最初に前日談をやろうという予定だったのですが、予想以上に筆が乗り過ぎてオープニングの1~3まで書き進んでしまいました(笑)。元々オープニングが短かったのと、展開の都合でオープニング2が省かれることになった結果ですね。
また、このサブタイトルの『パーティー○○』は、『ガールズバンドパーティー』から取りました。本章でこれ以上に相応しいサブタイってあるのかな?
パーティー1 先導者、CiRCLへ
「短期バイト募集してる所、私が探し出して見たよ」
「助かるよユリ姉。そっちも試験終わったばっかりだってのに……」
「いいのいいの。たまにはお姉ちゃんに任せなさい♪」
耕史との再会を経て一週間。夏休みが日に日に近づいてくる中、遠導家では小百合が集めてくれた資料を見ながらバイト先を決めようとする先導者の姿があった。
小百合が見繕ってくれた候補は郵便局と羽沢珈琲店、やまぶきベーカリーとライブハウスの一つである
互いに夏休みに補修を受けることが無くなったからこそ、こうしてのんびりと夏休みに備えることができている。そして、こんな時だからこそ小百合が己の頼り甲斐ある面を遺憾なく発揮していた。
募集要項に目を通して行く貴之は、一つずつメリットとデメリットを上げていく。
「(こっちは時間が縛られる……こっちは覚えるべきことが多い……)」
まず郵便局は時給が非常に高いが、自由にできる時間はほぼ無くなる。これはファイター生活を送る上では非常に致命的である。
羽沢珈琲店とやまぶきベーカリーは同じ接客業なので対人経験の多い貴之としては楽だが、雇い先が身内の中に行くので疎外感が強い。しかしながら、候補としては悪くない。
最後にCiRCL。ここは覚えるべきことこそ多いが、それを覚えれば貴之的には得できる要素が満載であった。
時間の確保は勿論、友希那とも時々会える可能性が高いし、それでいて彼女が咲き誇る舞台を知ることもできる。これ程好条件なものは無かった。
「CiRCL……行ってみるか」
「決まったの?履歴書はすぐに必要?」
「ちょっと待ってくれ。履歴書は……」
必要と言ったら取ってきてくれるのが分ったので、貴之はすぐに確認する。
すると履歴書自体は後日見せて貰うらしいので、今は不要となった。更に、ここは即日で面接を受けることが可能らしい。
「よし。じゃあちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい。上手く行くといいね」
小百合に見送られ、貴之はCiRCLへと足を運ぶのであった。
* * *
「(ここへ来るのは……確か六度目だったな?)」
外に出てから40分強程で貴之はCiRCLに辿り着いた。
今まで来たのは友希那の歌を聴きに行く、燐子を友希那たちの下へ案内する、Roseliaのファーストライブ、スカウト案件の救援、リサが不在での様子見、そして今回で六度目であった。
基本的には友希那が絡んだ理由でここへ来ていたが、こうして個人の目的のみで来るのは初めてだった。
「(さて、何が聞かれるだろうな……?)」
面接の質問に備えて作った引き出しを、頭の中で確認する。
バイトする動機は当然ながら備えておき、そこから何を聞かれやすいかを導いて行けば、答えは複数用意できる。
シフトに入るのはどれくらいの頻度かを聞かれれば、過剰過ぎない範囲である程度多くする。趣味に関しては自分の名で気づかれる可能性が高い為、ここは出る可能性が高いだろう。
その他の引き出しも確認を終え、心の準備を済ませてから入り口のドアを開けた。
カウンターに誰か人はいないかと思ったが、タイミングが悪かったのか今は一人もいなかった。
「……?ちょっとタイミングが悪かったか?」
「ごめんね?もしかしてスタジオの予約に来たのかな?」
カウンター前で声を掛け、ダメなら一度時間を改めようと思った貴之だったが、後ろから若い女性の声がしたのでそちらへ振り向く。
そこには以前、リサが不在の際にカフェのカウンターにいた女性がおり、貴之は「まりなさん」とあこが呼んでいたことを思い出す。
「いえ、実は短期バイトの募集を見て面接を受けに来ました」
「なるほど……そう言うことならこの時間は人も少ないし、やっちゃおうか。こっちについて来て」
