先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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Roseliaシナリオ20話です。
この話を含め、この章は後二話で終わります。


イメージ49 一つの終着点

「か、勝った……」

 

まるで夢のようだった。自分があれだけ望んだ場所に立てた貴之は、予想より実感が湧いていない自分に気付く。

これは今まで全く届かなかった場所に挑み、そこにたどり着けなかった故に感覚が麻痺していたことも起因している。

自分がそうだと思っていても、目の前にはダメージ5で耐えきった自分とたった今ダメージが6となり敗北を喫した一真。この事実が貴之の思考を現実に引き戻す。

 

「まさか、地方の時と同じことをやり返されるとは思わなかったよ」

 

ユニット(あいつら)を信じていたからできたんだ……正直、やられた時はすげぇひやひやしたけどな」

 

互いに逆の立場になり、当人がその時抱いた気持ちを理解する。

ファイトの流れとしてはそうだが、一真は貴之がもう一つの見解を得ているだろうことを確信していた。

 

「ところで……貴之は気づいていたかい?君が『オーバーロード』になる直前から、『ヌーベルバーグ』に『ライド』するまでの間、様子が変わっていたのを……」

 

「ああ。俺のファイトを補助する……というか、俺がやろうとしていることを答え合わせするかのようにガイドラインみたいなのが見えてた」

 

――ああいうのを自分で体感すると、やっぱり大事な時以外は別に使わないでいいやと思ったよ……。『PSYクオリア』ではないが、貴之は自身がそう言った力を使用できたことで一真の言っていた力に対する禁忌感を理解した。

当時の彼と大きく違う点としては、あれが『PSYクオリア』とは別でもう一つの絆が産んだ力と認識している為その存在を否定はせず、最初からどうやって使って行こうかは決まっていた。

ここで言う貴之の大事な時と言うのは全国大会等の大きな大会、そして一真と全力でぶつかる時の二点が現状だった。

もしかしたらこれからこの条件の線引きは緩くなるかもしれないが、そもそもまずはいつでも自由に使用するか否かを選べるようにする必要があるだろう。

 

「二連覇どころか、リベンジの壁が大きくなってしまったけど……また挑ませて貰うよ」

 

「そっか……俺が挑まれる側に戻ったのか……。そう言う事ならいつでも受けて立つ、またファイトしようぜ」

 

――ありがとうございました。いいファイトでした。二人が握手を交わし、周りから拍手が聞こえ始めたことが大会の終わりを告げていた。

一真の言葉で気づかされたように、貴之は彼が『PSYクオリア』を発現して暫くするまでの頃に挑む、挑まれるの関係が戻ったことに気付く。

 

「こっちはこれで完了……残りは向こう次第か」

 

「時間的にはもう審査待ちだっけ?どうなったんだろ……」

 

友希那も大丈夫ならこれで後は当人たちのタイミングで……となって終わるからこそ気になる。

向こうは時間が来たら終わるまでは連絡が取れないと言っていたので、こちらが連絡を待つ側になっていた。

また、俊哉はリサから自分の呟きを発見した旨を聞いている為、貴之のことを考慮して連絡は自分へ回すようにと頼んである。

全国優勝を果たした貴之はこの後、雑誌の関係者から短時間ながらインタビューを受けることが決まっており、その間彼は連絡を取ろうにも取れないのだ。

貴之たちが台から離れた後、片付けと同時に賞状とトロフィーが用意され始めるので何故かと一瞬考え、それに気づいた玲奈がハッとする。

 

「あっ、表彰式……!あたし3位だから行かなきゃ!」

 

「ん……?あっ、俺もか!」

 

「俊哉、ちょっとの間携帯預かっとこうか?」

 

準決勝まで進んだ玲奈と俊哉の分も準備されており、二人は下に降りなければならない。

この為俊哉が連絡に出れなくなるので、大介の進言は非常にありがたかった。

 

「あいつら……表彰を忘れてどうするんだよ」

 

「というか、青山さんは地方もそうだったのに……」

 

俊哉は前回表彰に立っていなかったのでそのまま染み込んでしまったが、玲奈は素で忘れていた。

その様子に竜馬と弘人が呆れと苦笑を混ぜた呟きをすると、ごもっともだなと裕子は思った。

 

「貴之君、ようやく取れたんだね……」

 

「あいつ、これ以上なく笑っているよ」

 

