ワクワクプリキュア!   作:ネフタリウム光線

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 光のエンシャントウエポンのひとつ、シャイニングバードでレインを退けた私たち!でも、これは一体、どこから現れたの??謎は深まるばかりだよ〜…… え?拾ってきたのは月野さん!?それに、もう一度プリキュアになる機会を伺ってそう……
 そんな時、妖精レティツの提案で、4人で遊びにいくことに!なんだか、思っていたより、私たちって波長があうみたい??でもそこに、あのサンダーが襲ってきてーー




※すみません、半年近く更新サボってましたが、まだまだ続きます!


第10話「負けませんわ!復活のキュアイラーレ!」

第10話「負けませんわ!復活のキュアイラーレ!」

 

「それで、まず、これをどこで拾ってきたラエ?」

 

 レインを追い払った後、なぜか私たち4人は、私の部屋に集まっていた。久義さん、というクレハの執事に送ってもらったのだが、どうしてよりによってうちに……

 当然だが母も驚いていた。一度に3人もの友達が来客したのも久しぶりであったし、その面子が濃ゆいからでもある。マナミはお馴染みだが、カスミとクレハの2人の顔を見た母は、歓迎する前に、一瞬だけ怪訝そうな表情すら見せていた。

 

 そんな中で、まずはラエティによる、クレハへの尋問まがいのことが始まっていた。私たちは、窮地を彼女が所持していた『シャイニングバード』なるアイテムで乗り切ったのだが、これは探し出し、集めなくてはならない『エンシャント・ウエポン』のひとつらしい。なぜ彼女が持っていたのか。どこで見つけたのか。色々聞き出さなければならないのだろう。

 

「校門ですわ。学校に落ちていたので、たまたま。珍しいものでしょう?拾いたくもなりますわ」

「学校に……。拾ったのがクレハだったからまだよかったレティが、他の何も知らない生徒や、カバークラウダーが拾っていたらと思うと、恐ろしいレティ」

「ということは、この輝ヶ丘の街に、他にも落ちているかもしれないってこと?」

 そう尋ねたのは私だ。もしそういうことなら、急がなければならない。

 

「いいや、そうとも限らないラエ。エンシャントウエポンは古代の戦いの後に、この世界、そして向こうの世界の両方に散らばっているラエ。似たような箇所にまとめて複数個、は考えにくいラエね。本当に偶然、この近くにあったとしか……」

 

「でもどうかしら。この変身するための『クリアハート』もその、エンシャントウエポン、なんでしょ?これは、変身者を選ぶかのように、ひとりでに動き出すこと、あったじゃない?もしかして、プリキュアに引き寄せられるのかも!」

 こう仮説立てたのはマナミだった。

 

「大田さんと同じことを考えていたわ。中学校にはプリキュア変身可能者が3人もいる。私たちのキサトエナジーに導かれてやってきた可能性は捨てきれないわ。プリキュアが本格的に活動し始めた時期ともタイミングが一致するし、待っていればそのうち集まるんじゃないかしら?」

 カスミも、彼女に同調していた。

 

「そんな能天気な……。まぁともかくラエ。大事なのは、光のエンシャントウエポンはマストとして全て揃えることラエ!可能ならば、闇のエンシャントウエポンもこちらで回収したいラエね。敵の戦力が増強されるのも阻止できるのならば。それに、どのみち全種類必要ラエ」

「まぁ、私たちは前提として中学生。本業学業よ。あまり大掛かりな捜索活動はできないわ。可能な限りで、になるわね。特に、私はこれから生徒会選挙活動が本格化するの。悪いけど、しばらくはあまり力になれそうにないわ」

 

「カスミちゃん忙しいしね……。なら、クリアハートは私とマナミちゃんが持っておこうよ!カスミちゃんに比べたら、まだ時間がある方だし、ていうか私が1番暇だと思うし……」

「それがいいと思う。せっかく3人もいるんだし、助け合いでしょ!」

「任せるわ。妖精さんたちも、基本は2人に付いていてちょうだい」

「わかったラエ」

 

 3人の適合者がいるが、クリアハートはふたつしかない。このように、しっかりと役割を分担した上で各々がそれを理解し、互いに共有し合わなければならないだろう。

 

「3人、ねぇ。話を聞くに、人手はもっとあったほうがいいかと存じますが?」

 そこにクレハが口を挟んできた。

 

「……言いたいことは察するラエが、君は一度クリアハートを放棄している身分ラエよ。あまり自己都合でコロコロと変わられても困るラエ」

「まぁ、自分でもわがままを言っている自覚はありますわ。でも、安楽加清が変身者になっている……彼女に先を行かれるのを、指をくわえて見ているわけにはいきませんこと。彼女への対抗心や私の自尊心といった、キサトエナジー、なるものは備わっているはずです。一度変身できていることが何よりの証拠」

 

「……とはいえラエ。君には確かにキサトエナジーがあるラエ。誰にも負けない想いもあると思うラエよ。でも、それだけじゃこの先絶対に挫折するラエ。プリキュアは伝説の戦士、生半可な気持ちでやられても困るラエ。ヒカルには『街を守りたい』マナミには『ヒカルを助けたい』カスミにだって、あいも変わらず自分ファーストではあるけど、曲がりなりにも『街を守りたいし、ヒカルを助けたい』といった、何かを守りたい、救いたいという心があったラエ。君にその覚悟があるラエか?プリキュアは、マウンティングのためのステータスじゃなくて、伝説の戦士ラエよ。それでも戦う覚悟があるなら、確かに人手はいるし、経験者でもあり、3人との付き合いもある。再びこれを握ることを許すことも、できるラエ」

 

「……そこまでは、まだわかりませんわ、というのが正直なところですわ。確かに、軽率でしたわ。ごめんあそばせ」

 

「ら、ラエちゃん、何もそこまで言わなくても。さっきは私たちを助けてくれたんだしさ……」

「ラエティは手厳しいレティからね……」

「まぁ、月野さん。あなたが今倒すべき、超えるべきはキュアジョイフルではなくて、安楽加清よ。生徒会選挙、楽しみにしているわ」

「……ですわね。まぁ、楽しみにしている、などと余裕こいていられるのも今のうちですわ。あした、学校で会いましょう。お邪魔したわ」

 

 それだけ言い残すと、彼女は部屋を後にした。

「それで、どうしましょうか。私は正直、月野さんが今後気が変わっても、気まずくていやよ。前に思いっきりビンタしちゃってるし」

 

 マナミはそう呟いた。

 

「あの様子だと、月野さんはもう水に流しているというか、そう根に持ってはいないでしょう。気にすることはないと思うわ」

「……カスミちゃん的には、どう思うの?」

 私が尋ねる。

「そうね……。少なくとも、反対はしないわ。彼女の言うように、人手は足りてない。多すぎても管理できないけど、ひとつの帝国を相手にするのに3人というのもコマ不足だわ。統制が行き届き、かつ仲間内で秘密を留めておける範囲で人員を確保するのなら、適切な数となる4人。そこに事情を知っていて、外に漏れる心配も少ない彼女を加えることは極めて合理的よ」

