先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

53 / 135
今回はちょっと短めです。

今週仕事が立て込んでしまっていたので、ヴァンガードエクスはこの後買ってこようかと思います。

ドラきち様より本小説の主人公である貴之の挿絵を頂きました!

【挿絵表示】



イメージ42 決戦前日

「こちら合計で637円になります」

 

「じゃあ……これで」

 

デッキの調整を終えてから更に日が進み、遂に全国大会とコンテストは翌日に控えていた。

そんな日の朝早くに、貴之は商店街にあるパン屋の『やまぶきベーカリー』に足を運び、パンの購入を済ませようとしている。

貴之がここに立ち寄った理由として、『ヌーベルバーグ』を使いこなす練習をする際に世話になった、秋山姉妹へのお礼としての意味合いがあった。

ちなみに打たれた金額に対しては釣りが500円返ってくるように、1137円を出している。

 

「寄ってくれるのは嬉しいんですけど……大会は明日なんですよね?」

 

「ここまで来たら後はやるだけだからな……沙綾(さあや)さんも気になるなら、毎月出るゲーム雑誌のヴァンガード特集を見るといいぜ。来月は全国大会での使用デッキがピックアップされて、優勝者コメントも載るだろうから」

 

目の前でこちらに問うてきた少女、山吹(やまぶき)沙綾に自信を持って答える。

茶とピンクが混ざったような髪をポニーテールにしている彼女は、このベーカリーを経営している山吹家の長女で、弟と妹が一人ずついる。

心優しく気遣いができる性格である為、貴之はこの辺りが小百合(自分の姉)に近いなと感じている。

また、彼女もどうやら最近になってバンドのチームに加入したそうで、リサと同じく辞めた身からの復帰らしい。

貴之がここでは名前呼びにさん付けをしているのは、羽沢珈琲店の時と同じく家族がすぐそこにいるからである。もし外で紗綾とだけ出会っていたなら、間違いなく苗字呼びだった。

ちなみに遠導姉弟はここへたまに足を運ぶので、何度か顔を合わせている。来る頻度は小百合の方が高い。

 

「なるほど……。そう言うことなら覚えておきますね」

 

幸いにも貴之の宣伝に対して沙綾の反応は良かった。例え反応が悪かったとしても、「無理強いはしないよ」という旨を伝えて終わりにするつもりだったが。

もう少し雑談してもいいかと考えたりもしたが、複数の理由があってその考えを貴之は捨てる。

一つ目は自分で食べるなら多少は構わないが、今回は人に渡す為に買ったのでなるべく早めに届けたいと言うのがある。

そしてもう一つは、これ以上お年頃の女の子と仲良くしているような光景を作ってしまうと、後々友希那を不安にさせたりリサに咎められたりといいことが無いだろうと言う予感だった。

二つ目の方は傍らから見ればどうでも良さそうだが、貴之からすればかなりの面倒ごとである。それが理由で明日友希那のパフォーマンスが落ちたら笑えないし、自分を許せなくなるのは間違い無い。

 

「さて……俺はそろそろ行くよ。後はやるだけと言っても、ヴァンガードファイトはやっていきたいからさ」

 

「分かりました。大会の方、頑張ってくださいね」

 

そんな理由が重なったので一声掛け、沙綾の応援には肯定を返す。

「ありがとうございました」と言う挨拶を背に店を出て、貴之は早速『レーヴ』へと足を運ぶ。

最後の一日くらいファクトリーでいいのではないか?と思うかもしれないが、『ヌーベルバーグ』を隠しきる為にもこちらを選択する。

例えそうでなかったとしても、今日は秋山姉妹にお礼のパンを渡しに行くのだから、『レーヴ』以外を選択肢には入れられなかった。

 

「(組みなおしたデッキにももう慣れた……だから今日はファイトの感覚を錆つかせないようにするだけ……)」

 

負担を乗り越えて以来、『ヌーベルバーグ』を使用した連続ファイトを試みたところ、二戦までは何も問題なくできるところまで来ている。

しかし全国大会では一回だけ使えればいいので、今日はそちらの練習はせず、自分のファイトをしっかりと整えることを優先するつもりでいた。

その為『ヌーベルバーグ』を出すよりそちらを出した方がいい場合は、迷うことなくそちらを出す選択を取るつもりである。

 

「こんにちは。これは普段からのお礼です」

 

「あら、ありがとう。みんなで分けさせて貰うわね」

 