三位の二人、準優勝の一真と順番に賞を渡され、最後に貴之へは賞と共に優勝トロフィーを送られる。

そのトロフィーを受け取った貴之は、夢が叶ったのもあり普段以上に目を輝かせた笑みをしていた。

また、貴之がトロフィーを受け取った瞬間には「やったな貴之!」、「ナイスファイト!」、「おめでとう!」等々彼の奮闘を称える言葉と拍手が送られる。この場にいる者たちは貴之と交流のある者や経歴を知る者が多く、いつしか栄光を掴むと思って待っていた時間が来たのも大きかった。

 

「(友希那……俺は掴み取ったぞ!)」

 

このトロフィーを手にしたことは、貴之に取って今後の人生を大きく決定づけるターニングポイントであり、別の場所で戦う友希那たちに最も胸を張って自慢できる出来事となった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

《エントリーNO.11――Roselia。受賞したバンドは以上です》

 

『(と、通った……?)』

 

周りの人たちが安堵していたり盛り上がっていたりする声をBGM代わりに、Roseliaのメンバーは暫し硬直していた。

確かに、実力自体は集まったバンドの中でもトップ争いに参加するものを持っているし、今回のコンテストにあたって可能な限りの練習はして来た。それは間違いない。

ただし、結成してからが非常に短い為、このような場所に来るとどうしても荒削りな場面が出てしまう()()()と考えていた。

そんなこともあり、五人は現実味を感じるのが遅れてしまっていた。

 

《講評を聞きたいバンドは後ほどお呼びしますので、控え室に残っていてください。他のバンド及び、来場の皆様は……》

 

「……聞いてみる?」

 

「ええ。私も気になってはいたから……」

 

アナウンスを聞いた段階で、リサに問われるよりも早く友希那の答えは決まっていた。

友希那のみならず、全員が気になっていたことなので、呼ばれるまでは控え室で待機をする。

 

《素晴らしい演奏だったわ。結成してから()()()()()()()にも関わらず、本大会で()()()()と……この場だからこそ堂々と言えてしまう》

 

そして自分たちが講評を聞く番が回ってきて、審査員の代表者である女性がその評価を告げる。

彼女から出てきた言葉に、自分たちの気になる部分があった。

日が浅くとも練習量が他のバンドと変わらない。そこは彼女も自分たちも共通の見解であることは間違いない。

 

「正直なところ、荒削りな面を理由に落選する可能性もあると考えていましたが……」

 

《……確かに、あなたたちの危惧はよく分かるわ。他のチームと比べて共に音を合わせる時間の短さは、こう言った大きな場面でこそ響いて来る……》

 

――ただ、不思議なことにあなたたちはその危惧していた荒削りな部分が全く見えなかった。女性からの言葉に五人は息を呑む。

 

《あなたたちの中にある、チームで勝ち取ろうとする意志と、互いに相手を想う気持ちと行動。そして前に行こうとする志……それらが完成度を引き上げたようね》

 

「(相手を想う……。それは間違い無く……)」

 

「(私と湊さんは筆頭ですね……)」

 

彼女の言った三点は自分たちの変化を表していることに気付く。

特に中心核の友希那と一人で進もうとしていた紗夜は特に変化が大きく、この二人が自覚しない要素など無かった。

 

「(前に進むって言えば……)」

 

「(やっぱり、私だよね)」

 

支えてもらった燐子と、彼女と最も距離の近いあこもそれに気づく。

明るく、堂々と話すようになった燐子を見た時、あこは一瞬別人みたいだと思ったことをよく覚えている。

 

「えーっと……」

 

《どうやら、約一名自覚の薄い人がいるわね》

 

「リサ……あなたこんな時までそうでなくても」

 

「い、いやぁ……だってアタシがああしてるのいつものことだし?」

 

リサのリアクションが薄かったので、女性も少々困惑気味だった。友希那に言われてリサも流石にそこは申し訳ないと思った。

FWFがただのフェスでないことを理解しているかの確認をしてから、女性は話しを進める。

 

《あなたたちは若く、ビジュアルもいい……きっと話題になるでしょうし、今出すのは勿体ないとも思っていたわ……》

 

『……』

 

これは彼女の前置きであることを五人は理解する。

こうして五人に話しをしている彼女自身も、『入賞』ではなく『優勝』でメインステージに行ってほしいと言う願いがあった。

 

