが原因で全くメンバーが見つけられないでいた。
見つけられないで参加できないのは元も子もないが、ただメンバーを集めて出るだけなのも、友希那にとっては意味のないものとなってしまうのが悩ましい点だった。
「それって、やっぱり約束が理由?」
「お父さんの音楽を認めさせる……というのもあるけど、理由の大部分はそれよ」
友希那の父親は、以前までバンドメンバーと共に音楽活動をしており、選考コンテストで結果を残してFWFにてメジャーデビュー直前までたどり着いていた。
しかし、残念ながらメジャーデビューが不可能となってしまい、友希那の父はそれ以来音楽に殆ど手を付けなくなってしまった。
そこからと言うもの、その姿勢に不満を持った者達からのバッシング等があり、それを目の当たりにした友希那はその人たちを許せず、自分が結果を残して父の音楽を認めさせることを決意した。これは少年と約束した後すぐの出来事であった。
これはあくまでも自分のわがままや独自の目的と言えるものであるため、少年との約束には入っていない。それをしっかり自覚した上で、友希那はそうすることを選んだのだ。
その為、最初の頃こそ心境が荒れてしまったものの、少年と約束を交わした日を思い出す度に、父やリサとの会話でその話が出るたびに、自分と彼の身内に気を遣われるたびにその荒れ具合はすこしずつ鳴りを潜めた。
当時こそ実力と見合わない相手とは一切話さないようにしていた友希那だが、今はそんなこと無く最低限の受け答えをすることを心掛けるくらいには落ち着きを取り戻していた。
「そっか……。頑張るのはいいけど、頑張り過ぎちゃダメだからね?……っていうかさ、その約束っていつしたの?」
「……あの後駅まで見送った時にしたのだけど、それがどうかしたの?」
リサは気遣いの言葉をかけた直後、約束を交わしたタイミングを知らない事を思い出して友希那に問いかけた。
隠すことなく答えるものの、友希那はリサがどうしてそのことを聞いてきたのかが分からず、首を傾げることになった。
「いや……その……アタシがああだったから仕方ないけど、本当は一緒に行きたかったかなぁって……」
「なるほど、そういうことね……」
リサは咎めながら落ち込んだ様子を見せ、友希那は事情を理解した。
しかしながら、その時のリサは両親に慰められながら家に入ってしまったので、恐らく呼びようが無かっただろう。
また、あの時彼を追いかけなければ、友希那は今より荒れていたか、表向き落ち着いていても、内心で相当余裕のない状態のどちらかになっていただろうと考えていた。
そうであるなら、あの時のあの選択は間違いでなかったのだろう。そう信じたかった。
「なら、今度こうなった時は必ず二人で見送る……それでいい?」
「……うんっ!そういう事なら大丈夫!」
友希那の提案に納得してくれたようで、リサは笑顔で頷いた。
その後二人は他愛のない会話をしながら進んで行くと、途中でカードショップが目に入った。
そのカードショップの名は『カードファクトリー』。この商店街で長い歴史を持つカードショップで、数多くのカードゲームを取り扱っている。
「ねえ友希那、カードショップって言うさ……」
「ええ……。彼……今頃どうしてるのかしら?」
友希那と約束を交わしてた少年はヴァンガードに熱中していた。
動機は友希那が歌に対して真剣に打ち込む姿を見て、自分も何か一つ本気で打ち込めるものを見つけたいというものからだった。
そして、少年は見事にヴァンガードを打ち込めるものとして見つけ、それ以来友希那と彼はお互いに全く違う物でありながら、一つの物事に打ち込む身としてよく話すようになった。
恐らくは自分を理解しようとしてくれる姿勢が嬉しかったのだろう。友希那は話している内に少年に惹かれ、もっと自分を知ってほしいと思うと同時に、彼のことをより知りたいと思うようになっていた。
「……そう言えば、彼と話す時は周りを気にしていなかったわね……」
「ああ。そう言えばそうだったね……呼びかけないとずーっと二人だけの時間だったもん」
「うっ……。本当にごめんなさい……」
