先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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前半がRoseliaシナリオ6話、後半がファイト前の会話シーンとなります。


イメージ12 悩める歌姫、記録の名を持つ店

「いやぁ~……今日はいつも以上にのめり込んだねぇ~♪」

 

「そうね。私も、あそこまで夢中になっているとは思わなかったわ」

 

燐子が入っての練習が終わった後、友希那とリサは二人で並んで帰路に付いていた。

今日の練習をしている間、全員が表情のことなぞ一切気にしないまま行っていて、あっという間に過ぎ去った。

また、その時友希那の表情は基本的に柔らかいものになっていた。これはメンバーが揃った嬉しさや、二度も『キセキ』を味わえたことも大きい。

一緒に練習していたみんなもそんな空気に飲まれていたのだろう。真剣にやってはいるが全員の表情が笑みや柔らかいものになったままで、それが今回の時間を過ぎる結果を出していた。

 

「でも……少しだけ迷ってるの」

 

練習している時はあのままで良かった。と言うよりは話すことなど出来なかった。

だからこそ、話せる状況になった友希那は沈んだ表情になりながら吐露する。

 

「……迷ってる?」

 

「今までの……『お父さんの音楽を認めさせる』為に歌っていたことについてよ」

 

そこでリサはハッとした。自分は友希那と一緒にコンテストに出れることを嬉しく思っていたが、彼女はそれも理由に出るつもりでいた。

本来は純粋に出て結果を残したいだけだったのだが、父親の音楽を否定されて以来は友希那が代わりにと決めて動いていたのだ。

 

「でも……それは……」

 

「分かってるわ。お父さんからも『辞めたくなったらいつでも辞めていい』。『友希那には、自分のことを気にせず音楽を楽しんで欲しい』って……そう言われてるから。でも……」

 

リサの言いたいことももちろん分かっている。それ故に友希那は悩んでいた。

父親にそう言われても今まではずっとそれでいいと思っていた。その考えが変わったのはつい最近のことだった。

意中の人(貴之)との再会は関係しているが、きっかけは彼に協力を頼んでヴァンガード(彼の戦う世界)を知った日の僅かな時間の電話だった。

取り戻せると言われても「分からない」と返したあの時、それが僅かながらにも救いとなっていて、そこからリサのベース復帰の宣言が一気に心持ちを変え始めた。

 

「でも……今日の演奏は明らかに違っていたわ。『お父さんの音楽を認めさせる』とか、『見返してやる』とか……そんなもの一切考えていなかったの」

 

「だから……迷ってるんだね?」

 

話しを聞いたリサが問いかけて、友希那がそれに頷く。

父親の音楽が否定されて以来、『無理にやらなくていい』と言われてもずっとそうして来た。しかし今回は初めて今まで抱えていたそれを関係なしに歌った。

それ故に『今まで通りの道を続けるべき』と言う使命感と、『昔のように純粋な気持ちで歌いたい』と言う願望。そんな相反する二つの感情に板挟みになっていた。

これを聞いたリサが「こっちの方がいい」と言うのは簡単だ。しかしこれを鵜吞みにしてしまうのは良くないし、最後に決めるべきなのは友希那であることもリサは理解している。

 

「分からないなら、これから探していこうよ。アタシも手伝うからさ……ね?」

 

自分としては後者の方が望ましいリサだが、それは伝えずに協力する姿勢を見せる。

それを聞いた友希那はリサにしては意外な回答だったので一瞬硬直するが、すぐに気を取り直して「そうね……」と口を開く。

自分のことを知っているのなら、多くはリサのような回答になるだろうと思っていたのも手伝い、硬直からの回復が早かった。

 

「私なりに悩んで……どうしてもと言う時は手伝ってもらってもいいかしら?」

 

「うん♪アタシにできることなら何でもするからね」

 

自分の問いにウインクしながら答えたリサを見て、友希那は「何でもやりすぎて倒れないで頂戴ね?」と言いながら困ったような笑みを見せる。

リサは本当に自分がやる、或いは自分がやらなきゃと決めたらやりすぎる時があるので、少々心配だった。

ただそれでも、悩んでいる時に手を差し伸べてくれたのは嬉しいことで、友希那はありがたくその手を取ることにした。

そしてそれを手に取った時、友希那は今までならこんな悩みを抱く余裕すら無かったことに気がつく。

気づいた友希那自身、それが悪いことだとは思っていない。自分がまだ道を選べることを知れたのは大きな収穫だった。

 

