先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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今回こそファイトの展開ミスはないと思いたい……。
ちなみにこの前ミスの指摘と共に『感想で言うと間違ってる時が怖い』と言う旨をメッセージを貰ったのですが、間違いなく私の対応の仕方に問題がありました。
なのでそんな風に思わせてしまった人は本当にすみません……。

本編の方ですが、サブタイの状況になるのは玲奈ではなく、一真になります。


イメージ30 突き付けられる現実

「(残りは一真とのファイトか……)」

 

竜馬とのファイトが終わった後、貴之は呼ばれてもすぐ戻れるようにと上には戻らずそのまま下の階で待機していた。

友希那と話したりしたいと言う気持ちもあったが、一真のデッキ内容に引っ掛かるものがあったので、それを観察する為にもここへ残ることを選んだ。

壁に背中を預けたまま、貴之はこれまで一真が出してきたユニットを纏める。

 

「(『ブラスター・ブレード』、『ギャラティン』、『アルフレッド・アーリー』、『うぃんがる』……)」

 

出てきたユニットを纏めて見たのだが、後一、二体程ユニットが隠されたままだと感じる。

恐らくそれが、自分と戦う時の為に隠しているユニットだと思われるが、その内片方が出て来ない可能性も見込めた。

どうなるだろうと考えていると、玲奈と一真が台について準備を始めるのが見えた。

――玲奈が引っ張り出すか、一真が隠しきるか……どっちだろうな?一人でいる分、貴之は先程の待機時間以上に集中してファイトを見ることにする。

 

「そう言えば、君も貴之と知り合いだったね?」

 

「うん。もっと言えば小学生からの友達かな……あと、女子だけで見たら……貴之にヴァンガードを教えて貰った一番最初の人になるよ♪」

 

ここで玲奈が『女子だけで』と言ったのは、『同じ小学』で絞ると俊哉の方が速いからだ。総合で見た場合俊哉は二番目、玲奈は三番目となる。

当時ヴァンガードを始めようと思っていた玲奈は、『男子しかいなかったらどうしよう』と言う理由から踏み込むのに迷いがあり、そこで貴之と俊哉に付いて行って下見から始めたことがあった。

その日に他の男子と混ざってファイトしている同年代の女子がいたので、玲奈は貴之に教えを頼み、その直後に女子同士のファイトをしたことで無事にヴァンガードの入門を果たした。

 

「……何故かしら?玲奈が私を煽って来たような気がするわ……」

 

「……えっ?それは気のせいじゃないかなぁ……?」

 

実際に聞こえたわけではないのだが、友希那はそう感じた辺り、何かを感じ取ったと思われる。

――あいつ絶対に『女子』の下りやりやがったな……?リサや大半の人が気のせいと感じたところ、俊哉と大介の二人はほぼ確信していた。

これに関しては貴之も同じで、「ファイト前に妙な空気が流れた」と感じている。

 

「もう大丈夫?」

 

「そうだね。そろそろ始めようか……」

 

互いに準備が終えたことを確認できたので、「では……」と玲奈は前置きを作る。

 

「私たちのサーカスに……お付き合い頂けますか?」

 

「その手の動きには慣れていないが……できる限りを尽くそう」

 

「(二人ともスイッチが入ったな……)」

 

貴之のみならず、これには会場にいる全員が空気で感じ取った。

この二人のやり取りは、ファイトの開始も合図していた。

 

「「スタンドアップ・ヴァンガード!」」

 

玲奈は『メッセンジャー』に、一真は『ぐらいむ』に『ライド』する。燐子とあこは始めて『ペイルムーン』を見るので、『クラン』の内容を簡単に説明するのも忘れない。

今回のファイトは玲奈の先攻になっており、彼女は『スタンド』アンド『ドロー』を済ませる。

 

「手始めにオープニングから……『ライド』!『スターディング・プレゼンター』!手札から登場した時、スキルで『ソウルチャージ』!一枚ドローした後、『フラスター・カテット』を『コール』!早速トランプ芸をお願いしましょう!」

 

