先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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仕事が忙しかったことと、外出していたことで遅れてしまいました。


イメージ20 戻りつつある笑顔

ライブ後のファミリーレストランにての問いかけの結果は、全員が改めて参加を決意。RoseliaはこれからFWFのコンテストを目指して活動をしていくことになった。

早速そのメニュー通りに練習を行ったところ、前以上に詰め込まれた内容に四苦八苦することもあったが少しずつついて来れるようになっている。

本番に向けてを考えるとまだ不十分と言えるが、本番になるまでに十分な実力を得てもらえればいいので、友希那と紗夜は『これからに期待』と言う評価を下している。

五人で共通の認識があるとすれば、言葉に出してはいないが『このメンバーで音を合わせると楽しい』、『いつも以上のパフォーマンス発揮できる』と言うものだった。

このまま続けていけば、コンテストで結果を残し、父の音楽を認めさせると言う目的も一歩進むことができるだろう。

 

「今週からテスト期間に入って帰りも早くなりますが、時間の使い方は間違えないようにしてくださいね」

 

「(と、思った矢先にこれなのよね……少し遅かったかしら?)」

 

実のところ、Roseliaのファーストライブはテスト期間に入る直前であった。

フェスのことを考えれば勉強する時間さえ惜しいのだが、このテストで赤点を取って補習行き……そのせいで本来確保できた筈の練習時間が減り、コンテストで結果が残せませんでしたでは本末転倒になる。

その為このテスト期間中の練習だが、全体で練習するのは今日を終えたら暫くお休みとして、残った日は各自自主練習をして実力低下を避けるようにして、基本はテスト勉強と言うことになっている。

もう少し早くメンバーを揃えられれば、あと少しだけ五人で演奏できていたのにと悔やむところはあるが、やることをしっかりとやって、またみんなで音を合わせよう。そう割り切った友希那は、HRが終わると同時に教室を後にした。

せめて今日だけは、五人で思い切って音を合わせたかった――。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

HRが終わってからおよそ三時間後。昼食を取ってから二時間の練習を行い、テスト前最後の練習の終了時間となった。

全員で「お疲れ様」と労いの言葉を掛け合ってから片付けを行い、使用していた鍵を返してライブハウスを出た。

 

「さて……分かっていると思うけど、補習を受けるなんてことは無いようにね?」

 

「は……はぃ……」

 

「あこちゃん……私が手伝ってあげるから頑張ろう?」

 

友希那が問いかけるとすぐ、あこは顔を青くして消え入るような返事をした。

勉強を見てあげたことのある燐子がすぐに助けを差し出してくれたのであこも安心できたが、紗夜は少し考え込んで一つ提案を出す。

 

「でしたら……どこか集まれる日に集まって、全員で勉強をする時間を設けるのはどうですか?これなら躓いているところを見つけ次第、すぐに教えられますから」

 

「なるほど……それはいい提案だわ」

 

ほっといたら補習行きになりましたよりも遥かに良いので、友希那としては賛成だった。

しかしながら五人で集まり、更に長時間同じ場所に滞在するとなるので今度は場所をどうするかと言う問題が起きた。

ライブハウスは予約を入れていないので借りられない。学校が同じ場所なら全員で集まることもできたが、Roseliaは羽丘が三人。花女が二人なのでそれは実現できない。

そう考えると中々いい場所が無いので、少々悩まされることになる。

 

「あっ……アタシ貴之に聞いてみるよ」

 

「……貴之に?」

 

――何かあっただろうか?友希那は貴之のことを考えてみる。

全国でトップクラスのヴァンガードファイターで、Roseliaの結成に大きく貢献した最大功労者であることを省けば、理解する姿勢を示そうとすること以外は普通の少年である。

これだけ上げると何もないのでは?と思った友希那だが、家庭事情に考えを変えれば答えがやって来た。

 

「……そう簡単に入れさせて貰えるかしら?」

 

「だからこそ、それを聞くんでしょ?」

 

