先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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決勝戦とRoseliaのライブです。

ファイトの途中からライブのシーンは完全に並行して行っていきます。


イメージ48 再誕と目覚め

「さて……五分前ですね」

 

「問題無いわ。いつでも行ける」

 

「(大丈夫……イメージ、イメージ……)」

 

貴之の大会が進んでいるように、コンテストの出番が近づいてきて、いつの間にか五分前になっていた。

決勝のカードが地方と同じになったことを知ったタイミングで移動を始めた為、自分たちの番が終わった時に結果が出ているかどうかになるだろう。

時間のことを紗夜が催促すると友希那は涼しい顔で返すが、リサは自分に言い聞かせている様子で反応が極めて薄い。

あこと燐子も頷く形で返しているのだが、リサだけはそんな様子が無かったので、思わず全員がそちらへ顔を向ける。

 

「リサ……?」

 

「……えっ?あれ?もしかして何か言ってた?」

 

友希那に声を掛けられてようやく反応を示す。しかしながら、紗夜が催促していたことには気づいてないようだった。

その為それを再度確認すると、分かっている様子だったのでそこは安心だった。

 

「もしかしてリサ姉、緊張してる……?」

 

「う~ん……大丈夫って言いたいけど、イメージしておかないと不安だからしてるのかな……?」

 

正直、リサ自身も何とも言えないところだった。

自分が予想していた、もう素っ頓狂な声を出すしかないくらい緊張することは無かったが、全くしていないかと言われればそう言うわけでもない。

リサが大事な場面の直前で自信を無くしやすいのは時折見るのだが、友希那から見れば相当マシな状態だった。

 

「今井さん。ここまで来たら、残りは自分自身との戦いですよ」

 

「アタシ自身と……?」

 

紗夜自身は常にそうだと感じてはいるが、流石にそんなことを強要することは無い。こう言う抱き方をしているのは自分の過去が関係しているが、わざわざそんなことを話すつもりも無かった。

――どういう時がそうなんだろうな……?そう考えているところに、あこと燐子が明白な場面を出してくれた。

 

「あことリサ姉の場合、あのオーディションだと思う」

 

「私の場合は、誰かに会いに行こうと足を運んだ時が始まりですね……」

 

「ああ~……うん。そう言うことか」

 

あこの例は自分のタイミングでもあった為、尚更分かりやすかった。

燐子の場合も、新しく挑戦と言うのでよく分かる話しである。

 

「後は前を向いて、堂々とやりきる……それだけです」

 

「……そうだね。ありがとう、みんな」

 

リサが礼を言ったタイミングで、歓声が沸き上がる。それは自分たちの一つ前のチームが演奏を終えたことを意味していた。

ここから約四分半。その間の演奏で全てが決まることになる。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

一発勝負ではあるが、五人に迷いはなく、友希那の一声に頷いてステージへ上がっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「今回は二回も貴之と戦うことになるとはね……」

 

「確かにそうだな……前までは地方が違ったが、今回は同じだからな……」

 

時間は友希那たちがステージに上がる十分前。こちらも決勝戦の準備を進めていた。

彼らは本来ならこの全国大会で一度戦うだけだったが、今回は偶然が重なって二回目の対決となった。

その過程を意外に思っているのもそうだが、戦って勝つだけだと考えているのも二人して共通であった。

 

「二連覇か、それとも悲願達成か……さあどっちだ?」

 

貴之の経歴を知る者が多い為、俊哉の天秤で計るかのような言い草は会場にいる大体の人が理解していた。

前者は前回も優勝できた一真、後者は長い間その玉座に挑んでいる貴之であり、特に貴之の方は知る人ぞ知る意味合いも込められていた。

どちらも譲ること無い真剣勝負。そこに水を差すことのできる人はいないだろう。

 

「心配は無いだろうけど、僕は当然最初から行かせて貰うよ」

 

「当然だ。そして俺は、今日こそ『PSYクオリア(それ)』にこの舞台で勝つ」

 

引き直しもすべて終え、一真が『PSYクオリア』を先に発現させたことで準備が完了する。

 

「「スタンドアップ!」」

 

その声が聞こえた瞬間、会場の空気が一気に変わる。

 

「ザ!」

 

貴之が『PSYクオリア』を待ってくれていたように、一真もその合図は待つ。

ここで待たないなんて真似をすれば、どちらも不完全燃焼で終わってしまうのは目に見えていた。

 

「「ヴァンガード!」」

 

