先導者と歌姫 -高みを目指して-   作:ブリガンディ

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予告通り千聖とのサブイベント回です。

ガルパにて2周年以降ガチャで『ノーブル・ローズ -歌、至りて-』の時に追加された友希那を引き当てることでき、念願の衣装統一が可能になりました。これでも嬉しいのですが、この時のガチャが友希那含めて星4が五人出てきて、それらが全て取り逃がしてだったのでとんでもない大当たりをしていました……(笑)。
その反動か、今回のゴールデンウイークで追加された友希那が当たってないです……。


パーティー8 持たざる者と持つ者

「でも、良かったのか?」

 

「良かったって……何が?」

 

千聖に送って貰っている最中、貴之は一度問いかけて見る。

流石にこの言い方だけではこう問い返されてもやむなしだなと思うが、一先ず話し出すきっかけを作れたから良しとした。

 

「日菜と丸山さんの練習時間確保するとは言っても、白鷺さんが俺を送っちゃってさ……。行きは大和さんだったわけだし」

 

「あら?私が送ると何か問題でもあるの?」

 

「い、いや……ないって訳じゃないが……」

 

「ならいいじゃない」

 

実際の話し送ってくれるなら、その人が誰だろうと特に問題はない。故に言い返せなかった貴之だが、言い知れぬ不安に駆られている。

──リサに察知されてなきゃいいんだけどな……。もし送ってくれる人が日菜か麻弥だった場合、こんな心配をしなくて良かったのだ。仮に彩とイヴでも何らかを言われそうではあるが、特に人気役者の千聖といる今回は間違いなく何か言われそうである。

場所が場所なので誰も見ていないことを祈っていると、千聖から「それに……」と前置きされた。

 

「日菜ちゃんに話しを聞いてから、あなたと話してみたいと思っていたの……」

 

「……俺と?そりゃまたどうして?」

 

自分の予想と照らし合わせが欲しいので、先を促すような問い返しをする。

日菜が話しているなら、紗夜から聞いた話しによって察する力も知っているかもしれないので、こうした方が素直に話してくれると思ったのだ。

 

「あなたは……私が欲しいと願っても得られなかったものを、全て手にしているから……」

 

「……そうか」

 

千聖の答えを聞いて、貴之は自分の予想が合っていたことを悟る。

自分はずっとそちら側ではないと思っていたからこそ、自覚した瞬間に気が重くなった。

 

「俺はもう十分に、『持つ者』の方に来ていたんだな……」

 

「……意外に思ったかしら?」

 

「いや、薄々と感じてはいたんだが……ここまでだとは思わなかった」

 

今の貴之は『持たざる者』ではなく、『持つ者』であったのだ。一番分かりやすい礼は俊哉との対比だろう。なお、何があっても折れぬ意志に関してはここを一度離れる前から『持つ者』であった。

貴之は優勝することで自らの努力が報われ、栄光と大切な人との時間も得られたが、俊哉はそれら全てがまだこれからなのだ。

今日この時言って貰うまで気づけなかったのは、貴之が千聖と自分を比べ、一般生活を送っている故に『持たざる者』だと考えていたせいである。

 

「一昨日は全然分かんなかったんだ……。小さい頃からあれだけ結果を出してる人が、今更どうして俺にそんな情を向けるんだ?って思ってた」

 

「……そうよね。普通の人ならそう思うはずよね……」

 

貴之の言い分は無理からぬことであり、千聖もそこは責めようとは思わない。

何しろ自分は小さい頃から結果を出したことで『天才子役』ともてはやされ、周りの人たちからは憧れや羨望、時に嫉妬の目を向けられることもあった。早い話し、自分の努力した跡など脇目も振られなかったのだ。

ではそんな千聖の前に、『努力の果ての栄光』と称えられ、周りの人からその努力が報われて喜ぶ声や称賛、やりきったことに於ける信頼の目を向けられる貴之が現れたらどうなるだろうか?

