先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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これで地方大会が終了です。

今回は久々にちょっと長くなりました。


イメージ31 決着と新たな目標

決勝戦が始まる直前、貴之と一真は玲奈を交えた三人で話しをしていた。

玲奈が先程聞こうとしているものは貴之も知っているので、そこに貴之も加わる……というよりは、一真が彼に協力を頼んだ形だった。

 

「それで……さっきのあれは何だったの?」

 

「答えるに当たって一つ質問だが……玲奈はユニットの声が聞こえたりとか、そう言うことはあったか?」

 

自身の問いが貴之に別の問いで返されたので、玲奈は疑問に思いながらその問いに否定する。

この問いかけは『気がする』ではなく、冗談抜きにそう言ったことがあったのかどうかだということが感じ取れた。

 

「さっきのと関係があるんだね?」

 

「ああ、僕の持っているこの力……『PSY(サイ)クオリア』はユニットとの絆が深まったことで、それを可能にした人が持つんだ……トリガーが来るかどうか等も教えて貰えるから、ファイトでとても有利になる」

 

一真の持つ『PSYクオリア』は限られた人だけが持つ、絆の証(・・・)とも取れるし、ファイトの優劣を最初から決める理不尽なもの(・・・・・・)とも取れる能力だった。

しかしこの能力の存在を知る者は非常に限られており、貴之も一真の証言を聞かず、秋山姉妹に出会わなければ知る由も無かった程に知名度が低い。

恐らくはこの能力が知られれば、所持している人は妬まれ、所持していない人は見下されるという状況に陥っていたかも知れない。そう考えると誰かが限られた人以外に広まらないように努めたと考えられ、実際にその通りなら当人の努力は実った形になる。

 

「ただ……この力は一人だけカンニングペーパーを持ち込んでいるようなもので、そう感じてからはあまり使わないようにしているんだけど……」

 

――結局使ってしまったんだ……『PSYクオリア(この力)』が無ければ僕はこの程度みたいだ。一真は自嘲していた理由を告げる。

捉え方として貴之は全肯定と言えるものの、一真はグレーな状態だった。確かにユニットとの絆があるからこそだが、自分の力で勝てたような気がしないのが問題だった。

 

「なるほど……確かにこれは変に広まったら危険だね」

 

「故に知っている人たちも、なるべく口外無用の方針にしているんだ……」

 

玲奈は万が一のことが起きた際の重さを理解する。広めていたら今頃ヴァンガードはコンテンツとしての寿命は平気だっただろうか?考えるだけでもゾッとする。

また、この時貴之は『道を示す』ことはできたものの、『一真の苦悩を解決する』までは至らなかったことに玲奈が気づいた。

貴之がそれを知ったときに解決できていたのなら、彼はここまで悩むことは無かっただろう。

 

「秋津君、一つ大事なことを忘れてるよ?」

 

「……忘れてる?どういうことだい?」

 

恐らく言葉選びやその捉え方が理由で、彼が根本的な部分を忘れて悩んでしまっていることを、先程の会話で察知することができた。

一真は「力が無ければ自分はここまで」と言っているが、ここが大きな落とし穴に気づいてないことを示している。

 

「『クレイ』に降りたあたしたちって……一人じゃ戦えない(・・・・・・・・)でしょ?」

 

「……!」

 

誰だって『クレイ』に降り立った直後はか弱い霊体で、このままではまともに戦うことなど叶わない。

故に契約したユニットたちから力を借り、彼らがその力を発揮できるように先導していくのだ。

 

「そうか……僕は大事なことを忘れたまま悩んでいたんだね」

 

「一人で戦っているつもりでいたら、ユニットだって悲しいと思うの……」

 

玲奈に言われて、一真はデッキから一枚カードを取り出す。

そのユニットは『ブラスター・ブレード』で、彼が「一人で背負わせて済まない。これからは我らも共に悩ませて欲しい」と語りかけて来た。その後ろには他の『ロイヤルパラディン』に属するユニットが並んで頷いている。

『PSYクオリア』所有者の為、貴之や玲奈のように気がする(・・・・)では終わらず、確かに聞こえているのが大きな違いだった。

――ありがとう、みんな……もう一度、君たちと歩んで行くよ。ユニットたちに礼の言葉を送った一真の表情は、影が取れた貴之とこの会場で会った直後のような明るさあるものに戻った。

 

「青山さんだったね?ありがとう。大事なものを思い出せたよ……」

 

「とんでもない……。変に踏み込んじゃってごめんね?」

 

今回のことを謝る玲奈だが、一真はそんなことを気にも留めなかった。

何しろ自分の苦悩に対して一つの答えをくれたのだから、とても嬉しいことだった。

 

「俺からも礼を言うよ。本当に助かった……それと、道を示すだけでそれ以上ができなくて悪かったな」

 

「いや、放って置かないだけでも嬉しかったよ……。決勝のファイトで、僕なりの恩返しがしたいんだ」

 

「分かった。そう言うことならいくらでも貰うぜ」

 

貴之と一真もお互いのすれ違いを理解し、ファイトで終止符を打つという形で纏まる。

 

『時間になりましたので決勝戦を始めます。ファイターの二名は準備をお願いします』

 

「時間みたいだね……あたしは戻るから、二人とも頑張ってね♪」

 

アナウンスを聞いた玲奈は、ウインクしながら右手を振りながら応援の言葉を送って上へと戻った。

 

「さて、行くか……」

 

「ああ。僕たちのファイトを始めよう」

 

二人は同じペースで台の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「玲奈、遅かったね?」

 