「ま、まぁ……混ざれたには混ざれたし、時間も経ってるからもう平気だけどね……」
問題だったのは二人で話す時は二人だけの空間が出来上がってしまっていたことだ。
実際のところ、友希那も彼も素でそのことに気がついていなかったし、数人混じっている時も時々その空間が作り直されることもあって、リサですら「どうしたらこうなるの?」と首を傾げる程だった。
改めて友希那は謝罪するが、流石に時間も経っていた為、リサはその少年に一言言えたらもういいと思っている。
また、二人が歌とヴァンガードの事を楽しそうに話していたのを見ていたので内容自体は大体把握しているし、途中からはリサもベースを始めたことで話しに参加するだけなら殆ど苦労しなくなった。
とは言え、やったことのなかったヴァンガードの話題に関しては、何度聞いても頭から煙を出してしまっていたのだが――。
「さて……友希那は時間に遅れたらヤバいだろうし、そろそろ行こっか?」
「ええ。そうしましょう」
リサに促され、友希那は彼女と共に移動を再開する。
そして、移動し始めてものの二十秒もしない内に黒い癖っ毛を持ち、まるで晴れ渡る空のような蒼い瞳を持った、自分たちと同い年くらいであろう少年とすれ違った。
ただすれ違うだけであれば何ら思うことは無かったが、少年が『カードファクトリー』の看板に気づいて言葉を発した瞬間、それは変わった。
「おっ、あったあった……。
「……っ!?」
――五年前と変わってない。その言葉を聞いた瞬間、友希那は思わず目を見開いて勢い良くそちらへ振り向いた。
声の主は間違いなくすれ違った少年のものだった。五年前という発言を聞いた友希那はその少年の後ろ姿を見て、どこか見覚えがあるかもしれないと感じていた。
彼も流石に五年経っていれば自分と同じく高校生になっていて、声変わりしているだろうから声では判別できそうにない。そうすれば顔付きで判断するしかないのだが、彼は『カードファクトリー』の看板に目を向けている為、友希那のいる位置では顔つきを判別できない。
こちらに顔を向けてほしい――。友希那がこれ程そう思った瞬間は今までに無かった。
「……どうしたの?遅れちゃうよ?」
「っ!い、いえ……何でもないわ。……行きましょう」
残念ながら、今日は自分が行こうとしているライブハウスでの開演時間が迫っているので、これ以上粘ることはできない。
友希那は彼の顔を見るのを断念し、ライブハウスへ向かうのだった。
* * *
「……?」
貴之は視線が外れたのを感じ、視線のしていた方へ顔を向ける。
するとそこにはウェーブがかかった茶髪の髪をしたどこかギャルっぽい感じが伝わる少女と、綺麗な銀色の髪をしている少女の後ろ姿があった。
「あの二人……どこかで見覚えがあったような……」
特に銀髪の少女には、自分がここに戻って来たことを自覚させてくれる何かを感じていた。
すぐに確かめたいところだが、彼女の友人であろう茶髪の少女が時間の都合か銀髪の少女を促していたので、今行くのは良くないと判断した貴之は一瞬どうするべきか考える。
しかしながら、自分が想っている少女の目指すものから会える場所は僅かに候補が上がるし、自分のここへ来た目的もあって、また後で探せばいいと判断してやることを済ませようと決めた。
「ここでうだうだしててもしょうがねえ……取りあえず中に入ろう」
――ヴァンガードファイトするために来たんだからな。そう決めた貴之は二人組の女の子のことは一度置いて『カードファクトリー』に五年ぶりの入店を果たした。
「いらっしゃーい。ここは初めてかな?」
入店するや入り口からすぐ左側にあるカウンターにいる、紫色の髪を綺麗におろしている、話しやすそうな雰囲気をした女性が挨拶と質問で歓迎してくれた。
恐らくだが、貴之が転校してこの街を去ってから店員になったのだろう。女性は貴之を全く知らなそうだった。事実、貴之もこの女性とは初対面だった。
「いえ、五年ぶりに入店しました。転校した都合で来れませんでしたからね……」
「なるほど。そうなると今日この街に帰って来た……ってところかな?」
