ファイトが終わり、まずはありがとうございましたと終了の挨拶を済ませる。
「いやはや、お見事です。油断してたつもりは無かったんですが……」
「いえ、そちらも流石の腕前です」
最初はお互いの賛辞から始まるが、二人の考えが双方違うことがもう間もなく現れる。
「ところで、『ヌーベルバーグ』を使用しなくなったのは……本当に自分の性分ですか?」
「ええ、そりゃもちろん。まあ、今使い続けるとファイターたちに悪い流れができるのもあるんですけど……」
──こっちは建前です。貴之は噓偽りなく答える。もとより自分はそう言う考えなのだから。
ただ、瑚愛の方はそうでも無かったらしく、彼女の答えを貴之に示す。
「私は思い切って使った方がいいと思いますよ。せっかく使えるようにしたのでしょう?」
『……!』
自分の考えとは真逆なことに貴之はそうだが、今回の全国大会で起きた状況が分かった上で言っていることに秋山姉妹も驚きを隠せなかった。
「ほ、本気で言ってるんですか……?」
「周りに流されてそれを使わずに燻るよりは、自分の意志で使い続けた方がより伸びるはずです」
「あ、
瑚愛の考え方が広がったらどうなるか──。それを分かっている貴之は思わず敬意を投げ捨てた。
ヴァンガードを愛し、他の人にもその楽しさを知ってほしいと願って行動している身だからこそ、許せないのである。
「俺がそれをやったらどうなるか、ホントに分かってんのか!?」
「ですが、誰かがやらねば先へは進めませんよ?」
「アンタはそれでいいかも知れねぇが、他のファイターは俺たちのようには行かねぇんだぞ!」
正直に言うとあれは一真に勝つためだけに採用したのであり、これ以降使うつもりは暫くない。
片や自分の好きを使い、皆と共に進もうとする貴之。片や自ら高みに進むことで、全体のレベルアップを図る瑚愛。二人の主張は悲しい程にすれ違ってしまっていた。
「アンタは……!アンタはヴァンガードの世界が終わってもいいって言うのか!?」
流石に全世界とまではいかないが、少なくとも日本国内は非常に不味いことになる。人口が急激に減少してしまうと取り返しが効かないのである。
故に貴之が使うわけには行かない理由となっていた。『オーバーロード』で勝ちたい気持ちに噓偽りはないが、これを厳守しないと本当に取り返しが付かなくなってしまう。
「終わるかどうかはまだ分かりませんよ?ですが、このままでは平行線……」
ならばと、瑚愛は貴之に自分も『ヴァンガード甲子園』に出る可能性が高い旨を伝える。
「もし、互いに出るのなら……決着はそこで付けることにしましょう」
「いいぜ……その時が来たら、俺は『オーバーロード』でアンタを倒す!」
この上なく怒りに満ちた目を持って貴之が答えたのに満足した瑚愛は、最後に秋山姉妹に礼を告げてから店を後にした。
「貴之……大丈夫?」
「ああ……悪い、すげぇ取り乱した」
普段からすれば想像もできない程の怒りっぷりを見せてしまい、少し申し訳ない気持ちになる。
ただ、こうなればいよいよ後がない状況であり、休み明けに絶対伝えなければならない事項となった。
「『ヴァンガード甲子園』……初回からかなり荒れそうね」
「ええ。ただ、最悪の事態は何としても俺が止めます」
その為には早速デッキ作り──。となるのだが、そこに一度留美が待ったを掛ける。
「一回休んでからの方がいいですよ?今のままやろうとしたら……」
「そうだよな……。うん、一旦そうするか」
彼女の進言は最もなので、一旦家に帰って頭を整理してからに決まった。
ただ、そのまますぐに帰る気にはなれず、少し寄り道して落ち着かせることを選んだ。
* * *
貴之が落ち着かせる為に寄り道してから少しした後──。Roseliaの五人はSMS会場の最寄り駅にあったレストランで夕食を取りながら、今回の反省会を開いていた。
真っ先に考えられたのは練習不足だが、それはまずないと否定できる案件だったのでここは無しになる。
「その……さっき、オーディエンスの一人に言われたことなのだけれど……」
『……?』
気になった様子を見せる四人に、友希那はその人自身は自分個人の意見であると言っていたことは伝えておく。
これが絶対にそうだとは言わないが、参考にできることは間違い無いとなったので、リサが友希那に続きを促した。