自分の疑問にウィンクを見せながら返してくるリサをみて、友希那はごもっともだと思った。

ちなみに二人だけでとんとん拍子に話しが進んだのもあって、他の三人は互いに顔を見合わせて、分からないと言った反応を示し合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「……え?家を使いたい?Roseliaの勉強会で!?」

 

『あはは~……いきなりごめんね?貴之の家って結構広いからさ……』

 

リサの頼みを聞いた貴之は驚く。あまりにも予想外すぎる内容だったのだ。

確かに貴之が住んでいる家は個室として使える部屋以外は全体的に広いので、Roseliaの五人と遠藤家の姉弟(小百合と貴之)の七人が家の中にいてもそれなりに余裕のあるスペースは確保できる。

しかしながら、貴之が女子六人の中に男一人で耐えられるかどうかと、小百合から許可が下りるかどうかの問題があった。

前者は何も問題なくクリアできるのだが、後者は小百合の都合次第と言ったところになる。

一先ずリサにはいつ来るのかと、夕飯は貴之の家で取るのかどうかだけ教えてもらい、その後すぐ小百合にCordでメッセージを送る。

 

「どうしたの急に?」

 

「ユリ姉に確認取る必要ができた……」

 

「……『ユリ姉』って?」

 

大介が小百合のことを知らないので率直な疑問を投げる。

それに関しては俊哉と玲奈が貴之の姉、小百合のことであるのと、その呼び方は貴之が小百合に対する呼び方であることを伝える。

話しを聞いた大介が納得の声を上げていると、小百合から返信が返ってきた。

その内容は『その日は大丈夫。ただ、夕飯食べるなら料理できる人は手伝って欲しいかな……七人は多すぎるから』とのことだった。恐らくスペースを考えれば一人か二人になるだろう。それ以上は多すぎる。

確認を終えた貴之は小百合に礼を告げるメッセージを送ってから、リサに電話をかけ直し、小百合からの返答を伝える。

 

「当日はどうする?お前ら二人の内どっちかが三人を連れて来るか?」

 

『ああ~……どうしよっか?制服のままか着替えてからかでその辺り変わるし、ちょっと待ってて』

 

流石に集合等は大丈夫かどうかが分からなければ難しかったのだろう。リサが自分の携帯から耳を離して皆に確認する声が小さく聞こえる。

 

『着替えてからってことになったよ~』

 

「分かった。それなら商店街のスーパー前で集合しよう。買い物手伝ってもらうわ」

 

『オッケ~。それじゃあ当日はよろしく♪じゃあね』

 

「ああ。それじゃあまた」

 

話しが纏まったので電話を切り、勉強に戻る。

貴之たちは先に勉強をしてから四人でのファイトを一周だけすると言う計画を立てており、現在は商店街にある店の一つに入店し、四人で一つのテーブルを囲って勉強をしていた。

ちなみに立ち寄っている店は羽沢珈琲(はざわコーヒー)店。ここに来た理由はファクトリーから最も近い、中に入って一息付ける場所だったからだ。

 

「お待たせしました。こちらコーヒーとココアになります」

 

「おう。つぐみちゃん、今日はありがとうな」

 

「いえいえ。どうぞごゆっくり」

 

注文の品を持って来てくれた栗色の髪をボブカットにしている少女、羽沢つぐみに俊哉が礼を言う。注文したのは玲奈がココア、残った三人がコーヒーだった。

羽沢という名で気づいている人もいるかもしれないが、この店は彼女の両親が経営しているもので、つぐみ自身も時間があればこうして店の手伝いをしているのだ。

ちなみにつぐみは働いている時笑顔を絶やさないことから『店の看板娘』が板に付いている。経営者の娘と言うのもあるかもしれないが、そう言う意味で『看板娘』と捉えている人はいない。

また、俊哉の情報によると彼女は幼馴染み五人で組んだバンドにいるらしく、キーボードを担当しているようだ。

貴之のつぐみに対する呼び方だが、『羽沢』と付くが三人もいるのに名字呼びは紛らわしすぎることから、親しさ等関係なしに店内では名前にさん付けで呼ぶようにしている。

 

「さて……三人とも他に分からないところはあるかな?」

 

