ワクワクプリキュア!   作:ネフタリウム光線

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 私たち4人の絆も深まったところで(深まったのかな…?)学校にはいよいよ生徒会選挙が迫る!月野さんもプリキュアとして復活したわけだし、そこはまたチームとして仲良くしなければいけないけど、それはそれだしこれはこれ!私は安楽さんを応援しなきゃ。ところで、何かを忘れている気はするけど……


※本当にただサボっていました。毎度毎度半年近く更新期間が空いてしまい本当に申し訳ないです。改善に努めます。


第11話「波乱の幕開け!?選挙と異世界情勢!!」

第11話「波乱の幕開け!?選挙と異世界情勢!!」

 

 4人で集まり過ごした日曜日の翌日の朝だった。

 課されていた宿題は全て終わらせ、保護者に渡さなければならないプリント類も親に渡しているはずだ。つまり、休日をしっかり休日として楽しみながらも、最低限のことはこなしたはずなのである。

 それだというのに、なぜか落ち着かない。何かを忘れている気がしてならないのだ。

 

「ヒカル〜!マナミちゃんが迎えにきているわよ〜!!」

 

 部屋の外、階段の下、玄関付近だろうか。そこから母の声が聞こえる。

 

「はーい!!今降ります〜!!」

 

 登校のための支度もすませてはいた。制服にも着替え、カバンも持った。あとは行くだけなのだが、どうにもその、何かを忘れているのではという感覚でソワソワする。

 

「何してるラエ。トイレでも我慢してるラエか?」

 

 そんな、少し挙動のおかしい私を見た妖精ラエティが、真顔のままそう訊ねる。

 

「お、女の子にそんなこと…!!常識ってのものがないの!?」

「人間の常識なんか知らんラエ。遅刻するラエよ。とっとと行ったほうがいいラエ」

 人間の常識なんか知らん、という、妖精目線からは至極当たり前のことを返されては、これ以上会話が続かない。この生意気な妖精に、いつかこの手でお灸を据えてやりたいものだ。

 

「むぅ〜!…って、あれ?あなた今日はついてこないの?」

「そうラエ。レティツと一緒に調べ物があるラエね。……どうしたラエ?僕が行かないと寂しいラエか?まぁ、ヒカルはお子ちゃまだから無理もないラエ」

 生意気なこの小動物は、ニタニタと笑いながらそう言った。

 

「だ、誰がこんなのが来ないくらいで寂しくなるもんですか!せからしいのがついてこなくて、むしろとってもいい気分だね!」

「ほーう。この僕をこんなの呼ばわりとは、えらくなったラエな」

 バチバチと睨み合う私たち。だが、こんなことをしている場合ではなかった。

 

「か、帰ったら覚えておきなさいよ!このちんちくりん!」

 

 私は捨てセリフのようにそう言うと、慌ただしく部屋を飛び出して行った。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「何者かは知らんが……こんな荒地に何の用だ」

 

 嵐とも呼べるような激しい雨風が吹き荒れる、広大な、だが建物などといった文明物らしきものは何一つ見当たらない土地に、2人の男が向かい合うように立っていた。

 1人は、その身丈は2メートルはゆうに超え、上半身は裸の筋肉に覆われた大男。スキンヘッドな頭部が、より彼に威厳を与えているようだ。服を着ていないが、確かに、この身体では着れる服がないのだろう。

 もう1人は、灰色の巻貝状の髪こそ特徴的だが、大男の腰のあたりまでしか身長のない、子供のような男だ。だが、黒のマントを靡かせ、その下に着ている、胸部に真紅のゼラニウムの花の模様が刺繍された燕尾形ホック掛けの洋服という豪勢な衣装が、彼が只者ではないことを示しているかのようにも見える。

 

「私の名はクラウド。あなたに用があってきたのですよ。この地に嵐が起こっているのも、あなたのその膨大なるウィザパワーのせいでしょう?ものすごい力を秘めておられます。それに魅せられてやってきた、というわけです」

 

 小柄な男、クラウドはそう答えた。

 

「ウィザパワー……?」

 

「……ご存知なかったですか。まぁとにかく、あなたの力がすごいので、惹かれてきましたってことです」

 

「……そうだ。俺は強すぎるらしくてな。物心がついた頃には、1人この地に置き去りにされていた。どうも、俺の親や周囲は、俺がこうして無自覚に嵐を巻き起こしてしまうのを嫌ったらしいな。ここは無駄に広いが何もない土地。俺を封じ込めておきたいのだろう」

 

 大柄な男は、一見不遇で悲惨にも見て取れるような境遇をも、自分の強さに誇りがあるのだろうか、それでもニヤリと笑いながら話した。

 

