先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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本文が今作ぶっちぎりで多い文字数になりました。
長すぎると感じたら本当にすみません(泣)。


イメージ10 望んだ運命(イメージ)

「……とまあ、ここまでが『クレイ』の世界観なんだが……どうだろう?」

 

「地球のIFみたいな感じ……なのかな……?『NFO』の世界に……化学も混ざったみたい……」

 

『カードファクトリー』に入店してすぐ、デッキが並んでいる場所の前で『クレイ』がどんな場所かを説明した。

友希那の時はドラゴンや悪魔に対してあまりいい反応を見せなかったが、燐子は予想以上に理解できているよう反応を見せる。

その理由は、貴之もプレイしたことのあるゲームの名前が出てきた。

 

「おっ……『NFO』やってたんだ?俺もヴァンガードのコラボやってる時だけ触れてたんだよな……」

 

「今度……一緒にやってみますか……?あこちゃんも混ざって……三人になりますけど……」

 

「それはいい案だな……それなら、今度時間ある時にやろうか」

 

この二人の言っている『NFO』とは、国内で最もプレイされているオンラインゲーム『Neo Fantasy Online』の略称で、燐子は普段からあこと一緒にこのゲームで遊んでいる。

貴之もヴァンガードとコラボしたイベントを行っている最中に触れていて、限定の装備だけは獲得を済ませていた。これはイベントの期間の長さも一助していて、期間が短ければ確実にプレイを断念していたものだった。

燐子からさりげなく誘われたので、貴之はそれを承諾する。その時しかやっていないので育成が中途半端なことを伝えれば、燐子は大丈夫だと言ってくれた。

ちなみに『NFO』の世界観は、魔法やドラゴンなどが忘れられていない代わりに、科学が乏しい世界になっている。

 

「あっ……!」

 

「……どうした?」

 

ここまで話していて、燐子は一つのことに気がついて声を上げる。

その表情は未知なるものに触れたり、普段の自分なら絶対にしないことへの恐怖等ではなく、前向きなものだった。

 

「私……今……自分から人を誘えた……」

 

「……!本当だ……」

 

燐子が安堵したような、嬉しそうな様子で言ったのを聞いて、貴之もそこに気がつく。

恐らくは、先程自分から頼むことができて小さな自信に繋がり、その相乗効果が出始めているのだろう。

 

「変われる……のかな……?」

 

「きっかけがあれば誰だって変われる……。だから大丈夫」

 

燐子の問いには肯定も同義の言い方で返す。

そう言ってもらえれば燐子も安心し、明るい表情が継続する。

 

「ってああ、そうだった……ヴァンガードの方に話しを戻すか。デッキが必要になるから、どの『クラン』のデッキにするか決めよう」

 

「えっと……『クラン』はどんな組織かを教えてくれるんでしたよね……?」

 

「ああ。気になった『クラン』があったら教えてくれ。その時は答えるよ」

 

話しが脱線しているのに気が付いた貴之が話しを戻す。

幸いにも燐子は『クラン』がどんな扱いなのかを知っているので、細かく説明する必要はなかった。

イメージが大切というのを聞いていたので、燐子は自分が選んでいる傾向と『クラン』を照らし合わせながら選んでみる。

普段『NFO』では魔法系、後方で戦う。バンドのパートはキーボードと所謂補助系が多い傾向にあるので、そのような印象に見えるクランを中心に探してみる。

何しろ、ヴァンガードには『イメージは力になる』という言い伝えがあり、ユニットの姿になった自分を想像(イメージ)できなかったら戦いづらくて仕方ないだろうと言う考えだった。この考えは貴之自身が「俺もイメージを広げるためにやりやすい方法は模索した」と言っているので、それが後押ししている。

思い切って普段の自分から路線変更をしても良かったが、背に腹は代えられないに近い原理でそれは断念する。やってもいいがそれはまた次の機会だと燐子は自分に言い聞かせる。

 

「……この『オラクルシンクタンク』は……どういう『クラン』ですか?」

 

「『オラクルシンクタンク』は神託魔術や未来予知、占術などの魔法と科学的推測を駆使してコンサルティングや経済予測業務を行う巨大企業でな……恋占いから国の行く末を占う大規模な行事にいたるまで、情報を中心としたありとあらゆる産業を一手に担っている……何というか、『運命を見通すクラン』ってところだ」

 

「運命を見る……」

 

悪くはないけど、何か後一声欲しいと燐子は思った。ただ見るだけで、その後がただ従うだけでは今までの自分と変わらないからだ。

そう思って顎に手を当てながら悩んでいると、その様子を見ていた貴之が察しを付けて、そのもう一声を出してくれた。

 

「見通すと言っても、見える運命は一つじゃない(・・・・・・)。複数見えた運命の中から、自分の望む運命(未来)を掴み取る……『オラクルシンクタンク』はそれが可能なクランなんだ」

 

「自分の望む未来……」

 

――みんなと一緒なら……掴めそうな気がする……。自分で選べると言う点は非常に大きく、それが燐子にとっての決定要素になった。

笑みを浮かべた燐子は、『オラクルシンクタンク』のデッキを手に取った。

 

「私……これにします……!」

 

「分かった。それならこいつもプレゼントだ。これが無いと後で整理や管理で苦労するからな」

 

「あっ……ありがとうございます」

 

燐子の使う『クラン』が決まったので、貴之はケースもセットでその金額を支払ってやる。

この時燐子は「これくらいなら自分で出せる」と言ったが、貴之の「初心者へのサービスと思って欲しい」という一言で思いとどまる。

貴之の行動が何も自分への否定では無く、元々そう言う心構えなのを理解したので引きずることは無かった。

購入を終えた後はハサミを借りてファイトスペースに移動し、テーブルの一つに向かい合って座る。

 

「開けにくかったらこれを使ってくれ。開ける部分にテープ付いてるから」

 

「あっ……本当だ……使わせてもらいますね」

 

前回友希那と来た時は完全に失念していた反省を活かし、今回は初めから燐子に促す。

自分の取りやすい場所にハサミを置いてもらって気づいた燐子は、箱にテープが付いてるのを確認すると素直にハサミを使って箱を傷つけないように気を付けてながら開封する。

ハサミを使い終わったのはいいものの、どこに戻せばいいかがわからない燐子はどこに置いてあったかを聞いてみる。

今の燐子が、自分から動いてみるようにしているのが分かった貴之は、置いてあった場所に案内し、それを戻したあと二人でテーブルに戻ってくる。

 

「さてと……今回は構築済みだから問題ないけど、デッキを作るに当たって『合計50枚』になるように作るのと、『同名のカードは4枚まで入れられる』。『特別に制限されている種類のカードは、同名とか関係無しに4枚まで』ってルールがある。特別に制限されているカードは、ユニットのテキストに載ってるから、自分でデッキを編集するときはしっかりと確認するといいぜ」

 

「あっ……この二種類には制限があるんだ……」

 

デッキ構築のルールを教えてもらった燐子は、デッキ内のカードを見ながら制限されているカードを確認した。

――今度……他のカードも見てみようかな……。今回は時間が無いので、後々そうしたいと燐子は思った。

 

「カードには色々と数値やらが乗ってるが……多くのところはファイト中に教えるとして、『ノーマルユニット』と『トリガーユニット』の見分け方だけは覚えておこうか。『オラクルシンクタンク』はゲーム内での特性上、デッキに残ってるカードの操作が多くなるからな」

 

「えっと……この右上にアイコンがあるカードと……無いカードが……その見分け方ですか?」

 

燐子の問いに貴之は頷く。先にデッキ構築のルールを聞きながらカード見ていたのが幸いして、燐子はすぐに気づけた。

 

「『トリガーユニット』は、『トリガーチェック』で引き当てた時に効果を発揮するユニットでな……トリガー効果の種類には(クリティカル)(ドロー)(ヒール)……そして、一部のクランだけが持つ(フロント)の四つがあるんだ」

 

「なるほど……『オラクルシンクタンク』には……入っていないんですね……」

 

「残念ながらね……ちなみに俺の使っている『クラン』もそれは入っていない。ちなみに『トリガーチェック』は『ヴァンガードで攻撃した』時、『ダメージを受けた』時が主な発動タイミングだ」

 

話しを聞いた燐子は貴之の使う『クラン』が気になったが、それは戦う時のお楽しみだと言われたので、その時まで待つことにした。

 

「おっと……あまりのんびりしすぎると今日中に間に合わなくなりそうだ……残りはファイトの最中に説明するけど大丈夫か?」

 

「はい……!大丈夫です……」

 

時間的に不安になりだした貴之が携帯で時間を確認して燐子に問いかける。

それに対して、燐子が頷くことで肯定してくれたので、貴之は次の説明に入る。

 