以前貴之とファイトした際とは異なり、最初からスイッチを入れた状態でファイトに望んでいる為、玲奈はそれを意識した口調になっている。

イメージ内で後列中央に現れた『フラスター・カテット』は早速トランプ芸を始め……途中で足を滑らせて顔から地面にぶつかって行く。

この時に一枚ジョーカーのカードが飛んでいったので、芸自体は成功しているのだが、肝心の『フラスター・カテット』は痛そうに鼻を抑えてる。

 

「見てて癒されるなぁ~……」

 

「毎回ああなのかしら……?だとしたら少し可哀想な気もするわ……」

 

『フラスター・カテット』の動きを見た人たちの反応は大抵、リサと友希那のような反応に二分される。

リサと似たような反応をした人はあこや燐子。友希那と似たような反応をした人は紗夜や竜馬となる。

ちなみに貴之はどちらとも言えるような反応を示すので、極めてグレーなところだった。

 

「ではこちらも行かせて貰おう……『アレン』に『ライド』!一枚ドローして『うぃんがる』を『コール』!」

 

「ここまでは今まで見てきた流れですね……」

 

一真は最初のターンでパターン化しつつある動きを行う。慣れている相手にはバレバレな動きではあるが、除去手段に乏しい『クラン』を使う相手ならそれを通せるのでそこまで気にしないでいいことが、この動きに拍車を掛ける。

流石に貴之の使う『かげろう』のように、除去手段が豊富で簡単に阻止して来るような『クラン』なら話しが別になってくるが、基本は次の『ブラスター・ブレード』に繋げる動きを行う。

――最初のターンじゃ疑念は晴れねぇか……。見ていないユニットが現れないことが分かった貴之は次に備える。

 

「攻撃だ……『うぃんがる』の『ブースト』、『アレン』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード。『ドライブチェック』をどうぞ」

 

玲奈の促しに頷き、一真は『ドライブチェック』を行う。

その結果は(クリティカル)トリガーとなり、最初から2ダメージも与えることができる。

『トリガーチェック』の結果を目の当たりに焦った玲奈は、イメージ内で『アレン』となった一真の剣による二回の斬撃を貰う。

この時の『ダメージチェック』は一枚(ドロー)トリガーを引き当て、一枚手札を補充する。

 

「最初から(クリティカル)トリガー……手加減してたとか、そういう感じは見えないよね?」

 

「……あこちゃん、何か疑問があるの?」

 

「う~ん……なんて言えばいいんだろ?」

 

あこは一真に対して何らかの違和感を抱いたが、それが何かまではわからなかった。

貴之がこれを知った場合、それを「感じ取っただけ」でも相当焦ることになっていただろう。その違和感の理由を知っているからだ。

 

「この後、間違いなく『ブラスター・ブレード』がやって来るね……」

 

「玲奈はこの場合、手数を選ぶんだろうな……」

 

『うぃんがる』の存在が『ブラスター・ブレード』の影を仄めかしているので、どうするかと考えるが大介や俊哉は予想を付けていた。

これは『ペイルムーン』が攻撃寄りの『クラン』であることが起因している。

 

「それでは、ここからが本番……『ライド』!『ニトロジャグラー』!『ライド』された『プレゼンター』のスキルで『ジャンピング・ジル』を『コール』!」

 

『ニトロジャグラー』を手札から出した時のスキルも忘れずに発動し、『ジル』は前列左側に『コール』される。

さらに『ジル』のスキルで『フラスター・カテット』が『ソウル』に送られ、代わりに『ソウル』から『プレゼンター』が後列左側に『コール』される。

 

「(うわぁ~……またあの危険なユニットだ)」

 

リサは『ニトロジャグラー』に対してどうも苦手意識が残っている。最初に見たイメージも影響しているだろう。

これに関しては友希那も同様で、あまりいい印象は抱いていなかった。

この後玲奈は前列右側に『ダンシングナイフ・ダンサー』を、後列中央に『パープル・トラピージスト』を、後列右側には二体目の『プレゼンター』を『コール』した。

つまりは俊哉たちの予想通り、手数を優先した結果になった。退却等を喰らっても『ソウル』で無理矢理呼び出してやれば……と言う魂胆だった。

 

