投稿ペースは基本週一、早くて週二でやっていく形になります。
ヴァンガードのルールに関する補足ですが、『ガーディアン』としてユニットを『コール』する場合、グレードの上下は問いません。
こちらに関しては完全に説明不足でした……
「(話しを受け入れたのはいいけれど……どれ程の実力と覚悟なのかしら?)」
会場の部屋に戻りながら、紗夜は友希那のことを疑っていた。
今までバンドを組んではメンバーの実力不足に嘆いて去っていったのもあり、いくら友希那に自信があってもこの猜疑心は拭いきれなかった。
「この子たちも頑張りが見て取れる……形も量もさっきのギターの子が飛び抜けてるが、それが分かるのはいいもんだな」
「それが遠征で培ったやつか?素人なりに見るとは言ってたけど……お前のその見方は中々に予想外だぜ……?」
「……そうか?でも、人の努力した形って必ず現れるものだから……知識が無い分、こっちだけは理解してやりたいと思ったんだ」
人が少なめの場所でライブを見ていた紗夜に、偶然隣りにいた二人の少年の話し声が耳に入った。
白い髪をした少年はそれなりに来ていたような言動が伺える。それは良いのだが、黒髪を持った少年の言葉は何かを見てきたように感じ取れた。
「(……どういうこと?頑張りの形?量?素人と言われた通り、音楽に関しては一切触れていないけど……)」
紗夜はその少年の発言が気になって聞き耳を鋭くしてしまう。
素人と言われた通り、彼は技術やパートごとの評価は一切していない。恐らくは自分がしていいものではないと場を弁えているのだろう。
しかし、その見方はどのようにして手にしたものかは気になった。最初の一瞬だけは自分の嫌う人種に見えたが、それは違うと思った。
「そういや、友希那が歌う番は人が増えるんだったな?」
「ああ。重心崩れないように準備しろ……ってところだが、まだ前は空いてるし、今回は壁をもらってるから、来る人が多すぎたら程度で大丈夫だ」
白髪の少年からアドバイスをもらった黒髪の少年は素直に頷き、いつでも歌を聴けるような心構えをする。
慣れているような口ぶりだからそうなのだろうと、同じく壁側でライブを見ていた紗夜は身構える程度で留めていたら、少しずつ人が増えてきていた。
「(彼の言っていたことが間違っていないのなら……彼女のファンは相当な数になるわね)」
人の増え具合を見た紗夜は冷静に分析する。まだ疑いが残っている状況だが、これなら少しは信じても良さそうだと思えた。
このチームはまだもう少しだけ歌うのだが、この人の集まり具合から、友希那の歌を楽しみにしている人の多さを伺える。
「なあ貴之、友希那はさっきの子に話しに行くっつってたけど……お前はどうなったと思う?その鍛え上げられた観察力を見せてくれ」
「(鍛え上げられた……まだ納得できるけど、一体どうやって……それに、この二人は彼女を知っている……)」
貴之と呼ばれた黒髪の少年に白髪の少年が問いかけた時の言葉を聞いて、紗夜は少しだけ疑問が解決するがまだ残っている。
彼の人を見抜く力が努力による延長線上でできたものなら、何をして来たかが気になった。
また、友希那のことを知っているのが分かったので、今のうちに聞いておくのもいいかもしれないと思えた。
「俊哉お前なぁ……せっかく紹介したやつが不安になってどうするんだよ……」
呆然としている自分をよそに、貴之は俊哉と呼ばれた白髪の少年に苦笑交じりで返す。
どうやら彼は、友希那のことを全面的に信頼しているようだ。しかしながら貴之は「ただ……」と言葉を繋げる。
「彼女の様子からして無条件って訳にも行かないだろうな……そうなれば友希那は自分の歌で、今から実力を見せる。それでどうするかは彼女次第……ってところかな」
「なるほど……それがお前の答えか。どうなったかは本人たちのみぞ知るってところだが、もしそうなら……」
「その推測、当たりですよ」
流石にずっと隣で自分のことを話されていても気分がいいものでは無いので、紗夜は思い切って自分から話しに入り込むことを選んだ。
声をかけられたことで振り向いた二人は、紗夜がいたことに気づいた。それと同時に二人は一瞬だけ「マジか……」と言いたげに目を点にする。まさかそんな近くにいるとは思ってもみなかったのだろう。
