「じゃあ、今からそっちに行くよ」
『ええ。待ってるわね』
放課後になって友希那と電話を終えた貴之は、俊哉たちと四人で一度羽丘女子学園に向かって歩き始めた。
「まさかこうして、友希那とヴァンガードをやれる日が来るなんて思ってもみなかったよ……」
羽丘女子学園に向かっている途中、貴之は感慨深げに呟いた。
貴之がそう思ったのも無理は無い。何せ今まで友希那とはヴァンガードの話しこそすれど、実際にファイトしたことはないのだ。
いつか一緒にやってみたい――。そんな些細な願いが叶うのを目前として、貴之は少しだけ嬉しくなるのだった。
「友希那はなんだかんだ言って、一度もヴァンガードやったこと無かったんだったな……」
「確かに、二人共小学校の頃なんて相手の話は聞いても、実際に相手側の世界に踏み入れなかったもんね……」
俊哉と玲奈は彼らが小学校の時は教室でどうしていたかを思い出す。
実際に二人と教室が同じになることの多かった俊哉と玲奈は、貴之らが二人で話すときはどうしているかを覚えている。
事情を知らない人が傍らから見ればどうして合わない話を続けられるのかと思うかもしれないが、それでも二人はとても楽しそうに話していたのを今でも覚えている。
「貴之ってあいつとそんなに仲良かったんだな……」
「最初二人が話す姿見たら、絶対ビックリすると思うよ?」
実際に友希那たちと話したことのある大介ではあるが、貴之とそこまで仲が良かったということまでは知らなかった。
そんな様子を見た玲奈は、確信を持って大介にそう告げる。
「さて、ここまで来たな……」
話しながら少しすれば、四人は羽丘女子学園の校門前までやって来た。
朝の影響がまだ残っているのか、貴之の顔を見かけた羽丘の生徒たちが何らかの反応を見せる。
「すげぇな……転校生の影響力って」
「俺もこんなんだとは思わなかったよ……」
俊哉と貴之はその様子を見て苦笑する。貴之は一度目の転校ではこんなことは無かったので、尚更苦笑が起きてしまった。
ちなみに、ここまで影響力が大きいのは友希那と親しくしていたからに他ならないのだが。
「さて……友希那がどこにいるかなんだけど……」
――近くにいなかったら人に頼むしかないんだろうか?貴之は少し不安になる。
一応、どの色が二年生のものかと言うのは把握しているので、その人たちに友希那のことを聞けばまだ行けそうだが如何せん難しいところだった。
辺りを見回してみると、友希那とリサが、友人であろう短い水色の髪を持つ少女と話しながらこっちにやってきている姿が見えたので、貴之は軽く手を振ってみる。
すると、それに気が付いたリサが二人に促し、三人一緒にこっちまで来てくれた。
「貴之、来てくれてありがとう」
「ああ。待たせたな友希那」
「大丈夫よ。ちゃんと来てくれたことが、何よりも嬉しいわ」
合流出来れば早々礼を言う友希那とそれに返す貴之。
当たり前のように自然と笑みを見せあいながら話し合う二人は、また以前のように特定の人以外は入れないような空間を作り上げそうになっていた。
「二人ともお楽しみ中のところ悪いけど……人待たせてるよ?」
「「あっ……」」
しかし、昔とは違って普通に入り込めるようになったリサが二人の状態をみて暖かい目で見ている俊哉と玲奈の二人、そして状況についていけずポカンとしている大介を指させば、二人が今気づいたと言わんばかりに顔を赤くした。
そして、二人はリサに促されながら三人の下まで戻るのだった。
「わ、悪い……お前ら抜きでついうっかり……」
「私たち……周りを気にせずに、その……」
頬がまだ赤に染まっているまま頭を掻きながら悪びれる貴之と、同じく頬が赤に染まったまま顔を下に向けている友希那。
そんな様子を見せられれば、大介のように始めてこの二人が一緒にいる状態を見た人は恋人同士なのかと勘違いしてしまうだろう。
「ハハっ。やっぱりお前ら二人揃えばこうじゃないとな……」
「ホントにもう……どうしてこれで付き合って無いのかが不思議なくらいだよ」
「……この二人そうじゃないのか?」
「まあ、始めての人はそう思うよね……」
俊哉と玲奈の口から二人の関係が判明して大介は思わず呟き、その様子は予想していたリサは大介に理解を示して苦笑する。
