順番としては、7、8、9、6の順番になるかと思います。
『と言うことで!無事にチームに入れたんだっ!りんりん、本当にありがとうっ!』
「(あこちゃん……無事に入れたんだ……)」
あことリサの二人が友希那のいるチームに入れた日の夜。部屋でインターネットを使って調べ物をしていた燐子に、あこからお礼のチャットが届いていた。
燐子はあこが友希那のチームに入る為の手伝いもしたので、無事にチームに入れたのを自分のことのように嬉しく思えた。
そんなこともあって燐子は『おめでとう。これからの練習頑張ってね』と打ち込み、返信を送った。
すると程なくして、あこから『りんりんに恩返しする気持ちで頑張るよ!』と返って来たので、思わず柔らかい笑みを浮かべた。
「(もう四人になるんだっけ……すごい人なんだな……)」
あこからオーディションに参加するのは自分含めて二人と聞いており、友希那の方に人が集まって来たのを知っていた燐子は改めてそう感じた。
何にも臆することなく、自分が磨き上げた歌で前に進み続けていく……。自分にはできないことを何の苦もないかのようにやっている風に見え、燐子はその姿を凄いと思っていた。
――私には……できないだろうな……。昔から引っ込み思案気味で、今一自分に自信を持てない燐子は、無意識の内にそう思っていた。
話しを聞いている限りでは、残りの空いているパートはキーボードらしい。燐子はピアノをやっていたのが影響してキーボードもできるので、パートの条件は満たしていた。
「(ここにいる四人と一緒にできたら……楽しいだろうな……)」
また、今日オーディションで音を合わせていた動画が送られて来ており、それを見せてもらっていた。
実はこの動画、オーディションを始める前にリサがこっそりと携帯で撮影しており、演奏の場面だけ切り取ってあこに送ってくれていたのだ。頑張った証として、二人で共有していたものである。
それを見た燐子もまた、この人たちと一緒にバンドをしてみたいと思うようになる。
「(でも……私が入っても……大丈夫かな?)」
しかしながら、それ以上に実力不足かもしれないと言う不安を拭いきれないでいる。これが理由で、燐子は踏み出そうにも踏み出せないでいる。
ただ、一緒にやれるのなら、それは間違いなく楽しいものだろうという確信も持っていた。その為、後は燐子自身の心持ちの問題だった。
そんなことを考えていたら、再びあこからチャットが送られて来ていて、『ところで、りんりんの知り合いにキーボードできる人っていない?もしいるなら、オーディションを受けたいかどうか次第でチームのみんなと情報共有しようって話しになってるんだっ』と言う内容だった。
そこで燐子は硬直する。自分がどうしようか迷っていた時に、あこからキーボードのできる人を知らないかと聞かれたからだ。
自分はキーボードをできるが、生憎自分の知り合いにキーボードをできる人はいなかった。それならいっそのこと自分が名乗り出てもいいのではないか?そんな思考が燐子の中に駆け巡った。
「…………」
自分ができると伝えるべくチャットを送ろうとして、タイピングを始める直前で手が止まる。自分の引っ込み思案な部分がそれを邪魔してしまっていたのだ。
ピアノではコンクールで何度も受賞している腕前を誇っているので、キーボードでも遺憾なくそれを発揮できるだろうとは思っている。しかし、自分の十分と相手の十分は違う。そう考えたら打とうと思っていた文を打てなくなってしまった。
あこが友希那に頼み込んだ時は、最初の一回目は漫然としすぎて受け入れられなかったが、二回目は目標や意志がはっきりとしていたのでオーディションに参加できている。
では、自分にあこのようなしっかりとした目標や意志があるだろうか?そう聞かれたら、素直には肯定できなかった。更には大勢の人がいる空間へ苦手意識があったので、それが拍車を掛けてしまう。バンドのチームに入ると言うことは、大勢の前でライブをすることになるのだから。
「っ……」
そうして燐子は苦渋の決断を下し『私の知り合いにはいないかな……力になれなくてごめんね?』とチャットを返した。
あこは自分が返事をしてくれるのを待っていたのだろう。思ったよりも早く『大丈夫。話しを聞いてくれてありがとうっ!』と返って来た。
――ダメだ。やっぱり……自信が持てない……。恐れず前に踏み出し、自分が望む場所に辿り着けたあこが、燐子には眩しく見えた。
「(私にも……そんな勇気が……ちょっとでもあれば……変われるのかな……?)」