「私たちは確かに変わった……けれど、変わったなら変わったなりに直さなければならないところをおざなりにしていた……らしいわ」
「変わった部分を……そのままに?」
変わったと一言に言っても、細かい部分まで見ると結構あるのですぐに出るものではないが、すぐに言える部分は案外見つかる。
「間違いなく、その『変わった』と言う部分は……私と湊さんが筆頭格ですね」
「その次は……私でしょうか?」
「うーん……燐子の場合、ライブに出る前だからなぁ~」
「そうなるとりんりんはいい意味で一番変わってない……?」
友希那と紗夜はバンド結成時からFWFの短期間でかなり変わっているので、最早疑いようもない事実である。
ただ、考えれば考える程どこが問題だったかを探す必要がある為、もう少し何かないかを確認してみる。
「(大丈夫、もう少し……もう少しだから……)」
今回の失敗を予想以上に引きづっていたのに気づいた友希那は、どうにかその悔しさから来る辛い気持ちを抑え込みながら答えていく。
そして出てきた内容は、演奏中における自分たちの見え方があり、ここをどうするかが今後の大きな課題だと言える。
ただし、これは元々楽しさを載せながら演奏していたリサ、あこ、燐子の三名よりは、当初それの薄かった友希那と紗夜の課題に近しいものといえるが、意識的なものを持つのは全員が共通することだろう。
「今すぐでなくともいいわ……ただ、少しの間練習を落ち着かせている今のうちに決めましょう」
「練習しながらでも構いません。自分たちの納得できる道、それを探していきましょう」
それが出来ない限り、Roseliaは先に進めない──。それは、五人全員の明らかなる共通認識であった。
* * *
「そっか……そっちも大変だったな」
「ええ……」
その日の夜──。貴之の部屋で集まった二人は普段と比べてかなり重くなってしまった空気にもどかしさを感じる。
本当ならば何事もなく終わり、楽しく談笑して終わるはずだったのだが、双方が双方でかなり追い込まれてしまったのである。
友希那からすれば貴之が怒りを爆発させたことには驚きであり、それ程許せない事態だったことがうかがえた。
「方向をはっきりさせるのなら、楽しさか技術力のどちらかを追えばいい。けれど、それは……」
「……ああ。片や停滞、片や退化……どっちにしろ地獄だな」
オーディエンスの人たちは後者の方を目当てに来ていたので、合わせるならそちらになるが恐らくは無理だろう。
かと言って、もう片方だけを取るのは自分も他の四人も望まないし、今まで来ていた人たちもそれは違うと言うのが見えている。
このままでは八方塞がりね──。思考がぐちゃぐちゃになってきていたところの友希那に、貴之がちょっとした例え話を投げる。
「楽しさとかを『ブラスター・ブレード』や『ロイヤルパラディン』。技術力とかを『ブラスター・ダーク』や『シャドウパラディン』って仮定するんだが……。ヴァンガードの場合って、どっちかのユニット、どっちかの『クラン』にしなきゃなんないってなるだろ?」
「確かにそうね……けれど、それがどうかしたの?」
「本題はここからなんだけど……バンドの場合ってさ」
──どっちかにしなきゃならない必要って、本当にあるのか?貴之は何気ない問いかけだったが、今の友希那からすれば思いがけない考え方でもあった。
選ぶと言う言葉がどちらかの二極化に近しいものに変えてしまっていたのだが、そんなことは無いと気づかされた瞬間である。
「そうだったわね……そんなことすら忘れていただなんて、相当引きづってしまっているわ」
「仕方ねぇよ。いきなりこんなことが起きちまったんだから……」
デビュー当時から圧倒的な実力でファンを獲得し、その勢いのままFWFに出場した後これなのだから、そのショックは相当である。貴之自身、自分もこんな滑り方をしたら迷いの袋小路に落とされていただろう。
貴之が躓いてもある程度持ち直せるのは、少し登ったら滑るを繰り返して耐性が付いているからであり、それだけ優勝まで努力してきた証拠でもあるのだ。
「大丈夫。一回失敗したくらいで全部が終わるわけじゃない……俺たちにはまだ次があるんだから」
「そう……そうよね……っ」
赦すように気づかせてもらえたことで、友希那は自分の考え方が極端になりかけていたことと、失敗したことで抱え込んでいた悔しさと情けなく感じていたこと、それらに気づいたことで涙があふれ出して来ていた。
