先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

44 / 135
サブタイで何が出るかはバレてるかもしれませんね(笑)。

ちなみにガルパの人気投票ですが、私はRoseliaに全票入れています。


イメージ33 運命(イメージ)を覆す超越龍

「ところで、氷川さんはユニットの声が聞こえたりしたことはある?」

 

瑞希の質問に、紗夜は首を横に振ることで否定を返す。

そんな経験が自分には一度も無いが、貴之のようにヴァンガードを続けていると起こるかもしれないので紗夜は本当にそれがあるのかを聞いてみた。

 

「貴之君が立ち向かおうとしているのは、本当にそう言ったことができる人なの」

 

「(さっき、才能に打ち勝つ努力と言っていたのは……その力を持った人に再挑戦するからなのね)」

 

話しを聞いた紗夜は貴之がそう言った理由を悟る。正直に言って凄いとすら思えていた。

――今の私では、すぐに折れ(諦め)てしまうわ……。自分のことを考えると陰鬱な表情になる。

 

「貴之……私は『PSYクオリア』を?」

 

「ああ。最初から最後まで頼む」

 

――俺は『PSYクオリア(それ)』を負かしに来たからな。結衣が『PSYクオリア』を嫌っていた理由は自分が持っていて、一真よりその力で勝つことに嫌気を差したからである。

貴之が結衣を相手に選んだ理由もここにあり、越えなければ一真に太刀打ちするのが難しくなるからだった。

 

「……『PSYクオリア』?」

 

「それが……ユニットの声を聞ける能力の名前なんです」

 

瑠美が基本的に口外無用であることと、細かい詳細を伝えると、紗夜は難しい表情となり、現状ではどちらとも判断できないと言う結論を下す。

少し落ち着くと、気になったことが一つあることに気づいた。

 

「そうなると、貴之君は持っていてもおかしくないのですが……」

 

彼なら絆の証と肯定的に捉えるのは間違い無いだろうし、それができれば喜ばしく考えるだろう。何よりも日頃からイメージを大切にしている彼なら持っていてもおかしくはないのだ。

そう言われた瑞希と瑠美は顎に手を当てながら考える。

 

「貴之さんの場合は己の力で勝ちたいという意地か、ユニットと共に無意識の間でここに来るまでは要らないと意思疎通ができてしまっているのか……そのどっちかだと私は思うんですよねぇ~」

 

「私も全く同意見よ」

 

二人の話しを聞いて、それならばおかしくはないと紗夜も思えた。自分も貴之の立場でいるなら現段階で欲しいとは考えないだろう。

 

「じゃあ、これで行くからね?」

 

「悪いな……それじゃあ始めるか」

 

結衣の瞳の奥が渦巻いたものが見えたことを確認した貴之が詫びると同時に促し、結衣もそれに頷く。

 

「「スタンドアップ!」」

 

「ザ!」

 

「「ヴァンガード!」」

 

――貴之君……大丈夫かしら?互いがファーストヴァンガードを表返すのを見て、紗夜は不安になった。

 

「『ライド』!『リザードランナー アンドゥー』!」

 

「『ライド』!『ぐらいむ』」

 

デッキに編集を加えたものの、貴之のファーストヴァンガードは変わらず『アンドゥー』のままである。

対する結衣が『ライド』したのは『ぐらいむ』……つまるところ、使用クランは『ロイヤルパラディン』だった。

それを見た紗夜は、嫌なものを感じていた。

 

「『ロイヤルパラディン』……文字通り昨日の今日じゃないですか」

 

おあつらえ向きでもあるが、何かの嫌がらせかと思えてしまっていた。

何しろ『ロイヤルパラディン』は一真が使っていた『クラン』であり、まるで巨大な壁のようにも見える。

だが、肝心のそれと対面する貴之は全く動じている様子は無い。全てはここからと言うことだろう。

 

「まずは……『バー』に『ライド』!一枚ドローして『ラオピア』を『コール』!」

 

ファイトは貴之の先攻で始まり、手始めに『ラオピア』を後列中央に『コール』する。

 

《まずは準備から……》

 

「……『ライド』!『ナイトスクワイヤ・アレン』!一枚ドローして、『ぽーんがる』を『コール』!」

 

――やはり、この声が聞こえる……。結衣は少々の嫌悪感と罪悪感を感じながら自分のターンを行う。

後列中央には青い体を持つ犬型のモンスターの『ぽーんがる』を呼び出す。『ぐらいむ』と比べれば少々細身な体を持っている。

 

「……?見たことのないユニット……」

 

「なるほど……『ぽーんがる』を見るのは初めてだったのね」

 

「『ロイヤルパラディン』はユニットの種類が多いですからね……」

 