「よし……なら、ファイトを始める前に今から言うことをイメージしてみてくれ」

 

「イメージは力になる……そうですよね?」

 

「ああ。その通りだ」

 

確認を取ってきたので、貴之はそれを肯定する。

合っていることが分かって安心した燐子は、イメージと話しを聞くのを両立させるため、静かに瞳を閉じて意識を集中させる。

 

「今の俺たちは、地球によく似た惑星『クレイ』に現れた……与えられたの二つ能力を持つか弱い霊体だ」

 

「(霊体……姿が薄まっている方かな……?)」

 

説明を受けて自分なりに想像(イメージ)してみる燐子は、貴之も同じ姿で立っているのが見えたので、それによって安堵した。

――何だか……ゲームの操作説明(チュートリアル)みたい……。貴之の説明からそんな雰囲気を感じた燐子は心持ちがかなり楽になり、落ち着いた様子で聞くことができる。

 

「一つ目は『コール』!『クレイ』住まう住人やモンスターたちを呼び寄せる能力で、呼び寄せることができるのは契約した者たち……。つまり、互いのデッキに集められたカードたちだ」

 

貴之が人差し指でデッキを指さしているのを感じ取った燐子はそれを見つめる。

実際に聞こえてはいないが、ユニットが「一緒に頑張ろう」と言っているような気がして、それに応えたいと思った。

 

「そして二つ目は……『ライド』!霊体である自分を呼び寄せたモンスターらに憑依させる能力で、このライドした俺たちのことを先導者……『ヴァンガード』と呼ぶんだ」

 

自分が剣を持った巫女や、妖精と言った姿になるのを、燐子はゲームでの装備変更による見た目変化の別バージョンと考えることで、意外にもすんなりと想像(イメージ)ができた。

貴之から説明された、『クレイ』に降り立った自分たちに与えられた能力を聞いて、燐子は一つの確信に至る。

 

「か弱い霊体だから……仲間であるユニットから力を借りる……。『ユニット(仲間)』から力を借りるから……持っている知恵で勝利に導く……。『ユニット(仲間)』がいないと『クレイ(この世界)』では戦う舞台に立てないというのは……こういうことだったんですね……」

 

「理解できてもらえて何よりだ」

 

元々ゲームをしていることと、貴之が事前にそう言っていることもあって、燐子はすんなりと理解する。

正しく理解してもらえたのが嬉しく思い、貴之は満足げに頷く。

 

「さて、ここからはファイトの流れを説明していくぞ。まずは『ファーストヴァンガード』をデッキから一枚選んで、それを裏向きで『ヴァンガードサークル』に伏せよう」

 

「グレード0のカードは……あっ、あった」

 

自分が手本を見せるようにして『ファーストヴァンガード』をセットすれば、燐子もそれに倣って『ファーストヴァンガード』を伏せる。

先にカードを少しだけ見ることができたのが幸いし、そこまで迷うことは無かった。

 

「次はデッキをシャッフルして、その後上から五枚を手札として引こう。これが終わったら、後は伏せていたカードを表にしてスタートなんだが……その前に一度だけ引き直しができるんだ。グレード1からグレード3が一枚ずつ揃っている状態じゃないなら引き直しが推奨されるが……どうする?」

 

「えっと……今の手札は……」

 

貴之が確認を取ってくれたので、燐子は自分の手札を確認してみる。

彼の言い分からすると、グレード0のカードはライドに使わないので、持っている意味は薄いのだろう。構築済みデッキの場合はグレード0は『ファーストヴァンガード』に使う一枚を省くと全て『トリガーユニット』であることも、それに拍車を掛けている。

 

「揃っているから……大丈夫です」

 

「分かった。それなら後は、開始の宣言をして『ファーストヴァンガード』を表にすることでファイトを始めることになるが……その合図は大丈夫か?」

 

「えっと……『スタンドアップ・ヴァンガード!』が標準的な合図で……人によっては少しだけ……言い方を変えたりする人もいるんですよね?」

 

「その通り。と言っても、無理に変える必要はないし、思いつかないなら標準の合図でも全然大丈夫だ」

 

――見つかったら……その時に変えよう。何も初めからあれもこれもとやるのは良くないのを知っている燐子は、できる範囲からやっていくことに決めた。

意を決した燐子が裏向きで伏せている『ファーストヴァンガード』に触れたので、貴之も大丈夫と示すべく自分の『ファーストヴァンガード』に手を触れる。

そしていざ開始……の前に大事なことを忘れていたので、燐子は「一つ……大事なことを忘れてました」と声を上げる。

 

「私……白金燐子です……今日は……頼みを聞いてくれて……ありがとうございます」

 

「……ああ。そう言えばお互いに名前知らないんだったな……」

 

燐子の自己紹介を聞き、貴之はそこでようやく思い出した。

この二人、ついさっき偶然顔を合わせ、そのまま流れるように話しを進めていたので、互いに名乗っていないでいたのだ。

 

「俺は遠導貴之だ。君が望んだ未来を掴めるよう、最後まで協力させてもらうよ」

 

「遠導って……えっ!?まさか……あの……!?」

 

「……ん?ああ……そうなるな」

 

燐子の動揺を見た貴之は、ここで誤魔化してもしょうがないので、素直に肯定した。

――さ……最初の相手が……とんでもない実力者になっちゃった……!?彼のことを知っていた燐子はいきなり大丈夫か不安になる。

燐子の買っているゲームの情報雑誌はあこが買っているものと同じで、貴之の名前は同じ頻度で見ていた。

それ故に彼が相当な熟練者であることを知っていて、先入観が知らぬ内に焦りの情を与えていた。

 

「ああ……何も完封勝利をするとかそう言うつもりは一切ないんだ。今回は君が前に進める手助けするつもりでいるから、思いっきり来てくれ」

 

「……!はい……よろしくお願いします」

 

自分が焦ったりすれば、貴之はすぐに持ち直しに協力してくれる。

ある程度までは補助してくれる意図を理解した燐子は、重荷が減ったように感じて気が楽になる。

それが大丈夫と言う意思表示のようなものとなり、貴之が「始めよう」と声を掛けたので、燐子は頷くことで応じる。

 

「「スタンドアップ!」」

 

燐子はやや緊張した様子で、貴之は笑みを見せて宣言を始める。

 

「ザ!」

 

貴之のそれを聞いた燐子は、彼は開始の時。分身となるユニット、または切り札となるユニットにライドする時は『ザ』を付ける傾向にあることを思い出した。

そう言う人もいるくらいの認識だったが、実際に聞くと実感させられるし、彼がどうするかは人次第で自由だと言ってくれているような気がしていた。

 

「「ヴァンガード!」」

 

二人が伏せていたカードを表に返すことで、ファイトが始まる。

貴之がくれた機会を無駄にしない為にも、燐子は心の中で自分を奮い立たせた。

 

「『ライド』!『リザードランナー アンドゥー』!」

 

「『ライド』……!『ロゼンジ・メイガス』……!」

 

貴之は『アンドゥー』に、燐子は赤と白の二色が中心となった、どこか踊り子のようにも見える格好をした『ロゼンジ・メイガス』に『ライド』した。

この時燐子は、自分は服装や手に持っている物などが変わったのに対し、姿そのものが変わった貴之を見て、「ユニットごとのライドによる影響が大分違う」と感じ取る。

 

「あっ……」

 

変化の違いをまじまじと見ていた燐子だが、自分の『ライド』した『ロゼンジ・メイガス』の格好に気づいてしまった。

 

「……どうした?」

 

「お……思ったより……攻めた格好になってると思って……」

 

「ああ……流石にそこまでは気を回せなかったな……」

 

悪かったと謝る貴之に、燐子は「だ……大丈夫です」と答えてどうにか気を取り直す。装備変更のようなものと思っていたら、イメージの影響で予想よりダイレクトなものをみて驚いた部分が大きいだけだったので、燐子はライドする時は気にしすぎないようにしようと意識する。

制服でも黒のタイツを身につけていたことと、話してみた性格からも、恐らく露出の多い格好は好きじゃないのだろう。『ロゼンジ・メイガス』にライドした自分をイメージして、恥じらいを見せたのがそれを表していた。

一瞬だけ空気が崩れてしまったが、すぐに戻ったので貴之は本格的に説明を始めることにする。

 

「さて……これで互いが先導者として『クレイ』に降り立ったところで、今回は説明も兼ねて俺が先行で行かせてもらうぜ」

 

貴之の宣言に、燐子は迷うことなく頷く。自分としても、手本を見せてもらった方が楽だと思ったからだ。

 

「じゃあ、俺の『スタンド』アンド『ドロー』……と言っても、最初のターンは『スタンド』状態……縦向きのユニットしかいないから、そっちは省略だ」

 

