先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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「貴之さんのこと、どこかで聞いたことあるような気がするんですけど……何かやっていることありますか?」

 

ライブハウスに移動する途中、気になったあこは友希那に聞いてみた。

リサと彼の口から、友希那とは幼馴染みであることを教えて貰っていることを伝えているので、友希那も問題なく応じる用意はできていた。

 

「やっていることとすればヴァンガードね……。全国までは行ったけれど、まだ優勝はできてないみたい」

 

「……ああっ!なんか聞き覚えあると思ったら、『かげろう』の『ドラゴニック・オーバーロード』使い!」

 

友希那に教えて貰ったことで、あこは思い出せた。

対する友希那は疑問に思った。何せ貴之とあこはこの前会ったばかりで、趣味の話し等はしていないのを聞いていたからだ。

 

「知っているの?」

 

「実は、よく買っているゲーム系の雑誌に、時々ヴァンガードの全国大会で使用されたデッキが公開されるんですけど……ここ数年間は『かげろう』の枠を独占してるんですっ!」

 

彼女が買っているゲーム情報系の雑誌では、時々全国大会で使われたデッキがクランに一つ代表で公開されており、貴之のデッキはその雑誌で度々公開されている。

しかもその時のデッキに『オーバーロード』が必ず入っているので、あこは「この人主軸を一切変えないで戦っているなんて凄い」と思いながらそれを見ていた。

また、この時勘違いされてしまうと大変なので、あこは自分がこの手の雑誌はしっかりと読むことにしている人であることと、ヴァンガードファイターではないことを伝える。

ちなみに、貴之の通っている後江はそれなりにヴァンガードをやっている人はいるのだが、その手合いの人たちは大抵友希那と知り合いであることに引っ張られてしまい、それどころでは無かったせいで貴之が知る由は無かった。クラスの違う人にヴァンガードファイターが多いのもそれを助長していた。

 

「そういうことだったのね……。それなら納得だわ」

 

理由が知れて少しだけ安堵する友希那だが、同時にそう言ったもので彼の行方を追うことをしなかったのは勿体無かったとも感じた。

しかし、それをやっていたら焦りで自分が余計に荒れていた可能性もあるので、あの時はやらなくて良かったのかもしれないとも思えてきていた。

 

「……流石にもう売り切れかしら?」

 

「ああ……流石に残ってないですね。あこの買っている情報誌、一ヶ月で新しいの出ちゃうんですよ」

 

――知った時期が遅すぎたわね……。あこから聞いた友希那は心の中で落胆する。

彼が戻ってきてくれたことで落ち着けている今なら、そう言ったものを見ても大丈夫なので見てみたかったところだが、無いのであれば仕方ない。

それならば次の時でいいだろうと、友希那は割り切ることにした。

 

「あっ、それなら今度貸しましょうか?保管してあるから、まだ残ってますよ」

 

「本当?なら、今度借りてもいいかしら?」

 

「わかりましたっ!そういうことなら今度持って来ますね!」

 

そう思っていたところであこから救いの一言が来たので、友希那はそれに乗っかることを選んだ。

あこが素直にそう言ってくれたのが嬉しく、友希那は自然な笑みを見せていた。

 

「(音楽に打ち込んでいるのは確かだけれど……私は、貴之の走った道のりも知りたい……)」

 

――少し欲張りかしら?考えた友希那は思わず笑みを浮かべていた。何も悪い気はしなかったからだ。

商店街に入ってからはライブハウスが近いので、話しを切り替えてあこに今日やることを説明しながら歩いていく。

あこが素直に聞いてくれるので、話しを進めること自体非常に楽で、ライブハウスに着くよりも早く終わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなるようだったら連絡入れてね?」

 

「うん。それじゃ、行って来ま~す♪」

 

友希那とあこがライブハウスに着いた頃、自分の母親に事情を伝えたリサはベースを持って再び家を出た。

時間が惜しいので着替えはせず、荷物を最低限にしていた。

 

「(ベース持って歩くの、懐かしいなぁ~……何年ぶりだっけ?)」

 

ベースを持った状態で歩くことがそれなりに前になるので、リサは懐かしい思い出に浸る。

友希那と一緒に、彼の父親にライブハウスへ連れていってもらい、一緒にセッションをした日や、友希那の音楽の話しと一緒に貴之へベースのことを話し、彼がわからないなりに理解しようと努力していた姿等……。一瞬だけだが、貴之がここを離れる前の頃に戻った気分にさせられた。

