ヴァンガードifの一話見ましたが、のっけからメタ発言にその他諸々……今回はかなりギャグ要素が強い感じがしますね。
次回予告における伊吹の愚痴はごもっともだと思いました(笑)。
「よし……とりあえずこれで準備完了だな」
『それなら何よりだ。こっちもあまり助けになれなかったし、少し不安だったけど良かったぜ……』
ミニライブが終わって数日後。紗夜と出掛ける約束の日の朝に、俊哉は貴之と電話しながら最後の確認をしていた。
貴之が助けになれなかったと言うのは、自分と友希那のデート等における経緯が慣れ親しみ切っている相手前提のことだったせいである。
俊哉と紗夜の場合はまだ会ってから半年もしていないし、二人だけで話す機会等も多くなかったので貴之らの方法で行った場合は逆効果になる可能性が示唆されていた。
そんなこともあって、俊哉は貴之の経験を「そう言うパターンもある」程度に留め、なるべく自分なりに考えて複数のパターンを準備して、紗夜が選んだ場所へ行く形となっている。
幸いにもミニライブが終わった翌日に行き先は決まったので、今日はそこへ出掛けることとなっている。
『ともあれ、俺ができるのはここまでだな……後は頑張れ』
「ああ。上手くやるよ」
電話を切った俊哉は家を出て合流場所へ足を進める。
もう真夏と言っていい気温になっているので、流石に上は半袖一枚……良くても薄い上着とで二枚になってしまい、こう言う時あまり飾れないのは男の寂しいところだなと俊哉は思った。
それでも無理に厚着をして汗だらだらになるよりはいいので、過ぎた事だと割り切る選択を取る。
今回の合流場所は商店街の入り口前である。駅前でも良かったが、こちらの方が合流しやすいのが理由で選ばれた。
「さて、着いた訳だが……」
「……あら?どうやら同じタイミングで来たようですね」
──ちょっと早かったか?と思いながら見渡そうとしたところで、横から声を掛けられて振り向けばそこに紗夜がいた。
「おはよう紗夜。ミニライブ、楽しかったよ」
「おはようございます。谷口君に楽しんでもらえたなら幸いです」
互いに挨拶を済ませた後、俊哉は紗夜の服装に注目する。
今回の紗夜が選んだ服装は水色の生地が薄いものの丈が膝よりやや下くらいまであるワンピースの上に、同じく生地が薄い白のカシュクールを組み合わせた、夏場に合わせて清涼感のある格好をしていた。
履いている底がやや低めのヒールもカシュクールの色合いに合わせて選んでおり、色合いにおける痛々しさは無い。
派手になり過ぎない色合いの選び方が紗夜らしさを思わせるが、普段とは違って自分に見てほしいと思わせるようなお洒落をしていきているのが見て取れる。
自分の為だけに──と考えると、俊哉は内心で嬉しくなった。
「どうでしょう?変じゃなければいいのですが……」
その目線に気づいた紗夜がワンピースの裾を軽く摘まみながら、少々気恥ずかしそうに俊哉へ問いかける。
普段は落ち着いていて、どちらかと言えばクールやビューティーの方が先に出てくるだろう紗夜が、少し自信なさげにしていると言うギャップを前に心臓が跳ねるのを感じながら、俊哉は顎へ手を当てながら少しの間だけ考える。
あまり長い時間見ていると、紗夜が恥ずかしさで更に顔を赤くしそうなのでもう少し見たいと言う思いはあれど、それをいきなりやるのは不味いと思うのでそんなことはせずに所感を伝える。
「涼しさも感じられるから、夏場には丁度良さそうだな……紗夜らしい落ち着いた感じと、服装による可愛らしさってのかな?それが合わさってるし、似合ってると思うよ」
「本当ですか?良かった……」
変だと言われなかったことに紗夜は安堵する。服装を選ぶ際は日菜に手伝ってもらっていたのだが、来てみれば自分を褒めるので参考にしづらいのがあったのだ。
と言っても、彼女が選んだ場合は大体自分に合わないのは持って来なかったし、彼女がダメ出しをしなかったと言うことはそう言うことなのだろう。
俊哉の服装を見ようにも、夏場故に白いシャツの上に青の薄いジャケットと黒のカジュアルスラックスである為、変じゃないならそれでいいと終わってしまうのだった。
「さて……時間まで余裕あるけど、もう行くか?」
「そうですね……では、行きましょうか」
早速移動を始めようとしたが、二人はとあることを切り出すべきか悩んで立ち止まる。
互いが歩き出そうとしないのでどうしたかを聞こうとするが、同じだった場合を考えると気恥ずかしさが湧いてくる。