貴之は『アンドゥー』に、一真は『ぐらいむ』に『ライド』する。ここまでは完全に二人のいつも通りの流れであった。

今回のファイトは一真の先攻で始まり、彼は『アレン』に『ライド』し、一枚ドローを済ませたら貴之へターンを回す。

 

「こう言う時はやっぱりお前からだな……『バー』に『ライド』!一枚ドローして、『ガイアース』を『コール』!」

 

友希那の前で初めて『ライド』したのも、初めてのファイトで『ライド』したのも『バー』であり、何かと『ライド』する機会は恵まれていた。

スキルでドローした後に『メインフェイズ』で『ガイアース』を『コール』したのだが、ここでいつもと違う行動に貴之は出ていた。

 

「『ガイアース』を前列に……?」

 

真司から出た疑問の声が指し示す通り、貴之は後列中央ではなく、前列右側に『コール』していた。

――次に『ブラスター・ブレード』が来るのに何故?最初こそ疑問に思ったものの、その理由は察しが付いた。

 

「そうか……『エクスカルペイト』を出される前に決着をつけようとしているのか」

 

「先に攻撃できるからこその選択肢だね……」

 

貴之は『ブラスター・ブレード』によって『ガイアース』を退却させられることを覚悟した上で、この選択を取った。

強力な『エクスカルペイト』も『ライド』出来なければ持ち腐れになるし、こちらも必要な行動数が少なくなるから楽になる。

 

「あの行動だけど……」

 

「間違いない。知られないようにするのもあるだろうな」

 

『ヌーベルバーグ』は使わないで終わるなら確かに楽なのだが、そうなった時のためにも戦術でどうにかするしかないような動きを見せる必要はあった。

これが今回、貴之が『ガイアース』を前列に『コール』した理由に繋がっていた。

 

「攻撃行くぜ……『バー』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード、来い!」

 

一真自身も、2ダメージ受けた場合は『ブラスター・ブレード』のスキルとプラスで何か一つを使えるので彼の狙いに乗っかる。

しかしながら貴之の『ドライブチェック』、一真の『ダメージチェック』は共にノートリガーで、大きな変化がないまま1ダメージとなった。

 

「次は『ガイアース』でヴァンガードにアタック!」

 

《もう行けるぞ!》

 

「ならばそれもノーガードだ。『ダメージチェック』……」

 

ユニットの伝言の通り、二回目の『ダメージチェック』は(ヒール)トリガーが引き当てられ、ダメージが1で留まる。

一真の場合は無理に『ブラスター・ブレード』のスキルは使わなくてもいいと言う選択肢が生まれるが、貴之の場合は目論見が崩れた結果になった。

しかし何も急いで勝てとは誰も言っていないので、自分を落ち着かせてから一真にターンを回す。

 

「この後が大変だね……」

 

「『ガイアース』が退却か、それともユニットを揃えるか……」

 

退却させることによって貴之に展開のやり直しを強いるか、それとも自身の展開を早めるか、二つに一つな状況となった。

 

《共に勝利を……》

 

「ああ、勿論」

 

「(『ライド』するのは読めてる……問題はこの後だ)」

 

「『ライド』!『ブラスター・ブレード』!」

 

貴之の予想通り『ブラスター・ブレード』に『ライド』した一真は、スキルでの退却は選ばず、そのまま『メインフェイズ』に突入する。

『メインフェイズ』では前列右側に『ギャラティン』、前列左側に『べノン』、後列右側に『アレン』を『コール』し、『アレン』のスキルで後列左側に『マロン』を『コール』する。

これでユニットが五体になり、『ブラスター・ブレード』のスキルが発動可能条件を満たした。

 

《時は満ちた……行くぞ!》

 

「勝負だ……!『ブラスター・ブレード』でヴァンガードにアタック!」

 

「賭けるか……!俺はノーガード!」

 

貴之のノーガード宣言に会場が驚く。いくら自分のダメージが0だとは言え、(クリティカル)の増大した『ブラスター・ブレード』の攻撃を直に受けるのはリスクが大きい。

一真は『ドライブチェック』で(クリティカル)トリガーを引き当て見せ、パワーは『ギャラティン』に、(クリティカル)はヴァンガードに与える。

イメージ内で『ブラスター・ブレード』となった一真の斬撃を三回も貰い、『バー』となった貴之は思わず痛みに声を上げる。

『ダメージチェック』は一枚目が(クリティカル)トリガー、二枚目がノートリガー、三枚目は(ヒール)トリガーとなり、どうにか2ダメージで収まることが決まった。

 