『ロイヤルパラディン』は他の『クラン』に比べてユニットの種類がかなり多い。

それが軸になるユニットの多さと戦術の多さに繋がり、何が来るか分かりづらいと言うのが強みとなっている。

また、紗夜は『バーサーク・ドラゴン』のことを警戒しなくて良かったのかと考えたが、結衣の場合は『ソウル』を稼ぐことが目的なのでこちらが優先だった。

 

「『ぽーんがる』がリアガードに登場した時、このユニットと同じ縦列に他のユニットがいるなら『ソウルチャージ』!」

 

スキルによって山札の上から一枚が『ソウル』に置かれる。

その時のカードは(ドロー)トリガーであり、追加で効果が発動されることとなった。

 

「このスキルで『ソウル』に置かれたのが『トリガーユニット』の場合、『ぽーんがる』のパワーはプラス5000される!」

 

これで『ぽーんがる』のパワーは13000になり、攻撃を通しやすくなった。

 

「じゃあ攻撃……『ぽーんがる』の『ブースト』、『アレン』でヴァンガードにアタック!」

 

「これは防いでも割に合わねぇな……」

 

パワー差が大きいこと、次のターンで『バーサーク・ドラゴン』のスキルを狙えることから貴之はノーガードを選択する。

 

《到着しました》

 

「っ……『ドライブチェック』」

 

嫌な宣告を聞きながら行った『ドライブチェック』で、結衣は(クリティカル)トリガーを引き当てる。

そこで結衣の表情は曇り、貴之もいきなりの(クリティカル)トリガーを前に少し焦る。

幸いなのはこの時の『ダメージチェック』で一枚(ドロー)トリガーを引けていることで、次に繋げるのは楽になる。

 

(クリティカル)トリガーを引いたのに、嫌な顔……?」

 

「ユイ姉は、本当なら自分の力で戦いたいと思っているんです……だから、『PSYクオリア』を使うのは嫌で……」

 

疑問に思ったところで瑠美から教えて貰い、紗夜はその理由を理解する。

今回は貴之の頼みとは言え、『PSYクオリア(使いたくないもの)』を使っているのだから、それは嫌気を感じるのも道理だ。

 

「(一真君も同じ理由で悩んでいたけど、昨日の決勝戦が終わった頃には解決していた……)」

 

昨日の夜、秋山姉妹は一真と共に行動していたが、その時はもう既に『PSYクオリア』に対する解決の糸口を掴んでいた。意外なことは貴之以外の人がそれを気づかせてくれたとのことだが、今回はその当人がいない。

――貴之君、あなたはどうやって救うのかしら?目の前で戦っている彼に、瑞希は期待の眼差しを向ける。

 

「『ライド』!『バーサーク・ドラゴン』!スキルで『ぽーんがる』を退却させて一枚ドロー……」

 

《私のことは気にせずに……》

 

『バーサーク・ドラゴン』のスキルで焼き払われた『ぽーんがる』が結衣に託す旨を伝え、退却していく。

更に前列左側に『ラーム』、後列左側に『バー』が『コール』される。

紗夜からすれば貴之のよくやる行動を見ているで終わるのだが、結衣の場合はそうも行かない。

 

「(まだ足りない……このままじゃいずれ、この結末(イメージ)に辿り着く……!)」

 

自分が『PSYクオリア』によって見せられているものがあり、使用している場合はこれが一度も覆らなかった。

それは昨日決勝でギリギリまで一真を追い込んだ貴之すら例外ではなく、結衣が『PSYクオリア』を嫌う理由に拍車を掛けている。

 

「こっちも行くぜ……『ラオピア』の『ブースト』、『バーサーク・ドラゴン』でヴァンガードにアタック!」

 

《受ければ用意が遠のきます》

 

「……ノーガード」

 

本当はこの声無しに戦いたいが、この声に背いた場合は確実に負ける。そんなカンニングペーパーを見ながらテストを受けるような感覚に悩まされながら、結衣はファイトを進めていく。

今回の『ドライブチェック』、『ダメージチェック』は共にノートリガーで、大きな変化がないまま結衣のダメージが増える。

次の『バー』の『ブースト』を受けた『ラーム』による攻撃も次のターンの為に受け、ノートリガーの結果に終わる。

これで貴之のターンは終わり、再び結衣のターンがやって来る。

 

「『ライド』!『ブラスター・ブレード』!」

 

このターンで結衣が『ライド』したのは『ブラスター・ブレード』。ここまでは一真がよく行う『ライド』のパターンだった。

 

「ユイ姉はこのターン、スキルは使いません」

 

「……ユニットを退却できるのにですか?」

 