 

「でも、白鷺さんの目線で考えて見ればなるほどって思った……ずっとそんな目や声と向き合ってたら、俺にそんなものを向けたくなる」

 

「普段なら、そう思っていても隠せていたのに……ごめんなさい」

 

羨望や嫉妬の一つや二つが起こるのである。何故なら自分があれだけ努力しても得られなかったものを、全て持っているのだから。

なるべく表に出さぬようにはしていた千聖だが、ここまで自分がそう思う要素が揃ってしまうと限度があった。

普通の人ならなんだそりゃとなる可能性もあったが、目の前にいるのは人の情に対して鋭敏で、知人からは理解しようとする姿勢を評価される貴之だった故に問題はない。

 

「俺も白鷺さんの立場だったら、辛かったと思う……ここまで来たって言うのに、誰も見向きしてくれないんじゃな」

 

「(遠導君……相手の目線で見れる人なのね)」

 

そんなこともあって、千聖は少しだけ気が楽になったように感じた。今までだと誰にも話せなかったことも、この人になら話せるだろうと思ったのだ。

 

「私の家……役者の家系なのよ。小さい頃に親が役をやっているところを見せてもらって、自分もやりたいと思ったのが始まりだったの」

 

「となると、きっかけは親への憧れ……なのか?」

 

千聖が役者をやろうと思った理由はここにある。憧れて、子役が必要と言われてやりたいと願ったところが全ての始まりだったのだ。

貴之の確認が当たりだったので、それに対しては頷くことで肯定を返した。

稽古を付けて貰っている際に指摘を受けたりするのはいい。それは自分がしっかり役者を全うできるよう、教えてくれているのだから。問題は実際に役を全うして評価を得る時である。

 

「誰も彼も『天才』ともてはやし、努力の形跡は一切見られないか……」

 

「一度そう言われてしまったら、流れは簡単に変わらない……。その後期待に応えようとしたら、またそう言われて、同じ流れを繰り返すの……」

 

子供の身ながら、いきなり自分の頑張りを一言で斬り捨てられたら堪ったものでは無いだろう。それは貴之でも無理な話しである。子供の頃ではメンタルが鍛えられていないからだ。

ただ、全く経験していないと言われればそれは違い、貴之も昔経験したことがあったことを話す。

それは耕史に教わって少ししてから店内大会で初めて勝利を飾った直後のことで、同じく耕史に教えて貰ってから店内大会に望んだファイターがいた。

 

「ただ、そいつは途中で負けちまって、俺に才能があるって言ってきたけど……実際は違うと思うんだ」

 

「どうして……そう言いきれるの?」

 

「俺に才能があるんだったら……前回優勝した一真と比べて、倍近い時間も掛けて優勝にはならないだろうからさ」

 

千聖はそこで、貴之がどうして自分を『持たざる者』だと思っていたかを理解する。

彼は自分の意識していた相手が全て後発の人であり、一時的に抜かされたことがある悔しさが大きい──否、大きかったのだ。

貴之が千聖に言われて認識できるのは、俊哉から聞いた話しが大きく、もしかしたら自分がそうかもしれないと考えるようになっていたからだった。

 

「後から始めた人に先を越される……確かに、思うところが出るわね」

 

「けど、そのまま終わるつもりはないから対策を立てたり、別の戦い方を考えたりして……最後に勝った」

 

オーバーロード(己の分身)』を入れることだけは何度やっても変わらなかったが、他のユニットは何度も試行錯誤しているし、全国大会では今まで躊躇していた『ヌーベルバーグ』の使用すらしたほどだ。

抜かれても続ける場合は対抗心が出てくることが多くなるが、貴之がそれだけに囚われなかったのはそうなる頃にはもうメンタルが鍛えられていたことと、胸に残り続けている友希那との約束がある。

何も楽な道で無かっただろうことは察していたが、改めてその道筋を知ることはできた。

 

「ああ……話してる途中で、一個共通点は見つかったな」

 

「共通点って……私と遠導君の?」

 

「もちろん。俺たちは教えてくれた人の言葉を理解しようと努力して、理解した上で自分のものにできてるんだ……白鷺さんが役者を続けられているのも、俺がこうして友希那と一緒にいるのも、それができたからなんだ」

 

「言葉を……」

 