「届かないならば仕方ない……『アレン』、『ギャラティン』、『ガイアース』を止めるんだ!」

 

「すまねぇ、『ガイアース』……!」

 

手札消費を避ける為にも『ガイアース』のことは諦めた。

最後の一回は攻撃がヒットしないため、一真はこのままターンを終了した。

 

「いきなり(ヒール)トリガー合戦か……こりゃどうなるか分かんねぇな」

 

「今の段階だと貴之が少し不利かな……?最初の思惑が崩れているし」

 

一真自身は最初のターンで受けた攻撃は(ヒール)トリガーの有無は意識しておらず、貴之は意識している。弘人はこの辺りから推測を立てた。

このターンでどれだけ一真のペースを遅れさせるか、または自分の流れに引きずり込めるか。それが鍵になってくるだろう。

 

「『ライド』!『バーサーク・ドラゴン』!スキルで『ギャラティン』を退却!」

 

ここで『ギャラティン』を退却させるのは、『インターセプト』による『シールドパワー』が理由である。『べノン』がスキルを発動していない以上、『シールドパワー』の低い『ギャラティン』と見立てて無視することが可能だった。

『メインフェイズ』では前列左側に『クルーエル』、前列右側に『アーマード・ナイト』、後列左側に『バー』を『コール』し、『バー』のスキルで『マロン』を退却させる。

これで一真の場のユニットが三体に減ったため、次のターンで必要以上に手札を使わせることは可能になった。

 

「よし……『バーサーク・ドラゴン』でヴァンガードにアタック!」

 

《痛恨の攻撃ではないが……どうする?》

 

「ここは受けよう……ノーガードだ」

 

ユニットが言う痛恨と言うのは(クリティカル)トリガーを意味していた。故に一真はこのまま受けることを選択し、『ドライブチェック』に備える。

貴之の『ドライブチェック』の結果は(ドロー)トリガーで、パワーが『アーマード・ナイト』に回される。

対する一真の『ダメージチェック』はノートリガーで、これでダメージが2となる。

 

「次は『アーマード・ナイト』でヴァンガードにアタック!」

 

「これもノーガードにしよう……『ダメージチェック』」

 

こちらでの『ダメージチェック』は(ドロー)トリガーとなり、パワーはヴァンガードに与える。

しかしながら、次の攻撃は合計パワーが26000なので、防ぐ時は『ガード』が必要となった。

 

「こいつはどうする?『バー』で『ブースト』、『クルーエル』でヴァンガードにアタック!」

 

「防げるか、『ふろうがる』?」

 

《大丈夫!》

 

一真は『ソウルチャージ』を避けると言うよりは、『クルーエル』を利用した『完全ガード』のコスト確保を阻止する目的で防いだ。

これによって『クルーエル』は場に残されてしまったが、それもやむ無しと割り切って貴之はターン終了を宣言する。

 

「(お互いにダメージは2……『エクスカルペイト』の存在をちらつかせることができるし、()()()が若干有利かな……?)」

 

玲奈の分析は的を得ていた。ここからの展開次第で、貴之は自身の思惑を確実に通せなくなる可能性が出てくるからだ。

更に次のターンは一真であり、恐らく盤面は完成させられてしまうだろう。

ちなみに玲奈は全国大会までは彼と共に行動することが多く、次第に名呼びするようになっていた。

 

「『べノン』でスキルを発動してないから手札に『エクスカルペイト』は無い、もしくはあってもグレード3があるから使う必要が無かった……」

 

「なら、『アルフレッド』が来る可能性が高いか」

 

『アーリー』の場合、『ブラスター・ブレード』は手札または『ソウル』からなので、『エクスカルペイト』を使う際に事故率が上がる可能性がある。

その為デッキから『ブラスター・ブレード』を出せて、『ソウル』に『ブラスター・ブレード』を残せる都合上、なるべく『アルフレッド』に『ライド』したいところであった。

 

「ここは確実な道を行かせて貰おう……『ライド』!『騎士王 アルフレッド』!」

 

「(まあそりゃそうだろうな……両方とも持ってたら、事故を起こしたくねぇだろうよ……)」

 

さらに言えばデッキから『ブラスター・ブレード』を呼び寄せると言うことは、デッキ内にある『ノーマルユニット』を減らし、トリガーが出やすくする行為でもある。故に余程のことがない限りはこちらに『ライド』するのである。

『フォース』をヴァンガードに設置した後後列中央に『うぃんがる』、後列右側に『ゼノン』、前列左側に『ギャラティン』を『コール』。更にスキルで前列右側に『ブラスター・ブレード』を『コール』し、『ブラスター・ブレード』のスキルで『クルーエル』を退却させる。