「そこは僕もそう思うラエ。ただまだ、戦士としての信用度は低い……。そこだけが問題ラエね」

「……ひとつ、いいことを思いついたレティ」

 

 突然、レティツがそう言い始めた。

 

「今度、4人で遊びに行くといいレティ!どのみち、3人はもうチームなわけレティ。それに、クレハのことを信用できるようになるいい機会にもなるレティよ。あの様子だと、まだどこかでプリキュアを諦めていないし、カスミがそうである以上、いつかまた対抗心を燃やしてくるのもみえみえレティ」

「私は賛成かな!仲良くなることは、プリキュアとしての連携にもつながると思うし!」

「ヒカルちゃんが行くなら、もちろん私も!」

「……選挙で忙しいのだけど」

「まぁまぁそう言わずに!今度の日曜日くらいいいじゃない!ヒカルちゃんと遊ぶの楽しいよ〜!それに、応援演説お願いしてるんでしょ!?お互いをよく知ることは、選挙を勝ち抜くのにも必要よ!」

「……それは確かに、一理あるわね……。選挙のため、といえば、彼女もついてくるでしょうし」

 カスミは、しぶしぶ、といった顔ではあるが、了承してくれた。

「やったぁ!面白いことになりそうだね!」

 

 こうして、今度の日曜日に4人で遊ぶことが決まったのである。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ついに出現しましたか。光のエンシャントウエポンが。それはそれは」

 クラウドは実に嬉しそうな表情をしていた。三度敗戦の報告に帰国していたレインは、今度こそ重い処分を受けるのでは、と想像していたのだろうか。予想外の反応に面を食らっている様子である。

 

「シャイニングバードと言っていたか。一度はためかせれば闇をなぎ払い、二度はためくと希望の追い風を起こすとの伝説の。人間界にあったとはな」

 

 ストームも、怒っている様子ではない。表情はいつもと変わらず、無表情であった。

 

「ダークレイニードルが通用しなかったようですが、あの感じですと、ダークブレードの方なら相性良さそうですね。レイン、スノウ、各自今後の参考にするように」

 

「は、ははぁっ!」

 レインは、その場に同じく召喚されていたスノウとともに、クラウドに向かい跪く。

 

「し、しかしクラウド様。今回の俺の失態をお咎めにはならないのですか?またも、クラウド様のお力となることができずー」

 

「まぁ、最近連敗が続いているのはあまりよくないですよね。あなた、この帝国カバークラウダーの将軍なんですよ?今は人間界が戦場ですから、失態がこの世界の他国に漏れぬよう隠し通せますが、続くようなら漏洩も時間の問題。レイン将軍の名が廃れば、我が軍も舐められる。叛逆などという馬鹿な考えをする従属国が出て来る可能性もあります。今はエンシャントウエポンに集中したい時期。余計な問題を持ち込まれることに繋がるのは、困りますね」

 

 クラウドは真顔になりながら、こう述べた。そして続ける。

 

「ですが、プリキュアとの戦闘は必ずしも勝利だけが成果ではない。事実、あなたは私の命を受け、成果としてエンシャントウエポンを一つ発掘し、さらに敵側のそれのデータを取ることもできた。これは確かな功績でしょう。別に、そこを咎める必要はないと考えています。前から言っていますが、ただの負けならば許されませんが、次につながるのならば許容範囲です。……いい機会ですね。レイン、スノウ、目的を解釈違いはしていませんよね?スノウ、そもそも、なぜ我々はプリキュアと戦っているのでしょうか?」

 

「……クラウド様の尊き野望であられる、全てのエンシャントウエポンを集めることに繋がるためです。奴らの力の源、クリアハートもそのひとつ。クリアハートを奪取し、クラウド様が選考された戦士に渡し、そのものをプリキュアとし光のエンシャントウエポンを集めさせる。奪取が叶わなければ、プリキュアをあえて野放しにし、光のエンシャントウエポンが集まるのを待ち、全てが揃った時に一気に叩き奪い去るため。でしょうか」

 

 スノウはさすがだった。こう淡々と即答し、これに対してクラウドも満足げな表情を浮かべている。

 

「まさしく。レイン、いいですか?それが目的。プリキュアを倒すだけ、という、そんな単純な話ではないのです。戦いの積み重ねが、私の大いなる夢につながるのです。その程度の敗戦で罰など与えるはずがない。……これからも、私のために、戦ってもらえますよね?」

 

「か、寛大な御心!この将軍レインはクラウド様に忠誠を誓った身!もちろんでございます!」  

「……では、報告が以上なら解散してください」

 

「はっ!」

 

 レイン、スノウの2名はその場から姿を消した。

 

「戦いの積み重ね、と言っていたな。先日述べていた、プリキュアにも経験をある程度積ませなければならない、という意味もわかった。プリキュアの戦闘力が高まらなければ、エンシャントウエポンもプリキュアに力を与えない。または、奴らの前に現れない、そういうことか」

 

「まぁ、そんな感じです。とはいえ、それを彼らの前では言えない。プライドも傷つくでしょうしね。……そう言えば、サンダーのその後は?」

 

「さぁな。ここに帰ってきた形跡もない。まだ人間界にいるんじゃないのか?」

「勝手なお方だ。まぁ、彼を野放しにして好きにさせておくのも、悪くはないでしょう」

「このあいだのキュアジョイフルとの戦闘で勘も戻り、体も温まっただろう。下手したら、プリキュアを全滅させかねないが。そうなった場合の、我々が用意しているプリキュアの候補生とは、今どこで待機している?」

 

「彼女たちなら、一度もこの世界に呼んだことはありませんよ。それどころか、私とは対面もしていない。ストーム、あなたにマークするように命を出した人間と、もう1人は……いえ、内緒にしておきましょう」

 

「そんなことで大丈夫なのか?カオスシードを植えつければ、確かに都合良く扱えるがー」

 

「そんなことで大丈夫なのです。妖精が求めるプリキュアは、ウエポン集めに加えて、我々という脅威を排除することも役割となりますが、我々の求めるそれは、ただのウエポン集め要員。集め終わるまで短期間の洗脳をする、程度でいいのです。戦闘能力を高め、より回収や起動を効率良くするという意味では、我が国で短期間のうちに大量のクライナーと訓練戦闘をさせればいいこと。私の計画は完璧なのですから」

 

「ふん、訓練、については、俺の知っている候補生については必要なさそうだがな」

 

「えぇ。彼女は素晴らしい。彼女だけは手に入れなければならない。プリキュアの器としても、そしてこのカバークラウダー初の女王になれるだけの器としても……。ストーム、人間界に出向いてください。もう手を打ちましょう。彼女に、バレないように仕込んできなさい」