時間的にそろそろ就寝に入るのだろう、『明日も早いから今日はもう寝るね。りんりん、また明日っ!』と言うチャットが送られて来た画面を見て、燐子は沈んだ表情になった。
* * *
「……と言うことなんだが、誰か知ってる?」
「ううん。知らなーい。寧ろ谷口君の方がそう言うの詳しくない?」
「ところがどっこい、俺の情報網に引っ掛かってくれないんだ……。まだバンドやってないから埋もれてるかもしれないってことで、頼まれて聞き込んでたんだ」
翌日の午前中の休み時間に、俊哉はクラスの人たちに聞いて見ていた。
朝に貴之から、「リサの伝言で聞いて欲しいって言われたんだが……誰かいるか?」と聞かれ、俊哉が「知らないから周りに聞いてみる」と言ったことから今に至る。
残念ながら今回も空振りに終わり、俊哉は引き留めて悪かったと言ってから自分の席に戻る。
「ダメだ……こっちは外れだ」
「いや、聞いてくれてるだけでも十分だ」
俊哉から芳しくない情報をもらっても、貴之は決して責めはしない。本来ならば自分がやるべきことを、率先して引き受けてくれたからだ。
バンド関係の話しならば、四人の中では俊哉が最も詳しく、この付近ではバンドに興味を持っている人が多い故に、その手の趣味を持っている俊哉が圧倒的に適任であることもそれを一助していた。
「つうか、俊哉の情報網で引っ掛からない段階で前途多難だなこりゃ……」
「リサともう一人の子が入ったら今度はこれかぁ……。しかも二人とも予想外のところから来たパターンが多いし……」
大介と玲奈も頭を抱えた。友希那がメンバーを探して以来、ライブハウスで見つけられたメンバーは紗夜一人のみ。リサは辞めていた身から復帰、あこは全く知り得ない場所から来てくれた。
最早奇跡レベルでの見つかり方だと言うのに、また更に一人を探さなくてはいけないと言うのは非常に厳しいものだった。
「そう言えば、メンバーを見つけられなかった場合はどうするの?」
「最悪はキーボードは音源だけになるって話しだな……。無理してレベル低いメンバーを集めるくらいならそうするってよ」
俊哉に答えを聞いた玲奈は、頭を抱えた。それだけは何としても避けたいと思った。
どうせなら全員揃えたいと思うのもそうだが、一つだけ音源でやるというのに物凄い悲しさを感じる。
「後は、行けるやつがファクトリー行って聞いてみるしかねぇか……」
「そうなるか……。だぁぁくそぉ……
貴之に同意しながら、俊哉は悲しき現状に嘆いた。
後江は他の二校と比べるとヴァンガードファイターの数は多いが、バンドをやっている人は相応に少ない。
更に今回行ける人は貴之しかおらず、大分苦労するだろうことは予想できているので、ダメな場合はまた後日聞き込みしようと決まっていた。
今日の放課後ファクトリーで聞き込みに行くことが決定したところでチャイムが鳴ったので、授業の用意を始めた。
「(とにかく、やれるだけのことはやってみるか……)」
――あまり上手く行かないだろうけどな……。貴之は珍しく少々後ろ向きな考えになりながら授業を受けた。
* * *
「ありがとうございます……手伝ってもらって……」
「いえ、これくらい大したことではありません」
俊哉が聞き込んでいた時間から少し進んで、再び休み時間となり、紗夜は次の授業の資料運びをする燐子を手伝っていた。
燐子自身、一人で大丈夫だと思っていたら予想以上に量が多くて難儀していたので、紗夜に助け舟を出してもらえたのはありがたいことだった。
「(私がギターをやっていることを知っている人はパートが合わず、知らない人には驚かれた後知らないと言われる……。やっぱり、私は全体的に固い雰囲気ができてしまっているのね……)」
紗夜は先程まで複数の人に聞いて見た反応を思い返すと、少々頭が痛くなった。
自分でも予想以上に結果が芳しくないし、何より自分が積極的に話しかけて来たことに驚いている人が多い。自分がギターをやっていることを知る人ですら、何人かそう言った反応を見せていた。
「ところで白金さん、一つ聞いてもいいですか?」
「え……?えっと……何を……ですか?」
しかし聞かないことには始まらないので、紗夜は燐子に問いかけてみる。
すると最初の一瞬だけ驚いた様子を見せたが、元々内気な性格であることをから大きな変化はなく、特に気にすることは無かった。
燐子の場合は、これ以外にも紗夜が友希那と一緒にバンドを組んでいたことをあこから聞かされているので、それも驚きの少なさに繋がっていた。
「実は私、ギターをやっていて……バンドのチームメンバーを探しているんです」
「バンドのメンバーを……ですか?」