ただし何も懐かしい想いを抱いただけではなく、同時に緊張もしている。

 

「(……大丈夫、ちゃんと練習はしてきた。ここで潰れちゃダメ)」

 

胸に手を当てて言い聞かせるが、それでも不安なものは不安だった。

時間がある時は無理のない範囲で練習をしていたが、やはりブランクを取り戻すのには時間が掛かってしまうし、完全に取り戻せた訳でもない。

――もしかしたらぶっつけ本番でやった方が気が楽だったかも……と思ったが、首を振ってそれを否定する。

 

「(そんなことは無い……何もしないでやりたいってだけ言う人を、友希那が取ろうとは思わない。あの時だって、友希那の邪魔になるかもしれない……足を引っ張ってるからって思ってアタシから離れたんだから……)」

 

自分が友希那の道を妨げてしまうなら、自分は遠くで見守っているだけでいい。ベースを辞めてからはそう思っていた。

しかしその考えは先導者(貴之)の帰還と、ヴァンガード(彼の戦う場所)を見て完全に変わった。

例えわがままだと言われようとも、友希那と一緒にFWFに行きたくなって、その日のうちにベースの状態を確認し、短時間でもいいから練習していた。

彼がここを離れるよりも前に、俊哉が貴之を『俺たちの先導者』と言っていたが、リサは本当だと思っている。

何しろ離れている間は友希那の心の根底に残って支え、こちらに戻ってきては自分にベースを再開するきっかけを与えてくれたからだ。

 

「(頑張るから、しっかり見ててね?アタシたちの先導者さん……それと、友希那が音楽の楽しさを取り戻すことは、こっちでやってみるから、心配しないで)」

 

自分ができず彼はできることがあるように、彼にできず自分にできることはある。それが友希那が音楽の楽しさを取り戻すための手伝いだった。

そしてそれは、貴之が実際には言わなかったことだがリサに望んでいることで、リサ自身がそうしたいと思っていることだった。

やはり自分にできることがあると言うのは大きく、リサが頑張ろうと思う気持ちを一助していた。

 

「……よし!やるぞ~!」

 

今回のオーディションに合格すればそれもできるし、何より自分の望んだ『友希那とFWFに出る』ことも目指せる。

ならばベストを尽くそう。そう思ったリサは自分に言い聞かせ、少しだけ歩みを早めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「こっちでできることは全部やったな……」

 

「ああ。後はオーディション次第だな」

 

『カードファクトリー』のファイトスペースで向かい合って座り、ファイトの準備をしながら貴之と俊哉は現状を確認した。

総合的に見て、思ったよりも受け入れ体制がいいと言うのが、二人の総評だった。これは何よりも、あこを一回で強く突っぱねず、「こうしてきて」と言ってもう一度時間を与えたことが大きい。

俊哉曰く、荒れて間もない頃は殆ど口を聞こうともしなかったとのことなので、その頃からは大幅に改善されている。

 

「(大丈夫だ……あの二人はやってくれる)」

 

あこは先程見せてくれた練習の証と本気でやろうと思っているその目が、リサはあの時の宣言と、本気でやると決めればそれに向けて必死に努力をすることが、貴之に信じようと思わせてくれる。

だからこそ、貴之は彼女らを信じてヴァンガードファイト(目の前のやるべきこと)に集中することを選べる。

――バンド(向こう)のことは確かに気になるが、俺もこっちを進んで行こう。そう決めた貴之の目が闘争心を見せる。

 

「さぁ、演目を進めましょう」

 

「あぁ……これ手札足りるかな?」

 

隣では玲奈と大介がファイトをしていて、玲奈の宣言を聞いた大介が手札を確認して不安になる。

二人がファイトを進めている際の熱を感じ取り、貴之と俊哉の二人も素早くファイトの準備を済ませる。

 

「さて……俺らもやるか」

 

「……そうだな」

 

準備は全て終え、後はファイトを始めるだけになり、俊哉と貴之は互いに頷き合う。

 

「「スタンドアップ!」」

 

「ザ!」

 

「「ヴァンガード!」」

 

互いに裏返していたカードを表に返し、ファイトを始めた。

 

「俺の先攻……」

 