また、近くにいた羽丘の生徒たちも「この二人付き合っていないの!?」と声には出さなかったものの、確かに驚愕していた。
「ねぇねぇリサちー、この二人って本当に付き合ってないの?」
「あはは……残念なことに付き合ってないんだ……」
現に水色の髪をした少女もそう思っていたらしく、彼女の率直な質問にリサは苦笑交じりに返すしかなかった。
しかしながら、こればっかりは本人たちの問題である為、本人たちにどうにかしてもらうしかないのが現状だ。
また、貴之が少女の声を聞いたからか、彼女に視線を向けており、それに気が付いて振り向いた少女と目が合った。
「君は、友希那とリサの友人……でいいのかな?」
「うんっ!そういう君も友希那ちゃんたちの友達?」
「ああ。友希那とリサの場合は幼馴染みになるけど、友人であることに変わりは無いよ」
「へぇ~?幼馴染みなんだ?」
貴之から彼女と友希那たちの関係を聞けば少女に肯定され、少女が聞き返すと貴之がそれを肯定した。
それを聞いた少女は、そんなことあるんだと珍しそうにした。
「まだ名乗ってなかったな……俺は遠導貴之だ。友希那たちの友人なら度々顔を合わせるだろうし、これからよろしくな」
「あたしは
「ああ、これからよろしくな。それにしてもいきなりあだ名呼びか……まあ、俺には姉がいるし、後々分け方面倒ならそれでもいいか」
いきなりあだ名呼びされた貴之は一瞬驚いたが、後々姉と関わるなら寧ろあだ名で呼んでもらった方が後で楽だろうと思ったので、そのまま許容することにした。
これで終わりかと思えば、貴之の発した『姉がいる』と言う単語に日菜が食いついた。
「おぉっ!?タカくんにもおねーちゃんがいるの!?」
「……ん?ああ。二つ上のが一人ね」
貴之の回答を聞いた日菜は「るんっ♪ってくるよー!」と喜んでいた。貴之はそれが何なのかは理解できなかったものの、いつか理解できると良いなと思った。
結果的にだが互いに姉がいるという、二人は一つの共通点を見つけることができた。
「ってゆーか、こっちにもおねーちゃんいるわけだし、タカくんもあたしのこと名前で呼んでよっ!おねーちゃんのことも『氷川さん』って呼ぶと混ざっちゃうし……」
「……それもそうだな。じゃあ、そうさせてもらうよ。日菜」
「…………」
日菜の提案は確かに納得できるものだったので、貴之はこれから彼女のことを名前で呼ぶことにした。
また、その呼び方をしてもらえたことで、日菜は満足そうな笑みを浮かべるのだった。
貴之もそれに合わせて笑みで返そうかと思ったが、何かを感じてそちらを振り向くと、何やら友希那が寂しそうな表情をしていた。
「……えっ?ああえっと、友希那……?」
「あっ、いえ……。悪気が無いのは分かっているのだけれど、ちょっとね……」
「な、なんかその……悪かったな。共通の点が見つかったもんだからつい……」
「あはは~……。ごめんね友希那ちゃん?あたしもそんなつもりじゃなかったんだよ……」
その寂しそうな表情を見せた原因が、間違いなく自分にあるのが分かった貴之は頭を掻きながら謝る。
友希那も確かに初対面からああまで仲良く話せる二人をみて、羨ましいと思う気持ちがないわけではないが、貴之の気を悪くするつもりは無かったので罪悪感が湧いてきた。
実際日菜も貴之と同じく共通点が見つかったのを嬉しく思っただけで、別段貴之を取ろうというつもりは毛頭も無かった。
「さて……あたしはこの後行くところあるし、そろそろ行くよ。タカくん、友希那ちゃん、リサちー、みんなもまたね~っ!」
「うん。ヒナもまたね~」
日菜はそう言ってみんなに手を振りながら走り去っていく。
彼女は非常に運動神経が高いのか、手を振って少しすればすぐにその姿が見えなくなっていた。
「速いな……」
「あの子は、どんなものでも少しやれば並みの人以上にできてしまうみたいなの」
日菜のことを教えてもらった貴之はなるほどなと思った。聞いた話し通りなら、彼女にヴァンガードをやらせたらあっさりと上まで行けるのだろう。
実際やるかどうかは別として、そう言った人物が相手でも、貴之は己の努力がそう言った人たちに届くと信じている身だった。
「ただ……そう言ったのが相手だとしても、俺は勝たなきゃいけない理由がある」
「ええ……。あなたとは分野が違うけど、私にも勝たなきゃ理由はあるわ」