「なるほど。でもここじゃ生活ができないでしょう?他の国に行けばいいものを」

 

「そうしたいのは山々だが、あらゆる国との境に強力な結界を張られている。いかに俺が強いといえど、接近するだけで頭痛がするような結界があると、どうにもならん。まぁ、俺はこの有り余る俺のエネルギーで自給自足ができる。飲み食いする必要がない身体だったのが幸いだ。退屈だが、死にはせん」

 

「それはそれは、さぞ寂しかったでしょう。世界からまるで鬼の子のように扱われているご様子です」

「大きなお世話だ。俺に用らしいが、何の用かと聞いている」

「スカウトしに来たんですよ。私の夢を叶えるための、力となっていただきたい。この世界、そして向こうの世界、人間界ですが、その二つの世界の中で、あなたが最強の使い手のようだ。1人でここで暮らす中でも、相当に鍛錬を積んだようですね。突然変異体として、ただでさえ生まれながらに強大な力を得ていたというのに、さらに磨きがかかっている。素晴らしい」

 

 クラウドは上機嫌な様子の声色でそう答えた。

 

「スカウトだと……?」

「そうです。まず私は手始めにここに国を作りたい。ちょうど空いている地ですし。国を作るには民も必要だ。民を得なければならない。しかしながら、いくら私がこの世で最も強い存在とはいえ、建国と運営は1人では無理です。軍を編成し、他の国を制圧、そして得た他国の民を、従える必要もあるでしょう。あなたがいると、非常に心強い」

 

「……聞き捨てならんな。貴様、今自分が最強だと言ったのか?そのなりを見る限り、確かにただのガキではないんだろう。どこかの国の王族か……?だが、この俺の存在を知り、そして俺の前に立ち、それでいてまだ俺の強さをわかっていない。そう見て取れるが」

 

「確かにあなたは強い。ですが、あなたでは私には勝てません。だから、私に従うべきです。他にも当たりたいスカウト候補はいます。最悪、ここであなたを始末してしまうこともできるのですよ。どうです?私と国を作りませんか。あなたの居場所になる。仲間もできる。そして、私が常に目標となる任務を与えます。退屈しなくなりますよ」

 

 クラウドは、彼を受け入れるかのように、大きく両腕を開きながら、そして、絶対に勝てるという自信に満ちた表情でこう述べた。

 

「だったら、試させてもらおうか。俺が従うべき存在なのか、それをな」

 

「……いいですよ。そうなることも覚悟の上で、ここに来ました。さあ、どこかでもかかってきなさい。私はこう見えて余計なことが嫌いです。5分で終わらせましょうか」

 

 クラウドは余裕の表情だ。相手を小馬鹿にするように、挑発した笑顔を浮かべる。

 

「……その口、開けなくしてやる……!!」

 

 大柄な男は、クラウドに飛びかかって行ったー

 

ーーーーーーーーーーー

 

「……夢か」

 

 ストームは立ったまま、パチりと目を覚ました。長年のそのような生活による癖、のようなものなのだろうか。彼は寝るときも横にはならない。どうやら、その場で直立したまま眠りにつくようである。

 

「あれももう、何十年前のことだったかな。覚えていないが、恐怖だけは今でも忘れてはいないさ。俺が1番だと思っていた。そんな中で、手も足も出ない者を相手にしてしまった、あの時の恐怖はな。そしてプリキュア、今ではあの者たちが力をつけつつある。いずれは……ふん、世界は恐ろしく広い、そういうことだろう」

 

 ブツブツと独り言を唱えていたその隣で、突如として小さな吹雪が発生した。スノウが、ここに現れたようである。

 

「ストーム……様。サンダーのその後の様子を調査しましたが、運の悪いことに、まだ生きている様子でした」

 

 一瞬、彼を呼び捨てに仕掛けた彼女だったが、すぐに敬語に修正し、そのような報告を上げた。

「まぁ、流石に簡単には死なぬだろう。それで?」

 

「いや、……いえ、私も奴のことに関しては、快く思っておりません。プリキュアを倒せたわけでもないですし、そろそろ、奴への処分命令を下される頃かと、思いまして」

 

「俺もそうしたいが、それはクラウドの意思ではない。奴から受けた任務の一部は遂行できたようだ。まだ、国をあげて奴を消すようなことはしないだろう。一応、俺の判断で奴を始末してもいいとはされているが、気が変わった」

「と、言いますと?」

 

「関わるのがめんどくさいのだ。プリキュアがこれだけの速度で力をつけている現状を踏まえれば、奴だっていずれ、あいつらに倒される日がくる。ならばわざわざ、カバークラウダーが手間をかけることもない、そう思った。それだけだ」