――あれ?あこちゃんにも……昨日聞かれたような……。紗夜の話しを聞いていた燐子はその先が予想できた。
最初はあこに聞かれたのを断ってしまい、そのせいでチャンスを逃したと思っていたが、少し安心したような気がする。
「今現在キーボードの人が中々見つからない状態で困っているところなんですが……白金さんは、キーボードをできる人を誰か知っていますか?」
「キーボード……」
今ここで踏み出せば、もしかしたら自分も入れるチャンスが生まれるかもしれない。
そう思ったが、やはり昨日もあった後ろ向きの考えがそれを邪魔してしまう。
「いえ……特に……知っている人はいない……です」
その結果、再び燐子はいないと伝えた……否、伝えてしまったと言うべきだろうか。
しかし、紗夜はそんなことを特に気にすることはなく「そうですか」と短く反応を示した。
「もし、誰かがキーボードで参加したいと言う方がいたら、その時は教えてくれると助かります」
「は……はい……」
自分が気圧されたと思ったのか、紗夜は「いきなりこんな話しに付き合わせてしまってすみません」と謝るが、燐子は大丈夫な旨を反射的に伝える。
何しろ自分の引っ込み思案で、勇気を持って前に進めないことに嘆いているのであり、紗夜のことは全く持って悪いとは思っていないからだ。
「(どうすればいいんだろう……?わからないよ……)」
本当はあこの誘いに乗って、みんなとバンドをしたいと思うが、せっかくのチャンスを二回も逃してしまった。
それが燐子に取って大きな悩みとなり、自信を無くさせてしまった。
* * *
「ごめん……誰もいなかった……」
「アタシも外れ……」
「私の方も誰もいない……状況はよくないわね」
昼休みとなって、また三人で集まって成果を話し合った。
結果は残念ながら全員空振り。バンドをしていない人がいないわけではないのだが、どうしてもパートが違ったり、もうチームを組んでいたりする人たちばかりだった。
中には「ごめん。湊さんの足引っ張りそうで怖い」と言って断る人すらいた。実力を最優先で選んでいた影響が出ている形だった。
この中では最も友人が多いリサですら外れなのである程度結果は見えていたともいえるが、それでも誰一人引っ掛からないのは少々厳しいところだった。
「あっ、貴之から……向こうも外れみたい」
「後江は女子校二つと比べてバンドやってる人少ないもんねぇ……」
貴之からCordで送られて来たチャットの内容は『すまん。こっちには誰もいない』だった。
それを聞いた日菜は、後江と女子校二つのバンドをやっている人とヴァンガードファイターの比率を思い出す。
バンドをやっている人の少ない後江で特定のパートを探すのは、かなり厳しいことを証明された瞬間だった。
「でもさ……友希那ちゃんの思う十分な実力を持っている人で探してて、四人も集まったんだから……五人目も意外とすぐに見つかりそうな気がしない?何となくだけど、あたしはそんな気がする」
「……確かに、そうかもしれないわね」
一瞬だけ沈黙した空気になっていたが、日菜がそう言ってくれたおかげて希望的観測もできた友希那は少し気が楽になる。ここで日菜が「四人も」と言っているのは友希那を含めているからで、今日の朝、リサから自分ともう一人がメンバーに入れたことを教えて貰っているからだ。
今まで全く見つかっていなかったと言うのに、紗夜を見つけ、リサとあこが入りたいと言ってくれたおかげで流れるように三人も見つかっている。
――そう考えれば、思わぬところでまた見つかるかもしれないわね。今までの見つけ方を思い出した友希那は、自分たちで動くのもそうだが、気長に待つ心は持っておこうと考えた。
「放課後は練習なんだっけ?」
「うん。今日はスタジオ取れてるからね」
「メンバーを探すにしても、ライブハウスで誰かがいるかどうか……それくらいになるわね」
放課後の予定を聞いた日菜は難しそうな顔を見せる。もうそんなに予定を入れていることに対し、少々思うところがある。
――どこか一つだけ開けて、メンバー探しの日に費やすのもいいんじゃないかな?何も無理に練習をやるくらいならと言うのが日菜の考えだが、聞いた話しでは自分たちの練習時間を減らさないのが前提条件にあり、チームで決めたことなので、日菜もこれは自分が口出しすべきことではないと決断している。
そうなれば、残された手段は貴之に人の多そうな場所を教え、探すのを手伝うだけだろうか?姉が自分を避ける傾向にある以上、自分にできることはここまでだった。
「あっ、そうだ。リサちー、タカくんに聞き込み頼むんだったらさ……」