『クルーエル』は先程手札に戻るのを阻止した為、ここで逃がさない手は無かった。

 

「では攻撃だ……『マロン』の『ブースト』、『ギャラティン』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード、『ダメージチェック』……」

 

ここではまだ防がない。ダメージが2なので、落ち着いて動くことを優先した。

『ダメージチェック』はノートリガーで、何もないままダメージが3になる。

 

《まだ決まらないが、勝機は整いつつある》

 

「この後に備えよう……次は『うぃんがる』の『ブースト』、『アルフレッド』でヴァンガードにアタック!」

 

「ここは一旦止めるか……『バリィ』で『完全ガード』!」

 

『アルフレッド』の攻撃を止めるなら、ここで『完全ガード』を使うのが得策となった。『ツインドライブ』を想定した場合、こうしないとパワーが足りなくなる。

この『ツインドライブ』は一枚目がノートリガー、二枚目は(ドロー)トリガーとなり、一真が『完全ガード』を握ることとなる。

ここは地方以上にファイトの流れを読める人たちが多いので、一つの事態に気付く。

 

「『エクスカルペイト』の流れが出来上がった……!」

 

貴之のお得意の連続攻撃と複数の(クリティカル)トリガーによるトドメが叶わなくなった。

明らかに一真の流れである。それだけ貴之が苦しい状況に置かれていた。

 

「最後は『ゼノン』の『ブースト』、『ブラスター・ブレード』でヴァンガードにアタック!」

 

「ノーガード、『ダメージチェック』……」

 

ここはトリガー狙いでノーガードを選び、ノートリガーだった為ダメージが4になる。

ここで一真のターンが終わり、貴之のターンに回った。

 

「何とか耐えきったけど……どうするんだろう?」

 

「『エクスカルペイト』の阻止は不可能と見ていいからな……思惑が潰れたこの状況、お前ならどうする?」

 

一真と貴之がファイトする光景を大会以外でも見ていた裕子と真司は、今まで以上に貴之が不利であることを悟る。

『エクスカルペイト』と言う絶対的な切り札を見せつけられている以上、どうしてもそちらを対処しなければならない考え方が増えるのだが、最早それを止めることは叶わなくなったも同然だった。

 

「(この状況、どうするかな……)」

 

――聞こえるか?我が先導者(マイ・ヴァンガード)。貴之が思考の海に落ちようとした瞬間、何者かの声が貴之のみに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「……ここはどこだ?」

 

――さっきまで一真とファイトしてた筈だが……。いつの間にか真っ白な空間にいることに困惑しながら貴之は辺りを見渡す。

と言ってもどこまでも真っ白な空間で先に何があるかも分からない現状、動く方が危険だと判断してどうするべきかと考える時間に回すことを選ぶ。

何をどうするかを考えだそうとしたところで、再び先程自分を呼んだ声が後ろから聞こえたのでそちらを振り向く。

 

「……『オーバーロード』?」

 

『ようやく言葉を交わすことができたな。我が先導者(マイ・ヴァンガード)……』

 

誰かと思えばそこには『オーバーロード』がいて、夢にも思わなかったユニットとの直接会話が実現する。

こんなとんでもないことが実現したのもそうだが、いきなりのこと過ぎて流石に貴之も困惑が勝ってしまった。

しかしながら、少し落ち着けば自分の行動がこの現象を引き起こすに至ったと考えることはでき、至って平静な状態に戻れることができた。

 

「何がこの現象を呼び起こすきっかけになったんだ?」

 

『改めて『ヌーベルバーグ』を使用したあの日……己の限界を改めて超えようと思った意志がきっかけとなり、少しづつ実現に近づいて行った……』

 

「それで今日この時か……何だか、因果的なものを感じるよ」

 

最も大事な決勝戦の『ライド』が可能となるターンで、『オーバーロード(自身の分身)』と言葉を交わす時が来る。これ程運命的な日は無いだろう。

数いるユニットの中で真っ先に『オーバーロード』と会話できた理由に、貴之は何となく察しが付いている。

 

『せっかくの時間だというのに、もう時間が来てしまうのは惜しいな……』

 

――また機会が訪れる日は十分にあり得るが、次がいつになるかは分からないらしい。その為『オーバーロード』は一番伝えたかったことを伝えることにする。

 

『長い間共に戦えたことは私の誇りだ……今までありがとう、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 