 ストームは淡々と答えた。

 

「そうですか。……奴は国の恥さらし。クラウド様としても、これ以上野放しにするのはデメリットも大きいはずなのに……。やはり、そうしておくだけのメリットがあるのでしょうか」

 

 スノウやレインは、クラウドによる、あえてプリキュアに戦闘経験を積ませ、ある程度の強さを手に入れてもらう必要がある、との施策を知らない。故に、サンダーが大きなお咎めなしで、のこのこと生きていることが理解できないのだろう。

 

「さあな。まあ、貴様らにクラウドへの不信がわずかにでもある、というのなら、それも国としては貴重な意見になりえる。俺が報告してやっててもいいが」

 

「め、めっそうもない、疑問に感じていただけです。しかし、プリキュアにやられっぱなしではいけませんね。このスノウ、次こそは奴らに我が帝国の恐ろしさを痛感させてみせましょう」

 

 スノウはそれだけ言うと、再び姿を消した。

 

「……厳密に言えば、やられっぱなしというわけではないか。クリアハートは奪えず、敗走もしているが、1人が相手なら、何度も窮地に立たせたこともある。キュアスパークの底しれぬキサトエナジー、キュアジョイフルの可能性は脅威だが、まだまだ余裕はある。クラウドは、もう少し奴らに力をつけさせたいようだが、さじ加減を誤るとまずくはなるだろう。エンシャントウエポンを回収し、起動させる、それ以上の力をつけさせてはならん。常に最悪を想定し行動する。それが、己の絶対的な強さがゆえに、どこか楽観的なクラウドに足りてないところだ。そこは、俺の仕事だろう」

 

 ストームはそう呟くと、彼もまたその場から姿を消したのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 さて、いつものように私の自宅の前でマナミと待ち合わせ、学校に向かっていた私たち。私は彼女に、先ほどから感じていた、何かを忘れているのでは、というモヤモヤを彼女に話していた。

「うーん、なんだろうね?国語の宿題は?」

「やってる!」

「数学は?」

「大丈夫!」

「あ、親に見せる家庭訪問の資料とか!希望日時とか書くあれよ!」

「えーっと、それもお母さんに書いてもらったし大丈夫!」

 

 むむぅ、マナミと会話していく中で何かを思い出せるのでは、と思ってはいたのだが、ここに挙げれられた提出物に関しては確かに何度もチェックしている。一体何を忘れているのだろうか。それとも、ただの思い過ごしならいいのだが……

 

 そんなことを考えているうちに、気がつけば私たちは教室へとたどり着いていた。

 

「光山さん、原稿はできたかしら?提出期限が明日でしょう?私もどんなものかチェックしたいし、訂正して欲しいところがあったらすぐに訂正できるよう、今日中に渡すから」

 

 そう話しかけてきたカスミによって、私はその違和感の正体を暴くことができたわけである。

 

「あーーー!!それだ!!それを忘れてたんだ……」

 私が突然大きな声をあげて、その場で頭を抱えるものだから、教室中の視線が一旦こちらに集まることとなる。

「……忘れてたって、あなた、先週から言っておいたはずだけども……」

 普段はポーカーフェイスなカスミも、今回ばかりは呆れた、という表情を隠しきれていない。

「ほんとごめん!すぐに、今日中に書くから!書く内容そのものは決まってるし!」

「まぁ、私も甘かったわ。もっと早く、確認しようとするべきだったわね。そもそも、光山さんでは1日で訂正を完了させられるかどうかも怪しかったわけだし。昨日あったときに言うべきだったわ。ごめんなさいね」

 

 カスミも、このように自分も悪かった、とはいっているものの、このような言い方は相当に下に見られてるという事実を改めて示してくるため、怒られるよりもかえって心にこう、刺さるものである。いや、こればかりは私が一方的に悪いのであるが。

 

「おーほっほっほ!安楽加清とあろうものが、人選はしくじった様子ですわね!」

 そこにクレハが高笑いをしながら混ざってきた。

 

「心外ね。人選は悪くないわよ。起こりうるケースを想定して動けなかった、私のミスだわ」

 私のことを庇ってくれてるのか庇っていないのか、よくわからない台詞ではある。

 

「まあ、なんでもいいでしょう。今の時点では選挙は私が一歩リードですからね!あなたもそろそろ、目立った活動をした方が良くてよ?ビラもポスターもないではありませんか。先日からバリバリ配布している私に抜け目はありませんわ!」

 