店に入って早速買ってきたパンの入ってる袋を瑞希に渡し、それをみんなで分けて貰う。今回は彼女らが好きなものを二種類ずつ選んでいるので、問題なく選べるだろう。

一度彼女らが順番に裏口で食べている間に、貴之はファイト台の一つへ足を運び、準備を始める。

今回は最終チェックである為、秋山姉妹と一回ずつファイトしたらすぐに上がって明日に備えるつもりでいた。

 

「お待たせ。それじゃあ始めましょうか」

 

「ええ。今日もよろしくお願いします」

 

最初の相手は瑞希からで、準備も終えているので早い所始めることにした。

 

「「スタンドアップ!」」

 

「ザ!」

 

「「ヴァンガード!」」

 

こうして、大会直前における最後の連戦ファイトが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「コンテストは明日なんだよね……」

 

「早いものよね……気がつけばもうなんだから」

 

ライブハウスまでの道のりを歩きながら、友希那とリサは話しをしていた。

Roseliaを結成してから今日まで、本当に早いと感じる。特に友希那の場合は自身への変化が大きかったので尚更であった。

また、リサもメンバーと音を合わせたり、普段からの会話に楽しさを感じている為にあっという間だという感覚がある。

 

「何か家でも練習した方がよさそうな気がしてきた……でもやり過ぎそうだなぁ~」

 

「そうね……その辺りも、練習が終わるまでに考えておきましょう」

 

確かに今日が最後の猶予なので、少しだけでも練習しておきたいと言うリサの気持ちはよく分かる。

しかしながら、本人が申告した通りやり過ぎる恐れもあるので時間だけはしっかりと決めておきたい。

 

『あっ……』

 

そしてライブハウスに着いた瞬間、五人とも全くの同タイミングで辿り着いたことに気づいて全員が声を上げる。

奇跡的とも言えるそのタイミングを目の当たりに、五人は揃って笑うのだった。

 

「何でこんなところまで揃ったんでしょうね?」

 

「偶然かな……?それにしては出来過ぎてるけど……」

 

最早狙ってやったのではないかと思う程揃っていたので、こう考えてしまうのは無理もない。

そしてそれを悪いと思うことはなく、寧ろ良いことだと捉えることもできていた。

 

「私は早く出過ぎるのもと思って、普段より遅めに出ましたが……」

 

「あこたちは待ち合わせ自体はいつもの時間にしてたけど……」

 

「ちょっとだけ、電車が遅延してました……」

 

「で、残ったアタシたちはいつも通りと……」

 

「打ち合わせなんてしてないわよね?」

 

全員が今日の出た時間や出来事を確認すると、偶然にしてはと思いたい状況だった。

当然友希那の問いには首を振ったので、偶然は偶然で片づけることにして、ライブハウスの一室を借りる。

 

「今日は軽く通しでしたね?」

 

「ええ。一応、不安な点があるなら練習する時間も取りましょう」

 

最後の練習だからこそガッツリとやるつもりは無い。その為今回は二時間だけ借りることにしている。

この練習の最中に、友希那は帰った後にどの程度まで自主練習して良いかの判断を下そうと考えていた。

 

「では、始めましょう」

 

友希那の言葉に頷いたことで、コンテストに向けた最後の練習が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(もう問題なさそうだな……)」

 

瑞希と瑠美を相手にしたファイトが終わり、結衣とのファイトを行っている貴之は自分のファイトに確信を持つ。

貴之の先攻で互いの三ターン目が終わった直後、ダメージは互いに5と言う状況であり、デッキ変更してから大分安定する動きができるようになっていた。

 

「俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……」

 

「(どっちが来るかな……?一応『完全ガード』はあるけど……)」

 

貴之のデッキを考えれば、この状況で『ライド』したいのは二通りだった。

一つは、こちらへ来てから使い続けていた『ヌーベルバーグ』。今の状況であればこちらの盤面を一発で崩壊させることが可能である。

『完全ガード』があったとしても、他のユニットとの波状攻撃を防ぐのは厳しいものがあった。

 

「その状況ならこっちだな……ライド・ザ・ヴァンガード!『ドラゴニック・ウォーターフォウル』!」

 

「やっぱりそっち……!」

 