 

「……今がそのタイミングか。任せろ」

 

 ストームはクラウドより命を受けると、強い旋風を巻き起こしながら、その場から姿を消した。

 

「あなたの才能や能力は、人間界では勿体無い。そして、私の敵となるにも勿体ないのです」

 クラウドはそれだけ言うと、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 その日は、よく晴れた日曜日だった。前日に大雨が降っていたので、少し心配はしていたのだが、それが嘘かのような晴天である。それどころか、住宅街の屋根瓦や街路樹に付着した露を日光が照らし出すことによって、より爽やかで、かつ幻想的な風景を作り出している。

 

 生徒会選挙に関わることだから。加清のその一言だけで、彼女の予想通り紅羽は『4人で遊ぶ』という企画に乗っかってきた。彼女の脳みそは、本当に妥当安楽加清に支配されているらしい。

 

 何をするのか、の企画は、特に名指して役割を任されたわけではないのだが、私が行わなければならない空気ではあったので、私が考えたのである。言い出したのは自分であるのだから当然でもあるし、愛海と遊ぶときも、どこに行こうとか、何をしようだとかは大抵、私が決めているので慣れているところもあった。それに、愛海はともかく、あの2人には任せられないというか、流石にありえないとは思うが、勉強会のようなものが企画されそうだという怖さもあったという本音は、彼女らには内緒である。

 

「タピオカ……スイーツ巡り……?」

 

 聴き慣れなかったのであろうか。品のある、淡いピンクのワンピースの上に紫色の薄手のパーカーを羽織った私服姿である加清は、私の提案を耳にして、そう聞き返してきた。

 

「そう!この輝ヶ丘の街のタピオカ屋さんを食べ歩き、というか、とにかく巡ってみるの!」 

 私は、輝ヶ丘タピオカ特集!と題されたチラシを見せながらそう言った。各お店の人気メニューや、簡易的だが地図も載っている。

 

「面白そうじゃない!北区の方に、ヒカルちゃんと行きたいと思っていたお店もあったし、ちょうどいいし!」

「おーほっほっほ!移動ならお任せを。久義に電話一本ですぐに車の手配をー」

「ダメダメ、せっかくだからみんなでおしゃべりしながら、歩きとかバスで行こうよ!」

 

「……いいじゃない。実際に口にしたことはないけど、連日のようにニュースで目にするし、少なからずの興味はあったのよ」

「へぇ、意外ですわ。安楽加清がイマドキのトレンドをチェックしているとは」

 

「心外ね。私はいずれ国のトップに立つ存在よ。世間で何が流行しているのかのチェックに抜かりはないわ。それに百聞は一見にしかず。流行る理由をこの身で知れるかもしれないし、楽しみだわ」

 

「……カスミちゃんって、本当に私たちと同じ中学1年生なんだよね?」

 

 とはいえ、加清のあまりに若干小学生離れをしている価値観や佇まいにはいい加減に慣れてきた頃ではある。

 

「じゃあまずは北区の方に行こう!新しくできたらしいんだ〜!」

「……とほほ、やはり歩きなのですわね。まあ仕方ないですわ。運動にもなりますし」

「ははは、月野さんウケる。徒歩ととほほで親父ギャグ?意外なこと言うのね」

 愛海は爆笑しながらつっこんだ。私はその親父ギャグに全く気がつかなかったが…

「ち、違いますわよ!たまたまですわ!」

 

「でもいいんじゃない?これを機にそういうキャラクターとしても売り出していけば、ギャップで人望をつかめるかもしれないわよ。私に選挙で勝てたりして」

 

 カスミはカスミで、以前から見かけによらずウィットに富んでいるというか、ユーモアのあるジョークをよくいう人間ではある。ただ、ほぼ真顔のような表情からこれを繰り出すので、ジョークなのか、本気でそう言っているのか、たまにわからなくなることが怖いのだが。

 

「いくら安楽加清に勝つためといえども、そんな手は使いませんことよ!だいいち私は、そんな庶民の薄汚い中年男性が好むような物を趣味とするほど下品な存在ではー」

「ジョークよジョーク。いちいちムキにならないことよ。私に勝ちたければ、まずは煽り耐性を身につけることね」

「キーーッ!ムカつきますわね!」

「そういうところよ」

 

「ね、ねぇ。あの2人、なんだかんだで相性いいんじゃ?」

 言い合う2人から距離を置き、愛海が私にこう耳打ちしてきた。

「確かに。ライバルとしては敵対しているのかもしれないけど、なんというかー」

 私は改めて彼女たちの方へと視線を移し、続ける。

「なんというか、お互いに認め合ってはいるんだよね?」

「多分ね。リスペクトしてるってことよ。彼女らにとって、今の環境ではまともに渡り合えるライバルはお互いにただの1人だけというのをわかっているからでしょうね」

 愛海は何やら難しい言葉を使いながらそう解説してくれた。

「リスペクト?」

「……尊敬してるってこと。その部分は、私とヒカルちゃんみたいな関係にも似てたりして?」

 愛海はニヤリと笑いながらそう言った。

「え!?マナミちゃん私のこと尊敬しているの!?」

「してるしてる。どういうところか聞きたい?」

「うん!教えて教えて!」

 

 愛海ははしゃぎ始めた私を見て、さらに小悪魔的な笑みを大きくすると、意地悪な声色で、私のリスペクトしている点を発表してくれた。

「そういう、いつまでも可愛い子供っぽいところよ。ヒカルちゃん可愛いから好きだわ〜」

「……それって褒め言葉?遠回しにアホって言ってるんじゃ……」

「想像に任せるよ。ぷぷぷ」

「……な、なんか嬉しくない……」

「光山さん。中学生にもなったんだし、使える語彙を増やすことね。そういうのは、オブラートに包むっていうの。つまり、オブラートにアホって言ってるわけね」

 そこに、先ほどまで言い合っていた(もっとも、紅羽がムキになっていただけだが)2人が追いつき、加清がこう口を挟んできた。

「あ、安楽さん!ヒカルちゃんにアホって言うのは禁句ー」

「やっぱりそうじゃん!あのねえマナミちゃん!いい?私はアホじゃなくて天然なの!前にも、何回も言ったでしょう!?」

「ほーら始まった」

 愛海はやれやれといった仕草を見せる。

「これは悪いことをしたわね」

 加清はそうは言いながらも、特に悪びれている様子はない。

「とはいえ、天然というのも、それはそれで時に悪口というか、少なくとも褒め言葉ではない気がしますわね」

 紅羽は小声でそう呟いていた。それもそうではある。

 

「思っていたより4人の波長があっているし、まだ何もしてなくて、ただ歩いているだけなのに随分と楽しそうレティ」

 いつの間にか愛海のポケットから這い出ていたレティツが嬉しそうに、同じく私のポケットから人知れず抜け出していたラエティに話しかける。

「波長合っているかはわからんラエが……まぁ、確かに悪くはないラエね」

 