まず初めに礼を言いたい気持ちはよく分かった。何しろ必要な時に『クラン』を変えてファイトする時以外、貴之は必ず『オーバーロード』を使っていたからだ。

そしてこれが『オーバーロード』と会話できる理由に繋がっていた。他のどのユニットよりも絆が強固なのだ。

礼を聞けた貴之は嬉しくなるが、何もこれでもう終わりじゃないから、一言返すことを決める。

 

「ちょっと違うな……。まだ俺のヴァンガードの道は終わらない。だから……」

 

――これからもよろしくな。貴之が右手を差し出す。

人と巨竜が対峙している為、立ったままではその手を握ることは叶わない。

 

『当然だ。これからもよろしく頼む』

 

――そして、我らを勝利へと導いてくれ。『オーバーロード』は握手をできるようにする為地面に膝を付き、剣を左手に持ち変える。

そして『オーバーロード(黙示録の風)』と遠導貴之(先導者)……巨竜と人と言う異種族による握手は実現した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……貴之?」

 

自分がターン終了を宣言してから15秒程貴之が動かないので、一真は思わず名を呼んだ。彼がそうしたように会場も少々困惑気味になっている。

何か考えているのかと推測する人もいれば、諦めてしまったのかと絶望視する人もいた。ちなみに貴之の知人や友人は全員前者側である。

後者の方はすぐに、貴之がゆっくりと目を開けたことで否定される。

 

《警戒せよ、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 

「(……?あれは何だ?)」

 

真正面にいる一真は、貴之の目に変化があることに気づいた。一真にユニットの声が聞こえているが、何が来るまでは予測出来なかった。

色合いはいつもと変わらない蒼い瞳なのだが、微かに光を宿している。

――大丈夫だ。いつも通り戦うだけ……。貴之は「待たせたな」とだけ声をかける。

 

「俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……」

 

貴之が自分の三回目のターンを始める時、Roseliaのメンバーも演奏を行う時間が回ってきていた。

ライトがこちらに照らされた後、挨拶とメンバー紹介を行う。

この時のメンバー紹介はファーストライブの時と殆ど同じではあるが、チームで用意した専用の衣装もあって統一感が大幅に増していた。

 

「この曲は私たちが新たに一歩を踏み出した証とも言えるものです。聞いて下さい……『Re:birthday』」

 

「我が分身は、全てを焼き尽くす紅蓮の炎……!ライド・ザ・ヴァンガード!『ドラゴニック・オーバーロード』!」

 

貴之が『オーバーロード』に『ライド』するタイミングと、Roseliaが演奏を始めるタイミングは同時だった。

この時ヴァンガードの会場は前口上が入り、普段以上の思い入れを感じさせる貴之に目を釘付けにされ、Roseliaのライブは開始と同時に歓声が湧き上がる。

Roseliaは友希那が信頼できる人たちと豪語したメンバー故に期待が寄せられていて、貴之はより強く『オーバーロード』の気配を感じさせたからと言うのもある。

また、『ライド』した『オーバーロード』は瞳の色が普段の黄色から、今の貴之と同じ蒼色の瞳になっていた。

 

「『イマジナリーギフト』、『フォース』!来い、『バーサーク・ドラゴン』、『ラオピア』!さらに『オーバーロード』は『ソウルブラスト』!」

 

『Re:birthday』は一人で抱え込んでいたことの後悔と、それを告げたことによる新たな始まりを意識した歌で、バンドの音に合わせたバラードに近い要素もある高度な曲となっていた。

その歌いだしに合わせて貴之の『メインフェイズ』が行われる。前列左側に『バーサーク・ドラゴン』、後列中央に『ラオピア』であった。

『メインフェイズ』を行っている際、貴之は手札の呼ぶべきユニットはカードの外側が青く光っているように見えており、ファイトにおけるガイドがある状態で行っていた。

しかしながら、大体自分と同じ考えであった為貴之はそれを答え合わせと認識しながら行い、そのまま『バトルフェイズ』に進む。

 

「行くぞ……!まずは『バー』で『ブースト』、『バーサーク・ドラゴン』でヴァンガードにアタック!」

 

《まだ大丈夫だ》

 

「ならノーガード、『ダメージチェック』……」

 

今回はノートリガーで、ダメージが3になる。

これによって『オーバーロード』で攻撃した際の『トリガーチェック』次第では、敗北の可能性(デッド・ライン)まで持ち込まれる危険性が跳ね上がる。

更には貴之のお得意な土壇場による的確なトリガー引きと、今回の雰囲気の変化が合わさって尚更警戒する必要があった。

 

