「さて、手伝う前に貴之のデッキを見直さないとね」
「そうだな。『グレート』と『ジ・エンド』、どっちで組むか……」
後江でまず最初にやることは、貴之のデッキ見直しから始まった。軸を決めたらサポートを一緒に変えるだけなので、大幅な変更はしないで済む。
ただ、ここは何回も試行錯誤していくので、いつでも変えられるような準備は必要だった。
「お前どうする?デッキの見直ししておくか?」
「トリガー配分迷っててな……ちょっと力貸してくれるか?」
「私でいいなら、手伝うよ」
その一方で、俊哉もトリガー配分の確認だけしておくことにした。
現在は
その為、ある程度
「確かに。お前のデッキで
「多めに変えるなら
「そうなると7から5のどこかかになるか……ちょっと入れ替えながらやってみるか」
一先ず、俊哉と二人で先にファイトしながら確認を始めた。
ここさえ決まれば、後は細かい微調整を重ねるだけで俊哉のデッキは必ず完成することになる。
「流石に
「じゃあ、次だね」
通しでやってみたところ、流石に
「
「なら、後は6枚構築だな」
その結果、俊哉は両方六枚の構築で進んでいくことを決めた。
「よし、まずは『グレート』から行こう」
「ここからはあたしもファイトを手伝うよ」
今度は貴之の調整が始まり、まずは『グレート』軸のデッキを動かして見る。
この場合は『ジ・エンド』と比べて安定感が高く、トリガー配分に自由が効きやすいところが利点だと言えた。
「次は『ジ・エンド』だな……」
「まだ時間はあるし、今日決めきれなくても落ち着いて行こう」
次に動かした『ジ・エンド』軸は、『グレート』と比べて爆発力が高く、方針を明確にしやすいのが利点だと再確認する。
「後は、サポートユニットはこれでいいとして……グレード1のところが調整の余地あり。ってところか」
まだ時間がある為、完全な決定はまだしないが、偏らせる場合に何ができるかだけは纏め上げておく。
今日は時間が来たので、各自解散となった。
* * *
「アタシたちの演奏って、方向性は揃えた方がいいのかな?」
「それもいいとは思うのですが……私たちが音楽への楽しさを忘れていないと言う意味では、今井さんたちにはそちらを残しておいてもらった方がいいように感じます」
貴之らがデッキの調整をしている頃、友希那たちRoseliaも方針をはっきりさせるべく練習しながら話し合っていた。
リサの提案は結成当時からそうしていたなら思い切って踏み切れただろうが、今から変えるのは難しすぎるので無しになった。
「いっそのことあこたちの方に寄せる……は、思い切らないとダメだよね」
「そうなると、改めて一からになるし……もうちょっと待ちたいね」
あこの提案は本当に最終手段として残しておき、その方向は最後まで選ばないことになる。
ただそれでも、毎回直感で当たりを引いたり、いいところまで行ったり、今回のように保険を残したりできるあこの直感は流石の一言で、大事にして欲しいと皆で頼み込んだ。
「(一見相反しているような二つだけれど、貴之のように合わせて進むことだってできるはず……)」
──そんな方法が、どこかで見つかるといいのだけれど。皆の話しを聞いて、友希那が感じたことがこれである。
幾つかの方向が出てくるが、まだ「これ」と言ったものが出てこない。もうしばらく時間が必要だろう。
「紗夜。今のところだけれど……」
「なるほど……。少しやってみますね」
ただ、練習を疎かにするつもりは無いので、元の練習で思いついたことがあったら実践もしていく。
そうすることで、少しずつ自分たちがどうすればいいのかを探していくのである。
「さて、と……一先ず出たのはこんなところね」
今回の話しで出たのは──『技術力を求めるのは優先するが、音楽の楽しさも忘れない方向を取りたい』、『技術力最優先で行くのは進みたい道に必要なものがあるので合致するが、空気は悪くなるのが目に見えている』、『楽しさ重視は空気が良くなるが、自分たちが目指したい場所への道は一気に遠のくので、最終手段に近しい』となった。