貴之は宣言しながら山札に手を乗せる。

 

「(あいつらはやれることを全力でやる……それは俺も変わらねぇ!)」

 

――少しづつでもいいから前に進む……それだけだ!自分に言い聞かせた貴之は、山札の上からカードを一枚引いた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「誰かと思えば、こないだの子を連れて来たんですね……」

 

「ええ。この子が本気だと言うのが分かったから連れて来たわ」

 

「…………」

 

ライブハウスで予約したスタジオに入ってすぐ、友希那は紗夜にオーディションを行うことを伝え、参加するあこを紹介した。

紗夜が猜疑心を持った様子であこを見て、友希那は毅然とした態度で答える。

――あれ?なんかさっきと様子が違うような……。呆然としながら、二人の様子を見たあこは感じ取っていた。

この辺りはまだ確証を持てないでいるが、恐らく紗夜に合わせているのだろう。自分と貴之のことについて話していた時等の違いを思い出し、あこはそう予想を付けた。

 

「まあいいでしょう。パートはドラムでしたね?今すぐに始めるんですか?」

 

「いえ、もう一人ベースで参加する子がいるから、その子が来てから行うわ。あこ、リサが来るまでの間、あなたも練習して構わないわ」

 

「わかりましたっ!」

 

友希那に練習することを許されたあこは、頭を下げて礼を言ってから置いてある練習用のドラムで早速練習を始める。

チャンスを得たのだから、それを有効に使うと言う選択は間違いではないし、彼女たちに自分が本気であることの証明にもなる。

待っているだけだとドラムを叩きたい衝動に負けてしまいかねない可能性もあったので、本当にありがたかった。あこにとって、友希那の歌はそれだけの価値があった。

通しはオーディションの時にやると言われたので、あこは個人のタイミングで練習をする。

この時あこのドラムを聴いた友希那は、全体的にあこの叩くドラムは力強い傾向があることを感じ取った。自身の誇る声量も考えると、彼女のドラムは自分の歌と相性が良さそうに思えた。

ただし、実際にメンバーに入れるかどうかは自分と紗夜が大丈夫と判断すればこそなので、今はまだその判断を下すことはない。しかしそれでも、いい音を出していると思った。

 

「(これは期待できるわ。今までの人よりも明らかに高い技術……オーディションを受けたいと言っただけのことはあるわね)」

 

あこのドラムの音を聴きながら発声練習をする友希那は、表情が自然と和らいでいた。

二人に見えていないのが幸いして特に言われることは無かったが、それでも練習は本番のつもりでやるべきなので、気持ちを切り替えた。

 

「(ちょっと固いかな……?まだ今日は慣らし始めたばかりだから、そこは仕方ないかな)」

 

緊張も重なっているが、あこは自身の動きが固いことに気がつく。

しかしここで後向きに考えることはせず、本番が始まる前にしっかりと動けるようにしておくと言う考えに切り替える。

そう考えることで更に固まると言う惨事を避け、少しずつ自然に、いつも通りに叩けるようになっていた。

一通り動けるようになったあこは一安心し、本番で崩れないように気を付けた練習にシフトする。全身を使う楽器のドラムは他のパートと比べて体力の消耗が早いのが難点で、それ故に体力を使いすぎてまともに叩けなくなるのを避けるべく、体力づくりやペース配分をしっかり行う等の対策が行われるケースは多い。

あこ自身も、体力が持たないと感じたら休憩を挟んだりしていたが、彼女たちのチームに入るなら体力強化も必要になるかもしれないと感じた。

 

「(本番に備えているのか、少々控えめに叩いているようね)」

 

練習をしながら、紗夜はあこのドラムの叩き方を感じ取った。

それでも練習の様子から、どんなスタイルをしているか等は見えてきている。

とは言え、チームに入れるかどうかの判断するのはまだ早いとは思っていた。

 

「(なら、本番に期待するとして……今は練習に集中しましょう)」

 

紗夜は割り切って練習に戻る。これ以上考えるのは時間の無駄と判断したからだ。

少しでも日菜(天才)との差を縮める為に――。まだ知れ渡っていないが、紗夜の心持ちはかなり荒れていた。

普段から比べられているが故に紗夜は、本当ならもう少しゆっくりできるはずなのに、常に最短を求めるようなやり方になってしまっている。

――もう……負けを直視させられる(比べられる)のは嫌。紗夜の胸の内はそんな想いでいっぱいになってしまっていた。

 

