先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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久しぶりに本編の話しです。
予告通りRoseliaシナリオの11話なのですが、思ったよりも話しが短かったので独自展開を幾つか盛り込んで見ました。


イメージ32 再動と苦悩

「おねーちゃん、おねーちゃん」

 

小さい頃はそうやって自分を呼ばれても何ら疑問や嫌悪感を持ちやしなかった。

妹の彼女の方が例え上手にできようとも、自分がやるからこれをやりたいと言われても特に反対等もしていない。この頃はその差は特に気になる程ではないことも影響していた。

あまつさえは双子だからと同じ部屋を用意されても、文句の一つは出やしないで、寧ろ喜ばしくすら思っていた。

 

「あら……!こんなにできたのね……」

 

しかしながら、時が経つに連れてその能力差が気になるレベルになってしまい、そこから彼女と同じことをするのが嫌になった。

自分は頑張ってここまで来ても、彼女はちょっとやっているだけであっさりとそれを越えていく。

無論彼女に悪気はないのだろう。しかしそれでも、自分にとっては「何があろうと自分を超えることはできない」と言われているようで堪らなかった。彼女が「飽きちゃった」とすぐに辞めることも負の感情に拍車を掛けていた。

また、やはり双子なだけあってどうしても比較されがちになり、「あっちの方が……」と言う言葉を聞くと耳を塞ぎたくなる思いになった。

小学を終えるにあたって花女の中等部へ行こうとしていたが、最初から選んでいれば彼女が真似して被せて来るのが目に見えていたので、ギリギリのタイミングまで羽丘を選んでおき、最後の最後に花女へ変えるというやり方で振り切る選択すらした。

また、受験が終わったのを境に部屋を別に変えてもらったり、ギターを始めたりもしている。当時は資金面の問題で彼女は始められないで終わっていたが、近日彼女のギターに手を触れた。

 

「最初に立つ位置は誰だって同じだ」

 

そうして嫌悪感を抱いたりしたことがあって、今一自分を好きになれない時間が続く中、根本的なものを一人の少年が思い出させてくれた。

この言葉を聞いて思い返して行くと、自分も彼女も最初は分からないなりに試行錯誤する時間はあることを思い出せた。これは目の前の少年も変わらないと確信できた。

また、自分と同じく一つの物事に打ち込んでいることもあり、「信じてもいい」と思っていたところ、彼は前回の優勝者に惜敗を喫した。

――どうして……こうも無情なのかしら?そう思った瞬間、突如として自分の目の前が真っ暗になる。

 

「……えっ?」

 

何があったんだと思っている矢先、後ろから何者かに肩を掴まれてびくりと体を震わせる。

――可哀想だよねぇ……。あんなに頑張ったのに(・・・・・・・・・・)勝てないなんて?自分がよく知る声で、普段なら絶対にしないような言い回しで問いかけて来た。

そう感じたのは、普段の彼女ならば「どうして……」と分からないから問うのだが、こちらは明らかに分かりきっている様子だった。

 

「や……やめて……」

 

自分もああなるのかもしれない。そう考えながら返した声は酷く震えていた。

しかしその声の主は止めることをせずにほくそ笑み、自身の顔を紗夜の耳元まで近づける。それは振り向かないと絶対にその顔が見えないが、近すぎてその人がいることは分かると言う非常にいやらしい位置だった。

――次は……あなたがああなるんじゃないかな?まるで嘲笑うかのように、彼女は自身の抱えているもの(コンプレックス)をぶり返すように問いかけて来た。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

大会が終わった翌日の朝――。紗夜は慌ててベッドから体を起こし、肩で息をしながら左右を見渡す。

 

「夢……なの……?」

 

普段なら毛布を雑に扱わず、バッチリと目は覚める。

しかし今日は目は覚めているものの、毛布の扱いは少々雑なものになっていた。

原因とすれば昨日見に行った地方大会もあるが、帰った後にもう一つその原因であろうものを紗夜は見ている。

 

「(もうすぐで日菜も、人前でライブをすることになる……)」

 