「こちらからも行きましょう……『プレゼンター』の『ブースト』、『ナイフダンサー』でヴァンガードにアタック!」

 

「まだ平気だ……君の芸を見せて貰おうか。『ダメージチェック』……」

 

イメージ内で『ナイフダンサー』の踊るような動きに紛れて行われた一撃を受け、『アレン』となった一真が苦悶の表情を浮かべる。

この時の『ダメージチェック』はノートリガーで、然したる変化は起こらなかった。

 

「次……『トラピージスト』の『ブースト』、『ニトロジャグラー』でヴァンガードにアタック!こちらの爆薬……あなたはどうしますか?」

 

「では……それも受けるとしよう」

 

――大丈夫だ、まだ使う必要はない……。あの能力の必要性に線引きをしながら、一真は自分の行動を決める。

玲奈の『ドライブチェック』はノートリガーで、その後イメージ内で『アレン』となった一真が『ニトロジャグラー』となった玲奈から投げ渡された爆薬入りの試験官を取らず、体で受け止める。

その結果爆風を直に受けることとなり、爆風の反動を受けて二歩後ろに下がることとなる。

また、一真の『ダメージチェック』は(クリティカル)トリガーだったので、効果を全てヴァンガードに回す。

 

「済まないね……そちらの芸には乗り切れなかったようだ」

 

「あら……?拙いものを見せてしまい申し訳ありません」

 

今回の『トリガーチェック』の結果が影響して、『ジル』の攻撃は『ブースト』込みでも『アレン』にギリギリ届かないと言う構図が完成した。

互いにそのことに気づき、それぞれの形で詫びの言葉を送る。人によっては一真の詫びは揶揄のように聞こえるかもしれないが、しっかりと誠意の籠ったものである。

 

「パワーの低さが浮き彫りになりましたね……」

 

手数等を重視した『クラン』を使っているとこうなりがちで、こういう時に極端な能力を持つユニットがいると変わるかもしれないと紗夜は考えた。

また、こうして今日一日ファイトを見続けていたRoseliaの五人は、『フォース』を持つ『クラン』はこう言った状況に出会う確率が少ないと感じていた。

――今度聞いてみようか?そう思いながらファイトを見るのに戻る。

 

「行くぞ……『ライド』!『ブラスター・ブレード』!スキルで退却させるは貴様だ……!『ダンシング・ナイフダンサー』!」

 

『ジル』は既にスキルを発動した後なのでそこまで意識する必要はなく、まだスキルを発動できる機会のある『ナイフダンサー』が狙われることになる。

それについては玲奈も理解しているので、そこまで重くは捉えないで彼に先を促す。

『メインフェイズ』で一真は後列左側に『アレン』を『コール』し、さらにスキルで前列左側に『ギャラティン』を『コール』。さらに後列右側に『マロン』を、前列右側に二体目の『ギャラティン』を『コール』する。この時『マロン』のスキルを発動するには『カウンター』が足りない為、不発に終わる。

『アレン』と『マロン』、『ブラスター・ブレード』の登場には全く違和感を感じない貴之だが、『ギャラティン』二体には何か引っ掛かるものを感じていた。

 

「(ここが一つのポイントだな……恐らく共に効力を発揮するユニットとセットで隠してるな)」

 

何やら嫌な予感も出てき始めて来たが、それが何かまでは掴めなかった。

――あいつ、一体どんなユニットを隠してるんだ……?貴之はより集中してファイトを見ることにする。

 

「二度目の攻勢を掛ける……!『アレン』の『ブースト』、『ギャラティン』でヴァンガードにアタック!」

 

「まだ演目が台無しにはならない……ここはノーガード」

 

ダメージはまだ2なので、ここで一度大人しくダメージを受けておくことにする。

今回の『ダメージチェック』の結果はノートリガーで、玲奈のダメージが3になった。

 