「(この先どうなるかなんて想像できないけど、しっかりと答えを出したいわね)」

 

「(今まで友希那は自分を無理やり殻に押し込めちゃっていたからね……。その殻から出たいって言えるその時まで、アタシは友希那を支えたい……)」

 

友希那はまだ見ぬ先の時間を見て、リサは心境が変わり始めた友希那を見てそれぞれの考えを心の中で出した。

その後は何気ない普段通りの会話に戻り、そのまま互いの家の前まで歩いていき、話している間も二人は心の中で互いを信じていた。

友希那はリサやみんなと探していけば答えが見つかる。リサは友希那ならしっかりと答えを出せると――。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(この前と今日のセッション……不思議な体験だったわ……)」

 

家に帰った直後、紗夜は自室で二度も経験できたことを思い返していた。

特に今日に至っては自分すらも終始楽しんで練習をしており、あの感覚を味わえたのがとても喜ばしい出来事なのは嫌でも自覚させられる。

楽しいや嬉しいことが多かった今日だが、同時にやるべきこともできた。

 

「(今日から……やってみましょう)」

 

やるべきこと……それは日菜と少しずつでもいいから向き合うことだった。

今まで後から初めてあっさりと抜き去っていく彼女に嫌悪感を示し、自分から距離を取っていた。

それ故に後から始めた日菜に抜き去られることを恐れて、彼女がギターを始めないように対策を取っていた。

 

「(白金さんは自分を変えたいと願って、実際に行動してそれを形にした……。私もこの状況をどうにかしたいのなら、自分を変える必要があるわね)」

 

実際のところ、紗夜と日菜の関係は紗夜から距離を取るようにしたことで起こっている結果で、昔は仲の良い姉妹だった。

能力差を気にして距離を取って以来、日菜はずっと仲の良かった頃に戻りたいと願っていたが、紗夜はその願いを一蹴している。

長い時間で出来上がってしまった天才への嫌悪感(コンプレックス)がそんなすぐに解消できるとは思わないが、それでも何もしないといつまで経ってもそのままだ。

 

「お帰り~!おねーちゃん、何見てるの?」

 

そう考えていた矢先に日菜が自室に入って来て、すぐさま自分の隣に陣取ろうとする。

日菜に問われたことで、携帯電話を使って情報収集している最中だったことを思い出した紗夜は慌ててそれを引っ込める。

身に付いてしまった癖によりつい反射的にやってしまってハッとするが、それ以上に日菜には何度も言っていることがあるので、そっちで話題を逸らすことを考えた。

 

「日菜……毎回言ってるけど、入ってくるならせめてノックはしてちょうだい」

 

「……?あっ、忘れてた……」

 

入る時にノックをしてくれとは何度も言っていたことだった。ギターの練習をしている最中や、試験勉強中に入って来たりすることもあるので、その時はきつく当たっていた。

言われた日菜は「そんなことしたっけ?」と言いたげに数瞬首を傾げ、すぐに思い出して謝る。その後「気を付けて」と紗夜が言って終わりがいつものパターンだった。

ここまではいつも通りの対応だったが、問題はここからなので紗夜はどうしたものかと頭を回す。何しろ今回はいつもと比べて当たり方が緩かったからだ。

 

「それで?何か用があるんでしょう?」

 

「うーん……今お父さんがおねーちゃんの好きなわんこの番組見てるから、リビングに行かないかって誘おうとしたけど……その様子だと無理そう?」

 

「そうね……録画はしてあるし、これの確認も終わっていないからまた今度ね」

 

携帯電話で調べ物をしていたことをジェスチャーで強調しながら、紗夜はいつもよりは控えめに断る。

その対応をされた日菜は不思議そうに首を傾げる。いつもはこの段階で追い払うような言われ方をされていたからだ。

日菜の反応を見て、紗夜は仕方ないと思った。何しろ自分が少しでも話したくないと言うような態度を見せ続けていたのだから、こうなってもおかしくはない。

思ったより柔らかい対応なのでもう少し大丈夫そうだと思った日菜と、もう少しだけ踏みとどまってみようと思った紗夜はどう話題を振るかで迷う。特に紗夜の方は今まで振られた話しを即座に切って行く対応ばかりしてしまっていたので、大分難儀するものだった。