まりなに促され、貴之はスタッフが使う休憩室に案内される。もしかしたら、面接に使いやすい場所はここぐらいなのだろうか?そう貴之は考えた。
複数あるテーブルの内一つを挟むようにそれぞれの椅子に座り、貴之は履歴書関連のことを先に説明しておくと、了解の旨をもらえた。
「それじゃあ、面接を始めて行くけど……最初に通っている学校名と名前を教えてもらっていいかな?」
「はい。後江学園に通う二年生で、遠導貴之です」
やはりというか、この質問は完全に予想通りであった。この質問が来ない場所などは基本的に存在しない。名を知らねばどうしようもないし、学歴が少ないとそこで弾く必要が出てくるからだ。
CiRCLのバイト募集対象は高校生か大学生である為、貴之はそこをクリアできていることを確認された。
次にバイトをする目的だが、貴之は社会勉強と答える。友希那に会える確率が高いのはそうだが、第一の理由はやはりこれである。
第二の理由としては自分が使えるお金を働く形で増やすであり、両親の振り込みのお陰で不自由にはして無いが、いつまでも頼りっぱなしと言うのは良くないと感じていた。
基本的にバイトである為、余程酷い答え無しでしっかりと答えていれば基本的には採用されやすく、この段階で貴之はほぼほぼ問題なかったりする。機材関連のあれこれは働きながら覚えて貰う方針で、技術に左右されないことも起因する。
「あっ、そう言えば遠導君の名前ってどこかで聞いたことあるんだけど……何か習い事とかやってたりするのかな?」
「習い事は特にやって無いですね……。聞いたことがあるとすれば、趣味であり、打ち込んでやっているカードゲームのヴァンガードだと思います。今回の全国大会で無事優勝を果たせましたので」
貴之の回答にまりなは思い出したように納得する。聞き覚えがあったのは確かに、かの最も遊ばれているカードゲームでだった。
CiRCLは貴之が普段活動するファクトリーが最も近いカードショップであり、そのおかげで貴之の近況が伝わりやすいのも影響している。
更に言うと、時々Roseliaのメンバーから彼の名が上がる時があるので、聞く機会はいくらでもあるのだ。
「なるほどね……なら、次はどうするか決めているの?」
「次は……自分本来のやり方で優勝しようと思っています。もっと上の大会や、別の大きな大会があるならそっちでも勝ちたいです」
貴之は既に次の目標が決まっている人物であった。また、この回答から来る向上心は大変好ましい印象を与えた。
この他にも成績を聞いてみると、一部に得意項目があり、その他は平均的であるのを聞いた為、この点も問題無しであった。
今回は短期バイトなのであまり気にしないが、これは『バイトしていたら赤点取りました』となるのを避ける為の確認である。
また、ここがライブハウスであることからバンドに関する話しを持ち込んで見ると、貴之は分野違いながらある程度以上答えられると言う十分な知識量を見せた。
これは俊哉の入れ知恵と、幼馴染みの二人がRoseliaにいて、更にその片方が自分の恋人と言う、知る機会に恵まれているのも助けとなっていた。
「はい、これで面接は終了です。結果は後日……って言いたいところだけど、遠導君余りにも受け答えしっかりしてるからこの場で合格言い渡しちゃうね♪」
「えっ?あっ、はい……ありがとうございます」
そうしてその後も、面接を通して受け答えの様子を見ていたまりなは合格を貴之に通達した。
無事にバイト先が決まったのは嬉しいのだが、予想以上に良すぎる結果が来たので貴之は数瞬程内心で困惑していた。
──こんなにあっさり行くものなのか?面接の経験が浅かったので、貴之は自分の対人経験が活きていることに気付くのが遅れており、そこに気付くのは帰宅してからとなる。
「最初に来て欲しい日は後日連絡するから、その為に電話番号だけ教えてもらってもいいかな?」
「分かりました。携帯電話のになるんですけど……」
まりなに電話番号を教え、これからよろしくの旨を貰って今度こそ面接は終わり、貴之はCiRCLを後にする。
「(取り敢えず、バイト先は確保だな)」
──ユリ姉に話しておこう。帰りだすと同時に、貴之は姉へ電話を掛けるのだった。
* * *
「来てくれてありがとう。それじゃあ早速仕事を教えて行くね」
「はい。よろしくお願いします」