「わ、悪いな……気がつかないままこんな話ししちまってて……」
「いえ、こちらこそいきなり割り込んでしまってすみません……何やら、湊さんと私が向こうで話したことを知っていたかのような口ぶりだったので、気になって声をかけさせてもらいました」
貴之が頭を書きながら悪びれた様子で謝ってくるのを見た紗夜は、自分にも非があるのを告げる。
友希那のことを知っている二人が、自分のことを話していたのが分かったので、失礼を承知で友希那のことを聞いてみることにした。
自分が話しかけた理由を知った俊哉は「なるほどな……」とどこか納得したような様子を見せる。
「俺らはあいつと古い頃から交流があったんだ。俺はライブハウス通いが趣味の一つだから時々お邪魔させてもらってて……」
「俺は五年ぶりにここへ帰ってきてな……互いに打ち込んでいる分野の成果を見せてもらうために初めて来た。俺の目線が完全に素人のそれなのは、
「そういうことだったんですね……」
二人がここへ来た理由を知った紗夜は、どうして友希那を知っていたかを理解した。
確かに、古くからの付き合いがあり、それが残っているのなら、彼女の状況を知っていてもおかしくはないだろう。
「彼女にも伝えたのですが……ラストの曲、アウトロで油断してコードチェンジが遅れてしまいました。拙いものを聴かせてしまって申し訳ありません」
「なあ俊哉……こう言った専門知識はよく解んねぇんだが……。とりあえず感じ取った通り、相当な努力をして来た人だってのは解ったぞ」
「ま、まあ専門知識は後で教えてもらえばいいさ……つうかマジで?アレをミスって言えんのか……?」
頭を下げてきた紗夜を見て、二人は顔を合わせて冷や汗を見せた。
後で俊哉に聞いたところ、彼女のこの発言は殆ど問題なく勝ったファイト時の細かいプレイミスを見つけるようなものと言われ、「一時期の俺以外にもそんなことするやついたのか……」と貴之は絶句することになる。
そんな状態で焦る二人だが、貴之にも分かることとすれば、それがその分野打ち込んでいる人と、そうでない人の差だった。
「ところで、先程互いに打ち込んでいる分野と言いましたよね?湊さんが歌……では、あなたは何に打ち込んでいるんですか?」
「……俺か?打ち込んでいるのはこれだ」
「ヴァンガード……確か、今一番流行しているカードゲームでしたね?」
紗夜が思い出したように問いかけて来たので、貴之はポケットからケースを取り出し、その中のデッキを、タイトルが書かれている面が見えるように手にとって見せた。
ヴァンガードの名前は紗夜も知っていたらしく、その問いに貴之は肯定する。
「
「そのような理由があったんですね……」
貴之の身についたものを聞いて、紗夜は一瞬だけ呆然とする。
とは言え、その理由が努力によるものであったことから、少なくとも貴之が自分の嫌う人種ではないことが分かった。
「全国を取るという、その志も理解できます……けど、それがどれだけ険しい道で、生半可な覚悟ではできないと言うことも、あなたは分かっているのでしょう?」
「未だにこの手が届いてないからな……それはよく解ってる」
自分の思いを理解した上で問いかけて来た紗夜に、貴之は迷うことなく頷く。
その時の表情が真剣なものであったことから、この人はそれを十分に理解できているのを感じ取れた。
しかしこれだけでは終わらず、貴之は「けど……」と言葉を続ける。
「難しいのが分ってたとしても諦めたくなくて……どうしてもその手に掴み取りたくて……。だから頑張るんだ……自分のやってきたことがいつか実を結ぶと信じているから……君だってそうだろ?」
「……ええ。あなたの言う通りです」
表情は硬いままだが、彼女から放たれる雰囲気が少々柔らかくなった気がした。
一瞬遅れがあった理由までは流石に把握できなかったが、貴之が先程感じた自滅しそうな危険性は……その遅れた反応にあることをまだ知らない。
紗夜が肯定した直後、歓声が聞こえてその場に居合わせた三人はステージの方へ顔を向ける。
どうやら今演奏していたチームの出番が終わったらしく、ステージ裏へと退場している最中だった。