「俺はもう大丈夫だな……元々確認だけだったし」

 

「玲奈、こっちを確認させてくれ。これが俺の中で認識が曖昧なんだ……」

 

「俺はここかな?大介、ちょっと答え合わせ頼むわ」

 

この四人の勉学についてだが、得意順に玲奈、大介、俊哉と貴之が僅差となる。

ちなみに僅差にいる貴之と俊哉だが、少なくとも平均点近くは取れるので、赤点になるほど酷い訳ではない。一部得意科目があり残りは平均点近くになりやすい貴之と、全体的に満遍なく平均点近くからその少し上になりやすい俊哉と言うだけの話だった。

一方で大介は安定して上の下から上の中と言える位置に居座り、玲奈に至っては学年トップ争いに参加する程だった。この辺りの差は趣味の数や打ち込んでいる量によるものだろう。

四人とも補習で大会に出れなくなったら困るからこそ勉強はしっかりやるのだが、ただ十分な点が取れればいいやと思っているのか、取れるだけ点を取っておきたいのか、或いはテストでも上を取りたいのか。この辺りも勉強意欲に差が出るところだ。

 

「あっ、そうだ。この四人の内、テストの総合点数が最下位(ビリ)だった人は全員に何か奢ることにしない?」

 

「……え?お前それマジで言ってんの?」

 

玲奈の提案には貴之だけが疑問形で投げ返す。俊哉と大介の場合はああ、そういや暫くやって無いなくらいだった。

このテストの点数が最も低い人は何か奢ると言うのは、貴之がいない頃にも何度かやったのだが、毎回俊哉が一人負けのワンパターンになることから無しにしていた。

恐らく今回は成績の近い貴之がいて勝負になるからと言う提案だろう。しかしながらこういう時に変に資金を使いすぎるのは、姉と二人暮らしの貴之としては避けたいところだった。

その為、万が一に備えてどうやって安上がりにしようかと考えて、一つの提案が浮かぶ。

 

「じゃあ……俺が負けた場合はお前らに飯作るよ」

 

そうして辿り着いた案は、スーパーで調達すれば安いし、デザート等で無ければ対応しやすい自分の手料理だった。

それを聞いた三人は満足げに頷き、「お前が負けた場合はそれで行こう」と言う旨を返した。玲奈に至っては「貴之がこっちに戻ってきてから、初めて手料理を味わう、家族以外の異性は友希那たちだから問題ないね!」と目を輝かせていた。

嬉しそうで何よりと言うべきなのか、それとも気持は分かったから落ち着けと言うべきなのか、はたまた何故そこで友希那が出てきたんだと突っ込むべきなのか。そんな玲奈の様子を見た貴之が一瞬戸惑うことになった。

 

「よし……じゃあそう言うことだから、もうちょっと頑張りますか♪」

 

――忘れないでよ?と上機嫌な笑みを見せながら玲奈は念押しし、それによって対抗意識が出た三人も手に持ったシャープペンシルを動かし始める。

結果的に予定よりも一時間長く勉強の為に滞在していて、その後ファクトリーでファイトをしてからその日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「悪い。必要な材料メモしてたら遅れた」

 

「アタシは着替えとか準備してたら遅れました~……」

 

「リサに同じよ」

 

そして勉強会当日の昼過ぎ。燐子とあこ、紗夜の三人が待っていたところに、友希那とリサ、貴之の三人が遅れてやって来た。

貴之の遅れた理由については納得しやすい理由だからまだいい。三人が一緒に来るのも揃って家が近いから分かる。

だが、問題は友希那とリサの遅れてきた理由にあった。ただ全員で集まって勉強をするだけなのに、何があるのだろうか?三人は不思議でならなかった。

 

「明日って休日じゃん?だから、貴之の家に泊めてもらうことにしたの」

 

「……貴之君?」

 

「いや、提案は俺の姉だ」

 

一瞬だけ貴之が変なことを考えていないかを疑った紗夜だが、それは杞憂に終わり、早とちりしたことを詫びる。

 