「ちょっとね……。それにしても話せる時に話すって大事だね♪」

 

問いかけたリサだけではなく、玲奈とそれなりに関わっている人たちは不思議に思った。

貴之を引っ掛けようと言うつもりが毛頭も無ければ、積極的に関わろうとする女子のファイターは彼女を最後に観戦している人しか残っていない。

――ならば何が、彼女をそうさせたのか?今これを理解できる人はいなかった。

 

「方針はどうするか決まったか?」

 

「これからは、お互いに相談して使う使わないの意識を合わせようと思う……十分なところまで行けたら、その時にまた考えるよ」

 

意識してから一人で抱え込んでいた一真は、『ロイヤルパラディン』の仲間たちと意思疎通をする方針を取ることにした。

仲間たちと合わせれば使うことに納得もしやすいし、心の負担が軽くなってファイトがやりやすくなる。

さらに「今回はここまで行けた」等の前向きの姿勢が加われば、良い方向へサイクルを回せるようになる。それを聞いた貴之は「なるほど……」と安心した笑みを浮かべる。

 

「前にも言ったが……俺には遠慮なく使ってくれて構わないからな?」

 

「勿論だとも……君を相手に使わないのは失礼に当たるし、何より全力を出さないで終わるのは僕たち(・・・)が納得しない」

 

一真は元より、最初から使ってくることを推奨して来ている貴之相手は遠慮をするつもりが無かった。

故に最初から『PSYクオリア』を発動させ、全力の状態で貴之に挑む。

対する貴之もそれを待っていたと笑みを浮かべ、準備を終えた二人は互いのファーストヴァンガードに触れる。

 

「(あの様子なら大丈夫そうかな?貴之とのファイト、楽しんでね♪)」

 

一真の様子を見た玲奈は、心の中で応援を送る。

何事も無ければ貴之をみんなと応援していたところだが、今となっては二人が最後まで全力で戦う姿を見守るだけだった。

 

「「スタンドアップ!」」

 

二人の掛け声が聞こえたことで、会場が彼らの空気に引っ張られる。

 

「ザ!」

 

貴之が毎回『ザ』を付けているが、これにはお互いが無意識のうちに自然に合わせられると言う都市伝説がある。

自身がそう言ったタイプの掛け声をしている貴之は、「信じてみるのもアリ」だと考えていた。

 

「「ヴァンガード!」」

 

貴之は『アンドゥー』に、一真は『ぐらいむ』に『ライド』する。

ちなみに『PSYクオリア』を持つ一真はこの時、より深く『クレイ』の世界に飛び込むのだが、そこに貴之は入り込めないので一種の孤独な空間と化している。

 

「(誰でもいい……誰か来てくれると、もっと楽しくなる)」

 

一人は知っているのだがその人が消極的なファイターである為、一真は新たな出会いを求める。

同じ空間にやって来れるファイターが現れるのは、もう少しだけ先となる。

 

「始まったみたいね……」

 

「どっちが勝つかな~?」

 

「(貴之、どうかその努力を形にして……。そして『PSYクオリア(運命)』を振り払って……)」

 

秋山姉妹も最後まで残っており、瑞希と瑠美は純粋に二人のファイトの行く末が楽しみだった。

結衣は己の事情から、呪縛を振り払いたいかのように貴之の勝利を祈る。

 

「『ライド』!『ガイアース』!一枚ドローして『ラオピア』を『コール』!」

 

「『マロン』に『ライド』!一枚ドロー……」

 

ファイトは貴之の先攻から始まり、『ラオピア』は後列中央に呼ばれる。

対する一真はこの大会で始めて『アレン』以外のユニットに『ライド』をした。

 

「使い続けているだけあって読まれているのね……」

 

「手札を増やさせたく無いし、『ブラスター・ブレード』のこともあるからな……」

 

大会で何度もファイトを見ている内に、Roseliaの五人は分かりやすいものなら流れが分かるようになっていた。今回の場合は『バーサーク・ドラゴン』を読まれていることだった。

この時一真は手札にやってきている仲間から警告を受けているのもそうだが、貴之の動きを見てきていた以上、やはり予想して然るべきと言うのもある選択だった。

 

「(これは声とかそう言うのじゃねぇ……単純にバレやすい動きをして来てるせいだ)」

 

「(この動きは見慣れているだけじゃない。みんなが教えてくれると言うのに、あっさりと掛かりに行くわけにはいかないからね……)」

 

貴之は仕方ないと割り切り、一真も気を緩めようとしない。

対応されるなら次の一手。読まれないで済むならそのまま。互いに一つ一つをより集中したファイトを意識する。

 

「では攻撃と行こう……『マロン』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード」

 

例え『バーサーク・ドラゴン』のスキルが使えなくなったとしても、どの道後で使うことになるのだからと貴之はそのままダメージを受けることにする。

イメージ内で『マロン』となった一真の放つ魔術を、『ガイアース』となった貴之は直に受ける。

一真の『ドライブチェック』はノートリガー。貴之の『ダメージチェック』は(ドロー)トリガーなので、貴之は後で動きやすくなる形となった。

 

「『ライド』!『バーサーク・ドラゴン』!来い、『かげろう』の戦士たち!」

 

『バーサーク・ドラゴン』に『ライド』するものの、今回は対応されてしまっているのでスキルは使えない。

そのまま『メインフェイズ』で前列左側に『ラーム』、前列右側に『アーマード・ナイト』、後列左側に『バー』、後列右側に『エルモ』を『コール』する。

前列にいるユニットの内どちらかをヴァンガードにするという手段もあったが、『ラーム』は『インターセプト』でパワーを確保したい、『アーマード・ナイト』の方がスキルによるパワー増加が大きいことから、結局は『バーサーク・ドラゴン』がヴァンガードに選ばれた。