「(……携帯が鳴っている?)」

 

一通り発声練習を終え、歌い方の確認を行っていた友希那は、制服の胸ポケットに入れていた携帯が振動していることに気づき、それを取り出して操作する。

リサから、Cordのチャットで『ライブハウスに着いたよ~』と言う文が送られてきていた。

 

「ベースの子が到着したから、迎えに行ってくるわ」

 

「わかりました」

 

「……!はい!」

 

確認を終えた友希那は短く告げる。

それに対して紗夜は固い表情を変えずに答え、あこは一瞬遅れながらも返事をする。

二人が返事してくれたのを確認できた友希那は、スタジオのドアを開け、ロビーへ向かう。

ロビーまで来てみれば、出入口近くの長椅子にリサが座っているのが見えたので、友希那はそちらへ歩みを進める。

 

「待たせたわね」

 

「大丈夫。こっちの方が待たせちゃってたから」

 

友希那が声をかければ、その一声で誰かに気づいたリサは椅子から腰を上げながら、笑みを見せた。

リサから問題ないことを聞けた友希那も、「それならよかったわ」と笑みを見せた。

 

「時間も押しているし、早速行きましょう。二人とも待っているわ」

 

友希那の促しにリサは頷き、彼女についていく形でスタジオに入って行く。

 

「ベースで受ける子を連れて来たわ」

 

「どうも~。ベース希望で来た今井リサです♪」

 

友希那の紹介に合わせて、リサは軽く手を振りながら挨拶をする。

 

「リサ姉おかえり!」

 

「うん、ただいま♪」

 

「……?」

 

「あの二人、部活が同じなのよ。それで普通に話しているし、リサが許しているからああやって話せるの」

 

二人のやり取りを見て、友希那に教えて貰った紗夜は、自分とは真逆な第一印象を持つ人が来たなと感じた。

真面目で基本的に誰に対しても丁寧な言葉遣いで、落ち着いた性格をしている紗夜と、基本的に明るく多くの人とすぐに打ち解けて、自分へ向けた言葉遣いの頓着が薄いリサ。この辺りを見れば見事に真逆だと言えるだろう。

ただし、こうして真逆とも言える二人の中には、FWFに出たいと言う共通の思いがあった。

 

「さて……顔合わせも済んだから、早速オーディション始めたいのだけど……リサ、あなた練習は必要?」

 

「ううん、大丈夫」

 

あこが練習していたのもあるのでリサに確認を取ってみたが、リサは友希那に否を返した。

あまり待たせたくないと言うのもそうだし、リサ場合は練習した方が怖くなってしまいそうだとも考えていた。

 

「そう……あこももう大丈夫ね?」

 

「はい!もう大丈夫です!」

 

あこから答えを聞いた友希那は「では、早速始めましょう」と告げた。

それを聞いたリサが、持ってきたケースからベースを取り出し、ベースを弾くためのポジションに移動する。

 

「時間を取らせてしまってごめんなさい。五分で終わるわ」

 

「構いません。お互いにしっかりと判定しましょう」

 

「ええ。もちろんそのつもりよ」

 

――リサ、あこ。あなたたちも悔いのないように演奏しなさい。友希那は心の中ではあるが、友希那は精一杯のエールを送った。

 

「リサ姉、頑張ろうね」

 

「うん。もちろんそのつもり」

 

「うんっ!と言っても、ちょっと怖いけどね……」

 

互いに笑みを見せた後、あこが困った笑みを見せて吐露した。チャンスが一度切りと言うのは、やはり怖いものがある。

その気持ちはわかるし、確かに自分も少し怖くなってしまっているような気がしたので、少し考える。するとある意味自己暗示に近いものではあるが、効果が出そうなものを思いついた。

――ちょっと力を借りるね。リサは別の場所で夢に向かって走り続ける友に、心の中で告げた。

 

「ならあこ、イメージしてみようよ。この四人がチームになって演奏している姿をさ♪」

 

「四人がチームに……」

 

リサは貴之式の思考誘導をやってみた。貴之がヴァンガードをやっている際に時々口にしていた言葉で、実際友希那にヴァンガードを教えた時も口にしていた。

後ろ向きの考えに陥ってしまっていた時にこれをやることで、前向きの思考に変えられることができると信じて、リサも実際にやってみたところ、自分もさっきまで感じていた怖さがどこかへ行っていた。