そして数日後の放課後、貴之は早速CiRCLで仕事をしていくことになる。
最初は分からないことだらけだし、ミスしたら大変なものだって存在することから、メモとペンだけはしっかりと用意してから来ていた。
そうしてここから、貴之は仕事内容を覚えていく。
「機材は基本的にここにしまっておくんだよ。予備のコードとかもこの部屋に置いてあって……」
「機材がここで……予備のコードが……」
まずは機材の配置場所等を覚えて──。
「予約の時は予約する人の名前を聞いて、時間を聞いたら空いてるスタジオに入れるの。この表に書き込んでくれれば、後でこっちが機会で確定するよ」
「なるほど……空いて無かった場合は別の時間を聞けばいいんですか?」
「うん。そうしてくれると嬉しいな♪」
次に予約の方法を教わり──。
「あっ!そのコード抜いちゃうと全体に影響出るからダメだよ!」
「えっ……?おおっ、危ねぇ!?」
更にはライブ会場に使われる部屋のあれこれを学び──。
「すみませ~ん。次、この日のここに予約したいんですけど……」
「この時間ですね?はい。分かりました」
そうして数回重ねていく内に、貴之は問題なく業務をこなしていた。
仕事をしていく中で、ここは女子の利用客が多いと貴之は感じ取っている。
理由は花女と羽丘……二つも女子校が近くにあることが理由だろう。後江は共学だが、前二校のお陰で女子の比率がかなり高く、今予約に来た女子も羽丘に通う人だった。
「あの遠導君がバイトなんて意外だね……?」
「まあ、ひと段落着いたので社会勉強ってやつですよ」
やはりというか、自分がバイトをするのは意外に思われた。こればかりは普段からヴァンガードにのめり込んでいるので仕方ないだろう。
ちなみに今話しているこの女子生徒は友希那のクラスメイトであるらしく、こちらの事情は知っている。故にちょっとした会話であった。一応ここでは業務応対気味な対応を取る。ここに入って間もないからと言うのが大きい。
話しを済ませた女子生徒が立ち去るので、こちらも「ありがとうございました」と愛想よく返す。
「お疲れ様♪もうすっかり大丈夫だね?」
「いえいえ、これもまりなさんのおかげですよ」
先程の女子生徒の予約を聞いたタイミングで貴之の勤務時間が終わりとなり、まりなから労いの言葉が掛かる。
なお、最初の方こそ彼女のことを「月島さん」と名字呼びしていた貴之だが、呼び方に違和感を覚えているのを察したまりなから許しを貰って名呼びにさせて貰っている。
まりなの呼び方に関しては問題ないように思えるが、これは燐子に続いて貴之が『自らの課した条件以外で名呼びすることになった女性』であり、彼女もまた特例と呼べる人だった。
案の定、名呼びするのを始めて知った際に友希那がむすっとした顔を向けて来たが、自分も名字呼びをやってみたら違和感を覚えたのが理由で許された。
その日はお詫びとして思いっきり甘えさせていたのだが、今度は紗夜がこちらを見て何らかを考え込む様子が見え、彼女と俊哉も自分たちのことを言えなくなるだろうと予想している。
「そう言えば遠導君の知り合いにバンドをやっているところってあるかな?女子だけで集まったガールズバンドに限定してだけど……」
まりなが何故そんなことを聞いてきたかは分からないが、次の仕事に関して何かあるかも知れないので、真面目に答えることを選ぶ。
「俺の知り合い……Roseliaですね」
「なるほど~。Roseliaかぁ……って、えぇっ!?Roseliaと知り合い!?」
「ええ。実は『Legendary』ってファーストライブの時に出した曲があるんですけど、あれの曲作りにも協力してますよ」
更に告げられる衝撃の新事実にまりなが仰天する。あの曲のテーマはヴァンガードであり、それ故に貴之は掴みを得るために協力していたのだ。
──でも、どうして?気になったまりなが何故協力することになったのかを問う。
「Roseliaの内二人が幼馴染みでしてね……その内の一人に頼まれたんです」
「そんなに距離感近いんだ……。それにしても意外だね?男女の幼馴染みって疎縁しやすいって聞くから」
「ああ……そうなると俺は結構縁のいい方なんでしょうね」
聞いた話し、男女の幼馴染みと言うのは小学生の高学年に入る辺りで縁が無くなりやすいそうだ。貴之ら三人の場合はそんな予兆が微塵も無かった訳だが。