思い返されるのは、初めての舞台に出るべく稽古を付けて貰っている時に言われたことであり、その言葉と自分の演じてきた時を思い出してみる。

初めの方こそ意識しながら演じるので手一杯ではあったものの、役をこなす内に自然とできるようになっており、いつしか後追いの子役に勧めているほどだった。

──確かに、そうみたいね。対比的だと思っていた相手との共通点が見つかり、千聖は柔らかな笑みを浮かべる。

大体の異性ならそれだけでもドギマギする可能性が高かったが、そこはメンタルが頑丈で友希那と付き合っている貴之。全くもって平静を保っているので千聖は内心でイラっとする。

とは言え、こちらもこちらで面倒ごとになるのは御免なので、変な気を起こさないでいるだけ全然マシではあるのだが。

 

「後は、俺の一般慣性故に持たれた方か……」

 

「これは私がもてはやされたからこそ、感じたことなの」

 

貴之は確かに実力派のファイターではあるが、平時は一般男子の身であり、普通の人たちと同じように接されている故にそれなりに友人もいて、その他の交流もあった貴之は学校などでも問題なく過ごすことができていた。

例え転校してもお隣さんの裕子や、中学生時代に仲良くなった真司、一真を筆頭に遠征をしている際に知り合ったファイターたちのこともあり、彼の日常に寂しさというものは存在しなかったと言える。

ただし千聖の方は最初から役者として知られてしまっているので、有名人や高嶺の花として接されてしまい、周りが勝手に距離を置いてくることの請け合いであった。

更には進学していく内に、いつしか異性側からは抜け駆けがどうのこうのような気配も感じられるわ、同性側からはそうして周りから目を奪う自分に嫉妬の目を向けられることもあるわで気が滅入って行く。

そんな風に見られていれば考えるのも嫌になり、高校へ行くに当たってそういうことになりづらい花女への編入を決めるほどだったし、その後も普通に接する人は多くは無く、明白に友人と呼べる人は今やパスパレメンバーや一部の昔から交流のあった年の近い人くらいしかいないと言える程、彼女の日常には寂しさが付きまとっていたのだ。

 

「私だって……他の人たちと同じように、輪に入って話し合いとかしたかったのに……勝手に距離を置かれて、どうしようも無かったのよ……」

 

「悪い、何か……嫌なこと言わせちまったな」

 

いくらそうしたいと願っても、周りの空気がそれを奪い去る。願いを口に出来れば楽だったが、立ち位置もあって迂闊に言い出すのも難しい。

そんな二つの要素が千聖にとって望まぬ形で相乗効果を生んでしまい、気が付けば殆どの状況で気を許せない状況下が出来上がってしまった。

結果として、それがどことなく諦めの情を千聖に与えてしまい、以前パスパレの初ライブで音源のみがバレた際、ダメなら抜けると言う選択肢を真っ先に出してしまう事態を呼び起こしている。

役者をやりたいと望んだ後の因果が関係して、大事な場所が何も変わらずに突き進んで行き、自分とは対照に諦めの選択肢を真っ先に捨てる選択肢が取れる貴之を意識することに繋がっている。

また、貴之の場合は自分が望まずとも周りに人がやってきて、誰かが願うならと動く余裕すらあるのも今回情を抱くことに拍車を掛けた──と、思い返していたら目尻から涙が浮かんでいた。

 

「こんなこと初めてよ……。今まで誰にも言わなかったのに、何故か言えてしまうわ」

 

「俺が、そう言うこと聞くのに慣れてるから……なのかな?」

 

夢に向かって練習するが自信を持てなかった裕子。何かしなければ退屈と友人になっていた真司。自分の力で勝った気がせず思い悩んでいた一真と結衣。憧れと自分を見つめて考え込んだあこ。引っ込み思案が祟って行きたい場所へ行けなくなりそうだった燐子。才能の壁に絶望を感じ諦めそうになった紗夜。突き進む自分と比べて苦悩した俊哉。そして、道を踏み外したことに気づいて戻りたいと願った友希那。振り返ってみれば結構な人から話しを聞いていた。

貴之にとって、周りの人は基本的に友人や悪い意味はなく自分を探している人たちなどが多く、自然と話しを聞きやすい状況が整っていた。反対に、周りが変に線引きしたり良い感情を向けてこなかったりする千聖の場合はそうもいかず、孤立しやすい状況下になっていてそれが遠慮させていた。

そんな二人の経歴が重なったからなのか、気づけば自然と辛さを吐き出していたのだ。

 

「(やっぱり、聞いてみないと分かんねぇもんだよな……)」

 

