「さて……準備もできたし、始めるか」
「うん。こっちも大丈夫だよ」
貴之と玲奈はファイトの準備を終え、後は開始の宣言をするだけだった。
先程使っていた『ロイヤルパラディン』のデッキは新しく買ったケースにしまい、代わりに元々鞄に入れていたケースから本来のデッキを取り出している。
「そう言えば『クラン』は変わった?」
「さぁ?それは見てからのお楽しみだ」
「(始まるのね……貴之の、本当の戦いが)」
玲奈が誘導するように使用『クラン』を問いかけて来たが、貴之はそれをあっさりと躱した。
『クラン』がバレてしまえばあっさりと対策を立てられかねないので、それだけは避けたかった。
その会話を最後に二人の軽めの会話をしてた雰囲気が変わったので、それを感じ取った友希那はこのファイトを見逃すまいと注視とイメージをすることにした。
「「スタンドアップ!」」
「ザ!」
「「ヴァンガード!」」
二人がカードを表向きにすることで、再びヴァンガードファイトが始まった。
「『ライド』!『リザードランナー アンドゥ』!」
「『ライド』!『エンターテイン・メッセンジャー』!」
貴之は人と然程変わらない大きさをして二足歩行のできる竜である『アンドゥ』に、玲奈はボールの上に乗ってビックリ箱を持った小さき存在『メッセンジャー』にライドした。
互いの『ファーストヴァンガード』を見た瞬間、二人は相手のクランを察した。
「玲奈は『ペイルムーン』か……どうやら使い続けてるようだな」
「そっちだって、ずっと『かげろう』のままなんでしょ?あたしたち相変わらずだね」
しっかりと使い続けている。また昔のようにヴァンガードファイトができる。互いにどれだけレベルアップしたかが楽しみ。
それらの要素が重なって、二人は口元を吊り上げる。
「『かげろう』は竜や彼らをモデルにして作られた機械で構成された『ドラゴンエンパイア』が誇る航空攻撃部隊……それが、貴之の使うクランなのね?」
「ああ。俺がヴァンガードの道を歩き始めて以来、ずっと使ってるクランだ」
貴之の使う『クラン』を再確認した時、奇しくも貴之と友希那は同じ景色を思い返していた。
それは貴之がヴァンガードのデッキを買って返って来て、真っ先に友希那に見せた時の瞬間だった。
あの日を境に、二人の間にある世界は動き始め、本来ならば全く合わないはずの話題なのに打ち込んでいる分野を話し合ったり、次第に上を目指すようになった。
そして、互いが気づかぬ内に恋心を抱き合い、一度は離れ離れになったもののこうしてまた同じ場所にいる。今思えば奇妙な巡り合わせだなと感じた。
「そして、『ペイルムーン』は『ダークゾーン』に拠点を置き、世界各地で公演を行う闇のサーカス団……こりゃ面倒な相手になるな」
世界感としてはサーカス団として活動している『ペイルムーン』だが、ファイト内では『ソウル』の『カード』を軸に展開を行っていくトリッキーなクランである。
それによって、いきなり手数がその段階でできる最大まで増えたりすることが非常に厄介な状況をよく作り出してくれるので、ついつい警戒したくなってしまう。
『ソウル』の依存が激しいので、それ故に不安定なクランではあるが、嵌った時の爆発力は目を見張るものがある。
対する貴之が使う『かげろう』は、先程のティーチングファイトで使った『ロイヤルパラディン』、友希那が選んだ『シャドウパラディン』と同じく汎用性の高いクランに当たる。
差異点は『ロイヤルパラディン』が『仲間を揃える』ことで、『かげろう』が『敵を打ち払う』ことで、『シャドウパラディン』は『味方を犠牲にする』ことで力を発揮するユニットが多いことにある。
他と比べた場合、『このクランと言えばこれ』と言えるものが少ないが、それ故に安定感の強いクランで、初心者にも安心して進めやすいのも強みだった。
「(貴之は『かげろう』のまま……あまりのんびりとやるわけにはいかないね……)」
一方で、玲奈は貴之のクランが分るや否、すぐに警戒レベルを引き上げた。先程のまでは口元を吊り上げていたものの、すぐにその表情を真剣なものに変えていた。
小学生時代の頃も、『かげろう』を使った貴之の戦績は高く、近隣の店内大会でも度々結果を残している。
そんな『かげろう』が五年間の歳月を掛けて更に強化されているとなれば、様子見が得策ではないと結論を出した。
「あたしが先攻。『スタンド』アンド『ドロー』……。『ライド』!『スターティング・プレゼンター』!」
紫色の光に包まれた玲奈の姿、が黒いタキシードにマントを羽織り、右目だけの眼鏡をかけ、背丈程の長さがあろう手に持った道化師のような姿をした人物……『スターティング・プレゼンター』変わる。
「『プレゼンター』が手札から登場した時、一枚を『ソウルチャージ』。更にライドされた『メッセンジャー』のスキルで一枚ドロー……」
「演目の準備が始まったな……」
「演目って……『ソウル』を増やしたこと?」
「ああ。後々何が飛び出してくるやら……」
玲奈がそれぞれのユニットが持つスキルを処理していくのを見て、貴之は警戒心を引き上げる。