決めるのはまだしも、どうしたいかの候補を出せただけでも上出来と言えた。
「じゃあ、アタシたちはこっちだから……またね」
「はい。それじゃあ、また明日」
別れ道が来てしまったので三人と別れたが、この時リサは一つのことに気づいた。
「あぁ……アタシ、ちょっと今日は固かったなぁ」
「仕方ないわよ。状況が状況だもの」
いつものような返しが出来ていなかったのだが、理由が分からないわけではないのでそこは許した。
元より自分を中心とした変化が生んだ結果なので、責めるつもりは無い。
「ただ、決めなければ先には進めない……早いに越したことはないけれど、使う時間は全て使い切りましょう」
「……うん。そうだね」
──今の自分たちにできること。帰り道の最中でも、それを考えられずにはいられなかった。
* * *
「……?」
眠りに着いた後、目を覚ました友希那は見知らぬ空間にいた。
うす暗くて周囲に誰もいないと言う、妙に恐怖を煽られる場所から抜け出すべく当たりを見回して見ると、何やら白と黒の影が対峙しているのが見えた。
「えっ……?あれって……」
そこにいたのは『ブラスター・ブレード』と『ブラスター・ダーク』で、今の友希那がヴァンガードで使っている『クラン』の代表ユニットたちであった。
──なぜこんなところに?と、複数の意味で考える友希那だが、彼らの至って真剣な話しを聞くことでその思考が隅に追いやられる。
「
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。
自分の行く末が、自分たちにも影響することが間違い無い故の話しであった為、思わず友希那も聞き入ってしまう。
彼らもまた、自分の選択で影響を受ける者同士なのである。
「我らは自分たちこそ必要だと思う。だが……」
「そうだな。お前たちを不要だと断じることはできない」
『ブラスター・ダーク』の主張を察し、『ブラスター・ブレード』が同意する。どちらも彼女が必要と感じたからこそ、共にいるのだから。
いずれにせよ結論が出る日は来るだろうが、今しばらくそれが来るとは思わない。だが、動かない話さないはもどかしい。
故にこの二人は、何らかの形で語り合うことを望む。そしてそれは、次の段階へ進ませることになる。
「話すのはいいが、まだ根本的な解決には遠いか……」
「お前の言う通りだ。そして、こう言う時に我らが取れる行動は……」
──剣で語ること。双方見出された時期と求められたものが違う為、ぶつかり合うことで直接感じるのが一番早いと結論が出ていた。
何も事情が分からなければ止めに入ったかもしれないが、友希那は理由が分かる為見ることにする。
二人は少しだけ距離を取ってから剣を構え、しばしの間沈黙が走る。
「……」
「では……」
「ああ、行くぞ!」
同意の下二人が同時に踏み込み、全く同じ動きで振るい合った剣がぶつかり合うのだった。
* * *
「……!?」
そして彼らが剣をぶつけ合った瞬間、意識が現実に帰った友希那は慌てて体を起こす。
時間を見れば日が回って6時頃。普段より少し早い時間に起きてしまったが、二度寝するにはもう遅い時間であった。
ならば今日は少し早めに身支度を済ませようと考えてベッドから出たところで、机の上に置かれた二つのデッキケースが目に入り、それを手に取る。
「(あの二人も、私のことで悩んでくれて、ああしてくれている……)」
どちらかしか残れないかもしれないと言う不安を抱きながらも、それでも自分の為にと剣を交える道を選んだ彼らのことを思い出し、自分を想ってくれる存在の温かさを改めて実感する。
それと同時に、必ずしも一方で進むのは難しいだろうと言う考えが出始めてきていた。どちらかを選べばもう片方が恋しくなり、結局どっちも取れず本末転倒になるという考えである。
ならばと、友希那はこんな考えが浮かび上がってくる。
「(音楽なら両方選ぶこともできるように、彼らのことも……)」
──どちらかだけでなく、両方を選べればいいのに。共存する道があることを友希那は考えられずにはいられなかった。