《ただ、こうも簡単に『優勝』されてしまっては、もう通すしかない……と言うことになったの》

 

「……!」

 

Roseliaは初出場にして優勝を果たしていたのだ。ちなみに審査員の殆ど全員が彼女らに最も高い評価を入れていた為、文句なしに通せる結果となった。

 

《メインステージでは更に技術のあるバンドも現れ、そこでは思うように自分たちの音楽が通じない可能性だって出てくるでしょう……。こうしてメインステージへ送る以上、あなたたちにはただ演奏するだけでなく、自分たちが先へ進むためにそこに行く人たちの技術やチームとしての姿を学んでほしいわ》

 

――そしてまた来年、磨きを掛けたあなたたちの音楽を聴かせてください。彼女の激励にRoseliaの五人は笑みと共に頷いた。

 

「(貴之……私は掴み取ったわ)」

 

今現在インタビューを受けている貴之と同じく、コンテストで入賞を果たしたRoselia……特に友希那にとっては今後の人生を大きく決定づけるターニングポイントであり、貴之に向けて最も誇れる出来事となった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさかインタビューで一時間以上も食うとは思わなかった……」

 

「お前のやらかしたことを考えれば残当(とうぜん)だな」

 

全国大会優勝者として、歴代でぶっちぎりの最長時間を更新するインタビューを終えた貴之は商店街の近くにあるラーメン屋のカウンターで突っ伏す。

インタビューの平均時間である20~30程度のものを、ダブルスコアで更新してしまったのだから予想以上の長さに疲労感が溜ってしまったのだ。

ただ普通に優勝するならば長年の夢が叶っておめでとうとありきたりな感想等だけで終わったのだが、俊哉の言う通り貴之のやらかしたここ一番でグレード4の投入と制御に完全成功するという功績があったことで、何としてもその経緯を広めたいと長引いてしまったのだ。

また、このラーメン屋の選択は優勝者の貴之が気分で選んだのと、久々に思いっきり油っこいのを食べたいと言う玲奈のリクエストがあったことが起因する。

なお、ここにいるのは地方が違う都合上新幹線で帰郷した真司と裕子を省き、一真も混ざった七人である。

 

「しかしまあ、あんな光景を見れるとは誰も思ってなかっただろうな……」

 

「リアガードを全て追い払うなら、『ボーテックス・ドラゴン』もあったからね」

 

竜馬の呟きは最もで、弘人と大介を省き事情を知らなかった全員が同じ気持ちである。

今集まっている七人に『ヌーベルバーグ』を知らない人などいないが、まさか本当に使うとは思わなかっただろう。

また、弘人が触れた『ボーテックス・ドラゴン』も、実は非常に大きな働きをしていた。

 

「今回もこの中にいる相手以外で『ボーテックス・ドラゴン』を一度だけ使っていたから、僕はそちらに意識が回ってしまってね……。完全にしてやられたよ」

 

『ラオピア』との兼ね合いを考えたら、『ウォーターフォウル』以外には『ボーテックス』が鍵になるかもしれないと一真は考えていた。

更に言えば彼の場合は自分がグレード4を制御するに至った方法が方法なので、その考えが貴之も投入してくる考えを消し去ってしまったことも原因の一つとなる。

つまるところ、自分の制御方法を確立してしまった故に、貴之のあまりにも堂々たる諦めが悪い正面突破での制御を考えることができず、『ヌーベルバーグ』に対する対策を立てるのは真っ先に捨ててしまったのである。

地方における一回限りの隠し玉に、更に隠し玉を入れ込む。この二段構えが最後まで『ヌーベルバーグ』の存在を悟らせないに至ったのだ。

 

「最初見た時は正気を疑ったぞ……。何考えてるんだお前ってな」

 

「大介の立場になったら、あたしもそうなるかな……」

 

頭を抱えた大介を見た玲奈が同情する。

普通なら友人が行うその無茶を止めたいところだが、貴之の優勝に賭けた想いを知った場合、今回のように止められない可能性は跳ね上がる。

弘人の場合、この中で貴之との関わりが最も浅い為、そう言うところからくる遠慮が止めづらくしていたのもある。

 

「お前の優勝に賭けてた気持ちはわかるし、その為に何度も練習してものにしたのは分かる……。状況が状況だし、お前を止めるのは難しいからな」

 