「お二人さん、次が友希那の歌う番だ。聞き逃しないようにな?」
俊哉の呼びかけに二人が頷いた直後、更に多くの人が会場として使われているこの部屋に入って来た。
これを見た貴之は「友希那の出番は人が増える」と言っていたのを、改めて理解するのだった。
「(すげぇ人の数……元々凄いものになると予想してたけど、こりゃとんでもねぇな……)」
――けどこの入ってきた人数が、友希那の歌が凄いってことを証明してる……。貴之はもうすぐ始まる友希那の歌を期待し、心を躍らせる。
五年間ずっと聴きたいと思っていたその歌を聴けるのもあり、その衝動が湧き上がってしまうのは無理のないことだった。
また、人が集まったことによって増していく熱気だが、それを更に加速させることが起こる。
「…………」
「……来たか!」
それは友希那がステージに立ったことだった。
五年ぶりに聴ける。待ちに待った時が来た。どれだけの技量になったかが楽しみで仕方ない。様々な要素が合わさり、貴之は口元を吊り上げる。
「……友希那……!」
「(すごい熱気……こんなにファンがいるの?しかも、時間が押しているのに全然騒がない……)」
――みんな、あの子の歌を待っているみたい……。紗夜は周りの空気を感じ取って驚いた。
この会場を使える時間も限られているので、どうしても出番の遅いメンバーは「早くしてくれ」と言った空気に浴びせられることが多い。
しかし、ここにいる人たちはまるで時間のことを気にしていないかのように、友希那が歌いだすのを待っていた。
「ほら、ここがドリンクカウンター。ステージから一番遠いから、ここに居れば押される心配は無いから……って、りんりん、大丈夫?」
「ライブは……みたい……けど……人が……」
「……?」
静まり返った状態では一人の声が小さくても十分聞こえるもので、それを聞き取った紗夜はそちらに顔を向ける。
紫色の髪をした羽丘中等部の制服を着た少女の方に見覚えはないが、もう片方花女の制服を着た綺麗な黒髪を持った少女の方には見覚えがあった。
「(あの人……同じクラスの
黒髪の少女……白金
それだけならいいのだが、どうやら顔を青くし始めていたので隣の少女に心配されているのが見えた。
自己紹介の時もあがり気味に話していたのを覚えていたのと、今回の様子から大勢の人がいる場所は苦手なのだろうと推測できた。
しかしながら、「ライブを見たい」と言っている辺り、自分で無理をしてまでここに来たのは確かだ。
「ほ、本当に大丈夫……!?友希那を観るまで頑張って……」
「(隣の子が励ましているけど……あの様子では始まる前に倒れてしまいそうね)」
燐子を気遣う様子が見えたが、それでももう危なそうなのが見えた紗夜は自分も手伝いに行こうとしたが、それは動きだすより前に阻まれることになる。
「――♪」
「……!?」
友希那が歌い始め、紗夜のみならず会場にいた全員がその歌に惹きつけられたからだ。
「……!やっぱ……カッコイイ……!」
「(!?……なに……この声……?……こんなの……)」
先程まで燐子を気遣っていた少女は満足げに呟き、顔を青くしていた燐子も、大勢の人がいると言う状況下で感じていた重圧感がどこかへ飛び去っていた。
すっかり顔色の良くなっていた燐子は、その歌声を夢中で聴いていた。
「(こんなの……聴いたことがない。言葉のひとつひとつが……音にのって、情景にかわる……色になって、香りになって……会場が包まれていく……)」
また、紗夜も今まで聴いてきた歌とは全く比較にならない、飛び抜けた技術を前に聴き入って、確信に変わった。
彼女の歌に懸ける思いと覚悟の強さを知り、それまで抱いていた彼女への猜疑心がどこかへ飛び去っていくのを感じた。
「本物だわ……やっと……見つけた……」
――この人となら、目指した場所に辿り着ける……紗夜はようやく自分について来れる人を見つけることができ、安堵する。
今まで実力不足を理由に諦めていた道を諦めないでいいということが、何よりも喜ばしいことだった。
「(思い出せる……いや、描き出されてる……!俺と友希那が『一つのことを打ち込む人』同士になった時のことも……五年前駅のホームで別れたことも……離れている間の五年間も……戻ってきて友希那と再会できたことも全部……!ああそうだ……俺はこの歌を聴けるその時を、ずっと待っていたんだ……)」
