前後半に別れたものとなり、今回はその前半となります。
「と、言うことがあったんだ……」
「なるほど……なんか、悪かったな。ただひたすらに進んでたらいつの間にかこうなってた」
紗夜を意識してから次の週になった朝のHR前。俊哉は当時の経緯を貴之に話した。
貴之の詫びを聞いて、終わった話しだから気にするなと返した俊哉は、改めて紗夜に止めて貰って良かったと思えた。
突き進んでしまったら間違い無く意識するし、自分が原因で友希那との関係に亀裂が走ったりなどしたら、もう取り返しがつかなくなっていただろう。
「続けるけど、その日以降ずっと気になってたことがあってな……」
「どんな内容だ?」
貴之に促され、俊哉はその後のこと……正確には別れる直前からのことを話した。
懐かしのゲームで模索したのはいい。そして答えを見つけたのはいい。俊哉が一番聞きたいのはそれより前、紗夜の笑みを見てからの妙に意識してしまう自分と胸の高鳴りである。
ここで貴之を頼った理由として、クラスメイトどころか家族以外の知人で最も対人経験が豊富だからに他ならない。
自分の心境をしっかりと伝えるべく、まずは話し、問い返されたらそれに答えるをして行く最中、貴之は頷いたりしながら真剣に話しを聞いていく。
「これが何なのか今一分かんなくてな……。お前なら何か知ってると思って聞いてみたんだ」
「そうか……何気に俺らの周りでそう言う経験があったのは
俊哉が真剣に悩んでる表情を見せるのに対し、貴之は腕を組みながら少しずつ笑みをまして行く。
ただしその笑みは愉悦を感じているものの笑みであり、普段とは明らかに違う意味合いであることを意識させる。
また、聞き逃せないワードを発しており、俊哉はそこに突っこんでいくことを決める。
「お前と友希那だけ……?おいちょっと待て、と言うことはだが……」
「まあ、つい先日って話しだから確証は持てねぇけど……」
──お前も人のこと言えなくなるかもな?貴之にはっきりと言われた俊哉は面食らった。
だが、貴之の立てた結論を否定したいとは思っておらず、寧ろ肯定したいと思っている自分がいることもまた事実であった。
「おっ?なになに?何か新しい恋物語でも始まるの?」
「まだ確証は持ててないけどな。と言うか、お前はそう言うの本当にないよな……未だに何も無いのか?」
玲奈に食いつかれたので確認するように俊哉も返すが、彼女はそれを肯定で返して来た。
──男に囲まれた空間に慣れ過ぎて、新鮮味を失ってるんだったら俺らのせいだな……。貴之と俊哉、そして大介の三人が同時に同じことを考えた。
「俊哉でようやく今の段階ってことは、俺と玲奈はまだまだ先っぽいな……」
「これは俊哉もそうだが……お前らの場合第一印象で十分なもの持ってるし、後は自分か相手側から切っ掛けを作れればいいと思うんだけどな……」
経験を持たぬ故に出した大介の推測に、貴之は腕を組みながら真剣に考えた答えを出す。
実際この三人が第一印象で悪影響を及ぼすような顔つきなどしていないので、本当に俊哉のように何らかの切っ掛けさえあればいい筈だ。
また、貴之の場合は地方での切っ掛けがあった玲奈はどうなっているのかが気掛かりなところであった。女子とファイトすることに飢えている結果進みが遅れていそうではあるが、そろそろ何らかの進展があってもよさそうである。
「あれ?遠導君、恋愛面での先導者になるの?」
「それならちょっとお話しさせてもらってもいいか……?」
「お、お前ら……そう言うのはいいが、俺のはあんまり参考にならねぇぞ?」
会話の内容が珍しかったのでクラスメイトたちが食いついてきて、貴之は脱力した様子で念押しする。
それでも構わないので聞きたいと思った人が聞こうとした時、朝のHRの始まりを告げるチャイム音が聞こえ、それはまた次の機会に伸びることとなった。
* * *
その日の夜。青い髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ一人の青年が、商店街を歩いていた。
目的地はしっかりと決めているようで、足はそれなりに早かった。と言うのも、時間が時間なので目的の人物がもういない可能性も示唆されるので少し急ぎ気味であった。
青年が歩いている内に辿り着いた場所はカードファクトリー。ここに数ヶ月前からかなりの頻度で顔を出すようになったファイターに用があったのだ。
「(さて、まだいたりするか……?)」
その人に用が無ければ入る気はないので、外から確認していく。