 

「じゃあこっちも行くぜ……『バー』の『ブースト』、『ラーム』でヴァンガードにアタック!」

 

《ここは、我らの用意を整えるべきかと》

 

「そうだね……ノーガード。『ダメージチェック』……」

 

一真は次のターンどころかその先もスキルを使いたいので、トリガー次第では全てノーガードでこのターンをやり過ごすつもりでいた。

仲間たちも同じことを考えていたようで、一真は彼らと意思疎通を果たした上でこの選択を選ぶ。こうしたことで状況を有利に運びやすいのも、『PSYクオリア(この能力)』の強みと言えるだろう。

まず初めの『ダメージチェック』はノートリガーだが、まだ1ダメージなので焦る必要はない。

 

「次……『ラオピア』の『ブースト』、『バーサーク・ドラゴン』でヴァンガードにアタック!」

 

「これもノーガード」

 

この『ドライブチェック』で、貴之は(ドロー)トリガーを引き当て、パワーはまだ攻撃していない『アーマード・ナイト』に回される。

対する一真の『ダメージチェック』はノートリガーで、このままダメージが2となる。

 

「最後……『エルモ』の『ブースト』、『アーマード・ナイト』でヴァンガードにアタック!」

 

「最後のそれもノーガードだ」

 

一真は最後もノーガードを選択する。貴之としてはパワーの上がった攻撃を通したいし、一真は次のターン以降に備えたかったので、二人とも相手の考えに敢えて乗ると言う形だった。

三回目の『ダメージチェック』もノートリガーで、(クリティカル)トリガーを引かないだけ良かったと言える結果に終わった。

 

「俺はこれでターン終了だ」

 

ダメージ数だけ見ると貴之が一気に有利を取ったように見えるが、一真は思惑があってダメージを受けているので若干有利程度に留まっている。

狙いあっての行動であるのが読めている為、貴之はそのまま不利になる可能性も十分に考えていた。

 

「今のうちにダメージを与えたかったんだな……」

 

「と言っても、次は『ブラスター・ブレード』と何かが来るから一長一短か……」

 

ダメージを与えれば勝利に近づくが、同時に一真に逆転のチャンスも与えることになる。

手札の差で一気に負けが濃厚になることもあるからこそ、貴之目線で考えるとこの後が怖い場所だった。

 

《待たせた。いつでも行けるぞ》

 

「分かった。先に待っているぞ貴之……『ライド』!『ブラスター・ブレード』!立ち去らせるのは『アーマード・ナイト』だ!」

 

一真はパワー増加の値が大きい『アーマード・ナイト』を退却させる。

ここで言う「先に待っている」というのは、己の分身を先に出したからそちらも出すのを信じて待っていると言う意味だった。

『メインフェイズ』では後列中央に『うぃんがる』、前列右側に『ギャラティン』、後列左側に『アレン』を『コール』する。この時『アレン』のスキルで前列左側に二体目の『ギャラティン』が現れる。

 

《済まない。今回の秘策の為にも私は待機させて貰う》

 

「大丈夫だ。次の時は君に頼む」

 

「(やっぱり一体だけじゃなかったか……!出て来ない一体は、恐らく秘策を見せることになっちまうスキル持ちだな……)」

 

ユニットと会話してるであろう一真の様子を見た貴之が苦い顔をする。そのユニットが見れないとなると、妙に対策を練り直す時に苦労することになる。

とは言え、秘策のユニットを見れれば己がどうすればいいか等の課題点は見つけられる為、それが出た場合は目に焼き付けるつもりでファイトに望む。

 

「行くぞ……まずは右の『ギャラティン』でヴァンガードにアタック!」

 

「それはノーガードだな……『ダメージチェック』」

 

防ぎたい攻撃は違うので、大人しくダメージを受ける。

この時の『ダメージチェック』がノートリガーなので、ダメージが2となる。

 

「私の一撃を受けるがいい……!『うぃんがる』の『ブースト』を受け、ヴァンガードにアタック!」

 

「頼むぞ……『ター』で『ガード』!」

 

――イメージがいつも以上に深い……!一真の口調だけでなく、表情からもそれを感じさせる。

これ以上手札を割きたく無いからこその最低限の防御だが、正直言って運任せなところが強い。

 

《まだ時は満ちていないようだ……》

 

「そうか……『ドライブチェック』。ノートリガー」

 

「(ここで出ないってことは……この先か?)」

 

ノートリガーの結果だったことは、返って貴之の警戒度を引き上げることになる。

また、このことに一番不思議に思っていたのは友希那たちとは離れて見ていた結衣だった。

 

「(意図的に手を抜いている……?いくら『PSYクオリア』があったとしても、そんなことはしないはず……だとすれば)」

 

結衣の考えに上がったのは、ユニットが注意を逸らす為にトリガー持ちが待機していることだった。

と言うよりも、こう考えなければ今回の『トリガーチェック』は不自然に見えてしまう。

 

「最後、『アレン』の『ブースト』、左の『ギャラティン』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード……」

 

一番防ぎたいものは防げたので、こちらは手札温存の為に受けておく。

『ダメージチェック』の結果はノートリガーとなり、貴之のダメージが3になったところで一真のターンが終わる。

 

「凄い……!全くの互角なんて……」

 

「ここからが本領の戦い……どう動くのかしら?」

 