あこの方も、「うんっ!そう考えたら大丈夫な気がしてきた!」と笑顔で答えてくれたので、リサも安心した。

そんなやり取りが行われた直後、笑い声が聞こえたのでそちらを振り向けば、口元を抑えて笑っている友希那と、それをみて困惑した紗夜の姿があった。

それを見たリサとあこも、何があったのかわからずに困惑した。

 

「ごめんなさい。リサがそう言うとは思って無かったから……」

 

「……もうっ!せっかくいい事言ったのにぃ~!」

 

友希那に理由を教えて貰ったリサは顔を赤くする。実際、自分でもあまりこう言うことは似合わないと思ってもいたが、何も笑うことは無いだろう。

そう思ったリサは「どうせアタシにこんなことは似合いませんよ!」と顔が赤いままそう言い返した。そんな様子を見たあこは困った笑みを見せる。

流石に自分も少し言い過ぎたと思った友希那も、「ごめんなさい」とリサに謝って自分を落ち着かせる。

 

「でもあなたたち、これで緊張はほぐれたでしょう?」

 

「「あっ、言われてみれば確かに……」」

 

友希那に問われて気づいたリサとあこは同じタイミングで同じことを口にし、それに気づいてまた二人で笑うのだった。

これからオーディションで、失敗すればもう次は無いと言うのに、二人は自分たちでも信じられないくらいに自然体でいられた。

 

「さて……時間も押してしまっているから、いい加減始めましょう」

 

友希那の促しに全員が頷き、いつでも演奏できる用意を済ませる。

そして、準備が終わったのを確認した友希那が開始の合図をしたことで、オーディションの演奏が始まる。

始まる直前まではどうなるかと思っていたが、始めた瞬間に、四人は不思議な感覚を味わうことになった。

 

「(……!いつも以上に自然な声を出せる……これは一体……?)」

 

「(見えない力に引っ張られるみたいに、指が動いてるのに……いつも以上に弾けている?どういうことなの……)」

 

「(ウソ……!?練習したとは言っても、完全にブランクが抜けたわけじゃないのに……こんなに弾けるなんて……!)」

 

「(……すごい!練習した時より、ずっと上手に叩けてる……!)」

 

演奏によって出来上がった、見えない何かに影響された四人は自分たちが予想以上のパフォーマンスを発揮したことに驚く。

どうしてかは分からないが、実力以上の力を発揮できたのはリサとあこの二人にとっては非常に嬉しい話で、上手く行っていることは自分の自信となり、更なる力の発揮につながる。

 

「(……そう言えば、この不思議な感じ……なんだろう?)」

 

「(この感じ、悪くはないわね……)」

 

ドラムを叩きながら、思考に余裕が出てきたあこはその不思議な感じに疑問を持ち、紗夜はその感じを悪いとは思わず、そのまま演奏を続行する。

 

「(あっ……この感じ、最近見せてもらったなぁ~……)」

 

「(それぞれが繋がって一つになる……或いは、何かを中心に集まっていくこの感じ……。まさか、実際にやって味わえる日が来るだなんて……)」

 

あこと同じく余裕ができたリサは、最近見せてもらった世界に自分が感じたものがあることを思い出し、友希那は雑誌等で見たり、父から聞いた話しを思い出した。

幼少の頃から積み重ねたものによって、非常に高い技術を誇る友希那の歌声。ただひたすらに弾き続けることによって、同年代と比べて頭一つ抜けた技量を誇る紗夜のギター。ブランクがあれどそれまで積み重ねていた技術は無駄ではなく、元の性格もあって高い安定感を生み出すリサのベース。憧れの存在を追いかけて基礎を作り出し、その力強い叩き方で確かな存在感を見せつけるあこのドラム。

これら四つが重なってできた演奏は、五分と言う時間がまるで一瞬のように過ぎ去っていく。

 

「「「「…………」」」」

 

そして、演奏が終わった頃には四人全員が暫くの間呆然と固まっていた。それだけ信じられない程上手く行っていた演奏だった。

四人全員が、今回の演奏を終えて余韻に浸っていたのを表すが如く、一言も口を動かさないし、表情も呆然としたままだった。

 