思い立ったが吉日。日菜は早速自分の思ったことをリサに伝え、貴之へCordによるチャットを送らせる。
すると一分もしないで、『分かった。そこも探してみる』とチャットが返って来た。
自分ができることは一通りできたので、日菜は一仕事終えたような気分を感じた。
「(これでこっちはやれたから……後は今日の収穫に期待だね♪)」
今日は相当動き回ることになるだろう貴之を、日菜は心の中で応援した。
* * *
「えーっと……俺が今日回るべき場所は、っと……」
放課後、他の三人と別れた貴之は、商店街に移動しながらリサから送られて来た回って見てほしい場所を確認する。
最終的にファクトリーに立ち寄ることのなら一周ぐるりと回るような感じで進むのがいいと思い、それに合わせて聞き込みの為に回るルートを考える。
リサと一緒に商店街を回っていたので道のりには困らないが、わざわざ地図まで用意してくれたのはとてもありがたいことだった。
「貴之」
「……ん?おお、お前らか」
声をかけられたのでそちらを振り向いて見れば、リサと友希那がいた。ちなみに声をかけて来たのは友希那だ。
今日回る場所を確認していたら、いつの間にか羽丘の校門前まで来ていたらしい。
「その様子だと……お互いにこれからってところか?」
「うん。手伝ってくれてありがとうね」
「なんてことはない。お礼ならメンバー揃えてのライブで頼むぜ?」
「ええ。最高のライブで答えて見せるわ」
リサに礼を言われた貴之は個人的な頼みを口にし、それを聞いた友希那が自信を持った笑みで答える。
友希那が笑みを見せるタイミングでリサもウインクをしたので、それを見た貴之は「それならよかった」と楽しみな様子で頷く。
時間もあるから移動しようとしたところ、友希那を呼ぶ声が聞こえたのでそちらを振り向けば、こちらに向かってくるあこの姿があった。
「どうにか合流できた……!宇田川あこ、ただいま到着ですっ!」
「よく来たわね。さぁ、行きましょうか」
あこの元気よく可愛らしい敬礼を見て満足し、友希那は三人に移動を促した。
流石に広がりすぎると危ないので、前は友希那とあこ、後ろは貴之とリサと言う形で二列になって移動を始めた。
「紗夜はもう先に行ってるみたいね」
「もう着いてるんだ?早いねぇ~……」
Cordによるチャットで紗夜から『こちらはライブハウスに到着しました。皆さんをお待ちしています』と言うチャットが来ていた。
このチャットはバンドで組んだチーム全員が見れるようにグループを用意してあり、紗夜がそちらに送ってくれたので全員に届いている。
友希那が確認したので、この場にいる三人もその旨を理解でき、チャットを確認した友希那は代表として『こちらは校門前から出たところ。三人揃っているわ』と返した。
「それにしても、後江でメンバー探すのって結構難しくないですか?」
「大分難しかったぞ……というか、俊哉の情報網に引っ掛からない辺りで相当大変なのは予想できてたが……まさかここまでとはな」
「ああ……やっぱりそうだよねぇ~……」
あこに聞かれた通り、後江でメンバーを探すのは非常に難しい。
貴之からすると、一番楽なのが俊哉から知っている限りで高い技量を誇る人を教えてもらい、その人に事情を伝えて聞いてみるのが一番楽なのだ。
それができないとなれば探す時に苦労することになるので、リサも困った笑みを見せながら頬を自身の指で撫でる。
本当なら自分たちがやるべきだと言うことは重々承知していることだが、エントリーの受付期間には限りがあり、その間にも技術を高めなくてはいけないので、どうしても両立させるのが難しい状況にある。
今回は貴之が放課後一人になってしまう建て前、時間の浪費を避けるべく引き受けてくれたので、ライブの成果で恩を返すというのを条件に頼んだ形になる。
「ベーカリーの方が時間かからなそうだし、先にこっちから行ってみようと思う」
「頼んでいる身だから、その辺りは任せるわ。見つけたら教えて頂戴」
友希那の頼みを受け、貴之は確かに頷いた。任せてくれていいと言う意思表示だった。
「あっ!友希那さん。昨日言ってた雑誌を持ってきたんで、忘れない内に渡しちゃいますね」
話しが決まったので丁度いいと思ったので、あこは鞄の中に手を入れて中から一つの雑誌を取り出す。
取り出されたのはゲーム系の情報雑誌だが、その雑誌に貴之は見覚えがあった。
「ああ……それ全国大会の使用デッキ乗ってる時のやつじゃねぇか。ということは……俺のことを?」
「ええ。新しく作っている曲はヴァンガードをテーマにしているから、何かを掴めるかもしれないと思ったからね……」
――でも、それだけじゃないわ。友希那には、もう一つの理由があった。
