ある友人から、もうそう長くないと告げられたのは、つい昨日の事。なんとなく自分でも分かってはいたが、馬鹿みたいに晴れ晴れとした空を見上げていると、どうしても胸にどす黒い感情が湧きあがってしまう。桜も満開を少し過ぎたあたりの春真っ盛りの学校の屋上で、僕こと日向春一がきっと例外なのだろうが。
「桜ももうすぐ見納めになる。抑制剤も残り僅か。この分だと、次の春は迎えられないみたいだ」
悲観するわけではない。むしろここ数年ではないほどに、僕の、いや僕らの心は滾っている。汚泥を煮詰めたような憎悪が吹き出し、鈍い音を立てて握りしめた鉄柵を変形させた。掌からは血が滴り落ち、それでも力みは依然として収まらない。ここが屋上で良かった。もしも、醜くつりあがった口角を誰かに見られでもしたら、築き上げた模範生徒としての幻想も一瞬で崩れ落ちてしまうから。
「ああ。ああ、そうだ。ようやく、全てが始まる」
仮面を被り、多くの人の信頼を得た。決して恵まれたとは言えない体躯は、極限までに練り上げた。後悔と絶望の果てに手に入れたこの力、ペルソナ能力。そして―――。
「そう逸るなって。せっかくここまで積み上げたんだ。慎重にいこう」
誰もいない屋上に響く声は、外ではなく内へと向けたもの。すっと目を閉じ、もう一度開く。
「お、こっちに入ってきたか!なら言ってやってくんねーか。四季の奴が決して人に向けちゃいけない目で俺様を見てくるんだよ!」
「黙るといい。貴様のような粗暴な輩の些事で兄さんを煩わせるなど言語道断」
「呵呵。その辺にしておけ坊主ども。あまり騒がしくしていると、また三日月嬢に怒られるぞい」
目に飛び込んできたのは変わり映えのしない一戸建てのリビングと、そこで賑やかにしている三人の影。俺様、と自分を呼称している口よりも手が先に出そうなのが二葉。眼鏡で本を片手に二葉を罵倒しているのが四季。そして、その仲裁をしている老人口調のお子様が六道だ。
「四季。その辺にしておいてやれ。二葉が本能のままに生きてるのは、今に始まった事じゃあないだろ」
「むう、それもそうだな。そういうことだ、二葉。兄さんに感謝しろよ」
「ふざけんなァ!」
バンバン、と机を両手で叩く双葉を尻目に、窓の傍へと立つ。一回り以上古い情景は、かつて僕が住んでいた家と寸分違わない。庭に生えている一本の木のふもとで、日を浴びながら寝転がるのが好きだった。全て壊れ、無くし、奪われ、諦めた。今では霞がかかってしまった記憶だけど、憎しみも悲しみも一切合財を捨て去って、もう一度あの陽だまりへ。今の僕は一人じゃないから。
「……三日月と五月雨が起きたら、もう一度話をしよう。体の方を放置しすぎたみたいだ。誰か近づいてくる」
「相わかった。それまで存分に悩むといい。儂らはどこまでも着いて行く所存じゃからの」
「心強いよ」
再びゆっくりと瞼を閉じていく最中には、すでに心は決まっていた。感謝と、それからどこか誇らしい気持ちが胸を満たす。あの地獄でずっと寄り添ってくれた五人。壊れてしまいそうな僕から分かたれた僕の欠片たち。僕は彼らにあの陽だまりをあげたいのだ。責任を転嫁させるわけではない。残り少ない僕の命を使って出来る、最後の恩返しがそれだから。
「そ――君。じ―に下校時―――る。そろ―――の場所から立ち去ってもらえるか」
「…………」
ゆっくりと目を開くと、そこは再び学校の屋上だった。先ほどまでと違うのは、ここに僕以外の人物がいるということ。握りしめたままだった鉄柵に付着した血は赤く錆びついたように乾き、傷口も薄皮一枚塞がっていた。思いのほか時間が経ってしまっていたようだ。
「聞こえていないのか?」
「いえ、すみません。ぼーっとしていたもので」
ちりちりと背後から首筋を焦がす重圧を感じる。必死に仮面を取り繕い、今すぐにでも理性を飲み込まんとしてくる怪物を退けると、何事も悟らせぬように振り返る。
「言われなくとも、もう帰るさ。桐条さん」
「日向だったか。珍しいな。優等生のお前がこんな時間に屋上にいるなど」