しかしながら、探してもその人の姿は見当たらなかった。
「ダメか……こりゃ休日来た方が良さそうだな」
「……あっ、あの人今日も来てるね」
「様子からして、人を探しているみたいだけれど……あれでは見つからなそうね」
そしてその光景を、友希那とリサは度々目撃することがある。
幸いにも、友希那とリサはファクトリーに入ることのあるファイターたちの一部とは連絡先を交換する程交流を得ているので、人探しに協力することはできる。
それ以外にも、このまま放置していると自分たち以外の何も事情を知らない人が見つけた時、どうなるかが怖いと言うのもある。
二つの理由から、思い切って青年に声を掛けて事情を聞いてしまおうと言う結論に至った。二対一で、大きな声を出せば人がすぐ来れるような場所で自分たちはよく声を通せる方であることから、初めて判断することができた。
「あの~……すみません」
「ん?」
声を掛けられたことで青年は振り向くものの、もしやと感じて冷や汗が流れる。
──こういう時は、素直に話した方がいいんだろうけど……どう伝えるかな。悩んでいたのは束の間、彼女らの方からありがたい話しがやって来た。
「人を探している様子が見えたので、誰を探しているかを聞きたくて声を掛けました」
「アタシたち時々ここに来ることがあるから、もしかしたら手伝えるかも知れなくて……」
「な、なるほど……それは助かったよ。俺はてっきり通報勧告かと思ってたから」
──次からは思い切って中に入って聞くことにしよう。今回の経験を胸に、青年は反省する。流石に就活を終えたばかりでお縄に掛かるのだけは勘弁願いたいところであった。
しかしながら、彼女らの申し出は非常にありがたいので、青年は思い切って頼らせて貰うことにした。
「俺が探している人は、数ヶ月前からまたここに来るようになったって人でね……遠導貴之って言うんだけど」
「「……えっ?」」
上がって来た名前に友希那とリサは驚く。まさか自分たちの幼馴染みを探している人だとは思ってもみなかったのだ。
その様子を見た青年は、「彼に俺の名を伝えたら分かるかも」と言い、名を教えてくれた。
「俺は
「ええええっ!?」
「ま、まさか一度も顔を合わせられていなかっただなんて……」
その名を聞いて、何故青年──耕史が貴之を探していたのか、昔に何度か話しを聞いていた友希那とリサは理由を察した。この人は貴之と一番最初にヴァンガードファイトをした相手であり、貴之のファイトスタイルの確立に一躍買った、彼の道を語るうえで欠かすことのできない程の超重大人物である。
ちなみにどうして会えていないのかを確認してみると、就活や講義と言う如何にも大学生らしい理由がやって来たので心中お察しする。
少し落ち着いたとは言え、いつまた多忙になるかが分からないので早い内に顔を合わせておきたいらしく、耕史と連絡先を二人とも交換しておき、貴之に教える許可を貰っておく。
また、耕史もわざわざ手伝って貰った礼として、顔を合わせる際は来ても構わないことと他の人を呼んでもいいことを話した。
* * *
「……なんだって!?耕史さんが俺を!?」
その日の夜。遠導家で話しを聞いた貴之は案の定食いつくような反応を見せる。
この反応自体、それを伝えた友希那は仕方ないと思っている。何しろ今の自分を築き上げる上で根底を作ってくれた恩人なのだ。
全く会えなかったので、流石にもう忘れられてしまったのかもしれないと考えていたところにこの話しは、この上ない程の朗報であった。
「空いてる日を聞いて来たのだけれど……貴之はこの中で大丈夫な日はあるかしら?」
「どれどれ……ちょっと見せて貰っていいか?」
友希那が携帯電話で用意したメモを見せてくれるので、貴之は自分の予定と照らし合わせる。
ひと段落しているなら、そろそろ短期バイトはどうかと小百合に勧められたこともあり、早めに会うのが望ましいと考えていた。
「なら、この日かな……お前らは大丈夫そうか?」
「この日は空いているわ」
「アタシも大丈夫だよ♪じゃあ、連絡は貴之に任せちゃおっか」
今日は両親が出掛けてしまっていることから、リサも遠導家に泊まらせて貰っている。友希那は週末だったことから予めそうする予定を伝えてあった。
全員問題無しなので早速日程が決まり、連絡先を教えて貰った貴之が電話を掛ける。
二、三コール音が鳴った後、当時と然程変わらない声が聞こえた。
『もしもし、雨宮です』
「夜分遅くに失礼します。遠導ですが……」