友希那の歌を聴く貴之は、その圧倒的な表現力によって今まで自分の周りで起こった出来事を脳裏で辿っていた。
また、彼女の歌声から五年間で伸ばしてきた技術力と、歌に対する変わらない情熱を感じ取り、知らぬ間に涙を流していたが、その表情は笑みを見せている嬉し涙だった。
「どうだ?すげぇだろ?あいつの歌」
俊哉に問われて貴之と紗夜は頷く。凄いと言われたら素直に頷くくらい、友希那の歌は相当なものだった。
ちなみにこの時、このライブハウスに来てから始めて笑みを見せた紗夜だが、それは貴之が涙を流しているのが見えてすぐさま焦りに変わったので、誰にも気づかれはしなかった。
逆に紗夜から「大丈夫ですか?」と問われた貴之は、自分が涙を拭い忘れていることに気づき、「大丈夫。ただの嬉し涙だ」と答えながら涙を拭った。
「(ありがとう友希那……俺、ここに帰って来れて……本当に良かった……)」
貴之は心の中でではあるが、友希那に深く感謝した。
今までで最も強く、自分の望んだ場所に帰ってこれたという思いを感じた貴之は、心から笑った。
* * *
「……どうだった?私の歌」
「何も……言うことはないわ。私が今まで聴いたどの音楽よりも……あなたの歌声は素晴らしかった」
ライブが終わった後、片付けの行われている会場として使われていた部屋で、友希那は紗夜に問いかけ、問われた紗夜は素直に彼女の歌を認める。
――諦めるしかないかもしれないと思っていたものが、諦めないで続けられる。それが知れたのが何よりも大きかった。
一度間をおいてから、紗夜は自分の回答を友希那に、あなたと組ませて欲しいと告げる。
「『FUTUER WORLD FES.』に出たい。あなたとなら、私の理想……頂点を目指せる」
友希那の勧誘を承諾した紗夜は、自分の右手を差し出す。
「氷川紗夜です。これからよろしくお願いします」
「ええ。これからよろしく」
友希那はその差し出された右手を手に取り、チームを組んだ証と言うかのように握手を交わした。
『氷川』と言われれば日菜と同じ苗字ではあるが、友希那は今、紗夜個人を見ているので全く気にしていなかった。
「やったな俊哉」
「おう。あいつがご満足みたいで何よりだ」
二人の様子を見守っていた貴之と俊哉は、互いに拳を作って軽くぶつけ合う。友希那と紗夜。この二人が組めたことは、自分たちも嬉しく思えた。
しかしながら人が殆どいないことと、元々響きやすい部屋だったことが重なってその拳をぶつけた音は二人の耳に届いていた。
それによって二人がこちらへ顔を向けたことに気づき、貴之と俊哉は慌てて誤魔化し笑いをするのだった。
恐らくは貴之が俊哉に話しかけた辺りで気づいていたのだろう。何しろ、友希那と紗夜の二人は「あなたたちは何をしてるの?」と言いたげな顔をしていたから。
「ありがとう。おかげでやっと踏み出せたわ」
「そいつは何より。情けない話だが、俺の方がお前らより安心してる気がしてならねぇが……」
「俊哉から勧めたからな……それでダメだったらショックだよな」
友希那に礼を言われた俊哉は軽く答えるが、その後すぐにやれやれと言った様子で胸を撫でおろした。
二人の基準が厳しいのを理解した貴之は、俊哉の心境を察して苦笑する。
「……勧めた?」
「ああ、実はつい最近にお前のギターを知ってな……。二人とも今日はここでライブやるから、どうだろうってな」
「こう言ってるけど、あなたの技術を知ったら事前情報無しでも誘っていたわ」
――私が誘おうと思えたのは、紛れもないあなたの実力よ。友希那は笑みを見せながら紗夜を称賛する。
それを聞いた紗夜も、友希那は自分でしっかりと見て決めることのできる人で、流される人じゃないことが分かって安心した。
「友希那、今日はありがとう。言葉にできないくらいいい歌だったよ……」
「そう……それならよかったわ」
貴之も友希那に礼を言い、それを聞いた彼女は自信を持った笑みで答えた。
「そりゃ言葉にできないよな……だってお前、涙流してたもんな?」
「あ、おい……!それは別に言わなくて良かっただろ……!」
