《これ、どうしよ……?》
《一旦、貴之君が攻撃をして、相手の強さを確かめるのがいいかも……"(-""-)"》
まさかの『ファントム・ブラスター・ドラゴン』と対面したので、真っ先に思い浮かぶのがそれだった。
これ自体、貴之なら全く問題ないのだが、他の三人は少し気になることがあった。
《確かめる必要があるのですか?》
《前の時にそうだったんですけど、イベント専用の敵って、幸運次第でレアアイテムを落としやすい分、強い敵が出てくることがあるんですっ》
《万が一敵が強かった場合、私でも攻撃を二回貰ったらやられちゃうかもしれないので……(ノдノ)》
《り、燐子すら二回で!?》
《一応聞くけれど、わざと攻撃を受けに行ってしまった場合は……》
《今のメンバーだと、俺以外が攻撃を受けると立て直しが相当厳しくなる……》
そもそもレベルが高い場合は初心者組は何をもらっても確定一発になっているので、彼女らがほぼほぼ何も出来ない状況に陥ることになる。
逆に、レベルが低い場合は紗夜が盾による受けを一回だけ成立させることができるので、リサの回復と友希那のバフがあれば、初心者組も何とかできる可能性が高まる。
そんなこともあるので、まずは貴之が一回通常攻撃をしてみる。
「(おっ、HPが5分も減ったぞ……?)」
思ったよりも減っていたことに驚きを示し、その直後に来た武器による反撃を、様子見も兼ねて通常ガードで受け止める。
このダメージ量が判断材料にできるので、一度皆がいる場所へ戻る。
《まだレベル低い方だな……》
《この感じ、いくつかクエストをこなした後に合わせた強さだね》
幸いにもそんなに強い方の敵ではなかった。これならば初心者組もしっかり動けるように促すことで抗うことも可能だろう。
一度貴之が攻撃圏外に離れたことで、『ファントム・ブラスター・ドラゴン』は静かにこちらを見たまま待機している為、このまま作戦会議に移る。
《あっ、ヒールいる?》
《いや、それはもうちょっと待とう。削りダメージが一桁だったんだ……》
貴之のレベルが高い、『ファントム・ブラスター・ドラゴン』のレベルが低い、そして通常ガードの削りダメージだったので、殆どダメージになっていなかった。
それも踏まえて、経験者側で行動を考えあう。
《そう言えば、今の貴之さんならユニット系の敵相手に特効持ちの攻撃ができますよね?》
《ああ。『バーストバスター』をぶつければかなりのダメージは入るはずだ》
《なら、貴之君がそれを決める方向で行こうかな》
とにかく貴之の攻撃さえ入れれば勝てる。後はそれをどうやって、
誰一人欠けさせないで戦うなら、今回は貴之が受けに専念すればいいが、燐子たちの攻撃では時間がかかってしまう。しかしながら、今回は『ファントム・ブラスター・ドラゴン』が低レベルだからできることがあった。
《氷川さんは友希那さんからバフをかけて貰えば一発耐えられる……今のHPなら、今井さんのヒールで全回復もできる……》
《てことは、挑む前にバフ掛けしてからになるか》
《でも、それなら貴之さんも攻撃を打てるし、何よりもみんなで勝った感じになるしいいと思うっ!》
あこの後押しは最も大事な意見で、そう言うことならばと方針を確定した。
《今回はちょっと変則的な陣形で、本来このパーティーだと一番頑丈な貴之君は、パワーを出すためにギリギリまで後ろに留まります》
《こうなると盾役を交代する必要があるんだけど、あことりんりんは足止めだったり、『ファントム・ブラスター・ドラゴン』から意識を逸らすようにしたりでちょっとその時間を使えないんだ……》
《あの、さっき私なら耐えられると言っていたのは……》
《はい。今回は友希那さんから強化を貰った氷川さんに盾役をお願いすることになります。いきなりで大変かも知れないですけど……(-_-;)》
流石にレベルが上がっていないので、二発目を貰えば確実にやられてしまう。
その為燐子とあこの二人で時間を作り、その間にリサが紗夜を回復させる作戦である。友希那には限界まで紗夜の防御力を強化し続けてもらい、貴之が攻撃するまでの時間稼ぎを行うのである。
《私がこれを使えばいいのね?》
《そうですっ。それの効果を切らさないようにすれば、紗夜さんはやられないですし、リサ姉の回復も間に合うのでっ!》
《アタシまだそんなにヒール打てないけど、大丈夫かな……?》
《少なくとも、リサがヒールを使い切る頃にはこっちも準備終わってるだろうから、それまでの辛抱だ》
