「(今回は流石にやってしまったな……)」
俊哉とファイトを終えた日の夜──。颯樹は自らの行動を反省していた。
『リンクジョーカー』を使い続けて随分と時間は経つが、他のファイター間でよく言う「またファイトしよう」と言う、当たり前とも言える言葉は今までこちらに返って来なかった。
薄々と感じていることとしては『
今回もまた同じなのだろうと思い込み、俊哉からの返事は待たずに帰ってしまったのである。
「(こんなことをしてしまったら、もうそんな言葉は来ないんだろうか……?)」
慣れている宮地生の同級生三人と、三年生でありながら学業が完璧なことから特例として参加を認められた瑚愛は望んだ言葉を掛けてくれたことはあるが、立ち位置上当然と言う感じが近かったのであまり胸に響いていない。
そうなると答えを聞かずに去ってしまった俊哉が望みのある相手だが、自分がああしてしまったのは中々に問題である。
──前途多難だなぁ……ぼやきながら颯樹はデッキから『グレイヲン』のカードを一枚取り出す。
「ごめん。君たちを受け入れて貰うには、まだ時間がかかりそうだ……」
『リンクジョーカー』の存在を受け入れて欲しいと言う、ユニットと共に持っている願いの実現は、まだ始まりの兆しが見えなかった。
* * *
「まあ、そんなことがあったんだ……」
『確かに、それは私も始めて聞いたわ』
一方で同じくらいの時刻で、俊哉は紗夜と電話を通して今日の出来事を話していた。
間違いなく何か抱え込んでいると言うのが俊哉の見解であり、紗夜もそう考えている。
『戦い方が悪影響を及ぼす……なんてことは無いのでしょう?』
「ああ。俺もあいつも五体満足。その辺は特に問題ないはずだ」
自身に直接負担がかかるのは貴之が以前まで使っていた『ヌーベルバーグ』だが、両者共にそんなものは取り込んでいない。
となれば、何かを忘れているか、何らかの陰謀がきてしまったかに移る。
『それも無いというのなら……私のように、過去の出来事が関係しているかも』
「ああ……今度はそう来たか」
紗夜が辿り着いたのは、自分がそうだったからこその思い当たるものだった。
確かに、俊哉も残すとすればそれしかないと考えていたので、そちらに考えを回す。
そして、今日の出来事を考えるならこれだと言えるものがあり、それを近藤伝えるべき時に伝えてやることが結論となった。
『そう言うことなら、後は大丈夫ね?』
「ああ。わざわざありがとうな。こんな時につき合わせて……」
『いいのよ。上手く行くといいわね?』
紗夜の問いかけには素直にうなずく。後は時が来るまで自分にできることをやっていくだけであった。
『明日も学校があるから、そろそろ切るわね?』
「分かった。そっちも頑張ってな」
『ええ。それじゃあまたね』
電話を切った後、残りは消灯して寝るだけの俊哉は灯りを消した後ベッドで横になる。
「(紗夜が俺にしてくれたように、今度は俺があいつを助ける番……)」
──受け継がれるって、こういう事を言うのか?眠りにつく直前、俊哉の持っていた疑問であった。
* * *
「じゃあ、行ってきま~すっ!」
「気を付けて帰ってくるんだよ!」
それから時は進んで週末の昼下がり──。あこは母親に見送られて家を後にした。
向かう場所は燐子の家で、今日から本格的な衣装作成の会議を始めることになっている。あこは彼女と共にデザインの意見交換をするのと、製作時に可能な範囲での手伝いを担うことになる。
それまでは何もしていないのかと言えばそう言うことではなく、今日の為に練習も挟みながら衣装のデザインをどうしようか考えていたのだ。
「(おねーちゃんのことが気にならない訳じゃないけど……あこたちの行動で、何か動かせたらいいよね?)」
姉の巴たちに何かがあったのは気掛かりだが、この手の問題は自分たちで解決すべきことなので、無理に自分から関与するべきではない。
だからこそ、手伝うのであればこれが最善で精一杯である。と考えていたら目的地に辿り着いたので、インターホンを鳴らして来るのを待つ。
「あこちゃん、いらっしゃい♪」
「うんっ!お邪魔しま~す♪」
出迎えて来てくれたのは燐子で、早速中に上がらせて貰い、彼女の部屋に案内してもらう。
その直後、燐子の母親が飲み物を持って来てくれたので、水分補給を忘れないようにしながら衣装に関する話し合いが始まった。
「Roseliaは『青の薔薇』が名前の由来になってるから、それに合わせようと思ったの」
