先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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ヴァンガード甲子園の冒頭部なので、本格的なファイト回は次回以降です。


ネクスト12 開幕、ヴァンガード甲子園

「さて、この二部屋だな……」

 

「明日はブロックリーグ戦。明後日が準決勝と決勝……こうして見ると、結構短いよね」

 

テストも終わり、更に日が進んで遂に『ヴァンガード甲子園』の前日を迎えた日──。貴之ら後江のカードファイト部は予約していたホテルに来て、割り当てられた部屋の前にいた。

三人部屋を二部屋にされており、部屋割りは男子と女子と言う形に決めてある。

 

「荷物置いたら、一旦明日からの作戦決めしよっか」

 

「ああ。行き当たりばったりよりは全然いい」

 

一度荷物を置いた後、会議に使えるレクリエーションルームを一部屋借りて話し合いを始めることにした。

今回の議案は、明日以降どのような順番で試合に臨むかである。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順に戦っていくことになるので、ここをどうするかが重要になる。

 

「誰がどこの方がいいっていうのがあれば、先にそっちを決めちまうのもいいかもな」

 

「確かに。そこを先に決めれば、後は合わせるだけになるもんな」

 

貴之の案に最も早く賛成を示したのは俊哉で、確認を取ってみたが特に順番がここじゃないと嫌と言う人はいないので、柔軟に切り替えて行くことになる。

とは言え、基礎的な方向性は欲しいので、そこだけは決めておきたい。

 

「貴之を前に出して確実に一本取る……は、読まれやすいか?」

 

「真ん中辺りに置いて絶対にストレートはさせない、または一個でも取らないとストレートにするって圧掛けがいいかも」

 

特にこの場所がいい等が無いのなら、確実に自分たちのエースと化す貴之をどこに置くのかが題に上がる。ブロックのリーグ戦は勝ち数が過半数を超えれば即終了なので、後ろに置いて腐らせるのは勿体ないところである。

戦闘は確実性に優れるが、読まれやすい。真ん中は確実性を薄めるが、先頭ほど読まれはしない。この為、置くならこの辺りが大事になる。

 

「なら……試合ごとに切り替えるのは?そうすれば、避けられること、減ると思うから」

 

「準決勝まで行けば、場合によっちゃ相手のエースに被せる方法もあるし、そこは切り替えか」

 

貴之はエースであると同時に、日本全国ぶっちぎりで相手のエース潰しも狙えるファイターである。

この結論が出たのも、テスト明けに貴之が『超越者への祝福(ストライダー・ギフト)』の存在を話し、それを考慮に入れられるからである。

元より、殆どの人が貴之の努力を微塵も疑っていないので、頑張った彼へのご褒美程度の認識で受け入れられた。

 

「後は誰かがエースをわざと引き受けて、他の皆で倒しに掛かる……って言いたかったけど」

 

「まあ、大体が勝てる腕持ってるし、強気に進んでもいいだろうな」

 

実際の話し、後江の五人からすれば、如何にして貴之で圧を掛けるかが大事なこと以外はそこまで気にする内容が無かった。

貴之の圧掛け以外は臨機応変──と言う少々雑な結果になったが、夕食前には会議が完了していた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「順番ですが、私は全て大将にしてしまって構いません」

 

「全て……ですか?」

 

一方で、宮地の順番決めでは瑚愛が真っ先にこれを告げた。

流石に理由の説明は欲しいので、確認を取ることにする。

 

「私にはもう次はありませんが、あなたたちには次がある……であれば、私が前に出て、あなたたちが経験を得る機会を増やした方が建設的です」

 

「まあ確かに、先輩が出過ぎて疑問に思われるよりは、こっちの方がいいですね」

 

真っ先に納得したのは竜馬で、自分らが経験を得るのは大事なのも理解できている。

ならば彼女は一番後ろにして、残りで決めることにする。

 

「とは言うけど……前に出た方が戦い方やすいの人を先鋒、次鋒。それ以外を中堅、副将に入れ込むくらいかな。どっちでもって人が、変わってもらいたい人が出た時変わって貰う感じで」

 

「なら、僕は後ろに回ろうか。前は余り好きじゃなくてね……」

 

「できれば僕は前の方がいいかな。後ろの方がプレッシャーを感じちゃって……」

 

個人の要望により、颯樹は前、一真は後ろになる。竜馬と弘人は正直どちらでも構わないので、どちらが良さそうかを直前に話す形になる。

 

「よし。こんなところかな……後は決めた通りが基本だけど、どうしてもがあったらその時に調整していこう」

 

「じゃあ、後はファイトの確認に行きますか」

 

そこまできめ細かくしてはいないが、後江ほど大雑把にはならず、ある程度纏まった形に宮地は落ち着いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた週末の祝日──。『ヴァンガード甲子園』当日となった日に、Roseliaの五人は会場に早めの時間で到着していた。

狙いは席の確保であり、立ちっぱなしで見続けるのは辛いのが早々に予見できた故の行動である。

 

「まだ人が少ない時間で良かったわ……」

 

「多分、後30分遅く来たら渋滞みたいなことになってたかもね……」

 