演目の意味が気になったリサには肯定で返しつつ、次の動きに注意を向けた。
また、玲奈が行った『ソウルチャージ』とは、ヴァンガードの下にカードを一枚重ねることで、今回のように特に指定がない場合は『デッキの上から』行うことになる。
「さらに『ミッドナイト・バニー』を『コール』してあたしはターン終了。そっちの番だよ」
「ああ……俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……」
玲奈は最後に、自身の後列中央に、目を引く全身桃色の毛並みと、サーカスの為に合わせた衣装を着込んだ人と猫が合わさったような女性的なユニット……『ミッドナイト・バニー』をコールしてからターンを回した。
ちなみに、『バニー』は天井に吊るされた巨大なブランコによるショーを担当している。
それを聞いた貴之は、山札の上から一枚手札に加え、自分のターンを開始した。
「『ライド』!『鎧の化身 バー』!スキルで一枚ドローして、『希望の火 エルモ』を『コール』!」
赤い光に包まれた貴之の姿が、真紅の鎧を身に纏った右手に剣と全身に蒼い躰を持つ悪魔『バー』に変わり、その後ろには赤い体を持った小さき竜族の『エルモ』が現れる。
「行くぞ……『エルモ』の『ブースト』、『バー』でヴァンガードにアタック!『ブースト』をした『エルモ』は、スキルでこのターンの間パワーをプラス3000!」
「ノーガード……『ドライブチェック』をどうぞ?」
『バー』と『エルモ』のパワーは互いに8000だったが、『ブースト』を行ったことによるスキル発動で、『エルモ』はターン終了までパワーが11000となり、攻撃する際の合計パワーが19000となる。
しかし、そんなものは慣れたと言わんばかりに、玲奈は余裕の笑みで次の操作を促して見せた。
促された貴之が『ドライブチェック』をした結果は、残念ながらノートリガーだった。
イメージ内では『エルモ』の魔術によって、火を纏った状態と剣を、『バー』となった貴之が『プレゼンター』となった玲奈に振り下ろす光景が映された。
「『ダメージチェック』は……こっちもノートリガーだね」
「これ以上できることはないし、ターン終了だ」
玲奈も『ダメージチェック』を行ったがノートリガーで、彼女のダメージは1となった。
こうして最初のターンを終わらせた二人は一度顔を見合わせると、楽しそうな笑みを見せていた。
「……やっぱり、お前もか?」
「それはもちろん。久しぶりに会えた友人とファイトしてるんだもん……楽しいに決まってるよ」
予想ができていた貴之が問いかければ、玲奈からの回答は案の定だった。
貴之と再開できた時の嬉しさは分かっていたので、友希那とリサもそれにはすぐに同意できた。
ただ、言葉を使わずとも通じ会えた二人を見て、友希那は少し羨ましく思ってもいた。
とは言え、それで水を差すような真似をしたいとも思えないので、自分は歌を使ってできないかどうかを後で考えることにして、今はファイトを見ることにした。
「まあ懐かしむのは一旦ここまでにして……ファイトに戻るよ。あたしの『スタンド』アンド『ドロー』……」
「(何かしら?玲奈からスイッチが入ったようなものを感じるわ……)」
一度話しを切って、玲奈は自分のターンを始める。
その時友希那は、新しく手札を加えた玲奈の雰囲気と表情に、僅かな変化が起きたことに気が付いた。
「さて、闇のサーカス団『ペイルムーン』……今宵も、私たちの演目をここに開演致しましょう」
「……さあ、何が来る?」
「では、第一演目から……『ライド』!『ニトロジャグラー』!」
どこか芝居掛かった言い回しを聞いた瞬間、貴之は気を引き締める。
玲奈はまず初めに、白いタキシード姿でシルクハットを被り、いかにも危険そうな液体の入った状態でキャップされている試験管を複数持った『ニトロジャグラー』の姿になり、器用にジャグリングして見せる。
イメージをした時、その危なさ全開の光景もあって、友希那とリサは心臓に悪い思いをすることになった。
「手札から登場した時、『ニトロジャグラー』のスキル発動。山札の上から二枚見て、一枚は『ソウル』に、もう一枚は山札の下に……」
『ニトロジャグラー』のスキルによって山札を確認した玲奈は、この後自分が必要だと思った方を『ソウル』に、そうでない方は山札の下に置いた。
「更に、『ライド』された『プレゼンター』のスキル。手札を一枚『ソウル』に置くことで『ソウルチャージ』し……その『ソウルチャージ』したカードを『リアガードサークル』に『
「……『Sコール』?何か違うの?」
「通常の『コール』は手札から行うんだけど、『Sコール』は手札から『コール』する以外、何らかの方法で『コール』する事を言うんだ……」
――さて、何が出てくるかな……?リサの質問に答えながら、貴之は気を引き締めた。
「『プレゼンター』が今日紹介するのは……『ダンシング・ナイフダンサー』!」
玲奈の宣言と共に、片手にナイフを持って奇抜な格好をした『ダンシング・ナイフダンサー』が前列左側に現れる。