「手を貸してくれ『うぃんがる』、『ブラスター・ブレード()』が相手ヴァンガードを打つ!」

 

「それを通すわけにはいきません……『冥界の催眠術師』で『完全ガード』!」

 

赤いマントを靡かせて現れた、紫色の肌を持つ『催眠術師』が術を使い、『ブラスター・ブレード』となった一真に強烈な眠気を促す。

それに危機を感じ取った一真は距離を離して攻撃を中断する。ちなみにこの時の『ドライブチェック』はノートリガーだった。

 

「後一度ある……『マロン』の『ブースト』、『ギャラティン』でヴァンガードにアタック!」

 

「これはノーガード」

 

一番防ぎたいものは防いだので、こちらはそのまま受ける選択を取る。

イメージ内で『ギャラティン』の斬撃を受けた後『ダメージチェック』を行い、結果はノートリガーだった。

玲奈のダメージが4になったところで一真はターン終了を宣言する。

 

「(どうにか使わないで進めて来れたね……)」

 

予想よりも幸先いい結果に一真は一瞬安堵してから気を取り直す。

弘人の時もそうだが、相手のグレード3が出てきた時が最も危険であり、実際にそのターンで発動することになってしまった。

故に一真は、このターンを如何に乗り切るかへと思考を回す。恐らくはこのターンを耐えたら決着を付ける必要があるからだ。

 

「私たちが用意する演目もそろそろ大詰めに入ります……準備はよろしいですか?」

 

「ああ……できる限りのことを尽くそう」

 

ターンを始める前に問いかけて見た玲奈だが、一真の回答に妙なものを感じた。

自分のように『クラン』に合わせた口回しをする人は自信がある回答をするのが殆どだが、目の前にいる相手(一真)は慎重派と言うよりは自分が届かないかも知れないと言いたげな……後ろ向きとも取れるような返しをしていた。

しかしその正体がわからない以上無理に追及するのは悪手なので、玲奈はそのまま自分のターンを始める。

 

「『ライド』!『ゴールデン・ビーストテイマー』!『イマジナリーギフト』、『アクセル』!さらに『ナイトメアドール ありす』を『コール』!」

 

前列右側に金色の髪と青い瞳を持った少女の『ありす』が『コール』される。『ありす』の指からは細い糸が見えており、これが何かやる為のものだというのを教えてくれる。

 

「『アクセルサークル』は……開けたままで大丈夫なんですか?」

 

「あれはスキルを狙って開けてるんだ……だから大丈夫」

 

俊哉の回答を聞いて、燐子は実際に見てみようと思った。

 

「攻撃回数は四回……ですか?」

 

「いや、五回だ。理由は『ありす』にある」

 

『ありす』も仲間を呼ぶスキルがある為、これが手数を増やせることに繋がる。

それが理由の五回攻撃だった。これには一真も不味いかも知れないと考えていた。

 

「では、メインを始めましょう……『トラピージスト』の『ブースト』、『ビーストテイマー』でヴァンガードにアタック!この時『ビーストテイマー』のスキル発動!『コール』するのは、この演目に終わりを告げる『アーティラリーマン』!」

 

「……!ここは頼むぞ『ふろうがる』、『ギャラティン』!」

 

『ふろうがる』は手札から、『ギャラティン』は右側のものを『インターセプト』で呼び出す。

『アクセルサークル』に単純にパワーを引き上げやすい『アーティラリーマン』がいると言うだけでも、十分に焦らされていた。

そして、玲奈は『ツインドライブ』で(フロント)トリガーと(クリティカル)トリガーを一枚ずつ引き当て、一真の守りを突破して見せる。

(クリティカル)トリガーのパワーは『アーティラリーマン』、(クリティカル)は『ビーストテイマー』に回されており、これで『アーティラリーマン』のパワーはさらに引き上げられることになった。

なお、一真の『ダメージチェック』は二枚ともノートリガーとなり、玲奈が優勢の流れに変わった。

 

「(俺が見たいユニットはこのファイトでは出て来ない……。全国か、それとも決勝で見ることになるな……)」

 

