「と、言うことで無事に承認されたよ。部室として使える場所は三階の空き教室があるから、そこを部室として使って欲しい」
──ちなみに、これが空き教室の鍵だ。次以降は職員室で借り返しを行うように催促されながら、玲奈が代表してそれを受け取る。
教室を開けて見て、中の様子を確認すると、部屋の真ん中に長机が二つ重ねられて並んでおり、それをパイプ椅子六つで囲んでいる。
長机は三人でファイトをする余裕があるくらいにスペースが確保されているので、簡素ながらも非常に活動しやすい環境下が確保されていた。
「空き教室っつうし……清掃用具あるか?一旦掃除しちまおう」
「そうだね。これからお世話になる場所だし、一回綺麗にしちゃおっか」
暫く放置されていたことを想定したのと、礼儀的な意味が重なり、満場一致で清掃から始めることにした。
一先ず全員が汚れてもいいように体育着姿に着換え、そこから水拭きや箒による掃きをやっていく。
「これで全部か?」
「後は……片付けるだけだね」
一通り清掃と片付けを終えた後は制服姿に戻り、今後の指針を話し合うことから始める。
「第一目標は『ヴァンガード甲子園』に出て優勝。ここまでは全員共通だよな?」
大介の確認には全員で頷いて肯定を返す。
速い話し、ここはもう話す必要が無いから、他のことを考えてしまおうと言うものであった。
「ヴァンガードの楽しさを、この部活を中心に広げて行きたいな……」
「そう言うことなら……初心者も歓迎、だね」
「ここを中心にレベルアップもできるから、それはいいと思う。『ヴァンガード甲子園』のこともあるから、来る分には誰でも歓迎になるな」
「一応、危惧するのは俺たちが考えたペースでやりすぎな速度になってないかだな……そこを怠ると、今あげた二つは達成できなくなる」
「それを避けるためには、相手にペースがどれくらいかを……聞いてみるのもいいかもね」
「後は、分かりづらかったところはまた次の日に教える……っていうのも忘れないようにしたいな」
そうなると出てくるのは、ヴァンガードを通してどうしたいかになり、それぞれの意見が飛び交う。
貴之と玲奈が明確な行き先、俊哉と詩織がそれを行う際に気を付けるべきこと、そうならないようにする為の方法を出していき、大介はそこに合わせて必要そうなことを補足していく。
「うん。取り敢えずこんなところかな」
一通り出た案がまとまったので、玲奈がメモに書き残して全員で確認する。
出たものは『ヴァンガード甲子園』で優勝。初心者も経験者も歓迎。部員確保。それぞれのレベルに合わせたファイター育成──。この四つが主になった。
今この時期から部員が増えるのはほぼ見込めないので後ろ三つは後回しに、今は『ヴァンガード甲子園』に向けた準備を始めることにする。
「そうなるとデッキの組み換えになるんだが……」
──今日はどうなるかわかんなかったから、予備のカード持って来てないんだよな……。俊哉のぼやきは全員が同意した。何しろまだどうなるかが分からないのに、持ってくるのは早計過ぎるからだ。
こうなると一先ず警戒しておくべきファイターが誰かを探した方がいいとなり、早速その人を出していく。
「俺が前までいた地方だと、真司と……後はもう一人『かげろう』使いがいるからそいつかな……。同じ学校かどうかまでは把握できてねぇけど」
貴之から筆頭で出せるのはこの二人だった。正直言ってしまうと、自分たちの地方が激戦区である為、そこに並べるファイターが足りずに名を上げにくいのだ。
その為、こちらの地方でのファイターが多く、特に宮地の三人は筆頭になる。
地元のファイターを洗った後は、最近のファイターで中高生の人たちを探しだし、そのファイターの使用『クラン』と、主な戦い方を纏めておく。
──後は、羽丘で結衣たちが来るかだが……。と、言いたいところだったが、彼女は店の手伝いが、Roseliaの三人もバンド活動が……となるので、参加はままならないだろうことが予想できた。