 

「あれがプリキュアに変身する人間どもか……あんなガキどもを、レイン将軍もスノウも、身体がなまっていたとはいえサンダーも倒せなかったと思うと、我がカバークラウダーのメンツも総潰れ。屈辱的ではあるがー」

 

 この様子を、はるか上空から見下ろす人影があった。クラウドの側近、ストームである。

 

「ゆくゆくはクラウドを超えるかもしれないあの人間が含まれているのなら、それも仕方のないことではあるか。サンダーはまだともかく、今のレインやスノウでは、本気でぶつかっても互角、倒しきれないかもしれない。それだけの逸材だ。近くで見れば見るほど、その果てしない潜在能力に惹かれる。これほどまでの人間がいたとはな……」

 

 ストームはそう言いながら、無意識のうちに舌舐めずりをしていた。

 

「それで、ミニクイナー。奴らはどこに向かっている?」

 彼はそのままの体勢で、耳にかけていたワイヤレスのヘッドマイクのようなものにそう囁きかけた。クラウドのところにいた時には装備していなかったものだ。

「……そうか。タピオカ……聞いたことがあるな。それを目当てに、なるほどな。もういい。奴の洞察力では、深追いすれば気づかれる可能性もある。慎重にやろう。情報が得られたならばそれで貴様の仕事は終わりだ」

 

 何を聞き取ったのだろうか。ストームにしか聞こえないものだったのか。

 だが確かに、ミニクイナーと呼ばれた何かから、私たちの行き先の情報を得たようだ。

「タピオカ、ちょうどいいな。カオスシードとサイズも色もそっくりだ。ククク……。とりあえずサンダーを探し出し奴にやらせよう。リベンジマッチに燃えているだろうからな。それに邪魔なやつではある。ヘマをするようなら、ついでに消しておくか。さて、奴のウィザパワーのデカさならすぐに見つかるだろう。……いた。かなり遠いが、仕方ない。迎えに行ってやるか」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべたストームは、その場から消え去った。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 人里を離れ、いや、それどころか日本を離れ、ありの1匹の気配すらも感じない、水平線の彼方まで続いているような砂漠の中にただ一つポツンと佇む人影があった。

 その者は砂漠の真ん中で仁王立ちし、集中力を高めているのだろうか。じっとしたまま動かず、だが確かに、周囲の砂を、彼を中心に発生している乱れた突風に乗せ、小さな砂嵐のような現象を起こしていた。全て、奴から放たれているウィザパワーによる影響だろう。

 

「……!!」

 

 その状態が数十秒続いた後、彼は突如として目を見開き、両腕を身体の前方へと差し出し、ゆっくりと胸の前で両手のひらを重ねるように動かした。気がつけば、彼の身体はスパーク状のオーラをまとっており、周囲の砂嵐も激しさを増していた。

 

「サンダー……ストリーム!!」

 

 そう叫んだ次の瞬間、合わさった手のひらから黄金の光線が放たれた。光線は大量の砂をえぐり取り、まっすぐに水平線の彼方へと走っていく。

 だがその光線は、ある地点で軌道を変え、今度は空の彼方へと一目散に駆け出した。しばらくして、大きな爆発とともに光線は消え去ったが、その爆風や衝撃波が彼の元へと届くことはなかった。それだけの高度で爆発したのだろう。

 

「かなり力が戻ってきているようだな」

 

 軌道が変わった地点からそう声が聞こえてきた。

 

「……ストームか。俺を処刑にきたのか?」

 サンダーは忽然と現れた上官に対し、身構える。いつでも戦闘に移れるという体勢だ。

「そうしてやりたいのは山々だが、クラウドはどうしたことか、貴様を好きにさせたいらしい」

「ならば何の用だ?俺の準備運動を手伝ってくれるってわけか?」

「あぁ。それもとっておきの運動をさせてやる。プリキュアを倒したくはないか?」

 

「……ふん、やはりな。なんだかんだで、クラウド様もストーム、貴様もこの俺を戦力として計算したいらしいな。まぁ当然だ。我が帝国のナンバースリーはこの俺だからよ。それに、今なら貴様も倒せるかもしれんぞ?」

 サンダーは紫色のオーラを纏い、さらにその周囲をバチバチと音を立てるスパーク状のオーラで重ね着している。相当にエネルギーを充実させており、燃えたぎるほどの戦意を感じさせる。

 

「調子にのるな、大罪人めが。エンシャントウエポンを手に入れたレインの方がまだ格が上だ。単純な火力や戦闘力では劣っても、やはり奴は誇り高き将軍。仕事を果たし、そしてそのプライドも絶対だ。誇りもクソもないようなただの罪人が、二度とクラウドや俺の次の立ち位置を自称せんことだな」

 

「……レインのような青二才以下とされるとはな。だったら試してみるか?まあ、返答は求めてないが!」

 

 サンダーは稲妻のごとくスピードで瞬時にストームの背後に回り込み、思い切り拳を振り上げた。瞬きをするよりも早く、優位な後ろをとる。流石の強さだがー

 

「!!」

 

 次の瞬間、サンダーはその巨体をピンポン球のように吹き飛ばされ、砂漠の中に頭から落下した。何が起こったのか、全くわからない。

 

「調子にのるなと言ったはずだ。貴様は俺に触れることもできん。さあ、その有り余る闘争心をプリキュアにぶつけてこい。キュアジョイフルが貴様の相手をしてくれるはずだ」

 

 ストームは先ほどの位置から全く動いていない。何もせずに彼を吹き飛ばしたとでもいうのだろうか。

 

「……チッ、流石にストームの野郎と渡り合えるレベルには力が戻ってなかったということか……いいだろう。だが、取引をしないか?」

 

「ふん。罪人の持ち出す取引に、こちら側にメリットがあるというのか?」

「あぁ。俺のような面倒な罪人につきまとう必要がなくなる。悪い話ではないだろう」

「……聞くだけ聞いてやるが、くだらん内容であればこの場で消し去ってもいいのだぞ。そのくらいの力量差があることくらいは、貴様の足らない脳みそでも理解しているな?」

「もちろんですぜ、ストーム『様』」

 サンダーはニヤリと笑い、珍しくも上官に対して敬称をつけた。逆に嫌な予感がするというものである。

 

「俺が今回、プリキュアを倒し、奴らのクリアハートを手に入れることができれば、俺を無罪放免、自由の身にしろとクラウド様に伝えるんだな。カバークラウダーの配下を出、強さだけを求め、そして殺したいだけ殺す。自由の身にな」

「……愚かな。クラウドに消されるだけだ。それとも、まさかクラウドをも超える力を身に付ける自信でもあるのかな?」

「さぁ、どうかな。だがクラウド様もお忙しい方だ。国を出た自由の人間を消しに動くほど暇じゃなかろう」

「そういうことか」

 