貴之はこのファイトが今のターンか、一真のターンのどちらかで決着が付くことを悟る。

理由は一真はここから全てを防ぎきれない手札しか残っていないからだ。故に『トリガーチェック』次第ではこのターンで玲奈が勝利を迎えることになる。

当然ファイトをしている一真も気づいており、彼の額から頬に向かって嫌な汗が流れていた。

 

「次……『プレゼンター』の『ブースト』、『ありす』でヴァンガードにアタック!」

 

「仕方ない……ここは受けよう」

 

先に『ブースト』を使った以上、トリガー次第では一度防がないでいい場所が出てくる為、この選択を取る。

イメージ内で『ありす』は指に巻かれている操り人形用の糸を使い、『ブラスター・ブレード』となった一真を締め上げる。

ここでの『ダメージチェック』もノートリガーで、一真はトリガーを引けないまま5ダメージ目を迎えてしまうことになった。

 

「今宵のメインは少し長めですよ……?バトル終了時、『カウンターブラスト』と『ソウルブラスト』、さらに自身を『ソウル』に置くことで『ありす』のスキル発動!『ソウル』からグレード3以外のユニットを一枚リアガードに『コール』できる……今回『ありす』の人形劇にお付き合い頂くのは『ニトロジャグラー』!」

 

「(『ジル』がいないだけ救いか……?しかし、この状況では彼女のグレード2は何が来ても然して変わらないな……)」

 

先程まで『ありす』がいた場所に、『ニトロジャグラー』が現れる。

ここまではいいのだが、イメージ内の状況に少し問題があった。

 

「あ……あれは……どういうこと?」

 

「『ありす』の糸によって、『ニトロジャグラー』は操られているんだ……」

 

イメージ内の『ニトロジャグラー』の背後には、危険な笑みを浮かべ、彼を自身の糸で操っている『ありす』がいた。

始めて見て問いかけた友希那もそうだが、ある程度見慣れている弘人も答えながら苦い表情をしている。周りにいる人たちもそれぞれの反応を示している。

それだけ、この光景(イメージ)は思った以上に恐怖心等の感情を煽りやすいのが見て取れた。

 

「では、『ありす』の操り人形芸をお見せしましょう……『ニトロジャグラー』によるパスの再現!」

 

「頼む、手札の『ブラスター・ブレード』!」

 

幸いトリガー効果を受けていない『ニトロジャグラー』はパワーが12000しかないので、ここは確実に防ぐ。と言うよりも防がなければ『トリガーチェック』を祈るしかない。

イメージ内で一真の目の前に現れた『ブラスター・ブレード』が、爆薬を全て切り裂いて彼を守り抜く。

――我らの先導者(マイ・ヴァンガード)、ご武運を。役目を終えた『ブラスター・ブレード』は激励の言葉を送ってからこの場を離れる(退却する)

 

「青山さん……平然とファイトを続けていますね」

 

「自分が使い手なのもあるし、ずっと周りの人たちのように驚いてるわけにもいかないからな……」

 

始めて見たRoseliaのメンバー内で比較的大丈夫だったのは紗夜で、玲奈の様子を見て少々啞然としている。

一方で小学生時代から長く『ペイルムーン』を見てきた俊哉は、何も問題ないと証明するかの如くケロっとした様子を見せた。

この他にも俊哉と近しいが若干異なる理由で貴之が、元より持っている耐性の高さで大介と竜馬は全く問題無かった。

 

「もう少しだけ付き合って貰いますね……『プレゼンター』の『ブースト』、『ジル』でヴァンガードにアタック!」

 

「防いでくれ!『エポナ』、『ギャラティン』!」

 

相手のパワーが30000だった為、左側にいた『ギャラティン』も守りに入って貰う。

そして残りは『アーティラリーマン』を防ぐのみ――という状況になったところで、一真に深刻な問題がやって来た。

 

「……!?」

 

「も、もう手札が一枚しかない……!」

 

現在、『アーティラリーマン』のパワーは『ソウル』が五枚であること、トリガー効果を貰っていることから50000であるのに対して、一真の手札はあこが声を上げた通りたったの一枚しか残されていなかった。