もう一つはたった今『ライド』した『ウォーターフォウル』。こちらは『完全ガード』を無視することができ、『インターセプト』を減らすことができる。

今回は前列右側にいた『ギャラティン』が退却させられ、かなり苦しい状況となる。残った手札四枚の内一枚が使えないのも拍車を掛ける。

更に『フォース』はヴァンガードに重ね掛けするので、『ウォーターフォウル』のパワーが33000となる。

 

「行くぜ……『ラオピア』の『ブースト』、『ウォーターフォウル』でヴァンガードにアタック!」

 

《済まない……今の状態では抑えきれぬ……!》

 

「仕方ないか……ここはノーガード!」

 

ユニットの謝罪を聞いた結衣は即座にトリガー勝負へ出る。気掛かりなのは、(ヒール)トリガーを一枚引いてしまっているので、(クリティカル)が二枚来るとその段階で負けてしまうことだった。

宣言を終えたことで迎える『ツインドライブ』の一枚目で貴之は(クリティカル)トリガーを引き当て、効果を全てヴァンガードに回す。この段階でもう引かないことを祈るしか無くなった。

そんな緊張の走る状況下で、二枚目の『トリガーチェック』が行われる。

 

「……ゲット!(クリティカル)トリガー!効果は全てヴァンガードに!」

 

「なっ……!?」

 

その結果を前に結衣は絶句する。自分は今回も『PSYクオリア』を使用して戦ったのだが、それが全く効果を成さないような感覚に襲われた。

絶句を引きづったまま『ダメージチェック』を行い、ダメージが6になったことでファイトが終了する。

ファイトが終わったことで、ひとまず終了の挨拶を済ませる。

 

「今の貴之なら、心配無さそうだね。気がつけば簡単に乗り越えるんだもん……」

 

「そんなことは無いさ……結衣が途中で辞めることなく続けてたら、今頃どうなってたか分からねぇよ」

 

結衣が『PSYクオリア』から目を背けることなく続けていれば、今日ギリギリの僅差で勝てたくらいかもしれないし、勝てていなかったかもしれない。それが貴之の考えだった。

しかしながら結衣も、続けていたとしても貴之は始めて『ヌーベルバーグ』を使用したタイミングで自分の『PSYクオリア』を乗り越えていたと考えている。

全ては明日のファイト次第といったところだが、結衣は貴之のことを信じていた。

 

「あ~あ……明日のファイト身に行きたかったなぁ……」

 

「仕方ないわよ。私たちは店があるんだから……」

 

瑠美の愚痴が示す通り、彼女たちは店があるので大会を見ることができない。

なので大会の結果がどうなったかは貴之や一真からでないと聞くことができないのだ。

 

「結果は大会が終わったらすぐに伝えますよ」

 

「ええ。楽しみにしているわね?」

 

「応援してますから、頑張ってくださいね」

 

「今までやって来たのは無駄じゃないから、自分を信じて……」

 

秋山姉妹の応援に貴之は頷く。特に結衣の言葉は自分の状況をしっかりと捉えてくれていた。

限界は無い――。それは貴之がヴァンガードを始めた日から度々色んなことを教えてくれた人からの受け売りであり、経験を積んだ後改めてそう思うようになった言葉である。

 

「それじゃあ俺はここら辺で……。本当にありがとうございました」

 

最後に礼を告げてから、貴之は店を後にする。

こうして最後のファイトが終わり、残りは大会を戦うだけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「いい具合になったわね……」

 

最後の通しを終えた友希那の感想を聞いて、Roseliaのメンバーは喜びの情を出す。

スカウトの一件等でトラブルはあったが、それを乗り越えて十分と言えるくらいになったのは紛れもない彼女たちの努力によるものだ。

 

「もう終わりかぁ~……あとちょっとだけ練習したい気もするけど……」

 

普段より練習時間が少ないので、何か物足りないと思う人が出てくる可能性は十分にある。

あこは声に出して頭を悩ませているし、リサも「もう少しだけ」という目をしていた。

 

「気持ちは分かりますが……今日は体調管理を優先すべきですね。出れなくなってしまったら本末転倒ですから」

 

「練習の成果を見せられないのは嫌ですね……」

 

足りないと感じる二人に対して、紗夜と燐子は「これ以上は危険かも」と言う旨を示す。しかしながら、どこか練習をしたそうではあった。

そんな四人の様子を見た友希那は、どうするべきかを数瞬で考える。

 

「そうね……帰った後に練習をしても構わないけど、一時間までにしましょう。不安に思った部分はそこで解消して頂戴」

 