ダメージ、場に残っているユニットの数が共に同じで先が読めないことにリサは驚嘆し、友希那はここからの動きを注目する。

グレード3はヴァンガードの花形とも言える場所になるので、ここからは更に目が離せなくなるのは明らかだった。

 

「待たせたな……俺もここから本領と行かせて貰うぜ!」

 

「何時でも構わない……私は真っ向から受けて立つ!」

 

「貴之がファイトを楽しんでるのはいつものことだが……」

 

――今回はいつも以上に楽しんでるな……。貴之の笑みをみて、俊哉も笑った。

その笑みにあるのは好奇心や興奮等の『喜』の感情で満ち溢れているもので、如何に楽しくやっているかが分かる。

 

「(あいつが楽しんでるのはいい……このファイトが見逃せないのも分かる……)」

 

――ただ、珍しいから気になることがある……。大介はちらりと玲奈の方を見やる。

このファイトを見ている時だけ、玲奈の様子がいつもと明らかに違っていた。

 

「玲奈がこんな状況で一言も喋らないとは珍しいな……」

 

「あ、言われてみればそうだ……」

 

そう、せっかく『Roselia(女子)()五人もいると言うのに、玲奈がこのファイトの間一言も話していないのだ。

言われたことで俊哉も気づき、玲奈はようやく反応した様子を見せた。

 

「あはは……あたしこんなに見入っちゃってたんだね……」

 

「そんなに珍しいんですか?」

 

「ああ。だって普段から「女の子のファイターが増えて欲しい」と願ったり、女子のファイター見たら目を輝かせたりするくらいの玲奈がさ……せっかくお前らと話せる機会を得てるのに投げ捨ててるんだぜ?」

 

こいつ流したなと思いながらも、俊哉はあこにその理由を話す。

それは玲奈が前々から持っている欲求や願いと言えるものだった。

 

「言われてみれば……私が始めて立ち入った時も、明らかに男子の方が多かったですね」

 

「確か……女子のファイターが少ない理由としても『周りに女子がいない』……と言う理由が多いんでしたね?」

 

「普段なら抑え目でも話せる機会は逃さないようにしてる筈なんだがな……」

 

今回会場にいる人も照らし合わせて紗夜は改めて感じ取り、燐子は女子が少ない理由の一つを思い出す。

故に俊哉たちには玲奈の行動が不思議に思えたのだ。

 

「(楽しそうにファイトしてる……これなら大丈夫かな?)」

 

玲奈がこうなってる理由も一真のことを案じていたからだ。

予想外なことなので察知されづらいが、その代わり今のように疑問に思われやすい。

 

「ライド・ザ・ヴァンガード!『ドラゴニック・オーバーロード』!」

 

『フォース』はヴァンガードに設置して、前列右側に二体目の『オーバーロード』を呼び出す。

 

「あいつ飛ばしてんなぁ……」

 

「『オーバーロード』が二体は圧巻だね」

 

稀に行う戦法の『オーバーロード』二体出しだが、実際に見やすい状況で見た時の圧は凄まじいものだった。

また、貴之は二体の『オーバーロード』で『ソウルブラスト』を発動し、これによってイメージ内で『オーバーロード』が同時に咆哮する。

 

「よし……まずは『バー』の『ブースト』、『ラーム』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード。『ダメージチェック』……」

 

ここはもう既に意思疎通を終えているらしく、彼はそのままダメージを受ける。

結果がノートリガーなので、このままダメージが4になる。

 

「次……ヴァンガードの『オーバーロード』で、右の『ギャラティン』にアタック!」

 

《後は頼む……》

 

「その意思を無駄にはしない……!ノーガードだ」

 

『ギャラティン』からの申告を受け取り、一真はノーガードを選択する。

この時の『ツインドライブ』で一枚(クリティカル)トリガーを貴之が引き当て、ヴァンガードの『オーバーロード』に全ての効果を与えてから『スタンド』させる。

 

お前たち(・・・・)はどう動く……?『ラオピア』の『ブースト』、『オーバーロード』でヴァンガードにアタック!」

 

《私が行きましょう……》

 

「任せた。『イゾルテ』で『完全ガード』だ!」

 

貴之が『お前たち』と言ったのは、ユニットたちのことを含めているからだ。

『オーバーロード』となった貴之の吐き出した業火は『イゾルテ』が防ぎきる。

また、『ドライブチェック』はノートリガーだったので、一真はこの後が少し楽になる。

 

「あと一つ……『エルモ』の『ブースト』、『オーバーロード』でヴァンガードにアタック!」

 

「手札の『ギャラティン』と『エポナ』で『ガード』!」

 

パワーが34000だった『オーバーロード』の攻撃は、二体の『ガーディアン』が加わったことで35000と言うギリギリの数値で防がれる。

ダメージを与える代わりに手札を減らせたと言う結果で、貴之のターンが終了する。

 

「(意外ね……『オーバーロード』に『ライド』したターンで、ダメージを1しか与えられないなんて……)」

 

友希那が見た限り、貴之は『オーバーロード』に『ライド』したターンは良くて決着を付け、ダメな場合でも2以上のダメージを与えていたので、この光景は珍しいことだった。

勿論、これは一真が多めに防御をしたことがあるのも理解しているが、今までが今までだった故にそう感じたのだ。

 

「……」

 

「結衣、大丈夫?」

 

不安や緊張が絡みあって気が気じゃないだろう結衣のことを、瑞希が気遣う。

結衣も「大丈夫」とは返すものの、瑞希()瑠美()は自分のことを分かっているのが簡単に予想できた。

 

《今が勝機ではない……ここは耐え凌ごう》

 