「いいんじゃないですか?認めましょう。プリキュアからクリアハートを奪えれば、好きにしなさい」

 

 その時、突如空からクラウドの声が聞こえてきた。このような芸当までできるらしい。

 

「クラウドも物好きな奴だ……。感謝するんだな。我が帝王の器の大きさに」

「ありがたき幸せ。クラウド様には幾度となく救われた身。国を出ても忠誠を約束します」

 サンダーはその場に跪き、そう述べた。このような様子をみるに、世渡りは上手いらしい。

「ただし条件を加えましょう。ストーム、彼にカオスシードを渡しなさい」

 

 ストームは言われるがままに、サンダーに黒い種子を投げ渡す。

 

「これをストームの指示する人間に植え付けた上で、先ほどの約束を果たせば、あなたの希望を飲みます。最後の仕事だ。そのくらいの加算ノルマは余裕でしょう?」

「……カオスシード……なるほどな。俺にも少し、クラウド様のお考えになられてることが理解できた気がする。承知。ではストーム、俺を奴らのところに連れて行くがいい」

「プリキュアを舐めるな。忠告しておいてやるが、奴らはすでにエンシャントウエポンを一つ扱える。せいぜい、返り討ちに遭わないように気をつけることだ」

 

 そう言いながら、彼ら2人はその場から姿を消した。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「いや〜、この4人で一緒に遊ぶだなんてこれが初めてだけど、案外気があうんじゃない?私たちってさ」

 

 先頭を歩く愛海がそう言った。

 

「まぁ、たまの息抜きには悪くないわね」

 意外にも、加清もこれに同調しているようだ。

「安楽加清が遊びに加わる日なら私もついていきますわ。可能な範囲で、休日の行動も監視したいことですし。弱点が見つかるかもしれませんわ」

「別に構わないけど、あなたにそんな余裕があるのかしら。私を倒したいのなら、休みの日も自己鍛錬に勤しむべきじゃないの?」

「……い、いちいち癪に障りますわね……。煽り耐性、煽り耐性……」

 紅羽はブツブツと唱えながら、反論を堪えているようだ。

 

「やっぱり仲良いじゃん、2人とも」

 

 その光景を見ていた私は、思わず吹き出してしまった。ライバル、というより、この様子はまさに友達のそれのようだ。

「な!?仲良しなんかじゃありませんわ!安楽加清は私の超えるべき壁、永遠の宿敵ですの!彼女と馴れ合う気などー」

「心外ね。こんな、一見育ちの良さそうなご令嬢に見せかけた、下品なエセセレブと仲良くだなんてこっちから願い下げよ」

「え、エセ!?言いましたわね!やる気ですの!?後悔させて差し上げましょうか!?」

「できるものなら、やってみればいいじゃない」

 

 2人がバチバチと火花を散らしながら睨み合う。もっとも、ムキになっている表情なのは紅羽のみで、加清はというと、あいも変わらない涼しい顔と冷たい目をしている。

 

「ま、まぁまぁ……」

「やっぱり仲良しレティ」

「人間はこれでも仲良しと呼べるラエか……?」

 

 私と、その両肩の上に乗っていた妖精たちは、苦笑いしながらこれを見つめていた。

 

「あ、そろそろ着くんじゃない?ほら、あそこにお店でてるし!」

 

 愛海が、遠くを指差しながらこう言った。確かに、彼女の指す先にタピオカの屋台が見える。

「あれ?もう少し先だったような。こんなところにタピオカ屋さんなんてあったかな?」

 私は不思議に思い、もう一度チラシのマップを確かめるがー

「まぁまぁ、なんでもいいじゃない。そろそろみんな、休憩挟みたい頃でしょ?このご時世、どこでも急にタピオカ始めたりもするし、新しいお店かもよ!」

「……それもそうねぇ……」

「確かに、少し喉が渇いたわ。誰かさんとおしゃべりをしてしまったせいかしらね」

「えぇ、私も左に同じく喉が乾きましたことよ。庶民に流行りの飲み物がどんなものか、試してあげましょうか」

 

 相変わらず睨み合っているが、別に喧嘩をしているわけでもなさそうだ。

 

「じゃあとりあえず、一軒目はあそこということで!」

 

 私たちはその屋台を目指して足並みを揃えた。

 

「……なんで俺がこんなことを……」

 その屋台の中でタピオカミルクティーをこしらえていたのは、あのサンダーであった。エプロンとコック帽を身につけ、簡単な変装まで施している。

 これはストームの案だった。タピオカ屋としてプリキュアをおびき出し、カオスシードを混入させたミルクティーを、彼の指定する人間に飲ませる、という作戦らしい。

 無論、そんなことを知る由もない私たちは、微塵の疑いを持つことなく、この店へとたどり着いた。

「……きやがったなプリ……じゃねぇ。い、いらっしゃいお嬢さんたち」

「こんにちは〜!タピオカミルクティー、4人分ください!」

「承知…じゃない、おう!4人分ね〜」

 

「……大田さん、何か変じゃない?」

 早くも異変を察したのは加清だった。店主が明らかにおかしな噛み方をしていたからだろう。

「そうかな?普通のお店だと思うけど」

 だが、この中では加清や紅羽にも劣らない頭脳を持つはずの愛海のほうはというと、特に何も気になっていなかったようである。

「そういうことじゃなくて……まぁいいわ」

「へいお待ちどう!4人ともみんな個性的だから、これは俺からの大サービスだ!そこの黄色いおチビちゃんには、このオレンジのストロー。そこの茶髪の嬢ちゃんには、この青いストローの。赤っぽい髪の嬢ちゃんは赤色の、そしてそこのスマした嬢ちゃんには紫のストローだよ。みんな違う色!インスタントグローブみたいなやつにも映えるだろうよ」

 

「おお!ありがとうおじさん!」

 

 私は何も気にせず、むしろこのように気を利かせてくれた店主に感謝しながら、これらをみんなに手渡した。

 

「じゃあいただきます!」

「へぇ〜。まあ、私はインスタやってないから映えとかは別にいいけど、でも確かにおしゃれな感じするわね。写真くらい撮っときますか!」

 愛海も上機嫌である。

「あら。この黒いツブツブがキャビアのようですわ!案外私のお口にも合うかもしれませんわね」

「……まぁ、いただくけど。それにしても、こんなことをして何が目的なのサンダー。私たちを手懐けようってわけ?」

 

 加清がストローに口をつけ、ドリンクを一口吸い上げ、何粒かのタピオカの食感を楽しんだ後にそう言った。

 