「ここからの景色も、後何度見れるか分からないと思ったら、感慨深いものがあってね。つい時間を忘れてしまった」
「君がそういう事を考える人とは知らなかったな。思えばお互い校内では有名だが、あまり言葉を交わすことも無かったか」
意図的に避けていたのだから当然と言えば当然だ。桐条の名を冠する以上、いずれは僕の敵になる。そんな未来しか目指せない自分が不甲斐なくて、運命とやらを呪ってみた事もあった。当たり前のように何も変わりはしなかったが。
「……日向。いい機会だ、模範生たる君に聞いてみたいことがある。少しだけ時間を貰えないだろうか」
「特に断る理由は無いかな」
すれ違い、階下へと繋がるドアのノブに手を掛けたと同時の事だった。真剣な声音で知り合い程度の僕に、いや知り合い程度の僕だからこそ、彼女はある質問を投げかけてきた。
「やらねばならない事がある。己の全てを賭してもだ。そう言う状況になったとして君はどうする?」
「愚問ですね」
なんて皮肉。最期に背中を押す者が、まさか彼女とは。
「僕は、どんなことでもする。己の全てを賭して、ね」
背中を向けたままにそう言い放つと、返事を待たずに屋上を後にする。敵は思いのほか強大だ。今の言葉で未来へと向かって歩き出すのだろう。同じく、僕たちが過去を目指して一心不乱に這いずるように、彼女は王道を往くはずだ。それでこそ桐条。僕たちの命を懸けて挑む怨敵に相応しい。
「必ず、皆であの陽だまりに……」
掠れた声での呟きは、冷え込んだ廊下に木霊することなく溶けて消えた。
○○○
「あ、日向さん。今帰りですか?」
旧友との会合までの時間を潰すための散歩で神社へと差し掛かった時の事。変声期を迎えていない子供特有の高い声が僕を呼び止めた。見知った顔だ。外見とは裏腹に子供らしからぬ礼儀正しい雰囲気を放つこの少年の名は天田乾。数年前に、偶然にもこの神社で知り合った。エルゴ研と言う名の地獄を抜け出してから、多くの関わりを持とうとしなかった僕が自分から接触した数少ない人物のうちの一人だ。
「天田か。悪いが今日は稽古を付けてやれないぞ。この後人と会う約束があってな」
「あ、はい。残念ですが、用事があるならしょうがないですね……」
「代わりと言っては何だが、春休みはほとんど予定を入れてない。昼間は大抵ここにいることにするから、暇なときにでも来るといい」
「あ、ありがとうございます!腕、鈍らせる訳にはいきませんから」
ころころと変わる表情は犬を思わせる。その瞳が憎悪に曇っていなければ、の話だが。
「初めて出会った時の事、覚えてるか?」
「なんです、突然?」
「準備期間が終わったってことさ」
僕の言葉に緊張で固くなった天田の頭に手を乗せて優しく撫でてやる。子ども扱いするなと、口元を歪ませるが振り払うような真似はせずに次の言葉を待っている。混ざり合った感情が多すぎて読めないが、ただ一語一句を聞き洩らさないように真剣な眼差しだ。
「本当に奇妙な関係だ。雨に打たれてるお前を放って置けなかったのが始まりだったか」
「……そうですね。僕も自分の事をあまり話してないですし。日向さんの事もあまり知りません。ですが、あの時声を掛けてくれたのが、貴方で良かった。ボクはそう思ってますよ」
「似てたからな。僕とお前は」
「だといいんですけど……」
米神のあたりを人刺し指で掻きながら力なく笑う天田。初めて会った時の空虚な瞳に比べると、まるで別人ではないかと疑うほどに感情を露わにするようになった。定まらなかった矛先が、僕を手本に指針を示した結果がこれだ。結局のところ、僕と天田が似ているのは僕が天田に関わってしまったからであり、罪悪感などは更々無いが、それ故に先達として出来うる限りの援助はしていこうと決めていた。幸か不幸か、僕は復讐に必要な力には事欠かなく、とりわけ武力は実戦で叩き上げたものを持っている。それを天田に見合うように仕立て直して教授してあげた。そんな関係が約二年。字に起こしてみれば、どこぞのヒーロー物のシナリオじみていて、我ながら苦笑を禁じ得ない。