スカウトを受けた友希那の悩みも、せっかくバンドに入れる機会を逃した燐子の後悔も、今回の千聖が持っていた羨望と嫉妬も。全て聞かなければ分からないことだった。

こうして話しを聞いた三人は今にも泣きそう──或いはもう泣いているだった。誰にも言えなかったところ、初めて自分に対して吐露したのも共通している。

そして、そうなった少女を前に見て見ぬふりを決め込める程貴之は無情ではない。寧ろ放っておけず、自分から踏み込んでいく性分だった。

 

「……その辛さ、俺に吐き出してみないか?誰かに聞いてもらうだけでも結構違ってくるんだぜ?」

 

「なっ……!?」

 

だからこそ、その人を助ける為に手を伸ばす──貴之とはそう言う人だった。

千聖はその判断が理解できなかった。何をどうしたら会って間もない人にそこまでできるのだろうか?

その疑問故に、千聖は一瞬固まることとなった。

 

「ど、どうして……?どうしてあなたはそこまでできるの……!?」

 

──私はあんな目を向けたのよ!?そう問いかけても、貴之は全くぶれる様子が無い。

来るだろうと予見していたのだろう、焦った形跡すら感じられない。まるで何度も見てきたと言わんばかりだった。

 

「誰かに言われたとか、そんなことは確かに無いさ……。けど、目の前で悩んだり、悲しそうな顔してる人は放っておけない……俺の性分なんだ」

 

「性……分……?」

 

「ああ。掛け値なしに言うなら……」

 

──俺が助けたいと思ったから助ける、ただそれだけだ。にべもなくそう告げられ、とうとう千聖の頬を涙が伝うことになった。

本当にいいのかと迷っていた千聖を前に、貴之は右手を左胸にあて、穏やかな笑みを見せる。

 

「どうだろう?無理にとは言わないさ……ただ、もしよかったら……」

 

「っ……」

 

貴之が言い終わるよりも前に、千聖は彼の右手を両手で取っていた。まさかここまでとは思ってもみなかったのか、貴之も一瞬だけ固まる。

彼女がこうなるのは無理もない話しで、何しろこうやって自分を一人の女子として接して来て、自分が困っている時に自ら歩み寄って来てくれた初めての異性だったのだから。

手を取ったのはいいものの、少しだけ遠慮が残ってしまっているので、千聖は最後の問いかけをする。

 

「ほ、本当に……話してもいいの?」

 

「いいさ。俺でよければ話しを聞くよ」

 

「……ありがとう。本当に……!」

 

そこから千聖は、胸の内に抱え込んでいたものを吐き出して行く。

自分の頑張りを二文字で片付けられてしまったこと。その評を得たことで親の期待が大きくなってしまい、自分の頑張りを褒めて欲しくても切り出せなくなってしまったこと。学校などで自分を見る目が完全に変わってしまったこと。パスパレの初ライブに置ける事件の直後、結果や売り込みを優先していたあまり自分は真っ先に抜ける選択肢を出してしまっていたこと。その他諸々全てを涙と嗚咽の声と共に、全て貴之に吐露していく。

今まで吐けなかったせいで八つ当たり気味な言い方になっても、貴之はうんざりした様子は見せずに同意したり先を促したりと、もっと来いと言わんばかりの対応をしてくれるので、千聖も遠慮せず溜めこんでいたものを涙と共に全て吐き出した。

 

「その……ごめんなさい。制服、シワだらけになってしまったわね」

 

吐き出している際、貴之の胸を借りっぱなしだったこともあり、彼の制服はシワができてしまっていた。おまけに自分の涙で濡れた跡すらある。

全てが終わって落ち着いたのでそこに気づけてしまい、恥ずかしさと申し訳なさが浮かび上がってくる。

 

「俺のことはいいさ……。それよりも、もう大丈夫?」

 

「お陰様でね。随分と気が楽になったわ。ただ、一つ言わせてもらうとすれば……」

 

──大切な人がいるなら、誰でも彼でも優しくしない方がいいわよ?人をその気にさせるから……。目の前の相手があまりにも自然にやるものだから、流石に釘を刺すことにした。

そこで貴之も気づいたらしく、もう暫くは治らなそうだなと感じた。

 