「……サンダー?惜しいな、おじさんの名前は三田ってんだ。それに何を言っているんだい?店に来てくれたのは君たちの方だろう」

「慣れない演技はするものではないわよ。別に毒が入ってるわけではないみたいね。これは普通に美味しいわ。おしゃれな写真も取れるし、確かに、流行する理由がよくわかる」

「ちょ、カスミちゃん?何を言ってー」

 まだ状況を飲み込めていない私をよそに、彼女は続ける。

「毒殺目的でもないのなら、何がしたいのって聞いてるのよ。あなたは前に戦ったときに、軍人ゆえに武闘家としての心はなくとも、明らか卑怯な戦い方をする人ではないことはわかったわ。だからそこは信頼して毒味したわけだけど。私たちと戦いたいのなら、前みたく正面から襲ってくればいいじゃない?」

 

「まぁ、さすがの洞察力だと言ったところか。もう少しバレないでいて欲しかったが」

 

 サンダーはそう吐き捨てながら、変装を脱ぎ捨てた。

 

「ほ、本当にサンダーだったの!?」

 

 私たちも驚きながらに身構える。

 

「目的か。それはもう果たされた。貴様らはすでに、俺の作ったドリンクを飲んでしまったからな。あとは、貴様の言う通り、真正面から戦うだけだ」

「飲ませたから目的は果たされた……?やっぱり、毒とか入ってたんじゃ……」

 私は背中から汗が噴き出すのがわかった。

 

「案ずるな。俺は確かに殺しを快楽としているが、それはこの力でねじ伏せることに価値がある。そんな弱い奴のやり方は使わない。細かいことはいいだろう。俺と戦え。今日は、前のようにはいかんぞ……!互いに本気でやりあおうではないか……!」

 

 それだけ言うと、奴は戦闘態勢に入った。みるみるうちに、ただ立っているだけでは押し潰されてしまいそうなほどの邪悪な力がこの場に満ちていく。ウィザパワーを高めているのだろう。

 

「大田さん、ひとまず私にクリアハートを。もう一つはどうしましょうか?」

「わ、私が!私のパワーなら、力になれるかも!」

「……光山さん、ここは、わたくしに任せていただけませんか?」

 クリアハートを取り出し、構えようとした私の隣に紅羽が歩み寄ってこう提案してきた。

「月野さん……?でもー」

 私は一瞬戸惑い、相棒妖精に視線を移した。

 

「いや、金持ちの真価を問うにはちょうどいい場面ラエ。ここは2人に任せるのもありラエね」

 あれだけ紅羽のことをよく思っていなかったはずのラエティからは、意外にもこれに賛成という意見が飛び出してきた。

 しかし確かに、互いに競い合う彼女ら2人が、今度はプリキュアとして起こす化学反応はいかがなものなのか、興味はあるもの。

 私は小さく頷くと、そのまま彼女にクリアハートを手渡した。

 

「なら、お願い、月野さん!」

「おほほほほ。ただし、久々かつ、これが2回目の戦いになりますわ。まずくなったら、あなたか大田さん、どちらかにお代わりしますので、備えていていただけます?」

「言われなくても!」

 愛海は、そのような心配は無用と言わんばかりに、頼もしく応えた。

「決まったみたいね。ならいくわよ月野さん」

「プリキュア・エキサイティングフィーバー!」

 

 声を揃えて変身の合言葉を叫んだ。その瞬間、二人は真白き光に包まれる。

 

 変身が完了し、彼女たちを包んでいた眩い光は徐々にその輝きを失い、光の破片となりあたりに飛散することで消え去った。

 その中心に立っていたのは、尻にまでかかるほどの長い、濃い紫紺のポニーテールが特徴的な、どこか大人っぽい雰囲気も醸し出す紫色の戦士と、橙色を基調とした衣装に様変わりし、髪も真紅に染め上がった赤の戦士であった。

 

『楽しむ心!キュアジョイフル!!』

『高貴な心!キュアイラーレ!!』

 

『闇に染まった心に元気と天気を取り戻す!輝け!ワクワクプリキュア!』

 

 2人による決めポーズもキマった。あの2人がこのようなことを口にし、またポーズを取るというのもまた新鮮な光景である。

 

『イラーレ、せいぜい、私の足を引っ張らないように努めることね』

 普段は冷静な口調の彼女だが、プリキュアに変身を果たすと、その溢れ出るキサトエナジーの影響からか、声が少し弾んだものへと変わるのだ。

『その憎まれ口が開けなるくらいの、圧巻で華麗な、美しい舞を見せて差し上げますわ!』

 これはイラーレにも同様の効果があるようで、通常態ではムキになるような煽りにも、このようにポジティブに言い返すことができるようである。

 

「準備はできたようだな……。最初から本気でいかせてもらうぞ!ハァァァァァ……!」

 

 サンダーはそう宣言すると、その場で腰を低くし、岩山のように鍛え上げられた黄金色の全身をさらに強張らせ、力を高め始めた。ただでさえ筋骨隆々の身体が、紫色のオーラとスパークの走るオーラの重ね着の下で、さらにわずかに膨張する。ただ立っているだけだというのに、彼を中心とした半径数メートルの地面はその身体から放出されてるウィザパワーのオーラだけでえぐり取られ始めた。元々自身の放つ青白いスパークのようなオーラの影響で逆立っている白髪はさらにその勢いを増し、もはや毛髪というよりは、ツノではなかろうかというところにまで達している。

 

『これは……想像以上ですわね。どうです?ジョイフルさん』

『……前に戦った時よりも遥かに上のパワーを感じるわ。本気というのもハッタリではなさそうね。気をつけて』

 

「そこの赤色の貴様!大したオーラを感じ取れるぜ。貴様もかなりの使い手だな?」

 キュアイラーレは、常人には目に見えない『オーラ』で相手の力量をある程度図れる能力のあるサンダーにそう評価された。確かに、潜在的なキサトエナジーの量は凄まじいだろう。彼女はこれまでも、何度加清に敗れようとも折れずに挑戦し続けている身なのだから納得はいく。

 もっとも、ここで彼の指すオーラとは、今彼の体にまとわれているものとは別物らしい。これはどちらかというと、可視化できるほどまでに高まったウィザパワーの鎧といった方が適切か。

 

『えぇ、もちろんですとも。ここにいるキュアジョイフルを超える存在。それこそが、私キュアイラーレですわ。まずはその華麗な技というものをご覧に入れて差し上げましょう!プリキュア!イラーレフレイム!!』

 

 彼女の利き腕である右腕の先から、大量のキサトエナジーが溢れ始め、これがビームのような形状でまっすぐにサンダーめがけて飛び始めた。それは空中で突如として大きな火炎に変貌。勢いよく燃え盛る真紅の炎が彼を襲う。

 

「確かに美しい技だ。だが、戦いはコンテストではない。華麗さだけでは、敵を倒すことはできぬ!うおおおおおおおおおお!!」

 

 イラーレフレイムは、そう叫んだサンダーの気合だけでかき消されてしまった。

 

『むむ……』

 