「ええ。そんなところです」
貴之はその女性の質問には否を返し、その理由も告げる。
すると店員の女性は察しがいいのか、貴之の状況を見事に当てて来たので、貴之は素直に肯定した。
「なるほどね……私は三年間前からここでバイトしてるから、すれ違いみたいだね」
「確かに、それはすれ違いですね……ああそうだ。俺は今からファイトするつもりなんですけど……誰か強いファイターはいますか?」
女性との話で即座に貴之は合点が行った。去るのとほぼ同時とまでは行かなかったが、確かに自分は彼女が入ってくる頃にはおらず、彼女もまた、自分がここを離れるまではいなかったからそれでも合っているのだろう。
しかしながら今回はこの女性と話すのでは無く、ここのファイターたちの実力を知りたかった貴之は気を取り直して質問してみた。
「強いファイターか……それなら、あそこにいる彼はどうかな?彼、友人と一緒に全国大会の出場を狙っているのよ。それで今日はここへどんなファイターがいるか確認しに来てるの。ここは強豪のファイターが多いからね」
――それは油断できないな……。貴之は気を引き締められた。
女性曰く、指差して紹介してくれた彼とその友人二人は付近のカードショップで警戒すべきファイターがいるかどうかを確認しに来ているようだ。
地方予選自体は無条件で出れるのだが、貴之としては地元のファイターたちがどの様な強さをしているかが解らないと少々不安である。
全国出場クラスの相手がいないなら問題無く全国への切符を得られるくらいまで成長した貴之だが、全国狙いの相手が来るかもしれないと考えると油断ならない。
しかも強豪が多いと言われた以上、今回はかなり険しい道になると考えた方が良いと頭に入れておいた。
「なるほど……確かにそれは良いですね」
しかし相手に取って不足は無い。元々全国大会優勝を目指している以上、立ち止まる訳には行かない。そう考えた貴之はその少年の所へ足を運んだ。
「なああんた……あの姉さんから訊いたんだけど、ヴァンガードファイターなんだって?」
「?確かに俺はヴァンガードファイターだが……どうした?」
貴之が問いかけるとそこにいた、青い髪を短く整えて、切れるような目つきをした少年が肯定する。
「それなら話は早い……」
貴之は上着のポケットからデッキケースを取り出し、その中に入っているデッキを取り出す。
「俺とヴァンガードファイトしてくれ」
「……いいだろう、やろうか」
貴之は少年にヴァンガードのデッキを見せると、彼の表情が不敵な笑みに変わって承諾してくれた。
――帰ってきて早々のファイト……。勝ちで飾らせてもらうぜ!貴之はこの街で行う久しぶりのファイトに心が高ぶっていた。
* * *
「あ、アタシここに寄るから、じゃあね~♪」
「ええ。またね」
あの少年を見てからおよそ三十分。リサの目的地であるアクセサリーショップに辿り着いたので、二人はここで別れることになった。
「(さっきの彼……。一体誰だったのかしら?何か大切なものがあった気がするわ……)」
友希那は先程すれ違った少年のことが気になって仕方が無かった。彼の口から発せられた五年前と言う単語が、いつまでも引っかかっていたのだ。
しかし、その考えは目的地のライブハウスに辿り着いた事でかき消されることになる。もうじき自分がこの日だけ組んだメンバーと共にライブをする以上、余計な思考を持つわけには行かなかった。
「今は自分の歌に集中するべきね……」
一度その不確定な考えはまた後で考える事にした友希那はライブハウスに入り、メンバーに挨拶を済ませて準備に入る。
今回は順番が先頭に回ってきている為、自分の番はすぐに回ってくる事になっている。
友希那が準備を始めてから十分程すると、最初のメンバーはスタンバイをして欲しいと言うアナウンスが入ったので、友希那はメンバーと共にステージ裏へ移動する。
その際、メンバーの一人に「頑張ろうね」と声をかけられたので、友希那はそれとなく肯定するようには返すものの、あまり好意的には受け止められなかった。