そこまで時間が掛からずに日菜の方から「あ、そうだ!」と声が上がる。紗夜が携帯電話で見ていたものがちらりと見えたことと、友希那とリサがそれに出ると言っていたからこれが一番いいかもしれないと考えた。

 

「おねーちゃんがさっき見てた『FUTURE WORLD FES.』ってあるでしょ?」

 

「っ……!え、ええ……それがどうかしたの?」

 

日菜からすれば一番話しを続けやすいと思ったものだが、紗夜からすれば今まで通りの対応で即座に突っぱねそうで怖いものだった。

特に、これで日菜が自分もそれに出ると言った暁には、出来上がってしまった天才への嫌悪感(コンプレックス)も相まってヒステリーを起こしてしまうことは想像に難くない。

――聞くなら早く、できることなら私が荒れないものにして……。内心で震えながら願う紗夜に対し、日菜は凄い率直な質問を投げた。

 

「それって友希那ちゃんが言ってた、プロデビューも狙える大きなフェス……であってたっけ?」

 

「えっ?そうだけど……。って、日菜。ちょっといい?」

 

「……?なーに?」

 

あまりにも辺り障りのなさすぎる率直な質問が来たのもあって、紗夜は思わず拍子抜けしたような声を出してから肯定する。

また、紗夜自身は日菜の口から聞き出せそうなものがあったので、今度は自分から話しかける。

普段からすれば異例のことだったのもあり、日菜は再び不思議に思いながら首を傾げる。間違いなく「今日のおねーちゃんどうしたんだろう?」と心の中で思っているはずだ。

 

「あなたの言う『友希那ちゃん』って……湊さんのこと?」

 

「そーだよっ!友達だから普段からよくお話しするの!あっ、友達と言えばリサちー……フルネームは今井リサだね。あの子もそうだよ!」

 

「今井さんも……」

 

意外なところで縁があったものだと紗夜は感じた。特に友希那の方は一つの物事を進み続ける……それこそ、日菜のようにやりたい物事が見つからず転々するような人とは真逆に近しい人だったので、関わりは持っていないと思っていた。

ただ、リサの性格を考えると日菜と知り合った段階で友希那に紹介しそうなので、意外にも納得できた。

更に自分から踏み込める話題がもう一つあるのも、話しを続ける為の話題を作れる要因となった。

 

「と言うことは、遠導君も知っているの?」

 

「うん!そう言えばあの二人とは幼馴染みだったね。知ってると言っても……タカくんとは顔を合わせただけだけど」

 

友希那とリサ、そして貴之の三人が共に登校している姿はよく見かけられるらしく、花女では「どちらかが本命か」、最近だと「あの二人どちらかに見せかけて実は白金さん」等の話題で度々盛り上がっていた。

以前ライブハウスで五年ぶりと言っていて、友希那と関わりがあることから幼馴染みだろうとは思っていたが、日菜の口からそれが事実であることが判明した。

少し考えていると日菜からもう一度こちらに声を掛けてきたので、紗夜は思考を現実に戻す。

 

「タカくんって、何かやってるの?友希那ちゃんやおねーちゃんと似たような感じでるんっ♪ってくるものがあるんだよねぇー」

 

「湊さんと似たような……?」

 

日菜の言っている「るんっ♪」と言うものは未だに理解できないでいる紗夜だが、今回は「友希那や自分と似ている」と言う点からまだ推察できると判断して考えて見る。

この三人で似ているとすれば一つの物事に打ち込んでいることだろう。紗夜はギター。友希那は歌。ここまで来れば、貴之は何かなど簡単に導き出せた。

 

「ヴァンガードをやっていたわね……でも、私は名前しか知らないわよ?」

 

「ううん。それを聞ければ大丈夫!」

 

日菜はスッキリしたと言いたげに満足な表情を見せる。どうやらこれで正解だったようだ。

貴之が魅入られ、引っ込み思案だった燐子が変われたその世界に、紗夜は気になり始めていたので、友希那が作っている歌詞を理解する事前学習と言う名目で触れて見てもいいかもしれないと思った。

 

「あっ……まだ何もやっていなかった。やらないといけないことが残っているから、もういいかしら?」

 

「うん。それじゃあまたね」

 