「『バニー』のブーストをした『ニトロジャグラー』でヴァンガードにアタック!この時、『バニー』のスキルで一枚『ソウルチャージ』……さあ、『ニトロジャグラー』から爆薬のパスが来ますよ……?」
「……ノーガード」
まだダメージを受けてないことから、貴之はノーガードを選択する。
イメージ内では、『ニトロジャグラー』となった玲奈が、それまでジャグリングしていた複数の試験管を『バー』となった貴之に投げ渡す。
反応できずにキャッチすることができなかったため、『バー』となった貴之は試験官が割れた影響で起こる爆発をまともに受けることになった。
ちなみに、玲奈の『ドライブチェック』も、貴之の『ダメージチェック』も共にノートリガーであったため、特に大きな変化は起こらなかった。
「闇のサーカス団の『ペイルムーン』……見かけによらず凄いわね……」
「驚きはまだこれからも続くよ……攻撃がヒットした時、『カウンターブラスト』して『バニー』のスキル発動。『バニー』を『ソウル』に入れることで、『ソウル』からグレード1以外のユニットを一体『Sコール』する……。『バニー』に代わって演じるのは、新しくもう一人の『ニトロジャグラー』!」
「……えっ!?あの危ないのがもう一人!?」
攻撃した時の光景を振り返った友希那が唸る中、玲奈は『
スキルによって、ブランコでの披露をしながら去っていき、代わりに前列右側にもう一体の『ニトロジャグラー』が現れる。こちらは手札からではない為、スキルの発動はできない。
危険な液体の入った試験官をジャグリングするのが二人もいるのを
「早速披露してもらいましょう……もう一度、『ニトロジャグラー』による爆薬のパス!」
「まだ大丈夫……ノーガードだ」
二度目の攻撃も貴之はノーガードを選択。
これによって、『ニトロジャグラー』からの爆薬を、『バー』となった貴之がまともに受ける形になった。
相変わらずの手数に舌を巻きながら『ダメージチェック』をすると、
「
「これで『バー』のパワーが18000になるから……」
「『ダンシングナイフ・ダンサー』の攻撃は届かない。上昇したパワーが盾代わりになってくれているのね……」
このトリガー効果で『バー』のパワーは18000となり、『ブースト』もトリガー効果も得ることのできない状態に置かれた、パワー9000の『ダンシングナイフ・ダンサー』は攻撃を届かせる手段を無くした。
ルールを覚えたことによって、何が起こったのかが理解できている友希那とリサの姿を見て、貴之と玲奈は安心する。
攻撃が届かないという状況は貴之にとってはありがたいことでもあったが、玲奈にとっては少しだけ嫌な結果になった。本来ならもう一回ダメージを与えられたはずが、打ち止めにされたからだ。
「あらつれない……では、私はこれでターン終了……」
そんな結果におどけて見せながら、玲奈はターン終了の宣言をする。
しかし、これで終わりかと言えば違う。まだスキルを使えるユニットが一体存在した。
「この時、『ダメージゾーン』に表のカードが無いので、『ナイフダンサー』のスキル発動。彼を『ソウル』に置くことで『カウンターチャージ』……彼の踊りをご覧あれ!」
玲奈のスキル宣言により、『ナイフダンサー』はナイフを手に持ちそれを持ち方を変えたり、振り回したりしながら器用にダンスを踊りながら退場していった。
そんな『ナイフダンサー』の動きを見た友希那とリサの二人は、思わず感嘆の声を出した。
「今度こそターン終了。さ、どうぞ?」
「ちょっと無粋な真似をさせてもらうかな……俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……『ライド』!『バーサーク・ドラゴン』!」
貴之の姿が、黒い体と二つの頭を持った双頭竜『バーサーク・ドラゴン』に変わる。
「登場した時、『カウンターブラスト』と『ソウルブラスト』することでスキル発動!相手『リアガード』を一体退却させることができる……俺が選ぶのは『ニトロジャグラー』、お前だ!」
貴之の宣言により、『バーサーク・ドラゴン』となった貴之は、自身の左側の口から火炎を吐き出し、『リアガード』にいる『ニトロジャグラー』に浴びせて退却させた。
その光景を見て、首が二つある状態なんてどうやってイメージしてるんだろうと二人は気になった。
「このスキルを発動した『バーサーク・ドラゴン』が『ヴァンガードサークル』にいるなら、デッキから一枚ドロー……。『
スキル処理を行ってから、貴之は前列左側に竜の姿を形どったような鎧を身に纏った剣士『ドラゴンアーマード・ナイト』を、後列左側には武器を持っている置いた半魚人の『ドラゴンモンク ゴジョー』を『コール』した。
「行くぞ……『エルモ』の『ブースト』、『バーサーク・ドラゴン』でヴァンガードにアタック!」
「……ノーガード」
『バーサーク・ドラゴン』のパワーは10000だが、『エルモ』の『ブースト』とスキルによって21000まで跳ね上がる。