「ちょ、ちょっとヤバくない!?あいつ、前来た時もとんでもなく恐ろしかったのに、もっと強くなってない!?プリキュアの技が通用しないなんて!」

 物陰に避難して戦いを見守っている私たちなのだが、そこで愛海が震えながらそう呟いた。

「本来サンダーは圧倒的な戦闘力を誇る凶戦士ラエ……。前は謹慎処分か何かが解けた直後だったから身体が鈍っていたラエが、今はかなり力が戻って来ている……ってところラエかね」

「こ、これ、エンシャントウエポンのひとつくらいでは埋まらない差なんじゃ……?」

 私も震えながら、手のひらの中でギュッとシャイニングバードを握りしめながら呟いた。キサトエナジーを力の根源とするプリキュアたるもの、弱気になることは戦闘力の低下にもつながるためご法度だということは頭では理解していても、その前に私たちはまだ中学生になったばかりの女子である。弱気になるなという方が無茶だというものだ。

 

『サンダー、戦いはのど自慢大会でもないのよ。隙だらけになるようなことは控えるべきね』

 

 そんな私たちの心配をよそに、キュアジョイフルはその間に奴の背後をとっていた。素早く背中を蹴り上げ、奴の身体を宙に浮かせた。

 

「ぐっ……ほう。ここまでウィザパワーを高めた俺に攻撃を当て、さらには蹴り飛ばしやがったか……」

 

 だが大して効き目はないようだ。すぐに空中浮遊をし、2人の戦士を同時に見下ろせるポジションを取る。

 

『いかがですジョイフル?勝算のほどは』

『そうね……私1人じゃ厳しいわ。あなたの力量次第ってところかしら。今度は二人掛かりで仕掛けるわよ。ついてこれる?』

 ジョイフルはニヤリと笑いながら、挑発するようにイラーレにそう応えた。

『当然ですわ。……行きますわよ!』

 

 2人は同時に大地を蹴り、瞬時に彼と同じ高度にまで躍り出た。

 まずはイラーレが、キサトエナジーによって生み出された炎を纏った足を命中させるべく、身体を捻らせながら回転蹴りをお見舞いしようと接近する。

 

『ハァァァァァ!!』

 

「避けるまでもない…!ハァ!」

 しかしこれを、片腕でがっちりとガードするサンダー。ウィザパワーの鎧を重ね着している彼にとっては、炎の熱さすらも感じない様子なのは厄介だ。しかしイラーレも流石である。ガードに弾かれるわけではなく、あくまでそれをも蹴り飛ばさんと、さらに力を加えていく。これにより両者は数秒間せめぎあうことに。

 

『プリキュア!ジョイフルスラッシュ!!』

 

 足と腕が鬩ぎ合い、わずかな隙が生まれたところに、今度は腕に紫色のキサトエナジーをまとい、ブレードのように変化させたジョイフルが斬り込みにかかる。

 

「チッ!小賢しい!ぜやっ!」

 

 瞬時にガードしていた方の腕に力を込め、イラーレの足をはねのけると、すぐさまジョイフルへの迎撃体勢に入り、もう片方の腕でこれをブロックした。これでは攻撃の隙がないように思えるがー

 だが、ジョイフルの攻撃はこの一撃だけではなかった。もう一本の腕も同じようにブレード状のエナジーを纏わせ、二刀流で連続攻撃に入った。これには予想していなかったのか、ガードが遅れたサンダーは、胸に一発の攻撃を許してしまう。二重のオーラによる鎧ごと切り裂き、まともなダメージが通った瞬間だった。

 

「くそったれめ!流石にキュアジョイフルは別格か……!?」

『あなたは今、2人を相手にしてるってことをお忘れなきよう!』

 

 その背後に、再びイラーレが飛びかかって来た。ジョイフルとは異なり、空中浮遊の能力は持ち合わせていないため、一度着地した後にまた大ジャンプをして来たということになるが、この瞬間にそれを行なったということは、相当なスピードを秘めているという事実を示してもいた。 

 

『てやーっ!!』

 

 今度は両足に炎を纏ったイラーレによる、目にも留まらぬ速度の連続蹴りが始まった。

 前方からはジョイフルの、後方からはイラーレの両者の小刻みだが確かにパンチのある連続攻撃を受けていては、流石のサンダーも無傷とはいかない。

 圧倒的な力を持っているのは確かで、2対1ながらもこれらの攻撃を捌き続けてはいたが、それでも何発かの攻撃は通っており、さらに彼は防御に手いっぱいで反撃する機会がなさそうな様子だ。2人の予想外の善戦に、私はポカーンと口を開くしかなかった。

 

「す、すごい……あんなにやばそうな敵を相手に互角以上に……」

 愛海に関しては、すっかり震えが止まっていた。

 

「……でもこのままじゃ勝てないレティ……。あれだけの、目に見えるほどのキサトエナジーを放出し続けていたら、キサトサイクルにでも入らない限り消耗しきってしまうレティよ……互角以上には見えても、不利なのはプリキュアレティ」

 

「今のところ、そのキサトサイクルに容易に突入できるのはキュアスパーク、ヒカルだけラエ。それに、相手が相手、突入は厳しいかもしれんラエね。2人とも、そろそろ交代の準備ラエ!まだ合体必殺技やシャイニングバードを起動できるくらいのエネルギー残量はあるはずラエからね!」 

 妖精たちは、私たちとは異なり、冷静に戦況を分析していたようだ。なるほど、善戦しているのは確かとしても、ぬか喜びしていられるほどではないというわけなのだろう。

 

「埒があかん……!せいっ!!」

 

 サンダーは両手を広げ、スパークを纏ったウィザパワーを一気に放出した。

 

『キャッ!』

 

 その勢いで、彼を挟んでいた彼女たちは吹き飛ばされてしまう。一旦距離を取るということだろうか。

 

「俺としたことが……。まさか、今の状態でも手こずるとはな。伝説の戦士プリキュア、やはり侮れない存在か……。私事だが、俺様はこの戦いに色々とかかっているのでな。とっておきで、一気に決着をつけてやる!」

 

 そう言いながら急降下し、地響きを鳴らしながら着地した。すぐさま、広げた両腕をそのまま胸の前で重ねる構えをとる。

 

「…………!!」

 

 極限まで集中力を高めているのだろうか。先ほどまでのような、叫びを伴う構えや動作とは異なり、静かにパワーを溜めている様子だ。

 

『……!気をつけて、相当な大技がくるわよ』

『そのようですわね。こっちも、フルパワーの必殺技を、奴が撃つ前に撃たないとやられてしまいそうですわ』

 2人も、これまでとはさらに格の違うウィザパワーをいやでも感じ取ってしまったのか、身構える。プリキュアの切り札、合体必殺技を持ってしても、同時撃ちは相打ちか、もしくは押し負けてしまうことだってありえそうだ。

 逆説的に捉えれば、今この瞬間は隙だらけとも取れる。やるなら今だ、と2人はアイコンタクトをとり、頷きあった。

 