ちらりと時間を見たら、すっかりと話し込んでしまっていたのに気づいて紗夜が切り上げる。

今回はこれで満足したのか、日菜はいつもより安心できたような表情を見せて部屋を後にした。

 

「(思ったより……話せていたわね)」

 

気がついたら拒絶の意志なぞ見せずに話していたことに紗夜は驚く。

少しだけ意識すれば大丈夫だと思えたと同時に、一つだけ確認し忘れてしまったことが見つかる。

 

「(フェスに出たいかどうか聞いて無かったけど……あの様子だとそれは無さそうね)」

 

友希那のことを知っているなら、出たいと思った段階で彼女とチームを組もうとしているだろう。それでもやらなかったのは、その気にならなかったということで間違いない。

或いは、自分が今まで長い時間継続できなかったことを理由に遠慮したのかも知れない。そう考えると、充実しているように見えて充実していない日菜が少し可哀想にも思えた。

 

「(もし、始めるのなら……その時はその時。集まったチームで恥ずかしくない演奏をしましょう)」

 

恐らくギターを始めてもフェスに出たいとは思わないだろう。そう思った紗夜は、信じられないくらい拒絶反応が薄れていた。付いていけなくなったらそこまでとは練習前に全員で認識をしたが、「その人の方がいいから入れ替える」とは一言も言っていないし、友希那自身もあの表情を見るにそのつもりは無いだろう。

――確認を終えたら……また練習しましょう。日菜が新しく物事を始めたらどうなるかは知っているので、どうするか決めた紗夜は携帯電話の操作を再開した。

今回は逃げずに話すことができたとは言え、姉妹の間にできたわだかまりはまだ消えていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だと思ってたけど、りんりんが無事に入れて良かったよっ♪』

 

「あこちゃんやみんなのおかげだよ。本当にありがとう」

 

練習が終わり、夕食等も済ませた燐子とあこの二人は『NFO』で遊びながら通話していた。

まず初めに出てきたのが今日のオーディションのことで、二人は友希那のチームに入れたことを喜び合う。

 

『今日の練習は凄かったよ~♪あの紗夜さんすら楽しそうにしてたし』

 

「……そうなの?」

 

『休憩時間中の会話なら友希那さんも普通に応じたり、笑ったりするんだけど……紗夜さんは殆どの時間真面目な様子でやってたんだ~』

 

「じゃあ、今日の練習みたいになる方が珍しいんだ?」

 

燐子の問いにあこは「始めてだと意外に思うよね」と返した。つまりは肯定である。実際あこにそう言われた燐子は本当に意外だと思っていた。

ただ、友希那から聞いた話しでは、自分と紗夜の二人だった時は「二人とも表情が固いままだった」と言うのは、燐子もあこも自然と納得できている。あの二人でいる時はそう言った会話が少ないせいもあるのだろう。

前の自分だった場合そんな空気に耐えられただろうか?燐子は想像して少し不安になった。

 

「あっ、そう言えばあこちゃん。貴之君も『NFO』やってたみたいだよ?」

 

『えっ?ホント?ひょっとしてヴァンガードのイベントやってた時かな?』

 

「そうみたい」

 

珍しく燐子から話題を振ってみると、あこは予想をつけたのでそれに肯定する。どうやら貴之は分かりやすいようだ。

意外なことを知れて嬉しいことは事実だが、これを言ってきたことには意図があると感じたあこが「貴之さんがどうかしたの?」と聞いてきた。

 

「この前、一緒に『NFO』をやろうって誘ってみたんだけど……あこちゃんも一緒にどうかな?三人でやれば、もっと楽しいと思うから」

 

『なるほど~……。うん、そう言うことなら大丈夫!というか一緒にやりたいっ!』

 

あこからの反応が好意的だったので燐子は一安心する。

また、この時後々全員が損しないように貴之がその時しかやっていない都合上、レベルが低い状態にあることを忘れずに伝え、あこから了承を貰う。

 

『ふっふっふ……ならばその時こそ、我ら闇の旅団に招き入れようぞ!』

 

話しが決まったことで、あこが『カッコイイ喋り方』をする。

普段ならそれを聞いた燐子が「カッコいいよ」と言ってそのまま会話に戻っていくのだが、今回は一つだけ問題点があった。

 

「貴之君の場合、装備が光側の装備だろうから、敵対関係になっちゃいそう……」

 

『ええ~っ!?せっかく決まったと思ったのにぃ~!』

 