攻撃宣言を受けたが、まだ大丈夫だと判断した玲奈はノーガードを選択する。
「『ドライブチェック』……ノートリガー」
残念ながらノートリガーで、そこからの変化は特に起きなかった。
イメージ内では、『バーサーク・ドラゴン』が二つの口から火を吐き出したところを、『エルモ』が自身の魔術によってその勢いを増やし、それによって生み出された業火が『ニトロジャグラー』となった玲奈を焼く。
さっきまで試験官をジャグリングしていた姿を見ていたので、友希那とリサは二次被害が起こらないか心配になってしまった。
ダメージを受けた玲奈は特に気にする様子も無く、『ダメージチェック』を行う。
「ノートリガー……」
「続けて行くぜ……!『ゴジョー』の『ブースト』をした『アーマード・ナイト』でヴァンガードにアタック!『ブースト』した時『ゴジョー』のスキル発動!相手『リアガード』よりこちらの『リアガード』の数が多いなら、このターンの間『ブースト』された『アーマード・ナイト』のパワーをプラス3000。更に、相手の『ヴァンガード』に攻撃した時『アーマード・ナイト』のスキル発動!相手の『リアガード』が三枚以下なら、このバトルの間パワープラス5000!」
「え、えっと……『アーマード・ナイト』のパワーが10000で、『ゴジョー』は8000……そこから更にスキルで8000増やすから……合計で26000!?」
「トリガー効果を貰ったくらいのパワーね……」
玲奈の『ダメージチェック』が終わり、貴之は二度目の攻撃宣言を行う。
この時、限定的な状況であると言っても、わずか二体のユニットでトリガー効果も無しに叩き出したパワーを見た二人が驚く。
「それもノーガードにするよ」
先程の攻撃でクリティカルトリガーを引かれていたら『ガード』を選んでいたところだが、受けても許容範囲内で収まる以上、玲奈は手札消耗を避けることにした。
イメージ内では『ゴジョー』の助太刀を受けた『アーマード・ナイト』が手に持っている剣で、『ニトロジャグラー』となっている玲奈を切り裂いた。
玲奈が『ダメージチェック』をすると、今回は
「本当は一個前に欲しかったんだけど……仕方ない。効果は全てヴァンガードに」
「俺はこれでターン終了だ……」
玲奈は遅くやって来たトリガーを悔みながら処理を行い、それを見届けた貴之がターン終了の宣言をする。
「ここまでで貴之のダメージが2で、玲奈のダメージが3……僅かに貴之が有利にみえるけど……」
「この先は本番のグレード3が出てくるから、まだわからないわね……」
「二人ともしっかりと学べてるみたいだね……じゃあ、あたしのターン、『スタンド』アンド『ドロー』……」
二人が状況を把握できていることに安心しながら、玲奈は自分のターンを始める。
その時玲奈の纏う雰囲気が先程のように変わったので、今度はリサも何かが来ると感じ取れた。
「次の演目にご案内しましょう……『ライド』!『ゴールデン・ビーストテイマー』!」
玲奈の姿が、紫色を基調とした改造制服のようにも見える派手な格好をした鞭を持つ女性、『ゴールデン・ビーストテイマー』に変わった。
「『イマジナリーギフト』……『アクセル』!」
「さっきとは違う『イマジナリーギフト』ね……」
玲奈の使う『イマジナリーギフト』が、『シャドウパラディン』の『フォース』と違うことに気が付いた友希那が気づいて呟く。
『イマジナリーギフト』は枠組みの形や色に違いがあり、『フォース』は水色。『アクセル』が橙色だったため、それで友希那もすぐに気が付けた。
「『アクセル』は『リアガードサークル』の横側に『アクセルサークル』として設置して、新しい『リアガードサークル』として使えるんだ……」
「ちなみに、『アクセルサークル』にいるユニットは『フォース』と同じく、自分のターンの間パワープラス10000だ」
「『アクセル』って複数揃うとどうなるの?」
「その場合はまた随時『アクセルサークル』として、前列の数を増やすんだ。順番は左、右の繰り返しで一個づつ外に置いていく……まあそんな仕様だから、多く置きすぎると手数の代わりに処理が面倒なことになる」
いつの間にかファイトを終わらせ、貴之と玲奈のファイトを見に来た俊哉が説明に周り、大介が補足説明を入れる。
この時『フォース』は重複可能であることを思い出したリサが聞いてみると、俊哉がその場合のことを答えてくれる。
「『フォース』が純粋にパワーを強化して、安定した強さを発揮する『バランス型』なら、『アクセル』は前列のサークルを増やして手数で一気に攻め立てる『攻撃型』と言ったところだな……」
「そう言った見方があるのね……」
二つの『イマジナリーギフト』を見て大介が評価を下し、友希那は『イマジナリーギフト』は非常に重要度の高いものだと再認識した。
「次にご紹介するのはこちら……愛嬌あるトランプ師『フラスター・カテット』と、大艦巨砲主義の『アーティラリーマン』!さらに『フラスター・カテット』のスキル、『レスト』して『ソウルチャージ』……さあ、トランプ芸をどうぞ!」
