「んで、今日はまさかの9人行動だと……」
「まあ、それだけみんな楽しみにしてたってことだよね」
そして迎えたRoseliaのライブ当日。商店街にて後江組五人と、宮地の三人、そして颯樹の九人が合流して集まっていた。
颯樹は竜馬たちに誘われて来てみたところ、まさかファイターだらけの集まりになるのは予想していなかった。
「(ま、まさかこんなに早く再会するなんて……)」
「(そっか……あいつは宮地にいたんだな)」
少々気まずい感じがする颯樹に対し、俊哉は結構近くにいたことへ驚くくらいだった。
一先ず差し入れの飲み物を買い終えてからライブハウスへ向かい、いつも通り貴之がそれを届けに行く。
「さて、俺たちはあっちだ。場所取りに行こう」
「早めに来たの……その為だもんね」
大丈夫かと心配になった颯樹を促しながら、一先ず全員で場所取りに行く。
その一方で貴之は友希那に出迎えられ、差し入れを渡した。
「じゃあ、そろそろ戻るよ」
「ええ。楽しみにしてて」
簡単なやり取りの後、貴之も皆がいるところに戻る。
「(今日はどんな演奏が聴けるだろうな……)」
戻る際、貴之は楽しみな感情を抱いていた。
「この前は、その……」
「ああ。あれか……何かあったんだろうなってのは察してから大丈夫。言いづらいなら無理には聞かないよ」
開始より少し前、互いに飲み物を買いに行きたかった俊哉と颯樹が皆から離れた場所で少し話し合っていた。
颯樹は結構悩んでいたらしいが、俊哉は紗夜と話してからやることを決めていたので、全く気にしていない。
「次戦うのは速くて『ヴァンガード甲子園』だろうけど、俺はまた挑みに行くよ」
「……えっ?でも……」
「なに、一回やったらそこで終わりって訳じゃないからな」
一人だと分からなかったが、誰かの支えがあれば大丈夫。それが俊哉を変えた要因である。
それを理解するのはまだ先だが、まだ望みはあると颯樹は一安心できた。
「よし、そろそろ戻るか。ライブ始まるし」
話し込んでしまっていたので、人だかりで戻れなくなる前に移動を始めることにした。
* * *
「さて……大丈夫ね?」
「いつでもっ!」
「後は……やるだけです」
「二人と同意見です。今井さんは?」
「ん……?アタシは問題ないよ♪」
久しぶりだと言うのに、緊張で固まっていると言うことが起こりはしなかった。
ここまで来たら後はやるだけ──。それがこの五人をリラックスさせてくれている。
ブザーと案内役からの促しをもらった直後に新しい衣装で壇上へ上がり、観客は久しぶりの登場と新しい衣装の二つによる相乗効果でいつも以上に歓迎の歓声で出迎えてくれた。
「Roseliaです。久しぶりのライブだと言うのに、来てくれてありがとう」
友希那の感謝の意に対し、「久しぶりなら尚更来る」と言ってくれる人もいて、それだけ待たせてしまったことを感じた。
今まで今日の為に様々な準備をしてきたので、思い切りそれをぶつけて答えようと五人が決意する。
「嬉しい言葉も聞けたところで……メンバー紹介行くわよ?」
「(早い……言葉がすぐに出てる……)」
詩織は友希那の
これは彼女自身の経験もそうだが、心に余裕ができた──正確には余裕を取り戻したことも起因している。
「以前参加したSMSにおける悔しい結果から、今日までに考え抜いた答えを……演奏で伝えて行こうと思うわ」
そして、その宣言と共に始まったのは『BLACK SHOUT』。Roseliaの始まりを告げる曲の片割れであり、元より友希那が自力で作曲していた『全ての原点』と言える曲である。
最初に出て来た理由はデビューライブの当時、SMSから答えを出した自分たちを分かりやすく伝えたいと言うのがあった。
「……」
「す、凄い……」
初めて来た詩織と颯樹は彼女らの持つ技術力に早速圧倒された。
ライブを開始してから間もなく人を惹きつけることができるのは、それだけの実力を得ている証拠でもある。
「まだ終わらないわ……このまま次に行くけれど、着いて来れるわね?」
友希那の問いに歓声が返ってきて、それはOKの合図を表していた。
その反応へ満足に頷き、鉄は熱いうちに打てと言わんばかりに『Louder』で更に勢いを付けていく。
いつもと変わらないのは圧倒的な実力から来る演奏と歌。変わったのはRoseliaは更に五人が纏まったものになったこと。
後者はまだ少しずつではあるが、最後の曲で一気に伝わるのだから、今はまだ大丈夫である。
「知っている人が久しぶりに歌うのを見て、惹き込まれる……そんなこと、本当にあるんだね」
「ああ。お前もそうなったのか」
詩織の言い分は、貴之にはよく分かった。
貴之も五年ぶりに友希那の歌を聞き、あの日程自分が帰ってきて良かったと思っている日は無いだろう。
その後も次の曲、また次の曲と演奏していき、盛り上がりは更に進んでいく。
「次の曲が、今日最後の演奏になります」
その告げられた言葉を聞き、とうとう来てしまったか……と会場にいる全員が残念そうにした。
皆が楽しみにして、終わりの時間を惜しんでいるからこそ、最高の歌を届けたい。
「私たちが答えを出して、それを形にしたものになります。聴いて下さい『Neo-Aspect』」
演奏して来た曲たちからすると比較的静かな出だしで、そこから紡がれるのは失敗の経験と、そこから悩んで来た自分たちの道──。そして、踏みとどまれなかった際に想像できるもう一つの道筋。
