先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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予告通りイベントシナリオの『思い繋ぐ、未完成な歌』を書いていきます。
まずはシナリオ内のオープニングに当たる部分です。

また、これが今年最後の投稿になります。


ライド4 新しき幕開け

『じゃあ、私はそのまま行ってしまうわね』

 

「そうしてくれ。まだ間もないってのにごめんな」

 

新しい『イマジナリーギフト』を確認してから二日経った日の放課後。貴之と友希那は互いにそれぞれの行く場所が別方向な為、今回は途中まで一緒とではなく最初から別行動することを電話で話し合っていた。

ちなみに衣替えの期間になっており、貴之たちは夏服での学校生活を始めていた。

 

『大丈夫よ……だって私たち、その気になればいつでも会えるでしょう?』

 

「お前も堂々と言うようになったな……。でも、確かにそうだな」

 

何しろ家は互いに向かい側なので、泊まりに行こうと思えば簡単な準備をして直ぐに行けるし、顔を合わせて話したいなら五分もせずにその状況を作れる。その圧倒的に美味しい点を考えれば我慢することは思いの外容易い。

更には互いにヴァンガードとバンドの道がある為、忙しくなって二人だけの時間が取りづらくなるのは承知の上でもある為、長い時間引きずることは無い。

 

『それじゃあ時間もあるから、そろそろ切るわね。また後で会いましょう』

 

「ああ。またな」

 

「悪いな……わざわざ頼み聞いてくれて」

 

「いいさ。友希那との時間を作るのを意識しすぎて、親友(お前)の頼みを聞けねぇんじゃ本末転倒だしな」

 

電話を切った直後に今回自分に頼み込んで来た俊哉が一言謝って来たので、貴之は本心で返す。

実は友希那とデートする約束を漕ぎ着ける直前の帰り道、俊哉にはどこかで『ヌーベルバーグ』を使いこなす為に通っていたカードショップに案内して欲しいと頼まれていた。そして今日から友希那たちがFWFのメインステージに向けて本格的に忙しくなる為、丁度いいと思って今日行くことにしたのだ。

ちなみに大介は竜馬と弘人の二人と共に集まる予定が、玲奈は一真と顔を合わせに行く予定だった為、今回は二人で行くことになる。

 

「こんな場所があったんだな……知らなかった」

 

「元々別の場所にあったのが引っ越して来たんだ。こっち来て開店したのは地方が終わった直後ってのと、同じ名前の店が無いことが知名度を下げてるのかもな」

 

――大介や友希那を紹介しない限り、俺と一真以外殆ど誰も来ない店だったからな……。そんな貴之の呟きに俊哉は一瞬混乱する。何をしたらそこまで目立たないんだと、そう思わずにはいられなかった。

俊哉がどんな場所なのかと気になりながら、貴之は久しぶりだと思いながら『レーヴ』のドアを開けて入店する。

 

「あっ、いらっしゃい。久しぶりね」

 

「全国大会の直前ぶりでしたね……お久しぶりです」

 

ドアを開ければ瑞希が声を掛けて来たので、貴之はそれに返す。

全国大会の後は友希那と出かけ、家で大会後の休養を取り、新しい『イマジナリーギフト』を確かめていたので、ここには寄らなかったのだ。

 

「そっちの人はご友人?」

 

「どうも。俺は谷口俊哉です」

 

瑞希に聞かれたことを皮切りに、俊哉が秋山姉妹の三人と互いに自己紹介をする。

 

「あっ、友希那から聞いたよ。二つの意味でおめでとう……それと、私個人からはありがとう」

 

「ああ。俺からは二重の意味でどういたしましてだな」

 

結衣個人の意味はもう既に分かっていた。宣言した日から長くして、ようやく『PSYクオリア』を使う一真に勝って全国を取ったのだ。

確かに同じ力を使う人である自分には何度も勝利をしていたが、現役のファイターで能力使用者である相手に打ち勝ったことで本当の意味で結衣を縛るものは完全に解けた。

それ故の礼である為、貴之は素直に受け取る。

 

「二つの意味はまあ分かった……けど、個人ってのは一体?」

 

「貴之さん、教えてはないみたいですね?」

 

「そりゃおいそれと話せねぇ内容だからな……」

 

瑠美の問いに否を返す貴之のことは仕方ない。元々不用意に広めて良いものではないのだから。

ならばと、俊哉にも口外無用を約束してもらって教えることにした。

 