しかしながら、このままでは無言で時間を過ごしてしまうのでそれは避けたいところであった。
「「
完全に同じタイミングで声を掛けてしまい、二人揃って暫しの沈黙を走らせることになってしまう。
二人揃って手を繋ごうと思っていたのだが、これを後で知ったらきっと笑うか余計に恥ずかしくなりそうなので、それは聞かないでおくことにした。
どちらから話すべきかで悩んだが、ここは男の意地が勝って俊哉が自分から切り出すことにする。
「そっちが良かったらだけど……手、繋いでみる?」
「(お、同じことを考えていたのね……)」
差し伸べられた左手を見て、紗夜は自分の頬が熱くなっていくのを感じる。
もし自分からそれを頼んだらどうだったのだろうか?と考えて見るが、嬉しさが勝って上手く考えが纏まらない。
そんなこともあり、思わず自分の右手を見つめてしまう紗夜だった。
「……どうだろう?」
「あ、すみません。実際に言われると色々考えてしまって……嫌ではないんです。そうさせてください」
──まだ早かったか?少し不安になった俊哉だったが、紗夜が返事と共に右手で取ったので安心した。
最初の出だしはどうにか順調と言える結果になり、二人はそのまま駅まで歩いて行く。
紗夜は元より、俊哉も貴之と同格くらいに見た目がいいので十分絵になる光景を作れている。
「一つ、気になることがあるのですが……」
「ん?どうした?」
相手との会話を弾ませる為に敢えて先を促すような反応をする俊哉だが、聞かれた理由は大体分かっている。
今回行く場所はゆっくりと見ていくことのできる水族館となっているが、そこで行われるイベントが問われた理由である。
ちなみに今回水族館に行くことになった理由として、そこができたばかりだからと言うのと、紗夜がたまには水生生物を見てみようと思ったからだった。
「こちらのイベントには参加するのですか?」
「ああ……これは今回見送りするつもりだよ」
その水族館がヴァンガードの専門店と近いかららしいが、そこで水中系の『クラン』に限定したファイトイベントをするらしい。
俊哉が見送る理由としては、自分の使用する本来の『クラン』が典型的な機械系のものである為、参加するに当たって本来のデッキが使えないことが致命的であった。
これ以外にもいきなりそのデッキを使おうにも、貴之程順応性が高いわけでは無いので痛い目を見るだろうと思っている。
「それに……ファイト自体はいつでもできるけど、紗夜と出掛けられる貴重な時間だからさ……俺としてはそっちを大事にしたい」
「わ、私と……?なら、そうしましょう」
自分を見てくれているのが伝わり、紗夜は硬直したのち笑みを浮かべる。
ただ見ているだけならガンガン進んで行ける人もいいかもしれないが、紗夜としては隣にいるなら俊哉のように自分を放って行くことなどせず、足を揃えようとしてくれる方が好ましいと考えている。
また、その笑みで俊哉の心臓が思わず跳ね上がったのは本人だけが知るのだが、もう一つのことは紗夜も知ることになる。
時間が空いたら見に行くくらいの方針になり、駅に着いたので改札口を渡って電車に乗る。
「空いてて良かったな」
「ええ。これなら疲れないですみそうです」
今回は少し早めの時間に出ているので、電車に乗っている人も少なく二人揃って座ることができていた。
ちなみにもし片方しか空いていなかった場合、恐らくは二人揃って立ったままだった可能性が高い。
と言うのも、二人して譲ろうと言う気質が強すぎてお互いに引かないだろうからである。
「どこから回るか……決めていますか?」
「順路次第ってところだけど、大雑把程度には」
と言っても、お互いのペースがある為そこはケースバイケースである。
形態を使ってマップを見ながら、どこを見ていこうかと決めている内に時間は過ぎていき、目的の駅に辿り着くのであった。
* * *
「思ったより人がいないな……できたばかりだから様子見か?」
「ですが、これならゆっくり見て回れそうですね」
いざ目的地に辿り着いたが、予想よりも人が少なかった。
今回は新しい場所なので人気が無いと言うことは無いだろう。イベントのことも考えると後々人が増える可能性も示唆されるが、今しばらくは大丈夫だろう。
一先ず二人分のチケットを購入して、入場を済ませる。
「前からずっと気になっていたのですが、暗いのは雰囲気作りなのですか?」
「ああ……それもあるんだけど、調べたら他にも理由が出て来たぞ。俺たち人間が水生生物を見やすくするのと、水生生物からは俺たちを見づらくして変に警戒させない為ってのがある」