「まあ流石に五人も泊められる準備は無かったんだ……すまねぇ」

 

客人用の布団が三人分しか用意できていない故に、二人にしか連絡できなかったことを貴之も詫びる。

こればかりは仕方ないと言われたので、この話しはここで終わりとなった。

 

「立ち話しもこの辺にして、早いとこ買っていくか……もの多いから何人かコレ写真に撮って、手分けして行こう」

 

「こういうところに慣れてる人とそうでない人を合わせて、二人組を三つ作ればいいかな?」

 

リサの提案が採用された結果、貴之と友希那、紗夜と燐子、リサとあこという組み合わせができた。各組合せごとの前者は慣れている人、そうでない人が後者だ。

ちなみにこの別れ方、前者が全員料理ができて、時折ないし普段から料理をする人たちであった。後者はしない、或いはできないになる。

メモを持たない二組にいるどちらかが写真を撮ってから、どこの組が何を担当するかを決める。

金額に関しては貴之が後で返すから、レシートだけは忘れないようにと意識共有を済ませてから買い物を始める。

 

「氷川さんは普段から料理をするんですか?」

 

「いえ、私は時々程度ですね」

 

紗夜はギターと言う没頭できるものがある故にその機会は少なめだが、何らかの事情で母親が家を開ける場合は紗夜が料理をしている。

日菜が料理をすると言いだしていれば投げていた可能性もあったが、生憎日菜は料理に興味を示さなかったので現在の形に収まっていた。

答えすぐ燐子のことを案じる紗夜だが、彼女自身がライブのおかげで大勢の人がいる空間への耐性が上がったのか、大丈夫と言う旨が笑みと共に返ってきたことに安心した。

 

「この量だとちょっと余りそう……ああでも、それは有効活用すればいいのか」

 

「よくある勿体ないから……ってことかぁ」

 

遠藤家姉弟は二人暮らしである為、そちら側の目線に立って考えれば余ったら余ったでなのだろう。メモを見たリサとあこが、買い込む分量が少々多い理由に納得する。

ちなみにこの二人の内料理を普段からするのはリサの方で、貴之がここを離れるより前の段階で始めている。

そんなこともあって、貴之が料理をできるようになったと聞いてから腕前の方がずっと気になっていたのだ。

 

「しかしまあ……これだけ大人数の分量作るなんて久しぶりだな」

 

「前まではどのくらいだったの?」

 

「基本は四人分だったな。たまに今回と同じくらいの人数が集まって……とかはあっても、その時は『先生』に任せてたな……というか『先生』が夢への糧としてやりたがってた」

 

「……『先生』?」

 

久しぶりと言う言葉を拾ったので聞いてみた友希那だが、貴之から出てきた『先生』と言う単語に首を傾げることになった。

何しろ『先生』と言う言葉は、自分たちと同年代なら学校の教師への敬称のようなものなので、年上の人に仲のよい人がいたのだろうか?と考えてしまうのだ。

 

「ああ……『先生』ってのは、向こうで俺に料理を一から教えてくれた同級生でお隣さんの女の子だよ。教えて貰うことに感謝の意を込めてそう呼んでた」

 

「……なるほど。それが理由で『先生』と呼んでいたのね……」

 

女の子というのを聞いて一瞬だけ警戒した友希那だが、それ以上に『先生』と呼んだ理由を知れた安心感の方が勝った。

自身に料理を一から教えてくれたのなら、敬意を込めて呼んでもおかしくはないだろう。女子というのもあり、『師匠』と呼ぶよりは受け入れてもらいやすいかもしれないと言うのもあった。

向こうでは彼女ともう一人仲のよい同級生の男子が一人いて、三人で誰かの家に泊まり、『先生』と呼ばれる少女の料理を食べると言うのはそれなりにあることだった。

三人でヴァンガードをしたり、雑学を学んだり、料理を食べに行ったり……。どれも楽しい思い出だったと貴之は思い返す。

この後全員が買い終わったので合流し、レシートを受け取った貴之は、その金額を二組に返した。

 

「全部任せっぱなしじゃ悪いから、一個持つよ」

 