昨日見せてもらったポスターがあり、それは日菜の入っているチームがバンドのライブをすると言う告知のものだった。

チーム名はPastel*Palettes(パステルパレット)――。後に『パスパレ』という呼び方をされるようになるチームである。

彼女らは『アイドルバンド』という、言わば『バンドをするアイドル』で売り出していくつもりであり、そこに入った日菜もアイドルとして扱われることになる。

それを聞いた紗夜は「バンドをするんじゃなかったの?」と聞いてみたが、「バンドはやるよ?面白そうだったからここを受けたし……」と興味本位に近いことが判明した。

別にダメと言うつもりは起こらなかったが、今度は彼女がアイドルとしてしっかりした対応をできるかと言う問題が発生する。

時折自覚無しに人を怒らせてしまう面を持つため、ここばっかりは本当に不安でならなかった。

 

「それにしても……ひどい汗ね」

 

ある程度冷静さを取り戻したところで、紗夜は自身がかなり汗を掻いていることに気付く。

気温が上がり始めていることもあるが、今回は先程まで見ていた夢が原因だろう。

時計を確認すると、いつも起きる時間とそこまで変わっていないことが分かって少し安心した。

普段から早めに起きる紗夜は、朝食を取る前も家族を起こさぬよう気を付けながらギターの練習をするか、勉強をするかのどちらかを選ぶのだが、ここまで汗を掻いてしまった以上はそんな気にはなれない。

 

「(シャワー……浴びてきましょう)」

 

今日は練習もあるのだから、いつまでも動揺しているわけにもいかないし、このまま行くのは流石に抵抗感がある。

一度気持ちを落ち着かせる意味も込めて、紗夜は着替えを準備して浴室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

紗夜が最悪に近い寝覚めをしてからおよそ二時間後――。貴之は自宅にて早速デッキの組み直しを始めていた。

一真とのファイトを経由して、こちらも『エクスカルペイト』に対抗できるユニットを用いたデッキを組むことにしたのだ。

しかしながら、こう言ったデッキを組む際でも貴之は『オーバーロード』を入れることは忘れず、それらに固執しすぎないようにと今後も使って行けそうだと思ったユニットは残していく。

交代すると判断したユニットの所には、対抗馬として使用するユニットのサポートを行えるユニットを宛がう。

――再び私を呼ぶか……。己に掛かる負担は忘れていないのだろう?デッキを組み終えたところで、今回の新たな切り札足り得るユニットに声を掛けられたような気がした。

 

「忘れちゃいねぇさ……。ただ、体が追いつかないからって目を背けるのはもう終わりだ」

 

――覚悟を決めたと言うことか。だが、私を抑えるのは楽でないぞ?心意気を理解された直後、再び問いかけがやって来た。

何しろ貴之は『PSYクオリア』を持っておらず、一真のようにその負担を強引に抑えることは不可能である。

故にそのユニットは、本当に大丈夫かを釘刺すように二度も問いかけたのだろう。

そう言われれば貴之も即答と言う訳には行かず、一回自分の胸に問いかける。

 

「大丈夫だ……。お前を使いこなしてこそ、俺の辿り着くべき場所へ行ける……」

 

――俺も努力を惜しまないから、お前も力を貸してくれ。貴之が頼むと、今度はそのユニットが少々考え込む。

少し時間を掛けてから「そこまで言うなら、お前の覚悟を見せて貰おう」と告げ、納得した旨を見せる。

その直後に静かに去っていくのを感じた貴之は、どうにか説得できたと安堵してため息をつく。

デッキを組んだので早速ファイトをするべく外出の準備をするのだが、今回はいつものようにファクトリーへは行かず、代わりに瑞希が移店したと言っていたショップに行くつもりでいる。

瑞希に寄ってくれと言われたのもあるが、秋山姉妹間っ子である結衣との約束を果たす為でもあった。

 

「(待ってろよ、結衣……)」

 

――俺のファイト(努力)で『PSYクオリア(運命)』を覆してやるからな……。今はショップにいるであろう彼女に心の中で呼びかけてから、貴之は外へ出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

時間は少しだけ遡って、紗夜が最悪な寝覚めをした時と貴之がデッキを組み直している時の丁度間辺りになる。

チームでの練習前に自室で自主練をしようとしていた紗夜だが、結局落ち着き切らないまま練習している際に日菜が入ってきたら何を言うか分かったものではないのに気づき、逃げるように楽器屋へと足を運んでいた。

練習があるから当然ではあるが、後々練習が終わるまで戻らなくても良いようにと予めギターは持って来てある。

友希那と考案した課題を三人がしっかりと達成できているかを確認する日でもあるので、今日の練習は皆気合いを入れているだろうことは明らかだった。

 