ここまで纏めれば、後は各自解散してデッキ調整の開始となった。
「(さて、ここからだな……)」
グレード4封印縛りをやることは確定している貴之は、そこも忘れずにデッキをどうするか考え出した。
* * *
「さて、今日はここまでね」
貴之らが部活の方針を決め切ったのとほぼ同時刻。友希那たちRoseliaもSMSに向けた練習を終わりにしていた。
向こうで演奏できる曲は三曲しか存在せず、一気に駆け抜けることを考えた三曲を選んでいる。
今回行ったことは改善点探し、それを見つけた時の改善といった、全体的なブラッシュアップである。
来週に週末にステージが控えているので、綿密な打ち合わせをしつつ練習しているのだが、結成直後と比べて温かい空気が包んでいるのを感じている。
「あっ、りんりん~……この後NFOのクエスト手伝って貰っていい?」
「今日までだもんね……いいよ。後どれくらい残ってるの?」
燐子の問いに、あこは「あと三つくらい……」と答える。意外に残ってしまっているようである。
「……あ、あれだけ練習したのに、ゲームをやる体力が残っているだなんて……」
特にあこはドラムを全力で叩き続けていたので、底なしのように感じる体力に紗夜は驚きだった。
紗夜もあれ以来時々NFOをやるようになったが、今日は気になったところを少しだけ練習したいので、やるにしてもそれが終わってからである。
果たして自分の練習が終わる前にあこと燐子がまだ遊んでいるかどうか……それが肝になるかもしれない。
「なんていうか……こうやってSMSに向けて練習してると、自分たちが伸びて来たって感じるよ」
「確かにそうね……けれど、勿論ここで終わるわけじゃないわよ?」
行くべき道は更に先である為、ここで満足するつもりはない。
だからこそ、今はSMS──最終的には更に先を目指して、今を頑張るのである。
ただし、休まずに突き進めるかと言えばそう言う訳ではなく、途中で休息も必要で、リサはこのSMSが終わったら紗夜と一緒にクッキーを作ってRoselia皆にプレゼント予定である。
「あっ、一応言っておくと、紗夜さんあこたちとフレンドだから、どれくらいにログインしたかはわかりますよ」
「えっ?そうなのですか?」
「フレンドリストで見ることができるので、今度目を通してみるといいですよ」
ちなみに、こういうことができるのは協力系のゲームが殆どで、俊哉にやらせて貰ったゲームはそんな機能を持たない。
通常なら一応の豆知識程度なので、余程本気でやりこまない限りは気にする程のものではないのだ。
「あら、もう別れ道ね……」
「今日はお疲れ~♪また明日も頑張ろうね」
──SMSでの経験を積み、更に上を目指す。五人が考えていることは共通していた。
* * *
「(……変えると踏んだのはいいが、俺は『オーバーロード』が一番なのは変わんねぇな……)」
組み換えをすると決めてから数日──。貴之はデッキを対して変更できないまま週末を迎えようとしていた。
ただ、明日は『レーヴ』に赴いてファイトしたいと願った人とファイトする予定がある為、下手なことをするよりはいいと思っている。
「(しかしまぁ……俺と一真、そして俺が教えた人以外であの店知ってる人か……)」
誰も会ったことが無いので確認しようが無いのは事実で、詳しいことを知るのは明日になるだろう。
今日は翌日がSMSだと言うことなので、友希那と同じ部屋にいるわけではない。それは翌日に──と言うことにしている。
誰と戦うんだと予想してみるが、考えられるのは一真が話していた上級生の可能性が出てきている。
「(だとしたら……どうしてわざわざこんな形で?)」
あくまで憶測でしかないが、普通にファイトしたいなら『ファクトリー』側に来てくれればいいのだが、言いづらい事情があるのだろうと考えるしかない。
また、憶測である以上これ以上は考えようが無いので、全ては明日に分かると割り切って最後の確認を済ませてしまうことを決めた。