「……それ本当なの?」
「ええ……。私も、最初は何があったのかと思いました……」
先程のことを引き合いに出され、貴之は顔を赤くしながら抗議の声を上げるが、言い出しっぺの俊哉は軽く流していた。
それを聞いた友希那は思わず紗夜に問いかけると、肯定が返ってきた。何故近くにいたのか等の疑問は、貴之が涙を流したと言う一点によって全て吹き飛ばされていた。
というよりも、貴之にもそんな面があるのを知って、少しだけ安心してしまったのかもしれないと友希那は考えた。
何しろ、離れている間の話しを聞いただけでは、特に抱え込んでいる様子が無さそうで、ここに戻ってきても、みんなとまた会えて嬉しいくらいではないかとも思えてしまっていたからだ。
「ああ、結構話し込んだな……二人はこの後打ち合わせするのか?」
「そうね。時期もあるから、予定は早めに決めてしまいたいわ」
片付けの作業をしている人が少なくなってきているのに気づき、貴之が友希那に問うと肯定が返ってきた。
それを聞いた貴之と俊哉は、顔を見合わせた。
「じゃあ、俺たちはそろそろ行くか」
「そうだな。俺たち待ってますよみたいなことして、打ち合わせを満足にできないのはよくないからな」
貴之と俊哉の判断は「せっかく組めた二人の邪魔をしない」であった。
FWFまでの時期もあるので、打ち合わせはしっかりと彼女たちでやるべきだという判断に至った。
「そちらも、自分の目指す道を頑張って下さい」
「もちろんそのつもりだ。……ああそうそう。まだ名乗って無かったな。俺は遠導貴之だ。そっちも頑張れよ」
「ありがとうございます。もう聞いているかもしれませんが、氷川紗夜です。お互い頑張りましょう」
貴之と紗夜は互いに名乗り、その道を応援する。
それぞれ一つのものを打ち込む身として、自然と親近感が沸いていたのだ。
「貴之、リサが無理してないか……確認しておいてもらってもいい?」
「ああ。それは任された」
友希那の頼みを、貴之は迷わず承諾する。
歌っている時やメンバーを探している時は平気でも、終わった後は気にしてしまうのだろう。
何しろリサは小百合のように、人の為とあらば自分を蔑ろにしてしまう傾向があるので、見れる人が見てやるべきだと貴之は考えていた。
「それじゃあまたな。お前の歌を聴けて、こっちに帰って来て……本当に良かったよ」
「……!ええ、またね……」
貴之には、それだけの価値が友希那の歌にあり、優し気な笑みを見せながらそう言った。
彼の帰ってきた意味を強めることができ、自分の歌を何の偽りも無く褒められた友希那は顔を紅潮させながら一瞬だけ硬直する。
紅潮は治まらないが、すぐに硬直から抜け出すことはできたので、笑みを見せて返した。
返事を聞けて納得したのか、貴之と俊哉は今度こそ歩き出し、この場を後にした。その時、貴之の希望が更に大きくなったかのような表情が見え、思わずそれを目で追い、彼が部屋から離れるまで見送っていた。
「(私は
昨日と今日で互いの世界を知りあったことを思い出しながら、友希那は静かに目を閉じる。前までは話しでしか知らない状態だったが、自分の目で知ることのできた今なら違うと断言できる。
迷うことなど何も無い。互いに目指す場所へ進むだけだった。
「湊さん、どうかしましたか?」
「何でもないわ。それよりもこれからの方針を決めましょう」
「わかりました。では、互いの予定から確認しましょうか」
――だからこそ、私はFWFで結果を残すため……お父さんの音楽を認めさせるために進むの。改めて決意した友希那は、早速紗夜と打ち合わせを始める。
紗夜と組んでからの第一歩が、ここに始まったのだ。
* * *
「あっ、いっけね……!紗夜に俺の名前言うの忘れてた……」
「……ん?ああ……そういやお前だけあの場で名乗ってないな……」
ライブハウスを出てすぐに、俊哉が思い出してハッとする。
そう言われて遅れながら貴之も思い出した直後、俊哉は「やっちまったぁ……」と項垂れる。
今更戻るような気にもなれないし、邪魔する訳にもいかない。そんな二重の条件が俊哉に強く後悔をさせる。
「はぁ……しょうがねぇ。また次の機会にでもするか……」