「でも、何もせず放って置いたら絶対に後悔するもんなぁ……」

 

「はぁ……それだとまた繰り返しそうね」

 

ただ、そう言う人が一人はいてもいいと千聖は思えた。それによって自分は今まで溜めこんでいたものを吐き出せたのだから。

とは言え、あまりやり過ぎるのも問題であり、その内今回のようなことでその気になっている人が現れそうなところである。というか、正直言うと自分も危なかった。

そんなこともあったので、もう一度だけ念押しで釘を刺しておく。流石に言われたばかりなのもあり、貴之は頷くしかなかった。

 

「……もうここまで来たか」

 

「後は大丈夫そうね?」

 

気が付けば花女と羽丘へいくための分かれ道の場所まで来ており、後は自力で帰れる場所に辿り着いていた。

後は軽く別れの挨拶だけ済ませて移動すればいいのだが、貴之としては何故だか妙にやりづらかった。

理由を探って見ると、千聖の方から『寂しさ』の情を感じ取れており、そうなった経緯は彼女の過去と自分の対応が関係していることに気付く。

 

「(どうするか……俺から切り出そうにも、さっき釘刺されたばっかりだし……)」

 

「(も、もしかして気づけたの?それで迷っているのね……)」

 

まさか気づかれるとは思ってもみなかったが、元々理解力に優れる貴之なのでおかしくないと納得はできた。

かく言う自分もいいのかどうかで迷ってしまっているが、動かなければ彼はずっとそのまま悩んでいる気がする。

実際のところ彼の善意は非常にありがたいし、こんな状態の彼を放っておこうと言う気にもなれない。

 

「え、遠導君っ!」

 

「……ん?どうした?」

 

なので、千聖自身が思い切って話しを切り出すことにする。

幸いにも貴之は聞く姿勢が出来ているようで、こちらにいつでもいいと言ってくれそうな雰囲気だった。

自分でも思いっきり過ぎたことが恥ずかしさを呼び起こし、思わず言い淀みそうになるが、それをどうにか堪えて頼もうと思っていたことを口にする。

 

「わ、私と……連絡先を交換してくれませんか?」

 

「あ、ああ。いいけど……何も敬語じゃなくたって俺は応じるのに」

 

「なっ……わ、悪かったわね!こう言うのは慣れてないのよ!」

 

──というか、どうして遠導君(この男)は全く持って動じないの!?いくらメンタルが頑丈だからといっても程がある。あまりにも変化の無い貴之を前に、まさかの自分が翻弄される事態になっていた。

幸いにも自分の話し自体は意図を理解した貴之のおかげで了承を得られたので、そこは良しとしてCordによる連絡先の交換を済ませる。

何気に旧来からの知人を省いて、仕事等関係無しに初めて連絡先を交換したことに気づき、千聖は嬉しさで満ちた笑みを浮かべる。これで自分の表情に何らか反応を示してくれればなお良かったのだが、これ以上は高望みなので割り切ることにした。

 

「また……何かあったら頼らせてもらうわね?」

 

「分かった。俺でよければ、また手伝うよ」

 

「……そう言うところなのに」

 

「?何か言ったか?」

 

できればそのままでいて欲しい願望の元、千聖は何でもないと答える。そうすれば貴之も気づいたようで、まあいいやと追及を辞める。

話しを聞いて貰ったことで結構時間を使ってしまっており、荷物も事務所に置きっぱなしなので千聖はそろそろ戻ることにする。

別れの挨拶を済ませて、貴之は彼女の姿が見えなくなるまでの間手を振って見送ってやるのだった。

 

「(これで一件落着……じゃない気がする)」

 

暫しの間静寂を楽しんでから帰ろうかと思ったが、言い知れぬ悪寒がしてその考えを捨てた。

直ちに悪寒がどこからやって来たのかを探り、どうするのが最適解なのかを必死に考えていく。

その結論は『何があったかを正直に落ち着いて話し、相手に納得してもらう』だったのだが、がしっと効果音が聞こえそうな勢いで自身の左肩に手を置かれたので思わずびくりと反応をしてしまった。

 

「ねぇ……貴之?」

 

「いぃ……っ!?り、リサ?」

 