今まで一真の動きを見てきたことで、退却効果を使えるのを知っていた紗夜は瑠美の一言に驚いた。

前列に『ラーム』が存在するため退却させることは可能なのだが、使わないと言うのはどういうことだろうか?この理由は『ソウル』にあり、紗夜が答えを知るのは次に結衣のターンが回ってきた時になる。

 

「『うぃんがる』と『ふぁねるがる』、さらに『ハイドッグブリーダー アカネ』を『コール』!」

 

後列中央には『ブラスター・ブレード』が最大効力を発揮できるように『うぃんがる』、前列右側には黄金の毛並みが特徴の犬型モンスターの『ふぁねるがる』、前列左側には赤い髪をサイドポニーで束ね、調教と戦闘のどちらにも耐え得る特殊なムチを手に持った女性『アカネ』が『コール』される。

結衣のデッキはここから少しずつ、一真のデッキと比べた時の違いが増えていく。

 

「『アカネ』の登場時、『カウンターブラスト』してスキル発動!山札の中から『ぽーんがる』を一枚まで探し、リアガードに『コール』できる!」

 

このスキルで後列左側に『ぽーんがる』を『コール』し、スキルも発動する。この時の結果はノートリガーなので、パワーが上昇することは無い。

しかしながら、この段階で『ソウル』は4になっており、貴之は次のターンで何が来るかは予想出来ていた。

 

「(間違いねぇ……結衣は何か一つの結末(イメージ)を見ている)」

 

『PSYクオリア』には結末が見えると言うものも存在している。

一真の場合はユニットとの会話を積極的に行うためにそちらが優先されているが、結衣の場合は消極的な分これが見えやすくなってしまっている。

これを何度も見ていく内にファイトへの意欲は低下し、それなら一線を引こうと言う考えになっていたのだ。

 

「攻撃するね……『ふぁねるがる』でヴァンガードにアタック!」

 

攻撃した時、仲間から『ブースト』を受けていたなら『ふぁねるがる』はスキルを使えたのだが、残念ながら今回は使用ができない。

使用した場合は『カウンターブラスト』をすることで『ソウルチャージ』をし、『ふぁねるがる』のパワーが5000増えると言うものだった。

貴之はノーガードを選択し、イメージ内で『ふぁねるがる』が口に加えている短剣に切り裂かれる。

『ダメージチェック』では(ドロー)トリガーを引き当て、次の攻撃が防ぎやすくなる。

 

「『うぃんがる』の『ブースト』、『ブラスター・ブレード』でヴァンガードにアタック!」

 

「『ゲンジョウ』!お前に任せた!」

 

《勝機は次の番……故に我らは待つ》

 

手札が一枚増えたこと、『ブラスター・ブレード』の(クリティカル)が増えていることから『ゲンジョウ』で確実に防ぐことを選ぶ。

この時の『ドライブチェック』はノートリガーだが、どの道今回の攻撃は届かない為、そこまで気にしていない。

一真の時とは違い、今回のノートリガーはさっきのターンで引いたからだろうとまだ納得しやすい結果なので、違和感を持つ人はいない。

 

「最後……『ぽーんがる』の『ブースト』、『アカネ』でヴァンガードにアタック!『ハイビースト』に『ブースト』されたなら、『アカネ』はこのバトル中パワーをプラス3000!」

 

「ノーガードだな。『ダメージチェック』……」

 

貴之は余力を残すべくそのまま受けることにする。

イメージ内で『アカネ』の振るうムチに打ち付けられた後の『ダメージチェック』はノートリガーで、貴之のダメージは4になる。

 

「ここでダメージが2と4……結衣が優勢と言ったところね」

 

「貴之さん目線なら逆転の余地があって、ユイ姉目線ならここを耐えれば一気に有利……どうやって動くかな?」

 

トリガーと相手の手札次第では貴之もこのターンで勝利に持ち込めるし、結衣も耐えればこの後が楽になる。

この先が不安になる紗夜だが、同時に信じたいと言う思いもあり、ここは見守っていくことにした。

そうして貴之のターンが始まり、山札からドローしたカードを見た瞬間、彼の笑みを姿が見えた。

――今日からまたよろしくな。そのカードに頼んだ貴之は、そのまま『バーサーク・ドラゴン』の上に重ねる。

 

「ライド・ザ・ヴァンガード!『ドラゴニック・オーバーロード』!」

 

『フォース』はいつも通りヴァンガードに設置し、空いている前列右側にもう一体の『ラーム』、後列右側には『ガイアース』を『コール』した後、『ソウルブラスト』で『オーバーロード』のパワーを引き上げる。

 

《用意は後一つ耐えるだけで終わり……その後はこちらのものだ》

 

「(また……このイメージままなの?)」

 