「ら、ラエちゃん!これじゃ交代の隙が……!」

「ぐ……ここは2人に任せるしかないラエ……」

「……いや、今私たちにもできることはあるわ!あいつの集中を邪魔してやるのよ!」

 愛海は臆せずに、そう立ち上がった。大した度胸である。

「き、危険レティ!生身で向かったら、最悪ー」

「わ、私もマナミちゃんに賛成かな…!どのみち、次の必殺技でプリキュアはエネルギーが切れちゃう。そうなったら負けなんだから!少しでも勝てるように、できることをしないと!」

「ま、待つラエ!ヒカル!マナミ!」

 ラエティの制止を振りほどき、私たちは物陰から飛び出すと、走り出した。

 

 同じく集中力を高め始めていた2人のプリキュアは、それには気付くことはなく、その手を握り合い、重ねていた。

 集中しキサトエナジーが高まっている証拠だろう。余計な雑念が消えている様子だ。普段ならば絶対に手など握らないはずの2人が、今は勝つことだけに集中している。なんの迷いもなく、その手を重ねていた。

 

『プリキュア!!ジョイフルイラーレエキサイト!!』

 

 繋いだ手の先に、虹色に輝く、バスケットボールほどの大きさのエネルギーの球体が、ブゥン…と音を立て現れた。その球体はみるみるうちに密度を上昇させ、限界に達した瞬間、目も眩むほどの眩しい光を発生させながら、破裂し、そのまま虹色の光線と姿を変え、サンダーへと突っ込んでいった。

 エンシャントウエポン無装備で放つ技としては、これがプリキュアの切り札、最高火力の必殺技となる。

 

「喰らえ…!サンダー……ストリーム……!!」

 

 それに少し遅れて、サンダーも大技を放とうとしていた。しかし、発射の直線、彼の目の前を何粒かの石が横切った。私たちによる投石だ。中学生女子が、それなりの大きさの石を投擲できる範囲ともなると、相当な近距離になるが、極限にまで集中していたプリキュアもサンダーも、全くこれに気がついていなかったのだ。

 

「ヒカルちゃん!伏せてーっ!!」

 

 私たちはとっさに、腕で頭を守りながら、その場に伏せこんだ。

 

「し、しまった!気がブレた……!」

 

 その次の瞬間、その大技こそ発射されたものの、サンダーの光線はまっすぐに、ではなく時折揺らぎながら直進していた。わずかな集中の乱れが、技の制度を下げたのである。

 あの凶戦士の大技といえども、これではフルパワーとはいかない。

 光線は一筋にまっすぐ、ではなく、道中で四方八方にエネルギーを漏らしながら進んでいた。威力を落としながら進んでいるのである。

 そして両者の必殺の光線はある地点でぶつかり合ったが、一点集中のプリキュアの光線と、いまこの瞬間にも火力の落ち続けているサンダーの光線とでは、勝負あったも同然だった。

 

「ば、バカな!?うおおおおおおおお……!!」

 

 自身の技を押しのけられた直後、ガードを取る暇もなく、もろにプリキュアの技を全身に浴びたサンダー。必殺の光線は彼の身体を丸呑みしながら、その遥か先の空の彼方へと、彼ごと吹き飛ばして行った。

 ギャグ漫画でしか見たことのないような、遥か上空のキラーン、といった光とともに、サンダーは消え去ったのである。消滅したのか、はたまた、ただ、うんと遠くへと吹き飛ばしただけなのかは、ここからではわからない。

 

「ふぅ……なんとかなったみたいね」

 

 今の一撃で完全にエネルギーを使い果たしたのか、プリキュアの2人は自然と元の姿に戻っていた。

 

「2人だけでは完全に負けていましたわ。さしずめ、4人でもぎ取った勝利、といったところでしょうか?おーほっほっほ!」

 

 紅羽とは元気な人間である。まだ高笑いをする気力があるようだ。

 

「しかし、危ないことをするのね。おかげで勝てたとはいえ……」

 

 加清は、信じられない、と言わんばかりの顔で、私たちを見つめていた。

 

「あははははは……」

 私も、気がつけば体が動いていただけにすぎない。度胸がある、というよりはただの無鉄砲と言ったほうが近いかもしれない。それよりも、とっさにこの作戦を思いつき、臆することなく実行に移したマナミこそがMVPだろう。さすが、かつてはあの紅羽の頬をはたき飛ばしただけはあるーと、本人に言うと怒られそうなので、思っておくだけにしておくが

 

「にしても、せっかく初めて4人で集まれた日曜日だったのに、残念なことになったね……」

 その愛海はというと、その後の第一声がこれなのだから驚かされる。

 

「まぁ、悪くはなかったわ。それなりに楽しかったわよ。タピオカも飲めたし。一口程度だったけど……それに運動もできたわ」

 加清はまたいつものポーカーフェイスに戻りながら、それだけ言った。

 

「そっか。それなら良かったけど……」

 

「……皆様方、何故ゆえ、そうやってもう1日が終わりましたの……のような顔をされてますの?まだ陽が落ちるまで時間はありますわ。続きをすればいいじゃないですか。疲れたとおっしゃるのならば、すぐに執事に車をよこすように命令いたしますが?」

 

 ほんのりだがしんみりとした空気が数秒漂った後、紅羽がそう切り出した。そう言われて、改めて腕時計を確認してみたが、確かにまだ時間はある。

 

「……じゃあ今度こそ、行きたかったお店に、行きますか!」

 

 私は元気よく立ち上がった。

 

「そうしますか!よし!みんな、ヒカルちゃんに続きましょう!」

 

「……紅羽のことはどうするレティ?」

 

 歩き出した私たち一行の少し後方で、妖精たちが身を寄せ合って話を始めていた。

 

「まぁ、もう認めざるを得ないラエよ。あのサンダーにもついていける戦闘能力も、そしてこうやって、なんだかんだで溶け込めている様子も。……僕は嫌いラエけど」

「なら、この4人でチームは確定レティね!私の言った通り!みんなで遊びに行ったら仲良くなれたレティ!」

「……そうラエね。あとは、チームワークもそうラエが、個々のレベルアップも必須……。最低限でも、一人一人がエンシャントウエポンを扱えるように、そしていつかは、クラウドの野望を断ち切れるほどまでの力をラエ。まだ子どもな彼女たちには、酷ラエが……」

 

「おーい、ラエちゃんレティちゃん!!置いていくよ〜!!」

 

 ラエティの考え事を一旦遮断させてしまったのは、私のその一声だった。

 

「……子どもラエね……。でも、世界を変えられるのはあの子達だけラエ。……置いてくなラエ!!待つラエ!!」

 

 ラエティは呆れたように、でも少し安心したかのように笑うと、レティツと共にスピードを上げ、私たちの後を追った。

 

 

                                           続く

  

 

 

 


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