ヴァンガードのイベントをやっていた際に、入手可能だった装備が光の軍勢側にいるユニットのものだったので、貴之がそのユニットの演技(ロール)を行いながらプレイする身だった場合、その要求は受け入れられないことになる。

それを聞いたあこは「そんな馬鹿な」と言った声をする。恐らく画面の向こう側で項垂れていることだろう。

あこの様子を想像できた燐子は「でも……カッコよかったよ。あこちゃん」とフォローすることを忘れない。そして、フォローをもらえたことであこは調子を取り戻す。

その後は「燐子が来るまでの間バンドはどうなっていたか」、「ヴァンガードをやってみてどうだったか」等を中心に雑談をしながらいつも通り二人で『NFO』内を行動した。

普段はあこから出してきた話題に燐子が合わせる形だが、今回は燐子も話題を出せたので、いつも以上に会話が弾んでいた。

 

「じゃあ、今日はここまでにしよっか」

 

『うん。明日も学校あるもんね……』

 

間もなく日が回る時間になったので、燐子が切り上げを提案し、あこがあくび交じりに答える。

バンドの練習もあって疲れがたまっている以上、無理に長時間やるのもよくないのだ。

 

『それじゃあお疲れ様。今度は時間合わせて三人でやろうね♪』

 

「うん、お疲れ様。また明日も頑張ろうね」

 

『もちろんっ♪それじゃあお休み~』

 

更には練習もあるので、また明日も練習を頑張ろうというのと、今度は貴之も共に『NFO』をやるという気持ちを共有してから通話を終える。

 

「(明日も頑張ろう……。みんなと一緒にバンドをするのがとても楽しい)」

 

部屋の消灯を済ませてベッドに入った燐子は、チームに入れたことを再認識し、ささやかな幸福を感じながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「……お前が前まで行ってたカードショップに?」

 

『おう。商店街からほんの少し離れた場所にあってな』

 

『カードファクトリー』から帰ってきてやることを済ませ、自室でヴァンガード関連の情報を再確認していたところで、大介から電話が来た貴之はそれに応じていた。

内容としては、前まで大介が通っていたカードショップに来ないかと言う誘いだった。

 

『前回身内と集まった時に、人数が奇数なことに悩んでてな……それで誰か呼べないかってことでお前を誘ってみたんだ』

 

「なるほどな……予定を確認するからちょっと待ってくれ」

 

誘ってきた理由に納得できた貴之はその日の日程を確認する。

一応空いてることには空いているが、一つだけ気になったところを確認しようと思った。

 

「観戦とかは自由なのか?」

 

貴之がこれを聞いた理由は、友希那と燐子の二人に「歌詞作りにもう一度協力して欲しい」と頼まれていたからだ。

もしこれで大丈夫なら、貴之は二人に確認を取って連れていこうと思っていたのだ。

 

『基本的に自由だが、何か頼まれたか?』

 

「ああ。また歌詞作りの協力だ。ちなみにこないだ知り合った白金さんって子も一緒になると思う」

 

『分かった。確認が取れたら教えてくれ。身内に観戦者いるって伝えとくから』

 

理由を伝えればあっさりと承諾され、流れるような勢いで話しが決まっていく。

一先ず許可が貰えたので、残すは友希那と燐子の二名に話してみるだけだった。

ちなみにここで貴之が燐子を『白金さん』呼びしたのは、大介が対面したことのない相手なので、名前呼びだと伝わらない恐れがあったからになる。

 

『開始の時間は午後からだが、案内する建前昼くらいにファクトリー前に集合しよう』

 

「了解だ。そしたら俺は二人に話してみる」

 

『おう。それじゃあまた明日な』

 

「ああ。また明日」

 

最後に集合時間を決めて、短い挨拶をしてから電話を切った。

一度時計を確認した貴之は、今からだと遅いから明日聞こうと決め、ベッドに入った。

そして友希那には翌朝の登校時に、燐子には昼頃に電話で聞いてみたところ、二人ともOKが帰ってきたので当日は四人で行くことが決まった。

ちなみに昼頃の電話について、後江側はもう解っているから。花女側は聞いているのが紗夜しかいなかったのが幸いし、面倒なことにはならなかった。

また、朝の登校時一緒にいたリサは行きたいけどバイトが入ってしまっているらしく、そのことを嘆いていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと早かったか?」