「(とにかく、俺にできる最高のファイトを続けよう)」
最後にたどり着く結論は、いつも通り自分の意思を貫くものだった。
* * *
「じゃあ、また後で会おう」
「ええ。それじゃあまたね」
そして迎えたSMS当日──貴之は友希那を駅前まで送って予定通り『レーヴ』へ向かうことにしていたのだが、問題が発生した。
「(ちょっと早すぎたな……)」
友希那を送るために出たら少々早すぎたので、まだ一時間半も余裕がある。
その為少し羽沢珈琲店で休憩を取ってから向かうことにした。
「また来て下さいねっ」
「おう。また来るよ」
その日いたつぐみに挨拶を済ませて今度こそ『レーヴ』へと足を運んだ。
「あら、いらっしゃい。もう来てるわよ」
──早いな。と、瑞希の声を聞きながら店の中を見ると、そこには桜色の髪をポニーテールにしている少女がいた。
紗夜と背丈が同等くらいと考えられる少女は、瑞希に貴之が来たことを教えてもらうとこちらにやや吊り上がっている目を持つ顔を向けた。
「あなた……もしかしてだけど」
「こうして顔を合わせるのは始めてですね……私は
「もう終わっているとは……早いですね」
貴之とこの場でファイトを願った少女──瑚愛は宮地高校に所属する三年生の女子生徒である。
一昨年までは一真と同格クラスに警戒対象として貴之は見ていたが、去年と今年は受験に専念していたらしく、全国大会には出場していなかった。
そしていよいよ夏休み中に受験も終わり、後は成績を落とし過ぎないようにして卒業するだけと言う、ほぼ完璧な学校生活を送っているらしい。
ただ、そうなると今度は学校へ来る意味合いが非常に薄れてしまうのを懸念しており、部活動を短期間だけ出来ないかの打診を最近行っているのは本人だけの話しである。
「分かりました。ファイトの頼み、引き受けます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
貴之は相手が年上なので当然、瑚愛は学校生活で身についた癖で互いが敬語を使って話す。
「(この人、戦い方とかは変わってんのか……?二年近く見てねぇから、ちゃんと様子みないとな……)」
「(最近、『ヌーベルバーグ』を使いこなしたと聞いていますが、今はどうしているのでしょう?)」
思考の差異はあれど、二人が互いを意識しているのは同じだった。
「「スタンドアップ・ザ・ヴァンガード!」」
二人の掛け声は全く同じ方向性であり、互いがカードを表返すことでファイトが始まる。
「(さて、どう動くかな……)」
──いつも通り行けば、いいファイトはできる。そう信じて貴之はターンを始めた。
* * *
「うわぁ……凄い盛り上がりだね」
「さっきから、ずっと声が聞こえてるもんね……」
貴之がファイトを始める直前──。RoseliaもSMSで演奏の時間が迫ってきていた。
「こうしてみると、改めて大きなステージだって実感できますね……」
「そうですね。そして……こんな場所だからこそ、自分にできること全てをやっていきましょう」
「そして、最高の演奏を届けるわよ」
そんな状況でもやることは一緒──。それが分かれば問題無かった。
係員にスタンバイを頼む旨を伝えられ、ステージに上がれば大きな歓声が聞こえる。
全員の準備ができたところで挨拶とメンバー紹介を済ませ、早速演奏を始める手前まで持っていく。
「(いつもの通り、全力で……)」
──来てくれた人を惹きつける。そう思いながら一曲目を始める。
今日も上手く行く──。この時はまだ、そう思っていた。
今回登場した瑚愛は咲野 皐月様からご提案頂いた人物となります。
私がこの章までやると決めた理由は、この二人の提案を頂いた以上、出すのが筋だと考えたのがその内の一つです。
次回は貴之と瑚愛のファイトと、Roseliaシナリオ2章の3話をやると思います。
その後は恐らく4話以降が10話近くになるまで展開が異なるってくるので、原作から少し逸れる形になります。