貴之はヴァンガードで全国大会優勝。友希那はコンテストで結果を残し、FWFに出るという約束があり、それが勝たなければならない理由でもあった。
約束を果たしたらお互いに伝えたかった事を伝える。無論、互いに伝えたいし聞きたいので、再会した以上何としても果たしたいものであった。
「さて、そろそろ行くか?」
「ええ。そうしましょう」
貴之が促し、友希那と一緒に彼らの下へ合流しようとしたところで、一つのことに気が付いた人がいた。
「そういや、リサは今日どうするんだ?」
「あっ、実はアタシもそっちに混ざりたいと思ってるんだけど……ダメかな?見るだけでも良いからさ」
貴之から聞いた話では友希那が来ることしか聞いていなかったので、それに気が付いた俊哉がリサに問いかけると彼女が頼み込んできた。
リサは昼休みに友希那と共に屋上で昼食を取っていたらしく、その時電話を終えた友希那から話を聞いて自分も行きたいと言ったようだ。
実際のところ、友希那とリサの二人は貴之がヴァンガードをやっているということ自体は知っていても、実際にやっている姿を見たことは無い。
それもそのはずで、友希那とリサはヴァンガードをやっていないことと、貴之がヴァンガードファイトをしに行くときは大抵、俊哉ら自分と同じヴァンガードファイターたちと行っていたからだ。
「ああ、なるほどな……どうする?俺は全然大丈夫だけど……」
「俺も問題無い。今更人数増えた所で変わんないだろ」
「うん。あたしも問題無いよ。貴之は?」
「リサも呼ぼうかどうかで迷ってたし丁度いい、一緒に連れていこう」
俊哉の問いかけには満場一致で賛成で返した。これでこの後カードファクトリーに向かうメンバーが六人になった。
話が決まるとそこから早いか、商店街に向けて足を運んだ。
* * *
「そういや、デッキとかはどうするんだ?」
「向こうに着いてから決めればいいかなと思ってる。やってみるだけの段階だし、ひとまずデッキ代は俺が持つ」
ヴァンガードをやってみるにあたって、友希那はまだデッキを持っていないと言う問題点にあたった。
誘った手前、そのデッキ代は自分で出そうというのが貴之の考えであった。
貴之がまだここにいた当時は小学生だった建て前、デッキに関しては自分たちの持っている余り物のカードで急造することしかできなかったのだが、今現在は高校生となって資金面でそれなりに融通の効くようになったからこういうことができるようになった。
実際のところ、両親の仕送り額は一か月で使う生活費に加えて、多少はそれ以外の用途に使っても大丈夫な量が毎月送られて来るようになっているので、資金面ではそれなりに余裕があり、デッキ一つ購入してもそこまで痛手にはならないことが大きい。
貴之がこう言ったのは、言い出しっぺが自分であるからと言う点が大きい。
「昔は本当に大変だったなぁ……。急造デッキだったから初めてやる人には向かないくらい、使い勝手の悪いデッキになっちゃったしね……」
「もうあんな悲惨なプレゼントはやりたくねぇな……」
玲奈の吐露した言葉には、俊哉も肩を落としながら同意した。
急造デッキでは十分なものにはならず、そのデッキと貴之らの練り上げられたデッキでは完成度が違い過ぎるという酷い有様を出していた。
それは資金面で自由の効かない小学生時代であるから仕方ないとは言え、安定感などで大きな差がついてしまうのはかなり悩ましい問題になっていたものだった。
「ああ……。やっぱりどの身内でもそういうことって起こるもんなんだな……」
その様子を見て、大介は彼らも同じ経験をしたのだなと納得した。
子供たちの場合は資金に融通が利かないことから、珍しいユニットが主力になることもよくあった。
貴之自身は最初の頃から運良く引き当てたユニットを主力としていたが、奇跡的に四枚揃えていなかった場合、小学生時代の頃はそのユニットがデッキに一枚だけ……或いはそもそもそのユニットがデッキにないといった事態に陥っている可能性もあり得た。
そう考えると、当時の自分は相当引き運が強かったのだなと貴之は自覚させられる。
ちらりと友希那の方を見やれば、頭の上に『?』が浮かんでいそうな表情だった。
「ああ……金銭面が貧しい小学生時代におけるカードゲーム系あるある事故だよ」