「これで届かせる必要はない……『オーバーロード』で『ブラスター・ブレード』にアタック!」

 

《私には構わず……!》

 

「済まない、ここはノーガードだ!」

 

『Re:birthday』はここでサビの部分に突入し、会場を一気に盛り上げていく。

『ツインドライブ』では一枚目が(クリティカル)トリガー、二枚目が(ドロー)トリガーとなり、『ブラスター・ブレード』が炎に焼かれて退却させられる。

当然貴之は『オーバーロード』をスタンドさせ、『オーバーロード』となった貴之はその瞳をギラリと光らせてから咆哮する。

 

「行くぞ『ラオピア』!『アルフレッド』を打つ為の力を貸してくれ!」

 

《トリガーが来るぞ!》

 

「ならば、『イゾルテ』だ!」

 

決めきる必要はない……そう言っていた貴之の言葉が反映されるかの如く、『ドライブチェック』の結果は(ヒール)トリガーだった。

効果は使える為ダメージが3に回復し、パワーは攻撃をしていない『アーマード・ナイト』に回された。

 

「頼む、『アーマード・ナイト』!」

 

《後は決めに行こう》

 

「ああ。ここもノーガードだ」

 

後は『エクスカルペイト』で決めるだけと踏んでいた一真は、ここでノーガードを選択する。

この結果がノートリガーであり、ダメージが4になる。この一方で『Re:birthday』は二番の歌詞に入りだした。

 

「ここからどうする……?手札が不安だな」

 

「(ここが正念場だ。耐えてくれよ貴之……!)」

 

竜馬は貴之目線で考え出し、俊哉は友がこの状況を耐えられることに賭けた。

そして、一真の四ターン目……引いてはこのファイトの勝敗に直結するほど重要なターンが始まった。

 

「私は今ここで『オーバーロード(黙示録の風)』を討ち、栄光を掴もう!」

 

「良いぜ……来い!俺は真正面から耐えきってやる!」

 

「ならば遠慮なく……!『ライド』!『エクスカルペイト・ザ・ブラスター』!」

 

貴之も貴之で(ヒール)トリガーさえ一真が引かなければ勝機が十分すぎる程残っている。故に絶望などどこにもなかった。

登場時のスキルを発動し、『フォース』をヴァンガードに設置した後に前列右側に『ギャラティン』を『コール』する。

 

「一時の剣を見せよう……『エクスカルペイト・ザ・ブラスター』で全てのユニットへアタック!」

 

「『バリィ』、頼む!お前ら、後は任せろ!」

 

貴之は何の迷いも無く自身を守る。

『ツインドライブ』が二枚とも(クリティカル)トリガーで、効果が全て『ギャラティン』に回される。

こうなったのは『エクスカルペイト』は効果を残せないこと、仮に耐えられた場合、半端な割り振りをすると攻撃が届かなくなるからだった。

 

「く、(クリティカル)が二枚……!」

 

「不味いな……『ブラスター・ブレード』の後にももう一回あるぞ」

 

『ブラスター・ブレード』を耐えてもパワーが38000の攻撃が控えている。更に『ブラスター・ブレード』は(クリティカル)が3になる可能性もある為、どちらかをノーガードにしないと手札が持たない。

正直言って運頼みとしか言えない状況であった。

 

「決めさせて貰う……!『うぃんがる』、我に続け!『オーバーロード』を討つ!」

 

「ここで引いたら負ける……!俺はノーガードだ!」

 

貴之はデッキが光っていることを信じて選択する。

『ドライブチェック』は(クリティカル)トリガーが引き当てられ、会場の空気が大きく動く。

 

「これで決着だ!貴之!」

 

イメージ内で『ブラスター・ブレード』となった一真が、『オーバーロード』となった貴之に剣を深く突き刺す。

しかしその剣を引き抜いても、貴之の姿が消滅する気配は無かった。

 

「何!?まさか……!」

 

「あの時の趣旨返しだな……ゲット、(ヒール)トリガー……」

 

『ダメージチェック』の結果は(ドロー)(クリティカル)(ヒール)の順となり、貴之は敗北を免れていた。

これによって会場はざわついた様子となる。もうどちらが勝つかわからない。そんな空気で満ち溢れていた。

 

《まだ希望を捨てる訳には行かない……》

 

「勿論そのつもりだ……『アレン』、『ギャラティン』、頼む!」

 

「後は頼んだぜ、『ゲンジョウ』!」

 

パワー48000の攻撃は合計パワー63000の前に防がれる。

これでこのターンはどうすることもできない一真は、ターンを終了するしかなかった。

 