貴之が説明しながら一枚手札に加える姿を見て、やっぱり手馴れているなと燐子は思った。

また、さっきの世界観説明もそうだが、本当にヴァンガードが好きだという想いが伝わってきて、聞いている自分も楽しくなっているのを自覚させられる。

 

「次が『ライドフェイズ』で……この時にヴァンガードを自分より一つ上のグレードか、自分と同じグレードにライドができるんだ」

 

じゃあ実践するぞ。そう言って貴之は手札から一枚のカードを手に取る。

そこで動きを止めることによって、燐子もそちらに注視させられる。

 

「『鎧の化身 バー』に『ライド』!『ライド』された『アンドゥー』のスキルで山札から一枚手札に加える」

 

「(あれが『ライド』……力が強まった感じがする……)」

 

貴之の姿が変わったことで、燐子は彼の存在感が大きくなったかのように感じた。

これはパワーの上昇分も関係しているのだが、それは燐子の手番が回ってから知ることになる。

 

「これで俺は、一つ上のグレードに昇級できたことになる。ちなみに、こうしてカードを重ねていくわけだが……重ねられたカードは『ソウル』として扱われ、後々ユニットのスキルを使うにあたってのコストになるんだ。『ライド』以外でも、ユニットの効果でも増やせたりするぞ」

 

「なるほど……」

 

前回友希那に教えながらファイトをした時は、自分がスキルを発動するまで『ソウル』の説明を忘れていたので、今回は忘れずに説明する。

燐子はまだ全てを飲み込み切れていないから曖昧な返事しかできなかったが、すぐに使う時が来るだろうと思い、その時また聞こうと決めた。

 

「『ライドフェイズ』が終わったら次は『メインフェイズ』だ。ここではユニットの『コール』や、既に場に存在するヴァンガード以外のユニットの前後移動を行うことができる……。俺は『ドラゴニック・ガイアース』をリアガードとして『コール』だ」

 

貴之の中央後列に、蒼い体を持った翼竜の『ガイアース』が現れ、これによって彼の場にはユニットが二体になった。

 

「さてと……」

 

「えっ……?先攻は……攻撃できないんじゃ……」

 

「ああ……引っ掛かんないか……」

 

貴之が場に出ているユニットに手を置こうとしたのが見えたので、燐子は慌てて問いかける。

こうして聞くことができたのは、普段買っているゲームの情報雑誌は、定期的に初心者が入りやすいように、ヴァンガードのルール説明のコーナーを設けていて、燐子はそれを読んでいる内にその部分を覚えていたことにある。

雑誌を読んでいることから、引っ掛かってくれることはあまり期待してはいなかった貴之だが、燐子が自分から確認を取ってきたのが見れたので、それはまた良かったと思えた。

 

「白金さんが言った通り、先攻は最初のターンで攻撃することができない……だから俺はこのままターン終了。次はそっちの番だ」

 

「はい……『スタンド』アンド『ドロー』……」

 

――遠導君は……私に促しているのかな……?燐子には、彼が「ここが変わるポイントだよ」と言いたげな行動をしているように見えた。

だが、手伝ってくれているのはとてもありがたい話しなので、それに甘えさせてもらおうと思いながら自分の番を進める。

新たに山札から一枚手札に加えた燐子は、一度自分の手札を確認し、『ライド』するユニットを決定する。

 

「『クォーレ・メイガス』に……『ライド』!『ライド』された『ロゼンジ・メイガス』のスキル……一枚手札に加えます」

 

緑色の光に包まれた燐子は、白を基調としたいくつものハートを形どったものが見て取れる派手な格好をした『クォーレ・メイガス』に『ライド』する。

『ロゼンジ・メイガス』と比べて更に派手な格好となったが、気にしすぎないようにしていたので大して影響は出なかった。

 

「登場した『クォーレ・メイガス』のスキルで……山札の上から二枚を確認します」

 

スキル発動を宣言した燐子は、山札にある上の二枚を手に取って確認する。

その時に出てきたのは『ノーマルユニット』と『トリガーユニット』が一枚ずつだった。

 

「確か……ヴァンガードで攻撃した時に……『トリガーチェック』が入るんでしたよね?」

 

「その通り。『オラクルシンクタンク』は山札を操作することで、起こりうる運命を決めることができる。今回見た運命の中で……望む未来はどっちかな?」

 

「私が望むのは……こっちかな」

 

順番を決めた燐子はそれらを山札の上に戻した。

この処理は貴之に見せる必要は無いので、どのように変えたのかは燐子のみが知ることになる。

 

「更に……『リピス・メイガス』を……『コール』します!」

 

燐子の中央後列に紫と桜の二色が基軸に構成されている、ラバースーツのような格好をしている少女の『リピス・メイガス』が現れる。

これで『メインフェイズ』を終わりにして攻撃をしようとした燐子だが、まだ数値等を聞いていないので、一度聞かなければならなかった。

 

「あっ……攻撃しようと思うんですけど……この数値で決まるんですか……?」

 

「ああ。カードの左下にあるパワーの大きさを比べることになる。ちなみに攻撃する時はそのユニットを『レスト』……横向きにして宣言するんだ」

 

燐子の問いに答えると同時に、貴之は攻撃する時の操作を説明する。

また、この時貴之は『パワーが同じなら攻撃側が勝つ』ことと、『攻撃できるのは前列のユニット』で、『対象にできるのは相手の前列にいるユニット』だというのを忘れずに説明する。

 

「後、後列にいるグレード0とグレード1のユニットは、『レスト』をすることによって、自分の前にいるユニットに自分のパワーをプラスする『ブースト』ができるんだ」

 

「なら……『リピス・メイガス』で『ブースト』……『クォーレ・メイガス』で……ヴァンガードに攻撃します……!この時、『メイガス』と名の付いたヴァンガードがいるので……『リピス・メイガス』はスキルでこのバトル中……パワーをプラス5000します……!」

 

「攻撃を受けた俺は『ガード』をするかどうかを選択できるが……今回はノーガードにしよう。ヴァンガードで攻撃をしたから、今回は『ドライブチェック』を行いぞ。山札の上から一枚カードをめくって、それが『トリガー』を持つユニットかどうかを確認することになる。さあ、お前の選んだ運命を見せてくれ」

 

「はい……私が選んだ運命はこれです……!」

 

普通なら『ドライブチェック』と言っていたところだが、貴之に促された燐子は自然と独自の言い方に変わりながらそれを行う。

運命を操作した状態での『ドライブチェック』により、燐子が(クリティカル)トリガーを選んだことが発覚する。

 

(クリティカル)トリガーはターン終了まで好きなユニットにパワーのプラスと、与えるダメージに関係するクリティカルをプラスできる。これは両方の効果を一体のユニットに回すことも、それぞれの効果を一体ずつに分配することも可能だ。それと、『ドライブチェック』でめくったカードは手札に加えてくれ。ヴァンガードが攻撃した場合はここまでやって初めてパワー比べが終了するんだ」

 

「なるほど……なら……効果は全て……ヴァンガードに回します」

 

全ての処理を終えた『クォーレ・メイガス』のパワーは31000となった。

これによって、イメージでは『リピス・メイガス』の魔道具を使って『クォーレ・メイガス』となった燐子に力を与え、力を貰った燐子は手に持っている杖からハート型の光弾を無数に撃ちだす。

逃げ場を塞がれた『バー』となった貴之は、その弾幕を浴びることになる。

 

「さて……ダメージを受けたから、俺も『ダメージチェック』を行うぞ。今回は2ダメージを受けたから二回だな」

 

貴之の『ダメージチェック』は二枚ともノートリガーだった。

 

「俺は二枚ともトリガー無しだ。『ダメージチェック』でめくったカードは、左下の『ダメージゾーン』に置こう。危機感を感じたユニットが何かから逃げ出すように契約が解除され、ヴァンガードから離れていくんだ……こうしてダメージを受け続け、契約を解除された者が六体以上……ダメージ6になった時は全てのカードとの契約が解除され、霊体に戻って消滅する。そのプレイヤーの敗北……望んでいない運命を手にしてしまったことになる」

 

「自分のために集まってくれたから……ちゃんと導いてあげたいですね……」

 

「ああ。そして、君が望んだ未来を掴み取るんだ」

 

イメージ通りなら消えるかもしれないと言うのに、貴之は燐子を勇気づけるべく優し気な笑みを浮かべながら気丈に振る舞う。

その姿を見た燐子は、いつしか自分も……進もうとしている人を手助けできるようになりたいと思った。

 

「私はこれで……ターン終了です」

 

「一通りの流れは大丈夫そうだな……俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……『ライド』!『バーサーク・ドラゴン』!」

 

一先ず自分の望んだ展開になったことに安堵した燐子はターン終了を宣言する。

その様子を見て、残りは随時教えれば大丈夫だと思った貴之は自分のターンを進め、手始めに『バーサーク・ドラゴン』に『ライド』する。

 