「(どうなっているかしら……?)」

 

「おっ、久しぶりだね紗夜ちゃん」

 

気になっている際に、この店の店主である男性から声を掛けられる。

度々世話になっているこの店だが、テスト期間に入って以来一度も来ていなかったので、紗夜は久しぶりの入店だった。

 

「この間のライブ凄かったらしいね!」

 

――ほら、写真載ってるよ!と彼は携帯電話を操作してその記事を見せてくれる。友希那の影響が強いのもあるが、注目されているのは確かだ。

確かに、カメラを持っている人が何人か来ていたなと思い返していた紗夜は、ちらりと彼の背後にあったポスターに気付く。

貼られているポスターが昨日も日菜に見せて貰ったものと同じだったので、思わず顔をしかめた。それが原因で写真の写りが悪かったのかと心配されてしまい、理由を説明した。

それによって理由に気づいた彼がPastel*Papettesのことを説明してくれるが、既にそのメンバーにいる人から聞いてしまっている紗夜は新鮮味を感じられず申し訳ない気持ちになる。

 

「……ん?そう言えばこのギターの子、紗夜ちゃんに……」

 

「(……!また、これが始まると言うのね……)」

 

彼に別段悪気が無いのは分かる。姉妹で、しかも双子なのだからこういった反応はすぐに起こるのだ。

しかし紗夜に取ってこれは一番嫌なことで、今日の寝起きから危険を感じて早く外へ出た矢先にこれは堪える。

――分かっていたのに、どうして忘れていたと言うの?日菜がギターを始めることに反対しなかった時のことを思い出し、紗夜は自分すら責めた。

 

「私……その……練習がありますから、これで……!」

 

このまま居続けたら取り乱す可能性が否めないし、抱いた悪感情も振り払いたいので紗夜は強引に話しを切り上げて店を出ていく。

恐らく今朝まで見ていたあの夢は、貴之が決勝戦で惜敗し、自分が「どれだけ努力しても、才能と言う絶対的な壁を超えられない」と考えた所に付け入られたのだろう。

――どうしてそこまでして否定するの……!?早めにライブハウスへ移動しながら憤る紗夜だが、その悩みに答えてくれる人は近くにいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~……貴之もそう言うのに手を出すんだね?」

 

「ヴァンガードが絡んだからって考えると納得できるけど、あこも意外だと思ったんだ~」

 

ライブハウスに集まり、練習に一度休憩を入れた際、貴之のことが話題に出た時のリサの反応とあこの感想だった。

過程としてはリサがあこと燐子が普段やっている『NFO』のことを聞いた際に、途中で貴之もやっているという声が上がったことがこの反応へ繋がる。

小学生時代を知るリサからすれば、そう言ったことは俊哉たちと絡んでいる時くらいなので、思いの外新鮮に思えた。

 

「じゃあ貴之と一緒に遊んでないのは時間の都合なんだ?」

 

「お互いに立て込んでますから……やること終わらせてから顔合わせしようって話しになったんです」

 

燐子が口にした『立て込んでいる』と言うのはすぐに分かった。全国大会とコンテストだ。

両方とも同じ日に開催されることになっているので、応援に行けないのは少し残念なところではあるが、それは仕方ないだろう。

そこから彼女たちは「コラボで出てた装備」の話しや、「レベル差はどれくらいか」等の話しにシフトしていく。

 

「全員、課題をこなせていたわね」

 

「そうですね。全く問題ありませんでした」

 

友希那の声に簡単な反応した紗夜は、そのまますぐに閉口してしまう。

確かに全員課題をこなしており、着実にレベルが上がっている。このまま行けばコンテストで優勝することも夢ではないだろう。

普段ならそれなりに話題に食いついたりしようとしたはずだが、今回のような行動をしてしまったのは今朝見た嫌な夢と、昨日の大会が理由だった。

 

「(あんなものを見てしまえば、どれだけやっても無駄と言われているようにしか思えないわ……)」

 

もしも貴之(先導者)との関わりがRoselia(自分たち)になく、目の前で話している三人があこの姉の話題に方向転換していたのなら荒れていたと言える自信はある。

寸前で引き止める要因があるから荒れはしないものの、平静を保てるかと言われればそれはまた違った。

流石にそんな様子を見ていたらすぐに分かってしまうのだろう。友希那がこちらに声を掛けてきた。

 