「お前がそう言いだしたら止まらねぇからな……。ほら、一個持って行け」

 

男子の意地というのもあって全部のビニールを持ったまま帰ろうとした貴之だが、リサの進言を聞いて一つだけビニール袋を渡す。

流石に七人分ともなればビニール袋の数が多くなり、一人で持とうものなら流石にパシリを疑われそうでもあったのだ。

リサに一つ渡してもまだ一人で持つには多すぎるので、友希那と紗夜も一つずつ持つと言ってくれたので、流れ的に止まらなそうだと察した貴之は一つずつ渡す。

そこから何もしないのは気が引けたのか、燐子とあこもそうすると言ってくれたので、結局貴之が持つビニール袋は一つにまで減った。

ただそれでも最後の抵抗として、貴之は一番重い袋を持っている。

 

「そう言えば小百合さんもテスト期間だったりするの?」

 

「いや、試験はまだ先らしい。でも、後々大変な思いしないように先にある程度勉強するとは言ってたな……」

 

「小百合さんの通っている大学……ここの近くだったわね」

 

「ああ。近くの橋を渡ってすぐのところなんだ」

 

小百合の大学は長期休暇前に纏めてやるらしいので今はまだ大丈夫なのだが、授業の内容が濃いので纏めてやるのが辛いと簡単に予想出来ていた。

故に、小百合は休日や空いてる時間にある程度以上勉強をするようにしていた。もしかしたらこちらに混ざって自分も勉強と言う可能性も考えられるが、邪魔してはいけないと判断して一人自室で勉強するだろう。

彼女の通う大学の距離が比較的近いこともあって、自分がこちらに戻って来れたと考えると、小百合には感謝しかなかった。

 

「さて……ここが俺の家だ。ここまで持ってくの手伝ってくれてありがとうな」

 

「ちなみに向かい側にある内のこっちはアタシの家で……」

 

「私の家はこっちよ」

 

家の前に着いたので、貴之は自分の家を指さしてから礼を言う。ちなみに貴之の家から見て友希那の家は向かいの左側、リサの家はその逆となっている。

また、貴之の家は横幅が大きく、友希那の家と比べて約1.5倍強の幅があった。これが家の広さに繋がっている。

これ以上荷物を持たせっぱなしと言うわけにもいかないので、立ち話も程々にしてすぐ家のインターホンを押す。特に確認を取っていないのは、今日は一日中家にいると言われていたからだ。

押してから数秒後に「ちょっと待ってて」と言う小百合の声が聞こえ、そこから少ししてドアから小百合が顔を出した。

 

「いらっしゃい。どうぞ上がって」

 

立たせっぱなしなのもいけないので、まずは全員を家に上げてリビングに案内する。使っていい部屋に案内するのもそうだし、客人である五人が荷物を持っているという状況を早く終わらせるのも先決だった。

全員がリビングに入ってからすぐにビニール袋を渡して貰い、先に勉強を始めてて構わないとだけ告げて遠導家姉弟は冷蔵庫の中に物を入れていく。

そうして手の空いた五人が早速勉強を始めてから少しして、冷蔵庫に物を入れ終わった小百合が飲み物を人数分用意して持ってきてくれた。

 

「そう言えば言いそびれちゃってたね……貴之の姉で遠導小百合と言います。いつも弟がお世話になってます」

 

小百合がそう言って頭を軽く下げて会釈すると、彼女と始めて顔を合わせる友希那とリサを省く三人が少々慌て気味に礼をする。

そんな三人の様子を見て微笑ましく思いながら、二人も家を使わせてくれたことに礼を言いながら軽く頭を下げる。

簡単な挨拶が丁度終わったタイミングで、自室から勉強道具を取りに行ってた貴之が戻ってきた。

 

「じゃあ、私は時間になるまで部屋にいるから、何かあったら呼んでね?」

 

「分かった。その時は頼むよ」

 

「うん。素直でよろしい♪テスト勉強で来た人に言うのもどうかと思うけど、ゆっくりしていってね」

 