「ならばこうだ……『ライド』!『アルフレッド・アーリー』!スキルで『ソウル』より盟友たる『ブラスター・ブレード』を『コール』!立ち去って貰うぞ……『オーバーロード(黙示録の風)』よ!」

 

「くっ……!済まねぇ……」

 

一真も『フォース』はヴァンガードに設置し、『ブラスター・ブレード』は前列右側に『コール』される。

『オーバーロード』を退却させた理由として、このターンでは決着がつけられないことを想定しての動きで、パワーの高いユニットは先にどうにかしておきたかった。

この後、後列右側に『マロン』が『コール』され、場に全てのユニットが再び揃う。

 

「では攻撃だ……『アレン』の『ブースト』、『ギャラティン』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード。『ダメージチェック』……」

 

貴之の『ダメージチェック』は(ドロー)トリガーで、ここで再びダメージがお互いに4と同じ場所になる。

ただし今回は(ドロー)トリガーだったので、貴之は手札を補充することに成功する。

 

「次……『うぃんがる』の『ブースト』、『アルフレッド・アーリー』でヴァンガードにアタック!」

 

「『バリィ』で『完全ガード』!」

 

トリガーを引かれたらそこで終わってしまう為、ここは確実に防ぐことを選択する。

ユニットの「すぐそちらへ向かう」との声を聞いた一真が行った『ツインドライブ』は、一枚目が(ヒール)トリガー。二枚目は(ドロー)トリガーと言う結果となる。

これで一真のダメージが3に回復し、少々……どころかかなり有利になる。

 

「ここで『イゾルテ』を引かれると……もう『ウォーターフォウル』しかねぇな」

 

『完全ガード』を手に握られたことが影響し、貴之の突破手段は一回戦と同じで『ウォーターフォウル』に委ねられたような状況だった。

残り手札が四枚で、内一枚を省けば三枚となるが、ここの『ガード』数値次第では攻撃が届かない可能性が高いのはかなり痛い。

 

「貴之さん……大丈夫かな?」

 

「私は……大丈夫だと思いたいかな」

 

二回も似たような状況が起これば流石に不安にもなるので、あこの危惧は良くわかる。

しかしそれと同時に、燐子の率直な気持ちも一緒に見ている人たちは理解できる。

故にこれは信じるしかないと言う結論がすぐに出て、ファイトを見ることに戻る。

 

「頼むぞ『ブラスター・ブレード』、『マロン』!ヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード」

 

『ダメージチェック』はノートリガーで、これにより貴之のダメージは5。一真のダメージは3の状況でターンが終了する。

 

「本当だったら相当苦しいよね……」

 

「でも、こんな状況でも彼は挑む……それは間違いないわ」

 

そんな状況を見て瑠美は客観的に、瑞希は貴之の目線でそれぞれの所感を口にする。

瑠美がこう言ったのはたった今引き当てた『完全ガード』と、貴之に残された手札が二枚しかないことにある。

瑞希の主張としては、彼は降参等は絶対にせず、今持っている全力を尽くす。可能な場合はその上で自分と戦った時のように突発すると言うものだ。

このターンでどちらが勝つかが決まると言えるかもしれないのもあり、結衣はキュッと目を閉じて『運命の転覆(貴之の勝利)』を祈る。

 

「みんな……次は決めに来るはずだ」

 

今自分の取った行動によって、何が来るか分かっていた一真は仲間たちに警戒を呼びかける。

少々怖いのは手札の少なさがあり、警戒された上で貴之が真正面から突き破って来そうなことだった。

 

「こいつで勝負を賭けるぜ……ライド・ザ・ヴァンガード!『ドラゴニック・ウォーターフォウル』!スキルで『ブラスター・ブレード』を退却だ!」

 

今まで一真の隠し持っていたユニットを警戒していたが、なりふり構っている場合では無くなった。しかしそれでも『ブラスター・ブレード』を退却させたのは、「何をされるか分かったもんじゃない」と言う強い警戒から来るものだった。

何しろ『ブラスター・ブレード』から感じ取れるものが他のユニットと比べて明らかに多く、先にその芽を摘み取っておきたかったのだ。

『フォース』は再びヴァンガードに置き、これで『ウォーターフォウル』のパワーを33000まで引き上げる。

 

「よし……まずは『バー』の『ブースト』、『ラーム』でヴァンガードにアタック!」

 

「それはノーガード。『ダメージチェック』……」

 

一真はこれを防いだら次を防げないことに気づいていたので、このまま受ける。トリガー効果が欲しいのもあった。

しかし『ダメージチェック』ではノートリガーで、効果を得られないままダメージが4になり、『ウォーターフォウル』の攻撃を前にする。

 

「泣いても笑っても、俺の攻撃はこれが最後だ……!『ラオピア』の『ブースト』、『ウォーターフォウル』でヴァンガードにアタック!この時の『ウォーターフォウル』はグレード3のユニットを『ソウルブラスト』!」

 

「受けて立とう……!私は『ふろうがる』と『エポナ』、『エレイン』で『ガード』し、さらに『ギャラティン』で『インターセプト』!」

 

貴之はこのファイト中、自分はもう攻撃のチャンスがない事を確信していた。原因は手札の数とダメージにある。

対する一真も防げばほぼ勝ち、そうでなければ負けと言う状況なので、できることを全て行う。

これにより『ウォーターフォウル』のパワーは56000。『アルフレッド・アーリー』のパワーは73000となる。

 

「トリガー二枚出れば勝ち。それ以外はダメか……」

 

