敗北。私たちがその言葉の重さを真の意味で理解してから、数日が経った。私は、天田君やアイギスと違って体へのダメージは殆どなく、一両日安静にしていれば歩ける程度に回復出来た。お医者さんからは、もう少し入院していたらどうかと提案されたりもしたけれど、謹んで辞退した。時間も、意味もないから。夢を見る。何度も何度も、内容こそ違えど総じて苦痛に塗れていて、あまりのリアリティーに自分がそうなってしまったのではと錯覚してしまいそうになって目が覚めるのだ。直接聞く機会はなかったけど、多分ゆかりちゃんや桐条先輩も同じ体験をしているんだと思う。覚めない悪夢の正体はなんとなくだけど掴めている。あの人の記憶だ。眠るのが怖い。しかし、誰が何と言おうと、私は見届けようと思う。たった数日で頬は明らかにこけ、鏡に映る自分は見るからに不健康な顔色をしている。これはきっとヒント。イジワルな先輩から、私たちへのささやかな贈り物。真実を知る術の大半を失った今、か細い藁にだって縋りつくしかない。
「……おはよう」
「ゆかりちゃんに風花ちゃん」
「やっぱり。美奈子ちゃんも顔色良くない。もう少しだけでも安静にしてた方がいいよ」
「あはは……。でも、やっぱり無理してでもいく価値はあると思うんだ」
「それは、そうかもしれないけど」
「だーいじょーぶ!別に戦闘するワケじゃないんだし。……わ、罠くらいはあるかもしれないけど」
「ちょっと。やめなさいよ、不吉なこと言うのは」
目の下に作った薄い隈を指でほぐしながら、ゆかりちゃんは深くため息をつく。それもそのはず。今日の予定は家宅捜索なのだ。誰の家かは言うまでもないだろう。桐条グループの引き継ぎやその他諸々に忙殺されている桐条先輩が、かねてから並行して準備をしていた計画の一つ。手続きは細かい既に済んでいたらしい。件の夢と並び、今となっては希少な真実への欠片。調査は必要不可欠だ。それに、男衆が軒並みダウンしている現状で、動ける者は動かなくてはならない。
「それにしてもなんかこの建物だけやけに古めかしいというか……、ホントにここなの?」
「資料によると間違いないみたい。ちなみにネット回線も引いてあるって」
「先に窓のヒビを直しなさいよ」
立てつけが悪く、風に吹かれてカタカタと揺れるガラス窓。ゆるゆるで今にもドアから外れてしまいそうなドアノブ。徹頭徹尾、非の打ちどころないボロアパートのとある一室こそが今日の目的地だ。怪しさと胡散臭さで構成されたドアを見つめ、時を待つ。もうすぐ午後。約束の時間だ。
「っと、時間ぴったり」
木枯らししか聞こえないような場所だけに、エンジン音は良く響く。
「待たせて済まない。こちらも色々と立て込んでいてな」
「いえいえ、大丈夫です。私たちも今さっき来たところですから」
どうやって積み込んでいたのか分からない量の機材を下ろしながらとりあえずの挨拶を交わすと、全員の視線が改めて日向春一の住居、いや、人気が全くないので恐らくは元住居へと注がれる。
「一見何の変哲もなさそうだが……。一応油断だけはしないでおいてくれ」
「……ですね」
軋む階段を上り、二回の端に位置する表札も付いていない部屋の前に立つ。
「開けるぞ」
ガチャリと捻られたドアノブは抵抗することなく開き、質素な室内の様子を覗かせた。やはり、鍵はかかっていない。かける必要がないのか、それとも罠か。虎穴入らずんば虎児を得ず。他に道がないなら尻込みしている場合じゃない。目の前にある選択肢は出来る出来ないではなく、やるかやらないかだ。
「お邪魔しまーす……」