そして気になって幼馴染みが誰かを聞けば、今までのが軽いものだと思えるくらいの回答が飛んでくる。
「幼馴染みは友希那とリサの二人で、友希那とは最近付き合い始めました……」
「……え?えっ!?それ本当?」
「冗談でこんなこと言えませんよ……」
「やだもう……青春真っ只中じゃん!」
まりなが見てきた限りで、貴之は相当に充実した生活を送ることの出来ている人だった。
友人が多く、大切な人もいる。更には己の手で望んだ栄光まで掴んで見せているのだ。欲しいと思えるものは大体取れているだろう。
ただし、それは何も才があったのかと言われれば違い、努力して最後まで走り続けた過程と結果である。
「あっ、ごめん!すっかり話し込んじゃった……。伸びちゃった分は超勤扱いにしていいから」
「そりゃ有り難いんですけど……。話してるだけで何もしてませんよ?」
「いいのいいの。元々は仕事の話しをするつもりだったんだから……それじゃあ、話して置いてくれるかな?」
思ったより長くなってしまったので話しを切り上げ、本題を貴之に伝える。
まりなの頼みを承諾した貴之はイベントの為のカラー用紙を三枚貰い、最初にガールズバンドに絞って問うた意味合いを理解して、今日のバイトを終えるのだった。
* * *
「とまあ、そんな話しが持ちかけられてな……」
「なるほどねぇ~……ガールズバンドを応援する為のイベントかぁ」
その日のバイトから帰った夜。遠導家にて今日のバイトで頼まれたことを貴之は伝える。
湊家も今井家も家族全員が出かけてしまっているので、友希那とリサはこちらに上がらせて貰っている。ちなみに今日は小百合も友人の家へ出掛けているので、今家にいるのはこの三人だけだ。
「ただ、そのイベントの為に参加するバンドが一つも無いのは大変ね……」
「ああ。それが理由でまりなさんに頼まれたんだ」
問題は友希那が言った通り参加するバンドが一つもないのだ。せっかくガールズバンドを応援する為の企画だと言うのに、肝心なガールズバンドは参加ゼロ。このままだと企画が行き倒れになってしまう可能性が高い。
あこは真っ先にやりたいと言うかも知れないと思いながら、友希那はどうするか考え込む。
以前の……リサが一度バンドを辞めるまで自分なら「実力差があり過ぎると無意味だから」と即刻断ったかも知れないが、今は違う。考える余地はいくらでもあるのだ。
「参加する場所がどこもないってのが難しいよねぇ……」
「確かにそうね。私たちが先に参加を決めると、却って入ってこないまであるかも知れないわ」
「ああ……なるほど。ヴァンガードの店内大会に、今の俺が先に入っちゃうようなパターンか」
貴之の身に起こりうる可能性がある状況に置き換えるならまさにこれである。故にリサもすぐには頷けなかった。
しかしながら断るとは言っていない為、何も絶対にダメと言う訳では無い。まだ他の三人にも伝えられていないことから、友希那は次の結論を下す。
「私個人としては様子見……Roseliaとしては保留ね。ここで決めてしまったら、また以前の繰り返しだから……」
「アタシも友希那と同じだよ。誰かいたら参加してもいいとは思ったんだけどねぇ~……」
「分かった。無理強いはして無いから、聞いてくれるだけでも助かるよ」
特に友希那は以前のスカウト案件が記憶に新しい為、尚更選択の強要などできないし、貴之もするつもりは無い。
こうして今回は保留とした友希那だが、内心では
「(後から始める人に、先に進んでいた人たちが教えると言うのも……やってみていいのかもしれないわね)」
後は他の人たち次第ではあるが、少なくとも友希那は悪くないと考えている。
また、ガールズバンドを応援するのなら、新規で入って来るチームもそうだが、Roseliaのようにガールズバンド界の先導者と呼べる存在もまた必要であり、それらが揃うととてもありがたい話しである。
「このことは三人にも話しておくから、何か分かったら連絡貰ってもいいかしら?」
「分かった。その時はまた教えるよ」
現段階での話しは纏まり、三人は明日に備えるのであった。
* * *
「そう言うことがあったのだけれど、あなたたちはどうかしら?」