「さて……『ダメージゾーン』と『ソウル』を活用する場面を見せようか。『カウンターブラスト』と『ソウルブラスト』をすることで、『バーサーク・ドラゴン』のスキル発動!相手のリアガードを一体退却させることができる。今回は『リピス・メイガス』しかいないから、それを退却させるぞ」

 

「あ……!」

 

イメージ内で、『バーサーク・ドラゴン』となった貴之の吐き出した炎が、後ろにいる『リピス・メイガス』を焼く。

その炎が持つ熱量に耐えられなかった『リピス・メイガス』が光となって消滅していき、燐子は驚きを隠せなかった。

 

「『ダメージゾーン』のカードと『ソウル』はこうやって、時折スキルの発動に必要なユニットがいるから、それらを使う為に必要になってくるんだ……って、悪かったな。いきなりこんなことして……」

 

「い、いえ……大丈夫です……」

 

「そうか。俺の使う『かげろう』は、『敵を打ち払う』ことによって効果を発揮するユニットが多いから、今後もこうなることはある……」

 

――留意しておいてくれ。貴之がそう言うことしかできないのを感じ取り、燐子は頷く。

正直なところ、仲間と一緒なら大丈夫かもしれないと思い始めた彼女に対して、いきなりこう言った効果を持つユニットをぶつけるのはどうかとも思うが、こんなことが起きても仲間を信じることができるかを試すなら、それも有効だと考えていた。

燐子もまた、方針を決めるのは自分で、それを支えてくれるのが『ユニット(仲間)』たちだと再認識し、気を取り直した。

 

「このスキルを発動した『バーサーク・ドラゴン』が『ヴァンガードサークル』にいるなら、デッキから一枚ドローする。そして、『盾の化身 ラーム』と、もう一体『ガイアース』を『コール』だ」

 

貴之の前列右側には赤い鎧で身を包み、竜の頭を形どった盾を持つ『ラーム』が、後列右側には二体目の『ガイアース』が現れる。

このターンからは貴之も攻撃可能になるので、燐子はそれを頭の中に入れておく。

 

「『ガイアース』の『ブースト』、『バーサーク・ドラゴン』でヴァンガードにアタック!……ガードはするか?」

 

「……いえ……ここはノーガードで」

 

先程の貴之がノーガードをした理由が『バーサーク・ドラゴン』のスキルだと思った燐子は、自分も同じくスキル発動を考えてノーガードを選択する。

貴之の『ドライブチェック』はノートリガーだったので、特にダメージが増えたりはせず、燐子は1のダメージを貰う。

イメージ内では、『バーサーク・ドラゴン』となった貴之の吐き出す炎が、『クォーレ・メイガス』となった燐子に向けられ、それの熱を受けた燐子は両腕で顔を覆う。

 

「わかっていても……少し……寂しいですね……」

 

「ああ。他ならぬ俺たちの為に集まってくれたからな……大切に先導していこう」

 

貴之の言葉に燐子は頷く。仲間と共に望む未来を掴もうとするのだから、そうしたいと思ったからだ。

 

「さて……次の攻撃だ。『ガイアース』の『ブースト』をした『ラーム』で、ヴァンガードにアタック!」

 

「それは……『ガード』します……!」

 

「分かった。それなら、『ガーディアン』として出すユニットを前にある『ガーディアンサークル』に任意の数を『コール』してくれ。『ガード』で使う数値が、左端にある『シールドパワー』だ」

 

「なら私は……『サイキック・バード』を出します……!」

 

『ガイアース』の支援(ブースト)を受けた『ラーム』のパワーは18000だが、『サイキック・バード』のシールドパワーを足した『クォーレ・メイガス』のパワーは23000なので、攻撃は通らなくなる。

イメージ内で『ラーム』が持つ盾から出された炎は、燐子の目の前に現れた明るい緑色の体をした鳥の『サイキック・バード』が防いでくれた。

燐子のことを守った『サイキック・バード』は、彼女に向けて抑揚に欠けた応援をしながら去っていく。

 

「防げた……」

 

「『ガード』は体験できたな……今みたいに『ガード』をするかどうするか、ヴァンガードに攻撃されたなら、相手が『トリガーチェック』で何枚『トリガーユニット』を引くのに合わせたガードをするかどうか……。こう言ったところが駆け引きになって来るから、覚えておいてくれ」

 

自分の言葉に燐子が頷いたのを確認し、貴之はターン終了を宣言する。

 

「さあ、そっちの番だ」

 

「はい……私のターン……『スタンド』アンド『ドロー』……。『バトルシスター おらんじぇっと』に……『ライド』!みんな……お願い!」

 

イメージ内での燐子の姿が、紫色を基調とした和服と修道服が混ざったかのような戦衣を身に纏った『おらんじぇっと』に変わる。

更に燐子の前列右側に白と青の二色が目を引く戦衣を着た女性の『レクタングル・メイガス』、前列左側に白と赤の二色を主に構成された巫女のような衣装に身を包んだ女性『霊光の斎女(いづきめ) キヌカ』、後列右側には和服をきた鶴である『ウィール・クレイン』、そして後列中央には再び『リピス・メイガス』がコールされた。

 

「……?『おらんじぇっと』はスキルもシールドパワーの記載も無いんですね……?」

 

「ああ、それについては『おらんじぇっと』のパワーを見てくれ。それがその二つに繋がる理由だ」

 

「え……?こんなにあるの……?」

 

不思議に思った燐子の呟きを拾った貴之が燐子に促すと、それを見た燐子が驚く。

基本的にグレード2のユニットが持つパワーは10000か9000が多いのだが、『おらんじぇっと』は何と12000もある。

これは一つ上のグレードに迫るパワーを持っていることになり、それがスキルとシールドパワーが無いことに繋がる。

それ故にグレード2が持つ『インターセプト』が意味をなさないので、貴之は『おらんじぇっと』はなるべくヴァンガードとして使いたいことを伝える。

 

「『レクタングル・メイガス』が登場した時……『カウンターブラスト』と『ソウルブラスト』をして……スキルを発動します……」

 

気を取り直してファイトを進める燐子は『レクタングル・メイガス』のスキルで、山札の上から二枚を確認し、好きな順番に戻した後一枚引いた。

 

「カードを引いたので……『ウィール・クレイン』のスキルが発動……!」

 

「(元々使うつもりだったのは『レクタングル・メイガス』の方か……)」

 

『キヌカ』のスキルは、『ダメージゾーン』にコストとして使えるカードが残っていないのが理由で発動できない。

それが理由で貴之はそう推測した……というよりは、『レクタングル・メイガス』のスキルの特性から確信している。

 

「『ウィール・クレイン』を『ソウル』に置くことで……前列にいるリアガード二体のパワーをプラス10000します」

 

イメージ内では『ウィール・クレイン』が緑色の光となって、『おらんじぇっと』の姿となっている燐子の中に入り込んでいく。

それによって、力の沸き上がった『レクタングル・メイガス』と『キヌカ』のパワーが上がり、『レクタングル・メイガス』は19000に、『キヌカ』は18000となった。

 

「行きます……!『リピス・メイガス』の『ブースト』をした『おらんじぇっと』で……ヴァンガードにアタック……!」

 

「今回はガードしよう。頼むぞ、『ドラゴンモンク ゲンジョウ』!」

 

『リピス・メイガス』の『ブースト』を貰った『おらんじぇっと』のパワーは20000だが、二体のユニットのシールドパワーを貰った『バーサーク・ドラゴン』のパワーが40000なので、『ドライブチェック』をしても届かないことが決まった。

しかし、それでも次に繋げることはできるので、燐子は諦めずに『ドライブチェック』を行う。

 

(ドロー)トリガー……パワーは『レクタングル・メイガス』に回して……一枚ドローします」

 

イメージ内で、『おらんじぇっと』なった燐子が『バーサーク・ドラゴン』となった貴之に向けて投げた刃の付いた円盤は、間に入った『ゲンジョウ』と『ゴジョー』が防いで見せた。

この時消えていったユニットに貴之が感謝を感謝を告げていたのが聞こえ、彼が心からヴァンガードが好きなのが伝わってきた。

 

「『ドライブチェック』でトリガーを引けたので……『レクタングル・メイガス』はスキルでパワーをプラス5000します……。更にそのまま……『レクタングル・メイガス』で……ヴァンガードにアタック……!」

 

「……そいつはノーガードだな」

 

『ウィール・クレイン』のスキル、自身のスキル、そしてトリガー効果で合計のパワーが44000となった『レクタングル・メイガス』の攻撃を防ぐのは手札消耗的に良くないと判断し、ノーガードを選択する。