今言ったことが建て前であるなら、次から言うことは本音になる。
「私は……あなたの走ってきた道のりを知りたいと思ったの……それじゃダメかしら?」
「……!」
友希那が得意げな笑みを浮かべた横顔を見せながら問いかけて来て、貴之は心臓が早鐘を打って、顔が赤くなるのを感じた。自分のことを知りたいと堂々と言って来たこともそれに拍車を掛けている。
しかしながら、それと同時に嬉しいと思う気持ちが貴之の中にはあり、驚きの表情はすぐ笑みに変わる。
「そんなことはない。なんだったら、今度ゆっくり話せる時に話したりもするよ」
「っ!」
貴之が答えながら柔らかい笑みを浮かべたのが見え、今度は友希那が顔を赤くした。心臓も早鐘を打っていた。
その硬直がすぐに笑みに変えることができたのは、話しをしてくれると言ってもらえた嬉しさからだろう。
「なら、その時に聞かせて貰うわね?」
「ああ。聞きたくなったらいつでも言ってくれ」
話しが決まった二人は互いに笑みを見せながら少しの間見つめ合い、その状況にくすぐったさを感じたのか、小さく笑うのだった。
「リサ姉……あこの気のせいかな?友希那さんのことが、とても柔らかい人に見える……」
「大丈夫♪友希那は元々、ちょっと大人しめだけど柔らかい女の子だよ」
――でもホント、あの頃から戻って来れて良かったよ。友希那の荒れていた時期を知っているリサは、改めて安堵する。
何しろあの時期にあこが友希那と出会っていたなら、一歩間違えれば心が折れている可能性がある。何しろ自分もバンドから離れてしまっているから、友希那のことを止められない。
しかし、自分の離脱が今の落ち着いた状態に至るきっかけの一つだから、自分がいてもその時だった場合は止めようが無いだろう。一瞬陰鬱な表情になりかけたリサだが、その表情はすぐに打ち消した。
過ぎた話しだし、何より確率の話しをしたってしょうがない。そう考えたリサはこの考えを頭の中から放り捨てた。
「えっと……もう大丈夫ですか?」
「あっ、もう大丈夫よ。読み終わったら返すわね」
「はいっ!それで大丈夫です」
あこに声をかけられたことで反応した友希那は、雑誌を受け取りながら問いかける。
彼女が満足な笑みで答えてくれたので、同意を得ることを確認できた。
その後は話しながら道のりを歩いている最中、四人の姿を偶然目撃した人がいる。
「(あっ……あこちゃんと友希那さんだ……。残りの二人は……バンドの人……?でも……彼は違う……よね……?)」
目撃したのは燐子で、校門を出て少ししたところ、偶然四人が並んで歩いているのを見かけた。
その中でも、貴之だけはハッキリと違うと断言できた。理由はあこが友希那に頼み込みに行く直前、彼に話しに行ったのを覚えていたからだ。
「探してくれって言われた場所がダメだったら、ファクトリーへ言って探して聞いてみるよ。思わぬところで手がかりが掴めるかもしれないし」
「ええ。切り上げる時になったら、見つけようともそうでなくとも、一度連絡を頼めるかしら?」
「分かった。留意しておく」
会話の内容から、何やら頼まれごとされているようであることが分かる。恐らく時間が空いてしまっているのだろう。
商店街の方へ行くのか、友希那たちは話しを続けながらそちらの方へ足を運んでいくのが見え、燐子は立ち止まってそれを見送っていた。
「(ど……どうしようかな……?)」
商店街の方向は、丁度自分の帰宅する方向と被っているので、話しかけるチャンスは十分にある。それ故に燐子はどうしようかで迷う。
――でも……何もしないと……また昨日みたいになっちゃう……。それを嫌だと思った燐子の想いは、自分の行動を決定した。
「(商店街に……行ってみよう……)」
――誰かに……会えればいいな……。微かに希望を抱きながら、燐子は商店街の方へ行った四人の後を追うのだった。
* * *
「ダメだ……全くいやしねぇ」
友希那たちと別れて商店街を回ることおよそ二時間弱。今回ってみた店が外れだったことで貴之は項垂れた。
人が多そうで、そこまで時間が掛からない場所を中心的に頼まれて回ってみているものの、流石に条件が厳しすぎるのか一人も引っ掛からない。
更にこれでファクトリーともう一つの店舗以外は全て回ってしまったので、残りはその二つに賭けるしかない状況になっていた。
「(仕方ねぇ……。休憩も兼ねて一旦最後の店舗行くか)」
喉が乾いて仕方がないのと、ファクトリーは一番最後に行くと決めていることから、貴之はもう一つの店舗へと足を運ぶ。
