第三十七話
「さっむ......」
何度経験しても海鳴の冬は寒いもので、手をこすりながら廊下を歩く。 海が近いというのも、この寒さには関係があるのだろうかと思いながら立ち止まり窓から空を見る。 どんよりと曇っており、どこか嫌な天気模様だった。 予報では晴れだったはずだが、何故か曇り空、しかも気温まで下がっているという。 雪かなーなんて思いつつ、歩みを再開する。 教室に入れば、がやがやにぎわっている。 皆は口々に、雪降るかなーなんて言っているが、降られたら降られたで靴が濡れて大変なのだが。 まぁ、そんなことを考えるのも俺だけかと一人納得し、席に座り空を見上げる
「なんか、なのはがいないと元気ないわね」
「・・・・・・冷やかしならどこか行ってくれ」
視線を合わせずに声の主に言う。 視線を合わせなくても声で分かる、バニングスだ。 なのはがいるなら面白い反応も帰ってきただろうが、俺だけでは面白い反応なんて帰すはずもない。 それが分かっているのに話しかけてくるとは、相当の暇人である。 そもそもだ、今日いないのはなのはだけではなく、はやてやフェイト・テスタロッサもいない。 いるのは俺とアイツだけだ。 あとはアリシアか。 なのはは教導隊経由での任務、フェイト・テスタロッサは経験を積むために、クロノの知り合いの執務官の捜査協力、はやては聖王協会。 それぞれがそれぞれの道に動き出している
「なのは達がいなくて暇なのよ」
「ならあっちのかまってちゃんに構って来ればいいだろう」
そう言って視線をアイツに移す。 俺と目が合うとビクッと体を震わせ、目をそらす。 前まではひどかったものだが、あの事件、異世界組が起こした事件以来アイツの中で何か変化があったのか、少しはましになった。 クロノの話曰く、任務にも少しずつ出るようになったらしい。 まぁ、何故かフェイト・テスタロッサもついて行くようだが。 この分なら、復帰もできるかもしれないとのこと。 話はそれたが
「藤森君は藤森君で付き合いがあるから」
「へぇ......」
月村がそう言ってこちらに近づいてくる。 アイツにもアイツの付き合いがねぇ...... 俺も前ほどクラスに絡まれなくなったとはいえ、いまだに付き合いがある。 アイツの場合、一回どん底まで落ちたのに付き合いがあるとは。 これが成長ということなのだろうか? なんて思いながら、視線をどんよりと曇った空に戻す
「なのはが心配?」
「あのね、アイツもガキじゃないんだから心配なわけないだろ?」
何を言うんだコイツはと思い、思わずバニングスの方を向けば何とも微妙な表情のバニングスが。 そんなバニングスの表情に、それ以上何も言う気が起きずため息を一つこぼす。 そんな俺とバニングスを見る月村だが、その表情は苦笑していた
「まぁうん。 私たちは神木君みたいに魔法の力があるわけじゃないからね、なのはちゃんに何かあってもすぐに駆け付けられないから」
「・・・・・・そーですね」
こんな話になるのだったら、仕事でも入れればよかっただろうか
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昼休み、教室のように人口密度が高いような場所、なおかつストーブがついている場所から離れた俺はとても寒い思いをしながら廊下を歩いていた。 嫌な事に、雪が降ってきたのだ。 まぁ元々、外で体を動かそうなんて思ってないが。 なので、図書室にでも行こうと思ったのだが
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そんな俺の前に、偶然通りがかったのかアイツが驚いた顔をしてこちらを見ていた。 俺は特に気にせず通り過ぎようとしたのだが、声がかかった
「な、なぁ」
「・・・・・・なんだ」
視線を合わせれば少し怯えが混じっているが、なんとか話そうとしているアイツの姿が。 何とも珍しいことがあるものだな
「お前は、ここに居ていいのか?」
「どういう意味だ」
意味の分からない質問に困惑する俺。 そして一層に怖がったアイツだが、話だけはやめるつもりがないようだ
「だって、なのはが、任務、なんだろう?」
「任務くらい普通だろうに」
要領を得ない説明に若干内心ではイライラしつつ、会話を重ねる
「なのはが、墜落するかもしれない、のに?」
「おい、どういう意味だ」
胸ぐらを掴み上げ、問いただす。 なのはが墜落、どういう意味だ。 というよりも、何故こいつは
「だ、だって、このころ原作ではなのはが墜ちて!
「チッ!!」
この頃忘れがち、いやそもそも俺にその記憶はないのだが、俺とコイツは転生者である。 原作、つまりこの世界で未来に何が起こるというのを知っている。 俺は神を殺した代償に、その記録を失くしてしまっているがコイツにはそれが残っている。 半泣きになっているアイツを放置し、屋上に上がるために階段を上る
『クロノ!』
『いきなり念話とは、緊急事態か?』
クロノの冷静な声を聞き幾分か気持ちは落ち着いたが、嫌な胸騒ぎがする。 というよりも、朝からずっとあったのをそらしていたというほうが正しいか? ともかく、クロノに簡単に事情を話す
『なのはは何処だ』
『なんだ、なんだかんだ言いつつも』
『真面目な話だ』
『すまん。 なのはだったか? 一応ログを洗ったが、任務は完了しているようだ。 今は他の部隊と合流のため、飛んでいるはずだが』
『悪いが、説教はあとで聞く。 今は緊急事態なんだ』
そう言って送られてきた座標を調べ、屋上についた俺はトーリスリッターに制御を任せて現地に跳ぶ