極力足音を殺し、床以外のあらゆるものとの接触を避けて進む。一歩、また一歩。不自然な物や気配がないかどうかを嗅ぎ分けなければならず、たった十メートル足らずの距離を進むだけなのに、額から湧き出た汗が首を伝って滴り落ちる。集中を切らさずに何とかリビングらしき部屋まで到達して、深く深く息を吐く。開けっ放しの窓から入ってくる風が程よく体の熱を冷ましてくれるのが在り難い。
「で、次どうしましょうか?」
「手分けして、慎重に。それしかないだろうな……」
「あんまり広くないのが唯一の救いね」
見取り図通りなら、部屋は多くない。トイレやお風呂を除けば物置らしきスペースが一つと、寝室用の部屋が一つ。それだけのはずだ。しらみつぶしでも四人いれば十二分に手は足りるだろう。
「ええと、じゃあ、私はこっちの部屋を見てき、ま……す」
「どうした、有里?」
部屋と部屋の仕切りを開いた瞬間、目に飛び込んできた光景に一瞬呆けてしまったが、同時に納得もした。あの人はもう、逃げる気も隠す気もないのだ。壁一面に貼られた夥しい数の紙には、これまた夥しい量の情報が記載され、仄かな狂気を感じさせる。刑事モノのドラマに出てくる犯人の部屋宛らに、壁面は一切露出することなく何かしらの資料に埋め尽くされた部屋。中央にはいくつかの段ボールを乗せた大きなテーブルが置かれ、そこからこぼれ出た紙で床も足の踏み場がないほどだ。
「……どうやら探す手間は省けたらしい」
見た限り、一面に鏤められた情報は、例外なく手書きによるものだった。一見パソコンで作ったように見えて、所々に歪みや筆圧の髙さからくる紙片の欠損が窺える。中には赤黒く変色した飛沫がかかってしまっているモノもあり、独特の血生臭さがうっすらと室内を漂っている。私たちはアイコンタクトを取ると、一先ず桐条先輩を筆頭に、逸る気持ちを抑えつけながら安全の確認作業に取り掛った。日向春一は不必要な事はしない。故に事ここに至って罠など半ば必用のない行為だと。分かっていても、万が一を考えるとどうしても慎重になってしまうのは無理からぬことだろう。
「それらしいものは無いみたいですね」
「じゃあ……」
「ああ。岳羽と有里は、この部屋の探索に移れ。山岸は記録と整理を頼む」
「了解!」
重なり合って貼り付けられた紙を、一枚一枚丁寧に剥がしていく。その一枚がとてつもなく重い。文字通り、これらは日向春一が積み上げてきたモノなのだ。腐食してパリパリと朽ちるテープの音か、紙同士が擦れる音以外の音が消える。手に取った紙に綴られた内容はそれぞれ違えど、とても、少なくとも私にとっては呼吸を忘れてしまうほどに、貴重な言葉だったからだ。どうやら運が良いことに当たりを引いたらしい。計画の全貌でも詳細なデータでもないこれは、彼自身の手記。あの人が旅路の中で何を想ったのか。私はそれが知りたい。
「…………」
目を引いたのは、もう、桜は見れないらしい。そんな言葉だった。死期を告げられた人間には似つかわしくない穏やかな筆跡で、大まかな近況報告から始まり、こちらの動きへの対応がいくつも書き連ねられている。
「違う」
読みたいのはここじゃない。その一心で付近にある紙片を手当たり次第に手繰り寄せては読み漁る。重要なのは、言葉の節々に残された主観的な部分。淡い手がかりを寄せ集めて、分厚い仮面で偏執狂のように隠されていた素顔を暴く。私はそのためにここへ来た。何も知らないままで笑ってられる時間は、もう終わってしまったから。悪夢の辛さから、どうしてそこまで気にかけるのかと、何度も何度も何度も何度も自問して、漸く理解した。日向春一という人物は、優秀過ぎて、運が悪すぎた。それ以外はなんら私と変わらないのだ。もしも、なんて仮定は無意味だけれど、ああ、でも暖かな夢を見ずにはいられなかった。あのなんでもない寮のロビーで、いつもみたいに順平君がバカやって、ゆかりちゃんが呆れてて、風花ちゃんがおろおろしてる。少し離れたソファーには真田先輩と桐条先輩がいて、キッチン近くではコロマルと天田君が遊んでて、荒垣先輩は皆の分まで料理を作っている。アイギスやチドリちゃんも一歩引いたところにいて、私は笑えていて、日向先輩も輪の中にいる。そんな子供じみた想像が決して訪れない世界が、酷く汚れて見えた。