『ああ、貴之か?五年とちょっとぶりだったな……元気にしてたか?と言うか、やっぱり声変わったな』
「そりゃもう……こちらこそ、お久しぶりです。流石に高校生ですからね……声も変わりますよ」
電話越しとは言え、久しぶりの再会を喜ぶ。耕史の方は貴之がここを離れる頃には高校生であった為、既に声変わりは終わっている。
時間的に夜も遅いので、一先ずどの日が大丈夫かを伝え、合う時間を友希那とリサにも確認を取って決めていく。
ちなみに電話している時の貴之は、兄と仲良く話しをしている弟のように見えた。
『さて、夜も遅いしここまでにするか。また会おう』
「はい。それじゃあまた」
──またファイトしましょう。その口約束を最後に、今度こそ電話を切った。
早速デッキを確認しようとして、友希那とリサが微笑ましいものを見ている目をこちらに向けていた。
「お、お前ら急にどうした?」
「いえ、貴之にもそう言う顔をする時があるんだと思って……」
「ホントにね。こう言うところ見れると、アタシたちと同い年だって改めて実感できるなぁ~♪」
貴之が普段頼りがいがあり、対人経験の影響で精神的にも一歩先を進んでいる面が強いため、時折彼が年上なのではないかと思うことは度々あった。
しかしながらこう言った面を見ると、やはり自分たちと同い年であることを再認識できる。これ以外にもヴァンガード関係のことをしている時や、友人たちや友希那と他愛のない話しをしている時も該当する。
「でもそうだな……耕史さんと話してるとさ、俺に兄さんがいたらあんな感じなのかなって思うことがあるんだ……」
──今となってはないものねだりだけどな。こちらを離れて久しく貴之はこの発言をした。
ちなみにこの発言をした時、拗ねることのあった相手が一人だけいる。
「前は私……その言葉聞いて凄いショックを受けてたなぁ……」
「俺もあの時、本当にどうしようと思ったからな……父さんと母さんがいなけりゃ危なかった」
それが小百合であり、自分は頼り無くてダメなのかとショックを受けていた。
当時上手く説明できなかった為、両親がフォローに回ってくれなければ、本当にどうしようも無かったのだ。
ただし、この経験とその後の姉弟関係の築きは無駄にはならず、最近では紗夜の悩みに答えることに一躍買っている。
「それはそうとして……何をしようとしてたの?」
「耕史さんとファイトする時、どういうデッキがいいかを考えようとしてた」
何しろ彼は自分のヴァンガードの道における起点を作ってくれた、最大の恩人である。それ故にどういう形で戦おうかを考えようとしていた。
案は二つあり、一つは初めてファイトした時のデッキを再現してファイトする。もう一つは次の自分が目指す場所に向けて作った今のデッキを用いてファイトするだった。
そこで一番大事になるのは『耕史がどちらを望むのか』にあり、過去彼とファイトをして交流を重ねた貴之は記憶を頼りに答えを導き出す。
「耕史さんのことだ……今のデッキで行った方が喜ぶな」
「なら、もう決まりね?」
「ああ。今の俺にできる最高のファイトをしに行くよ」
方針が決まったことで、気にすることは無くなった。
その後は当日に想いを馳せながら、また三人で他愛のない会話をした後に睡眠に入るのだった。
* * *
「そう言えばさ、初めて会った時はどうだったの?」
「父さんと二人でファクトリーで『かげろう』のデッキを買った直後に、向こうから声を掛けられてな……。向こうは他の友人来るまで暇、俺はファイトしてみたいけど相手がいないってので、お互いに問題の解決になるから父さんが見てるのを条件にファイトしたんだ」
約束の日となった当日、気になったリサの問いかけに貴之が答える。
何しろ当時の貴之は小学生で、耕史は中学生だった。それは流石に貴之の父である孝一が目を利かせるのは仕方ないことであった。
貴之が誘いに乗ったからこそ今の縁があり、貴之のファイトスタイルがあり、引いてはヴァンガードの世界にのめり込む切っ掛けになり……と、何気に貴之のヴァンガードファイターとしての道ではこの上ないほど重要なターニングポイントであったりする。
また、これ以外にも貴之の打ち込むと言う決断が、友希那に貴之と互いに知りたいと思わせる切っ掛けになったり、俊哉や玲奈との縁の始まりが出来たり……と、これまた友人関係やその他諸々も関係しているので、耕史の存在は貴之に取って本当に大きな存在である。
「なるほど……そうなると、貴之に取っては広い意味で先導者なのね」