イメージ内では、手に持った魔道具に魔力を込めた『レクタングル・メイガス』が、それを使って『バーサーク・ドラゴン』となった貴之を斬りつける。

ダメージを受けた貴之が『ダメージチェック』をすると、(ドロー)トリガーを引き当てた。

 

「パワーはヴァンガードに回して一枚ドローだ」

 

これによって『バーサーク・ドラゴン』のパワーが20000となったので、パワー18000の『キヌカ』は攻撃が通らなくなってしまった。

 

「私はこれで……ターンを終了します……」

 

仕方がないので、燐子は貴之にターンを回したが、その表情に攻撃ができなくなってしまったことへの動揺は無かった。

その様子を見た貴之は、彼女がこの短時間で確実に変わって来ていることを確信した。

 

「ちょっとずつだけど……面と向かって話すことが……大丈夫になってきたような……そんな気がするんです」

 

「そいつが聞けて安心したよ。少しずつでも、望んだ未来に近づけているみたいだな」

 

現段階で燐子のダメージは1。貴之のダメージは3と、かなりゆっくり目なファイトの運びになっている。

――なら、そろそろ俺も動くべきか……。今からやることの為に、貴之は覚悟を決めた。

 

「さて……俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……。俺はこれから、ヴァンガードで本番となるグレード3になる」

 

貴之の宣言を聞いた燐子は「何が来るんだろう?」と、興味深そうに耳を傾ける。

しかしながら、ただグレード3になるだけのつもりは無いらしく、「そして……」と貴之が口を開いたので、燐子はきょとんとする。

 

「俺はこれから……君に一つ、試練を与える」

 

「……!」

 

その宣言を聞いた燐子はびくりと肩が跳ねる。

貴之も、元々自分から進んで物事に参加するのが苦手な燐子に対して、いきなりこうするのはあまり良くないのかもしれないと思う節はある。

しかし、彼女が望んだ運命(イメージ)を掴むなら、これを乗り越えてこそだと判断した貴之はそうすることを選んだ。

 

「ライド・ザ・ヴァンガード!『ドラゴニック・オーバーロード』!」

 

「ああ……!?」

 

貴之が『オーバーロード』に『ライド』したことに、燐子は戦慄する。

ただでさえ彼が相当な実力者だと言うのが分かっているのに、その上でその本人が分身と呼んでいるユニットと戦わなければならないと言う、初めての人には大分容赦の無いものを見せられた。

更に自分が初心者であることと、試練を与えると言う宣言が重なって、燐子は体が少々震えているのを感じた。

 

「グレード3以上の特定ユニットに『ライド』できた時……それの祝福として、『イマジナリーギフト』が与えられるんだ」

 

「『イマジナリーギフト』……確か……三種類あるんですよね?」

 

「当たりだ。『フォース』、『アクセル』、『プロテクト』と三種類のギフトがあって、それぞれのクランごとに、どのギフトかは決められている」

 

食いつける話題が来たので、燐子は迷わずに確認を取る。少しでも震えや緊張の緩和が欲しかったのだ。

彼女が固まっていたらそのまま自分から話して進めるつもりだったが、聞いてきたのでそれに答えながら進める方針に転換する。

合っていることから燐子は気休め程度ではあるが、震えを緩和することができた。

 

「俺の使う『かげろう』が持っているのは『フォース』。これは元からあるサークルの内一つを選んで、自分のターンの間、パワーをプラス10000できて、効果の重複も可能だ。今回はヴァンガードのパワーをプラスさせてもらうぜ。ちなみに『オラクルシンクタンク』が持っているのは『プロテクト』だが……それはまた後で説明するよ」

 

その説明を聞いた燐子は『アクセル』を知るのはまた今度になるのを確信した。

何しろ時間が押している中で説明しながらファイトをしているのだから、今回知らなくてもいい部分は省略したいだろう。

 

「更に、『ドラゴンアーマード・ナイト』と『エルモ』をコールし、『ソウルブラスト』で『オーバーロード』のスキルを発動!」

 

空いている前列左側に『アーマード・ナイト』、後列左側に『エルモ』を『コール』し、『オーバーロード』はスキルを使ってパワーをプラス10000する。

これによって場にはユニットが揃い踏み、ヴァンガードのパワーは33000という盤石な体制が出来上がった。

 

「行こうか……『エルモ』の『ブースト』をした『アーマード・ナイト』で、ヴァンガードにアタック!」

 

「ま、まだ大丈夫……ノーガードです」

 

貴之の総攻撃が始まって一瞬慌てた燐子だが、自分の『ダメージゾーン』にあるカードが一枚しかなかったのを見て落ち着きを取り戻し、ノーガードを選択する。

イメージ内では『エルモ』の魔法によって、『アーマード・ナイト』が炎を宿した剣で、『おらんじぇっと』の姿をした燐子を斬りつける。

ダメージを受けた燐子が『ダメージチェック』を行うが、残念ながらノートリガーだった。

 

「次だ……『ドラゴニック・オーバーロード』で、『レクタングル・メイガス』を攻撃だ」

 

「……?ノーガードにします……」

 

狙われたのがヴァンガードで無かったことから、燐子はノーガードを選択した。

ダメージは受けないから大丈夫と言う判断だったが、貴之の狙いは攻撃の後に判明する。

 

「さて……グレード3が持つ能力は『ツインドライブ』だが……もう解ってたりするか?」

 

「……!ど、『ドライブチェック』が……二回できる……!」

 

「正解だ。じゃあ行くぞ……」

 

貴之が問いかけて見れば、燐子は上ずった声になりながら答える。

それを聞いた貴之が『ドライブチェック』をすると、一枚目はノートリガー。二枚目は(クリティカル)トリガーだった。

 

「効果は全てヴァンガードに回すぞ」

 

「(ヴァンガードに……?)」

 

イメージ内で『オーバーロード』となった貴之が振るった刀で『レクタングル・メイガス』は切り裂かれ、光となって消滅する。

この時ヴァンガードの『オーバーロード』が『レスト』状態なのにも関わらず、ヴァンガードに効果を割り振ったのを疑問に思った。

それによって今回ノーガードにしたのが危険なのではと感じた燐子だが、それは現実となってしまう。

 

「攻撃がヒットした時、『カウンターブラスト』と手札を二枚捨てることで『オーバーロード』のスキル発動!『オーバーロード』はドライブを1減らす代わりに『スタンド』する!」

 

翼を休めていた『オーバーロード』が咆哮する姿を想像(イメージ)した燐子は、イメージ内で自分が口を開けて怯えているのを感じた。

しかし、ここで怯えているだけではどうにもならないので、どうにか耐えきるための手段を考え始める。

それに呼応してから、イメージ内でも『おらんじぇっと』の姿をしている燐子は開いた口を閉じて、仲間たちに耐えきろうと促していた。

 

「これが本命だ……『ガイアース』の『ブースト』を受けた『オーバーロード』でヴァンガードにアタック!この時『カウンターブラスト』と、『ガイアース』を『ソウル』に置くことで『ガイアース』のスキルを発動!このバトルで『ガイアース』の『ブースト』を貰ったユニットは……パワーのプラスでは無く、代わりにクリティカルのプラス1を得る!」

 

「……!『サイキック・バード』と『リピス・メイガス』……それと『オラクルガーディアン ニケ』で『ガード』します……!」

 

現段階で『オーバーロード』のパワーは43000。クリティカルは3と非常に危険度の高い状態になっていたので、燐子はガードを選択する。

イメージ内では、蒼い光となった『ガイアース』が体内に入って力を分け与え、その状態で肉薄してくる『オーバーロード』となった貴之の前に、『サイキック・バード』と『リピス・メイガス』、男性型の石造のような姿をしている『ニケ』が立ち塞がる。

これによって『おらんじぇっと』のパワーが52000となったので、『ドライブチェック』次第となった。

 

「まだ運命は確定していない……『ドライブチェック』……」

 

そして、命運を分けるかもしれない『ドライブチェック』では……(クリティカル)トリガーを引き当てられた。

ここで効果をヴァンガードに回さないと言う選択肢など無い。そして、この後の『ダメージチェック』で(ヒール)トリガーを引けなければ、燐子は負けとなる。

 

「効果は全て……ヴァンガードに!」

 

「あ……!?」

 

無論それを分からない貴之ではないが、ここで手を抜いても彼女の為にはならないのでそのまま効果処理を行う。

イメージ内で燐子を守る為に立ちはだかってくれたユニットたちは、『オーバーロード』となった貴之が勢いを乗せた状態で放った左足の蹴りによって虚しく吹き飛ばされた。

そして、障害もいなくなり、『おらんじぇっと』となった燐子の前にたどり着いた『オーバーロード』の姿をした貴之は、刀を使った重々しい斬撃を四回浴びせるのだった。

 