――友希那はそんなこと経験しないで済むから安心してくれ。貴之は不安がらせないようにそう告げる。
「そうなの?それなら良かったわ……」
友希那も話しを聞いた限りそれが嫌なものであったことを伺えていたので、そうならないで済むのならと安心できた。
そして、そうやって話しながら歩いている内に一行はカードファクトリーに辿り着いたので、迷うことなく入店する。
「いらっしゃーい。おお、後江に入ったんだね?」
「はい。自分の家から結構近かったもので……」
ドアを開けた先には先日と同じ女性が歓迎してくれて、貴之を見るや否率直に質問してきたので、貴之は肯定する。
「こんにちは
「はい、こんにちは。いつもありがとうね♪」
俊哉に一言告げられ、美穂と呼ばれた女性は笑顔で礼を言う。
美穂がカードファクトリーでバイトを始めた頃から、俊哉と玲奈、大介の三人は結構な頻度で来るメンバーであったので、ある程度砕けた口調を使って話すこともできた。
「ん?ああ、そういえばこの前は名乗ってなかったね……。私は
「俺も名乗っていませんでしたね……。遠導貴之です。こちらこそよろしくお願いします、広瀬さん」
女性……広瀬美穂は貴之に名乗っていなかったことに気がついて自己紹介をしたので、貴之もそれに気がついて自己紹介をする。
「(貴之……たらしになったのかしら?少し不安だわ……)」
先程の日菜とすぐに仲良くなったことと言い、今回の美穂との自然な会話と言い、友希那は色んな意味で不安を覚えてしまった。
貴之自身そんなつもりは一切ないし、日菜と美穂の二人は女性だが、新しい人間関係第一号の大介はれっきとした男子である。
また、ここを離れていた間に関わりの深かったのは男女一人ずつで、そこに現在貴之とライバル関係となっている仲の良い男子が一人である。
とは言え、これらを知らないので友希那がこうして不安に思うのは仕方ないことだった。
「さてと……取りあえずデッキ選ぶか。友希那、行くぞ」
貴之に促されたのでついて行った友希那は、そこにヴァンガードのデッキが複数売られているのを目にした。
売られてあるデッキは全て箱の中にカードが入っているもので、正面を向けられている面の上側には、『ロイヤルパラディン』やら『かげろう』と言ったようにデッキの種類を表すであろう単語が書かれていた。
「話しで聞いてはいたけど……こんなに種類があるのね……」
「ああ……何か分かりやすい例えが無いと決めづらいよな?」
友希那が難しい顔をしながら唸っていたのを見て、これは配慮不足だったなと貴之は頭を掻いた。
種類を表すであろう単語だと予想出来ても、それらがどんな戦い方をするかなど、まったく触れたことのない人では解りようがない。
どんな戦い方をしたいか……と言う聞き方は触れてみるだけの友希那に対しては不適切だと言うのは分かっていたので、貴之はもう一つの選び方を進めてみることを選んだ。
「まず、ヴァンガードの世界観としてだが……舞台は地球とよく似た惑星である『クレイ』。神や悪魔、ドラゴンや妖精の存在が忘れ去られず、魔法と科学が共に研究され、技術として確立された世界だ。この世界でも地球と同じように複数の大陸があって、独自の文明を発達させた国家が、各大陸を支配しているんだ」
ヴァンガードにおいてまず初めに目を通しておきたいのは、戦う舞台になっている『惑星クレイ』の話しで、どんな場所かを話さなければ始まらないと貴之は考えていた。
貴之自身はクレイのことを地球のifのような場所だと考えていて、地球もクレイのように忘れ去られなければこうなっていたのかもしれないと考えさせられ、友人とも時々クレイについての考察をしてみたこともある。
「で、俺たちはそこに降り立ったか弱き霊体で、クレイに住まうユニットから力を借りる代わりに、自分たちは彼らに知恵を貸して戦い、勝利へ先導していく……そんな存在なんだ」
「あ、改めて聞くと随分とスケールが大きいのね……」
久しぶりに貴之からクレイのことを説明してもらった友希那は、一度想像してみたが曖昧になったので少し困惑した。
普段音楽に没頭していて、歌に関する技能が飛び抜けて高い一般女子高生にドラゴンだの妖精だのと言っても、今一思い浮かべられないだろう。