 

「どうやらそうみたいね」

 

やって来た大介の身内の所へ行く当日。友希那と共に一足早く、貴之はファクトリーに来ていた。

来てのはいいものの、来る時間が少々早かったのか、自分たち以外まだ誰も来ていない。

ちなみに俊哉は予定入りで、玲奈はバイトが入っていた。ちなみに俊哉は休日にやっているバンドのライブに行くらしい。

 

「今日行く場所、前に行ったことはあったりするの?」

 

「確か、店内大会があるから参加しに行ったんだっけな……。それ以来一度も寄ってないけど」

 

今回行く予定になっているカードショップ『ルジストル』は、小学生時代に店内大会に参加したことがあった場所だった。

とは言ってもかなり前の話しになるので、流石に覚えている人はいないだろう。時期が悪かったか、互いに覚えていないか、大介とは互いにあの時が初対面という認識をしている。

 

「貴之君、友希那さん。お待たせしました」

 

「大丈夫よ。私たちも今来たところだから」

 

「というか、大介がまだ来てないんだ」

 

少しすると、燐子がやってきて声をかけてくれる。

遅かったかと思えばそうでないことが分かって、燐子は一安心したように胸をなでおろす。

 

「後は大神君だけね」

 

「ああ。この様子ならすぐに来そうだけどな」

 

友希那の言葉に貴之は頷きつつ、自分の持っていた予想を口にする。

ちなみに友希那が大介のことを苗字呼びな理由は、貴之の意識していることと全く同じ理由だった。

これに関しては前に一度、大介に対して謝っているが、大介自身は俊哉たちから話しを聞いているので全く気にしていなかった。

 

「俺のことがどうかしたか?」

 

「もうすぐ来るだろうって、考えてただけだ」

 

言ったそばから大介がやって来たので、貴之が素直に答える。

なんだそれだけかと思いながら大介が燐子の方へ視線を投げると、彼女とバッチリ目があった。

 

「貴之、この子が……こないだ言ってた白金さんか?」

 

「そうだ。燐子、こいつが今日俺たちを呼んでくれた大介だ」

 

「なるほどな……俺は大神大介だ。今日は楽しんでいってくれ」

 

「白金燐子です。こちらこそ、今日はよろしくお願いします」

 

貴之に確認を取った後、互いに自己紹介をする。その際燐子はぺこりと頭を下げた。

燐子が礼をする姿を見た三人は、「綺麗な動作だな」と共通した感想を持った。

また、この直後大介は、燐子が自分を珍しそうな物を見たような目で見つめていることに気づいた。

 

「俺がどうかしたか?」

 

「あ、背が高いなと思って……」

 

「一応182はあるからな」

 

その理由は背丈にあり、彼の身長を聞いた貴之は「うわ、高いなお前」と思わず口に出しそうになった。

そこまでの身長になると少々羨ましく思う面もあるが、同時に少し遠慮したいかなとも思ってしまう。

理由は高すぎると色んなものに頭をぶつけそうになるせいだった。実際、大介も「色んな場所で気を遣う羽目になって面倒だ」とぼやいている。

 

「っと……あんまりのんびりする訳には行かないな。そろそろ行こう」

 

時間を確認した大介が促したので、三人はついていく。

 

「そう言えば……『ルジストル』は『記録』って意味を持っていましたね?」

 

「ああ。確かフランス語だったな」

 

燐子の問いに貴之が肯定する。貴之は大介から店名を聞いた時に場所と名前の意味を確認していた。

その名の通りカードの品揃えが良く、ヴァンガードでは単品買いを好む人に優しい店舗となっている。

また、ヴァンガードのみならず他のカードゲームのカードをコレクションしたい人にも、その品揃えからオススメしやすいのも強みだった。

 

「白金さん結構詳しいな……文学に興味あったり?」

 

「実は……ゲームをよくやってて、気になった単語を調べたりするんです……」

 

気になった大介が聞いてみたら、燐子は僅かに顔を朱色に染めながら照れた様子で答える。これを言ったら大抵の人に驚かれたので、言うのが少々恥ずかしいのもあった。

それを聞いた大介は意外だと思った。貴之と友希那が驚かないのは、それぞれのタイミングで教えてもらっているからだ。

自分だけ全く理由を知らなかったので、少々仲間はずれな思いをした大介だが、タイミングが悪かったと割り切った。

 