彼の事情を最も知る俊哉が言葉を紡ぎだす。俊哉が難しいと判断するのだから、貴之に制止は掛けきれないだろう。

――けどな……。と続けながら俊哉は貴之の肩に手を置く。

 

「こういうのはせめて手伝わせてくれ……親友(ダチ)だろ?」

 

「……分かった。次からは頼らせて貰う……というか、お願いしたいくらいだ」

 

無理に引き留めるのでは無く、補助する。これが俊哉の決めたスタンスだった。

この方針であれば貴之も断らない理由はなく、寧ろ頼み込み、それを聞いた俊哉もならばよしと満足する。

そうして話しが決まったタイミングで全員分の注文が届き、腹も空かせているので早速食べ始めることにした。

 

「これで一旦エンドマーク……といいたいが、もう一個あるんだったな……貴之は」

 

「どうするんだ?友希那に打ち明けるタイミング。お互いにやることは終わったし」

 

「どうするかな……あれから碌にデートの一つもしてねぇんだよな……」

 

俊哉と大介に問われた貴之は悩んだ。互いに物事に向けて走っていたせいでそう言った時間が一回も取れないでいたのだ。

この話し自体、最終的に貴之から友希那に連絡し、互いに約束を果たしたのを確認したからこそ問題なく話せている。

後江でこれを話していれば何の問題もなく進んでいたが、今回は知らない人がいることを忘れていた。

 

「デートとか打ち明けるとか……お前ら何の話ししてんだ?」

 

「ああそっか……そういや話して無いんだっけ?」

 

竜馬に問われて俊哉は気づいた。このままでは完全に外野となってしまう人が出てくるのだ。

 

「実はこいつ……友希那のことが好きなんだよ」

 

「何でも転校の都合で一度別れることになったから一つ約束をして、それを果たしたら伝えたいことを伝えるって決めたらしくてな……貴之の場合は全国優勝だ」

 

「ちなみに友希那の場合はコンテストを通過してFWFに出場……。これをお互いに果たしたけど、まともにそう言ったことしてないって事態に気づいたわけなの」

 

「「「そ、そんな事情があったとは(のか)……」」」

 

後江組から説明を聞いた宮地組がようやく事情を理解する。

また、貴之がヴァンガードを始めたきっかけが初恋と友希那の歌であることから更に驚くこととなる。

 

「おいおい……かの『オーバーロード』使いとして名を馳せた先導者の始まりが初恋って予想外過ぎるぞ……」

 

「もっとこう……「イメージが爆発した!」とかの方が納得しやすかったかな……」

 

この反応に貴之は何も言い返せなかった。こう言った事情を知らない人たちからは大抵このような反応をされる。

――これが想像と現実の差ってやつなんだろうか……。貴之はそんなことを考えた。

 

「まあともあれ、どうやってそこまで持っていくかだな……」

 

「今日この後言っちゃうのが一番速いけど、それは空気的な問題で難しそうだよね……」

 

少なくとも今日このまま告白は難しい。それがこの場にいる者たちの見解となった。

ではどうやって持ち込む準備をしようかという話しだが、頭の抱えたくなる事態に陥る。

 

「「「(既に両想いだと言うのに、ここからやるのか……!)」」」

 

「「「……?」」」

 

もう既に思いっきり伝えても大丈夫なのだが、空気が大事。このジレンマともどかしさに頭を抱えた。

こうなったら流れに任せるしかないだろうか?そんな結論を出してしまいそうになる。

 

「考えてくれるのはありがたいが……やっぱ、そういうのは俺が話し持ち込んでちゃんと決めないとな。決まった時にちょっと手伝ってくれるか?」

 

そんな時に貴之から一つの申し出を出す。

俊哉の言ってた方向性とは少し違うものにはなるが、ここから頼んでみようと思ったことも大きい。

 

「そうだね。貴之たちで決めた方がいいよね」

 

「……そう言う事なら頼まれた」

 

「やるからには、当然成功だよな?」

 

「ああ。結果は伝えられる時になったらすぐ言うよ」

 

こうしてこの後はどうするかが決まる。

全国大会終わったのにもう新しく戦うのか……と思う宮地組の三人だが、こちらは余程下手なことさえしなければ問題無いので、後は友希那と貴之の裁量次第である。

後は貴之が頑張るべきことなのでこの話しは終わりにし、今日の大会や出会った真司と裕子のこと、そして今後のデッキ見直し等の話しに切り替わった。

 