「(焦るな……このターンで決着はつけられない。次のターンで決めるんだ)」

 

結衣は自分の使用するユニットによって『オーバーロード』が打ち取られる運命(イメージ)を見ており、貴之がその『オーバーロード』に『ライド』したことで暗い表情になる。

対する貴之は、相手が次のターンで確実に主軸のユニットによる攻撃が可能であることを予想している為、全て防がれるか(ヒール)トリガーのどちらかだと考えていた。

故に貴之はそこまで動じる様子を見せず、攻撃に入った。

 

「まずは『ガイアース』の『ブースト』、『ラーム』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード。『ダメージチェック』……」

 

最初の『ダメージチェック』はノートリガー。これで『オーバーロード』の連続攻撃でダメージ6に届かせられる確率が上がった。

 

「次、『バー』の『ブースト』、『ラーム』でヴァンガードにアタック!」

 

《これを防げば大丈夫》

 

「……『エポナ』で『ガード』!」

 

パワー18000になった『ラーム』の攻撃は、パワー25000の数値で防ぐ。

 

「次はこっちだな……『ドラゴニック・オーバーロード』で『ふぁねるがる』にアタック!」

 

「ノーガード……ごめんね、『ふぁねるがる』」

 

《私のことはいい……後は任せた》

 

彼らは自分を信じてくれているのに、その自分は『PSYクオリア(彼らと共にある力)』を拒む。かなりの皮肉だなと結衣は宣言しながらそう思った。

この時の『ツインドライブ』は一枚目が(ドロー)トリガー。二枚目は(クリティカル)トリガーだった。

(クリティカル)トリガーを引けたことは大きく、次の攻撃で勝利できる目処が立ち始める。そんな状態で『オーバーロード』は『スタンド』し、次の攻撃の準備をする。

 

「これで決められるとは思わないが……『ラオピア』の『ブースト』、『オーバーロード』でヴァンガードにアタック!」

 

「……ノーガード」

 

「(この状況で……?トリガーが引かれるかもしれないと言うのに?)」

 

この状況でちらりと手札を見ただけでノーガードを選択した結衣を見て、紗夜は疑問に思う。

何しろ次の『ドライブチェック』で(クリティカル)トリガーを引かれようものなら、そのまま残った3ダメージに届いて敗北となってしまうからだ。

案の定、貴之が行った『ドライブチェック』では(クリティカル)トリガーが引き当てられ、これでダメージが丁度足りる結果となった。

 

「(ダメ……この結末(イメージ)は覆っていない……)」

 

一枚目の『ダメージチェック』で(ドロー)トリガーを引き当てた結衣は、己の見た結末が変わっていないことに絶望する。

使用者が誰であろうと結末が見えてしまうのは退屈と言うものがあり、これをかなりの頻度で見ることになっていた結衣はその度に苦痛を感じるのだ。

二枚目の『ダメージチェック』はノートリガーなので、結衣のダメージはこれで5になった。

そして三枚目の『ダメージチェック』に入るのだが、ここで紗夜は貴之の呟いた言葉を思い返す。

 

「(決められるとは思わないと言っていたのは、どういう意味かしら?)」

 

考えられるパターンは三つあった。

一つ目は十分な数の『ガーディアン』に、または『完全ガード』で防がれる。二つ目は『ドライブチェック』で(クリティカル)トリガーの数が足りないだが、この二つはたった今起こらなかったので外される。

そして三つ目はこのトリガーチェックで(ヒール)トリガーを引くことになり、前途の二つが無かった以上これ以外考えられなかった。

 

「三枚目……」

 

全員が見守る中で行われた三枚目の『ダメージチェック』は(ヒール)トリガーで、これによって結衣は敗北を免れる。

ただの偶然かと思いたいが、結衣の表情が沈んでいることから、彼女は予期していたことが伺えた。

 

「(『PSYクオリア(あんなもの)』を前に、どうすればいいのよ……!)」

 

紗夜はその理不尽さを前に憤りを感じていた。

いくら努力してもあっさり踏み越えられる――。それを何度も経験してきた彼女にとっては堪ったものではない。

目の前で対峙しているのは自分でなくとも、どの世界でも似たようなことが起こるのを見てその激情を吐き出したいと思ったところ、貴之が全く表情を変えていないのを見て思いとどまる。

 

「大丈夫だ。まだやれる」

 

「(どうして……そんな風にしていられるの?)」

 

――さあ、来いよ。笑みを浮かべながらそう言ってのける貴之を見て、紗夜は理由を聞きたくて仕方がなかった。

これに関しては結衣も同様で、昨日も同じような状況になったと言うのに、全く諦めた様子を見せていない。

ならば信じてみたいと思った結衣が自分のターンを始めて山札から一枚ドローした時、己の見た結末(イメージ)が完成することを悟ってしまった。

 