「『カードファクトリー』の『ファクトリー』に付けられている意味は『工場』や『製作所』……。この場合は『カードゲームによる、思い出の製作所(・・・・・・・)』と言ったところかしら?確か、店内大会の頻度は一番多かったわね?」

 

「ああ。ついでに言うとファイトスペースの数も多い。あそこは『みんなで楽しんで欲しい』って想いがあるからな……その表現は何も間違っちゃいない」

 

「とても良い場所だったんですね……」

 

友希那と貴之の話しを聞いた燐子は、最初に入ったカードショップがあそこで良かったと感じた。

まだ一度しか来てはいないが、立ち寄ったときは「よく来たね」、立ち去る際には店内から「また来てね」と言いたそうな雰囲気が感じ取れていたからだ。

あの空気は自分が変わろうとした、変わった直後に取ってはとても嬉しい追い風になっていた。

 

「『ルジストル』はどんな感じだったっけ?」

 

「あっちはファクトリーほどとまでは行かないが、友好的な奴は多いし、カード関連で会話しようと思えばいつでも話せるぞ」

 

『カードファクトリー』が『対戦重視』なら、『ルジストル』は『コレクション重視』と言った立ち位置をしている。

小学生以下は流石に近い方に行く傾向が強いが、中学生以上になればその二つに合わせて選ぶことが多くなる。

大介の場合は対戦を重視していたのもあるが、通っていた中学の場所が関係してファクトリーに通うようにしていた。同じ中学の俊哉と玲奈がファクトリーに行っていたことも理由になる。

 

「さて、着いたぞ。ここが『ルジストル』だ」

 

「ああ。そういやこんな感じの店だったな……」

 

入り口前で大介が立ち止まり、その店を確認できた貴之は思い出したように呟く。

 

「結構高いですね……」

 

「商店街じゃないから、こう言ったところに気を遣わないで大丈夫だったから……かしら?」

 

「ああ。これはカードゲームの種類ごとに階を分けてるんだ」

 

燐子がまじまじと建物を見つめ、友希那が推測を立てているところに大介がサラッと答えを出す。

ちなみにヴァンガードはプレイする人口が最も多いので、カード購入スペースの一階と、ファイトスペースの地下一階に分けられている程だった。

 

「さて入るか。エレベーターの近くで待ってるみたいだしな」

 

大介に促されるまま店内に入り、そのまま真正面にあったエレベーターの方へ進んでいく。

ある程度前まで進んで行くと、エレベーターの横に赤い髪に貴之に近い体格を持ち、少々細い目つきをした少年と、緑色の髪を持つ貴之より僅かに背の低い少年が周りの邪魔にならない範囲で手を振って迎え入れてくれた。

 

「待たせたな」

 

「いや、こっちも来たばっかりだから心配すんな。んで、一人が参加してくれるんだったな?」

 

「ああ。今日ファイトする為に来てくれたのがこいつで、女子二人は見学だ」

 

赤髪の少年の問いに、大介が指を指しながら答える。

それを聞いた赤髪の少年は貴之を見て好戦的な笑みを浮かべる。どうやら新しい相手と戦うのが楽しみなようだ。

 

「よろしく。俺は遠導貴之だ」

 

「遠導って……はあっ!?大介お前、最近知り合ったとは聞いてたがとんでもねぇやつ連れて来たな……」

 

「だろ?竜馬(りょうま)のそう言う反応を楽しみにしてたんだよ。弘人(ひろと)も驚いたろ?」

 

「ああ。大介がそんな人を連れてくるとは思わなかったからね……」

 

貴之の名を聞いた赤髪の少年は素っ頓狂な声を上げる。まさか全国出場レベルを連れてくるとは誰が思ったことだろうか。

それには緑髪の少年も肯定したので、二人の反応を見れた大介は満足そうに頷いた。

 

「っと、名乗られた以上こっちも名乗らなくちゃな。俺は神上(かみじょう)竜馬だ。今日は楽しもうぜ」

 

「僕は篠崎(しのざき)弘人。今日はよろしく」

 

赤髪の少年、神上竜馬と緑髪の少年、篠崎弘人が名乗ってこちらを歓迎してくれる。

いきなり入り込む身だった貴之としては、好意的な空気はありがたいことだった。遠征時代はそういうスタンスを確率するまで、ファイトするのに難儀することもあったからだ。

 