小百合と貴之のやり取りを見て、紗夜は少々複雑な気持を抱く。理由は貴之に向けての対応にあった。

貴之が踏み込み過ぎないという点はこの際余り気にしておらず、小百合の変に突き放そうとせず、自分から来てもいいよと告げているような姿勢は、日菜との能力差を気にしていない頃の自分を思い起こさせてくれるようだった。

能力差(こんなこと)なんて気にしないでいられれば良かったと思うことはあったが、双子である以上いずれ意識する日が来るのは避けられなかったのかもしれない。

 

「紗夜さん……?紗夜さーん!」

 

「えっ……?私がどうかしましたか?」

 

思考の袋小路に入っていたところ、あこが自分の前に手を置いて動かしていたので、思考を現実に戻す。

場所を少しだけ詰めないと貴之の入るスペースを確保できないと言われ、紗夜は一言詫びてから場所を詰める。

 

「ありがとうなあこ(・・)、お陰で助かったよ」

 

「いえいえ。それにしても、紗夜さんがこうなるのって珍しいですね?」

 

言われて見れば確かに。と全員がそう思った。燐子も以前一回だけそれっぽいところを見たが、今回程では無かったので特に気にも留めていなかった。

この直後、あこを下の名前で呼んだ理由を聞かれるが、「他の四人名前で呼んでんのに、一人だけ名字呼びって仲間はずれ感デカくねぇか?」と貴之が問えば確かにと納得してもらえた。

納得した直後にあこから自分にも姉がいると言うのを告げられたので、結果として『兄弟姉妹がいるから』と言う理由での解禁をする理由付けもできた。

全員がある程度以上のスペースを確保できたので、順次勉強を始めていった。

 

「貴之、もしかしてだけど……」

 

「……ん?と言うことは友希那も?」

 

ちらりと、同じタイミングで勉強の様子を見合った貴之と友希那は、お互いがどんな状況と考えなのかを察した。

互いに補習で打ち込んでいるものの時間を取られたく無いから、問題の無いようにしていたのだ。

同じ気持ちであったことと、互いに理解できたことが嬉しく思い、照れた笑みを見せあいながら二人は独自の空気を保ったまま勉強に戻っていく。

ちなみに友希那は自身で作詞をするだけあって、国語や英語といった文章系の単元は大の得意だったので、貴之が聞けばそちらを教えている。

逆に貴之は数学や物理といった理数系の単元がそれなりに得意なので、教えて貰った恩返しとしてそちらの方面を聞かれたら教えていく。

 

「あの二人は……あのままで大丈夫そうだね?」

 

「そのようですね」

 

「確かに、これは変に入らない方がいいですね……」

 

「何だろう……あこたち、場違いな感じがする……」

 

その空間を見て、四人は干渉しないことを決めた。入れない気がしたのもそうだし、入ったら友希那が許さなそうな気がしてしまった。

あの二人は置いておき、全員の勉強状況を確認しようとした紗夜だが、もう早速あこが分からないところを聞いて、それに対して一つずつ丁寧に説明する燐子の姿が見えた。

 

「私たちは私たちでやりましょうか……」

 

「そうしよっか。なんと言うか、あの組み合わせ二つは必然っぽい感じするし……」

 

こうなりそうだったのは、リサもある程度予想できていたので、紗夜の提案に反対はしない。

ちなみにRoseliaメンバーの学力を上から並べた場合は、紗夜、燐子、友希那、リサ、あことなるので、そこまでバランスが偏った組み合わせになっていないことが救いだった。

また、貴之の学力この五人と比べる場合は友希那同等かそれを若干下回る形になる。と言っても友希那とリサの学力は僅差なので、然程変わらない。

 

「うぅ……もうダメかも」

 

「あこちゃん……補習になったら『カッコ悪い』よ?」

 

「それはそれで嫌だっ……!やっぱりもうちょっと頑張る……!」

 