翌日、バンドの練習終わりに友希那はRoseliaで貴之から貰った話しを持ちかけた。
独断で決めず、こうして話しを持って来てくれたことはスカウト案件の繰り返しにならなかったことから、リサはもちろん、他の三人も非常に安心できた。
「ちなみに、私たちが参加したとして……参加しているチームはどのくらいになるのですか?」
「ああ……昨日聞いた段階のままなら、アタシたちだけっぽいよ?」
早速聞いてみた紗夜だが、それは企画倒れにならないかが不安になった。
自分たちが参加するだけで影響が大きいのは分かるし、Roseliaとしては
「誰もいないと、あこたち入っていいか分かりませんね?」
「先に入ると怖がって来ないかも知れないね……」
流石にあこも無条件で賛成するのが難しかった。裏を返せば、それだけ慎重に決める必要があった。
せめてどこかで一チームでも入っていればまだやりやすかったのだが、このままではどうすることもできない。
「参ったなぁ~……余りにも判断材料が足りないや」
「そうね……せめてどこか、一チームだけでも決めてくれればいいのだけれど……あら?」
そうして考え込んでいる中、まるで競争でもしているかの如くCiRCLに入っていく五人組の姿をRoseliaは目撃するのだった。
* * *
「よしよし。これで今日の仕事は終わりだね」
「お疲れ様でした」
時間はほんの少し遡り、Roseliaがイベントのことを話し合う直前になる。貴之は今日も今日とてCiRCLでのバイトに勤しんでおり、それが丁度終わったタイミングとなる。
まりなとしては彼の参入は短期でありながらも非常に助かっており、イベントが無事始められるならもう大丈夫な程用意が進んでいる。
「そう言えば、イベントのことは話して見てくれた?」
「ええ。チームで話してないから、今は保留と言われましたが……」
──どこか他のチームが入ればあいつらも楽だろうな……。昨日の話しを貴之は思い返す。
確かに友希那の上げた危惧は問題であり、元々するつもりの無かった無理強いは余計にできないのだ。
ただし、それはそれでまりなとしては頭を抱えたくなる事態ではあるのだが。
「オーナーからは結構念押しで頼まれているんだけどねぇ……『ガールズバンドを応援する意味でも、頼んだよ』って」
「大分気合い入れてましたよね……」
オーナーとは、白い髪を持つが前髪の一部を複数の色でメッシュを掛けると言う非常に特徴的なスタイルをしている、老齢の女性である。
しかしながら未だに杖無しで歩けるし、声も良く通すことのできる、「やりきったかい?」と問いかけることの多い健康的な人でもあった。
ちなみに貴之のヴァンガードの経歴を噂程度で知っていたらしく、その時に問われた貴之は「やりきったけど納得し切れてはいないかも知れない」と言う回答をしており、その珍しい回答にオーナーが「年甲斐もなく笑った」とコメントしている。
「(俺のこと、『面白い目をしてる子だね』って言ってたけど……
貴之の予想では目で自分の進んだ道を彼女に示していたからなのかと、決勝で目覚めたあの能力なのかの二つだが、あそこまで人生を積み重ねている人だと、両方の可能性もある。
その時は聞けずじまいであったので、結局その言葉の意味合いが分ってはいない。
分からないなら仕方ないが、自分も俊哉に聞いてバンドを探してみようかと考えていたところに、こんにちはと元気のいい挨拶が聞こえた。
「わっ!?だ、誰!?」
「(すげぇなこの子……何故か分からんが眩しいな)」
まりなが驚いてる最中、貴之は目の前の茶髪にアメジストの瞳を持った如何にも元気そうな少女から、それを感じ取る。
この直後にも四人の少女が入って来るが、その四人と比べて彼女はまだ磨き切れていない原石だと思え、それに懐かしさを感じた。
そこまで来ると、バンドの知識が浅い貴之でもその感じ取ったものから逆算して結論に辿り着ける。
「(この子、バンドを始めて間もないから色々輝いて見えるのか……)」
置き換えてしまえばヴァンガードを始めて間もない頃の自分であり、それが懐かしさを感じる理由だった。
それは見えるもの全てが輝いて見えて、眩しく思えるはずである。何せ自分もそうだったのだから。
「私、
目の前の少女、戸山香澄が自分の名を名乗ったとほぼ同タイミングで、金色の髪をツインテールにし、同じ色の瞳を持った少女が肩で息をしながら香澄の左肩に自分の右手を置く。