「あこは、最初に作った衣装が黒だったから、再出発って意味でこっちがいいと思ったんだ~」
最初に出すのはコンセプトの形。これが決まらなければ必要な材料であったり、元の形を決めることができない。
故にこうしてコンセプトの提案から始まるのだが、これが二人揃っていいものを持ってこれたので、二人して悩む。
「あっ……りんりん、これ上手く組み合わせられないかな?」
「組み合わせる……ちょっと待ってね」
あこの発想を思い描きながら、燐子はスケッチブックに描いて形を作っていく。
書き始めてから10分程して、簡単なラフデザインが出来上がった。
「……こうかな?」
「あっ……うんうんっ!そんな感じ!後はもう少しRoseliaっぽさを盛り込んで……」
話しながら手掛けて行くことで、家に集まってから1時間程したところでデザインの絵が完成し、一度どれだけの材料が必要かを確認する。
そこまで決まると買い出しに行くかいかないかだが、これは燐子とあこの二人で持ち帰れる量なのかが肝心になるが──。
「「無理……だよね」」
流石に無理だったので、明日から作業できるようにする方針で今日は休息の時間を満喫した後解散となった。
「じゃあ、やっていこう」
「必要なところがあったら言ってねっ!」
その翌日から衣装の制作が始まる。燐子が手動で作っていき、要所要所であこが手伝っていくことになる。
これを五人分行い、所々サブテーマによって変更点があるのも忘れずに取り入れる。
「あこちゃん、ここ抑えて貰ってもいい?」
「任せてっ!」
一人では難しいところも、二人なら乗り越えられるいい例であり、こうして度々あこに助けてもらいながら衣装を作りあげていく。
「じゃあ、まずは一人分かな……」
「ちょっと着替えるね?」
あこの分が完成したので、試しに試着をしてもらう。
「おお~っ!ちょ~いい感じだよっ!」
「本当?よかった……」
あこから文句無しの絶賛がもらえたので、これで一人分が完成する。
今日はいい時間になってしまったので、明日からまた二人目以降を制作していくことになった。
「じゃあ、またね~っ!」
「うん。またね」
あこを見送った後、燐子は夕飯の時間が来ていたので一先ず手を洗って夕食を済ませる。
「(他のみんなも喜んでくれるといいな……)」
衣装を見て喜ぶ皆の笑顔を考えながら、燐子はまた明日もと意気込んだ。
* * *
「やっほ~。来たよ♪」
「待っていましたよ。今井さん」
時は更に進んで休日。氷川家にて、リサは紗夜に迎えられて家に上がる。
燐子とあこの方でそろそろ衣装が全員分出来上がる、友希那も曲の完成が間近と言う話しを貰ったので、頃合いになったと見てクッキー作りの始まりを決めたのだ。
今回氷川家を選んだ理由としては、リサの家だと友希那に何をしているかがすぐにバレてしまう為、こちらを選ぶしか無かったのが大きい。
リサとしても、日菜のことが気がかりだったのもそうだが、やはりサプライズ的な意味でも友希那が近くにいると意味合いが無くなるのを避けた。
「日菜、結構参ってたみたいです。自分の悪い癖が出てしまったって……」
「そっか……最近はそうならないことやってたもんね」
クッキーを作りながら、紗夜はリサが気になっている情報を教える。
どうやら彩と千里が別の仕事にそれぞれ単独で参加することになり、暫くパスパレとしての活動が出来なくなる事実が伝えられ、そこで日菜が不満を爆発させたらしい。
パスパレは日菜が夢中になっていられる空間の一つであり、今までそう言うものが得られず、今回のように取られるとなれば我慢できなかったのだろう。
確かに最初は落ち着かなかったが、日が変わればすぐに反省した辺り、その居場所を日菜は気に入っていたようだ。
「でも、そう考えるとよかったのかもしれないね?」
「ええ。そうですね」
紗夜としても、日菜がいつまで経ってもやりたいことが見つからずに燻っているのをどうにかしたかったので、その場所になってくれた四人には感謝している。
今はもう平気なら、後は気にすることなく生地を作っていく。ある程度生地がまとまってきたら、そこから型をくりぬいて焼く準備をしていく。
「そう言えば、今井さん。一つ聞いておきたいことがあるのですが……」
「……ん?どうしたの?」
準備が出来て焼いている間は空き時間になるので、紗夜は今のうちに俊哉から聞いた『リンクジョーカー』のことを聞いてみる。