俊哉は潔く諦めを付ける。それを聞いた貴之も「そうだな」と肯定を返す。
「チャンスは一回とは限らない……俺だって、こうしてまた友希那やお前と会えたんだ……」
「お前が言うと説得力あるな……けどまぁ、それが一番みてぇだな」
実際に五年前にここを離れ、戻ってきた貴之がその体現者なので、俊哉も素直に従う。
自分は貴之と友希那のようなパターンと比べ、待つ時間が圧倒的に短いと考えれば意外に心が楽になる。
「そういや飯どうする?」
「どうせなら食ってくか……と言いたいところだが、友希那に頼まれてるから普通に帰るよ」
「それがいいな。じゃ、途中までは普通に行きますか」
外出中でこの時間なら普段はどこかで食べに行くところだが、リサのことを頼まれた今回は必ずしもそれがいいとは言い難い。
その為今回は妥協し、そのまま直帰と言う形に落ち着く。
「あっ、あの!すみません!」
「「……?」」
話しが決まって歩き出そうとしたところで、突然声をかけられた貴之たちはそちらへ顔を向ける。
顔を向けて見れば、そこには羽丘中等部の制服を着た、紫色の髪をツインテールにしている少女と、その後ろには紗夜と同じく花女の制服を着た、綺麗な黒髪を持った少女がいた。
「友希那って、まだ中にいるんですか?」
「今はチーム組んだ人と打ち合わせしてる……と言ってもギターの子が一人だが……」
紫髪の少女はチームを組んだと言う単語を聞いて驚き、ギターと聞いて安堵する。
恐らくはパートが違うのだろう。友希那に用があると言うことで、貴之はそう考えていた。
また、俊哉の方もチームを組んだ時の反応を見て、一つの結論に至る。
「ひょっとして……友希那とチームを組みたいのか?」
俊哉の問いかけに少女が頷く。予想が当たったのはいいが、俊哉は少し難しい顔をする。
「どうだろうな……さっきの子で友希那の基準よりある程度上ってレベルだからな……」
「……さっきの子?」
その反応を見た俊哉は、紗夜と友希那の歌を聴く直前のことを思い出す。
目の前にいるこの少女は、友希那の出番が来るまで会場の部屋にいなかったので、紗夜のことを知らないでいる。
それを思い出してどう説明しようか迷う俊哉だが、少女が頷いた辺りで今日友希那と一緒にいた時間を中心に遡っていた貴之は一つの結論を出した。
「今日の内に入りたいこと伝えれば……その場ですぐは無理でも、何らかの方法でチャンスは得られると思う」
「……!」
貴之の出した答えは少女に希望を与え、それを聞いた俊哉は一瞬だけ目が点になってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。どうやってその答えを出した?」
「ヒントはあの部屋出る時俺が友希那に言われたことと、こっちに来るまでの道のり……友希那と合流する前にしてた俺らの会話だ」
「部屋出る前と合流する前……あっ!それなら確かにチャンスはあるかもな」
貴之に言われた通りその時の出来事を辿った俊哉も、導き出された答えにたどり着いた。
友希那を知る二人が肯定してくれたので、紫髪の少女は喜びの顔を見せ、黒髪の少女も安堵する。
「俺らはそろそろ行くよ。話しはもうすぐ終わるだろうし、頼むならもう少し待ってるといいと思う」
「話せばわかってくれるかもしれないから、頑張れよ」
「はいっ!ありがとうございます!」
貴之と俊哉は順番に励ましてから去っていき、紫髪の少女は去っていく彼らに礼を言いながら頭を下げた。
* * *
「あこちゃん……よかったね」
「うん……チャンスあるって言われたら、ますます頼みたくなった!」
貴之らが去っていくのを見送ってから、燐子は紫髪の少女……
今回この二人がライブハウスに来た経緯としては、あこが自分なりの恩返しをしたいというものからだった。
この二人はとあるネットゲームで知り合い、そこから仲良くなった経緯がある。実際に合って話して見れば互いに持っていないものを持っていることからウマが合い、すぐ友人関係になれた。
ちなみに、あこが自分なりの恩返しだと言う理由として、普段から燐子に助けられていると言う理由にある。
度々行っているカッコイイもの探しの恩返しとして、自分の中で一番カッコイイものを見せると言う……燐子からすればいかにもあこらしい恩返しのやり方だった。