「そっちのお二人も、楽しんで言ってね」

 

「ええ。私は湊友希那。今日は楽しませて貰うわ」

 

「白金燐子です。今日はよろしくお願いします」

 

弘人が気を回してくれたことで、友希那と燐子も自己紹介をして輪に入っていく。

また、友希那の名を聞いた時に竜馬は鳩が豆鉄砲を食ったような反応を見せる。

 

「全国レベルのファイターに加えて『歌姫』まで連れて来るとは……。大介、お前中学以降の人間関係すげぇことになってんのな?」

 

「俺も予想外だった。後、その二人が幼馴染みという事実にお前は更に驚くだろうよ」

 

「……は?それマジで言ってんの?」

 

大介の人間関係のとんでもなさを再確認したところを、竜馬は更に驚かされる羽目になった。

また、友希那の名を聞いて反応した様子を見て、貴之は一つ思ったことを聞いてみようと思った。

 

「ひょっとして、神上はライブに興味があったりするのか?」

 

「時々観に行くが……どうした?」

 

「俺の親友がライブに興味ある人間でヴァンガードファイターだからな……お前と波長が合いそうだと思ったんだ」

 

貴之が聞いてきた理由を教えて貰った竜馬は「ほう?」と同類を見つけて喜ぶような笑みを見せた。

また、これ以外にも竜馬に取って楽しくなる情報が提供される。

 

「近いうちに、新曲を交えて新しく組んだチームでライブを行うから、その時は来てくれると嬉しいわ」

 

「私も友希那さんのチームで演奏するので、来てくれた時はよろしくお願いします」

 

「おおっ!こりゃ嬉しい情報を貰えた……!」

 

友希那がライブをすると言うなら、いくしかあるまい。話しを聞いた竜馬は続報は見逃すまいと心に誓った。

 

「まあ、楽しみにするのは良いとして、そろそろ行こうか。ただでさえエレベーターの近くにいるんだし、長居は良くない」

 

詳しい話はまた後でと言う弘人の促しに従い、地下一階のファイトスペースに移動する。

対戦派の多いファクトリーなら普段は満席でもおかしくない時間帯だが、コレクション派の多い『ルジストル』ではまだ空きを残していた。

隅っこの一つが開いていたので、ファイトする二人が腰掛ける。残りの人は立って見ることが決まる。これは対戦する人たちが素早く移動できるようにするための配慮だった。

 

「さて……どういう組み合わせでやるか?」

 

「竜馬は貴之とやりたそうにしていたし、俺と弘人でやるか?」

 

「そうしよう」

 

竜馬の問いかけには大介の提案と、弘人の頷きであっさりと決まる。

 

「順番はどうする?」

 

「俺は任せる」

 

「普段は俺が真っ先に入ってるし……先にそっちからでいいぜ」

 

弘人の問いに対して、貴之は三人の意向に従うことを伝える。初参加の身である為、何でも強く言ったらそれは問題だろう。

その際に竜馬が今までを鑑みて譲る選択をしたことで順番が決まる。どうやら竜馬は、平時からのファイト好きと言う『ルジストル』では珍しいタイプの人だった。

それはこうして積極的にファイト行う大介もそうだし、彼らと共にいて、ファイト頻度の高い弘人も当てはまる。

 

「じゃあやるか」

 

「うん。始めよう」

 

ファイトの準備を終えたので大介が促すと、弘人が頷いた。

これで後は開始の宣言を行うだけだった。

 

「「スタンドアップ・ヴァンガード!」」

 

宣言と同時に、二人は裏向きにしていたカードを表に返した。




Roselia6話分が思ったより短かったので後半にファイト前の会話を持って来たですが、主な変更点は
・友希那が悩み始めている(これに伴いリサが友希那に抱いている感情が心配から信頼に)。
・紗夜の日菜に対する考え方に変化の兆しが見える(ただしまだ変化が少ない)。
・燐子とあこは平常運転に戻っている(チームを組んだ後だから悩みは解決済)。
主にはこの辺りでしょうか。順番が変わった影響が出てきた感じになりますね。

次回から数話ほど連続でファイトの話しを書いていきます。
前回燐子の初ファイトをフルで書いた時が余りにも長かったので、注意はするつもりですが、それでも長すぎたらすみません(汗)。
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