「あ、えっと……いきなりで悪いんですけど、オーディションの結果……どうなりましたか?」

 

「「……!」」

 

あこが気がついて問いかけてくれたお陰で、友希那と紗夜も弾かれたように、思考を現実へ戻す。

肝心なオーディションの結果を、まだ伝えていなかったのだ。そして、二人から下されるは……。

 

「そうだったわね……私の方では合格だけれど、紗夜はどうかしら?」

 

「ええ。私も問題ないと思います」

 

――合格だった。二人はチームの加入を認められたのだ。

 

「や……」

 

「や……」

 

「「やった~!」」

 

それを告げられたリサとあこは互いに顔を見合わせて、ガッツポーズを取った。

嬉しさが大きいのか、二人とも頬を赤く染めていた。もしかしたら緊張や、失敗したら終わりという恐怖からの解放も含まれているかもしれない。

――お疲れ様、頑張ったわね。そんな二人の様子を見た友希那は、優しい笑みと共に、この言葉を投げた。それを受け取った二人も、素直に礼を言う。

 

「さっき、すごい不思議な感じがしてたんだけど……何があったんだろう?初めて合わせたのに、勝手に体が動いて……」

 

「あっ、あこも感じてたんだ?アタシもそうだったんだよねぇ~……」

 

一通り落ち着いてから、思い出したようにあこが問いかけたことで、リサも同じものを感じていたことを伝える。

自分たち二人が感じたと言うのを知って、リサはそこで一つの考えに至る。

 

「てことは……二人も……?」

 

「そうですね。これは……」

 

リサの問いかけに紗夜は肯定し、友希那も首を縦に振って頷く。

 

「その場所、曲、楽器、機材……そして、メンバー。技術やコンディションではない、その時、その瞬間にしか揃い得ない条件下だけで奏でられる『音』……」

 

「バンドの……醍醐味とでも言うのかしら?ミュージシャンの誰もが体験できるものではない(・・・・・・・・・・・・・・)……」

 

『そういったことがある』と言う話しだけを知っていても、実際に体験したことが無かった故に今まで実感の沸かないものだったので、実際に体験できたことには驚きだった。

この『誰もが体験できるものではない』と言う部分は大きく、友希那と紗夜ですら、今日この時まで体験できてないものだった。

 

「雑誌のインタビューなどで見かけたことがあるけれど……まさか……」

 

「なっ、なんかそれって……キセキみたいっ!」

 

「その気持ち分かるなぁ~♪なんていうか……次の自分に『昇級(ライド)』したと言うか……♪」

 

「キセキ……『ライド』……?」

 

リサとあこ弾んだ様子を見せる。分かったことが嬉しいと言った様子だった。

一方で紗夜はあこの言った方はまだ分かるが、リサが何故『ライド』と言ったかがわからず首を傾げた。

 

「リサ……あなた、かなり影響受けたわね?」

 

「あ、あはは……自分でも予想以上に惹かれてるみたい……」

 

友希那はどうしてリサがそう言ったかに確信を持っていたので、問いかけてみればリサが照れた笑みを見せながら頭を掻いた。

これも『ヴァンガード(貴之のいる世界)』に関わったからこそ理解できたことなので、そう思えば少し嬉しくなった。

実際に友希那も、リサの言っていることは自分も経験したから理解できる。

 

「その言い方に肯定できるかと言われれば難しいけれど……」

 

とは言っても人によって必ず差異は存在し、一人が理解できてももう一人は理解できないと言うパターンも存在する。

今回の場合は『ヴァンガード』を知っていたが故に理解できた友希那と、そうでない紗夜と言う形になる。

ただそれでも、話しに聞いていただけのものを実際に知れたことは大きく、「でも、そうね……」と、紗夜の言葉は続く。

 

「皆さん、貴重な体験をありがとう。あとはキーボードのメンバーさえいれば……」

 

「ええ。メンバーが揃い、万全な体制で私たちの活動を始められるわ」

 

一気に二人も増えたことで残すのはキーボードのみになった。

その為、またメンバーを集めるのだが、今まで自分の目で確かめて話しかけに行っていたことと、今回のあことリサのように自分たちから申し出て来てくれたことの二つを照らし合わせ、友希那は新しく方法を思いつく。

 