「……!これっ」
気が付けば、道を誘導されたように手元には未開封の封筒があった。真新しく、その他に夢中にならなければ、いの一番に発見したであろう白い封筒。はっ、と顔を跳ね上げて見回してみれば、どう考えても作為的に資料を配置された箇所がいくつか見受けられる。道は須らくこの一枚へと通じ、例え私がどこをスタートにしようが必ずここへとたどり着くように構成されているのだ。どれか一つを取り上げて見たからこそ、見誤っていた。日向春一という人物は、有能だが万能ではない。完全に人の思考を読み切るなど、どだい無理な話だ。経歴から趣味嗜好に至るまで、この部屋にある私たちの膨大なデータと、尋常ではない執念を以てあの人は事を成した。正気の沙汰ではない。いったいいつから計画していたのだろうか。十年、いやもっと前かもしれない。年端もいかない子供だからこそ考え付いた狂気の策。広がり続ける可能性の枝の全てに布石を打つなど、馬鹿げているとしか言えないようなそれを、日向春一は人物は完遂してのけた。私たちが命懸けで戦ってきた一年が霞んで見えるくらい過酷な旅路を延々と歩き続けて、摩耗して、消耗して、絶望すら飼い慣らして、最後に私たちの前に立とうと言う。ああ、そうだ。こんな手紙、読まなくたって分かるとも。
「……冥府の塔で、君たちを待つ」
凛とした文字で書かれたただ一言を見た瞬間に、吹っ切れた。どんなに悩んだところで、問題はそこじゃない。勝てないかもしれないし、戦いたくないかもしれない。壁を、途方もなく高い壁を前にして、私は立ち止まった。でも、私は一度たりとも逃げようとは思わなかった。だったら、それでいい。どうするかは、その時に選択しよう。
「だから、待っててくださいね、先輩」
・・・
「なんてことを言ってるだろうさ。僕らの思惑通りに進んでいればね」
「では……」
「心配はいらない。後はその時まで生き永らえてるだけでいいんだ。だから、エリザベス。君は自分のことだけ考えていろ。流石にここまで来て勝手にこと切れるような真似はしない」
「差し出がましくも口を挟ませて頂くならば、気迫だけを根拠にするには少々説得力に乏しいお姿かと」
「綱渡りの仕方は十分に心得てる」
にこりと誤魔化すように微笑んでみようとするも、残念ながら眼球以外の器官はだんまりを決め込んでいる。目はおぼろげながらにエリザベスの青いシルエットを認識するのが精いっぱいだし、耳鳴りも酷くて発している声が自分で思っているほどはっきりと発音出来ているかも分からない。手足は長時間正座した後みたいに痺れ、数分に一度は喉元まで胃液がせり上がってくる始末。一部の隙もない。現状、僕は正しく満身創痍だ。吹けば飛んでしまう灯の命を激しく燃焼させることでどうにか生を繋いでいる。だが、それもあまり長くは持たないだろう。早急に一命を取り留めたと言えるラインまで体調を引き上げねば本当に死んでしまいかねない。哀しい哉、仕方がないとはいえ命の残量が圧倒的に足りないのだ。
「それでも、そうだな。何かをしてくれる意思があるなら、このまま会話を続けてくれると助かる」
「その程度ならばいくらでもお付き合い致しますが……。なるほど、これが歯痒いという感情なのですね」