「さて、耐えきった貴之がここから巻き返す訳だが……」

 

「「(貴之ならここで引くだろう()……)」」

 

竜馬たちのように大抵の人たちは『ウォーターフォウル』の一点突破が勝ち筋だと考えるが、裏事情を知っている大介と弘人はある種の確信があった。

『ウォーターフォウル』を使った場合、地方の時のように一真が(ヒール)トリガーを引く可能性があるのが懸念材料となり、その対策を考えるともうそれしかない。

『ドライブチェック』が一回しかできなくなるものの、貴之のイメージ力なら何ら問題無いし、『完全ガード』が確認できない以上こちらの方がパワー的に確実性が跳ね上がる。

周りの人たちの予想を大きく裏切ることになる貴之のターンが始まった瞬間、一真は再び変化を見ることになる。

 

「俺のターン、『スタンド』アンド『ドロー』……」

 

「(今度は元に戻った?)」

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)!向こうは既に、このターンで決める用意を整えている!》

 

「何……!?」

 

貴之がドローを済ませた瞬間、貴之の瞳が光を宿すのが止まった。

そのことに疑問を抱いた瞬間にユニットの焦った声を聞いた一真は驚いた。『PSYクオリア(この力)』を持ってしてもここまで焦った声は聞いたことが無かった。

イメージ内でも影響は現れており、『オーバーロード』となっている貴之の瞳は、『オーバーロード』が持つ本来の黄色に戻っている。

また、貴之も『ドロー』を済ませた段階でガイドラインのようなものは見えなくなっているが、このファイトではそんなもの必要ない状況まで持って行ったので、何も問題は無かった。

 

「お前が『エクスカルペイト』を隠しきっていたように、こっちも隠しきっていたのを使わせてもらうぜ!」

 

「隠しきっていたもの……?」

 

「今こそ栄光を掴み、俺の望む未来(イメージ)を掴み取る!ライド・ザ・ヴァンガード!」

 

貴之が『ライド』した時、Roseliaの演奏も終わりが近づいていた。

観客が盛り上がり続けている最中、演奏しているRoseliaのメンバーは自身の状態になって気づいた。

 

「(薄々感じていたけれど……私はこんなに穏やかな気持を抱けるようになっていたのね)」

 

「(さっきまで緊張してたのがウソみたい……アタシ、めちゃめちゃ自然に弾けてんじゃん!これならもう大丈夫♪)」

 

「(やっぱり……Roseliaはカッコイイあこにしてくれる魔法を持ってるんだ……!)」

 

「(歓声もライトも全然気にならない……私は心が強くなったんだ……)」

 

「我が道に祝福を与えるのは……『超越龍 ドラゴニック・ヌーベルバーグ』!」

 

紗夜と燐子は自分の変化を改めて自覚し、リサとあこは現在の自分を見て確信を抱く。

この時貴之が全くの同タイミングで『ヌーベルバーグ』に『ライド』し、大介と弘人を省いて何も知らない人たちを騒然とさせる。

貴之が最後の最後まで隠しきっていたこと、実際に初めて見ることのできるグレード4同士の対決、更に貴之が『ライド』した際の負担にやられないか等様々な考えや現状がめぐり合わせた結果になる。

 

「貴之……平気なのか?」

 

「ああ。平気に()()()()

 

何故一真がそう問うたのか、そして貴之がそう答えたのかの真相は玲奈以外誰も気づけない。

思わず聞いてしまったものの、貴之の回答を聞いてようやく会場が落ち着いた為、その問いをまともに聞いていた人はいない。聞こうとしても聞こえやしなかったのだ。

また、貴之の回答によって自身のように能力を用いた制御ではなく、貴之が正当な手段で問題なく制御できたことは自身の先へ出たことを示していた。

 

「悪いな……俺らも黙ってるように頼まれてたんだ」

 

「一度使ったら対策されるから、その時までってね……」

 

「貴之……そこまでやるとはな……」

 

友希那に己の気持ちを伝えたいと言う想いが如実に出た結果の一つだろうと、俊哉は考えた。

以前、貴之が殴られる可能性があると示唆していた意味がようやく分かり、しかしながらそこまで怒りの情は出てこなかった。

と言うのも、自分より前に友希那と共にリサから思いっきり絞られたのを知っていたのもあるが、何よりも貴之自身の友希那へ対する一途な想いと全国優勝をしたい意地を感じ取れたからである。