「(ただ一緒にやるだけなら構わないけど……この人たちとFWFへ行こうとするには、荷が重すぎるわね)」
彼女たちは恐らく自分と一緒に続けたいと思うだろうが、友希那は彼女たちと目指すものが違い過ぎて続けられないと確信していた。
他にも、彼女たちの持つ技術が自分の要求に全く見合わないのもそれを一助していた。
――お父さんの音楽を認めさせるにしても、彼との約束を果たすにしても……彼女たちとでは無理ね。それが友希那の下した結論だった。
「(ただ、解散するにしろ一方的に突き放さないようには注意しないといけないわね……)」
彼はどんな実力のファイターが相手でも対戦を引き受け、自分より上の相手には学びに行き、下の相手には教えようとする心構えを持っていた。
友希那もそれに多少なりとも影響を受けており、荒れていた直後こそ一方的に突き放す形で別れていたが、暫くすれば言葉を選んだ別れ方を切り出せるようにはなっていた。
しかし、例えどんなメンバーであっても今回のライブで手を抜かないことに変わりは無かった。
友希那が決意を固めたところで開始のアナウンスが告げられ、友希那たちはステージに立つ。
自分たちの近くにスポットライトが当てられ、同時に歓声が会場に響き渡る。メンバーの一人が代表で挨拶をし、早速一曲披露することになる。
「(私は迷わない……今回も全力で歌う。それが、お父さんの音楽を認めさせて、約束を果たす為の一歩なのだから!)」
そして、会場に友希那の歌声が響き渡った。
* * *
「さて……ファイトする前に一つ聞いておきたいことがある。お前の名前は?友人から聞いた人物像に似ているもんでな……一度聞かせて欲しかったんだ」
デッキのシャッフルとファイト開始の準備を終え、いざ始める直前で少年が貴之に訪ねてきた。
自分の友人二人から、貴之とよく似た人物が古くからの友人であると聞いていた少年は、丁度このような見た目だと思ったのでような問いかけをしたのだ。
「俺は貴之……遠導貴之だ。ヴァンガードで全国大会の優勝を目指してる」
貴之はそれに迷うことなく、ヴァンガードに掛ける思いも答える。約束を果たすこともそうだが、自分自身が優勝したいと思っているのは確かだった。
その貴之の名前を聞いた少年は驚きを隠せなくなった。
「貴之か……。なるほど。それがお前の名前なんだな……」
――なら、こいつがその古くからの友人って訳か。少年は彼の名前を聞いて確信した。
「ああ、まだ名乗って無かったな。俺は
少年、大神大介に問われた貴之は首を縦に振って答える。
「なら、お前の腕がどれだけのものか確かめさせてもらおう……。強いと知って挑んでくるんだ……簡単にやられる腕じゃないんだろ?」
「まさか……こちとら五年間遠征だらけだ……。俺がここから離れてどれくらい強くなったか……お前で試させてもらうぞ!」
貴之と大介は高ぶる気持ちに身を任せ、場に伏せてあるカードに手を掛ける。
「(あいつとの約束を果たす第一歩だ……。その為にも、この戦いには負けられない!)」
貴之は一瞬の静寂の中で、五年前の別れ際に自分と約束をした少女の影を思い返して決意を強めた。
「行くぞ……!」
「ああ……!」
大介の一言に覚悟を決めた貴之が一言で返した。開始の時である。
「「スタンドアップ!」」
二人が伏せていたカードに手を掛ける。
「ザ!」
カードを手にかけたまま、貴之が付けくわえる。
本来掛け声に「ザ」は不要なのだが、貴之は付けた方がノリやすいと感じて自然と付け加えるようになっていた。
「「ヴァンガード!」」
そして二人が同時に伏せていたカードを表に返したことで、ヴァンガードファイトが始まった。
遠導貴之と湊友希那。五年前に交わした約束を果たす為の戦いを始めた二人の間に、再会の時間が近づいて来ていた――。
色々書き直したりした跡があるので、ちょっと不安な面もあります……(汗)
プロローグ自体は次で終わりです。
一応ここでも触れておきますが、この小説のオリ主は貴之になります。
遠導と言う苗字は『遠くから帰って来た先導者』。または『遠くの高みを目指す先導者』になります。