「天田。お互い、頑張ろう」
「はい」
何を、と言葉にするまでもなく、二人して夕暮れの空を見上げた。的外れで逆恨みなのかもしれない。現に、僕から全てを奪ったのはすでに没している先代の桐条だ。今の桐条に罪など無いのかもしれない。でも……。
「ごめんじゃ済まないよな」
「そうです。ごめんじゃ、済みませんよ」
取り返しなどつきはしなくて。もう、何処にも行けない僕たちは過去に思いを馳せる事しかできないから。足掻いて足掻いて、決着を付けよう。過去と未来のために。
○○○
件の旧友たちは、否な雰囲気の漂う駅の路地裏を拠点としている。必要以上の諍いを好まない僕としては、不良の溜まり場としても有名なこの場所をチョイスした神経を疑わざるを得ないが、三人組の内一人しか常識人がいないので仕方ないのだろう。尤も、あの研究所で過ごした者に常識を求めるほうが間違っているのかもしれないが。
「ジン。今日は一人か?」
「見ての通りや。二人ともちょいと目ぇ離した隙にどっか行ってもうたわ。ま、いつもの事なんやけど」
緑色のジャージと眼鏡、そして常に持ち歩いている大きな銀色のアタッシュケースが特徴的な男性。名前はジン。復讐代行屋『ストレガ』を組織する三人のうちの一人で、件の旧友でもある。桐条グループの先代当主、桐条鴻悦が設立した特別研究機関『エルゴ研』において運良く生き残った同胞だ。
「聞いたで。自分、もうそないに長くないって話やないか」
「千鳥の診断だから、まず間違いないだろうね。うちの回復役も、薄々感じてたみたいだし」
「随分冷静やと思っとったが、なるほどな。ようやっと重い腰を上げるんかい」
眼鏡越しの眼光が鋭く光り、こちらを見据える。見極めはほんの数秒だったが、その間にどれだけ多くの事を考えたのかは、本人のみぞ知る事だ。悪い意味で奔放な残りのメンバーに変わって、頭脳労働の一切を引き受けているジン。必用に狩られて得たのそスキルは、敵対すれば大きな脅威になるだろう。
「あまり見つめるな。ただでさえ三日月のせいでそっち系だという噂が流れかけているんだ」
「ドアホ。ここは茶化す場面じゃあらへんやろ」
「……そうだな。悪い。珍しく平静じゃないみたいなんだ」
「気持ちは分からんでもないがな、頭は常に冷やしとかんとアカンで。失敗できひん時は特に」
多少堅苦しい雰囲気が和らぎ、ジンは大きく息を吐き出しながらやれやれと首を左右に振る。
「しかし、アンタが暴れる言うんならワイらは喜んで手伝うで。あの場所から逃れられた恩は忘れてへんさかいに」
「ダメだ。あくまでもこれは僕たちの復讐。助けが必要なときは、一依頼者として『ストレガ』に依頼する。逆もまた然り」
『ストレガ』に限った話ではない。人工ペルソナ使いの研究が残した負の遺産たちは、極僅かながら生き残っている。同じ地獄を生き延びた者同士、お互いの窮地には助け合う取り決めも成られているが、僕は例外だ。まず一つ目に、一人で生きてゆける能力を仕込まれた実験体だったから。それともう一つ。これが主な理由となる。僕の事が怖いのだ。人工ペルソナ使いの研究が始まる以前から、とある研究の被験者として『エルゴ研』にいた僕は、『タルタロス』の攻略の時に組まされた現『ストレガ』のメンバー以外とは面識が薄い。要は、得体が知れない奴が自分を知っている恐怖とでも言ったらいいのか。そんな訳で、僕は全員とビジネスライクな関係を保つことにした。
「そか。全部決めてんなら、外野の口出しする事やあらへん。せいぜい、派手にやったり。桐条が憎いんは、生き残り組の総意。応援しとるで」
「なに、負けはしないさ。僕には心強い同居人が五人もいるんだから」
人工ペルソナ使いの更に前身。多重人格における複数ペルソナ所持、および運用実験。狂気の沙汰としか思えないような所業は、僕から全てを奪い、そして与えた。許しはしない。傍観していただけの者も、実行した者も、等しく滅ぼして、何もかもを恨まずにいられるようになったら、それだけで何も要らない。安らかな陽だまりで死ねるのなら、何も。