幸いにも、早い時間帯に来るにしても更に少しだけ早い時間に来ていたので、そのような心配事は起きなかった。

実際、リサの言った通り30分が経過したころにはもう後ろ側に凄い人混みができていたので、早めに来て正解だったことが伺える。

 

「あっ、あっちの席ならモニターでも直でも見やすそう……!」

 

「それなら、なるべくそっちを取るようにしたいね?」

 

あこの直感は殆どの場面で大当たりすると言う信頼もあるので、言葉にした燐子のみならず、全員が賛成した。

 

「なるほど……これはいい位置ですね」

 

モニターはほぼ真正面、少し顔を下に向ければ下のフロアでファイターたちがファイトをする様子が直に……と、間違いなく最高格と言える絶好のポジションであり、これからの場所選びはあこにお任せの流れが確定しつつあった。

参加校のファイターたちは専用の控室が用意されており、そこで待機になる故に、彼らと場所の取り合いを心配する必要もない。

 

「飲み物を買って来るなら今のうちね……」

 

「あっ、アタシ手伝うよ」

 

今のうちである以上、全員が欲しいとなるはずで、全員で行くと場所の横取りや盗難の危険性がある。かと言って一人で人数分を持っていける保証は無い。

ここまでの条件が揃った為、リサが友希那を手伝い、残りの三人が待機になった。

 

「貴之、年末年始は空いてるか?ひと段落つくから、僕たちは顔を合わせに行くよ」

 

「今のところは空いてる。……一応聞くが、予定がブッキングしたら巻き込む可能性あるけどいいか?」

 

二人が移動している最中、貴之ともう一人、聞きなれない少年の声が聞こえた。

どの道自分たちが移動する方向だったので向かって見ると、メガネを掛けた紫色の髪を持つ少年──真司がそこにいた。

 

「あれ?お前らも買いに来たのか?」

 

貴之が自販機を指さしながら問うので、それには肯定の旨を返す。

その代わりに真司のことを聞いてみると、離れていた時の友人と教えて貰い、貴之が教えて全国出場レベルまで鍛えあがったファイターであることも判明する。

 

「そう言えば、その制服どこの?」

 

「これは福原(ふくはら)高校のものだよ」

 

真司が来ている制服は白の上着とズボン、黒のインナーシャツに赤のネクタイで構成されているものだった。

学校としては宮地に負けず劣らずの進学校であり、そこまで本気で勉強していない貴之と、夢があって別の場所に向かった裕子は選ばなかった場所である。

 

「ああそうだった。貴之にあいつから伝言だ……『かげろう』対決を待っているってさ」

 

「あいつも福原だったのか……分かった。なら、受けて立つって返しておいてくれるか?」

 

真司の伝言は誰が送り主かがすぐ分かったので、貴之も即答に近い形で頼んでおいた。

そうして話し込んでいると、これまた友希那とリサには聞き覚えのない少女の声が聞こえた。

 

「おっと……裕子も無事に来たみたいだね」

 

「無事到着して何より……この時間だし、結構混んでたろ?」

 

「準備の時間を考えると本当にギリギリになっちゃった……」

 

声の主は裕子で、彼女も離れている時にできた貴之の友人であり、お隣さんであった。

お隣さんの同年代で、お年頃になっていく普通に可愛い女の子がいたのに、よくもまあ五年間ブレないで済んだなとリサは貴之の一筋具合に驚くことになった。

一方で友希那も、貴之が五年間を豊かに過ごせていたようで安心した。

 

「そうそう……二人にこれを差し入れ。お昼にどうぞ♪」

 

「「ありがとうございます」」

 

裕子が二人に差し出したのはおにぎりの入った袋であり、感謝の言葉を告げて素直に受け取った。

 

「よし、じゃあ僕たちは行こうか」

 

「そうだな。友希那、行ってくる」

 

「ええ。頑張って」

 

これから戦いに行く二人を見送った後、早速一つのことに気づいた。

 

「席、一つ空いてるかな?」

 

「空いていればいいわね。あなたも来る?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

初対面の自分に対する善意に、裕子は素直に甘えさせて貰った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「これでトドメだ!『ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド』でヴァンガードにアタック!」

 

「正義の剣が悪を断つ……!『グレートダイユーシャ』でヴァンガードにアタック!」

 

「さて、本日のショーは銀の茨と竜によって閉幕としましょう……『銀の茨の竜使い(シルバーソーン・ドラゴンテイマー) ルキエ』でヴァンガードにアタック!」

 

「さあ、これで修羅場は出来た……『修羅忍竜 ジャミョウコンゴウ』でヴァンガードにアタック!」

 

「今、あなたの中にある暗黒を消し去る……『満月の女神 ツクヨミ』でヴァンガードにアタック!」

 

そして開会式の後に始まったヴァンガード甲子園の予選にて、後江組は貴之の『オーバーロード』全部乗せ戦術の引っ搔き回しで圧を掛けながら、他の全員も負けじと地の力で押し込んでいくスタンダードに強いスタンスで真正面から突破していく展開を見せていた。

 

「うわっ……先鋒から出てきてる!?」

 

「今度は中堅……!?」

 