貴之は紗夜が耐えている間、ひたすら自分にバフを掛け、一撃必殺を狙うつもりでいる。
その準備はリサのヒールが打てなくなる頃には流石に終わっているので、そこまで心配する必要はない。
さらに言えば、その回復が確実に間に合うように、あこも死霊呼び出しで『タゲ散らし』と呼ばれる、一方に狙いをつけさせない措置をするし、それがダメなら燐子がフィールドボスから逃げる時に用意しているプランを応用して安全圏に逃がす算段である。
また、あこは相手の動きを止めることで、一時的に攻撃を遅れさせることも可能なので、死霊呼び出しすらダメならそれも掛け合わせるつもりである。
《よし。ここで紗夜に強化支援をかけよう》
《強化支援が掛かったら、氷川さんを先頭に『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の認識距離に入ります。氷川さんが『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の認識距離まで入ったら、始めます》
《危なくなったらあことりんりんでフォローするから、三人は自分のやることに集中してくれて大丈夫ですっ》
あと一歩で『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の認識距離まで来たので、一度アナウンスを掛ける。
この時、一度経験者側が全員足を止めたことによって、それに習った初心者側三人が『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の認識距離に入ることはなかった。
《じゃあ、紗夜に『活気の歌』を届けるわ》
友希那が紗夜に向けて橙色の音符を飛ばし、それは紗夜に当たった途端に消え、代わりに彼女の体が一瞬だけ光った。
《あっ、紗夜が一瞬光った!》
《HPなどのゲージの上にアイコンが付いた……?これが強化された証になるのですね?》
《はい。効果時間は大体40秒程なので、友希那さんは効果が切れる前に掛け直しをしてあげてください。そうしないと氷川さんがジャストガードでしか耐えられなくなるので……(;・∀・)》
もちろん、リサと同じく回数切れまでには間に合わせるので、そこは心配ないことを伝えておく。
ジャストガードとはタイミングよくガードすることで起こる、削りダメージを受けない防御法なのだが、タイミングが攻撃を受ける直前にガードなので、慣れていない初心者にはあまり優しくない仕様である。
《では、入ります!》
紗夜が踏み込んだことで戦いが始まる。
この後はとにかく自分のやることを守ることが大事である為、後は味方を信じて徹底するだけであった。
《しかし、ユニットの……それもグレード3の攻撃を生身で受けると言うのは想像すると恐ろしいものですね……!》
《紗夜、ヒール掛けるよっ!》
《そろそろ効果時間が切れるから、『活気の歌』も届けるわね》
紗夜が『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の槍による一撃を盾でガードすると、貴之の時とは違って友希那のバフ込みでも7割近くの体力が持っていかれてしまっていた。
幸いにもリサのヒールで紗夜のHPは全快するので、友希那の強化支援を切らさなければ耐え続けることは可能だった。
最悪紗夜だけは薬草を使ってもらうことになるが、そうなる前には決まると思える。
《タゲ散らしておきますねっ!地に眠る魂よ……我らに力を貸し給え!》
「(思ったより攻撃ペースが早い……このままだとヒールを使い切っちゃうかも)」
リサのヒールが切れたら三人は離脱させて上げようと燐子は考えた。
その戦況が見える中、貴之は皆を信じて自分にバフを掛け続ける。
「(頑張れよ……あと少し!)」
幸いにも『ファントム・ブラスター・ドラゴン』のレベルが低いので、そこまでのバフ量は必要にならない。
しかしながら、スキルの再現がどうなっているかを考えると、少し急ぎたい考えもあった。
あこもそこを危惧しているらしく、死霊は呼んでも二体までに留めている。
《っ……!攻撃が重い……!》
《もう一回、ヒールを掛けるよっ!》
《私も、『活気の歌』を届けるわ!》
何度目かの攻防が続き、そろそろリサたちの魔法と歌の使用回数が危うくなってきた頃になる。
あこも死霊を二体ずつ呼んでいる都合上、予想よりも消耗が早く、拘束用の魔法が使えるかが不安なので、最悪燐子に視界外に逃れる魔法を頼むことになると考えた。