「貴之……ごめんなさい」

 

「言っただろ?俺は『PSYクオリア(それ)』を打倒しに来たって……」

 

結衣が詫びても貴之は全く動じない。それどころか、自信を持った笑みを見せながら次のことを言ってみせる。

 

「その運命(イメージ)を実現させてみな。俺が真っ向から阻止してやるからよ」

 

挑発とも見て取れる言葉は立ち向かう証拠であり、それ自体は嬉しいが思い切ってそう言ったのを聞いた結衣は「後悔しないでよ?」と前置きだけしておく。

 

「『ライド』!『ソウルセイバー・ドラゴン』!」

 

結衣が『ライド』したのは、青と白の二色の躰で胸に二つの膨らみがあるどこか女性を彷彿とさせる龍『ソウルセイバー・ドラゴン』で、このユニットが一真のデッキと彼女のデッキにおける最大の違いだった。

『フォース』をヴァンガードに設置したあと、後列右側に『アレン』を『コール』し、スキルで手札にいる『ブラスター・ブレード』を前列左側に『コール』して一枚ドローする。

ここでも結衣は『ブラスター・ブレード』のスキルを使用しない。全ては『ソウルセイバー』のスキルを使うためである。

 

「『ソウル』から五枚『ソウルブラスト』することで、『ソウルセイバー』のスキル発動!このターン中、ユニット六枚のパワーをプラス15000!」

 

「六枚だから……場にいるユニット全てですか!?」

 

「……」

 

初見だったことが理由で驚く紗夜に対し、ここが正念場と捉えていた貴之はそこまで動じる様子を見せない。

――みんなを信じろ。そうすれば耐えられる。貴之は味方(ユニット)を完全に信じて構えていたのだ。

それに気づけるのは比較的平行(フラット)な視点で見ていた瑞希と瑠美で、紗夜は貴之目線で見ながら自分なりに見ていた、結衣は『PSYクオリア』が見せるイメージが阻害した結果気づけなかった。

 

《これが決着の鍵となる》

 

「貴之……」

 

「……先に聞いておく。お前が見た運命(イメージ)は『オーバーロード』となっている俺が、その『ブラスター・ブレード』によって打ち取られたイメージだな?」

 

どのユニットが攻撃をしたかまで的確に当てたことに驚きながらも、結衣は頷いて肯定を返す。

貴之の残りの手札は六枚で、その内一枚が『完全ガード』であるものの、どこか一つの攻撃は防げる確率が非常に低い状態であることから詰みに見えてもおかしくはないだろうと考えていた。

そして『ブラスター・ブレード』が打ち取りに来るのは色んな意味で皮肉が混じっている現状に対し、「面白れぇ」と貴之は笑みを浮かべた。

 

「いいぜ……だったらそのイメージを真正面から潰してやるから、遠慮せず来い!」

 

「……分かった。なら、『うぃんがる』の『ブースト』、『ソウルセイバー』でヴァンガードにアタック!」

 

「『ワイバーンガード バリィ』で『完全ガード』!」

 

スキルの効果と『イマジナリーギフト』の相乗効果が影響でパワーが61000まで跳ね上がった攻撃を防ぐにはこれが最適……と言うより、貴之は手札の都合でこれ以外防ぐ手立てが無かった。

勝敗に大きく関係する『ツインドライブ』の一枚目は(クリティカル)トリガーで、効果は全て『アカネ』に回される。

そして二枚目の『トリガーチェック』は、貴之目線で見ると最悪なものがやってきた。

 

(クリティカル)トリガー……効果は全て『ブラスター・ブレード』に……」

 

「貴之さんのダメージは4で……その時にこれって……」

 

「手札の都合からどちらかは防げない……トリガー次第で負けが決まったわね」

 

まるで死の宣告かのような結果には流石に瑠美も絶句し、瑞希は苦い顔になる。

――どうして……何で努力している人たちが、こんな目に遭わなきゃいけないのよ……!?紗夜が絶望しそうになったところで、「まだだ」とそれを跳ね飛ばすかのような男の声が聞こえる。

この場にいる五人で男は貴之しかいないので、声の主は自然と彼になる為に視線が集まる。

 

「まだ終わっちゃいねぇ……例え攻撃を防げなくとも、ファイトは終わってねぇんだ」

 

例え負けが待っていようともファイトは終わっていない。ならばまだ何が起こるか分からない。それが貴之にできる反論だった。

同時にこれは根本的な部分であり、それを忘れてしまっては本末転倒であることを表していた。

最後まで諦めることのない姿勢は昨日の決勝戦でも現れており、それを思い出した瑞希たちは確かにそうだと思い出した。

 