○○○
頃合いを見てジンと別れた僕は、真っ直ぐに古ぼけたアパートへと帰宅した。雑多に物が置いているリビングを掃除した後、箪笥で完全に隠されていた押入れを開ける。仕舞われていたのは大きな段ボールが七つ。うち一つは三日月用の私服なので省いて、六つ。中にしまわれているのは、それぞれの武器だ。六人の中で最も取り柄のない僕が持つ特殊な形をした拳銃を筆頭に、手甲や棍などそれぞれの獲物が安置されている。
「弾はまだ潤沢と言っていいか」
脱走の際、念には念を入れてぶんどってきておいて良かった。弾丸がなければ、召喚機の機能しかないのだから、これを使った戦闘を主としていた僕は、要らない子になってしまう。一応、同じ体を共有しているはずなんだけどな……。
「……うん?」
不意に内から聞こえる声が急激に賑やかになった。どうやら全員起きたようだ。窓の近くにかかっている時計を見ると、じきに午前零時を回るくらい。整備を始めたのが十時頃なので、いつの間にやら二時間近く経っていたみたいだ。
「ああ。今行くよ」
そうして、僕はゆっくりと瞼を閉じる。幼いころに身に着けたスイッチ。逃避の為ではなく、皆と話したい一心で独自にそのプロセスを編み出した。夢と現を切り替える自己暗示に近く、はっきりと自我を保っていないと危ないのだが、幸い僕の強い目的意識がいい方向に作用しているのだ。
「全員そろってるな」
「おうよ。それよりちゃっちゃと始めようぜ。昔から俺様は全員そろうとロクな扱いを受けた試しがない」
「ふははははは!恒例行事に愚痴をこぼすとは、とうとう耄碌したか我が愚兄よ!」
「うるせえェ!そう言うのがダメだっつってんだろうが!」
いつものように、二葉がバンバンと机を叩き、四季と五月雨が黒い笑いを浮かべ、六道が愉快そうに傍観し、三日月が極寒の視線を向ける。良かった。昼間には寝ていた二人だが、今日も絶好調みたいだ。
「ハル。早いところこの馬鹿騒ぎを収めて下さい。三日月は毎度このやり取りを見ていると頭痛がしてくるので」
僕たち流の団欒を眺めている僕に話しかけてきたのは、長い黒髪をしたスタイルのいい女性。名前は三日月。二葉に続いて二番目に僕から分かたれた人格だ。二葉とはまた違った意味での唯我独尊な性格で、身内以外にはとことん冷酷である。
「ま、今日だけは大目に見てくれ。これから忙しくなりそうだから」
「……なるほど。そういう事ですか。なら、今日だけは我慢してあげます」
普段からあまり動かない表情を僅かに強張らせ、優しげな眼差しを向けながら席に戻る三日月。時折、本当に僕から分かたれたのか疑問に思うほどに、彼女は賢しい。他のメンバーについてもそうだ。あの地獄を生き抜くことが出来たのも、皆がいたから。思い返せば頼りっきりで情けないと思った事もあった。そして、その都度それでいいと言ってくれたから。だから、僕は提案する。結果は目に見えているが、それでも共に歩む家族でありたい。
「皆、聞いてくれ」
あらかた言い争いが終息し、肩で息をしている二葉が席に着いた辺りで僕は声を発した。
ようやくか、と三日月は嘆息し、真面目な四季を筆頭に全員がこちらへと視線を向ける。
「おお。そうだった。今宵はハル兄様の招集に応えたのだったな。愚兄のあまりの愚かさゆえに、忘れてしまっていたぞ」
「お前、俺様を馬鹿にしないと死ぬ病気にでも罹ってるのか!?」
また立ち上がり机を叩こうとした二葉を、三日月が睨んで黙らせる。老若男女問わず震え上がらせる睨みをものともせずに、高笑いを上げる男。両手に包帯を巻き、片目を眼帯で隠した彼の名は五月雨。ステレオタイプな主人公願望を体現した人格で、二葉と並んでうちのムードメーカーだ。
「二葉。少しだけ我慢してくれ。これでもそれなりの覚悟を決めての今なんだ」
「ああ、悪い。つい、いつもの癖で、な」
バツの悪そうに頭を掻きむしりながら、落ち着きを取り戻す。いつの間にやら五月雨も神妙な面持ちでこちらを見ており、これで場は整った。