さらに追い打ちを掛けるかのように、トリガー効果を受けられなかった影響で『ブラスター・ブレード』のパワーは10000のままである。

 

「おいおい……これじゃあどうやっても防ぎようがねぇぞ」

 

「トリガー勝負しか……残されていませんね……」

 

一真の勝ち目が極めて少ない――。それは会場の誰から見ても明らかだった。

この状況を目にした玲奈は、久し振りに大会で貴之と戦えるかも知れないと考え、笑みを浮かべる。

 

「では、このショーにも終幕(フィナーレ)を飾りましょう……『アーティラリーマン』でヴァンガードにアタック!」

 

「……!」

 

イメージ内で『アーティラリーマン』が放った砲弾が迫って来るのを見て、一真は思わず能力の開放を行う。

それは砲弾が『ブラスター・ブレード』となった自身に届くよりも速くできたのを証明するかの如く、爆発によって発生した煙が晴れても堂々と『クレイ』の大地に立っていた。

 

「(力無しではここまでか……)」

 

自身の現段階による限界という現実を知り、一真は寂しげな笑みを見せる。

――まったく、酷い有様だ。自身のこれを知ったら今戦っている玲奈のみならず、多くの人が批判的な反応を示すだろう。そう考えると気が重くなるのを感じた。

一方で玲奈は、注意深く彼を見ることのできる時間があったことも手伝い、彼がその表情をしている原因に気づいた。

 

「(……?彼の目が……)」

 

一真の瞳の内側に何か渦巻いたものが見え、それが関係していると玲奈は確信する。

『ダメージチェック』も彼が自嘲した理由を確信させるかの如く、(ヒール)トリガーが引き当てられた。

これによって玲奈はこのターンで勝利を納めることは叶わず、ターン終了を宣言することになった。

 

「(玲奈……気づいたのか!?)」

 

また、玲奈の様子を見た貴之は大いに焦り、思わず壁から背を離して一歩前に出る。

自身は(・・・)あの能力を見ても否定はせず、寧ろ使用を推奨したのだが玲奈はどうするかわからない(・・・・・・・・・・・・)

最悪は広められた影響で、一真がヴァンガードを続けられない程精神を追い込まれる危険性すらあるのだ。そうなったら貴之も自分を責めずにはいられなくなる。

――どうしようもないなら……何としてもあいつが続けられるように道を作ってやるしか……!玲奈の言葉を聞くまでの数分間、貴之は友希那と交わした約束すら投げ捨ててまでも一真の道を護ろうと決意していた。

このような選択をした理由として、自分も罪悪感に追い込まれて進めない可能性が極めて高かったのもあり、そうなればどの道友希那との約束どころではないことが目に見えていたからだ。

 

「(こうなった以上……やれることは全てやろう)」

 

本当はありのままの(力を一切使わない)自分で勝利したかったが、敗北を前に使ってしまったなら仕方がないと割り切る。

 

「『ライド』!『アルフレッド・アーリー』!スキルで『ブラスター・ブレード』を『コール』し、『ジャンピング・ジル』を立ち去らせる!」

 

『フォース』は『ブラスター・ブレード』を『コール』した前列左側に設置し、前列右側にはこのターンで引き当てた『ギャラティン』を『コール』する。

弘人の時はまだどうにかなっていたが、一真はこのファイト、瞳の内側から渦巻いたものが見えてから表情が変わっていた。

 

「(どうして……あんな辛そうにファイトしているんだろう?)」

 

玲奈は一真がしている表情の理由が気になった。

――聞けるチャンスはあるのかな?手札の都合から勝ち目が非常に薄くなっていた玲奈は、思わずそんなことを考えていた。

 

「このターンで決着を付ける……『うぃんがる』の『ブースト』、『アルフレッド・アーリー』でヴァンガードにアタック!」

 

「『フープ・マジシャン』と『ポイゾン・ジャグラー』で『ガード』!」

 