ギギギ……と効果音が付きそうなくらいゆっくりと声がした方へ顔を向ければ、そこには顔は笑っているけど目が笑っていないリサと、そんな彼女をどうやって止めようかでオロオロしている友希那(愛しい人)がいた。

何故そんな表情をしているのか?理由を考えれば答えは直ぐに出てくる。

早い話し、貴之と千聖が二人して会話していたところ──それも何だか良さそうな空気が流れているタイミングをバッチリ見られていたのである。

 

「言いたいことは何かある……?」

 

「ま、待て!?話せば分かる!とにかくああなった経緯を聞いてくれ!」

 

「リサ、やり過ぎたら聞けるはずの話しだって……!」

 

問答無用と言わんばかりの様子を見た貴之は、落ち着いて話す余裕を無くして必死に許しを請うような構図を作ってしまった。

友希那もこのままでは不味いと思って引き留めようとする。

 

「友希那。ここで止めて置かないと、貴之はまたやらかすよ?止めてもそうなるかもしれないけどさ……」

 

「それはそうだけれど……私はいいと思っているし」

 

「(やらかすのはもう確定事項か……)」

 

とは言え、友希那も貴之と一緒にいる時間は多い方がいいのでリサの考えを通すことにした。

まるで信用が無い言い分に落胆しながら、貴之は観念して今回のことを話していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……昔から役者をやってる人って大変だね」

 

「意外だったわね……彼女がそんなことを抱えていただなんて」

 

「それを周りの様子で拾い上げる貴之も貴之だよ……何をしたらそんなことできるの?」

 

「何をしたらって言ってもなぁ……ヴァンガードファイトを重ねていたら、いつの間にかできるようになったとしか」

 

その日の夜。遠導家にて改めて小百合も交えて四人で今日あったことを話していた。

小百合としては『弟が有名女優と連絡先を交換した』と言う事実だけでも十分驚きだが、彼女にも抱え事があったのは驚きである。

察知できるようになったことは本当に理由が分からず、慣れによるものなのだろうとしか今は考えられなかった。

 

「貴之……後ろには気をつけてね?」

 

「ユリ姉、俺が刺される前提ってのは無いだろ……」

 

「私も、今回ばかりは少し心配だわ……」

 

「友希那もこう言ってるし……少しは気をつけてよね?」

 

友希那が不安げになりながら言うので、返す言葉に困った貴之は頭を掻く。

どの道知られたら面倒ごとになる可能性はあるが、早いか遅いかの違いだけなら話してしまった方がいいので、貴之は先に腹を括っておく。

こう言う決断ができたのも、自分が後江生であることが大きく、他の学校だったら何が何でも隠し通すつもりでいただろう。

 

「貴之。前にも言ったけれど、あなたが他の誰かに優しくすること自体はいいのよ?ただ、一つだけ改めてお願い……」

 

──私から離れて、どこかに行ったりはしないで……。友希那が体を寄せながら、縋るような声で頼んできた。

確かに普段からそれを推奨している友希那だが、流石に目の前でそこまで親密そうになっていたら不安の一つや二つは出てくるだろう。

それを察した貴之は性分とはいえ、やり過ぎたことを反省する。

 

「大丈夫。俺は離れないよ……でも、心配かけたな」

 

「貴之……」

 

貴之が優しく抱き返しながら、迷うことなく告げたことで友希那はようやく落ち着きを取り戻すことができた。

今なら頼めそうな状況で、個人的にももう一声欲しいと思った友希那は今回思い切って頼み込んでみることにする。

 

「なら、あなたの気持ちを教えて欲しいわ……」

 

「そう来たか……そうだな。今度どこか出掛けに行こうか。友希那が気に入りそうな場所、探しておくよ」

 

「本当?楽しみにしているわね」

 

友希那の為ならばエンヤコラ。そんな精神を持っている貴之は迷うことなく友希那の頼みを承諾する。

後でどの日に出掛けるかを決めることにして、貴之はどこがいいかの目星を考え始める。

 

「ねえリサちゃん……私たちなんだけど……」

 

「多分、暫く無理そうな気がします」

 

今回の件もあり、小百合とリサは二人して自分たちの春はまだ先になると考えた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

『……あの白鷺さんと連絡先を交換した!?』

 