「てことで続行だ。攻撃して来い」

 

「なら、『ぽーんがる』の『ブースト』、『アカネ』でヴァンガードにアタック!」

 

「もう一回『バリィ』で『完全ガード』!」

 

こちらも『ブースト』とスキル、トリガー効果が合わさってパワー61000の攻撃となっていたが、幸いにももう一枚『バリィ』があったおかげで防ぐことに成功する。

しかし、これで貴之の手札は残り二枚となってしまい、手痛い攻撃をそのまま受ける確率が跳ね上がっていた。

 

「最後……『アレン』の『ブースト』、『ブラスター・ブレード』でヴァンガードにアタック!」

 

「みんな、信じてるからな……ノーガードだ!」

 

その選択には全員が絶句する。貴之が殆ど迷わず宣言したことが最大の原因となる。

その宣言を聞いた瞬間、結衣は一つの異変に気が付いた。

 

「(運命(イメージ)が……変わった?)」

 

先程まで見えていたものとは異なり、膝を付きながらも立ち上がろうとする『オーバーロード』となった貴之の姿が見えていた。

――どういうことだろうか?と思いながら見守る『ダメージチェック』は一枚目がノートリガーで、後がない状況に陥る。

しかし、二枚目の『ダメージチェック』では、全力で仲間(ユニット)を信じた貴之による奇跡が起こった。

 

「ゲット……(ヒール)トリガー。パワーはヴァンガードに回してダメージを回復だ」

 

『……』

 

貴之のトリガーチェックの結果には全員が啞然とした。あの啖呵を切って見事にトリガーを引いて見せたのだ。

また、そんな中で見事にやってのけた貴之は笑っていた。

 

「な?まだファイトは終わってないだろ?」

 

笑みを見せたままそう言われればもう頷くしか残されていないが、この場にいる人たちはこれでよかったと思っている。

言うだけ言って負けたならそれはそれで困るし、今回は才能や結末(イメージ)だけが全てじゃないことの証明にもなったので結衣と紗夜に安堵を与えることができた。

 

「ターン終了……さあ、あなたの見せたいもの見せて」

 

「分かった。俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……ぶっつけ本番だけど、見せてやるぜ……!」

 

――何が来るのかな?気になった結衣は自分の意志で『PSYクオリア』を使ったイメージを覗く。

そして貴之の使おうとしているユニットを知った結衣の表情は、期待から焦りに変わる。

 

「ま、待って……!そのユニットは……!」

 

「ライド・ザ・ヴァンガード!」

 

結衣が制止しようにももう遅く、貴之はそのユニットに『ライド』する。

『オーバーロード』が赤い光となった後、爆発的に広がり、そのイメージを前に貴之を省く全員が顔を覆う。

光が消えると、そこには深紅の体を持った龍がいた。

 

「グレード4、『超越龍 ドラゴニック・ヌーベルバーグ』!」

 

貴之が『エクスカルペイト』を相手に対抗策として持ち込んだのがこのユニットだった。

そしてこれがグレード4だと言うことを聞いた紗夜は、昨日の決勝戦の時にあった話しを思い出す。

――グレード4のユニットは使用するだけでもファイターにかなりの負担が掛かるのが問題なんだ……。それを思い出した紗夜は一気に不安を煽られた。

 

「ぐっ!うぁ……!あぁぁぁ……!」

 

「早く使用を止めて!そのままじゃあなたが……!」

 

貴之は頭を抑えて苦しみだし、結衣が制止の声を掛けるもののそれを聞いていられる程の余裕は貴之に無かった。

『ヌーベルバーグ』に『ライド』した代償として貴之は今、頭が締め付けられるような痛みに襲われていた。

グレード4を使いこなすにはこの負担と戦わなければならなず、大抵の人はそれに耐えられず使用を断念する。

 

「やはりこの負担がネックね……」

 

「だ、大丈夫かな……?」

 

その負担を見た瑞希が苦い表情を、瑠美が不安げな表情になる中、貴之はイメージ内で『ヌーベルバーグ』に問われていた。

――恐れるな。逃げだすな。私を抑える上で、その二つは絶対的に必要となるものだ。以前に一度諦めたこともあって、貴之にはかなり来るものがある言葉である。

 

「分かってるよんなことくらい……!それに言ったろ、逃げるのは終わりだってな……!」

 

貴之が苦し紛れに言い返すと、それがトリガーとなったのか一時的に負担が軽くなる。

一先ず第一段階はクリアと言ったところなのだろう。今の内ならばファイトを継続できるだろう。と貴之は判断した。

しかしながらいつまで耐え続けられるかは分からないので、急いで終わらせることにし、手始めに『フォース』を重ねてヴァンガードに設置する。

 