「(これで……ダメだったら……)」

 

「諦めるのはまだ早いぞ。そのダメージチェックで、(ヒール)トリガーを引けばチャンスが回ってくる」

 

燐子が震えた手でデッキに手を触れようとしたところに、貴之が促すように声を掛ける。そのお陰で思考が不安で埋まっていた燐子はそれが少し和らぎ、震えが止まる。

 

「最初にも確認を取ってはいるが……イメージは力になる。だから、落ち着いて……イメージして引いてみてくれ。この絶望的な状況下でも諦めず、倒れることなく立っている自分の姿を……」

 

――難しいなら、自分の分かりやすい例えに変えて見るのもいいぜ。その促しを受けた燐子は、本来の目的に沿ったイメージをしてみる。

それによって浮かび上がったのは、諦めたことによって友希那たちのチームに入れなかった自分と、最後まで諦めなかったことによりこれからチームに入る為のオーディションを受ける自分の二つだった。

その二つで自分がどちらを望んでいるかは、言うまでも無かった。

 

「(諦めちゃダメ……ここで諦めたら……全部が無駄になっちゃう……それだけは絶対に嫌……)」

 

自分がどうしたいかを確認して、心を落ち着けた燐子は『ダメージチェック』を行う。

まず初めに出たのは(クリティカル)トリガーだが、そこから燐子は誰かが呼んでいるように感じた。

思い浮かんだ姿は、今日自分が見ただけでまだ顔を合わせたことのない茶髪の髪をした少女が、ベースを持った状態で手招きしている姿だった。

 

「(私を……呼んでいる……?)」

 

不思議に思いながら、燐子は効果を全てヴァンガードに回して二枚目の『ダメージチェック』を行うと、再び(クリティカル)トリガーが出た。

今度は紗夜がギターを持った状態で、まだ誰も触れていないキーボードの前に立っている思い浮かんできて来た。

 

「(氷川さんも……?でも……待ってくれているなら……)」

 

――今度こそ……自分の口から伝えたいな。少しだけ表情に明るさを取り戻しながら、燐子は効果を全てヴァンガードに回す。

そのまま続けて三枚目の『ダメージチェック』を行うと、今度は(ドロー)トリガーが引き当てられる。

三度目は友希那が片手にマイクを持った状態で両手を組みながら、来るならいつでも待っていると言っていそうな笑みを見せた姿が思い浮かぶ。

 

「(もう少し……待っていて貰えますか……?)」

 

――終わったら……すぐに行きますから……。暗い表情が消えた燐子は、パワーをヴァンガードに回して一枚ドローする。

三枚目とも違うトリガーが出てきていたが、自分でも何故か分からない程燐子は落ち着いているのを感じた。

 

「さて……それが最後の『ダメージチェック』だな」

 

「でも……どうしてかわからないけど……引けると思うんです」

 

「なら引いてみよう。君のイメージが試される時だ」

 

燐子は確信をしていた。「どうしてかわからない」というのは建て前で、実際にはまだ一人、自分の中に出てきていない人がいることを分かっていたからだ。

そして四枚目の『ダメージチェック』で、燐子は見事に(ヒール)トリガーを引き当てた。

まだ浮かび上がってきていなかったのは、他ならぬ自分の親友であるあこで、彼女はドラムのスティックを持ったまま笑顔で手を振って自分を呼んでいた。

 

「お見事。君のイメージが形になった瞬間だ。それと、見事に乗り越えたな……」

 

「(あこちゃん……皆さん……)」

 

貴之から認められたことと、どうにかなった安堵が重なり、一瞬だけ脱力気味になったことで涙が零れた燐子は、それに気づいて涙を拭う。

パワーのプラスは再びヴァンガードに回し、ダメージを1回復すると、『おらんじぇっと』のパワーは合計で52000となっており、『ドライブチェック』も残されていないので、パワーが10000の『ラーム』では攻撃の届けようが無かった。

 

「俺はこれでターン終了……さあ、そっちの番だ」

 

「私のターン……『スタンド』アンド『ドロー』……」

 

先程と比べてかなり明るめの表情となった燐子が、自分のターンを始める。

これで燐子が望む未来までもう少しと感じた貴之は、安堵の笑みを浮かべた。

 

「私は……望んだ未来を掴む……!『ヘキサゴナル・メイガス』に『ライド』!」

 

燐子が前口上のようなことを言ってから『ライド』したことに気づき、貴之は予想以上に彼女が前へ進んだことを確信する。

彼女が『ライド』した『ヘキサゴナル・メイガス』は、蒼いドレスのような格好をした女性だった。

 

「登場した時、『カウンターブラスト』をすることで……『ヘキサゴナル・メイガス』のスキルで、運命を選びます……!」

 

燐子は『ヘキサゴナル・メイガス』のスキルで山札の上から二枚を確認して望む順番に置き、その後一枚ドローした。

 

「『イマジナリーギフト』、『プロテクト』……!えっと……これはどうするんですか?」

 

「それは手札に加えてくれ。『プロテクト』は相手のターンで効果を発揮する『防御型』のギフトなんだ」

 

一先ず相手のターンが来るまで使えないことが分かった燐子は、『プロテクト』を手札に加える。

また使う場面で彼が促すのが分かっていたので、燐子は『メインフェイズ』に入る。

ちなみに、『プロテクト』の枠組みの色は薄い緑色だった。

 

「『宝刀の斎女 シヅキ』と『ウィール・クレイン』……そして『クォーレ・メイガス』を『コール』します!」

 

燐子の前列右側に刀を持った巫女の『シヅキ』、後列右側に『ウィール・クレイン』、後列左側に『クォーレ・メイガス』が『コール』された。

そして、登場した『クォーレ・メイガス』のスキルで再び山札の上から二枚を確認し、順番を決めて置いた後一枚ドローする。

この時『ウィール・クレイン』がいたのでスキルが発動し、前列のリアガードにいる『シヅキ』と『キヌカ』のパワーがそれぞれプラス10000される。

 

「更にもう一体『クォーレ・メイガス』を『コール』して、スキルを発動します……!」

 

「(オイオイマジか……もう三体目だぞ?デッキから全部出るんじゃねぇか?)」

 

『ウィール・クレイン』のスキルによって開いた後列右側に、もう一体『クォーレ・メイガス』が『コール』され、ヴァンガードに使われたのもの含めて三体目の登場となった。

貴之が『クォーレ・メイガス』の枚数を見抜いているのは、単純に購入したデッキに手を加えられていないからだ。

 

「更に……二枚分の『カウンターブラスト』と一枚の『ソウルブラスト』をすることで……『シヅキ』のスキルを発動……!山札から一枚引いて、このターンの間前列にいるユニット三体のパワーをプラス5000します……!」

 

これによって『ヘキサゴナル・メイガス』のパワーが17000、『キヌカ』のパワーが23000。『シヅキ』のパワーが27000となった。

 

「行きます……!『リピス・メイガス』の『ブースト』をした『ヘキサゴナル・メイガス』で……ヴァンガードにアタック!」

 

「『プロテクト』の事前学習と行こうか……『ワイバーンガード バリィ』、『完全ガード』だ!」

 

イメージ内で『ヘキサゴナル・メイガス』となった燐子が、両手に意識を集中させて生み出した光の弾を『オーバーロード』となった貴之に飛ばすが、それは間に入ってきた『バリィ』によって阻まれる。

この時貴之は『完全ガード』をしたら、手札を一枚捨てる必要があることを忘れずに説明する。それを聞いた燐子は『完全ガード』があることも意識しようと思った。

防がれたとは言え『ドライブチェック』はあるので、燐子は次に繋げると言う前向きな思考の元それを行う。

一枚目はノートリガーだが、二枚目は(クリティカル)トリガーを引き当てた。

 

「効果は全て『シヅキ』に回して……『クォーレ・メイガス』の『ブースト』をした『シヅキ』でヴァンガードにアタック……!」

 

「そいつは『ゲンジョウ』で『ガード』!それと……『アーマード・ナイト』で『インターセプト』だ!」

 

イメージ内でパワー37000の『シヅキ』が放った刀による一閃は『ゲンジョウ』と『アーマード・ナイト』が防ぎきる。この二体が入ったことにより、『オーバーロード』となった貴之のパワーが38000まで上がったのだ。

この時『インターセプト』のことを説明していなかったので、それを説明しながら、さっきの段階で教えて良かったことを詫びる。

しかし、燐子はさっき『インターセプト』で防いだらあの光景が見えなかったような気がしたので、大丈夫とだけ返した。

 

「最後に、『クォーレ・メイガス』の『ブースト』をした『キヌカ』で……ヴァンガードにアタック!」

 

「それはノーガードだ」

 