「(今後もこうやって、友希那と一緒に階段を駆け上がって行けたらいいな……)」

 

皆と談笑しながら食べ進めて行く貴之は、そんな未来が訪れることを願った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで……Roseliaのコンテスト通過を祝しまして、乾杯~♪」

 

「乾杯~っ!」

 

「「「乾杯……」」」

 

貴之らがラーメン屋で夕食を取っている最中、リサの提案によってこちらもレストランにて夕食を取ることとなった。

この乾杯の音頭を取ったのはリサ、ノリノリで返したのはあこ。残った三人は落ち着いた様子で返した。

ここでノーリアクションをしない辺り、紗夜は自分がだいぶ変わったと思い、友希那は戻って来れてよかったと安堵する。

 

「お待たせしました。こちら……」

 

確かにコンテストを通過した祝いではあるが、やけ食いになるほどの量を頼んだりはしない。最初はアリだと思ったが、後が大変だから流石に辞めようとなった。

結果としてそれぞれが自分の分量に合うものを注文し、それぞれのペースで食べ始めることとなる。

 

「二人とも落ち着いて……いるわけないか」

 

「流石に今回は無理よ……念願が叶ったのだから」

 

「あの大舞台ですから、余韻が残らないはずありません」

 

表情では分かりにくいことのある二人だが、目元等を見れば熱っぽいのが分かる。

また、声音もほんの僅か……共にいる時間が短ければ気づけないくらいの変化があった。

特に友希那の場合は貴之とのこともあるから、この中の誰よりもその余韻は残るだろう。

 

「今日来る時はどうなるのかなって思ってたけど……結局あこ、全然気にしないで演奏楽しんでた」

 

「私も……今までで一番楽しんでたと思う」

 

あこと燐子が口にしたことは、この場にいる五人全員の共通認識と言える。

コンテストの舞台で思いっきり楽しんで演奏し、更にはメインステージに立つ権利を掴み取る。ここまで完全な形での勝利は暫く得られないかもしれないと考えさせてくれる程である。

 

「(今までは『日菜に負けない』という対抗心だけでやっていたと言うのに……本当に)」

 

自分が変わったな。と思っていた所で声を掛けられる。

誰かと思ってそちらを向けば、まだ10も行かない小さな少女が二人いた。

 

「……?私ですか?」

 

「あっ、はい……えっと、Pastel*Palettesの日菜ちゃんのお姉さんですか?」

 

――なるほど、そういうことね。日菜のいるPastel*Palettesがもう間もなくデビューするし顔も出ている。

そうなると双子の姉である自分に、こう言ったことを聞いてくる人は自ずと増えるだろう。現に目の前の少女も、日菜が言っていたことを気にして聞いてきたようだ。

紗夜がどう対応するのかが気になったリサが少々不安げに見てくるが、紗夜はリサの不安とは全く違う回答をする。

 

「ええ。そうですよ」

 

「「……!」」

 

紗夜は全く荒れる様子など無く、寧ろ目の前の二人を喜ばせてあげたいと言う優し気な笑みを見せて答えていた。

すると二人の少女は実際にいることを知れて喜び、紗夜に礼を言ってからその場を後にする。

 

「もう全然平気そうだね?」

 

「結局は自分がどう思うかだけですから……いつまでも気にしていられません」

 

確かに妹を通して自分を見てくる人は、今回のように少なからず現れる。しかも彼女がアイドルと言う目立ちやすい場所にいるのだから尚更だ。

大事なのは自分を一個人として見てもらえないから憤るのでは無く、誰が何を言おうと自分は『氷川紗夜(一人の人)』であると言う心を持ち続けることだと結論付けた。

少なくとも、知る限りでは10人以上も一個人として自分のことを見てくれる人がいるのだから、今はそれでいいのだ。

また、この直後紗夜が「この五人で今後もバンドを続けていきたい」と言ったが、「それは当たり前だろう」と言う旨で四人が返したことで五人揃って笑う。

 

「さて……友希那はこの後貴之に打ち明けないとね?」

 

「そ、そうなのよね……どうしようかしら?」

 

貴之らの方でも上がっていた話しだが、友希那と貴之は碌にデートの一つもしていないのにそれを伝えていいのかと言う疑問にやられていた。

リサも手伝うには手伝うのだが、貴之と友希那の双方における恋愛事情を把握している身としては何でこうなっているんだと頭を抱えたくなる。

確かに貴之の転校があったせいで遅れているのは確かなのだが、いっそのこと小細工無しでもいいのではないかとすら考えてしまう。

 