週明けになって話して見れば、男女問わずこの反応であった。何があっても不思議じゃないと考えていても、これは違ったらしい。

しかしながら、友希那との付き合いもあって貴之の方から迫った可能性は限りなく低いので、まずは理由をしっかりと聞いてくる。

ここで変に言い訳をしたら完全にアウトなので、貴之は包み隠さずにありのままを全て話していく──をすると流石に千聖の名誉も関わってくるので、大丈夫な範囲に納めて全て話していく。

 

「なんていうかお前……ここまで来ると人たらしの領域だな」

 

「というか、白鷺さんの素の笑顔!ありのままの笑顔なんだよ!?何で遠導君は動じないの!?」

 

「何でって……俺にとっては友希那の笑顔が一番魅力的だし」

 

『(そ……そうだったー!)』

 

そんな状況ですら全く動じない貴之は、とんでもないとしか言いようが無かった。いくらぞっこんとは言え、これは度が過ぎてるかも知れないが──。

こう言った風に自分を誰よりも見てくれる相手ができたらいいなと思う女子たちだが、余りにも動じないのはそれでどうなんだとも思った。

また、埋め合わせもそうだが元よりそうしたいと思っていたので友希那と近い内にどこか出掛ける予定を立てたのを知り、行動の速さに驚くこととなる。

 

「まあ……修羅場にならないだけマシか」

 

「そりゃそうだけどさ……リサに肩掴まれた時は本当に焦った」

 

「ならやるな……って言いたいが、そう言うわけにもいかない時だったな」

 

「いい意味での先導者ならまだしも、悪い意味で先導者になるのは勘弁だよ?」

 

実際のところ、貴之がここまでブレない人物で無ければ何かあったかもしれない。

何故問題無いように言いきれるかと言われれば、理由は貴之が当日貰った千聖からのメッセージにある。

内容としては当日の礼とちょっとした文句であり、その文句は自分の表情における貴之の変化度合いだった。

 

「白鷺さんの言い分としては、『あそこまで変化がないと、自分に興味なしと判断でいてマイナス』……と。ただ、これでプラス取ってたらヤバかったかもな……」

 

余りにも自分が無反応に近しいものだったので、千聖はそこでダメだったらしい。

本当にそれを送られた時は冷や汗もので、リサに正座させられる羽目になっていたことを記しておく。

その結果、辞めろとまでは行かないが控えろということで纏まった。

 

「俺、紗夜がどう思ってるのか気になってきた……」

 

「紗夜からねぇ……貴之はどう思う?」

 

「向こうから電話くれる段階で、少なくとも嫌われちゃいねぇだろうよ……」

 

「まあ、嫌われてたらそもそも無視を決め込まれたりするかも知れないしな……」

 

俊哉の悩みは少なくともまだ大丈夫となり、今のうちに出掛ける目処を立てるように勧めておく。

幸いにも日程は決めてあるらしいので、場所の候補に良さそうなところを探すべきとなった。

あれよこれよと口を出すのもいいが、恐らく俊哉が悩んだ上で決めたものが一番いいだろうという判断の元、今回は止めておいた。

 

「(俺は紗夜のことが好き……なのか?)」

 

──それを知るためにも、まずはここからってことか……。考えすぎて自滅するのは避け、俊哉は場所の候補を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさかそんなことがあっただなんて……」

 

「私も、千聖ちゃんから聞いた時はビックリだったよ……」

 

「貴之君……本当に気を付けて欲しいな」

 

「ま、まあ……今回は私も私だったから、あまり責めないであげて欲しいわ」

 

同日の昼休み、空き教室にて紗夜と燐子、彩と千聖の四人で集まって昼食を取りながら話し合っていた。

せっかく合同練習の影響で交流を得たからという彩の思いつきが発端となり、全員が賛成したことで実現したことである。

この四人にとって共通する話しと言えばバンドか貴之絡みであり、今回はこの前のこともあって後者の話しを選ばれた。

そう簡単に友希那から貴之が離れることはないと思うが、略奪を図ろうとする人を作り出すことだけは勘弁してほしいとRoselia側の二人は願った。

ただ、千聖にも納得行かないことがあったらしく、それが今回は大丈夫だと二人に判断させる。

 

「それはそうとしてよ……どうして!私がありのままをさらけ出しているのに!彼は全く持って平常のままなの!?もう……いくら何でもあれは無いわよ」

 