あの後俊哉も後江の四人に聞いたのだが、どうやら誰一人として知らなかったらしい。故に空振りするだろうと思うが、一応確認だけ取ってみるのだ。
その結果リサは知らないとのことで、本当に当人しか知らないものだったことが伺える。
「でも、そんなに抱えてはいないんだ?だったら、後はどうにかできるよ」
「ええ。そうですね」
幸いにも、俊哉の周りには人がいる。道に迷っても人に聞いてヒントを得て、そこから解決するのは苦じゃない。
そのことを思い出し、紗夜は安心した。
「ところでだけど、いつから呼び捨てにしてるの?」
「私がですか……?あっ……」
そう言えば、彼の前以外でそうしたことが無いのを紗夜は思い出した。それと同時にリサが非常にいい笑顔を見せる。
これは今度何かある……。紗夜はこの時確信した。
「もう……知らない内にそこまで進展しちゃってぇ~。こう言うお知らせあると嬉しいよ」
「なら、今井さんも早くそう言った人を見つけるべきですね?」
「なっ……!今それは関係ないよね!?」
「そうですか?Roseliaが集まった時にこの話しをしたら、こうなっていると思いますが……」
なので、リサに反撃できるネタがあったらそれを返すことでよけることを選ぶ。
彼女は見た目の割にこの手の話しへの反応が
更に言うと、リサは紗夜と俊哉に以前煽られたネタもあるので、あまり強く出られないのも大きい。
そんなことをしている内に焼き上がったことを告げる音がオーブンから聞こえたので、手で触れられるくらいまで冷めてから袋詰めをしていく。
「よし……これで出来上がりだね♪」
「ええ。後は、来る時を待ちましょう」
来る時と言うのは、全ての準備が終わり、再び全員で練習を始める時である。
活動再開してから初ライブまでの間、休みなく練習することになるとは思うが、そんな些細なことは気にしないだろう。
「それじゃあ、またその時に会おうね♪」
「ええ。またその時に」
袋詰めが終わったら程よい時間となったので、今日は解散となった。
信じられる人がいる頼もしさ。二人に取って、それを改めて胸に感じる一日となったのである。
* * *
「あっ、友希那ちゃん久しぶり……!練習に来たの?」
「ええ。ようやく準備が終わったので……」
紗夜たちが話していたその時と言うのは思いの外早かった。クッキーを作り終わった翌日の昼下がり──友希那はライブハウスに来ていた。
迎え入れてくれたのはまりなで、暫くRoseliaが顔を出さないものだから少し不安に思っていたようだ。
そんな彼女も友希那の顔を見れて一安心したらしく、柔らかな笑みが見えた。
「(さて、少しの間一人で練習してましょうか……)」
一先ず『今日から練習をするから、来れる人から遠慮なく来て』と言う旨の連絡を送っているので、大丈夫だろう。
来なければその時……と考えていたところでドアノックの音が聞こえ、友希那はそのドアを開ける。
「……!揃って来たのね」
「やっほ~♪こう言う場所では久しぶり」
リサは学校に行く時に顔を合わせているが、それ以外はお互いがやるべきことを……となっていたので普段と比べればあまり顔を合わせていない。
そして五人が揃ったところで、早速見せるべきもの、渡すものがあるからと四人は早速準備を始める。
「私たちの方からは、この衣装です」
「じゃじゃ~んっ!」
まず最初に、あこのバージョンであるステージ衣装が披露される。
初めて作った衣装に立ち返って黒を基調とし、より薔薇を意識したチームらしさも感じられるドレス風のものが完成していた。
「じゃあ、アタシたちからはクッキーの詰め合わせをプレゼントだよ♪」
「休憩時間の時にどうぞ」
一度あこが着替えて戻ってきた後、リサと紗夜が二人で作り上げたクッキーの袋詰めを人数分渡す。
みんながみんな、待っている間にここまでしてくれていたことに、友希那は胸が暖かくなるのを感じた。
「ありがとう。みんな……私からはこれよ」
友希那からは各パートごとに準備した新曲の楽譜だった。
少し多忙になってしまうが、二週間でものにして見せ、復帰ライブを開きたいと話せばみんなして迷わずに頷いてくれた。
「またここから、みんなでやっていきましょう」
今日この日、Roseliaは活動を再開するのであった。
やはりと言うか、分裂していないので結構あっさり目です。
次回は14話部分とその他おまけになると思います。