魚を始めとする水生生物は、本来は人間を見て生活することなど殆ど無い。つまりは人を『未知のモノ』として認識することが殆どで、深いところに棲む存在は更にそれが顕著となる。
その為こちらの存在を認識しやすい状況を作ると、臆病な彼らが逃げ出してしまい、せっかく見に来たのによく見えないと言う事態を生み出してしまうのでそれを避ける意味合いがある。
また、水槽のガラスは反射性に優れており、そのおかげでこちらの姿が見えづらくなっているらしく、警戒心を刺激しないように気を使っているそうだ。
ちなみに一層警戒心の強い魚がいる水槽には、マジックミラーを施して万全を期しているらしい。ありのままを出す為にかなり苦労しているのが伺える。
「で、俺たちがこうして近くに来ても平気なんだとさ……よくできてるよな」
「なるほど……そこまで考えられていたのですね」
──知識蓄えといて良かった……。答えることができた俊哉は内心で安堵する。
ここで答えられなかったら来るだけ来て盛り上がれず終わってしまった可能性もあるので、そう思うと一歩前進と見ていいだろう。
実際紗夜も、自分の為に行動してくれると思うと嬉しくなるし、悪いとは思わなかった。
台無しになるから言わないようにしていたが、常時波打つようにして天井が見えないようにもしているらしい。
時折餌やりを目の前で行う時もあるが、開場直後なので流石にまだやらないようだ。
「どっちからでも行けるっぽいけど……どうする?」
「そうですね……」
左回りでも右回りでもどちらからでも行けるので、俊哉は紗夜に振ってみる。
左回りの場合は先に浅瀬に住まう者たちが、右回りは先に深海に住まう者たちを見れると言う違いがあり、最終的にはどちらも見て行ける。
食堂やショーが行われる場所はどちらの道でも丁度半分辺りを進んだところにある通路からのみ行ける為、それを考えると先に行かなかった方は見るのが遅れがちになるだろう。
来たいと望んでいた紗夜に選んで欲しかったので、自ら決めなかったのである。
少し悩んだが、見たいものがあったので左回りで行くことを選んだ。
「なるほど……クラゲか」
「前に、知り合いから強く推されたので……」
紗夜にそれを推したのは花音であり、説明すれば俊哉も納得した。
クラゲと言うのは実際に触れようと思えば危険であるが、こうして安全な状態で見るのならその見た目から癒しを与えてくれる、浮遊生活している生物である。
花女二年組の五人で話している際に、紗夜からお勧めを聞いたところ物凄い勢いで推して来たので、そこまで言うなら必ず見ようと紗夜は心に決めていたのだ。
「……ふふっ。どうして彼女が推したのか、分かった気がします」
「っ……!」
紗夜がとても柔らかい純粋な笑みを浮かべたので、俊哉は思わず心臓が跳ね上がり、顔が赤くなる。
普段の彼女からは想像もつかないほど屈託ないものだったので、それに引き込まれた結果である。紗夜のような人はギャップが激しく見えるのだろうと俊哉は思った。
自分がその表情を見ていたいと言う想いから、俊哉は少しの間彼女の様子を眺める。
「あっ……!ごめんなさい。私だけでつい……」
「ああいや、大丈夫だ。つまらないって言われるよりはいいし、楽しんでもらえたようで何よりだ」
俊哉の視線に気づいた紗夜が少々気恥ずかしくするが、俊哉としては問題なかった。
丁度半分を差し掛かったところで昼時には丁度よさそうな時間になったので、一度食堂へ足を運ぶことにした。
「すみません……私ばかり楽しんでしまって」
「俺も俺で楽しんでるから、その辺は大丈夫だよ。つまらないって言われないで安心してる」
あまりこう言う場所に行こうとしないので思わず弾んでいたことに気づいた紗夜だが、俊哉がそう言うのだから一先ず大丈夫だと安心する。
寧ろ俊哉としては紗夜が普段見せない表情をしたりしてくれるので、願ったりな状況になっていた。
今回『互いのことを知る』為に来ているので、紗夜の知らない表情を見ることができた俊哉はある程度成功していると言えるだろう。
「そう言えば……谷口君は普段、ヴァンガード以外に何かしていることはありますか?」
「俺か?」
ただし紗夜の方からすれば俊哉のことをあまり知れていないので、まだ成功とは言えない。
後々のことを考えるとこのタイミングで聞いておかないと難しいと考え、ここで聞いておくことを選んだ。