「何かあったの?」

 

「い、いえ……その……」

 

一度だけ三人の方を見てみるが、今は話しに夢中になっているのでこちらには気づいてない。

しかしながら自分の思っていることをそのまま話すと言うのは、それはそれでどうなんだとも思っていた。

何しろ内容が内容なので、信じられないと言われるか、厳しい 責が来るかのどちらかだろう。

 

「言いづらいなら無理に言わなくてもいいけど……その調子だと今日は自分を休ませた方がいいわ」

 

「……すみません」

 

実際のところ、友希那も紗夜がこうなったことに思い当たる節はあった。

勉強会を開いた日も同じ姉と言う立場を持つ小百合に悩みを打ち明けたこと。そこから繋がる貴之(努力)一真(才能)に負けたこと。そしてしまいには最近貼られるようになった日菜がいるチームのポスターだ。

友希那は話しを聞けたから事情を知っているものの、大半の人は一真を才覚の人間だと思うだろうし、実際に日菜との才能の差に苦しめられた紗夜からすれば、あの結果は何らかの影響を与える可能性は確かにある。

 

「あの三人には私が言っておくから、あなたは一度見るべきものを見てくるといいわ」

 

「見るべきもの……ですか?」

 

どういう事か分からず紗夜は首を傾げた。頭を冷やせと言われるだろうと思っていたので少々面食らったのもある。

 

「貴之は今日から、あのユニットを……引いては、彼に打ち勝つ為の第一歩を踏むらしいわ」

 

――あなたはそれを見て、悲観する必要がないことを理解して来て欲しいの。頼み込むように告げられ、紗夜は少しの間固まった。

それと同時に、友希那から話しを聞いた紗夜は何が違うのかが気になったのも事実だった。

なら、この提案には乗った方が良いだろうと考えて荷物を纏め始める。

 

「手間をかけさせてすみません。一度行ってきますね」

 

「ええ。しっかりとした答えが見つかるといいわね」

 

――ファクトリーに行けばいいのかしら?一先ず出てから考えようとなった紗夜は「お先に失礼します」と告げて部屋を後にした。

 

「……あれ?紗夜さん、どうかしたんですか?」

 

「急用ができてしまったみたいなの。だから今日はこの後、私たち四人で練習することになるわ」

 

流石に紗夜が先に帰れば反応し、気になるのは無理もないので友希那はそれと無く答えた。

実際のところ、今日の紗夜は何か抱え込んだままで練習に集中し切れていないため、一度休ませた方がいいとは考えていた。

悩んでいる内容が内容だったので、あの手合いは自分よりも貴之の方が向いていると言うことで今回の選択に至った。

無論、自分が才能に胡坐をかいているわけではないのは最初の頃に伝えてはいるが、目の前で大きなものを見せるなら普段から共に練習している自分では難しいものがあった。

そう言った理由から、今回デッキを一新して再スタートを踏む貴之に白羽の矢が立つことになった。

 

「あっ、私も電話をしなければならないから少し席を外すわ。大丈夫なら先に始めてて頂戴」

 

実際のところ全てアドリブでどうにかしていた為、状況を伝えるべく友希那は携帯電話を片手に部屋を出る。

話している間に何があったか分からなかった三人は、顔を見合わせて首を傾げることになった。

 

「(紗夜は何があったかを正直に話してくれた……)」

 

友希那は自分だけどう言った理由でバンドをしているかを話していないことを思い出す。

今回の悩みは私情の強いものであったが、そもそも自分が私情にまみれている事情持ちなのでとやかく言うつもりはない。それ以上に彼女は話してくれたのにと言う情が上回っている。

 

「(私もどこかで、このことを話すべきでしょうね……でも)」

 

――リサはともかく、他の人はどうなるかしら?考えた途端に不安を感じた友希那は、逃げたい気持ちもあって必要以上に三人のいる部屋から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「今日も行ってくるの?」

 

「ああ。デッキを組み直したし、全国まで時間も無いからさ」

 

デッキを組み終えた貴之は、早速瑞希たちが経営するカードショップへ行こうとしていた。

家の中にまだ小百合がいて、一声かけたらそのことを問われたので肯定しながら理由を話す。

確かに昨日は惜しくも優勝を逃したが、大事なのは次の全国大会。そこで勝ち切ればいいのだ。

 