その様子から、貴之は運動が苦手なのだろうと推測する。香澄は得意側だと判断した。
「やっと香澄に追いついた……まったく、ほんっとに言うこときかねーヤツだな……」
──ちょっとは人の言うこと聞けっての!そう指摘する少女だが、貴之とまりながいることに気づき、今のは失敗したかも知れないと我に帰る。
「あ……あはは~!す、すみません。この子が急にお邪魔しちゃって……すぐ帰りますから」
「いえ……」
彼女が謝り、まりながペースに呑まれている中、貴之は無理に猫を被らんでもいいのにと考えていた。
そのまま返す前に話すべきことを思い出し、まりなは香澄に問いかける。
また、そのタイミングで残った三人がやってきて、そのうち一人は貴之と知り合いだった。
「香澄ちゃんが背中に背負ってるのはギター……だよね?」
「はいっ!私、ここにいるみんなと『
あまり聞いたことの無い名前だったので、貴之が後で俊哉に聞いてみようと思っている間に香澄がここに来た理由を告げる。
ちなみにこのチーム、花女の一年生五人で組んだチームらしく、チーム仲は非常に良好なようだ。
また、チームの略称は『ポピパ』であり、チーム特有の如何にも楽しんでバンドをしていると言う雰囲気が注目を集めだしており、今後の活動が期待されている。
「……というか、私たち自己紹介した方がいいんじゃ……って、あれ?貴之先輩ここでバイトしてたんですか?」
「ああ。つい最近からで、短期バイトだけどね」
沙綾が自分に気づいて聞いてきたので、貴之も簡単に事情を説明する。
また、沙綾からすればもう一つ言っておきたいことがあり、忘れずに伝えて置く。
「宣伝されたから雑誌買ったんですけど……全国大会優勝、おめでとうございます。決勝戦とんでもなかったって聞きましたよ?」
「どういたしまして。俺も一真も、あれは色んな意味でとんでもなかったな……」
決勝戦のファイトは今でも思い返せる。地方の趣旨返しになった6ダメージ目の
しかしながらこれ以上は話しが脱線してしまうので、自分の事情を話すのはまた今度とし、最後に「やまぶきベーカリーを今後もよろしくお願いします」と挨拶を受け取っておく。
香澄を追いかけ二番目に到着した少女は
ちなみにパートは名乗った順番からキーボード、リードギター、ベースだそうだ。香澄はボーカル&ベースギター、沙綾はドラムである。
その後まりなが自己紹介し、自分もイベント中のみのスタッフとして参加するので貴之も自己紹介すると、その名に反応する人が出てくる。
「はぁっ!?ちょっと待て沙綾、お前とんでもねー人と知り合いなのかよ!?」
「えっと……それってどういう意味で『とんでもねー』なの?」
何故か分からないが、貴之は嫌な予感がしていた。
ただし有咲の口からはその予感から外れたものが出てくる。
「だってさ……最近は色んな人が遊べるように教えてるって言うだろ?そんなすげぇ人と縁があるなんて始めて知ったわ……」
「言われて見ればそうだね……評判いいって聞いてるよ」
「そ、そんなに凄い人なんだ……」
こんなところにまで講習会の評価が届いていたことに貴之は驚き、予想以上にいいもので安堵する。
やはりというか、有咲が貴之のことを知っていたのは今大会の優勝者であるから故だったようで、今回の大会は一般の人にも伝わりやすかったようだ。
ただしかし、やはりというか事情を知らない人には『ヌーベルバーグ』の方が伝わりやすいようで、そこには少々寂しさを覚える。
「とまあ、俺の話しはまた今度の機会にするとして……もし良かったら、ここでやろうとしてるイベントの話しをさせて欲しいんだが、大丈夫?」
「……イベントですか?」
貴之の話しを聞いた香澄が参加を即決しそうだったので有咲が咎め、沙綾が彼に先を促す。
今現在、ガールズバンドの活動を応援する為に、ガールズバンドを集めて合同のライブを行うというイベントを企画していることと、その為のチームが一つも集まっていないことを話した。
「なるほど……。つまり?」
「お、お前なぁ……。よーするに、イベントやる為のチームがいなくて、出来ることなら私らに参加して欲しいんだよ」
完全に分かっていたような流れだったのにそんな反応をする香澄をみて、貴之も滑りそうになっていた。