「谷口君、ユニットの声が聞こえたりしたことはあるかしら?」

 

「ユニットの声?いや、そう言ったことは無かったですね……。何か関係あるんですか?」

 

「そう言った事が実際にできる力のことを『PSYクオリア』と言ってね……」

 

俊哉は彼女たちから『PSYクオリア』の力と、身近にいる人の中では一真と結衣が保有者であることを知る。

話しを聞いた俊哉は簡単に話すことはできないのを理解し、どうしたいかは本人次第だろうと玲奈に近い結論を出す。

 

「んで、お前はそれの対策に『ヌーベルバーグ』を引っ張り出したと……。いくら友希那との約束あるからって、無茶にも程があるぞ……」

 

「も、もうああやってこそこそとはやらねぇから……勘弁してくれ」

 

もう既に釘を刺しているので、俊哉はこれ以上の追及はしない。しかしながら気になったことはあるので聞いてみる。

 

「でも、それならお前が使えてもおかしくは無いんだけどな……その辺どうなんだ?」

 

「相変わらず『PSYクオリア』を使える気はしねぇな……」

 

でも……と、貴之は前置きをする。俊哉から『レーヴ』の案内を承諾したのは自分が気になったことを聞けるかもしれないと思ったからでもある。

 

「決勝のファイトをしてる最中……正確には『オーバーロード』に『ライド』する直前から、『ヌーベルバーグ』に『ライド』する直前までの間、俺のファイトの答え合わせをするようにガイドラインみたいなのが見えてたんだ……」

 

「……それは全く違うやつなのか?」

 

「ああ。こんな現象体験した人を俺以外に知らねぇ……。瑞希さん。俺が体験した『PSYクオリア』とは別物の現象のこと、何か知ってますか?」

 

「いえ、調べて見る必要があるわ……書物の中に情報があったかしら?今すぐには無理だけど、分かったら連絡するわ」

 

それを知れるなら何でもいいので、貴之はお願いしますとだけ告げた。

 

「さてと、湿っぽい話しはここまでにして……貴之さん。ちょっと頼みたいことがあるんですけど」

 

「頼みたいこと?」

 

「実は……このお店だからできる試みを考えててね」

 

内容としては大会で実績を残した人の直筆によるサインカード、もしくはサインを記入した色紙を飾りたいと言うものである。

人があまり来ないなら、偶然寄った人が覚えやすいように何か用意しようと言う考えの下、これを頼むことにした。

 

「じゃあ……旧イラストの『オーバーロード』はあるか?俺はそれにサインを入れよう」

 

「それなら俺も手伝おうか?」

 

「いいんですか?どれにします?」

 

「なら俺は……現イラストの『ダイユーシャ』で行こう」

 

「分かった。じゃあ持ってくるね」

 

俊哉も準決勝で貴之とファイトしたこと、他ならぬ貴之と最も仲の良い友人と言うことで立ち位置と実力を兼ね備えているのは大きい。

結衣が二人に必要なカードとペンを渡す。また、ミスした時が大変なので練習用の用紙を近くに置いておいた。

 

「……よし、こっちで行こう」

 

「俺はこうかな?」

 

早い段階で決まったのは貴之で、カードの左上の方に『イメージは力になる!』の一言を入れ、右下の方に自分の名前を記入する。

この時テキストと被らないように配慮をしており、色合いが被って見づらいなんてことがないようにペンの色も問題ないものを選んでいた。

俊哉は左下の方に『勇者降臨!』と一言を入れ、右下の方に名前を記入した。こちらも貴之と同じようにテキストと色合いの配慮は忘れていない。

 

「二人ともありがとう」

 

「いえ、俺たちでよければまた手伝いますよ」

 

「あっ、こいつの枚数足りなかったんだよな……これ買っていきますね」

 

帰り間際、デッキ編集に枚数が気掛かりだったユニットを見つけた俊哉が必要枚数分を買っていき、『レーヴ』に久しぶりの潤いがやってきた。

夏になっているから日の出ている時間が長くなっており、外に出た時に日は沈み切っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日はここまでだね」

 

一方で貴之と俊哉が『レーヴ』を後にした頃、Roseliaも練習を切り上げていた。

メインステージで歌う曲を何にするかを決めるべく、今回は少しだけ時間を残して片付けを始めている。

 

「最後の一曲は特に上手く行ってたんじゃない?」

 