「昨日の今日なんだから、少しくらい休んでもいいのに……」

 

大会が終わったのにまたすぐファイトに向かう。そんな弟の様子を見た小百合は困ったような笑みを浮かべる。

姉の言い分も分かるがそうも言ってられないので、貴之は気持ちだけ受け取っておく旨を返す。

 

「じゃあ、帰る時と飯食う時は連絡入れるよ」

 

「分かった。気を付けてねー」

 

小百合に見送られながら、貴之は玄関のドアを開けて外に出る。

早速目的のカードショップへ足を運ぼうとしたところで、携帯に一本の電話が掛かってきたのでそれに応じる。

 

「もしもし?」

 

『貴之、いきなりでごめんなさい。今大丈夫かしら?』

 

「……何かあったのか?」

 

『実は……』

 

電話の相手は友希那で、彼女から今日の練習中に何があったかを教えてもらう。

友希那が電話の為に一度部屋を出たのもこの為で、話しを聞いた貴之は自分の状況を伝えて大丈夫であることを告げる。

 

『ごめんなさい。本当は私たちでどうにかするべきことなのに……』

 

「いや、大丈夫だ。俺も原因の一端になっちまってるしな」

 

――後は任せてくれ。そう言葉を投げかければ友希那も納得してくれ、ここからは貴之が引き受けるのが決まって電話は終わった。

この直後紗夜に電話をかけようとしたが、一瞬だけどうやってこの事を持ちかけようかに悩む。

 

「まあ、正直に伝えればいいか」

 

変に理由を考えたら拒否される可能性が高いので、深い理由は考えないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「来てくれたみたいだな」

 

「ああ言われれば、流石に無視はできません」

 

貴之が呼び出すのに使った言い分は、端的に言うと『才能に打ち勝つ努力を見せてやる』だった。

丁度紗夜が苦悩している際に、大会を終えた直後の貴之がそう言うのだから確かに効果はあった。

本来なら無視して帰っても良かったのだが、家に帰ってもまともな練習どころか荒れる可能性が高いし、かと言って暇つぶしに有効な場所をあまり知らないので、貴之からの持ち掛けは渡りに船だったというのも拍車を掛けている。

 

「それで?中に入るのですか?」

 

「いや、今日は別の場所に行くんだ」

 

今は『カードファクトリー』の前にいるのだが、今回は秋山姉妹が経営するカードショップに行くつもりである為、貴之は紗夜を案内する。

 

「俺が一回戦で戦った人は本来、カードショップを経営しててな……その人に宣伝されたから行こうと思ってる」

 

「カードショップをやっている人が大会に……ですか?」

 

話しを聞いた紗夜は少々不思議にも思った。店員が多いから大丈夫なのだろうか?そう思ってしまった。

実際には移店してから開店前の時間だから余裕があったと言うだけであり、そうでなければ大人しく店にいただろう。

 

「(それに、結衣のこともあるからな……)」

 

己の力で『PSYクオリア』に勝つ。それが結衣に誓ったことであった。

否定的な見解を持っている彼女は、自身の持っている事情から『PSYクオリア』にかなり悩まされている。

昨日は悪いことをしてしまったが、今回はそんなことをしないのを見せてやろうと思ったところで、目当ての店に着いた。

 

「こんなところにあるんですか?」

 

「マップ見た限りはらしいぜ」

 

――また人が来ない穴場みたいな場所になるぞ……?紗夜の質問に答えながら、貴之は瑞希に問いかけたくなった。

しかしながら、そう言った場所は今回のようなとあるユニットの練習にはこの上ない程最適な場所となるので、そう言った意味ではありがたいと思っている。

場所は橋を渡らなくていいものの、それでも後江と同じくらいかそれより少し短いかくらいまでの距離がある上、そこの店がある道は狭いと言う貴之らのように商店街の近くにいる人は来ないだろうところだった。

 

「着いたぞ。ここが俺の来ようとしていたカードショップだ」

 

「『レーヴ』……ですか?」

 