玲奈は後列中央に猫の耳や尻尾があるものの、限りなく人間に近い少女『フラスター・カテット』と、設置したばかりの『アクセルサークル』に巨大な大砲と一緒にカウボーイのような見た目をした男性ユニット『アーティラリーマン』をコールする。
スキル効果によって早速トランプ芸を披露する『フラスター・カテット』だが、まるで狙っていたかのようなタイミングで転び、その影響でトランプが空中で舞い散る。
そして、その中にあった一枚のジョーカーが、どこかへ飛んでいったのでこれで彼女が披露しようとした芸は一応は成功なのだが、思いっきり顔から地面にぶつかった彼女は痛そうに鼻を抑える。
そんな光景をイメージしたリサは、思わず可愛いと声が出そうになった。
ちなみに、『フラスター・カテット』が出た段階で何らかの反応を示しそうな友希那だが、今の彼女はファイトを見届けることを優先しているらしく、大した反応を見せなかった。
「『アーティラリーマン』のスキルだけど、これは『ソウル』に置かれているカードの一枚に付き、自分のターンの間はパワーがプラス3000されるの……ちなみに、今の『ソウル』は六枚……さらに『アクセルサークル』も加えて数えると……」
「た、単体でパワーが40000!?まだ『トリガーチェック』もしてないんだよ!?」
もうこの段階で『バーサーク・ドラゴン』のパワーを30000も上回っていることにリサが驚愕する。
玲奈が大艦巨砲主義と言った通り、『アーティラリーマン』はその一撃で派手に締めくくるタイプのユニットである。
「さあ、ショーのメインを派手に飾りましょう……『ゴールデン・ビーストテイマー』でヴァンガードにアタック!この時、『カウンターブラスト』と手札から一枚『ソウル』に置くことで、『ソウル』から二枚まで『Sコール』できる……飛び入り参加するのは、『ジャンピング・ジル』と『ミッドナイト・バニー』!」
後列左側に再び『バニー』が、前列左側には紅と碧のオッドアイが目を引き、両足の一部がバネになっている踊り子のような格好をしている少女のような見た目を持つ『ジャンピング・ジル』がコールされた。
「『ソウル』から登場した『ジャンピング・ジル』のスキル……他の『リアガード』一枚を『ソウル』に置くことで、グレード2以外を一枚後列の『リアガードサークル』に『Sコール』!今、『フラスター・カテット』に代わってもう一体の『バニー』が現れる……!」
宣言を受けて動き出した『ジャンピング・ジル』は、手始めに転んでいる『フラスター・カテット』の所まで飛んでいき、彼女を抱えて用意していた箱の中に押し込める。
少し時間が経ってからその箱を叩いて合図を送ると、箱が開かれると同時に煙が吹き出し、その中からは『バニー』が現れ、後列右側の場所に用意されているブランコに飛び乗った。
一連の光景を見た友希那は、『フラスター・カテット』が無事であることを祈った。
「自分の場にいるユニットが五体以上の時、『ビーストテイマー』のスキル発動!自分のターンの間、前列のユニット全てがパワープラス3000!」
「そいつは『ドラゴンモンク ゲンジョウ』でガードだ!」
先程行った『ビーストテイマー』のスキルによって場のユニットが五体になっていた為、前列のユニットがパワープラス3000され、パワーが12000だった『ビーストテイマー』のパワーも15000となる。
まだダメージは2であるものの、手数が増えた以上防げるなら防ぎたいと思った貴之は、『シールドパワー』が20000ある僧侶のような見た目をした『ドラゴンモンク ゲンジョウ』を『ガーディアン』として『コール』し、パワーを30000まで上げる。
「では、『ツインドライブ』……ファーストチェック」
グレート3になったことで『ツインドライブ』を得た玲奈が一回目のチェックを行う。
そして、めくられたカードは先程のファイトでは一度も見たことのないアイコンを持っていた。
「
それによって『ビーストテイマー』のパワーは25000、『ジャンピング・ジル』のパワーは19000となる。
更に『アーティラリーマン』に至ってはパワー53000と、通常の『ガード』ではかなり手札を使う必要が数値になっていた。
「あのトリガーは……?」
「
「『アクセルサークル』とユニットのスキル……それと一緒に使うことで、手数とパワーを揃えて一気に攻め立てる為のトリガーってところだな」
「……今回は揃っていなかったけれど、前列が埋まっていたら危険だったわね……」
リサの問いに大介が説明し、俊哉は補足を行う。
それを聞いた友希那は、現在玲奈の場にいる前列の確認をしてもしものことを想像した。
しかしながら玲奈の『トリガーチェック』はまだ終わっておらず、二回目のチェックが行われる。
「
「抜かれたか……!」
二回目が
イメージ内では、『ビーストテイマー』となった玲奈が一回目の鞭を振るって『ゲンジョウ』を打ち払い、二回目の鞭で『バーサーク・ドラゴン』となった貴之の体を打ち付ける。
ダメージを受けた貴之は『ダメージチェック』を行い、一回目はノートリガー。二回目は