「だよねだよねっ!前よりぜんぜん上手く叩けるようになったって実感できてたんだ~」

 

「コンテストを通過できて、自身が付いたのかも……」

 

燐子の言った通りコンテストを通過できたのも影響しているが、練習の成果も大きく上達に貢献していた。

特にこの三人はRoseliaに参加するに当たってハードな練習に耐えて来たので、尚のことである。

 

「上達を喜ぶ分には構いませんが、目指す場所に向けての改善点はまだまだありますから、気を緩めないでくださいね」

 

「考え方としてはどちらも間違っていないわ。ただ……そうね。組んだ頃から見れば大分良くなっているから、気を抜いてダメにならないように気を付けて行きましょう」

 

三人の意見も、紗夜の意見も、どちらとも間違っていない。故に友希那が出すのはどちらも肯定している纏め方だった。

 

「さて、メインステージでどれを演奏するか決めましょう」

 

「私たちが()れる曲は三曲……。一応、今回は運営側の意向でカバーも認められていますが……こちらはあまり考えなくてもいいでしょう」

 

一つ目はRoseliaの演奏による雰囲気の基本形に等しい『BLACK SHOUT』。二つ目はヴァンガードをテーマとし、Roseliaの意外な一面の象徴でありもう一つの基本形と言える『Legendary』。三つ目はそれぞれが向き合うべきものに目を向け、新たに進みだした証明となる『Re:birthday』。この中から選ぶ事になる。

カバー曲は余程のことが無い限り選ぶ理由がない為、現状は無視してしまうことにした。

 

「はいは~い!あこはいっそのこと、思い切って新曲やっちゃうのがいいと思います!」

 

やはりこの三つから選ぶのが妥当だろう――。そう思っていた矢先に早速あこから予想外の提案がやってきた。

確かに思い切ってやってしまうのもありではあるが、問題点が無いわけでもない。

 

「それを必ずしも悪いとは言いませんが……作曲も考えると厳しいでしょうね」

 

「後三週間ですからね……ちょっと、時間が足りないかも……」

 

新曲を作るに当たっての問題は間違い無くここにある。『BLACK SHOUT』と『Legendary』は結成以前から少しずつ作っていた、『Re:birthday』は明白なテーマがあったので時間はそこまで掛からなかった。

しかし今回は明白なテーマも無ければ、時間も短い。故に完成させても練習の時間が足りないか、そもそも間に合わない可能性が高い。

ただ。時期的にはそろそろ用意してもいい頃合いではあるので、落ち着いたら作ろうかとも考えた。

 

「まあやってみたい気持ちはわかるけどねぇ~……ちょっと難しいか」

 

「流石に三週間で一から……と言われたら間に合う気がしないわ」

 

しかしながら今回はその落ち着いた状況ではないので、そういうわけにはいかないだろう。

Roseliaのリーダーであり、曲作りの主力でもある友希那からの判決が下り、流石に諦めるしかなさそうだとあこは考えた。

少し先になるものの、この友希那の言葉がリサに一つの考えを浮かばせることとなる。

 

「実際に断念するかは置いておくとして……何を演奏するのがいいか、それを次の練習までにみんなで考えておきましょう」

 

時間内に決まらなそうなので、決まらなそうならその時は新曲も考慮すると言う旨を伝えて今回は解散となった。

 

「(ただ、選択肢が足りないような気がするのは確かね……)」

 

――帰ったら、何か使えそうなものがないか探してみましょう。友希那は選択肢の増加を図るべく、行動を決意した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……演奏する曲、ね」

 

新曲は三つの中から決まらなかった場合の最終手段として留めておき、まずは三つの中から決めてみることにする。

そうするのは良かったのだが、『BLACK SHOUT』はチームの曲として無難だがそこまで、『Legendary』はRoselia以外に先導者(貴之)の要素が強く混ざっていて出しづらい。Re:birthday』はコンテストで演奏したばかりなので同じ曲の繰り返しに思われやすいと言う難点がそれぞれにあった。

それぞれの難点が悪い意味で混ざり合ってしまい、中々決めることができないでいる。

 

「(一度参考に使えそうなものを探しましょう……。決めるのはその後で)」

 

頭を切り替えた友希那は押し入れの中に、以前演奏した曲のスコアがあることを思い出してそこを探し始める。

 

「確かこの辺りに……あら?」

 