珍しく視線を逸らしたエリザベスは、そのまま仰向けで壁に凭れ掛かっている僕の頭上に視線を向けた。
「もう戻らせないんだ。昔やった時も何か月かこのままで衰弱死しかけた」
視線の先にあるのはペルソナ、カロン。彫像のように固まってはいるが、その総身からは絶え間なく黒い瘴気が漏れ出しており、かろうじて生きている。ついでに付け加えれば左手も無く、まんま僕の容体そのものだ。ポーカーフェイスには自信があったが、ありのままが顕現するこっちはどうにも誤魔化しが効かない。
「アレはとっておきでね」
「存じております。主共々、貴方様の力を拝見させていただきましたので」
「そうか。これで同じことが出来るなんて言われてたらどうしようかと思ったよ」
「真似事は出来ても全く再現は不可能でしょう。これでも力の管理者。己の武の程は弁えております」
「……真似事、か。つくづく恐ろしいな、君たちは」
唯一絶対だと考えていた切り札だが、どうにも大きな慢心だったようだ。まあ、彼女を基準に据えること自体が甚だ間違いなだけかもしれないが。
「とはいえ、異なる可能性の同時顕現。私共に出来るのは欠片が精々でございます。ハル様のように終点の複数展開となれば、それはもはや及びつかぬ領分。誠に感服いたしました」
恭しく丁寧な一礼をすると、数歩だけ近づき僕の傍らで静止する。視界の隅っこに移り込むか否かのギリギリの位置。無意識に広げられた警戒網の絶妙に外側へと、エリザベスは陣取った。常識に疎いようでいて気遣い周りは完璧だ。
「さて、有限な時間も残すところ僅か。腰を据えて話し込む機会は、自ずと限られてくるだろう」
「旅路の終点。口惜しくもありますが、同時にこれまでにない昂揚を感じます。結末がどうなるかなど待つまでも無く、私は貴方のお供が出来て幸いでした。この場にて深くお礼を申し上げます」
「いいさ。それ相応のサポートは受けさせてもらったし、それに、考えてみれば誰かに覚えておいてもらうっていうのも中々どうして悪くない」
憑りついていた妄執も取り除かれ、少しだけ澄んだ思考がそう思わせる。視点が広がった。あるいは異なる視点を持つ余裕が生まれたのか。以前よりも遥かに死に近づきながらも余裕がある、などとするのは些か可笑しな気もするけれど、兎に角、あの夜を越えて、僕らは到達点の一歩手前にまでたどり着いていた。残すはあと一欠片だけの未練。それで全ての清算が終わる。長かった。本当に長かった道も、ゴールは目と鼻の先だ。後はひたすらに耐え忍び待つだけならば、ふとこれまでを振り返ってみようという愚考が浮かんでも、まあ、仕方ないことなのだろう。
「思い返せば」
理不尽に晒され、食い荒らされ、果てには逆に僕が理不尽を飲み込んで幾星霜。敗北の許されない戦いのみが常にあり、敵を確実に手の平の上で操る術ばかりが上手くなった。同年代の奴らが青春を謳歌している頃、毎日毎日脳の酷使で鼻血が出るくらいに計画を練った。とめどなく過ぎ去っていく時間の流れの中を、自分だけが抗い、縋るべき過去を手放してしまわないようにもがいていた。世界は僕一人のちっぽけな頑張りなんて意に介さずに進み続け、朽ちれば無感動に押し流していくことだろう。人一人の人生なんてそんなものだ。特に、絆を内に求めた僕みたいな輩なんかは。
「運命とは、最もふさわしい場所へと貴方の魂を運ぶのだ。なんて格言も今なら多少は共感できる。影時間を象徴するこの塔は、日向春一の決着の場にこれ以上なく相応しい。実に楽しみだ」
「……その言葉は予想しておりませんでした」