――科学ならまだ大丈夫そうだけど……魔法って単語に夢を残してたり、ゲームとかで触れてる女子高生ってどれくらいいるだろう?貴之は今、それが無性に不安になってしまった。
「ま、まあ取りあえずこの辺りは後で改めて説明するとして……本題のデッキ選びだ。デッキには俺たちと契約し、共に戦ってくれるユニットたちが集まっている……。どのユニットたちと契約して、先導したいかを選んで見てくれ。勢力を指す『クラン』ごとの背景を知りたかったら、聞いてくれれば教えるから」
「クランって……あの『ロイヤルパラディン』とか、『かげろう』とかって書かれている単語のこと?」
「ああ。クランはそれがどんな組織かを教えてくれるんだ。例えば『ロイヤルパラディン』なら、人間、妖精、神などで構成された『ユナイテッド・サンクチュアリ』と言う国家の正規軍。古色豊かな剣と鎧を身につけた騎士に見えるけど、魔法科学の粋をつくした最新兵器を身につけた軍隊なんだ」
「な、なるほど……」
聞いてみたのはいいものの、再び一般女子高生には縁の遠い単語が飛んできたので、友希那は空返事をしてしまった。しかしながら、『ロイヤルパラディン』は自分には合わなそうだと感じた友希那は、一度他のクランのデッキを探して見ることにした。
その後、気になったクランを一つ一つ聞いてみるものの、それが個人的にピンと来ないので選び直し……を暫しの間繰り返している中、一つのデッキが目に留まり、友希那はそれを手に取った。
「貴之、この『シャドウパラディン』というのは?」
「『シャドウパラディン』は『ロイヤルパラディン』へ所属していた時に自分たちの頑張りややり方を認めて貰えなかったりで、追放だとか自分じゃない他の人が正規軍である『ロイヤルパラディン』に配属されたりで行き場を無くしたのもあって、負の感情を持ってる存在が多くてな……。認めてくれない、そんな考えをしている奴らを
「見返して……」
『シャドウパラディン』のクラン背景を聞いた友希那は、どことなく彼らが自分に似ていると感じた。
友希那の場合は自分の父親ではあるが、それでも認めてもらえなかったことは同じで、代わりに自分が見返してやろうと躍起になっているのもまた、彼らと重なったように思えた。
「(そう言えば……貴之はヴァンガードをやる時、イメージと言う言葉をよく口にしていたわね……)」
――このクランなら、そのイメージがしやすいかもしれない。そう思った友希那はもう一度だけデッキの箱を凝視してからそれを手に取った。
手に取ったことが合図となったのか、貴之がいつでも話していいよと言いたげに、こちらに顔を向けてくれた。
「これにするわ」
「『シャドウパラディン』か……なるほど。それなら後々デッキをしまっておくためのデッキケースもプレゼントだ」
貴之は友希那の選択にとやかく言うつもりは無く、決めたのならと追加で役立つものを見せてくれたので、友希那は素直に礼を言う。
実際のところ、『シャドウパラディン』はクランの背景とは裏腹に、扱いやすいユニットの多いクランであったので、尚更反対する理由が無かった。
どのデッキにするかを決めたところで会計を済ませるのだが、その時友希那は、貴之が自分が選んだものとは別にもう一つずつ、デッキとケースを出しているのが目に入った。
「……?デッキを『ロイヤルパラディン』に変えるの?」
「いや、こっちを使った方が、友希那もイメージしやすくなるかもしれないと思ってな」
問いに答えた貴之の言葉から、本来のデッキで戦ってしまえば手加減どうこう以前の問題になってしまうのも考えて気を遣ってくれたのだろうかと友希那は考えた。
確かにその考えもあったし、『シャドウパラディン』が『ロイヤルパラディン』に負の感情を持っているクランなので、合わせるのには持って来いだったことも理由だった。
そして、会計を済ませた貴之たちはファイトスペースに移動し、そこに用意されていたテーブルの一つを挟むように貴之と友希那は向かい合う形で椅子に座った。
ちなみに、玲奈は友希那の隣りに座っていつでもサポートできる準備を済ませ、リサは空いている貴之の隣りに座らせて貰った。
「よし……俺たちは俺たちで始めちまうか」
「一つのテーブルを六人で囲ってもやりづらいしな……そっちに移動してやろうか」