あったはず――。と繋がるはずだった言葉は、予想外の物を発見したことにより遮られる。

友希那はその原因のものを手に取った。

 

「カセットテープ?どうしてこんなところに……?」

 

疑問に思った友希那は、カセットテープに貼られているシールに書かれている字を注視してみる。

少しの間確認すると、その字が自分の父親のものであることが判明する。

――何かの拍子に紛れ込んだのかしら?自分が音楽を諦めたと同時に殆ど処分してしまっているので、恐らく元からここに入れてしまっていた可能性が高い。

 

「(一度聴いてみましょう……何か掴めるかもしれないわ)」

 

友希那はそのカセットが使えるカセットテープにセットし、再生してみる。

そして、そこから流れる音楽に惹きつけられるのであった。

 

「(激しいシャウト……間違いない、私は心を揺さぶられている……!それと、この声……お父さんのものよね?)」

 

カセットから流れてきた音楽は、父親が以前まで組んでいたチームのものだった。

歌と楽器による音の合わさり具合や、技術力の高さを伺え、それが友希那に先を聴きたいと思わせる。

また、ただ技術力が高い以外にも、その歌声から伝わってくるものがあった。

 

「(すごく楽しそうな歌声……。この曲からは音楽への純粋な情熱が伝わってくる……)」

 

生き生きとした歌声は、インディーズ時代の頃に作られたであろうことが伺える。

自分の父親の歌は、売る為の曲になってしまったことで熱を落とし始めてしまっていたが、まだそうなっていなかったインディーズ時代のものは熱で満ちあふれているのだ。

その熱をカセット越しに歌で伝えられたことにより、友希那の中では一つの欲求が現れる。

 

「この曲、私も歌ってみたい……」

 

友希那の中に現れた欲求はメンバーの意向次第と、父親から許可を取れるかで決まる。

正直なところ、この二つは聞いてみなければ分からないが、条件をクリアした場合はメリットが大きい。

何しろ曲選びで路頭に迷っていた為に新曲を考える手間が省け、今までの曲を選ぶ袋小路に戻る必要も無くなるのだ。

今までの曲と比べて更にハードになってしまうものの、これを演奏できるようになれば、今後更に多くの曲に挑めることにも繋がる。

後は一つだけ、引っ掛かるところがあるのでそこ次第になるのだろう。

 

「資格……それが与えられるものでは無いのは確かね」

 

代表例は、貴之が試練を乗り越えて『ヌーベルバーグ』の完全制御に至ったことだろう。あれは痛みと言う試練を乗り越え、『ヌーベルバーグ』を自在に使える資格を()()()()()ものだ。

今回の場合は自分が感じ取った、音楽への純粋な情熱を表現できるかどうかだろうと思える。今の自分の歌でそれができる自信は無いが、どうすればいいのかは何と無く分かる。

この曲を()るだけの技術が資格だと言うのなら、練習を積み重ねて勝ち取ってしまえばいいのだ。そう考えれば後は話しを切り出すだけである。

 

「(まずはみんなに聞いてみましょう……。歌いたいかどうかが分からなければ、許可を取っても台無しになってしまうから)」

 

歌うかどうかを決めてからで無ければ話しを持ちだせないので、まずはRoseliaのメンバーに確認を取ることを決める。

また、父親から許可を得る際には、気になったことを聞いてみるつもりでいた。

というのも、この前一人で抱え込んだ結果スカウトの件が起きてしまっており、それで貴之共々リサに咎められたばかりなのだ。流石にこんな早くに繰り返すつもりはそうそうなかった。

 

「(お父さん……どう答えるのかしら?)」

 

実際に聞いてみなければ分からないし、そもそもそれを聞く機会が訪れるかどうかも分からないところだが、友希那はそれが気掛かりであった。




一先ずオープニング分が完了です。ちょっと短めかもしれません。
変更点は……

・次のライブでは無く、メインステージに向けての練習
・三人と紗夜の考え方に対し、友希那は紗夜側ではなく両方取り
・『資格』に関して、友希那は一人で迷うよりも誰かに聞いてみようと考えている

こんなところでしょうか。恐らくメインステージ当日まではこう言った変化が続いて行くと思います。
また、前半で決勝戦のファイトで発動した貴之の能力に関して探りを入れるシーンを混ぜておきました。これはこの章の間に明かせなかった場合、次章に持ち越しの予定です。

次回はそのまま一話~二話、場合によっては三話まで進むと思います。
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