友希那の出した提案は足りないと思っていた二人にとっては練習ができる。無理しないようにと考えていた二人にとっては無理のない範囲で練習ができると、とてもいい落とし所だった。

明日のコンテストが終わった後はここまで練習を多めに入れていたのもあり、インターバルを挟むべく少しの間は練習を少なめにするつもりでいる。

と言っても実力が落ちないように気を付けながらである為、その後はすぐに練習量をある程度まで増やすつもりでいた。

最後に「明日は遅れないように」と言う注意喚起をしてから今日は解散となった。

 

「ようやくだね……」

 

「ええ。やっとここまで来れたわ……」

 

今までコンテストに出たいと言ってはいたが、一度も出ることができていないのだから、感慨深い想いが湧いてくる。

長い時間をかけてしまったが、ようやく自分たちの望んだ舞台に立てる……。友希那は安堵の情を抱くし、リサも喜びの情を抱く。

 

「ちょっとだけ練習していいって言ってくれた時は安心したよ……。落ち着かなかったからさ……」

 

「あなただけじゃない。他のみんなもやりたそうにしていたからね……」

 

あの状況は流石に無条件でダメだとは言えなかった。そうしていたら悪影響を及ぼしそうな予感があったのだ。

理由は他にもあるので、「それと……」と友希那は付け加える。

 

「実のところを言うと……私もそうしないと落ち着かない気がして……」

 

「……」

 

友希那がそわそわした様子で答えるのを見たリサは数瞬固まり、その後思いっきり吹き出して笑った。

そのことで友希那に咎められたので、リサは素直に謝る。

 

「でも、みんなそう思ってたんだね……。波長が合って来たのかもね?」

 

「同じタイミングでライブハウスに来たのも、それが理由かも知れないわね」

 

友希那の推測はリサも信じたいと思った。最初の頃と比べて、チームの中にある空気が変わったのも一助している。

その後で、明日は全国大会もあることに気づいた友希那がリサに聞いてみる。

 

「明日は貴之も全国大会があるけど……見送りに行くの?」

 

「あっ、そう言えば明日だったねぇ……。うん。それならアタシも一緒に行くよ♪」

 

以前リサが一緒に行きたかったと言っていたのを思い出していたので、今度は友希那が自分から振ってみると、リサはそれに乗る。

自分たちより僅かに速い電車に乗るらしいので、彼を送った後自分たちも乗るのがいいと言うことになった。

 

「二人とも、今から帰りか?」

 

「そう言う貴之もそうみたいね?」

 

少し歩いた先で帰り途中だった貴之と合流し、そこからは三人で歩いて帰る。

今日はどうだったか、この後はどうするかを話しながら歩いていれば、あっという間に家の前まで辿り着いていた。

 

「じゃあ、明日はお互い悔いのないようにしましょう」

 

「ああ。上手くやろう」

 

分かれる前に、貴之と友希那は笑みを浮かべて握手を交わす。これには二人とも応援の旨を込めていた。

互いの道のりが明日に決まる……。そうなれば応援したくなるものだった。

 

「明日はみんなで頑張ろうね♪」

 

「ええ。頼りにさせてもらうわ」

 

今回の戦い(コンテスト)は一人じゃない。それを改めて感じているからこそ、友希那も素直に頼むことができた。

この後二人が朝は見送りに来ることを伝えると、貴之はそれを承諾した。

 

「三人ともコンディションの確認とかもあるから、ここまでにしましょう」

 

「そうだな。そろそろ中に入るか」

 

「うん♪それじゃあまた明日♪」

 

体調を崩すことだけは頂けないので、三人は話しを切り上げて家の中に上がる。

その後各自でやるべきことを済ませて、明日に備えるのだった。




少し駆け足気味になってしまいましたが、これで前日の部分が終わりました。

ようやくポピパのメンバーの内の一人を出すことができました。これで各バンドの内誰か一人は、貴之と顔を合わせたことがある状態になります。
貴之と顔を合わせるメンバーは「この人は自然な形で合わせられそう」と言う判断をできる人たちで選定しています。この為、ハロハピは「商店街に買い物理由で立ち寄ることがある」と言う理由からはぐみと顔を合わせる可能性もありました。

次回からは19話と全国大会を並行して行っていくことになります。

イメージ48にてライブとファイトを並行して行う場面がありましたが、今後はどのような書き方がいいでしょうか?

  • 作者にお任せ
  • 並行してやって欲しい
  • 別々に分けて欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。