ファイトするのに十分なスペースがあるとは言っても、それは一組分のファイトスペースであり、二組分以上は無理がある。
教えるのに三人も四人も必要なく、基本的には相手を担当する一人。多くても初心者について見て上げるのがもう一人いれば十分と言える。
複数の理由が重なって、その間時間を無駄にするくらいならファイトをしようと言う意見の一致から、俊哉と大介は一つ隣のテーブルに移動してファイトの準備を始めた。
「さて、じゃあこっちも始めるか……構築済みデッキだから今回は大丈夫だけど、ヴァンガードのデッキを作るのに当たって、『合計50枚』になるように作るのと、『同名のカードは4枚まで入れられる』。『特別に制限されている種類のカードは、同名とか関係無しに4枚まで』ってルールがある。今後デッキの内容を変えてみたいと思った時は、このルールを守るように作ってくれ」
「…………」
デッキの入っている箱を開封しながらデッキ構築のルールを説明する貴之だが、友希那から返事がないことに違和感持ってそちらに顔を向ける。
顔を向けて見れば、そこには箱を見つめたまま微動だにしない友希那の姿があった。
「友希那……どうした?」
「えっと、その……開け方が分からなくて……」
友希那の返事を聞いた貴之は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
そこからなのか?と一瞬想ってしまったが、箱の開ける部分にはテープが貼られてあることを思い出した貴之は、ちょっと待ってくれと声を掛けてカウンターからハサミを借り、そのテープを切って開けられるようにした。
「これで大丈夫だ」
「あ、ありがとう……」
思ったよりも初歩的なミスをしていたことを自覚させられた友希那は、頬を朱色に染めながら顔を少しだけ下に向ける。
そんな姿を見て心臓が早鐘を打ち出した貴之は、さっさと流れを変えるのと、気持ちを落ち着かせることを兼ねて一度ハサミをカウンターに返しに行って、返すやすぐに椅子に戻って来た。
ちなみにこの時、自分と友希那が通路側に座ればよかったなと貴之は軽く後悔をした。自分が席を離れる度に、リサが必ず移動しなければならないからだ。
「さて……いよいよヴァンガードファイトをやるわけだがその前に……」
「……!」
貴之の声色は全く変わっていないはずなのだが、真剣なものを感じた友希那は彼に釣られて気を引き締める。
リサは何が始まるのか分からないで困惑しているのに対して、玲奈はとうとう始まるんだねと楽しみにしている笑みを浮かべた。
「友希那、俺が今から言うことをイメージしてくれ」
「イメージ……」
貴之の言葉を聞き取った玲奈はリサもやってみなと、彼女に促した。
そうして友希那とリサは目を閉じてみると、いきなりどこかに飛ばされたような感覚に陥った。
「今の俺たちは、地球によく似た惑星『クレイ』に現れたか弱い霊体だ」
その説明を聞いた友希那は、姿形こそ今の自分と全く同じではあるが、妙に薄れて見えるような状態を
どうやらそれは貴之も同じだったらしく、彼も今の自分と全く同じ姿形をしているが、妙に薄れて見える状態だった。
また、リサも貴之の説明に釣られたのか、二人と全く同じ状態で『クレイ』に降り立ったように
「で、そんな俺たちに与えられた能力は二つあるんだ……」
場慣れしているその説明に引き込まれ、友希那は気が付かぬ内に真剣に聞き込んでいた。
「一つ目は『コール』!『クレイ』住まう住人やモンスターたちを呼び寄せる能力だ」
貴之が人差し指を立てながら話すのに合わせるかのように、友希那とリサも
二人が目を開けたのを確認した貴之は、その指を立てている右手を動かし、友希那の近くに置いてあるデッキを指さした。
「その『コール』で呼び寄せることができるのは契約した者たち……。つまり、互いのデッキに集められたカードたちなんだ」
この説明を聞いて、このデッキにいるユニットたちは自分と共に戦う為に集まってくれたのだと認識させられる。
これだけでも凄いと思う
「二つ目は、霊体である自分を呼び寄せたモンスターらに憑依させる能力……『ライド』!そして、このライドした俺たちのことを先導者……『ヴァンガード』と呼ぶんだ」
「…………」