できることなら(クリティカル)トリガーが多いと嬉しいのだが、ダメージ自体は足りているので、今回はトリガーを引くことが重要になる。

次の『ツインドライブ』が勝敗を大きく左右する……それは誰から見ても明らかだった。

 

「俺のイメージを見せてやる……!『ツインドライブ』、ファーストチェック……」

 

まず一枚目に引いたのは(ドロー)トリガー。気休めにしかならないが、これで次のターンは耐えやすくなる。

パワーをヴァンガードに与えた後のセカンドチェックで、貴之は見事に(クリティカル)トリガーを引き当てて見せた。

 

「ゲット……!(クリティカル)トリガー!効果は全てヴァンガードに!」

 

「(流石は貴之だ……ただでは倒れないどころか、勝利を掴みに来ている……!)」

 

『PSYクオリア』を使っている間はヒヤリとすることなど基本的に無い一真だが、貴之相手はそうもいかない。

最初から使えばある程度以上の優性を作りやすいのだが、貴之が相手だと僅かにしか作れないか、そもそも拮抗まで持って来られてしまうのが起因する。

そして今に至っては、本当に打ち取られかねない状況になっており、今まで以上に底冷えするものを感じていた。

 

「……!届いた!」

 

信じていた友希那すら声を上げたのだから、周りから興奮した空気が伝わってくるのは無理からぬことだった。

何しろ前回の優勝者に一泡吹かせるかも知れない状況が、目の前に迫ってきているのだ。それが大会と言う大きな場所で行われるのだから、落ち着けと言うのは酷だろう。

 

「奪い取れ、『ウォーターフォウル』!奴から勝利の二文字を……!」

 

これなら勝てると思った貴之は『ウォーターフォウル』に呼びかけ、それに呼応するかの如くイメージ内で『ウォーターフォウル』となった貴之が吠える。

イメージ内で『ウォーターフォウル』となった貴之は、立ちはだかる『ガーディアン』たちを足で蹴り飛ばし、左手で掴んで投げ飛ばしと順番に追い払いながら『アルフレッド・アーリー』となった一真ににじり寄って膝蹴りを当てる。

膝蹴りで怯ませたところに逆手持ちにしていた剣を突き立て、そこから暴力的な勢いを持った水流を流し込んでいく。

 

《今し方お待ちを……!》

 

「まだチャンスはある……!『ダメージチェック』……」

 

一枚目の『ダメージチェック』はノートリガーで、これによってダメージは5になる。と言ってもこの段階では貴之よりダメージが少ない為、(ヒール)トリガーが来ないだけ全然平気である。

二枚目は待っていたかのような(ヒール)トリガーを引き当て、一時的に敗北を免れる。

しかしまだ三枚目が残っているので、会場の人たちは緊張しっぱなしだった。まるで自分のことのような緊張感をファイトしている二人から貰ってしまっているのだ。

 

『……』

 

こうなると誰も声を出せなくなってしまい、会場に暫しの緊張が走る。

一呼吸をした後、三枚目の『ダメージチェック』が始まる。

 

『……!』

 

「……(ヒール)トリガー。パワーをヴァンガードに回してダメージを回復する……」

 

「な……何ぃ……!?」

 

まさかの二連続で引かれた(ヒール)トリガーは会場の人たちだけでなく、貴之にも十分すぎる動揺を与えた。

確率の問題だと片付けることも可能だが、これは向こうのイメージが勝ったと認めざるを得ないものだった。

仕方ないと割り切りながら気を取り直して、貴之はターン終了を宣言する。

 

「あ、あいつ耐えきりやがった……」

 

「あの攻撃も届かなかったなんて……」

 

(ヒール)トリガー二枚と言う奇跡が起きたとは言え、オーバーキルになる攻撃を耐えきったのは予想を上回っていた。

啞然した声を上げる竜馬とは別の場所で見ていた結衣も、開いた口が塞がらない状態だった。

その事態に誰もが驚いている中、友希那は一真の一回目のファイトを見終えた貴之の表情と言葉を思い出す。

 

「(そう言えば、何か無理矢理はぐらかしていたような……)」

 

――後で聞くことはできるかしら?ファイトを見ている友希那は、どうすれば聞き出せるかを考え出す。

その一方で一真は『スタンド』アンド『ドロー』を済ませ、『ライドフェイズ』に入ろうとしていた。

 

「ようやく見せる時が来たよ……僕なりに進んだ証というものを」

 

「さっきまで隠し通してたユニットだな……?いいぜ。お前のありったけを見せてきな」

 

「ならば遠慮なく……!今こそ幻の騎士が降臨する時……『ライド』!」

 

『アルフレッド・アーリー』となっていた一真が光に包み込まれ、それが爆発的に広がる。

暴力的な光に視界を奪われ、それが回復したころには先程の場所に一真の姿はなく、代わりに上空に何者かの気配を感じ取る。

そこには『ブラスター・ブレード』と似通っていながらも、どこか違う鎧を身に纏い、後髪が伸びている異質な騎士がいた。

 

「グレード4……『エクスカルペイト・ザ・ブラスター』!」

 

「な……!『エクスカルペイト・ザ・ブラスター』!?何てやつを隠してやがる……!」

 

目の前で見た貴之が慌てるのは当然で、このユニットの存在を知っている人たちも大きく動揺する。

実際に使っている一真以外で慌てていないのは、入れていることを教えて貰っている瑞希と、制御法を考えるのに協力していた瑠美。この二人と一緒にいることが多い故に事情をしる結衣の三人だけだった。

 

「ぐ、グレード4……!?まだ上があったんですか!?」

 