当の俊哉は少し悩んだが、ここで引いたら今回の目的は成功と言えないと思えたので話すことにする。
「親父とお袋の趣味が影響してな……アニメ観たり、ヴァンガード以外のテレビゲームや携帯ゲームやったり……後はプラモ作ったりとまあ、典型的なオタク趣味をよくやってるな。後はライブ見に行ったり」
──こう言う話しって、口にすると無条件で『有り得ない』とか言い出す輩が出てくるから、気の合う人たち以外では遠慮するようにしてるんだ。俊哉の意図を紗夜は何となく理解する。
後江生なら全体的に相手を理解する力がある人たちばかりなので、俊哉も気兼ねなく時々話すことはできるだろうが、他の場所ではどうだろう?彼の危惧通りのことは極めて起こりやすいだろう。
そんなことになるくらいなら、宮地生のように勉学に精力を出して他は気にしないの方が遥かにマシだろう。俊哉も実際に話しを聞かせてもらったが、竜馬も「小説で時々みる描写になるよりは全然マシ」と答えている。
俊哉が悩んだ理由は紗夜がどんな反応をするか分からないことにあり、少々不安になっていたのだ。
しかしながら紗夜にそんな気は一切ないので、俊哉の危惧は杞憂に終わる。
「大丈夫です。私はそんなことを言いませんから、続けて下さい。それに……」
「……それに?」
「私はそう言う趣味を余り持っていないので、教えて欲しいんです」
「(こうして自分から頼み込んでくるの、紗夜が初めてかもな……)」
紗夜がこう言うのは、以前まで才覚の差を振り切りたい一心でギターにのめり込んでいたあまり、他のことをほぼ捨てていたのが起因する。
そのことは俊哉も教えて貰っているので、無下にすることはできないし、自分のことを教えるのならいい機会だとも考えた。
ちなみに貴之には自分から教え、竜馬は既にその道に入り込んでいる身である為、紗夜のようなパターンは初めてであったりする。そう考えると少し嬉しかった。
「そうだな……話したいことは色々あるけど、まずはその趣味を持つようになったきっかけからだな」
初めてアニメを見る切っ掛けとなったのは、父親と母親が保管していたDVDを一緒に見たことからだった。
その後は日曜の朝に放送するヒーローアニメ……俗に言う『ニチアサ』と呼ばれる枠組みと、ゴールデンタイムに放送されるアニメを観たり……と色々見ていく内に入り込んでいった。
また、それらのアニメのゲームが販売するとなり、貴之に会う少し前にゲームを買ってもらってからはそちらにもハマるようになり……と、少しずつではあるがオタクとしての道に踏み込み始めていた。ロボットものを見たのはこの時期が初で、プラモデルはヴァンガードを知ってから少し後に作るようになった。
貴之にヴァンガードを教えて貰った後もその趣味は続いており、古いものを両親に教えてもらって観てみたり、中学生に上がれば深夜系のものを録画して後日観たりすることも増えた。それらのゲームが出れば、お金やジャンルと相談して買うようにもなっている。
ライブは友希那と貴之の話しが影響しており、一時期は友希那のメンバー探しの手伝いも兼ねて見ていたことがあることも今回思い切って白状する。
「えっ?あの……もしかしてですけど、私のことは……」
「友希那と紗夜が会うよりも前に知ってたし、話しを持ち掛けてみたのも俺だよ」
「(私のこと……他の誰よりも速く知ってくれていたのね)」
意外なことに、目の前の人は家族を省いた知人の中で最も早くから自分のことを見てくれていた──。それを知れた紗夜はとても嬉しかった。
日菜を超えなければならないと焦っていたから気づけなかったのだろう。そう考えると少し恥ずかしかったが、今回は嬉しさが勝る。心なしか心臓の鼓動が一瞬だけ跳ね上がるのを感じる。
もう少し視野を広く持てたのなら、少し変わっていたのだろうか?俊哉の言葉を聞いて思わず考えてしまう。
「谷口君、私のことを湊さんと引き合わせてくれてありがとうございます」
「……えっ?どうした急に……」
「今の私があるのは、あなたのおかげだからお礼が言いたくて……ダメですか?」
「いやいや、そんなことは無い!つか、俺の一存でそうなれたなら何より……」
紗夜が急に礼を言ってきたこともそうだが、紗夜が微笑みと共に首を傾げる仕草があまりにも魅力的だったので俊哉は完全に慌ててしまう。
これで終わりかと思えばそうではないらしく、一つのことを思い出した紗夜が俊哉にこう告げる。
「私を変えるきっかけをくれたあなたは……無力なんかじゃないですよ?