自信に満ちた貴之の説明を聞いた聞いた友希那は、騎士の格好をした自分や、巨大な竜になった自分を想像して嫌な汗を流したが、彼らには日常茶飯事なことだろうからあまり気にしない方がいいだろうと割り切った。
「とまあ、舞台の説明はここまでだ。ここからはファイトの流れを説明しよう」
これからが本番と言わんばかりに貴之がデッキを手に取ったので、友希那も自分のデッキを手に取った。
「まずは『ファーストヴァンガード』をデッキから一枚選んで、それを裏向きで『ヴァンガードサークル』……前列中央に伏せよう。この時選べるのは『グレード0』のユニットだけだ」
「グレード0……ヴァンガードサークル……」
「カードの左上に数字があるでしょ?その数字が0のユニットを選んでああやって伏せてね。それから、前列中央って言ったのはだけど……」
流れるような動作でそのユニットを選んで場に伏せる貴之に対して、友希那はどこを見ればいいか分からず困惑していたので、それを見た玲奈が補足説明をしてくれる。
ちなみにヴァンガードでユニットが置ける場所は前後が二列、横が三列の計六か所で、前列中央というのは言葉通り、その前後側の前の列で、その真ん中の場所のことを指している。
それによってグレード0のユニットを見つけた友希那は、それを選んで場に伏せた。
「ファーストヴァンガードを伏せることができたらデッキをシャッフルして、その後上から五枚を手札として引こう」
――構築済みデッキは開けたばかりだと同じカードで並んでいるから、そこに気を付けてしっかりと混ぜような?貴之はシャッフルをしながら自分の経験に基づいて説明する。
現に貴之も今回は開封したばかりの構築済みデッキを使うので、複数の方法でシャッフルをしていた。その為、友希那も彼を見習い、同じ方法でシャッフルを行う。
そして、シャッフルを終えた二人はデッキの上から五枚カードを引いた。
「五枚を引いたのなら、後は伏せていたカードを表にしてスタートなんだが……その前に一度だけ引き直しができる。引き直しも含めて、グレード1からグレード3が一枚ずつ揃っている状態でファイト開始を迎えられるのが理想だな」
「なるほど……それなら引き直すわ」
貴之は幸い揃っていたので特に引き直しはしないが、友希那は一度手札を確認してから、揃っていないのが分ったので引き直しをした。
「もう一回やるか?」
「お?それなら乗らせてもらおうかな」
大介と俊哉はもう終わっていたらしく、そのままもう一戦行う準備を早急に済ませた。
「「スタンドアップ!ヴァンガード!」」
「あっ……丁度いいタイミングで言ってくれたな。開始の宣言はあの二人の言った言葉どおりだ」
説明しようとしたところで大介と俊哉が開始の宣言をしていたので、それを利用して説明する。
これによって開始前の説明は終わったので、残りはファイトしながらになる。
「さあ……ファイト前の説明は終わったし、始めようか。開始の合図と同時に伏せていたカードを表に返すぞ」
「ええ……」
互いに伏せていたカードを手に取って裏返した準備を終えたので、残りは開始の宣言をするだけになった。
「「スタンドアップ!」」
遂にファイトの開始の合図が始まり、リサは思わず惹き込まれ、玲奈もいよいよ始まると心の奥で楽しみにする。
「ザ!」
「(ああ……ここは五年経っても変わらないんだね。安心したよ)」
貴之が『ザ』を入れたことに玲奈は安心した。
己のイメージをより鮮明に沸かせる為に、貴之は『ザ』を付けている。
「「ヴァンガード!」」
二人が伏せていたカードを表向きにしたことで、ファイトの開始が宣言された。
友希那が丸くなっている都合からもうこの段階で日菜との関わりがあります。
貴之はアイチとクロノの二人とは対比的な存在にしようと思ったことから……
・高校生男子
・物語開始段階で経験者
・ザ族
と言った要素を入れて見ています。ちなみに、この話でも触れられている通り、貴之は本来のデッキではありません。
また、友希那に『シャドウパラディン』を宛がったのは彼らの背景からです。
ネコなら『ノヴァグラップラー』にいただろと言う人もいたかもしれませんが、その他のユニットが余りにも彼女に合わな過ぎて諦めました。
次回でヴァンガードでファイト時の流れを説明していきます。