パワー21000の攻撃に対して、パワー32000の数値で防ぐことを選ぶ。

本当なら後10000追加した状態で確実に防ぎたかったのだが、もう手札も残されておらず、先程使われた『ブラスター・ブレード』のスキルが災いして『インターセプト』を使ったところでその数値を満たせない状態にされていた。

そして『ツインドライブ』の一枚目はノートリガー、二枚目は(クリティカル)トリガーとなり、効果は全て『ブラスター・ブレード』に与えられた。

 

「これで決めさせて貰う……『アレン』の『ブースト』、『ブラスター・ブレード』でヴァンガードにアタック!」

 

「……ノーガード」

 

何かを振り切りたいと言いたげに少々声を荒げた一真に対し、玲奈は自分でも驚く程優し気な声で宣言する。

イメージ内で『ビーストテイマー』となった玲奈が無防備な状態で静かに待っていたので、『ブラスター・ブレード』は自身の剣でせめて一思いにと大上段に構えてから一気に振り下ろした。

『ダメージチェック』は二枚ともノートリガーだったので、ダメージが6になった玲奈の敗北が決まり、ファイトが終わったので二人は「ありがとうございました」と挨拶をする。

この後決勝戦を行うのだが、一真が休まず連戦することになってしまうので一度20分の休憩を挟んでから決勝戦を行うことが決まった。

 

「すまない……不甲斐ないファイト(・・・・・・・・・)を見せてしまったね」

 

まさか貴之と戦う前に二回も使うことになってしまい、そのことで一真は堪えていた。

――彼と戦う前に、どうにかして自分を落ち着かせたい。そう思った一真が足早に去ろうとしたところを玲奈に引き止められる。

 

「最後のターン……あそこまで辛そうにしていたのは、何か理由があるの?」

 

「「……!」」

 

玲奈の問いかけに一真と貴之が驚き、一真はどう答えようものか大きく悩むことになる。

何しろ恐れていた、『何も知らない人が自力で気づいてしまう』という事態を目の当たりにしたからだ。

貴之はどうやってフォローに入ろうか、一真は玲奈がどう対応して来るかを必死に悩んでいるところ「別に怒ってるとか、そういう訳じゃないよ」と、玲奈から赦しを与えるかのような言葉が聞こえて拍子抜けした表情になる。

 

「でも……楽しいはずのヴァンガードファイトで、辛そうにしているのはやっぱり放っておけなくて……」

 

玲奈や貴之のみならず、大多数のヴァンガードファイターは基本的に最後までファイトを楽しみ、終わった後も楽しさを噛みしめて終わる。

だが今回の一真はそうはならず、これで終わりかも知れないと言わんばかりに悲壮感ある表情だったのだ。

それを目の前で見たこともあり、玲奈は彼の重荷(苦悩)をどうにかしてやりたいと考えた。

 

「勿論、無理にとは言わないよ……できれば何があったのか……あたしに教えて欲しいの」

 

――もしかしたら、力になれるかも知れないから……。一真の瞳を覗き込む玲奈の表情は慈愛に満ちたものとなっていた。

それを見た一真も、彼女なら話していいかもしれないと心の奥底から考えることができた。

 

「……分かった。そういうことなら、少しお願いしてもいいかな?」

 

「大丈夫……あたしを信じて?」

 

「(れ、玲奈がこういう選択をできる人で良かったぜ……)」

 

一番最悪な広まり方はしないで済んだことが分かり、貴之は再び壁に背を預ける。

表情や動きこそ分かりにくい状態を保ち切って見せたものの、心の中では今までで一番脱力していた。




玲奈のキャラコンセプトとしては『レン(一真)の心を救うことに関われるアサカ(玲奈)』となっており、それが一真の能力を見た後の対応に繋がりました。
一真の場合は『力に溺れない代わり、その能力無しでは弱いことに苦悩するレン(デッキ内容的にはアイチ)』。
貴之の場合は『生活環境がまともなので人間関係や心持ちに余裕ができ、同時に能力に対する目線も変化した櫂』となります。

次回は能力の名称公開と同時に決勝戦に入ります。
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