『ヴァンガード甲子園』が終わった直後、様々な場所でその話しが持ちきりだった。
まずは『グレード4なぞ使わなくても勝てる』ことが貴之によって証明され、絶望の空気が一瞬にして切り裂かれる。
これにより、ヴァンガードは自分の好きで強くなるのが一番とされ、瑚愛の作り上げた流れは完全に断ち切られた。
この他にも決勝戦に出たチームはインタビューが行われたのだが、学校ごとに一斉らしく、皆でそれぞれの想いを語った。
また、大型大会故にデッキ公開がされるのだが、瑚愛は「自分のデッキを無理に真似する必要は一切ない」と注意書きを強く頼んだことを記しておく。
元々自分が先導しはするも、強制するつもりは無かったからである。
「はい。と言う訳で、第一回『ヴァンガード甲子園』お疲れ様でしたー」
『お疲れ様でしたー』
そしてこの日の夜──。後江組は優勝記念として、ファミリーレストランで思いっきり食べることにした。
宮地組は瑚愛が遠慮したため、男子陣で別場所へ行くことになったらしい。流石に女子一人は難しいのだろう。
玲奈の音頭と共に祝勝会は開始され、各々今回のことを振り返りあう。
「俊哉は全勝成功で目標達成。俺も羽月さんに勝って道を繋いで、全員で目指した優勝も取れた……。結果としては最高になったな」
結果を纏めれば取るべきもの、取りたいもの全てが取れているので、非常に嬉しい結果だと言える。
一番最初は俊哉の未来にもかかわっていたので、かなり美味しい。
「今回貴之を全部前の方に送り込んでたけど、後ろの方が得意だったとかあるか?」
「いや、余計なこと考えないでいいから前の方が楽だったぞ」
圧力重視で前を頼んでいたが、本人が望んだ位置なら問題は無かった。
終わってみれば全ての問題解決が出来て、戦術上も皆で納得が行ってるのは何よりである。
「俺、決勝の時だったんだけどさ……最初に終わってからずっと見守るの、滅茶苦茶緊張してた……」
「あたしも……2-1で自分の番来た時がもうね……」
「そ、そう……だよね」
「ああ、それに関しては本当に悪かった……」
「何なら俺も何も出来なくて不甲斐なかったわ……」
決勝の途中までが一番地獄だったのは、ここだけの話しである。
特に玲奈は一番苦痛の時間であった為、彼女は今日、優先的に休ませてやる。
「んで、俊哉がこの後で、玲奈は……明日辺りか?」
「ううん。あたしも時間合わせてだよ」
どうやら二人そろってこの後予定があるらしい。そう言うことなら結果を楽しみにする方針で話しがまとまる。
「じゃあ、また週明け……だね」
「だな。結果はその時言うよ」
そして上がって商店街まで戻った後、今日は現地で解散となる。
その際に貴之が一個言い忘れていたことがあると言い、皆が耳を傾ける。
「また、ファイトやろうぜ」
その言葉は誰も反対しなかった。
* * *
「ごめん。待たせたか?」
「いいえ、そんなことないわ」
商店街を出て少ししたところで、俊哉と紗夜が顔を合わせていた。
『ヴァンガード甲子園』で優勝し、尚且つ俊哉の出る場所は全勝と言う相当ハードルの高い約束事を見事に果たし、伝えたいことを伝える時が来たのである。
「紗夜が俺を気にかけてくれた時のこと、覚えてるか?」
「……ええ。取り返しのつかないことをしそうだったから……」
思えば、あの日が本当の意味での出会いだったのだろうと俊哉は考える。何しろ、友希那と引き合わせた日の紗夜は、彼女との初対面だったのだから。
何か理由があるのだろうと考えた紗夜は、話しの続きを促す。
「あの日からずっと紗夜のこと意識しててさ……一緒に出かけたり、家に上がって貰ったりしたら、それどころじゃない所まで来てたんだ……」
「……えっ?と言うことは、あなた……」
「ああ。俺は紗夜のことが好きだ……一人の異性として、な」
俊哉の言い分で察しのついた紗夜が聞けば、俊哉は隠さずに答えた。
その時紗夜は胸が温かく、そしてこの上なく掴まれたような感覚を覚える。
これは自分がそれを受け入れたいと思っている証拠であり、今の彼女にそれを拒否する理由など無かった。
「もし良かったら、俺と付き合って欲しいんだ……」
「喜んで。私も、俊哉君と同じ……異性としてあなたが好きよ」
二人して気持ちが繋がったことを確認すると、後は少しだけ今後のことを話す。
その結果、紗夜はまたFWFに出るのが目先の目標で、俊哉は地方ないし全国のどちらかで貴之に勝つことが目先の目標となった。
二人の間柄でいうと紗夜が俊哉を呼び捨てにできる日を楽しみにすることとなり、今は焦らなくていいことが決まる。
「それじゃあまたな。それと、これからもよろしく」
「ええ。それではまた」
二人は幸せを胸に抱いて帰路に着いた。
* * *
「じゃあ、今日からまたよろしくね?」
「はい。よろしくお願いします」
そして週明けの放課後──。期末試験も近づく中、貴之はCiRCLに赴き、再びまりなに世話になる旨を伝えた。
彼女からしても彼が戻ってきてくれることは歓迎であり、スタッフ共々久しぶりだと彼を迎えてくれた。
こうして貴之が歓迎され、仕事内容の復習を始めようとしたところで人が入ってくる。誰かと思えばオーナーであり、久しぶりに様子を見に来たようである。