「(人がたくさんいるの……苦手だったけど……来てみて……よかった)」
燐子は元々大勢の人がいる場所を大の苦手としていて、無理して入った結果が友希那の歌が始まる直前の青くなった顔であった。
隣のカフェテリアでゆっくりしていたところをあこに切り出され、迷っていたところを少々強引に連れて行かれたような形ではあるが、燐子からすれば恨みは無く、寧ろ感謝の念がある。
もし自分一人だけだった場合は踏み出せないまま立ち去るか、迷っている内に時間がきてしまう所を、あこのおかげでライブハウスに入ることができ、あの歌を聴くことができた。
彼女の歌を聴いたあこがチームに入る為に待機をするので、燐子はその行く末を見届ける選択をした。
本来ならキーボードを弾くことはできるが、それはまだ誰にも話したことは無かった。また、自信が持てないことから今回は見送りにしたのだ。
あこがドラムをやっていることは以前聞かせて貰っている……と言うよりも彼女から話してくれてそれを知っていたので、「ごめんね」と心の中で謝る。自分は彼女と違い、恐れずに踏み出すことを苦手としていた。
「く、来るかな……会えるよね……?」
「だ、大丈夫……だと思うよ……?」
あこが自信無さそうに問いかけて来たので、燐子も思わず疑問形で返してしまった。
暫くこうして待っているのだが、ようやく出てきたと思ったらさっきの二人であった為、不安が出てきていたのだ。
燐子が待ってくれるのでこうして自分は張り込むことのできているあこなので、ギリギリまで待つ以外の選択肢は残されていなかった。
「(大丈夫かな……自己紹介とかどうしよう?)」
緊張した心持ちで友希那が来ることを待っていると、ついにそのチャンスが巡ってくる。
「あなたと組めることになってよかったわ。もうスタジオの予約、入れていいかしら?時間は限られているから……」
「構いません。ところで、他に決まっているメンバーは?」
「(……!ゆ、友希那が来た!)」
二人の少女が話しながらスタジオロビーからこちらにやってきていた。その片方は、話しかけようと思っていた友希那だった。
その姿を見たあこは緊張が強くなるのを感じた。もう誰もいないのだろうか、出入口で立ち止まって話しているので、十分にチャンスはあった。
「今、ベースで入りたいと言っている子が一人いるから、近頃オーディションを行おうと思っているわ。それ以外は誰も決まっていないし、名乗りも来ていないわ」
「そうなるとあと三人と見た方がいいですね……」
紗夜の持つ考えに友希那は同意する。名乗ってくれても、入れていないならいないものとしてカウントする方針だった。
当然実力の足りない人を集めるつもりは毛頭もないが、かと言って時間を掛け過ぎるのもよくない。だからこそ紗夜の口からは「急ぎましょう」と促しの言葉が出る。
「実力と向上心のあるメンバーを見つけ、少しでも練習時間を確保し……」
「最高の曲を作り、最高のコンディションで、コンテストに挑む」
「……本当に、あなたとはいい音楽が作れそう」
これ程綺麗に方針が一致したことに、紗夜は喜びを見せる。それは友希那も同じらしく「そうね」と頷いた。
「メロディはさっき聴いて貰ったものを、私の方で詰めてみるわ」
「では私は、そのあとのパートのベースを……」
「あっ、あの……すみません」
話していた二人は、あこに声をかけられたことで話しを中断してそちらを振り向く。
友希那は「話しがあるなら聞くわ」と言いたげな様子だが、紗夜の方は「早くしてください」と言わんばかりに厳しめな目を送って来たので、あこは思わず体が震えるのを感じた。
しかし、ここで「何でもないです」など言おうものなら話しかけた意味もないし、彼女らを不愉快にさせるのは明らかだ。ましてやあこにそんな選択肢は無いので、勇気を持って踏み出すことを選んだ。
「さっきの話って……本当ですか?友希那……さん、バンド組むんですか?」
「ええ。その予定よ。……その話しが聞こえていたと言うことは、メンバー参加を希望しているの?」
あこの問いに友希那は肯定を返し、重ねて問いかけると、あこはそれに頷くことで肯定を返した。