「そうでもないよ。僕はね、こう見えて結構な見栄っ張りなんだ。上っ面ばかり良くしてきた反面、中身はぐちゃぐちゃだったから余計にそう。僕の力は家族の支え無くして成し得ない。なら、ほら、最後にあいつらを何よりも誇りたいと思うのは当然の流れだろう?」
憎悪か、恐怖か、闘志か。目の前に立った彼女たちがいったいどんな想いを胸に抱き、何を目的に戦うのかは分からないが、天田を筆頭に、僕ほど愚かでもないのだ。余計な心配は杞憂に終わるだろう。
「この召喚器『ステュスク』は、イカれた科学者が機能だけを追求して作り上げた呪物だ。無論、調整なんか効かない。そしたら奴ら、僕の方を調整しやがってね。所謂、マシンマキシマム構想ってヤツさ。お蔭様で寿命の大半と引き換えに強力な力を手に入れたが……、いかんせん人の領分を超えた力ってのはどうやっても副作用がキツい。結果中途半端にしか力を引き出せない半欠陥品扱いになった。ぶっ飛んだご高説を垂れ流す科学者連中は散々僕をなじったが無理なものは無理だしね」
人格の分裂を促すべく苦痛を与え続ける実験よりかは幾分か楽だったのを覚えている。主に薬漬けの日々だったので記憶は曖昧だけれど、あの研究所において死の危険が少ないなら随分良心的と言えるはずだ。
「したがって僕は全力を出したことがない。あの異形の銃が十全に振るわれるとしたら、それは命と引き換えでも構わない機会。即ち、次に彼女たちと相対する時だけだ」
「姉が喜びそうな話です」
「くれぐれも伝えないでくれ。あの人は間違いなく二葉の同類だ。また前の時よろしく、よく分からないうちにどうにされて手合せに持ち込まれかねない」
「おや、その言い方では私なら大丈夫、と聞こえますが?」
「……中々怖い冗談を言うようになったな、君は」
「ふふふ。お許しください。これもハル様から受け取った欠片です」
「は、ははは。なら、仕方ないな。ああ仕方ないとも」
驚愕よりも先にどこか暖かい笑いが漏れる。
「春先に初めて会った時は正直どうなるものかと思ったが……、うん。悪くない。見違えたぞ、エリザベス」
「恐縮です」
「しかし、そうなると惜しいな。もう少し早く気付けていれば僕の家族とも仲良くなれそうだったのに」
「従者としての役目も満足に果たせていない身。これ以上何かを貰うのは分不相応というものです」
「ああ、その件なんだけど」
そこで言葉を切ると、一旦ゴホゴホと咳をして血痰を吐き出してから、僕は言う。
「さっき偶然にも想起した記憶があるんだ。桐条鴻悦の野望自体になんて興味の欠片も無かったけど、思い出しちまった以上黙殺は出来ない。ま、あいつらならどうにかするんだろうが、ほら、勝者には褒賞が必要だろう?」
「アレを理解した上で、彼女たちはどうにかすると、ハル様はお考えなのですね」
「有里美奈子は僕の事を諦めてやらないなんて啖呵を切った女だぞ。ナポレオンの辞書に不可能が無いのと同じく、あいつの辞書には諦めの文字はない。本当に奇矯で愉快な奴だよ」
「同意いたします。彼女は確かに稀有な存在。不肖の弟にはもったいないとすら感じる事もしばしば」
「なら、今からでも乗り換えてみるかい?」
「まさか。私の答えは貴方から頂戴いたします」
仄かな抑揚で弾んだ声。変わらず薄い笑みを浮かべているエリザベスが目に浮かぶようだ。和らいだ痛みは、それでも焼けた鉄を彷彿とさせる熱を放っているし、内臓はこれでもかと撹拌されて気持ち悪さすら感じない。おまけに千切れた腕があった場所からは幻痛も襲いくる始末。正直言ってあまり長くを持たせられる自信などないけれど、差しあたって今は虚勢でも張っておこう。精根尽き果て往生するその場所、最期の時まで僕が僕であるために。
「ああ、本当に……」