あまりゆっくりしすぎていると友希那たちが先に上がってしまうので、急ごうとして少しだけ足が速くなる。
今回は練習時間を長めに取れているらしく、メンバーが増えたから本格的に音を合わせるので、長い時間を使えるのは嬉しいことだと友希那は行っていた。
これに関しては紗夜も「練習時間が長いこと自体はありがたいことです」と言っているようで、更に残った二人も「疲れはするけど、あのメンバーでやるならそれはまた嬉しい」と言っていたので、問題は無いだろう。
「(見つからない……あの男子を省いたら……ライブハウス……だよね……?)」
一方で、燐子も四人の内誰かを見つけようと商店街を回っていた。
三人が練習に行ってしまっていることを確信して、一人だけ商店街を回ると言っていた貴之を探しているのだが、すれ違いと行き違いが相次いで見つけられないでいた。
時間もかなり経っているし、ひょっとしたらもう帰っているのかもしれない。そう考えた燐子の表情が落胆の色に変わる。
「(次の場所で……見つけられなかったら帰ろう……)」
本当はあこに状況を聞いてしまうのが一番楽な方法なのは、燐子自身もよく分かっている。
しかしながら、昨日の段階であの返答をしてしまっているので、どうも自分からその話題を振るのが難しいし、仮にその話題を振られても言いづらい状況になってしまっていた。
今になって、今日の午前に紗夜に聞かれた時のタイミングか、昨日の夜にあこに聞かれたタイミングに戻りたいと燐子は思った。
「(いなかったら……嫌だな……)」
「(……?この曲がり角……この前もリサとぶつかったような……)」
燐子が不安を抱えたまま思い足取りになるのと同じタイミングで、貴之は自分の歩いている道のりに
そして、考えごとをしながら歩いている貴之と、不安で胸がいっぱいになっている燐子は、二人とも周囲に気を配ることを忘れてしまっていて――。
「うお……」
「きゃっ……」
案の定曲がり角でぶつかってしまうことになる。
一応貴之は曲がり角前で速度を落としたとは言っても、リサと殆ど変わらない背丈をしているので、結果は前回と同じになる。
「……!」
「え……?」
悪い方へ予想していたことで反応できた貴之は、咄嗟に手を伸ばして燐子の手を掴み、引っ張り上げるような形で転びそうだった彼女を引き戻してやる。
助けられたことと、目の前に探していた人が現れたこと。この二点で燐子は完全に硬直してしまった。
「どうにか間に合ったな……大丈夫か?」
「え……?あっ、はい……!大丈夫……です……」
安堵した貴之が問いかけて来たことで、硬直から解き放たれた燐子は慌てながら大丈夫であることを伝える。
正直なところ、燐子からすれば探していた人がいきなり現れたので、まだ驚きが残っている状態だった。
――何から話せばいいだろう?燐子が迷っていると、自分の様子に気が付いたのか貴之が反応を見せる。
「もしかして……俺を探してた?」
「え……!?ええっと……その……」
貴之が問われて図星だった燐子はどう答えるべきか迷い、酷く焦った様子を見せる。
この時見せた燐子の慌ててぶりを見て、貴之は燐子が面と向かって話すことが苦手な人かもしれないと考えた。
「ああ、別に怒ってるわけじゃないんだ……。だから安心して話してくれ」
「……!よかったぁ……」
ここを離れた直後に出会った少女が更に内気になった感じだと思った貴之は、いつでも話していいよというのを伝え、それを聞いた燐子はホッとして胸を撫でおろす。
貴之が聞く用意をしてくれたおかげで、少し気が楽になった燐子は一度深呼吸して落ち着かせてから口を開く。
「実は……私……キーボードができるんです……」
「……!」
燐子からの告白は、貴之にとって目から鱗だった。
キーボードをできる人を探していたら、まさかの自分からこちらに話しかけに来てくれたのだ。自分でも笑ってしまう位引きの良さだと感じた。
驚いた貴之の顔が見えたのか、燐子がまた慌てた様子に戻ってしまったので、貴之は再び大丈夫だと伝えれば、燐子は再び落ち着きを取り戻す。
「昨日はあこちゃんから……今日も氷川さんから……聞かれていたんです……キーボードをできる人はいないかって……。でも……その時はいないって答えちゃって……」
「本当は自分がキーボード担当で入りたいけど自信がない……そんな感じか?」
燐子話しを聞いて、予想のついた貴之が聞いてみれば燐子は頷いた。
――そういや、あいつも最初の頃はそんな感じだったっけ?作った料理を自分に食べてもらったのが変わり始めだった少女のことを、貴之は思い出していた。