「グレード3以上のユニットを『ソウルブラスト』することで『ヌーベルバーグ』のスキル発動!ドライブを-1するかわりにパワープラス20000!」

 

「と言うことは今、『ヌーベルバーグ』のパワーは55000ですか?」

 

「二枚の『イマジナリーギフト』とスキルによる掛け合わせね」

 

『ヌーベルバーグ』が持つ素のパワーは15000で、『エクスカルペイト』すらをも上回っていた。

『ドライブチェック』が一つ減ってしまうのは痛いところだが、パワーが大幅に上がったことは、相手の『ガード』に必要な枚数を大きく増やすことができるし、攻撃が通りやすくなることにも繋がっている。

そして今回は条件を満たしている為、追加効果が発揮される。

 

「さらに!自分または相手の『ダメージゾーン』のカードが五枚なら、相手リアガードを全て退却させる!」

 

イメージ内で『ヌーベルバーグ』となった貴之が両手に赤い光を集め、それをビームとして左から右へ薙ぎ払うようにして放つ。

それらが結衣の周りにいたリアガード全てに命中し、彼らは光となって消滅した。これによって結衣が守る上で頼れるのは手札のユニットのみとなった。

 

「時間がねぇ……これで決着を付けるぞ!『ラオピア』の『ブースト』、『ドラゴニック・ヌーベルバーグ』でヴァンガードにアタック!」

 

「……ノーガード」

 

現在『ブースト』を受けた『ヌーベルバーグ』のパワーは88000となっていて、手札を確認すると防げない状態だった。しかしながら、その状況で結衣は安堵する。この先どうなるかが分かっているからである。

再び『トリガーチェック』が勝敗に直結する状態となったが、暫くずっと不安になりながら見ていた紗夜は今、全く心配する必要は無いと感じていた。

 

「(昨日だってそう……貴之君はこの土壇場でトリガーを引き当てて見せる)」

 

貴之が土壇場の状況で起こしてきた結果が、紗夜の不安を拭い去ってくれていた。

そして、その期待を裏切らずに貴之は(クリティカル)トリガーを引き当てて見せた。

 

「ゲット!(クリティカル)トリガー!効果は全てヴァンガードに!」

 

「(ようやく……『PSYクオリア(運命)』が覆った)」

 

イメージ内で『ヌーベルバーグ』となっ貴之が両手に集めた光をこちらに向けて撃ち、その奔流が迫っている最中、結衣は久しぶりにファイトで笑みを浮かべていた。

その攻撃がヒットしたことで、結衣はこのファイト最後の『ダメージチェック』を行う。

 

「……!」

 

「結衣はこのターン、トリガー効果を使えないわ」

 

その結果が(ヒール)トリガーだったので紗夜は絶句するが、瑞希の一言で困惑する。

二枚目に(ヒール)トリガーが来ないならまだしも、そもそも使えないと言うのが疑問だった。

 

「ぬ、『ヌーベルバーグ』がスキルを発動したターン……相手のトリガー効果を全て無効(・・・・)にする……」

 

――だからこのファイト、俺の勝ちだ。ファイトが終わったことで気が抜けたのか、貴之は意地で無理矢理制御した反動が出ていた。

頭を締め付けられる痛みにやられたことで貴之は思考が鈍っており、歩き出そうものなら間違いなくふらついてしまうのが目に見えている状態である。

そんな状態であるにもかかわらず、彼はどうにか笑みを浮かべながら「ありがとうございました」と、最後の挨拶までしっかりと行う。

しかしながらそこで限界が来てしまったようで、前のめりに倒れそうだったところを結衣に支えられる。

 

「あ……悪い、ちょっと立てそうにねぇんだ」

 

「もう、あんな無茶をするからだよ……」

 

タイミングが悪かったせいで結衣の人並みある胸に顔から飛び込むことになった貴之だが、飛び込んだ本人は疲労でそれを堪能する余裕は一切ないし、意識を保つのがやっとの状態だった。

結衣も何事も無ければ怒って突き飛ばしていただろう。しかし今回は運命の転覆とそれからの解放による安堵が勝っているので、結衣もそのことに気にする余裕は意外に残っていない。

 

「でも、本当にありがとう……これで私も、信じることができる」

 

「そうか……それなら何よりだ」

 

――とりあえず、俺も第一歩を踏めたぜ。意識の限界が来た貴之はそう言いながら気を失う。

ぶっつけ本番にも関わらず自分のターンの間だけでも持たせ、それで喋ることができただけ上出来だろう。少なくとも結衣はそう思っていた。

自分があれだけ嫌っていた『PSYクオリア』を使ったのに今回は楽しいファイトだったと結衣は感じており、意識の持ち方も変えられそうな気がし始めていた。

 