有咲の説明を聞いた香澄は参加を決断、そのまま流れる形で全員が参加を決めた。
「ありがとう、とっても助かっちゃう♪」
それが聞けたまりなは本心から礼を言う。そこから一度、知っているガールズバンドがあったら教えて欲しいと言えば、真っ先に上がるのは
Glitter*Greenの略称は『グリグリ』であり、香澄がバンドを始める決意に決定打を与えたチームだとそうで、この時貴之は香澄を自分、グリグリを耕史に置き換えることで即時に理解する。
しかしながら、グリグリは受験を理由に活動休止を決めている為呼ぶことが出来ず、現段階ではRoseliaのみが候補となる。
「遠導君、今なら大丈夫かな?」
「一チーム来ましたからね……もう一回聞いてみようと思います。また用紙持って行きますね?」
他のチームを誘うことになった場合の為に、余分に30枚程その用紙を貰ってから貴之は退勤を済ませる。
「どこにいるか知ってるんですか?」
「ああ。待ち合わせしてるからな……一緒に来るか?」
たえの問いに答えながら、貴之はポピパの五人に確認を取る。
これは「参加するチームはこの人たち」と言うのを教える意味合いもあり、彼女らの判断を手伝う目的があった。
それに五人が頷いたことで、貴之を先頭にそちらへ移動を始める。
ただし距離は非常に短く、CiRCLを出てすぐのところにあるカフェだった。
「悪い。待たせたな」
「あら、お疲れ様。ところでその五人は?」
「昨日話したイベントの話しあるだろ?あれにたった今参加を決めてくれた……Poppin'Partyの五人だ。一チーム入ったから改めてどうかって言うのと、顔合わせも兼ねてな」
貴之の話しに友希那は納得する。彼女らから実力や方針を知れば、判断を付けやすくなるのでありがたい話しだった。
また、ポピパの五人は一人の存在に気付く。
「ひっ、氷川先輩!?」
「はい。お久しぶりです」
──何か、柔らかくなった?久しぶりに知った顔と話した香澄はそう思った。
実際紗夜の性格は大分軟化しており、つい最近では日菜と普通に話したり、俊哉を助けるべく手を差し伸べている。
最も前者は日菜から話しを聞ける友希那とリサしか知らないし、後者は俊哉から話しを聞いた貴之ら後江のヴァンガードファイターたちしかあずかり知らぬことである為、ここはやむなしである。
ただし、それでもいい思い出が無いのは感情のままギターを校門前で弾いてしまったことがあるのが原因だろう。最も、それを知っているのは紗夜と有咲だけだが。
「ああっ!じゃあ、この子が花女の後輩たちなんだ?後で紹介してもらってもいい?」
「分かりました。では、後で少し時間を頂いても構いませんか?」
紗夜の確認に、ポピパの五人は戸惑いながら肯定する。本当に何があった?変わった紗夜を見た五人の共通認識である。
また、燐子の姿を見た後、貴之のことを見た有咲は、少し不味い内容を思い出してしまった。
「(あ、アレ……?でもこの二人、どう見たって一友人みたいな感じしてるよな?)」
「有咲ちゃん、どうしたの?」
──いけね、顔に出てたわ……。りみに問われたことで自分の表情に気付く。
こうなるともう隠しづらいので、いっそのこと思いっきり聞いてみることを決断する。
「あの……大変失礼なことを聞くんですけど、遠導先輩が白金先輩を振ったとかって話し……アレって実際どうなんですか?」
「「「「えっ……?何それ?」」」」
「「私たちのクラスだけじゃない……?」」
後者の反応をしたのが紗夜と燐子、前者はその他四人である。
その反応をした直後、何かを思い出した貴之が頭を抱えてがっくりと項垂れる。
「何がどうなってんだよ……?後江じゃ当時、俺が振られたから燐子に走ったとか、実は好きな女の子が燐子だったとか疑惑掛けられたしさ……」
「私も当時付き合い始めたとか、そんな風に聞かれたけど……何で貴之君も似たようなことが起きてるの……?」
「そんなことが起きているだなんて、知らなかったわ……」
「羽丘だとそう言う話し聞きませんでしたよね?」
「あちゃ~……羽丘はまだしも、流石に花女はマークしきれなかったなぁ……」
「私も、配慮が足りてませんでしたね……」
「ああ……な、なんかその……ホントにすみません」