イメージ内で『キヌカ』の放った魔法が、『オーバーロード』となった貴之に打撃を与える。

ダメージを受けた貴之が『ダメージチェック』を行うと、(ドロー)トリガーが出てきた。

 

「効果はヴァンガードに回して一枚ドローだ」

 

「私はこれで……ターンを終了します」

 

このターンの間にダメージを与えきれなかったのはかなり苦しい状況だが、先程貴之が口にした事前学習の言葉が耳に残っている燐子は、完全に諦めているわけでは無かった。

まだ大丈夫と自分に言い聞かせている燐子の様子が見え、後は彼女の口からどうしたいかを聞くだけだなと貴之は思った。

 

「俺のターン……『スタンド』アンド『ドロー』……『アーマード・ナイト』と『バー』を『コール』!」

 

グレード3のユニットにもう一度『ライド』することも本来は可能だが、貴之は手札にグレード3のユニットを持っていなかったので、後列中央に『バー』を、前列左側にもう一度『アーマード・ナイト』を『コール』した。

 

「『バー』が登場した時、『カウンターブラスト』と『ソウルブラスト』をすることスキルを発動!こいつと同じ縦列にいるグレード2以下のリアガードを退却させ、パワーをプラス5000。中央だから、今回は『リピス・メイガス』が対象だ」

 

「(ヴァンガードがいるから……そこしか選べないんだ……)」

 

中央の前列はヴァンガードである為、対象にできるのが一体しかいないので、狙える対象が自然とそれだけになってしまうことに燐子は気づいた。

イメージ内で『バー』が自身の持っている剣をブーメラン代わりに投げ、それが『リピス・メイガス』の体を切り裂く。

その攻撃に耐えられなかった『リピス・メイガス』は光となって消滅し、退却を表した。

 

「更に『ソウルブラスト』をして『オーバーロード』のパワーをプラス10000……。そのまま『バー』で『ブースト』した『オーバーロード』で……ヴァンガードにアタック!」

 

スキルによって『バー』のパワーは13000。『オーバーロード』のパワーは33000となっていて、合計パワー46000の攻撃が『ヘキサゴナル・メイガス』となった燐子に迫ってきた。

手札が残り少ないせいで防ぎきるには心許ないことで動揺した燐子だが、まだ使っていない『プロテクト』が目に留まってそれの使い方を聞いてないことを思い出した。

 

「あ、あの……!さっき言ってた……事前学習って……!」

 

「よく気づいたな……。『プロテクト』は攻撃されたこの時に使用することで効果を発揮する。使用方法は『完全ガード』と全く同じで、それを使えばその攻撃はヒットしなくなるんだ」

 

――さっき『防御型』って言っていたのは……そう言うことなんだ……。納得した燐子は、手札にある『プロテクト』を手に取った。

 

「『プロテクト』を……発動します……!」

 

イメージ内で『オーバーロード』となった貴之が振り抜いた刀は、『ヘキサゴナル・メイガス』となった燐子の目の前に現れた虹色の魔法陣が防いだ。

 

「それが『プロテクト』の使い方だ。本来『完全ガード』は四枚までしかデッキに入れられないが、『プロテクト』は自分が使える『完全ガード』を更に増やせるのが最大の強みなんだ」

 

――だから、基本的には何度も重ねて『ライド』することがオススメだ。他の二つの『イマジナリーギフト』と違って、スキル等でしかパワーを上げられないからな。貴之の説明を聞いた燐子は安堵の表情を見せながら頷く。

それを見て大丈夫と分かった貴之が『ツインドライブ』を行うが、二つともノートリガーであったことから、燐子は残った手札でも防げることが分かって気が楽になる。

続けて『ガイアース』の『ブースト』をした『ラーム』の攻撃は『ウィール・クレイン』に、『エルモ』の『ブースト』をした『アーマード・ナイト』の攻撃は『ニケ』によって防がれた。

 

「俺はこれでターン終了……さあ、そっちの番だ」

 

「はい……私のターン……『スタンド』アンド『ドロー』……」

 

ターンが回ってきたので燐子は自分の番を始め、『ライドフェイズ』を始める前に一度確認を取ることにした。

 

「そう言えば……あこちゃんたちは……まだ練習していますか……?」

 

「ん?ちょっと待ってな……」

 

燐子が聞いてきたので、貴之は携帯電話で時間を確認する。

 

「まだやってるけど……どうかしたのか?」

 

「これが終わったら……話しに行きたいんです……キーボードができるって……」

 

聞いてきた理由が分かった貴之は、「なるほどね……」と呟く。どうやらもう大丈夫なようだ。

 

「分かった。なら、これが終わったら……あいつらがいるライブハウスに行こう」

 

「……うん……!」

 

貴之の告げた言葉に燐子は笑顔で頷き、ファイトに戻る。

 

「もう一度、『ヘキサゴナル・メイガス』に『ライド』……!登場した時に『カウンターブラスト』でスキルを発動します……!」

 

再び『ヘキサゴナル・メイガス』に『ライド』した燐子は、スキルで山札の上から二枚を確認して順番を決めてそれを置き、一枚ドローする。

 

「『イマジナリーギフト』、『プロテクト』!更に……最後の『クォーレ・メイガス』を『コール』……!登場した時、『クォーレ・メイガス』のスキルを発動……!」

 

「(マジか……!?本当にデッキから全部出やがった……!)」

 

まさか本当に『クォーレ・メイガス』が四体全て出てくるとは思ってもみなかったので、貴之も流石に驚いた。

そして、『クォーレ・メイガス』のスキル処理を終えた燐子は望んだ運命(未来)が見えたのか、意を決した様子で貴之を見据える。

それによって来るのが分かった貴之も、真剣な表情で目線を合わせる。

 

「行くよ、遠導君……ううん、貴之君(・・・)!『クォーレ・メイガス』の『ブースト』をした『ヘキサゴナル・メイガス』で、ヴァンガードにアタック!」

 

「ああ……来い、燐子(・・)!俺はノーガードだ!」

 

燐子の呼び方が変わっていたので、貴之もそれに合わせて答える。

ここでのノーガードはファイトの流れ的には、ここで防いでも残りを防げないので『ドライブチェック』が外れることを祈ったのが理由だった。

もう一つの理由は……最後まで挫けることなく前に進み切った燐子の想いを、真正面から受け止めるつもりでいたからだ。

 

「これが……私の望んだ運命!ファーストチェック……」

 

そのまま進み切る勢いで燐子は『ツインドライブ』を行い、一枚目は(クリティカル)トリガーが現れる。

 

「効果は全てヴァンガードに……!『ドライブチェック』でトリガーが出た時、『ヘキサゴナル・メイガス』はスキルでパワーをプラス5000!セカンドチェック……!」

 

これによって『ヘキサゴナル・メイガス』のパワーが一気に15000もプラスされ、35000となる。

そして、二枚目の『ドライブチェック』は燐子の想いにデッキが答えてくれた証の如く、(クリティカル)トリガーが引き当てられた。

 

(クリティカル)トリガー……!効果は全てヴァンガードに!」

 

「……おめでとう。君が望んだ運命(イメージ)を手にした瞬間だ」

 

それを見届けた貴之は、彼女を素直に称賛する。

イメージ内で『ヘキサゴナル・メイガス』となった燐子は、先程より大きな光の弾を『オーバーロード』となった貴之に向けて撃ちだす。

パワー50000、クリティカル3となった攻撃をまともに受けた『オーバーロード』となった貴之は、それに耐えられず少しづつ霊体に戻っていった。

そして、そのイメージを反映するかのように『ダメージチェック』では全てノートリガーで、貴之のダメージが6になって決着となった。

 

「か……勝った……」

 

正直自分がここまで進み続けたことに驚きすぎて、燐子は呆然としていた。

今まで引っ込み思案で、自分から何か物事に取り組んだり主張するのが苦手だったのに、こんな短時間でここまで自分に変化が起きるとは思ってもみなかったのだ。

 

「お疲れ様。えっと……さっきのことだが……」

 

「ううん、大丈夫……。私が変われた証だから……」

 

あの場だけはいきなり名前で呼んでしまったので、どう思われるかと思った貴之だが、燐子は気にしていないどころか寧ろ望んでいるような反応を見せる。

最初は内気で沈んだ表情や、緊張した様子の多い彼女が、今はとても柔らかい笑みを見せていた。

 

「だから、これからは私のこと……燐子って呼んで欲しいの。私も名前で呼ぶから……」

 

「分かった、お前が望むならそうしよう」

 

燐子の望みに合わせて、貴之も『君』から『お前』に変える。これはその人と親しくなった一つの合図だった。

この名前を呼ばない二人称は異性の同年代に対する、貴之が確率した基本スタイルで、同性の場合は基本的に『お前』で統一される。

こうなったのも友希那への恋心が起因していて、名前を呼ぶ二人称の場合も兄弟姉妹がいる等を省いて、今回のようなことがない場合は基本名前呼びを避けるようにしている。

 