やはりと言うか、貴之を前側三つのどこかで出して圧を掛ける方法は心理的に相当有利で、これに乗っかって他の四人も取って行く形で一気に追い上げて行く。

 

「へぇ~……詩織は『オラクルシンクタンク』だったんだ」

 

「『ツクヨミ』って、りんりんが使ってる『メイガス』とどう違うんだっけ?」

 

「えっと……『ライドフェイズ』に使えるスキルのお陰でコンセプト通りに動きやすいのは、『ツクヨミ』側の明確な強みだね。ただ、山札操作のタイミングが遅れちゃうから、トリガー管理の安定感は『メイガス』に軍配が上がるかな」

 

詩織が使うのは『オラクルシンクタンク』なので、ある程度燐子のデッキに似ていると分かりやすかった。

 

「この戦いに終止符を打つ……!『孤高の騎士 ガンスロッド』でヴァンガードにアタック!」

 

「ダウンの時間だぜ?『獣神 アズール・ドラゴン』でヴァンガードにアタック!」

 

「暴虐の波は全てを飲み込む……『蒼嵐覇竜 グローリー・メイルストローム』でヴァンガードにアタック!」

 

消えて終わりだ(デリート・エンド)……『絆の根絶者 グレイヲン』でヴァンガードにアタック」

 

「ここまでです。『ミステリーフレア・ドラゴン』でヴァンガードにアタック」

 

宮地も負けじと快進撃を進めていく。こちらの場合は明確に順番を決めているので大丈夫かと思ったが、一つ問題があった。

 

「ど、どうすればいいんだ……?」

 

強い相手はわざと避け、他で取る等も考えていたのだが、そもそも相手全員が強いのでそれができずに悩まされることになっていた。

 

「あれが『リンクジョーカー』ですか……確かに、妙な圧力がありますね」

 

「確か、貴之すら知らないと言っていたわ……そんなに出回っていないのかしら?」

 

「私も時々遠征に着いて行くことはあったけど、一回も見なかったな……」

 

彼女らが示した通り、『リンクジョーカー』の知名度は非常に低く、今日初めて見たという人も多い。

また、これ以外にも宮地の戦いには一つ大きな問題があった。

 

「お、おい……あれどうやって勝つんだよ?」

 

「こっから先グレード4主体になったら、俺は着いて行けないや」

 

瑚愛のグレード4を使った圧倒的パワーを活かした戦いを前に、心折れたような声もちらほらと聞こえ出して来たのだ。

これを聞いていた一真も流石に危険だと感じているが、同じチームにいる以上今回自分にできることはほぼなく、後悔しないように全力でファイトをするだけだった。

 

「(貴之……君に全てを懸けるよ)」

 

この世界のこと、頼んだよ──。荷が重いかも知れないが、せめてものとして祈るくらいは出来た。

 

「決める……!『抹消者(イレイザー) ガントレッドバスター・ドラゴン』でヴァンガードにアタック!」

 

また、真司がいる福原も順当に勝ち進んでおり、翌日の準決勝と決勝に参加可能となった。

 

《本日の予選は全て終了しました。明日は準決勝と決勝を行います》

 

今回、後江と宮地、福原の三校は全てが予選を突破し、明日に備えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、こう言った空気出てきちまうよな……」

 

「貴之の危惧は当たってたな……竜馬たちには悪いけど、尚更宮地(あっち)に優勝させる訳には行かないな……」

 

その日の夜──。貴之らは俊哉の携帯で『tube』の呟きを確認し、グレード4の影響で悪い空気が出ているのを改めて確認する。

貴之は先に一真とのグレード4対決を演じた経験もあり、早い段階で気づくことが出来ていたが、恐らく瑚愛は経験が無かった故に、それに気づけなかったのだろう。

──と、考えたが、貴之とのファイトを考えると恐らく知っててもなお使っていただろうと予想できる。

 

「後は隠し玉とその他でどこまで覆せるかだな……」

 

「ヴァンガードの世界が掛かっている以上、遠慮は出来ねぇ……」

 

この大会でも一真共々貴之は一切合切の遠慮なしで能力を行使しているが、瑚愛相手は尚更躊躇する必要が無かった。

 

「そうなると貴之は今回一番後ろだね……他の四人で、何としても後ろにつなげよう」

 

「貴之、あの人のことは任せたよ」

 

全ては翌日の準決勝と決勝──そのどちらかでぶつかるだろう瑚愛のグレード4を、貴之は『オーバーロード』で打ち勝つ必要があった。

苦行と言われるかも知れないが、それでもやる意味はある──と言うよりも、やる意味しかなかった。

 

「(羽月さん……アンタが何を考えてるか知らねぇが)」

 

──この世界、潰さねぇからな。全てはここにあり、今回どうしても止めねばならないものだった。

順番を決めた後、後は明日に備えるのであった。




正直言って、今回のようになったのはアニメ(2018版)の『続・高校生編』を意識したのもありますが、もうこのルールを使った描写が時代遅れになりつつあるのも一番大きかったりしています。

次回以降はファイト展開が連続します。

その後はちょっとだけエピローグを混ぜて終了になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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