「その様子、やりきったようだね?」
「ええ。俺にできること、全部やりきりました……」
「よろしい……だけで済ませたかったが、一つ説教だ」
オーナーの言葉に貴之含む、全員が頭にクエスチョンを浮かべるがその理由は意外にも簡単だった。
「20にも満たないガキが、世界の命運を背負うんじゃないよ」
「いでっ……!?」
拳骨と共に送られた言葉はごもっともでしかなかった。他にできる人がいなかったとは言え、一高校生が背負っていい規模ではないのだ。
とは言え、状況が状況で行くしかなかったのもまた事実である為、オーナーはそれ以上責めることはしない。
「まあ、これから少しの間、そんなことしないでいいようにするんだ……いいね?」
「はい。そうします……」
これに満足したオーナーも、「次のことがあったらまたやりきりな」と残し、スタッフ一同にも激励を送ってこの場を離れた。
今度こそ業務が開始され、貴之は再びそれに従事していく。
* * *
「次の予約、ここにしたいんだけど……」
「その日は……ここが空いてますね」
少し時間が進んでRoseliaが次の練習を予約するので、貴之はそれに対応する。
今日の業務はこれで終わりであり、後は皆で共に帰路に着くだけである。
「そっちは年末クリスマスライブやるんだっけ?」
「ええ。前までは他の人の時間も考えてやらないようにしていたけれど、みんなしてやりたいのなら、悩まなくていいから……」
以前までの一時的に組んでいたバンドではそれぞれ身近な人との時間を優先としていたが、Roseliaはライブの意欲が非常に高い為、決行を決めた。
今回はその為の練習をしており、また近いうちに公演されることも決まっている。
「そう言う貴之は、前日に挑戦会だったわよね?」
「ああ。俺らに勝てたファイターたちは店から割引券をプレゼントだ」
クリスマスライブの前日に、貴之らもファクトリーにて挑戦会を企画している。
内容は第一回『ヴァンガード甲子園』に参加し、決勝戦に出たメンバーに参加者が挑戦するものであり、勝ったらファクトリー側から1500円分使える割引券をプレゼントされる。
割引券は一応50人分用意されているが、恐らくは余ることを想定されているのは、単に貴之ら出場ファイターが強いからだろう。
「まあその為に、今日は出れるメンバーで練習だ。俊哉もいるし、見に来るか?」
「ええ。それはもう」
そのまま帰ってもいいのだが、紗夜は今回立ち寄るつもりでいた。
この振り方をした理由は、貴之も俊哉から事情を聞いていたからであり、即日成功だった故に皆で喜んだ次第である。
「よう。来たぜ」
「おっ、来たか……紗夜たちもお疲れ」
ファクトリーに着くと早速俊哉から歓迎の声が掛かる。
「俺らの知らない間にこうなってたのか……」
「関わり初め自体は五か月くらい前らしいぞ」
後江組は把握しているものの、宮地組はそれを知らなかった為、意外に思われていた。
「そっちの四人は……話しを聞いてたみたいだね」
「アタシたちは根掘り葉掘り聞いてたから……」
「だから、あこたちはそこまで驚かなかったけど、一番驚いたのはやっぱり……」
「そっち……だよね」
事あるごとに聞いていたRoseliaの五人からすれば、寧ろ一真の片腕に両腕を組んでいる玲奈の姿に驚きである。
「あたしがこうしてるの、そんなに変かな?」
『今までの行動を振り返って?』
Roseliaの五人どころか、一真含む店内全員に問われる羽目になり、彼女は何も言い返せなかった。
この二人も『ヴァンガード甲子園』が終わってから付き合い始めることになり、まだまだこれからである。
「あっ、そうそう。羽月さんは今日来ないってさ。多分、こっちに来づらいんだろうけど……」
「自分のやったことの影響もあるからな……まあ、時間が経てば落ち着くし、そのうち来るだろ」
颯樹の予想も大方当たっているし、貴之は自分が解決の糸口を作った以上は全く気にしていない。
後は少しずつ時間の流れによってそんなこともあったと笑い話で終わるし、グレード4使用経験者にグレード4を使わずに誰かが勝てば、この話しは完全に気にすることのないものになる。
「よし。じゃあ俺たちもそろそろ始めるか……」
「試験もあるし、早めにやっちゃおうか」
それぞれ誰とファイトするかを打ち合わせ、準備を進めていく。
「甲子園の時は戦えなかったから、今日はお願いするよ」
「いいぜ。やろうか……」
貴之は久しぶりに一真と戦うことになり、思い切って戦えるこの日を待ちわびていた。
『スタンドアップ!』
「ザ!」
『ヴァンガード!』
こうして、年末挑戦会に向けた練習ファイトが始まる。
「(未来は続いていく……きっとこれからも)」
この光景は間違いなく、先導者たちが護りきった世界のものであった。
先導者と歌姫──この二人が高みを目指す道はまだ続いていく。
いつか、目指す高みが無くなるその時まで──。
後は後日談を書いて終わりですが、一番多かったので10年後の話しを書いて終わりにします。
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