「パワーはヴァンガードに回して、ダメージを1回復だ」
これによって『バーサーク・ドラゴン』のパワーが20000となり、4になるはずだったダメージは3で収まった。
「まだメインは終わらない……『バニー』の『ブースト』をした『ジャンピング・ジル』でヴァンガードにアタック!この時、『バニー』の『スキル』でソウルチャージ」
「……!『ソウルチャージ』をしたから、『アーティラリーマン』のパワーがさらに上がる……!」
先程の話しを聞いてた友希那は、『バニー』がスキルを発動したことが何を意味するかに気づく。これによって玲奈の『ソウル』が七枚となり、パワーは56000まで上がった。
「そいつはノーガードだ」
イメージ内では、『ジャンピング・ジル』が『バニー』のブランコに乗せてもらった状態で途中まで移動し、そこから自分のジャンプ力で『バーサーク・ドラゴン』となった貴之の頭上を取り、そのまま落下の勢いで強く踏みつけた。
また、『ダメージチェック』の結果はノートリガーで、少々苦しい状況が続くことになるようだ。
「『ブースト』した攻撃がヒットした時、『カウンターブラスト』して『バニー』のスキル発動!『バニー』と交代するのは、『ダンシングナイフ・ダンサー』!」
退却していく『バニー』の代わりに、前列右側に『ナイフダンサー』が現れる。
『ナイフダンサー』は
「『バニー』の『ブースト』をした『ナイフダンサー』で、ヴァンガードにアタック!この時、『バニー』のスキルで『ソウルチャージ』!」
「……それもノーガードだ」
「貴之……?」
ユニットを一枚『ガーディアン』として呼べば防げたはずの攻撃を防がなかった彼を見て、友希那は不安になった。
この『ソウルチャージ』によってパワー59000となる『アーティラリーマン』の攻撃よりも、このパワーが20000の『ナイフダンサー』による攻撃を防いでしまった方が、圧倒的に楽なはずである。
「この状況で防がなかったってことは、貴之のやつアレを持ってるな……」
「アレって?」
「まあそいつは見てのお楽しみだ。とにかく見逃すなよ?」
大介の呟きを拾ってリサが聞いて見ると、はぐらかされてしまった。さらに俊哉も同意するように頷いていたので、促された通りファイトを注目することにした。
イメージ内では、『ナイフダンサー』が踊りながら近づいてきて、舞うような動きで翻弄してから『バーサーク・ドラゴン』となっている貴之にナイフを使った鋭い一撃を加えた。
「本日のショーはこれで締めくくり……『アーティラリーマン』でヴァンガードにアタック!」
玲奈の宣言によって、『アーティラリーマン』は設置されている大砲にの導火線に火を付ける。
その火が届くべき場所に届くと大砲から巨大な砲弾が発射され、『バーサーク・ドラゴン』の姿をした貴之に飛び込んでいく。
「(貴之……)」
「……まだ終わってないぜ」
「…………!」
もうダメだと思った友希那は沈みそうになったが、貴之の声によって顔を上げる。
乗り切れる方法があると言わんばかりに、貴之は手札から一枚のカードを切る。
「その攻撃も、彼らの前には通らない……『ワイバーンガード バリィ』、『完全ガード』だ!」
「やっぱり持ってたな」
その大砲の弾が届く直前、突如として貴之の目の前にワイバーン型の航空兵器に乗った白き鎧に身を包んだ剣士『ワイバーンガード バリィ』が現れ、航空兵器から発した防御用の魔法陣で防いで見せた。
それを見た俊哉は、予想通りだったので気楽そうな様子で呟いた。
「……!最後の最後でなんて真似を……!」
「こいつは『ガーディアンサークル』に『コール』された時、自分の手札から一枚を『ドロップゾーン』に送ることで、このバトルの間だけどんな攻撃もヒットしなくなるんだ。ピンチを乗り切る最終手段ってところだな」
「『完全ガード』があれば、その状況を乗り切れるのは大きいわね……」
まさか貴之がそんな真似をしてくるとは思わなかった玲奈は、思わず歯嚙みする。
危機を乗り越えた貴之の説明を受けた友希那は、一先ずの安心感に包まれながら『完全ガード』のことを頭に入れる。
「仕方ない……ターン終了……」
「今回は攻撃がヒットしなかったから使わないが、攻撃がヒットしていたら『アーティラリーマン』の『カウンターブラスト』はペナルティ防止の為に使うかどうかを選べるんだ」
「ちなみに、『カウンターブラスト』をしなかった場合はそれまで溜めていた『ソウル』が全て『ドロップゾーン』行きになるから、実際に使う時は要注意だな」
『カウンターブラスト』をしたのに何も起こらないことに違和感持ったリサの問いに、俊哉が説明、大介が補足を行う。
このペナルティスキルがあることから、『アーティラリーマン』を場に二体以上出すとコスト管理が難しくなる。
「何とか防いだけど……ここからどうやって……」
「まあ見てろって……どうにかできるさ」
ダメージは5、相手のダメージは3と言う状況をリサは絶望視するも、貴之は意外にも特に焦った様子を見せなかった。