「リサ姉、友希那さんに何かあったの?」

 

「そう言えばこのメンバーで恋バナとか全然して無いんだっけ……」

 

――アタシも特にいないし、自然とこうなるのかな~?あこに聞かれたことで思い出したリサがそんなことを考えた。

友希那は自分が知っているから一旦置いておくとして、燐子は貴之と何か起きそうかと思えば無かった。紗夜は今までのことを考えて可能性がほぼゼロ。あこからもそんな話しを聞かないので、どうやら友希那を省いてRoseliaは恋に関しては縁が浅いようだ。

手伝う上で悩んでたし、たまにはこう言う話しもいいかも知れない。そう思ったリサは早速友希那に振ることを決めた。

 

「まあこの話しくらい、相談するつもりで行こうよ?」

 

「そ、そうね……」

 

リサの意図を理解した友希那は無駄にしたくないと言う思いもあるが、同時に恥ずかしさも出てきた。

これは後で伝えても良いだろうと思っていたが、後々問い詰められるか今問い詰められるかの差でしかないと割切ることを選んだ。

 

「じ、実は私……その……貴之のことが好きで……」

 

しかし実際に言うのは恥ずかしい。こうしてそれを打ち明ける友希那は顔が真っ赤になっていた。

それを聞いた三人はが数瞬の間硬直し、その後に反応を見せる。

 

「「「もしかして……この前のテスト勉強の時……」」」

 

「ああ~……そこで気づけたか」

 

「え……?えっ?」

 

思い当たる節はあった。実際二人で共に勉強している時は少々入りにくい空気を作っていたし、その後の夕食でも貴之と話す友希那の目は少々熱っぽいものがあった。

それをリサは確かにそこなら気づけるねと納得し、友希那はまさか気づかれるとは思わず若干混乱した様子を見せる。

 

「「(じゃあ……二人とも互いを?)」」

 

同じことを考えていた紗夜と燐子が偶然顔を合わせる。

あこには後で教えて上げよう考えてアイコンタクトで頷き合い、他の話しへ促していくことを決める。

 

「あっ、そうだ……友希那さんが髪を伸ばしたのは、貴之君への想いですか?」

 

「ええ。実際に聞いてみて……見てみたいって言われたから……」

 

話しを変えるべく燐子が真っ先に思い浮かんだのは、友希那が髪を伸ばした理由。一先ずネタバレして台無しにするのを避ける為だから、これは不味いと思わないものであれば思いつき次第話して行く方針だった。

――聞くタイミングを逃していたけど、覚えているかしら?恥ずかしさを紛らわすように自身の髪を弄る友希那は気になった。

ならそれを聞くためにも、どこか二人で出掛ける時間を作るべきだと纏まる。

 

「本当に全てを投げ出せるなら、私がバカなことをやっている間に想いを捨てる意味合いも兼ねて切ることも出来た……でも、私は捨てられなかった」

 

「それでよかったと思いますよ。そのおかげで、湊さんはこうして笑えているわけですから」

 

「と言うか、貴之さんとのことを考えたら、捨てた方が不味かった気がする……」

 

「うわ……あこの危惧通りになった未来を考えたくない……」

 

紗夜の言葉に友希那が礼を言う中、あこの言葉を聞いたリサが引きつった笑みになる。

帰ってきた貴之はショックを受けるだろうし、それが影響して友希那がスカウトを受け取ってしまったり、そもそも貴之の奮闘が消える可能性もある。

どちらも致命傷ではあるが、特に後者の場合は燐子と自分がそもそもバンドに入る為のアクションを起こさない危険性すらある為、本当にそうならないで良かったと心底安堵する。

 

「上手く行けば、貴之君の風評被害もどうにかできるかも……!」

 

「あれかぁ~……確かに、頑張れば止められそうだね♪」

 

後江は理解に努める人が多いから荒波は立たず、宮地はそういうのを気にせず学業に励む人たちの集まりなので問題無い。

ただし羽丘と花女はそうも行かず、貴之に関して色々と話しが飛び交っていたりする為、友希那と結ばせることができればそれも止められると考えたのだ。

一部は自分たちを手伝ってくれた際に増えてしまったものがある為、どうにかできないかと考えていたリサに取っては渡りに船な話しである。

 