《よし、準備できたぞ!》
《りんりん!》
《うん!私が魔法を使ったら、貴之君の後ろまで逃げてください!》
三人がそれぞれ了解の旨を出したタイミングであこが死霊をもう一度呼び出し、『ファントム・ブラスター・ドラゴン』から注意を逸らす。
そのタイミングを逃さずに燐子が『ブラインドカーテン』と言う、一時的にモンスターの視界外となる魔法を掛け、全員でその効果時間中に貴之の後ろへと走った。
全員が下がったのをみた貴之は一歩踏み込み、『ファントム・ブラスター・ドラゴン』の認識距離に入る。
《な、なんか剣がバチバチと青い電気を出してるんですけど……》
《それ……まさかだけれど》
《ああ。この装備をしている時だけに使える技を使うんだ》
もう何をしたいのかに察しが付いてしまったのだが、それは見ていくことにした。
電撃を放つ剣を牙突の姿勢で構えると、剣の一部がスライドし、何かを打ち出せる状態になる。
《幻影の竜よ!光の剣を受けるがいいっ!『バーストバスター』!》
そのまま正面に向かって突きをする形で腕を伸ばし、剣からビームのように電撃を飛ばす。
それが『ファントム・ブラスター・ドラゴン』に直撃し、致命的な一撃となったらしく『ファントム・ブラスター・ドラゴン』が絶叫を上げ、そのまま光となって消滅していく。
《何となく予想はできてたけど、一撃で終わっちゃった……》
《流石特効補正……ものすげぇ威力出たわ》
燐子と一緒にレベルを上げていたあこは予想できていたが、それでもとんでもない威力だと断言できる。
ボスはHPが多めに設定されている都合からレベル差があっても一撃で倒すことは難しいのだが、特効補正がそれを覆して見せた。
また、この時初心者組三人が『活気の歌』をもらった時とは違う光を発していた。
《えっ?今の光って何?》
《おめでとうございます。三人ともレベルアップしたんですね(^_^♪》
《強くなった……と言うことでいいのかしら?》
《はい。レベルごとに決められた経験値を獲得するとレベルが上がって、HPや攻撃力と言った様々な能力が上昇するんです》
職業ごとに各項目の上昇する割合は違ってくるのだが、今は意識しなくて良いだろう。
これを何回も重ねて行くとあこや燐子のようになるので、興味を持った人は頑張ってほしいと思う。
《ところで、HPが全快してるのですが……これは?》
《それはレベルアップの時のおまけ要素だな。他の二人も、使い過ぎた魔力とかが戻ってるはずだ》
確認してみれば友希那とリサも自分が魔法や歌を使った時に使用していたゲージが満タンに戻っている。
そう言うことならヒールをしようと思ったリサだが、やっても貴之への一回しか意味がないことに気付く。
《三人とも、ダメージ受けてない……》
《まあ、あこたちはレベルが高いからね》
《それに、攻撃を受けてくれたのは殆ど氷川さんですから……》
そう言えばそう言う役割分担だったなと思い出し、今後遊ぶ場合は薬草の節約ができるので紗夜にヒールを掛けてあげた。
後は帰るだけだが、まだモンスターに襲撃される可能性があるので、保険も込みになっている。
《いやぁ~……何というか、皆で戦った感じがするね?》
《そうですね。湊さんと今井さんのおかげで、私は『ファントム・ブラスター・ドラゴン』からの攻撃を耐え続けられて……》
《紗夜が耐えられるから、三人は自分の役割に徹することができた……そうよね?》
そこに気づけたことで、自分たちも頑張れた。あの強敵を倒す手助けができたと実感し、喜びの情を抱く。
こう言うことが味わえるなら、まだまだやれそうな気もするが、流石に今日は時間もあるし、慣れないことで疲れてきているので、取り敢えず旅立ちの村に戻ることを選んだ。
* * *
《戻ってきたから、ジェイクさんに報告しに行こうっ!》
《それが終わればこのクエストは完了して、あこちゃんは欲しい装備が手に入るので、二重の意味で目的達成です(#^.^#)》
旅立ちの村に戻った後、一行はリンダから貰った手紙をジェイクに渡した。
これで残りは彼からの反応を聞き、それが終わるとあこが欲しかったアイテムを入手できる。
《これは……リンダからの手紙……?ありがとう旅の人、本当にありがとう……》
《こうやって何度も手紙を受け取ってるんだよね……それでも会えない二人かぁ》
──なんか、ほんと切ないお話しだね……。恋愛小説を読むことの多いリサからすると、何とも言えない気持ちになる事案だった。