――うわぁ~……あれは鬼だなぁ~。あこに行った燐子の意識誘導を見て、リサはそう思った。

普段は『カッコイイ』を追及するあこだからこそ、真逆の『カッコ悪い』は思いっきり刺さるのだろう。相手の弱味に付け入るようなやり方なので、やりたいとは思えないが。

ちなみに一瞬だけ、燐子がいたずらに成功したような悪い笑みを浮かべていたのは、リサのみならず、紗夜も見なかったことにするつもりでいた。

ちなみに友希那と貴之は、二人の空間で勉強を続けていたのでそもそも見ていない。その為今回ばかりはあの二人を羨ましく思った。

 

「……あれ?ねぇ紗夜、ここってどうするんだっけ?」

 

「ああ、ここですか。まず、そこの部分なのですが……」

 

少ししてからリサも分からないところが出てきたので、紗夜に教えを頼む。

若干硬い感じのある説明ではあったが、分かりやすいことには変わりないので、解決できたリサは礼を言う。

 

 

「あっ、そっか……!ここがこうなるから……」

 

「そうそう。後はそこを合わせると……」

 

燐子の教えもあって、あこも解けなかった場所が着々と解けるようになり、これなら当日も大丈夫そうと思えるようになっていた。

自分でも驚くくらいに解けるようになったのが嬉しいのか、あこは礼を言いながら燐子に抱きついた。

 

「すみません白金さん……任せっきりにしてしまって……」

 

「いえいえ、大丈夫です」

 

気がつけば燐子にあこのことを任せっきりにしていたので少々不安になったが、燐子自身は自分のことをしっかりやっていたので、全く問題ないことが伺えた。

 

「後はもう大丈夫かしら?」

 

「ああ。おかげさまでな……そっちは?」

 

「私も同じよ。本当にありがとう」

 

分からないところを相互に解決できたので、貴之と友希那は互いに礼を言って、柔らかな笑みを浮かべる。

足りない部分を補えることに一つの良さを覚えた二人は、こう言うことがあったらまたやりたいと思えた。

そして全員が順調に進んでいたのが分かった頃には夕方になっており、小百合から夕食を作るから手伝ってと言われたことで本日の勉強会は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

夕食を取り終えた後、片付けを終えてから順番に風呂に入って行き、今は友希那の順番となっていた。

ちなみに彼女より前に貴之は風呂に入っており、上がったばかりで半袖になっている彼の腕が見えたとき、しっかりと筋肉が付いていたことに驚いていたりする。

何でも己のイメージを強化できるかどうかを試して見た結果らしく、確かに効果はあったものの、日常生活での方が役に立っていたと言う何とも言えない結果だったようだ。

 

「(今日は……また違った良さがあったわね)」

 

今日の成果はどうだったか。バンドはどんな感じか。ヴァンガードをやってみてどうだったか。その他様々な話しを七人でしてみると、それぞれの反応があってとても楽しかったと友希那は言える。

勉強の時も教えている側は自分の説明で理解して貰えることが、教わっている側は分からないところが解決できた喜びがあり、その相乗効果で少し違う団結感も得られたような気がした。

日菜のことで悩んでいた紗夜は、小百合から『どんなことがあっても、大切な家族であることは変わらない』と言う考え方を教えてもらい、気を楽に出来ていた。

友希那個人としては、料理をしている最中貴之とリサがとても楽しそうにしているのを羨ましく思い、料理を覚えようかと検討した面があるものの、待っている間に燐子とあこの二人から普段やっている『NFO』の話しを聞いて見たりしてみた。

機会があればやって見てもいいかもしれないと思えたので、三人とも満足できる話しであった。

そんな充実した一日だったことを振り返りながら風呂を上がり、タオルで体を拭いてから着替えた直後に鏡を見て、友希那は一つのことに気が付いた。

 

「(そっか……私、こんなに笑えているのね……)」

 

友希那は以前より、自分が笑みを浮かべやすくなっていることに気が付いた。

これは何も悪いことではなく、寧ろ失っていた物を取り戻せていると言ういい証拠でもあった。

そんな自分に満足しながら寝床として用意された部屋に行くと、何故か三人分布団があることに気が付いた。

 

「リサ、泊まるのは私たち二人よね?」

 

「もしかして……貴之もこの部屋だったり?」

 