それぞれの形で一度離れ離れになり、一度絆と言う名の手が離れてもう一度繋ぎ直し、見せるのはそこから生まれる自分たちの新しい姿。
「(以前までは両方を取ろうにも、そのやり方が全然分かって無かった。でも、今は違う……)」
「(今やるべきことは何で、その為にはどうすればいいかをハッキリさせれば問題無し♪今はアタシたちにできる最高の演奏を届ける)」
「(そうやって、進むべき道を進んで行けば……)」
「(カッコイイのも、楽しいのも、ちゃんとどっちも取れて最高になるっ!)」
「(私たちが選んだこの答えを、また大きな場所でも伝える……これは、その為第一歩よ)」
──さあ、次はあなたの番よ。この曲を聴いていた貴之は、友希那の歌を通してそう言われたように感じた。
実際、彼女の歌を聴いたら次は自分のファイトである為、周りの歓声が聞こえる中、貴之も決意を新たにする。
「最後まで聴いてくれてありがとう。これからも進んでいく私たちRoseliaに、全てを懸ける覚悟はあるかしら?」
友希那の問いには、今日一番大きな歓声で返ってきて、今日のライブが答えるに値するものだったことが伺える。
最後の挨拶も済ませた後、彼女らは満足いく笑顔でステージから降りて行った。
「(これだけいいもの見せられたら、俺も答えるしかねぇな……)」
そして、このライブによる熱を貰った貴之は、瞳の奥に燃え盛る闘志を宿していた。
このライブが終わると中間テスト。そして、それが終われば『ヴァンガード甲子園』はすぐそこまで迫っていた。
* * *
「今日はありがとうな。いいもの見せて貰った」
「どういたしまして。けれど、これは私一人じゃない。リサを始めとしたRoseliaのみんな……そして貴之。貴方がいてくれたお陰よ?」
「うんうん♪これでアタシたちも、貴之から借りっぱなしのものを返せたかな?」
ライブが終わった後、久しぶりに三人で同じ屋根の下にいた。
今回のライブは今まで貴之から貰ったものを、違う形で返すのもできており、貴之はリサの問いに頷いた。
貴之からすれば、彼女らの演奏はこれ以上ない贈り物であり、『ヴァンガード甲子園』の活力になっている。
「だからこそ、今度は俺の番だ……全力で戦って、ヴァンガードの世界を守ってくる」
「何か必要だったら準備するから、その時は教えてね?」
「あなたがヴァンガードの世界を守る……私は……いえ、私たちは信じているわ」
信じあえるのは素晴らしいこと。それをこの三人は改めて実感した。
* * *
「昨日のライブを聴かせて貰ったけど、お見事だったよ。よくこの短期間で纏めきれたね」
「ありがとうございます」
それから時が経ち、テスト明け最初の休日──。貴之らが『ヴァンガード甲子園』に向けて最後の確認をしている最中、友希那は自分たちの問題点を教えてくれたオーディエンスの女性と、ライブハウスのカフェで話しをしていた。
皆で話し合って決めたことなので、全員が納得して進んでいけているのも非常にいい点だった。
「実力を持った人たち同士のチームでああいう状況になると、どうしても合わせきれずに分裂してしまうチームが結構あってね……声かけが間に合って良かったよ」
「あの時は助かりました。お陰で皆と話すことができて、落ち着いて選んでいくことができました」
友希那たちは自分の進みたい道を掴み取り、彼女は危険な状況にいるチームを救えてお互いが得をしていた。
これで前置きの話しは終わりらしく、彼女は一つの封筒を差し出した。
「……これは?」
「もう少し先の話しになってしまうんだけどね……私がいる事務所に所属してみる気は無いかと思ってね。他のところが目をつける前に、先手を打ちたかったのさ」
「なるほど……」
彼女の言いたいことに納得しつつ、少し考えてみる。
「申し出は嬉しいのですが、少なくとも来年が終わるまでは難しいと思います」
「そうだね……学生としての時期が残ってるからね」
「それと、メンバーの内一人が年下で……」
「おっと……いや、済まない。それは盲点だったよ」
意外と難しいのがあこが唯一年下である点だった。流石に自分たちの都合だけで、彼女がまともに学業ができなくなってしまうのは避けたい。
メンバーを作る際は同い年が多いので気にしないでいいと女性は考えていた為、思わぬところで落とし穴に掛かったのである。
「ですが、あなたたちのところを無条件で拒否するかと言えば、そんなつもりもありません。一応確認ですけど、スカウトの対象は……」
「ああ。大丈夫。五人全員に決まってるじゃないか。でも、どうしてそんなことを?」
「実は、FWFの選考コンテストに出る直前にスカウトされたことがあって……その時は私一人だけを対象にしていたんです」
「そっか……その時は、君以外はまだ名前が出てこない時期だったか……」
五人で作った時間が無くなるなら行く意味は無い。それが友希那の判断基準にある絶対の内の一つであった。
このことには女性も納得しており、友希那が嫌がるような内容は確実に避けて書類を作成している。
「では、このことはRoseliaのみんなに話しを持ち掛けておきます」
「うん。よろしく頼むよ」
──少し考えることが増えたけれど、それも経験ね。この誘いを、友希那は前向きに捉えていた。
ちょっと早い段階でスカウトが飛んできました。
次回以降は『ヴァンガード甲子園』編になります。
本小説のレギュレーションの都合上、もうリアルでは参考にならないので若干巻き気味になってしまう可能性がありますが、最後まで付き合って頂ければ幸いです。