「あ、ああ……と言ってもその存在は非常に限られてるし、そう簡単に使えるもんじゃないはずだが……」

 

――マジかよ……始めて見たぞ?大会で使うなんてファイター……。驚きながら聞いてきた燐子に対して答える俊哉も、相応に動揺していた。

 

「採用者がいなかったのは……そもそも『ライド』が大変だからですか?」

 

「それもあるけど……。グレード4のユニットは使用するだけでもファイターにかなりの負担が掛かるのが問題なんだ……。大体の人はその負担に耐えられないからすぐに使用をやめたの……」

 

一真の『幻の騎士』と言う下りはいいものと思っていたが、全員の慌てぶりと採用者の少なさが気になったあこは率直に聞いてみて「何それ……?」と顔が少し青くなる。

貴之も前に『かげろう』にいるグレード4を使用したことはあるが、負担が大きすぎるのが理由ですぐに採用を諦めた程だった。

それを最後まで隠し切って投入したのだから、驚きがさらに大きくなっていた。

また、『エクスカルペイト』らグレード4のユニットを使用した後は疲労等が激しくなるので、一真が倒れた時が心配だということも今回の動揺に拍車を掛ける。

 

「(なるほど……『PSYクオリア(それ)』を制御に使うのか)」

 

問題である大きな負担は、『PSYクオリア』の力を制御に回すことで一真は解決して見せた。

裏を返せば『PSYクオリア』を使ってようやく負担を抑え込めている状態なので、迂闊に使うわけには行かなかったのだ。

 

「登場時『カウンターブラスト』を発動!『ソウル』を一枚残して全て『ドロップゾーン』に置くことで、『エクスカルペイト』はこのターンの攻撃で、全てのユニットとバトルすることができる!」

 

「(なんてこった!これじゃ戦線崩壊だ……)」

 

全てのユニットというのは、後列にいるユニットも含まれる。

さらに厄介なことに、『ガード』する際はどのユニットを護るかを指定する必要があり、全てを守りきることは不可能に等しい。

また、『エクスカルペイト』も『フォース』を所持しており、それはもう一度ヴァンガードに設置される。

 

「この一撃を受けて見よ……!『エクスカルペイト・ザ・ブラスター』でヴァンガードにアタック!」

 

「ヴァンガードは『バリィ』で『完全ガード』!それ以外はノーガードだ!」

 

イメージ内で貴之の陣営にいたリアガード(仲間)たちは、『エクスカルペイト』となった一真が右腕のガントレットから作り上げた光の刃で薙ぎ払われ、退却させられる。

『エクスカルペイト』が持つ元のパワーは14000になっており、これを超えられるユニットは同じグレード4のユニットくらいになる。

 

「うわ……相変わらず凄い力だねぇ」

 

「暴れ馬を手懐けた結果がこれ……ということね」

 

「あれが……制御できたグレード4の力……」

 

この時ばかりは結衣も『エクスカルペイト』が見せる力に圧倒されていた。

グレード4が持つ能力は『ツインドライブ』で、グレード3の時と同じものになる。結果は二枚ともノートリガーで、一先ず危機を乗り切ったかと思った貴之だが、それはすぐに違うと感じ取る。

何せイメージ内で『エクスカルペイト』が、ヴァンガードであるにも関わらず光となって静かに消えようとしていたからだ。

これは『エクスカルペイト』が所有するスキルが関係しており、貴之は非常に不味い事態であることを瞬時に理解する。

 

「『エクスカルペイト』でアタックしたバトルが終了した時、手札から二枚を『ソウル』に置くことでこのユニットを退却(・・)させ、『ソウル』から『スタンド』状態で『ブラスター・ブレード』に『ライド』できる」

 

イメージ内で、『エクスカルペイト』となった一真が消えると同時に朝日が登り初め、それをバックにしながら『ブラスター・ブレード』となった一真がゆっくりと歩いてきた。

 

「不味い……もう一回攻撃が来る……!」

 

弘人の言う通り、もう一度攻撃が来るのは非常に苦しいところだった。

『ブラスター・ブレード』のスキルによる(クリティカル)の増加や、『ドライブチェック』の追加も大きいが、そもそも攻撃が増えること自体がやはり一番痛いところになる。

 

「荒れ狂う滝の竜を倒し、この戦いに終止符を打つ……!『うぃんがる』の『ブースト』、『ブラスター・ブレード』でヴァンガードにアタック!」

 

「『アーマード・ナイト』と『ター』で、さらに『ラーム』でガード』!」

 

パワー43000の『ブラスター・ブレード』に対し、パワー53000と言うギリギリで防ぐことに挑む。

もう一枚を投入しても次が防げないので、これで防ぐしかなかった。

耐えればどうにかなると祈った貴之だが、この『ドライブチェック』の結果は(クリティカル)トリガーだった。

 

「効果は全てヴァンガードに!」

 

「(これが次に……俺の超えるべき場所か)」

 

敗北を悟った貴之は自分の目の前にある目標と、次になすべきことが頭に思い浮かぶ。

イメージ内で『ブラスター・ブレード』の剣を受けた後の『ダメージチェック』はノートリガーで、残念ながら貴之のダメージは6になってしまった。

 

「これが僕の掴んだものだ」

 

「ああ。いいものを見させて貰ったぜ……」

 

倒れやしないだろうかと不安になっていた人たちは、一真がそんな様子も見せず貴之と会話する姿に驚くと同時に、彼が何らかの方法で制御して見せたと言う安堵が生まれた。

今まではこれでも自分にしか分からないくらいの負担はあったのだが、『PSYクオリア』に対して肯定的な目が強められたおかげなのか、その負担すら感じないで済んでいる。

その制御に成功したことと、『エクスカルペイト』を投入したこと自体を貴之は素直に称賛する。

 