千聖の言い分が完全に不平不満をぶちまけるそれであった。どうやらその部分が完全にアウトだったらしい。

裏を返せばあと一歩間違えたらその気になっていた可能性があるので、本当に冷や汗ものだった。

 

「(谷口君……どう思っているかしら?)」

 

そんな話しもあったので、紗夜は俊哉のことを考える。自分の提案を拒否しないので、嫌われていないとは思いたいが──。

ここで考えても仕方ないので一度その考えを隅に置き、一先ずどうにか千聖を窘め、話題を逸らせるものを探してみると、真っ先に思いつくのはヴァンガードだったので、それの話しをしてみる。

 

「カードパックで集める場合、昔は大変だったみたいですよ……?なんでも、『クラン』だけに絞りこまれたパックが無かったみたいなんです……」

 

「自分の使わない『クラン』のカードも出てくる中で、欲しい『クラン』のユニットを手にする必要があった……新しく入った私たちからすると、想像を絶する苦労ですね」

 

「す、凄いなぁ……昔からやってる人たち」

 

「ルールの覚えやすさがなかったら、今頃人気にはならなかったかも知れないわね……」

 

貴之曰く、『僅か二、三十パック程度で『グレート』が四枚揃った時は天の恵みを感じた』とのことである。それほど探すのに苦労するのだ。

まだパックを目にしたことが無い彩と千聖は想像をするしかないが、それでも非常に大変だったことは予想できる。

Roseliaの五人も時間に余裕ができて、金銭的にも余裕がある時に数パック購入して開けることはあるのだが、全員が自分の『クラン』に合わせたパックを購入しているのは言うまでもない。

ちなみに最初期の頃は『ロイヤルパラディン』と『かげろう』の二つが収録されているパックがあり、それぞれ別の『クラン』を使っている友人がいたら『クラン』が同じカードを友人側に譲るのはよくある光景だったそうだ。

この時貴之も耕史と二人でパックを開けた際はそう言う風にやっており、そのおかげで当時『かげろう』の最高戦力となるユニットを素早く手にすることが出来ている。

ヴァンガードの話しをしている最中に、千聖が貴之と電話していた玲奈のことを思い出す。

 

「そうですね……女子とヴァンガードの話しをできるたりすると弾みがちになりますが、少し明るめなこと以外はよくいる後江生……と言うのが私の見立てですね」

 

「私もあまり話したことが無いので氷川さんと同じです。青山さんのことは、私たちよりも友希那さんや今井さんの方が詳しいですよ」

 

何故その二人が出たんだと思って聞いてみると、その二人と玲奈は小学生時代からの付き合いだと言うので納得できた。

貴之からすれば、一真の件もあり気づけるのが非常に早い人も追加されるのだが、その発端は教えて貰えないだろう。

それならば仕方ないと割り切り、その他普段どうしているか等の会話に変わっていき、千聖は途中で貴之のことを思い出す。

自分の羨望や嫉妬を疑問だけで終わらせず、理解した上で聞いてくれ、そこから今までの鬱憤を吐かせてくれる人など今まで一人もいなかったのだ。間違いなくいい人だったと言えるが、一途過ぎる面は残念だった。

 

「(本当に、不思議な人だったわね……)」

 

──想われている友希那ちゃんは幸せ者だわ。三人と話しながら、千聖は二人の行く末に幸があることを願った。




そんなわけでサブイベント回でした。何気に千聖のフラグが立つ一歩手前だったので、貴之は今回が最も危ない綱渡りをしています(笑)。

今回この話しを作った意図としては、貴之の立ち位置がどうなったかの確認も兼ねています。とは言え、人間誰しもが『持たざる者』と『持つ者』の関係になりやすいのでですが、貴之は傍らから見ると後者になりやすい立ち位置に変わっています。今回のは『辿った道によって得られたもの』がキーとなり、千聖が前者、貴之は後者となりました。何も事情を知らないならどうやっても反対になりますが、事情を知る者同士ならこうなります。
全国大会優勝よりも前なら、どちらかと言えば前者寄りになりますね。

次回はRoseliaとハロハピを絡ませる予定です。

没案となった紗夜がヒロインだった場合の話しは読みたいですか?

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