一方で、貴之と友希那は自分たちがまた会えて良かったと喜びを確かめあっていた。
《お礼といっては何ですが、これを差し上げます。どうかこの先もお気を付けて》
このメッセージが終わったと同時に、あこが欲しかった武器が手に入る。
その武器の名前は『リンダのサイス』であり、先程手紙を届けに言った人の武器である。
《サイス……確か、大きな鎌のことだったかしら》
《そうですっ!あこ、ネクロマンサーだからこの武器がどうしてもほしくて……っ!》
職業のイメージに合わせたいのがあった為、あこからすると今日一番の収穫である。
ここまではいいのだが、一つ気になったことがある。
《でも、なんで『リンダのサイス』なの?》
引っ掛かるのはリンダの名称が入っていることだろう。
これについて知るのは暫く先の話しになってしまうが、疑問解決としてここは答えておくことにした。
《実は……この物語を進めると、リンダさんは鉱山のモンスターに体を乗っ取られて魔女になってしまうんです……》
《つまり……あの人自身がモンスターになってしまうと言うこと?》
友希那の問いに、燐子は《はい》と、肯定を返す。
《それで、この村が襲われることになるんですけど、その時にリンダさんの持っている武器が、その『リンダのサイス』なんです》
《う、うわー……なんか切ないと思ってたけど、それを通り越してめっちゃへこむ話しだね……》
《それなら、リンダさんを無理にでも村に連れ帰ってこなければ行けなかったのではないですか?》
乗っ取られてしまうならそうするしかないと考えた紗夜だが、あこも『ゲームだからその選択肢が与えられないと無理』と諦めの旨を返した。
《それに、あそこにいないとモンスターの封印をする人がいなくなっちまうから、どの道リンダさんは詰んでたことになる……》
《本当に八方塞がりですよね……あれ》
《そうなんですね……》
貴之ですら打開策ゼロであり、あこも大いに同意した。
こう言うのをどうにかするには、二次創作系のものでリンダにテコ入れをすること以外解決は難しく、そうした場合リンダはずっと鉱山に残されっぱなしである可能性が高い。
流石に創作物の物語に介入は先導者でも出来ない。とは言え、こればかりはゲームの仕様なのだから仕方ない。
《まぁでも、あこが欲しかった武器が手に入ってよかったじゃん♪》
《うんっ!ほんっとにみんなありがとーございましたっ!》
燐子とは今度この武器を持って一緒に行こうと言う話しをし、貴之は余裕があったら参加の旨を告げる。
何しろ彼は『ヴァンガード甲子園』も近づきつつある身。あまり現を抜かしすぎるのもよくないのだ。
《あっ、そう言えばこのゲームやってみてどうでしたか?》
誘った身としては聞いておきたかったことであり、その反応で次こう言うことがあったら誘うかどうかの判断材料にしておきたかったのだ。
ゲームそのものに不慣れな三人だが、不思議と内容は殆ど同じだった。
《やはり、慣れていないのもあるから
《
《大体二人と同じかな……
三人難しいと感じたのは、普段からゲームをやらないので仕方ないところではある。ヴァンガードはまだ手元で複雑な操作をするわけでも無かったから対応が十分に可能だった。
一番楽しいと思えた瞬間と言えば、三人そろって『ファントム・ブラスター・ドラゴン』と戦った時だと言うのは、自分たちも役割を持って参加できたことが大きいだろう。
《よかったね、あこちゃん(^^♪》
《うんっ!またこう言うことがあったら声掛けますねっ!》
今日は練習も終わっているので、後は別れ道に来たら解散という流れになった。
帰り道では、紗夜が前日に俊哉の家に上がって別ゲームをやらせて貰い、その小説も借りていることが判明している。
「俊哉すげぇ楽しそうにしてたよ……そのシリーズを話し合える人は少ないからって」
「そうなの?なら、結構行けそうじゃないかしら?」
「あ、あの……そう言ってくれるのはありがたいのですが……」
──流石に恥ずかしいです……。嬉しさよりも恥ずかしさが勝った紗夜は顔を真っ赤にした。
また一つと思い出や経験を経て、夏の時間は進んでいくのであった。
イベントストーリー『Neo Fantasy Online -旅立ち-』もこれにて終了です。
変化点があるのは、『ファントム・ブラスター・ドラゴン』相手に戦闘を行ったくらいになると思います。
次回は一旦とあるデッキを使ったファイトを書いて行こうかと思います。