「全国でまた戦うことになるだろうけど、その時は勝って見せるから楽しみにしてくれ」

 

「簡単に勝ちを譲るつもりはないけど……僕も楽しみに待っているよ」

 

この大会は確かに今の戦いで終わったが、まだ自分たちには全国大会がある。それを再確認することができた。

 

「じゃあ最後に……」

 

「そうだね。終わるときはしっかりとだね」

 

――ありがとうございました。良いファイトでした。二人が握手を交わすと同時に拍手が聞こえ、地方大会の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと情けないところを見せちまったな……」

 

「そんなこと無いわ。最初から最後まで、いいものを見せてもらったもの」

 

大会が終わった後、商店街の近くで夕食を取ってから解散し、貴之と友希那の二人は家の近くの公園に来ていた。

夕食の時、一真は秋山姉妹たちと共に予定があった為同席していないが、貴之が気を利かせたことで玲奈と一真は互いの連絡先を交換できている。

友希那の前だから優勝で終わらせて格好をつけたかった思いがあったので、貴之は困った笑みをしていた。

最も、友希那からすれば全国へ進めなかった方が問題であり、ファイトの質が良かったのだから何も文句など言う場所は無いので、この話しはここでストップとなる。

 

「ところで貴之。一つだけ聞きたいことがあるのだけど……大丈夫かしら?」

 

「……聞きたいこと?」

 

「えっと、あまり言わない方がいいのなら無理に答えなくてもいいけど……」

 

――秋津君……何か持っているの?その問いに思わず大きな反応をした貴之は、同時にそれが答えを言っているようなものだと気づいて頭を抱える。

答える前にどうしてそう思ったかと聞いてみれば、「貴之が無理矢理話しを切り上げたから」と言われて反省しようと思いながら少し考え込む。

 

「なら友希那……このことは口外無用だって約束してくれるか?そうじゃないなら絶対に話すことはできない」

 

せめてものの誠意と言えば、最低限でも一真のファイター生活が保障されることだった。

友希那が頷いてくれたので、貴之は「ユニットの声が聞こえると言ったら信じるか?」と問いかけてから、『PSYクオリア』のことを話す。

また、貴之はこれをファイターとユニットの間に生まれた『絆の証』だと捉えていることも伝えて置く。自分の所感ではあるものの、参考があると少しは判断しやすいと思ったのだ。

 

「確かに……これは簡単に話せないわね……。無理に聞いてしまってごめんなさい」

 

「いや、いいんだ……これは俺の配慮不足が問題だから」

 

自分を信じてくれていると言うのは嬉しいのだが、聞いたものが聞いたものなので友希那は少し落ち込みながら頭を下げる。

貴之はそこまで気にしていないからいいものの、迂闊な反応は避けるべきだと改めて自分を戒めた。

『PSYクオリア』に対して貴之と近い意見を持った友希那が口外無用を約束したことでこの話しは終わり、次は全国大会までどうするかと言う話しに移った。

 

「今まで見送りしていたけど……いつまでも避けている訳にはいかねぇ。俺も対抗できるユニットを使おうと思う」

 

貴之もまた、『エクスカルペイト』を見てからその対抗馬となるユニットの使用を決意していた。

制御が難しく、大きな負担が掛かると言う代物をモノにしようと言う貴之を見て、友希那は一つの提案を出した。

 

「その挑戦……私にも手伝えるかしら?他の人程強くは無いから、あまり力になれないかもしれないけど……」

 

「俺としては嬉しいんだが……いいのか?そっちもコンテストが近いし」

 

友希那が手伝ってくれるのなら広い範囲でファイトと制御の練習も可能になり、貴之としては願ったりなことだった。

しかしながら今回の全国大会と、友希那たちが出るコンテストの日にちは全く同じであり、Roselia忙しくなるだろうから友希那を引っ張りだこにして大丈夫かと言う疑問が残る。

 

「Roseliaの結成と言い、『Legendary』の作曲と言い、私は貴之からもらいっぱなしで何も返せて無いの……だから」

 

――今度は私にも手伝わせて?優し気な笑みと同時に問われた貴之は、胸が熱くなるのを感じた。

友希那の目線で考えれば貴之もすぐに理解できたし、自分目線でもそうしてくれるのは嬉しい。

――友希那がそうしたいなら、尊重しよう。貴之は自分への気遣いを嬉しく思い、彼女の好意に甘えることにした。

 

「……分かった。そう言うことなら余裕がある時に頼んでもいいか?」

 

「ええ」

 

――もう一回、しっかりと踏み出していこう。話しが纏まってすぐに貴之は自分に言い聞かせた。




これにて地方大会終了。思ったより長かった……。

能力名は結局『PSYクオリア』に……名前が思いつきませんでした。

グレード4の『制御が難しい』、『使用者に負担が掛かる』というのは、アニメ(2018版)でグレード4を使用したことのある人が……

アイチ……『PSYクオリア』発現直後
櫂……アイチと同じく
タクト……ディスティニーコンダクター

とまあ見事に特殊な事情持ちだらけだったので、こちらでは何らかのデメリットを持たせようとなりました。
一応回数を重ねたり、工夫をしたりすれば一真のような『PSYクオリア』持ちでなくとも問題なく使用できるようになりますが、根気のいるものになります。

次回はようやくRoseliaシナリオ11話……つまるところ本編に戻ります。二ヶ月近く、長らくお待たせいたしました……(汗)。
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