「今から行けば丁度練習が終わる時間になるから、行こうか。燐子」

 

「うん。案内お願いするね?貴之君」

 

しかし燐子はたった今親しくなった身で、本人からも望まれているので、それに答えるべく名前呼びで促す。

貴之に名前で呼ばれた燐子も、自分の宣言を実行するように名前呼びで返し、自分が変われたことに喜びを感じている笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「時間ね……今日はここまでにしましょう」

 

貴之と燐子がファイトを終えて移動を始めたのと同刻。練習時間を使い切ったのが見えた友希那が切り上げを伝える。

それが合図となり、ドラムを囲むように一度全員が集まる。理由は全身を使うあこの疲労が他の人より大きく、気休め程度でも休ませてあげたいと言う気遣いからだった。

 

「うぅ~……体力強化のランニングはやってるのにぃ~……」

 

「……確かに、最後の方は疲れによる遅れが出ていたわね……」

 

――今後の為に、体力強化は継続をお願いするわ。友希那に頼まれたあこは「わかりましたぁ……」と力なく答える。

普段より長めに練習時間を取っていたのもあり、体力強化を行っていたあこも最後は少々バテ気味になってしまっていた。

練習をしながら体力強化を行うのは大変かも知れないが、今後安定したパフォーマンスを発揮し続けるためにはやってもらう以外他に無かった。

 

「ブランクを取り戻している様子は見て取れましたが、それの安心によるズレには気を付けましょう。変に混ざると大変ですから」

 

「久しぶりに長時間練習だったからなぁ~……。変化もあるし、気をつけなきゃ」

 

紗夜に痛い所を突かれたリサは困った笑みを見せた。

ブランクから取り戻しが進んだ人に見受けられることとして、当時の感覚と現在の感覚が混ざる時があることだ。

これによって、今現在の自分の実力が分からなくなり、上達に弊害を起こすことがある。それを避ける為にも、リサは自分に戒めを掛ける。

動けるくらいまで回復したあこがそれを告げ、全員で借りたドラムを片付ける。

 

「ところで、貴之から連絡は来た?」

 

「いえ……まだ来てないわ」

 

もう帰ってしまったのだろうか?不安に思いながら友希那が携帯を確認すると、一通の連絡が来ていたのでそれを確認する。

送信主は貴之からで、『キーボードの子が見つかった。本人が直接言いたいらしいから、今からそっちに行く』と言う内容のチャットが、来ていた。

 

「……凄い引き運ね。一人見つけたみたい」

 

――人を見つけるイメージでもしたのかしら?そう聞いてみたくなるくらいの発見率を目の当たりにし、友希那は少々困ったような、それでいて少し嬉しそうな笑みを見せた。

それを見た四人は外で待つことを決め、次の予約だけ済ませて出入口付近に移動する。

 

「何か実績とかあれば受けが良くなるから、それがあったら伝えられるともっといいな」

 

「実績……うん。伝えてみる」

 

一方その頃で、貴之は歓迎されやすさを上げる為にできることを教え、燐子はそれに頷く。

踏み出そうと思うことに抵抗感が薄れている燐子は、同じ花女生が見たら驚くと確信できるほどしっかりとした口調で貴之と話していた。

そうして話していたらライブハウスが視界に入り、その出入口前で四人が待っているのが見えた。

それを確認した貴之と燐子は互いに顔を合わせてから頷き合い、彼女たちの所まで移動する。この時サプライズ的なことも狙って、燐子は貴之の後ろにくっついて移動する。

 

「待たせたか?」

 

「大丈夫よ。それよりも、キーボードで入りたい子がいたって聞いたけど……」

 

「ああ。それがこの子だ」

 

友希那に問われた貴之が答えながら体を横にして移動すると、貴之の後ろに隠れていた燐子が四人の前に姿を現した。

 

「え……?白金さんですか!?」

 

「りんりんキーボードできたの!?」

 

「騙すつもりは無かったんですけど……さっきまで踏み出せなくて……」

 

予想通り紗夜とあこの二人が驚きの声を上げる。

それには燐子も予想出来ていたので、脱力気味な笑みを見せながら答える。

 

「と言うことは……決心が付いたからここに来た……そういうことでいいのね?」

 

友希那の問いに燐子は頷くことで肯定を示した。

――私は……ここでも望んだ未来(イメージ)を掴み取る。自分に言い聞かせた燐子は、一度深呼吸してから伝えるべく口を開いた。

 

「白金燐子です。キーボードを希望して来ました。実は、小さい頃からピアノをやっていて、度々コンクールで受賞をしています」

 

「(あの白金さんが……こんなに堂々と話すなんて……)」

 

――彼は一体……何をしたと言うの?帰り道が途中まで同じことからこの後聞くことになるのだが、今は燐子の変わり様を見てただ驚いた。

まるで何があったか一切わからない紗夜に対して、あこは少しだけ推測を立てられた。

 

「(りんりん……少しだけだけど、『NFO』でチャットを打っている時に近づけたのかな?)」

 

あこは燐子と普段から『NFO』をやっていて、その時のチャットは普段とは違って明るさの溢れるものだった。

流石に顔文字等再現できる程の豊かさまでは行かないが、それでも変わっていることだけは感じ取れた。

 

「こんな私ですけど……オーディションを、受けさせてもらえませんか?お願いします」

 

『…………』

 

燐子が綺麗に頭を下げたのに対し、四人に暫し沈黙が走る。硬直が少ないのは接点が無いことと広い心を持って話しを聞いていたリサで、誰かが良いと言えばすぐに乗るつもりでいた。

横から見ていた貴之は、友希那が笑みを浮かべたのが見えてオーディションを受けられるのを確信した。

 

「いいわ。そこまで言うのなら、オーディションを引き受けるわ。あなたたちもそれでいい?」

 

「うん。アタシは大丈夫♪というか、元々来てくれたら引き受けるつもりだったんでしょ?」

 

「あこも大丈夫ですっ!」

 

「……ここで私が反対しても、意味はありませんね」

 

友希那が周りに促せば、それぞれの言い方で賛成を示す。

決まったことで友希那が「顔を上げて」と促し、それを受けた燐子がゆっくりと顔を上げる。

 

「全員が賛成したから、日程を決めましょう。予約を入れている日が……」

 

友希那に予約を入れている日を見せてもらい、燐子は自分の予定と照らし合わせてオーディションを受ける日を決める。

その結果、オーディションを受けるのは休み明けに決まった。

決まったことで今日はこれで解散となるのだが、燐子は忘れない内にと貴之を呼び止める。

 

「今日は、話しを聞いてくれてありがとう。貴之君のおかげで、私もようやく自分から進むことができたの」

 

「なんてことはないさ……ここまで来たんだ。燐子もオーディション頑張れよ?」

 

――またこれを言ってるな……。そう思いながらも、貴之は燐子に確認を取る。

 

「……うん!本当にありがとう!」

 

それに答える燐子は、花咲くように満面の笑みを見せた。




燐子も性格変更がかかりました。変更点は……
・通話中では無く、自分から赴いてキーボードができることを伝える。
・まだ貰った動画を見ながら音を合わせていない。
・変われたことで、堂々と話せている。
・自分から頼みに行ったので、すぐにやるわけでは無く、時間が与えられた。
性格変更掛かったり独自展開起きたりで凄い変化が起こっていますね……(汗)。

今回燐子に使わせたのは『オラクルシンクタンク』の『ヘキサゴナル・メイガス』を軸にしたデッキとなります。
デッキ内容自体はトライアルデッキ『戸倉ミサキ』の内容そのままになっています。
『オラクルシンクタンク』の運命を見たり操作したりの効果を見て、選びましたが、「これ依存じゃね?」って思われないかが心配なところです……。
後、8ターン展開でティーチング要素盛り込むと描写が恐ろしい程長くなりました……(笑)。まさか27000文字行くとは思わなんだ……。

ちなみにもう一つの構想として『ロイヤルパラディン』を使わせるものがありましたが、ファイト展開が余りにも露骨なアニメ(2018版)におけるアイチ対櫂の初ファイトオマージュ臭が強すぎたので、没案となりました。後は燐子が『ヘキサゴナル・メイガス』に『ライド』した姿が似合うなという個人的な所感と、悩んでいた所に「オラクルシンクタンクどうですか?」と言う提案が届いた計三点が決め手です。
また、『オーバーロード』の連続攻撃で4ダメージと、その『ダメージチェック』でトリガー連発がその名残になります。

次回は燐子がオーディションを受ける話しになるかと思います。
後、流石に次回はここまで長い文章にはならないと思いますので、何卒よろしくお願いします……。
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