「パートが固定されてしまっている以上、この人と思うメンバーを探して、私たちから声をかけに行くのは難しい……。そこで、私たちが取れるのはオーディションの募集をして来てもらうか、知り合いに訪ねて、オーディションに誘ってみるか……この二つの方法が自分たちの時間も取れていいと思うの」

 

友希那が難しいと言ったのは時期もそうだが、第一に自分たちが十分と思える技量を持つことが大前提で、さらにパートがキーボードのみになっているので、この手段で探すと時間が掛かり過ぎてしまうと言う大きな問題点があった。

自分でもこれ以上この方法は厳しいと思っていたところで、リサとあこが名乗り出てきてくれたのもあって、友希那はやりたいと思う人に来てもらって、オーディションで自分たちが判断する方が自分たちの時間も使えていいと思えたのだ。

 

「なるほど……そうなると、学校でも声を掛けて行くのがよさそうですね」

 

「そっち大変だろうけど、頑張って。アタシも聞けるだけ聞いてみるよ。他の友達にも頼んでみるからさ♪」

 

「(あっ、後で時間あったらりんりんに聞いて見よっと)」

 

このチームは現在、紗夜を省いて全員が羽丘の生徒であり、花女の生徒は紗夜しかいない。

そのせいで紗夜の負担がかなり大きくなってしまうので、リサは自分の知り合いや友人の多さを活かして、多くの人に聞いて回ることを決めた。

友希那は曲作りがあり、紗夜は花女を一人で回る羽目になる。そうなれば自身が持つ友好関係の広さを最大限に活かすのが、役割分担としては最適だと言える。

更には後江にいる彼らにも学校で聞き込みを頼めば、より聞ける範囲が拡大するのは大きな点だった。

あこも中等部の人たちに聞くならリサよりもやりやすいので、そちらを担当すると同時に余裕があれば燐子に聞こうと思った。

 

「決まりね。明日から可能な限り聞いてみましょう。そして、人が見つかり次第情報を共有……それでいいかしら?」

 

友希那が確認を取って、全員が頷いたことで今後の方針が決まった。

この時友希那は、基本的にはリサが自分からやるのは見えていたので、全負担を避けるために同じ教室の人だけでもいいから聞いて見ようと思った。

 

「さて……今日はもう時間だから、また明日から頑張りましょう」

 

「……もうこんな時間?気が付きませんでした……」

 

友希那の言葉を聞いた紗夜は、部屋にある時計を見てハッとする。

 

「ご、ごめんね……」

 

「今日いきなりやるのを決めたのは私だから、気にする必要はないわ。それに、あなたが来るまでは練習していたし……」

 

リサは自分が待たせてしまったと思って謝るが、友希那に言われてそう言えばと思い出した。

残りは途中まで同じ道のりを歩いて解散するので、その前に連絡先を持っていない人たちは連絡先を交換しておいた。

 

「今日はお疲れ様。それと、二人ともこれからよろしくね?」

 

労いの言葉と共に、友希那は柔らかい笑みを浮かべて二人に歓迎の言葉を送る。

技術最優先で選んだとは言え、共に演奏できる仲間ができることは嬉しいのだ。

 

「……はいっ!これから頑張ります!」

 

「もちろん!紗夜はこれから……友希那は改めて……よろしくね♪」

 

あこは満面の笑みで、リサはウインクを見せてそれに答える。

それを見た友希那は心の中で安心し、普段固い表情の紗夜も、入れたばかりだし仕方ないと考えていたことで小さく笑みを浮かべていた。

こうして蒼薔薇の芽は成長していき、少しづつ花に近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「……よし。俺の勝ちだな」

 

「ま、負けた……」

 

リサたちのオーディションが終わった少し後、貴之と俊哉で本日最後のファイトを行っていた。

結果としては貴之の後攻三ターン目にて『オーバーロード』に『ライド』。そのまま二回攻撃で畳みかけて俊哉のダメージを6にして勝利である。

イメージで繰り広げられたのは、『オーバーロード』となった貴之が口から業火を吐き出すと言う、シンプルながら強力な攻撃で俊哉を焼き払うというものだった。

 

「終わったし、上がろっか?」

 

玲奈の促しに頷き、店を後にした。

 

「じゃあ俺は向こうだから。じゃあな」

 

「おう。お疲れ」

 

一人だけ方向が違うので、大介は早々にお別れとなる。

その為、大介を見送った後は、三人で歩ていく。

 