――ただまあ、一言だけは言わせてもらうからな?俊哉は自分なりに妥協点を見つけた。

 

「『イマジナリーギフト』、『フォース』!効果はヴァンガードに回して『ラオピア』を『コール』!さらに『ヌーベルバーグ』の『ソウルブラスト』!」

 

手札に残すことのできていた『ラオピア』を後列中央に『コール』した後、『ヌーベルバーグ』のスキルを発動して一真のリアガードを全て退却させる。

これによって一真は場ががら空きになっただけでは無く、致命的な状態に追い込まれていた。

 

「……しまった!」

 

「……?まさか一真のやつ、『ガード』ができないのか?」

 

彼の呟きを拾った真司の推測は当たりだった。

『ラオピア』のパワーが33000、『ヌーベルバーグ』のパワーが55000となった今、合計パワー88000の攻撃を防がなければならないのだが、『完全ガード』無しで残り手札が三枚な為、どう足掻いても防ぎようが無かった。

 

「『ヌーベルバーグ』はドライブチェックを1減らす、代わりに相手のトリガー効果を無効化している……もう一真君は運頼みしかできない」

 

「じゃあ、(クリティカル)トリガーを引いたら貴之君の勝ちなんだ……!」

 

玲奈が一真目線で状況を纏めたことで、裕子は貴之目線での状況を理解する。

裕子の場合、グレード4の存在を聞いてはいたものの、実際に見たことは一度も無かったのも起因している。

 

「これで決めてやる!『ラオピア』で『ブースト』、『ヌーベルバーグ』でヴァンガードにアタック!」

 

「仕方ない……ノーガードだ!」

 

《済まない……我らにはもう、打つ手がない……!》

 

「(何も考えられなくなっていく……。前からそんな時はあったけど、今回はいつも以上に……)」

 

貴之がこのファイトで最後の攻撃宣言をした際、友希那は歌いながら自分の感情に改めて気づいた。

父の音楽を認めさせたくて、歌う最中でも自分に鞭打つように考えを持ち続け、どこか無理をしていた面の強かった以前と比べ、Roseliaでの交流を深める内に皆ともっと上へと言う純粋な状態で歌うことが増えていた。

そして今回の演奏でも、この曲に込めた想いを乗せてただ純粋に歌っていた。

 

「(そう。私は、純粋な気持ちで歌うことを……()()()()()()()()()んだわ)」

 

「あの時と同じだ……俺のイメージを見せてやる!チェック・ザ・ドライブトリガー!」

 

友希那がその感情を認めたと同時に、貴之は完全なる一発勝負の『ドライブチェック』に挑む。

いつもと違う宣言と共に、貴之は山札から一枚のカードをめくる。

 

『……!』

 

「ゲット、(クリティカル)トリガー!効果は全てヴァンガードに!」

 

「貴之……見事だ」

 

ダメージが4だったことが災いして、一真はここで敗北が決ってしまった。

イメージ内では『ヌーベルバーグ』となった貴之が『ブラスター・ブレード』となった一真に迫って左の掌を眼前に出す。

その掌から赤いビームを撃ちだし、光の奔流に飲み込まれた『ブラスター・ブレード』となった一真は『クレイ』から消滅する。

また、貴之がトリガーを引いている頃に『Re:birthday』は最後のサビが終わって残りの楽器たちによる間奏に差し掛かっており、歌いきった友希那が晴れやかな表情を浮かべていた。その表情は自分たちの想いを打ち明け、生まれ変わったRoseliaの新しい物語が始まったことを意味するかのようでもあった。

そして、一真が『ダメージチェック』で二枚ともノートリガーを出してファイトが決するのと、Roseliaの演奏が終わって会場に一際大きな歓声が上がるのは、全く同じタイミングだった。




どうにか同時に完走させることができました。貴之は一先ず優勝です。
Roseliaの結果発表は次回、貴之が6ターン目から8ターン目のスタンドアンドドローまで発動していた能力はどこか別の章で明かしていきたいと思います。
貴之の能力は「こいつにPSYクオリア合わなそうだな……?」と言う考えから思いついた本小説専用の能力になります。

このライブとファイトが並行する方式がどうかの意見が欲しいので、アンケートを用意させていただきます。良かったら協力していただけると幸いです。

次回はRoseliaシナリオ20話をやってこの章が完結……と思いましたが、後一個だけやることがあったので、20話の後に追加で一話オリジナルの話しを入れてようやくRoseliaシナリオ1章分が完結です。
……ここまでRoseliaシナリオ1章に時間かけてる小説があるでしょうか?(汗)
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