「……!?」
自分の目を見てきて、柔らかい笑みと初めての名呼びと共に自分を肯定する言葉を投げられた俊哉は紗夜に釘付けとなった。
* * *
「俊哉君、今日は連れて来てくれてありがとうございます」
「紗夜が楽しんでくれたなら、俺も嬉しいよ」
時刻は進んで夕方──。あの後ショーとイベントも見て、見てなかった場所も見て回って帰ろうとなった時にはこの時間だった。
ショーはイルカのものであり、できたばかりの出だしとしては最適だったと言える。
ちなみにファイトイベントの方は少人数の大会形式と言えど、基本的には記念に一戦と言う人たちだったので実力派のファイターがおらず、俊哉が参加していたら蹂躙になってしまっていた可能性すら考えられるものだった。
その為、俊哉と紗夜は二人して「見ているだけで正解だった」と言う答えを下していた。
「紗夜があの時止めてくれたから、この考えを持てたんだと思う……何度礼言っても足りないかもな」
「もう。大袈裟ですよ……」
こうして照れる紗夜だが、俊哉からすれば本当に彼女は恩人であり、あの時止めてくれなければ俊哉は堂々と参加して蹂躙を行っていた可能性があると考えると中々笑えない話しである。
紗夜はこの時当時のことを思い出し、ずっと気になっていたことを聞いてみる。
「ところで、前に言っていた模索の方は大丈夫ですか?」
「そりゃもうバッチリ。お前のお陰でな」
「……簡単に教えてもらっても?」
「ああ。答えとしては……」
紗夜にだけはいいと考え、俊哉はその内容を教える。
ここで勿体ぶる選択もアリではあったのだが、恩人相手にそれをできる気はしなかった。
「内緒にしといてくれよ?
「……っ!はい。約束します」
初めて見たかも知れない彼の得意気な笑みと、二人だけと言う甘美な響きが紗夜にそうさせ、心臓の鼓動を跳ね上がらせる。
また、後ほど紗夜はその笑みが瞳に焼き付いているのを自覚し、忘れさせてもらえなくなる。
「料理出来るようになろうかな……」
「……どうしたんですか?」
俊哉がこう考えた理由は二つある。
一つは以前、テストが終わった後に貴之が料理をしている姿を見ての事で、彼自身も「できるようになれば後々役に立つ」と述べていた。
「そうすればほら……その人の好きなものをいつでも作れる訳だし……」
「あっ……!」
二つ目は今日の昼食、紗夜がポテトを食べる度に幸せそうな笑みをしていたことにある。きっかけは一つ目だが、決定打はこちらである。
もう既に他の人にも知られているかもなので、いたずらに広めないようにして欲しいことだけ頼み、俊哉もそれを承諾する。
「なら、今度見てあげましょうか?」
「いいのか?それは助かる」
俊哉からすれば願ってもない事であり、それも紗夜と一緒にいられる機会が増えるなら二重の意味で嬉しい。
紗夜から見ても、俊哉といられる機会を増やすチャンスである為、逃したくは無かった。
これ以外にも俊哉の趣味を実際に見せる約束もできており、俊哉は言い知れぬ背徳感を感じていた。
恐らく、『気になる異性の相手と趣味で語り合える』可能性が生まれたからだろう。何なら自分で染めることもできてしまうので、尚更だった。
とは言え無理強いする訳でも無いので、あくまでも彼女がこちらへも進みたいのなら……に留まる。
「もうここまで来たか……」
「日も沈み掛けていて……あっという間でしたね」
商店街の入り口前まで戻って来たら、もう夜になりそうな時間だった。
もう少し共に居たい気持ちが互いにあるが、時間が時間で、これ以上の準備が出来ていないので今日はここで解散という形になる。
「それじゃあまたな、紗夜。今日は楽しかったよ」
「こちらこそ。また会いましょう、俊哉君」
互いを知る為の出掛けは、二人揃って成功と言う形で無事に終わった。
* * *
「とまあ、そんな感じになった」
「手応えアリって見て良さそうだな……」
休み明けの朝のHR。来週には終業式が迫ってきている時期に俊哉は今回の結果を話した。
貴之から見ても、今回の結果は成功と見れるものであり、今後に期待と言える。
「聞いてみれば紗夜の距離感って分かりやすいんだね……」
「苗字呼びだったところを名前呼び……後は誰にでも敬語がタメ口になれば、か。確かにそうだな……」
