「今日はここまでだ」
小太刀の木刀を壁にかけ、そう言い残し去って行く恭也さん。 それにしても、今日は一撃入れられると思ったのだが甘かった。 残されたのはいまだに体に力が入らず壁に寄りかかっている俺と、ヤレヤレみたいな表情をしている美由希さんだ
「恭ちゃんも素直じゃないなぁ」
「・・・・・・素直じゃない?」
「うん。 ちょっと冷たく見えるけど、理樹君のこと気に入ってると思うよ?」
「・・・・・・」
気に入っている人が、玄関の引き戸を開けると同時に攻撃してくるんですかね...... この呼び出しの手合わせだって身にはなっているけど、こうやって毎回立てなくなるまでやられるんですがそれは
「納得いかないって顔だね」
「美由希さんだって毎回道場訪れてるんですから、こうなってるのは知ってるでしょう? それにちょっと心当たりがないもので」
「あー...... まぁ、やられてる側からしたらそうかな」
頬を掻きながら苦笑し、納得したような感じの美由希さん。 いや、美由希さんは納得しても俺は分からないから
「恭ちゃんだってそこまで暇じゃないんだ。 自分の鍛錬や私の鍛錬だってある、それに大学とか家の手伝いとか。 あとあと、忍さんのこととかね」
楽しそうに恭也さんのことを語る美由希さんだが、忍さんて誰? 月村の姉がそんな名前だったような気がするが
「この間だってデートすっぽかしてね?」
「は、はぁ......」
その話、俺に関係あるのかなぁ...... とか思いながら話を聞く
「あ、関係あるのかなとか思って聞いてる?」
「まぁ」
「あるんだなぁ、これが。 その日、この手合わせがあったんだよ。 そのせいというか、まぁ恭ちゃんが普通に忘れてただけなんだけど。 そんなわけで恭ちゃんも色々と忙しい中、時間を捻出してやっているわけです。 流石に恭ちゃんも嫌いな人のためにここまでやらないよ」
「・・・・・・」
最後の件は聞かなかったことにして、なるほどね。 どういうつもりで呼び出していたのかわからなかったが、少しは分かった気がする。 ただまぁ、それにしたってやりすぎな気もしないでもないが。 いや、昔に比べたらやりすぎじゃないな。 昔の修行は動けなくなったら回復魔法使って無理やり動いていたし
「わかってもらえたようで何より!まぁ、私も少しやりすぎじゃないかなぁって思うけどね。 まぁ、なのはのこともあるしどうしても力が入っちゃうんだろうけど。 じゃあねー」
俺はこのまま放置ですか。 まぁ、いいんだけどいつものことだし。 道場の天井を見上げる。 修業はしてきた。 実際、家族のおかげでその家族たちよりは強くなったが上には上がいる。 体格差や修行に費やしてきた時間の違いなどを抜きにしても、あまりにも差がありすぎる。 強くなったがこれでは...... いや、焦っても仕方のないことだ。 俺は俺で今まで通りやるだけだ。 幸いにも、呼び出しという形で手合わせは続いている。 強くなる機会はある
「理樹君!」
ドタバタ音が聞こえてはいたが、やはりなのはか。 道場の引き戸を勢い良く開けると、救急箱をもって俺に近寄ってくる。 毎回のことだが、泣きそうな顔をしなくても。 手合わせとは言え、かなり実践に近い模擬戦だ。 それなりに傷など、打撲などはできるがそれだけだ。 そこらへんも恭也さんは気を使ってくれてはいるのだが
「大丈夫!?」
「何時もの通り、打撲だけだって」
この通り、大変取り乱す。 ようやく力の入るようになってきた腕をあげ、なのはの頭をなでるとようやく落ち着きを取り戻す
「毎回のことだが、心配しすぎだって」
「そんなこと、ないもん......」
「いやいやいや」
自覚があるのかそっぽを向きながら言うなのは
「だって、もしものことがあったら.......」
「いや、ないだろ。 恭也さんて師範代なんだろ? そこらへんはちゃんと加減してくれてるから大丈夫だって」
まぁ、恭也さんの本気というものを見たことがないから断定はできないが。 そこらへんはちゃんとしてくれていると思う。 まぁ、美由希さん曰く、なのはのことで少し力が入っているらしいが
「恭也さんや俺をもうちょっと信用しろって」
「信用はしてるけど、それとこれとは話が違うもん」
そう言ってうつむくなのは。 まぁ、これも俺が記憶を封印していた影響か...... 思わずため息をつきたくなるが、それをぐっとこらえながらなのはの頭をなで続ける。 しばらく頭をなでふと腕時計を見てみると、結構いい時間になっていた
「さて、そろそろお暇するか。 体も随分回復したし」
「あっ......」
俺が立ち上がるために頭をなでるのをやめると、切なそうな声を出すなのは。 それを聞き、髪をぐしゃぐしゃにする勢いで撫でる
「うにゃー!?」
「それじゃあ俺は帰らせてもらう」
なのはが髪に気を取られているうちにそう言って歩き出す。 すると、なのはは急いで俺の横に並ぶ。 チラリと横を見ると、髪は少しぼさぼさになっていた。 ちゃんと整えてからにしろよ...... 玄関の門のところに行けば、恭也さんと美由希さんが待っていた
「数日中にまたやろう」
「今日はありがとうございました」
俺が頭を下げると、少し意外そうな顔をする恭也さん。 まぁ、今までは返事をしてさっさと帰っていたからな。 ・・・・・・すこし感じ悪かったな。 美由希さんから少し話を聞けたし、これぐらいはね。 そんな恭也さんの顔を見て、少しおかしそうにする美由希さん。 次になのはを見て大笑い
「ちょっとなのは、その髪」
「髪? うにゃー!? 忘れてたー!」
少し騒がしく思いながら、恭也さんと美由希さんの横を通り抜ける
「それではまた。 それと恭也さん、次は一撃入れますから」
そう言い残し、俺は高町家を出る