「ああ。でも……俺がこう言うことをしたいって意味ではやっぱり……」
──友希那、俺にとってはお前が先導者だ。それを聞いた友希那が嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
ちなみに、リサは友希那の顔を覗くようにニヤニヤとした目線を送っていたので、それに気づいた友希那が慌てて止めようとする。ちなみに顔は赤いままだった。
「貴之、いつもよりソワソワしているわね?」
「そりゃ、俺の恩人と久々に顔を合わせるし、ファイトもするしな……こればっかりは落ち着かねぇよ」
完全に図星だったこともあり、貴之は照れた笑みをしながら頬を指でなぞる。
やはりそう言うところも貴之が同年代であることを思い出させてくれ、自分を赦すような優しい笑み以外にも少年相応の笑みが見れて友希那は嬉しくなる。
そうして惚気が始まりそうになると「ご馳走様です」と、両手を合わせるのはリサであり、リサの方に何か変化がない限りはこれがよくあるパターンになっていくのだろう。
「さて、着いたな」
「縁の始まりの場所ね」
「何というか、色んな人がここから結構な物をもらってるね」
待ち合わせ場所にしたのはファクトリーであり、ファイトもするのだからそれならここにしようと満場一致で決まった。
顔を合わせる相手が相手で、五年以上もあっていなかったのだからどうしても緊張してしまう。その為貴之は一度深呼吸して落ち着かせる。
緊張感をほぐした後は一度友希那とリサに大丈夫な旨を告げ、出入口のドアを開けた。
「いらっしゃい。って、遠導君?今日は講習会じゃないけど……」
「ああ、今日はここで人と会う約束してるんです。ファイトもですけどね」
昨日やったばかりなので思わず美穂が問いかけるも、そう言うことならと納得した。
店内を見渡して見るが、耕史の姿は見当たらない。
「ちょっと早かったか?なら、一旦場所だけ取って……」
「いや、そうでもないぞ」
待っていようと思った貴之の後ろから声が聞こえ、そちらに顔を向ける。
するとそこには耕史の姿があり、時間的には早過ぎず遅すぎずであったことを知らせられる。
「お久しぶりです。ようやくここまで来れました」
「久しぶり。それと優勝おめでとう」
互いに右手を出し合って握手を交わす。耕史も貴之も、互いの連絡先を知らないのでどうしているかは時折気になっていたのだ。
こうして二人が再会したのだから、野暮なことは言うまいと友希那とリサは見守る。
「二人とも本当に助かったよ。お陰で無事に今日を迎えられた」
「どういたしまして。アタシたちも、どうにかなって良かったです♪」
「気にかけていた人に会いたくなる気持ち、良く分かっていますから……」
この日を迎えることができたのは、友希那とリサが気づいてくれたからに他ならない。
二人も二人で貴之の恩人ならばと、手伝うのを惜しまなかった故にである。
「また会えた以上、話したいことは色々あるが……」
「その前に、一度ファイトしましょう。俺がどこまで進んだか、見せたくてしょうがないんで……」
「ああ。俺も見たくてしょうがなかったからな……そうしようか」
色々話すのはファイトが終わってから。意見の一致から空いてる台に移動して早速ファイトの準備を始める。
友希那とリサも見学させてもらうべくついて行き、友希那が貴之の。リサが耕史の隣りに座らせて貰う。
「(使い方は良く分かってねぇが……あれも使うつもりで行こう)」
自分が進んだものの全てを見せるべく、貴之は決勝の時に発言した能力の使用も試みる。
一真の言い分が正しければ、現状成立するのは『オーバーロード』である為、自分の三ターン目を意識しておく。
「よし。始めるか」
「はい。全力で行かせて貰います」
準備が終わった二人は互いに確認を済ませる。
「「スタンドアップ!」」
互いに掛け声が始まり、友希那とリサに意識を向けさせる。
「ザ!」
実のところ、貴之も始めてのファイトの時だけはデフォルトの掛け声をしている。これは耕史から己のファイトスタイルを確立するに至る言葉を、まだ貰っていなかったからである。
「「ヴァンガード!」」
二人がカードを表返すことで、懐かしき組み合わせによるファイトが幕を開けた。
貴之が最も最初に戦った相手であり、恩人である耕史と再会することができました。
彼の容姿は『機動戦士ガンダムSEED』の『アスラン・ザラ』がベースで、これをある程度大人びたものになります。
次回はこの話しの後半で、貴之と耕史によるファイトを行います。