* * *
更に時は進み、貴之とRoseliaが再始動してから一週間が経とうとしていた。
「ありゃ?息抜きに散歩してたらこんなところに来ちまった……」
その週末に、貴之は『CiRCL』の前まで来ていた。無意識化で友希那の歌を求めてしまっていたのかもしれないが、暫くは待つ必要があるだろう。
デッキの方向性はもう少し変更の余地がある為、まだ確定させてはいない。もしかしたら『ウォーターフォウル』等を混ぜ込めるかもしれないが、あまりにもバランスが悪すぎるので、グレード3は『オーバーロード』系のみで確定だろう。
「おや?久しぶりに見る顔だね」
「お久しぶりです。オーナー」
──もうあたしはオーナーじゃないよ。と、返して来た女性は間違いなく、『CiRCL』の前オーナーであった。
彼女は外側からちらりと様子見だけしに来たらしく、それが偶然鉢合わせをしたようだ。
「アンタ……どうやら早速壁にぶつかった感じだね」
「ええ。今は、納得できる乗り越え方を探してるところです」
オーナーからしても、このぶつかり方はかなり早い方らしく、もう少し後だと思われていたようである。
ただ、貴之からするとぶつかった壁が壁なので、早くて助かったとも考えていた。
「分かってるならいいさ。まだ袋小路に嵌った訳じゃないんだ。焦らず、ちゃんと考えるんだよ。いいね?」
「はい。ありがとうございます」
オーナーからの応援に安堵を覚えた貴之は頭を下げて礼を述べ、この場を後にした。
「(まだ二か月ある……テスト期間が終わったら本格的に微調整になるから、残り一か月って考えると随分と余裕があるな……)」
──なら、慌てなくていい……。落ち着かせることができただけでも、貴之には大きな収穫であった。
* * *
「もし、何かに集中したい人がいるなら時間を使ってくれて構わないわ」
貴之がオーナーと話してから少しした後、Roseliaの状況も一転を迎えようとしていた。
答えらしい答えがまだ出ていないので、今のうちにチームとしてできることをするのなら、練習時間をそちらに回すのも一つの手だと言う結論が出た。
実際の話し、色々考えるのはいいが練習の内容が充実し切れない場合が増えて来たので、メリハリを付ける意味でもこの選択は選べるのである。
「それなら……衣装の制作に時間を使ってもいいですか?」
「あっ、それあこも手伝おっか?」
「うん。お願いするね」
それならばと、燐子は以前から考えていた衣装のデザインを始めてしまうことを選んだ。
合間合間に練習を挟むことにはなるが、自分たちの進み方を決めたタイミングで用意できれば非常に良いと考えている。
「私たちは……タイミング合わせた方がいいからまだですね」
「そうだね……今の段階だと、少なくとも衣装ができるまでは取り掛かれないかな」
リサたちがやろうとしていることは、時間を掛け過ぎると良くないので、もう少し待っておく必要がある。
後は友希那がどうするかだが、彼女も彼女でそろそろ新しい曲を用意した方がいいと考えていたので、準備を始めたいとのことだった。
こうなるといつでも練習できるのは紗夜とリサの二人しかいないので、明日からは揃って練習するのを一時的に中断し、それぞれの時間に使う方向が固まった。
「じゃあ、皆で答えを持ち合わせてまた会いましょう」
そうして今日は解散し、再び友希那とリサが二人で並んで歩く。
この先どうなるかが分からなくて不安な気持ちはあるが、友希那の胸の中にあるのはそれだけでは無かった。
「(私は一人じゃない……それは、こんなにも暖かいのね……)」
それは皆がいることへの安堵であり、一人で暴走しない支えになってくれているものだった。
友希那が荒れていないので、チーム内にあった問題の一番デカい部分が消滅しており、衝突が起こらないまま皆でやるべきことをやる方向へのシフトになりました。
本小説の性格変更で最もいい影響を受けた場面でもあり、これのせいで見所が減ってしまった原因でもあります。
次回は一旦本編に戻り、Roselia2章の10話部分をやることになるかと思います。