「そう言えば、ちょっとだけ練習を控えめにしている時間ってありましたよね?」

 

「ええ。では、なるべくそちらの時間で踏み込めるようにしましょうか」

 

あこに聞かれた紗夜が早速予定を確認する。

そこからどうやって誘うのがいいのか、プランの立て方はどうやって行くべきかをリサが中心に話し出して行く。

貴之がいないのにそこまで決めてしまっていいのだろうか?と疑問に思った友希那だが、あくまでも一緒に行きたい場所等くらいだから大丈夫と言ってくれた。

流石にそれは友希那と貴之で考えるべきなので、必要以上に言うことは無い。互いに取っていつも通り過ぎる場所は避けようと言うくらいであった。

 

「(ありがとう。みんな……)」

 

自分の為にあれよこれよと考えてくれるのが、友希那はただ嬉しかった。

そして暫く話し込んだ後、長居しすぎたのでこのレストランは後にしようと言う話しが上がる。

 

「(貴之。私は今後も、あなたと一緒に登り詰めて行きたいと思う……)」

 

――あなたはどうかしら?友希那はそれを望んでいる為気にならないことはないが、一度それは置いて置き今後のことに目を向ける。

 

「さて……次は念願のFWFね」

 

「期間はそれ程残されてないし、しっかり休んだらやれることやらないとね……」

 

こんなに早く行けるとは思っていなかったので驚きはあったが、行けること自体非常に嬉しい。

しかしながら期間があまり長いわけでは無いので、今のうちにやることを済ませねばならないのも事実だった。

こうなると次も上手く行くかと言う保証はどこにもないが、かと言ってただ出るだけでは意味がない。

 

「まずは私たちがどんな位置にいるかを知る為にも、FWFでも最高の演奏をしましょう」

 

明白に目標を立て切ることはできなくても、自分たちがすべきことは分かる。紗夜の出した言葉にはそんな意味が込められている。

当然これに反対することはなく、全員が頷いた。

 

「さて……流石にもう時間かな?」

 

「メインステージもありますから、これ以上の長居は避けて、()()()()()()()()()()()

 

余裕があるならもう一軒行こうか提案しようとしたリサだが、紗夜の言う通り次があるから無理を言うのは辞めた。

体調管理をしくじって練習ができないとなったらそれは困る。だからこそそれに反対する人はいない。

 

「そうね。まずはメインステージに向けてやることをやっていきましょう……」

 

――仲良く話す時間なら、()()()()()()()()()()()()から……。友希那が涼しさと優しさを兼ね備えた笑みを浮かべながら告げた言葉だった。

そうして友希那が帰路に付き始めたので、彼女の言葉に同意した四人も笑みを浮かべて帰路に付く。

技術最優先と言う成り行きに近い結成をされたRoseliaには、確かな絆が出来上がっていた。




一先ずRoseliaシナリオの1章が完結となります。変更点としては……

・Roseliaがコンテストを通過し、メインステージへの出場を決める
・それに伴い審査員の人との会話、レストランでの会話内容が変化
・終わった後にレストランで食べたものが減量(やけ食いしてない)
・友希那は仲良くする選択肢を全面的に肯定している
・紗夜の少女たちに対する反応に優しさ増加
・友希那が恋心を打ち明ける

こんなところでしょうか。Roseliaが通過を決めた要因としては……

・スカウト案件の話しが当日に終わっている為、空白の期間が無い
・友希那を筆頭に、合わせようと思う心が強くなっていた

この二点が大きく響いていますね。
想定していた結果として四パターン程あり、その内の一つであるどちらとも大事な戦いに勝つを選択したのが今回になります。
残った三つは『両方とも負ける』、『どちらかが負ける』と言う『ここまで変わってるのにそこ変わらないのか』or『ここまでやった頑張りは何だったんだ』となり兼ねないので没となりました。
Roseliaメンバーに使わせようとして没になった『クラン』を使用してのファイト展開なら番外編で書くかも知れませんが、こちらは書かないでしょう。

アンケートの方ご協力ありがとうございました。結果的にどちらでも構わないとのことなので、こちらの裁量で決めていきたいと思います。

次回はようやく貴之と友希那によるデートイベントをやってこの章を締めくくります。
……恋愛タグ入れてるのに、碌に恋愛らしいことやってなかったのは本小説くらいでしょうね(汗)。
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