確かに話しを聞けば聞くほど紗夜の距離感と言うものは分かりやすい、名前呼びには貴之もそうなのだが、彼の場合は『互いに兄弟姉妹がいる』からややこしさを避ける意味合いが強く、それら抜きにしてだと俊哉一人である。
後は紗夜さえ良ければ呼び捨てやタメ口が飛んでくるはずなので、そこまで上手く繋げて行ければいいと考えられる。
「約束ごともできてるのは大きいな。これからいくらでもチャンスあるってことだし」
「当初の目的を成功してそれだもんな……。ちなみに今の心境はどうなんだ?」
「……ボーっとしてるといつの間にか意識してたりする。今はそんな感じだな」
「ほうほう……」
話しを聞いた瞬間に何やら玲奈が意味深な笑みを浮かべる。理由としては約束ごとの内容が大きい。
「ちなみに紗夜を染めるご予定は?」
「そこは本人次第だ」
玲奈としては染まった紗夜を見てみたい気もするが、まあそこは無理しないでもいいだろうとは思っている。
ただ、どちらにせよ俊哉としてはとある漫画で主人公の独自にあった『好きな子と推しで盛り上がれる』に近いことができるかも知れないので、それだけでも願ったりであろう。
間違い無く竜馬が聞いたら何か言いそうな案件だが、これは出だしに成功した俊哉の特権と言えるだろう。
「そう言えば、貴之も俊哉の入れ知恵でそっち方面はある程度行けるんだっけか?」
「ああ。と言っても、俺は無難なものしか行けないが……」
「でも、入りならその無難な方がいいんじゃない?聞いた感じそっち方面知識ゼロらしいし……」
「(紗夜、こっちでも楽しんでくれればいいけど……)」
そちら方面の話しが始まる中、俊哉は紗夜のことを考えていた。
* * *
同日の放課後、練習後にファミレスで反省会を行った後、紗夜は俊哉と出掛けた情報が回ったことで色々聞かれていた。
「貴之が言ってた、『紗夜は分かりやすい』ってこう言うことかぁ~……流石だね♪」
「なるほど……さあ、続けて?」
「あ、あの……どうしてそこまで食いつくのですか?」
──と言うか、白金さんと宇田川さんまで頷いて先を促し来るし……どうしてこうなっているのよ?正直自分の話しなどあまり面白くないだろうと思っていた紗夜だが、この食いつき具合に軽く困惑を覚えた。
日菜から友希那とリサへ……と言う流れが一番濃厚だが、それを考えている余裕があまりないのは目の前にある状況のせいだろう。
特に友希那からの「何が何でも聞き出す」と言う意志が凄まじく、妙な圧力を感じる。
「紗夜さんがそう言う方面に行くのって、意外じゃないですかっ!だからあこも気になって……」
「私も、友達や知り合いとそう言う話しをあまりしないので……」
この他にもあこと燐子もそう言った話しをしたのは貴之と友希那の話しだけだったので、二人目が出てきて興味が沸いている。
流石にこんな状況になってしまうと紗夜も断るに断れなくなり、流れに身を任せるしか無くなった。
「まあまあ、せっかくだしこう言う時こそね?」
「そ、そのこう言う時への執着が凄まじいのですが……」
「仕方ないわよ。この手の話しは……こうなるから」
どこか諦め半分な様子を見せる友希那を見て、紗夜は彼女が経験したことを悟ってしまった。
──ど、どうにか耐えきりましょう……。腹を括って一つ一つ答えていくのだが、紗夜は茹でたタコのように顔が赤くなっていく。
「(俊哉君も、今頃こんな風になっているのかしら?)」
そんな中でも、思わず俊哉のことを案じている自分に気付き、紗夜は更に問われることになるのだった。
無事にこの二人によるデート回が終わりました。ちょっと駆け足気味だったかもしれません……。
この二人によるメイン回はまたどこかでやるつもりです。流石に本章では難しいところですが……(汗)。
次回は貴之と友希那で放課後デート回をやり、その次からガルパ本編に戻っていくつもりです。
本章完了後に読みたいのはどっちですか?どちらを書くかでNFOイベントを書く順番が変動します
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アニメ1期OVAの海イベント
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夏にゆらめく水の国