貴之が後江でネタにされがちな『白金さん案件』を思い出し、燐子も困惑する。
羽丘では付き合ってる当人である友希那と、その幼馴染みであるリサがいてくれたのが筆頭でどうにかなったが、花女は流石に限度があった。
このネタはRoseliaと貴之には禁句であることを認識した有紗は、謝りながら罪悪感を抱いた。知らなかったとは言え、こうなると流石に申し訳無かったのである。
また、貴之がそのショックから復帰した後に自分は友希那が好きであり、彼女とは付き合っていることを告げてポピパの五人が驚き、友希那は頬を朱色に染めながら肯定する。ちなみに沙綾だけ比較的反応が薄めであり、遠導姉弟からちょっとだけ話しを聞いていたおかげである。
少しだけ話しをした後、すっかりと脱線してしまっていたので紗夜が舵を話しの取って本題に戻す。今Roseliaが気になっているのは、彼女らの実力がどれ程のものかであった。
「確か……戸山さんが始めて数か月程でしたね?」
「あっ、はい!みんなと比べて、まだまだ初心者ですけど……」
──これから精一杯頑張りますっ!その曇りなき姿勢に、Roseliaの五人は懐かしきものを感じさせる。
それは先程貴之が感じたものと同じであり、恐らく経験を積むとこうなりやすいのだろう。
「後もう何チームかいるといいわね……」
「今私たちが入っちゃうと、平均があやふやになっちゃいますからね……」
友希那と燐子が理由を説明したことで、ポピパの五人は「なるほど……」と思った。
「じゃあ、その何チームか集めたら入ってくれますか!?」
そこに希望を見出したかの如く、香澄の食いつくような問いに五人は数瞬顔を見合わせて──。
「ええ。それなら構わないわ」
「バンドをしている知人が少ないので、あまり手伝えないかも知れませんが……可能な限りは協力しますよ」
承諾を選んだ。何もしないのは気が引けるので、非力ながらも手伝うことを告げる。
「よし、じゃあ早速……」
「移動する前に、これを渡しておくぞ」
今回のイベントの話しをしやすいように、貴之はポピパの五人に用紙数枚ずつ渡す。
一枚だけにしないのは、持って行ってもいいかと聞かれた際に対応できるようにしてのことだ。
何事も無ければ早速探し始めることになるのだが、その前にRoseliaと貴之、ポピパは連絡先の交換を行っておく。
今度こそ前準備は終わり、ポピパの五人は早速移動を始めた。
「さて……私も一つやっておきましょう」
「どこかに宛があるの?」
「ええ、一チームだけですが」
友希那の問いに答えながら、紗夜はとある人物に電話を掛けるのだった。
オープニングまで終わりました。変更点は……
・オープニング1の最後が練習していくからRoselia勧誘をやってみるに変更したので、オープニング2の流れを全カット(やったとしても内容がまんまになってしまう)
・Roseliaは事前に貴之経由でイベントの話しを知っている
・イベントに関してRoseliaは乗り気かつ慎重路線
・オープニング3で話しの脱線要素が追加
主だった部分はこの辺りでしょうか。今後貴之が関わるのは全て共通なのでそこは省きます
ちなみに現段階でポピパの五人から見た貴之はこうです
香澄、たえ、りみ……CiRCLで短期バイトしていて、Roseliaと交友のある先輩。見た感じ一途な人。
沙綾……時々ベーカリーに来てくれる凄腕ヴァンガードファイター。恋愛沙汰に興味無さそうだと予想していたので、友希那が好きだと聞いた当時はビックリ。今は実際に知れて安心。
有咲……自分の腕を高めながら色んな人に教えたり、前代未聞ことを大会でやったり、白金先輩案件だったりと色んな意味でとんでもねー人。白金先輩案件はホントにすみませんでした……。
沙綾は実際に顔を合わせている、有咲は噂程度に知っていた、他の三人は今日が初対面かつ前情報無しで目線がフラットだったと言うのが理由でこんな感じです。
また、本章でバンドリメンバーにヴァンガードさせる可能性が高まるので、参考を取るべくアンケートをやってみます。今回は期間を長めに取るので、協力していただけると幸いです。
最後に、次回はメインストーリー1章の2話と4話でしょうか?Roseliaが関わらない所は内容が貴之がいる程度しか変わらないので、そこら辺のフォローも考えていきます。