友希那と俊哉から聞いた話しでは、キーボードはピアノをやっている人がそのままやることもある楽器らしく、キーボードをしている人はピアノ経験者の可能性があるらしい。
とは言っても、今から彼女の家に赴いてピアノまたはキーボードを聴くと言うのは、時間的に厳しいし、何よりも素人の貴之が聴いてもわからないことだらけで、しっかりとした評価ができない可能性が高い。
「そう言えば、友希那のチームに入りたいと思ったきっかけは何かある?」
「きっかけ……ですか?」
キーボードの技術云々は自分には不向きと判断し、貴之は話しの話題を切り替えてみる。
それなら答えられると分かった燐子は「そうですね……」と前置きを作り、これを聞いた貴之もいつでもいいよと目で伝えた。
「きっかけ……というか……始めて友希那さんの歌を知ったのは……この前のライブハウスです……あこちゃんが……『自分だけのカッコイイ人』を見つけたから……それを教えたいって……」
「ああ……そう言えばあの時、あこと一緒にいたな」
貴之は当日のことを思い出す。
ライブハウスから出た直後にあこに友希那のことを聞かれた時、後ろで見守っていたのが彼女だった。
自分のこともしっかりと覚えてくれているのに安心感を感じ、燐子はお礼を言ってから話しを続ける。
「本当は……大勢の人がいる場所は……とても苦手だったんです……でも……友希那さんの歌を聴いてる時は……それを忘れられるくらい……夢中になれていたんです」
「(やっぱり……友希那は凄いな……)」
貴之は友希那のことを称賛する。自分もそうだが、周りからも想像以上の力を、彼女の歌は持っていた。
「昨日の夜……あこちゃんから……オーディションで音を合わせた動画が送られて来たんですけど……」
「(あっ……それ絶対リサから回ってきてるな……)」
送られて来たというのを聞いて貴之は確信した。
昨日の段階で貴之はリサから送られて来た動画を見ていたのだが、内容が燐子の言っていたものそのままだった。
――ひょっとして、全員に送ったか?一瞬そう思ったが、友希那からはそんな話しは聞いていないので、実際はわからない。
「あの四人と一緒に合わせられたら……楽しいだろうなと思って……私がキーボードをできること……言おうとしたんですけど……言えなくて……」
途中から表情が明るくなり、楽しそうに話していた燐子は嫌なことを思い出したのか、暗い表情になっていく。
この時、話しを聞いている途中までは仲の良い少女と重ねていた貴之だが、考えが変わってきた。
「(この子……もしかしてだけど……あいつと言うよりかは……)」
――昔の俺と……似て非なる感じだな?それが彼の出した結論だった。
ここで言う貴之の『昔の俺』とは、友希那の歌に導かれてからヴァンガードを始める直前までの時期を指す。
共通点としては、新しく踏み出したいが踏み出せないでいること。違うのは、当時の貴之が『踏み出す準備はできていても、踏み出したいと思うものがない』のに対し、今の燐子は『踏み出したいと思うものは既に見つかっているが、踏み出す勇気がない』ことにある。
また、友希那の歌に惹かれるまでは夢中になれるものがないし、踏み出したいとすら思っていなかったので、その時期は今の彼女により近い時期でもあったと言える。
「このままじゃ……伝えたいことも伝えられないって……分かってるんです……でも……いざ話そうとすると……怖くなって……」
「……もう大丈夫。ありがとうな……最後まで話してくれて」
昨日と今日で上手く行かなかったことを二度も思い出し、次もダメだったらどうしようかと言う不安に押しつぶされそうになった燐子は、話しながらも目尻から涙が溢れそうになる。
これ以上無理に話させてはいけないと感じ、貴之はハンカチを渡してやる。
礼を言いながら受け取った燐子はそれで涙を拭い、貴之は「今度返してくれればいいから」と伝える。
「俺も……小さい頃は、夢中になれるものが何も無かったんだ……」
「……え?」
話してくれた礼もあるが、自分のことが参考になればと思い、貴之も昔のことを話す。
当時の貴之は特に夢中になれるものは何も無かったし、特にそれを探そうとも思わなかった。
「そんな時に出会ったのが友希那の歌でな……あれには心を持って行かれたよ」
「……?友希那さんと……知り合い……ですか?」
「ああ。俺と友希那は幼馴染みでな……五年ぶりにこっち来てまた会えたんだ」
「そうだったんですか……」
始めて知る情報に驚きながら、燐子は真剣に話しを聞く。
その中で、どちらも友希那の歌に惹かれた者同士であると言う共通点が見つかったのは、燐子にとって少しの安心を与えた。