貴之に案内されてきたカードショップの名前は『レーヴ』……フランス語で夢の意味を持つ名称のカードショップだった。

ここが秋山姉妹の経営しているカードショップであり、あまり人が来ないことから誰か一人でも来れば夢のようと言いたいのか、それとも人目のつかぬ状態で秘策を立てられる夢のような場所と言いたいかは、ここへ訪れる人たち次第だろう。貴之や一真の場合は後者になる。

 

「来てくれってここの人に頼まれてもいるからな……入るとするか」

 

あまり店前で時間を掛けるのもどうかと思った貴之はドアノブに手を掛ける。この店はファクトリーやルジストルとは違って自動ドアではないのだ。

ドアを開けて貴之と紗夜が中に入ると、カウンターで何かの整理をしている瑞希の姿があった。

 

「あら、いらっしゃい。そっちの子は彼女さんだったり?」

 

「それに関しては外れですね」

 

ドアを開けた時は取り付けてあるベルがなるようにしているのだが、それの音に遅れて反応した瑞希が自分たちの来店に気づいて声を掛けてくる。

瑞希の質問に否定しながら貴之は紗夜のことを友人だと紹介しておき、紗夜と瑞希が互いに自己紹介をする。

 

「何というか……カードショップにしては、明るさが少ないような気がするのですが」

 

「最初は明るさも確保していたけど……この店はあまり人が来ないから、落ち着いた雰囲気にしようって方針に変えたの」

 

ファクトリーと比べるとそれなりに暗めだったので、紗夜は少々戸惑い気味だった。

紗夜の場合は最初に入った場所がファクトリーというのが大きいが、他のカードショップを見て回ってきた貴之もこれに関しては同感だと思っている。

経営事情からすれば人が来ないことがお金を稼ぎづらいということに繋がり、費用削減の為と物悲しい事情に早変わりしてしまう。

 

「そう言えば……あの二人は、今出ているんですか?」

 

「ええ。でももうすぐ戻ってくるわよ」

 

――噂をすれば……かしらね?貴之の問いに回答したところで、丁度結衣と瑠美が帰って来た。

 

「ただいまー……って、貴之さん来てたんだ!そっちの人は彼女さん?」

 

「瑠美も瑞希さんと同じことを聞くか……」

 

――俺は友希那が好きなんだけどなぁ……。しかしながらこの店には一真を引き連れて来る以外は基本一人だったので、こう問われるのはやむ無しだと貴之は少し割り切りができていた。

ここを離れてから少しした後は呼び方に気を付けたりしている貴之だが、秋山姉妹はそうする前に一度だけ結衣と会っていたことから例外としている。と言うよりも、その方式に変えるのが難しかったというのが正しい。なので彼女たちを名字呼びはしていない。

出会った当時の結衣は三姉妹の中で唯一ファイターとしての気質の強かった少女だが、とあることが理由で一線を退いている。

 

「昨日は悪かったな……」

 

「気にしないで。それよりも貴之、あなたがここに来たと言うことは……」

 

あのファイトが理由で堪えてしまったかもしれないと思っていた貴之は一度詫びるが、事態が重くなっていないことに安堵する。

そして結衣が問おうとしたことに、貴之は頷いて肯定を返す。

 

「戻って来たところで悪いんだが……ファイトの相手を頼んでもいいか?」

 

「……分かった。準備するから少し待ってて」

 

本当なら拒否してもよかったのだが、貴之の目から「俺を信じろ」と言わんばかりのものが見えたので、結衣は信じることにした。

ファイトを受けることにした結衣は、荷物を置いてデッキを取りに行く為に一度カウンターの奥にある部屋へ入っていった。




11話は紗夜を主軸に置かれた話しなので、そこを守ろうとした結果冒頭の下りが起きたりしました。変更点としては……
・紗夜が悪夢にうなされるところからスタート
・悩まされる内容が二つに増えてしまった(これは一真の事情を知らないのが原因)
・休憩中に出た話題はあこの敬愛する姉()ではなく貴之とNFO関連のことに
・友希那が気を利かせ、紗夜が荒げる前に理由をでっち上げて帰れる理由を作る

大体こんな辺りでしょうか。
次回に一度グレード4のデメリットを紹介する為にも少々強引な理由作りとなってしまった感じはあるので、もしそう感じた人がいるなら教えて頂けると幸いです。今後の展開で似たようなことが起こった場合は改善に努めます。

そんなことで次回はファイト展開になるのですが、何を出すかはもうバレてるんでしょうね……(笑)。
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