「そうじゃない方法もあるのに……っ……私……私は……っ!」
「ずっと正解を出し続けられる奴なんて運がいいだけのやつしかいねぇよ……。大丈夫、気づけたなら変われるし、やり直せる……俺と再会した時から、FWFのコンテストに出る直前の時までだってそうだったろ?」
貴之の言葉が引き金になり、友希那は声を出しながら泣き、貴之は涙と共に吐き出す彼女の辛さを受け止めてあげた。
「ごめんなさい……毎回付き合わせてしまって……」
「いいんだ。俺が友希那の助けになるなら、それでいいんだ……」
彼の言葉に温かさを感じ、友希那は素直に礼を言う。
「お互い、ちゃんと決めて行こう」
「ええ。何かあったら、私にも手伝わせて?」
特に貴之は双肩に掛かったものが今までにない程重いのだから、尚更抱え込まないで欲しいと言う願いと心配があった。
「分かった。俺もそうするよ」
「今度こそ、力になるから……」
意外に貴之は一人で突き進んでいることが多いので、もし行き止まりに来た時は……と考えずにはいられなかった。
時間も時間になったこと、どうするかも決まったことから、消灯して眠りに着くことにする。
その日の夜は、いつもより互いを近くに感じていた──。
* * *
「そんなことがあって、ちょっとヤバい事態になってきた……」
「まさか、知らない内にそれをモノにしてたなんてな……」
休み明けの放課後──。貴之は四人に瑚愛のことを情報共有した。
受験で休む前までは別の『クラン』を使っていたのだが、グレード4を使いこなしたことを気に完全な乗り換えを行ったのが彼女である。
例え貴之や一真のように、『たまたまグレード4が使える勢力』だったとしても、彼女は己が進む為に『ギアクロニクル』へ変えるのは予想ができた。
「でも意外だね?あの人、学校だと平等な接し方してるらしいから、そんなこと無いと思ってたんだけど……」
「
「そっか……こっちはまだ多いんだね」
彼女自身、学校では模範生として非常に評価が高く、生徒間でも信頼が寄せられている為、ファイターが少ない都合も相俟って貴之のようにファイトに対するストイックさを知らない人は多くなる──。というか、殆どであった。
ただ、これが判明したことで貴之のように中では一大事であることが判明し、今回の戦いがかなり緊迫しそうになっていたのである。
「ただ、何も言わないよりは全然いいな……これなら俺たちも、貴之のことをある程度手伝える」
「ファイトなら、いくらでも付き合うから……」
「デッキで行き詰るならあたしたちなりに力を貸すよ?」
「俺たちはお前に希望や努力の結晶を見せてもらった……。だから、今度は俺たちが返すんだ。いいだろ?」
自分のやって来たことは無駄ではない──。それが四人のおかげで分かった。
ならば貴之が迷う理由はなく、選ぶ行動はすぐに決まる。
「ありがとうな。今回は目一杯頼らせてもらうぜ」
差し伸べられた手を、貴之はすぐさま取るのであった。
* * *
「始める前に……あれから休めているわね?」
練習前の確認に、全員が頷く。自分たちがどうするかはこれから考えて行くので、今はそれが纏まっていることよりも、体が休まっていることの方が大事であった。
今回の事を経て、自分たちの見直しが必要なのは当然感じてはいるが、何も練習を厳しくすると言うことは無い。いきなりそれをやったところで
これから暫くは色々と考えながら練習をすることになるので、あまりにも集中するのが大変な状況になるなら普段より早く、場合によっては多く休憩を挟むつもりでいる。
「今日感じたことや、思いついたことは積極的に話していきましょう。何か手がかりになるかも知れませんから」
「そうだね……今日はどんどん話しちゃおう」
「だ、ダメそうになったらすぐ言いますね……」
「急ぐ必要は無いから、落ち着いて行こう。ね?」
紗夜の言ったこともそうだが、燐子があこに安心させるべく言ったことも大事である。焦ってもいいことは無いのだから。
特に紗夜は俊哉に自分から述べた身である以上、自分が変に突っ走る訳には行かない。
「私からも聞いていくから、何かあったらすぐに言い合いましょう」
──それじゃあ、始めるわよ。自分たちがどうするかを探す為の道は、今歩き出した。
友希那が一人でさっさと帰らなかった。これが大きな違いとなります。
次回はそれぞれの自分探しを書いて行くことになります。