「話しを戻すけど……その後友希那の歌を聞いて、夢中になれるものを探した俺は一つ……心から夢中になれるものを見つけた……」
自分のことを話しながら、貴之はポケットに手を入れてケースを取り出し、一枚のカードを取り出す。
「それが
「ヴァンガード……確か……『惑星クレイ』に降りて……先導者となって戦うカードゲーム……でしたよね?」
燐子はヴァンガードを知っていた。
自分が買っているゲームの情報雑誌で度々取り上げられているゲームだったので、よく覚えている。
小さい頃に金銭面の厳しさや、それよりもピアノが好きだったことから、今までやらないでそのまま時が流れていた。
「こいつで全国大会優勝をしたい……そう思えるくらい夢中になってる」
「全国大会……」
貴之の持つ高い目標を聞いて、燐子は一瞬だけ呆然とする。
自分が好きでやっていたピアノやゲームも、基本的には好きだから上手になりたいと言う気持ちでやっていて、そこまでは考えていなかった。
「すごいな……そうやって……前に進み続けられるのが……ちょっと羨ましいです……」
「……そうか?そう言われるとちょっと照れるかな」
燐子は羨望を抱いた。あこもそうだが、自分にはできないと思っていることをできるからだ。
顔を合わせたのは二回目だが、始めて話した人にそう言われると嬉しさを感じ、貴之は笑みを見せながら頬を指で撫でる。
「だけど……何も俺一人で進み続けられたわけじゃないんだ。多くの人と戦って学んだり教えたり……切磋琢磨して進んできたからな」
「多くの人と……」
貴之の話しを聞いた燐子は、その部分を呟く。
彼が進んできた道は一人では絶対に成立することは無い。きっかけをくれた人や導いてくれた人……そう言った様々な人がいるからこそ成立した道なのだ。
「更に言ってしまえば……俺は共に戦う『
話しを聞いている燐子は、貴之が自分は一人では何もできなかったことを伝えようとしているのではないかと感じた。
こうして話しを聞いてみたところ、燐子自身も『一人は心細くても、誰かが一緒にいれば平気な気がする』のではと思い始めていた。
「ああ……悪いなこんな話しを長々としちまって……」
「いえ……大丈夫です……」
本来は燐子が友希那のチームに入りたいが、自信が無いのでどうにかしたいと言う相談だったのに、気がつけば自分のことを話していたのに気づいた貴之が謝る。
燐子自身は自分を気遣ってくれてのことだと思っているので、然程気にならなかった。もしかしたら自分が変わるきっかけが作れるかもしれないと思うものが見つかっただけでも十分だった。
「えっと……私も……『
「俺は構わないけど……何か思いついた?」
「もしかしたら……私が変わるきっかけが……見つかるかもしれないと思って……」
燐子は理由を話しながら「ダメ……ですか?」と首を傾げながら聞く。
しかしながらその表情は影があるものとは程遠く、微笑みが見える。恐らくは前に進みたい気持ちが勝ったのだろう。
「分かった。そう言うことなら『
彼女が望むのなら、その手助けをしよう。そう決めた貴之は、燐子を連れて『カードファクトリー』への移動を決意する。
幸いにも友希那たちはまだ練習時間が残っているので、急げばギリギリで直接言いに行く時間ができる。となれば善は急げだった。
貴之の促しに燐子が頷いたので、移動を始める。幸いにもファクトリーへ移動する途中だったので、すぐに着ける距離なのが救いである。
「(予想外なことになったけど、この子が前に進めるのならそれでいい)」
――全力でサポートしてやるから、チャンスをものにしてくれよ?移動しながら、燐子がきっかけを掴んでくれることを貴之は祈った。
燐子がメンバーに入るまでの展開に大幅な変更が入りました。
・あこにキーボードをできることを伝えていない。
・紗夜にもキーボードをできる人がいないかを聞かれているが、答えられなかった。
・送られて来た動画に自分のピアノをまだ合わせていない(原作だとあこが寝落ち後、今回はチャット中なので、これはやむ無しかも)。
・メンバー探しは周りの人たちにも手伝って貰っている。
主な変更点はこの辺りでしょうか。恐らく今回がぶっちぎりで変更点の多さを持っていますね。
Roseliaのメンバーでヴァンガードに触れる二人目は燐子になりました。
初期プロットの段階ではリサが二番目でしたが、オーディションでの流れから一度見直した結果こうなりました。
次回はこのまま燐子の初ファイトの流れになります。
……正直使わせようとしているデッキで賛否両論起きそうな予感もしますが、合わないと思わせてしまったらごめんなさい……(汗)。