「さて……俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……来たか。待っていたぜ、お前を……」
「(貴之も、何かを始めるのね……)」
貴之が手札に加えたカードを見て笑みをこぼしていたことから、友希那はそれを察した。
それを伝えるつもりだったのか、貴之は見ていたカードを手に持ったまま友希那の方を見る。
「こいつが、『クレイ』における俺の分身とも言える存在だ……ちゃんと見ててくれよ?」
その問いかけに、友希那は笑みを見せて頷いた。
それを見て満足した貴之は、そのカードを『ヴァンガードサークル』にいる『バーサーク・ドラゴン』の上に重ねた。
「ライド・ザ・ヴァンガード!」
先程のまでの『ライド』とは違い、『バーサーク・ドラゴン』となった貴之を、紅蓮の炎による竜巻で包み込んだ。
そして、その竜巻が突如として消え去ると、赤と黒の二色が基軸となった巨大な体に、その体格に合わせて作られたであろう片手で振るう為の刀。まるで紅蓮の炎で形成されたかのような翼を持つ巨竜がいた。
「『ドラゴニック・オーバーロード』!」
その巨竜こそ、『かげろう』を束ねる指揮官でもある『ドラゴニック・オーバーロード』……貴之がヴァンガードを始めて以来ずっと使い続けているユニットであった。
「あっ……!そのユニットは……」
「出やがったな……『オーバーロード』」
「ずっと使ってたんだな……己の分身とも言える存在」
「貴之……いい意味でそのままだったのね……」
それを見て、リサは懐かしい思いをさせられ、大介は先日のファイトを思い出し、俊哉は貴之ならそうだよなと納得する。
友希那はここを離れる前も、そしてここに戻って来てからも、ヴァンガードを楽しむと言うことは変わらず前に進んでいたことを知れて安心する。
「まさか……『オーバーロード』もそのままだったなんて……。本当にそのユニットが大切みたいだね?」
「そりゃそうだ。こいつが、俺のイメージを広げてくれたからな……『イマジナリーギフト』、『フォース』!ヴァンガードのパワーをプラス10000!」
玲奈の確認に答えながら、貴之は『イマジナリーギフト』による処理を行う。
貴之が『かげろう』を選んだ動機は『オーバーロード』となって『クレイ』を駆け回ってみたいと言うものからで、デッキを組むときはこのユニットを必ず入れていた。
「『ソウルブラスト』をすることで『オーバーロード』のスキル発動!このターンの間パワーをプラス10000!」
この段階で『フォース』の恩恵も重なって、『オーバーロード』のパワーは33000となった。
「さあ行くぜ……!『ドラゴニック・オーバーロード』で、『アーティラリーマン』にアタック!」
「……えっ?そっち!?」
「何かを狙っているのね……」
「(トリガー二枚までなら許容範囲内だね……)」
ヴァンガードに攻撃しないで、『アーティラリーマン』に攻撃したことと、『ブースト』もしていないことにリサは驚き、友希那は何らかの意図があることを察する。
『アーティラリーマン』を攻撃されても、トリガー次第では『オーバーロード』のスキルを使っても、このターンで負けることは無いのを分かっていた玲奈はノーガード宣言をする。
しかし、このノーガードが今回のファイトの命運を分けることになる。
「『ツインドライブ』……ファーストチェック……」
一枚目の『ドライブチェック』は
「
二回目の『ドライブチェック』では
「
イメージ内では、『オーバーロード』となった貴之が口から吐き出した業火により、『アーティラリーマン』が焼き払われた。
本当ならば、攻撃はこれで終わりなのだが、『オーバーロード』の真価はここにある。
「攻撃がヒットした時、『カウンターブラスト』と手札を二枚捨てることでスキル発動!このターンドライブを1減らす代わりに、『オーバーロード』は……『スタンド』する!」
「出たな……!『オーバーロード』の連続攻撃!」
これによって、攻撃を終えて翼を休めていた『オーバーロード』となっている貴之は、再びそれを広げて咆哮する。
ドライブなどによってパワーを増やし、あわよくば次のドライブでさらに強力な攻撃をぶつけるのが、『オーバーロード』の強みだった。
「出し惜しみはしない……『エルモ』の『ブースト』をした『オーバーロード』で、ヴァンガードにアタック!」
「『ポイゾン・ジャグラー』と『フープ・マジシャン』、『お菓子なピエロ』でガード!さらに『ジャンピング・ジル』で『インターセプト』!」
『ビーストテイマー』となっている玲奈の前に、四体ものユニットが割って入る。
『エルモ』の『ブースト』を受けた『オーバーロード』のパワーは64000、四体のユニットの力を借りた『ビーストテイマー』のパワーは67000である為、この『ドライブチェック』の行方次第で勝負が決まることになる。
「さあ、その『ドライブチェック』で決着をつけましょう……」
「ああ……『ドライブチェック』……」
全員が見守る中、最後の『ドライブチェック』を行う。
そして、最後にめくったカードが現れる。
『……!』
「ゲット……!