「ミズ姉、椅子って裏に残ってたっけ?」

 

「一つあるから、端で休ませてあげましょう」

 

「(逃げるのは終わり……か。私の悩みも、自分との戦いなのかもしれないわね)」

 

まるで明日に備えての睡眠かのように安らかな表情で寝ている貴之を見ながら、紗夜は彼の言っていた言葉を思い出す。

現に貴之は負担を理由に諦めた自分に打ち勝ち、非常に短い時間でありながら『ヌーベルバーグ』を使用して見せたのだ。意識の違いというものは、こう言う時に現れるのだと思えた。

――ありがとう。私ももう一度、向き合ってみるわ。今日一日抱えていた不安を拭われた紗夜もまた、柔らかい笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(すっかり遅くなってしまったわね……)」

 

貴之は気を失ってから一時間半してから目を覚ました。

気を失った時間を聞いてすぐに「もっと慣らしていく必要がある」と纏めるやすぐ、最後に自分が何をしたかを思い出してすぐ結衣に謝った。

結衣は「いいものを見せてくれた礼」と言っていたが、それはそれで良くない気がすると貴之は難しそうな顔をしていた。

紗夜も『PSYクオリア』は理不尽なものから、ユニットとの強い縁が形になったものと認識を改めることになり、結衣も『PSYクオリア』と向き合いながら近い内にファイターとしての復帰を考え始めたので、この件に関してはほぼ解決したと言っていいだろう。

また、時間が遅かったのでその後すぐに上がることになったのだが、この時は紗夜も秋山姉妹と互いに名呼びすることとなった。自ら双子の妹がいることを話したのだ。

紗夜は本来の性格もあって彼女らのことはさん付けであるが、秋山姉妹(向こう側)は上からそれぞれちゃん付け、呼び捨て、さん付けに別れた。

 

「ただいま……」

 

「あっ、おねーちゃん……」

 

『レーヴ』から出た時は既に日が沈み掛けており、本来の練習が終わるより明らかに遅い時間に帰って来ることになっていた。

連絡入れてくれと言われるかもしれないと思いながら玄関のドアを開けるとそこに日菜がいて、沈んだ様子を見せながらこちらに顔を向ける。

何があったかを聞いてみれば、紗夜の帰りが遅いのでもしかしたら自分が理由かもしれないと悩んでいたようだ。

 

「(そうね……昨日の今日だから、そう思われても仕方ないわね)」

 

実際は違うので、それを伝える。

この時は考え方をリセットできたおかげなのか、困った笑みになっていた。

 

「……ほんとに?」

 

「本当よ。でも、心配させてしまったわね……」

 

「……うぅ……」

 

自分のせいじゃないことが分かって緊張が解けたのか、日菜は目尻に涙を浮かべながら勢い良く紗夜へと抱きつく。

いきなり抱きつかれたものだから、慌てて受け止めた紗夜も勢いに負けて一歩後ろに下がってしまう。

 

「ちょ、ちょっと日菜……!?どうしたのよ急に?」

 

「だって……だってぇ……!」

 

最近は話しを聞いてくれるから。突き返さないから。そう言った部分を見て踏み込み過ぎたかも知れない。

そこに甘えたのが原因で、また以前のように戻るのが怖かったのがこの行動に繋がったのだ。

 

「大丈夫よ。私はもう逃げない……そう決めたから」

 

――自分との戦いは、まずここからね。日菜を優しく赦しながら、紗夜は決意を固めた。




貴之のデッキはトライアルデッキ『櫂トシキ』をブースターパック『結成!チームQ4』のカードと『相克のPSYクオリア』に出てくるカードで編集したデッキ。
結衣のデッキはトライアルデッキ『先導アイチ』をブースターパック『結成!チームQ4』に出てくるカードで編集したデッキとなります。

『ロイヤルパラディン』はカードの種類が多いので、こうして人数を増やした方が良いかもと言う考えによる起用です。瑠美は現状、『イマジナリーギフト』合わせで『アクセル』を使用するものになる可能性が高いです。

今回考えたグレード4の負担が『頭を締め付けられるような痛みに襲われる』と言うものになります。
貴之は現状自分のターンで決めないとファイト継続不可能になるから負けという状況で、ここから回数を重ねて慣れて行きます。
と言ってもこの辺長すぎてはよ本編やってくれと言われたらそれもそれなので、ここで一度アンケートを取ってみようかと思います。できればご協力お願いします。

次回はRoseliaシナリオ12話に入ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。