「五年間の遠征漬け生活って言うけど、資金とかどうしてたんだ?」

 

「基本的に行くことが決まったら、交通費だけ母さんに出してもらってた。それ以外は自腹で、交通費も途中から完全に自腹だ」

 

「ああ……そんな感じか」

 

貴之の遠征費用が気になった俊哉が気になって聞いてみると、案の定な回答が返って来た。

月に渡される小遣いの量を増やしたのを機に、完全に自腹になっていたのだ。

ちなみにこんなことをやっていけたのは、一重に父親の仕事による収入の多さが影響しているので、貴之は感謝しかなかった。

 

「向こうに女の子のファイターっているの?」

 

「別の夢があるから俺程積極的ってわけじゃないけど、一人はいるぞ」

 

「ほんと?いつか会ってみたいなぁ……」

 

貴之から朗報を聞き出せた玲奈は、両手を合わせて空を見ながら願ってみる。彼の言う女子のファイターは引っ越し先のお隣さんで、同級生だった。

お互いが頑張る分野の話しを共有したいと言う思いが、彼女のヴァンガードを始めるきっかけで、貴之が料理を覚えようと思ったのは将来必要になるのを確信して、彼女に教えを頼んだことが起点だった。

貴之が変わらずに進み続けることができたのは、彼女の存在も一助していた。やはり理解者がいると言うのは心の支えになるらしい。

 

「何というか……お前の周りには必ず女の子が一人いる感じがするなぁ……異性と話す時の抵抗感ってどうなんだ?」

 

「抵抗感か……小さい頃からユリ姉や友希那、リサと関わり持ってたからか、全く持って無かったな……。でも、向こうじゃ総合的には同性の方が関わった人数は多かったぞ?」

 

実際誰かしら女子はいたので、俊哉の言っていることは間違いでは無かった。

『姉弟』や『兄妹』の男子は普段から異性と話す機会を得ているので、実際話すことには抵抗感が薄くなりやすいと言う話しを聞くが、貴之を見ていたらそうだろうなと俊哉は思った。

ただそんな貴之でも、異性と一緒にいた方が自然に見えるようなところまでは行っていない。

――そうなっちまったら、ちょっとヤバイかもしれないな……俊哉に答えながら、貴之が心の中で乾いた笑いをしていると、携帯が振動したので確認してみる。

 

「……おっ!あいつら成功したのか……!」

 

「どうしたの?」

 

「ああ、これを見てくれ」

 

それを見て貴之は思わず喜びの声を上げたので、玲奈に反応されたので、問いかけられた貴之は二人に携帯画面を見せる。

リサからCordによるチャットが届いており、内容は『オーディションには二人とも合格したよ~☆』と来ていた。

 

「おおっ!そっかそっか……あっちの子も大丈夫だったんだな」

 

「リサ以外にも誰かオーディションに参加してたの?」

 

「リサと同じ部活にいる中等部の子がドラムでな……これで四人になったから、後はキーボードだけか」

 

その朗報を見て俊哉は喜びの声を上げる。自分も彼女の想いを知っていたので、合格してくれることを祈っていた。

この中で唯一、玲奈があこのことを知らなかったので、貴之は簡単に説明した。

玲奈が納得したので、返信をしようとしたところで、リサからもう一通チャットが届いた。

その内容は『ありがとう。アタシたちの先導者さん♪お互い頑張ろうね』と言うもので、貴之はどうしたものかと頭を掻いた。

 

「まさかリサにまでそう言われるのか……」

 

「ああ……リサにも先導者って言われたか?」

 

貴之が頷けば、俊哉と玲奈はそうだろうなと言いたげな笑みを見せた。

それを見た貴之は、悪い気分はしないし、暫くすれば慣れるかと割り切ることにした。

考えを決めた貴之は、『どういたしまして。そっちも頑張れよ』と返信のチャットを送った。

 

「(さて……俺も負けてられないな)」

 

返信を終えて携帯をしまった貴之は、自分も進んでいく為に己を活気づけた。




Roseliaシナリオの5話までが終わりました。

変更点は
・始めからリサもオーディションに参加している。
・オーディションに参加しているため、リサもこの段階でメンバーに加入。

この辺りでしょうか。
次回が終わった辺りで、またヴァンガードファイトをメインにした話しを書いていきたいと思います。
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