「えっと……これも聞こえちゃったことなんですけど……。オーディション、やるんですよね?それっていつ頃ですか?」
「その子と私たちのタイミングによるけど、まだ未定ね……」
そこに希望の活路を見いだしたあこは、更に入り込んでいく。
その様子を見た友希那は、あこのチームに入りたい気持ちが極めて強いことを感じ取り、現状を説明する。
未定であることは仕方ない。何しろ今朝、リサに頼まれて承諾したばかりで、今日のこともあって予定など立てようにも立てられなかった。
しかしながら、今回あこにとって大事なのはオーディションの日程では無くやるかどうかで、やると答えて貰えたあこは最後の一押しに出る。
「あこ、世界で2番目に上手いドラマーですっ!1番はおねーちゃんなんですけど……!あこもそのオーディションに参加させてください!」
「「…………」」
「あ……あれ?」
あこ個人から見れば何の問題もない自己紹介と同時に頭を下げるが、二人は一瞬固まってから顔を見合わせる。
二人から返事が返って来ないのでおかしいと思ったあこが顔を上げると、丁度二人がこちらに目を向け直していた。
あこにとっては問題ない自己紹介でも、友希那たちからすれば「2番目」を自慢したことが頭を抱えさせる内容だった。
「(どうしたものかしら……)」
友希那は顎に手を当てて考える。1番を自慢されていた場合はすぐにオーディションの参加を承諾したのだが、それ故に頭を悩ませることになった。
紗夜は間違い無くあこに厳しい言葉を投げるのは明らかで、時間を掛けることはできない。
しかしながらあこのどうしてもと言う目を見ていたので、意外に考える時間は要さなかった。
結論を出した友希那が思考を現実に戻すと、紗夜は呆れたようなため息をついていた。
「……あなた。私達は本気でバンドをしようとしているのよ?遊び半分では困るの」
「そうね……私としても、2番目を自慢し、そこに甘んじて遊び半分でやるような人と組むのは難しいわね……」
「…………」
紗夜の言葉に同意した友希那の言葉を受け、あこの表情が沈む。
自分と相手の価値観が明らかに違うのが判明し、それを強く突き付けられたので、それもそのはずだった。
その光景を見た燐子も、今回はダメかもしれないと思ってしまった。
「ただ……そうね。もし、あなたがその1番の人を抜かそうと、遊びじゃなくて本気でやろうと言う決心が付いたなら、また来なさい……その時にもう一度聞くわ。紗夜、行きましょう」
「ええ」
「あ……」
友希那は妥協案を告げてから紗夜と共に去っていく。
すぐさまに去っていった二人へ反応が遅れ、あこはしばしその姿を見送る。
「あこちゃん……大丈夫?」
「う、うん……大丈夫。ごめんねりんりん、長い時間待たせちゃって……」
燐子に声をかけられたあこは、待たせてしまったことを詫びる。
普段なら前向きな発言の多いあこが今回は特に言わないので、燐子は少々不思議に思った。
「あこちゃん……どうかしたの?」
「ちょっと考えごと。どうしようか考えてて……」
友希那に言われたことが引っ掛かっていて、あこは悩んでいた。
ここで考えてもすぐに答えを出せそうには無いので、待たせても悪いと思ったあこはライブハウスに背を向けた。
「そんなすぐに答え出なそうだし、帰ってからゆっくり考えてみるよ。そろそろ行こっ」
「うん……そうだね」
そんなすぐには自分にも話せないだろうと思った燐子はそれ以上追及することはせず、あこと共に帰路へ付いた。
「(本気でやるのはそうなんだけど……おねーちゃんを抜かそうとするか……)」
――それってできるのかな?そのことが、あこを悩ませていた。
それを相談できぬまま燐子と別れ、家に帰った後も考えて見たが、その日一日で答えは出せなかった。
一通りRoseliaのメンバーは全員出すことができました。
原作だと妥協案もへったくれも無く申し出を一蹴されていたあこでしたが、こちらでは妥協案が出るだけまだ良かったかなと言ったところ。
日菜を知っていると言う危険要素は、『この場にいない人を考えても仕方ない』、『一個人として紗夜を見る』の二点からものの見事に回避する形になりました。
次回もこのままガルパ本編継続になると思います。