「大方、察しはついてるとは思うけど、僕は動き出そうと思う」
一日、大いに悩んだとは思えないほど、口から紡がれる言葉はよどみない。
「何もかもを奪われて、それでも生きてたからまあいっか。なんてふざけた考え方は、僕には出来ない。善人ぶって怒りを飲み込んで、そうしてあっけなく死んでいく。有り得ないな」
心の奥底に隠した淀みが、堰を切って流れ出す。普段の優しげな仮面はいとも簡単に砕け散り、修羅のごとき憤怒の形相が表に出る。
「……本当に、有り得ない。だけど、お前たちがそれを願うのなら、話は別なんだ」
顔に手を当て一撫ですると、多少だが表情が和らぐ。今更隠し事などないけれど、あまり見せていたい顔でもないから。
「タイムリミットは残り少ない。それでも平穏な日常で、やりたいことをやれるくらいの時間はあるはずだ。だから、僕は委ねる事にした」
一人一人と向き合い、視線を交わす。誰もが、一瞬たりとも目を背けないで僕の言葉に耳を傾けている。
「五人の内、誰か一人でも平穏に生きて死にたいと思うのなら、それを尊重したい。他人には見えないだろうが知ったこっちゃない。お前たちは僕の家族だ。行先は皆で決めたい」
言い切ったと同時に、暫しの沈黙が訪れる。なんて答えが返ってくるかなんて、考えるまでもなく分かってた。それでも、言葉が欲しいのだ。あの地獄で僕を支え続けてくれた時のように。
「俺様はもちろんやるぞ」
我先にと沈黙を破ったのは、やはり二葉だった。快活で不敵な笑顔で、当然だとばかりに胸を張る。
「三日月も異論はありません」
「私も同意する」
続いたのは三日月と四季。そして。
「うむ。俺としても大賛成だ。我らの居場所はハル兄様と同じ場所以外ありえんからな!」
「満場一致じゃな。まあ、結果など始めから見えておったがの」
高笑いを始める五月雨。そして、これで満足か、と顎をしゃくって促してくる六道。
「第一。これはハルだけの問題じゃねーんだぜ」
「そこの馬鹿に恭順するのは甚だ遺憾ではあるが、私にも思うところがある」
「怒って、いるのか?いや、でも……」
桐条への恨みは、切り離すことなく僕の内にある。ならばなぜだ。
「そう不思議がるものじゃあないぞ、ハル兄様。小難しい理由などないのだ」
「貴方は、私たちを家族、と言ってくれました。貴方に寄生しているだけの人格に。ならば、三日月たちも声を大にして言いましょう。ハルは家族です、と」
「呵呵。なれば、家族を傷つけた桐条を、どうして許すことが出来ようか」
優しい微笑みと燃えたぎるような怒りが同時に現れ、圧倒されて言葉が出ない。その代わりに流れ出たのは涙だった。きっと、万感の思いとはこれの事を言うのだと、そう思えるくらいに様々な思いが駆け巡り、決意に最後のピースが嵌った。
「ありがとう。それじゃあ、行こうか。僕らの終わりまで」
これから、僕の命が尽きるまで、恐らく一年も無いのだろう。十分だ。これから復讐を行うと決めたにも関わらず、心には一片の曇りもない。後は、淀みを振り払い、日を照らそう。もう、大好きだった春は迎えられないが、それで一向に構わない。
「僕らの終わりに、陽だまりを」
幕を開けよう。未来を奪われた僕たちは、過去に縋る道を往く。到達点は、遥かに遠く。霞んで、足元もおぼつかなくなるのかもしれない。上等じゃないか。無様に嘆くなど、有り得ない。手が震えれば、手の平を添えてくれる家族がいて、意思を通すための武器もある。だから、これは僕らの終わりの物語。前向きに過去に突き進む、歪な僕らの終わりの話。さあ、始めよう。願わくば、僕の家族が陽だまりを気に入ってくれますように。
という訳で、主人公たちとは敵対する予定です。
後、キタローだと会話が難しくなりそうなので、この作品はハム子が登場します。
アンチ・ヘイトのタグの具合がいまいち分かっていないので、もしもこれはアンチ・ヘイトのタグを付けたほうがいいと思った方は、感想にてその旨を記載していただけたら幸いです。