「ユリ姉の提案でそうなった。まあ、向こうで泊まる場合は全員同じ部屋だったからそのノリだろうな」

 

――この異性は自分一人だけって空間で、あいつはよく普通にしてられたな……慣れか?自分が妙に戸惑っていることを貴之は自覚する。

話しを聞いた二人は一瞬だけ戸惑ったものの、それはそれでいいかと納得し、誰がどこで寝るかを決めることになる。

左から順にリサ、友希那、貴之の順になるが、これはリサが「二人で楽しんで~♪」と結構無理やりに決めた。

自分の恋事情を把握されているのは分かっているので、友希那が大人しく受け入れることで確定した。

 

「こういう時に何か定番とかってあった?」

 

「いや、俺らは特に無かったな……」

 

思い返して見れば、少し話しをしてすぐに寝ていたなと貴之は気付いた。自分たちは意外とすぐに寝ていたのだ。

聞いてみたリサ自身も、テストが近いのでそんなことして今日の勉強会の意味を台無しにするつもりはないので、ないならそれでもと思った。

 

「じゃあ、そろそろ電気消すぞ?」

 

「は~い♪それじゃあお休み~」

 

「ええ。お休み」

 

こんな近くにいる状態でお休みと言ったのはいつ以来だろうか?そんなことを思いながら三人は眠りに就いた。

それからある程度時間が経った時、目が冴えてしまった貴之が目を開けると、同じく目を覚ました友希那と目が合ってしまい、互いに顔を赤くする。

こうなってしまっては仕方ないので、今の内に聞いてみるにした。

 

「聞いてみたかったのだけど……貴之が誰かと付き合うなら、料理はできる人の方がいいのかしら?」

 

「なるほど……俺自身ができる人になったから、余り考えたこと無かったな」

 

自分が作ってあげる人になってもいいと考えていた貴之は、相手の人が料理をできるかどうかは余り考えていなかった。

しかしそれでは友希那も納得しないだろうから、自分の正直な意見を述べることにする。

 

「できなくてもいいけど……その人が料理できて、俺に手料理作ってくれるって言われたら……嬉しいかもな」

 

「そうなのね……教えてくれてありがとう」

 

――今度、リサに教えてもらおうかしら?貴之の回答を聞いた友希那は本気で検討した。

それから話しの内容はお互いの打ち込んでるものでの、今後のことに移る。

貴之はテストが終わって少しすると、全国に出る前段階である地方予選が待っている。友希那もコンテストに出る為の曲を新しく作り始めており、近い内に完成するそうだ。

 

「今回は協力できないけど、頑張ってくれ。信じてるから」

 

「ええ。貴之も頑張って」

 

「ああ。最高のファイトをしてくる」

 

互いの返事に満足し、二人は笑みを浮かべる。その直後に再び眠気が襲ってきたので、二人は今度こそ寝ることにする。

 

「じゃあ、お休み友希那……。いい夢を」

 

「ええ。貴之もお休みなさい」

 

互いの安眠を祈って、二人は目を閉じ、ゆっくりと意識を沈めていった。

そして後日、テストを終えたRoseliaの五人は全員が十分な成績を保って補習は無し。心置きなく練習ができるという結果に終わった。

貴之ら後江の四人も今回は全員が普段以上に勉強をしていたので、予想より高い点数をたたき出していた。

ちなみに貴之と俊哉の総合得点が同じと言う事態が起きたが、勉強会の後で興の乗っていた貴之が『今回は飯作らせてくれ』と言ったことで丸く収まった。




と言うことで学力テスト回になりました。

チラッとだけつぐみに出番が来ました。日菜と巴に続いてRoselia以外のバンドリキャラとしては三人目の登場となりました。

ちなみにRoseliaと後江四人の学力を不等号で表すと……

紗夜≠玲奈>燐子≠大介>友希那=>俊哉=貴之=>リサ>あこ

この順番になります。
玲奈と大介は結構高めな位置にいます。

次回からまだファイトさせていないRoseliaメンバーの二人にファイトさせて行こうかと思います。
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