「……嘘でしょ!?」
最後に引いたトリガーは
イメージ内では、『オーバーロード』となった貴之が『ガーディアン』として現れたユニットたちを業火で焼き払い、そのまま『ビーストテイマー』の姿をしている玲奈の前まで行って降り立つ。
そこから手に持った刀を使い、重々しい斬撃を三回ぶつけた。
そして、玲奈の『ダメージチェック』は、三枚とも全てノートリガーで、この結果玲奈のダメージゾーンが6枚となって決着が着いた。
「ダメージ6……あたしの負けだね」
「でも、良いファイトだった……凄い強くなったな」
「貴之こそ、予想を凄い上回ってたよ……」
互いを称賛してから、「ありがとうございました」と挨拶をしてから短く握手を交わす。
非常に充実したファイトをできたことが、それだけ嬉しいことだった。
また、友希那はこれまでのファイトを見たおかげで少しづつフレーズが思い浮かんできた。
「貴之、私に『
「そっか……そいつは何よりだ」
友希那が微笑みながら礼を言ってくれたので、それに満足した貴之も笑みで返した。
自分が友希那の力になれた。それがとても嬉しかったのだ。
「結構いい時間になってきたけど……どうする?」
俊哉の問い掛けを聞いた全員が店の外を見ると、少しづつ空が暗くなっていた。もう間もなく夜になる証拠だった。
「もう少しだけ……見せてもらってもいいかしら?」
「それなら後一戦だけやっていくか?」
意外にも友希那が頼んできたので、それを聞いた大介が問いかければ全員が頷いた。
これによって後一戦だけファイトをすることが決まる。
「俊哉、俺とやろうぜ。こっち来てからまだお前とやってないんだ」
「そいつは乗ったぞ。俺もお前とファイトしたかった」
「じゃあ、俺らは俺らでやるか」
「うん。時間も時間だし、早く始めちゃおう」
対戦相手を決めて、四人は素早くファイトの準備をする。
「(友希那も貴之も、目指す場所に向けて進んで行ってる……)」
友希那が歌っている姿と、貴之がヴァンガードをしている姿を見て、リサは自分が止めてしまったベースのことを思い出す。
あれは自分が逃げ出すように止めてしまったもので、今から再開したと言っても友希那が迎え入れてくれるかと言われればそれはわからない。
「(でも、やってみないと分からないよね……。友希那だって、今回ので歌詞のフレーズ思い浮かんだんだし……アタシもやってみよう!)」
しかし、やるかやらないかはまた別であり、新しく貴之のいる世界に踏み込んだ友希那のように、自分ももう一度足を踏み入れようと決意した。
――やらないで後悔するならやって後悔する!それが、リサの出した結論だった。
「「「「スタンドアップ!」」」」
「ザ!」
「「「「ヴァンガード!」」」」
そして、彼女が決意したのを待っていたかのように、本日最後の一戦が始まるのだった。
* * *
「どうだった?」
『今のところ順調よ。本当にありがとう』
一戦を終えた後、晩は近くのレストランで取ってから解散し、その後自宅に戻ってから貴之は友希那と電話していた。
友希那の方からお礼を言いたいとのことで電話が来たので、そのまま歌詞作りのことが気になって聞いてみたところ、どうやら上手く行っているようだった。
『また教えて貰うかも知れないから、その時はお願いするわね?』
「ああ……その時になったらまた言ってくれ」
こう言った口約束をできるのも、戻って来たからなんだと思うと、貴之は胸の奥が温かくなるのを感じた。
それは友希那も同じで、彼女も再会できたことが嬉しかった。
こうして電話をしている最中だったが、貴之の視界にちらりと時計が目に入る。
時計が示す時間を見ると、日が回る寸前になっていた。明日は平日で学校もあるので、これ以上長く起きるのは得策ではなかった。
「明日も早いし、そろそろ切るよ」
『ええ。また明日ね』
「ああ。また明日……」
短く挨拶して電話を切ろうとしたが、友希那の「ちょっと待って」と言う声が聞こえたので、貴之は「どうした?」と返しながら携帯電話に耳を当てる。
『貴之……あなたはどうか、私のようにはならないで……。自分の好きなことで笑っていられる……そのままのあなたでいて欲しいの……』
「…………」
それは、友希那からの願いだった。
父親の音楽を否定されて以来、自分の好きな音楽で楽しめなくなってしまった友希那は、自分と離れている間も根底が変わらなかった貴之を見て、申し訳なさがこみあげていた。
その願いを聞いた貴之は、少しだけ考え、答えを告げることにした。
「大丈夫。俺は変わらないよ……」
『……ごめんなさい。こんなことを押し付けてしまって……』
「心配するな……それに、俺は信じてるぜ?いつか友希那も、また音楽を楽しめるようになるって……」
貴之は自分の答えと一緒に自分の考えも伝える。
それを聞いた友希那は一瞬だけ硬直する。まさかそう言ってもらえるとは思ってもみなかったのだろう。
『そうは言っても……いつになるか解らないわよ?』
「なら、その時まで待ってるよ」
実際にそう言ってもらえたことが嬉しかったのか、友希那の声色が少しだけ柔らかくなった。
そんな様子の声を聞いた貴之は安心しながら、軽めの口調で言い返しながら改めて時計を見ると、もう日が回っていた。
「いけね、日が回っちまった……今度こそ切るよ」
『もうそんな時間だったのね……話しを聞いてくれて助かったわ』
「それなら何よりだ。じゃあおやすみ」
『ええ。おやすみ』
今度こそ電話を切って、貴之は部屋の照明を消し、布団に潜り込んだ。
「(俺は変わらない……ヴァンガードが好きで楽しいって言うこの気持ちだけは……)」
胸の中で一人誓いながら、貴之は眠りに落ちるのだった。
今回のファイトはトライアルデッキ『櫂トシキ』を『結成!チームQ4』のパックで出てくるカード使って編集した『かげろう』デッキと、『最強!チームAL4』のパックで出てくる『ペイルムーン』のデッキを使ってのものになります。
また今回も使えていないスキルがちらほらあるので、また使える機会があったら使っていきたいと思います。ソウル計算合ってるだろうか……書いてて凄い不安になっています(汗)。
ヴァンガードやった後に思いついた曲が何なのかは意外にもアッサリバレそうな気がします
……(笑)。
次回からガルパのRoselia1章のシナリオを少しずつ進めて行くことになります。