「その調子でせいぜい、私を倒せるように努めることね。さて光山さん、私の応援演説原稿なわけだし、手伝うわ。昼休み空いてるかしら?」

 

 クレハを完全にスルーし、彼女は私とともに、私の席の方へと歩きだす。

 

「う、うん。本当ごめんね……」

「私も手伝うよ!私たちは、チームなんだし!」

 マナミも励ましてくれた。友達とは心強いものである。

 

「あの余裕綽々な態度……いつものことと言えばそうではありますが、気になりますわね。何か策でもあるのかしら。私がリードしている現状に焦っていない、という演技をしているだけかもしれませんし。むむ、読めませんわ。まぁ、いいでしょう。やることをやるだけですわ」

 

 クレハは一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、すぐにいつもの人を少し小馬鹿にしているかのような表情に戻ると、自分の席へと帰って行った。

 

 その日は昼休みはおろか、放課後までもが、応援演説原稿作成だけに追われる日となった。カスミとマナミ、2人がついているのにこれであるから、そもそも家でやろうとしてもできなかったことかもしれない。

 

「安楽さんは、1年生でも大人っぽくて真面目でー」

「言い回しに気をつけて。でも、じゃダメよ。1年生ながらに、にしましょう」

「う、うん。わかった!1年生ながらに大人っぽくで真面目で、小さな頃かー」

「幼い頃から」

 かなり食い気味に訂正を入れてくるものだから、押されてしまう。

「お、幼い頃から、常に周囲に目を配り、さらには努力を積んできました。そんな彼女だからこそ、全ての生徒、それだけでなく、先生方にもー」

「ひいては、先生方にも、ね」

 

 訂正箇所だらけである。仮に今日彼女にこの原稿を渡せていたとしても、今頃赤線だらけのそれが送り返されてきていただろう。

 

「ま、まぁ安楽さん。文章が固くなりすぎると逆効果なところもあるくない?」

 

 そこにマナミが一旦、待ったをかけた。

「と、いうと?」

「公的な文書でもなければ、先生に提出する作文でもないわけじゃん?聞くのは私たち中学生よ。だからこそよ。固すぎると、常に周囲に目を配ってきた寄り添える人間、という点に、文章から説得力を感じられなくなるわ。お堅い印象を植え付けてしまうわよ」

 

「……お堅いと何かマイナスになるわけ?」

 

「はっきり言えばそうね。大人の世界では評価されても、今回ばかりは評価者は、投票者は中学生よ。私だったら、なんか堅苦しい生徒会長って嫌だし、入れたくなくなるかもね」

 

「……非常に参考になる、いい意見ね。ありがとう、確かにそこを考えていなかったわ」

 

 カスミは本当に心底感心しているのだろう。無表情から一点、一瞬目を丸くした後、利き腕の拳を、少しひいた顎にちょこんとのせ頷く仕草を見せた。

 

「そこを逆説的に捉えて、敢えて安楽さんの真面目な面を前面に押し出す作戦もありだし。安楽さんの、ほかの候補者にはない圧倒的な強みなわけだしね。それか、ヒカルちゃんに演説させるなら、応援演説は堅くなりすぎず、むしろアホっぽくしてのギャップ狙いもいけるかもね」

「アホっぽい演説でわるうござんしたね……。でも、そこまで考えられるのなら、やっぱり私なんかより、マナミちゃんにお願いした方が……」

 

「いえ、大田さんのは非常に実のある意見だったけれど、原稿も演説も任せるのは光山さんよ。その意見を踏まえるのならば、適任でしょう。アホっぽく、というと失礼だけど、明るく元気なことを書いて話せるのは、この中ではあなたが1番得意なはずだわ。むしろ、さっきまでの私は、あなたのその長所を、私のやり方と枠に収めようとして潰してた。ごめんなさいね」

 

「い、いやいや何も謝ることないし!!それに私のは、そんなたいそうなものじゃなくて、単に私が頭悪いからそんな風になっているだけで…」

 

「ガラにもなく、しおれたこと言ってんじゃないわよ!」

 

 マナミがバンッと、私の背中を手のひらで叩いた。思わずビックリしてしまう。突然のことに、息が止まるかと思った。

「よく言えば、無意識のうちにも明るく元気な感じを作れるというか、作るというより、あなたは根がそれってことでしょう!さすがはキサトエナジーだけならナンバーワン、ヒカルちゃんってところね」

「私はまずこの学校の、そして将来的に世界のトップに立つ女。トップは人の長所を存分に引き出す技量も求められるわ。私はまず、光山さんの良さを引き出さなければ。大事なことを忘れていたわ。あなたたち2人のおかげで気づけた。私もまだまだね……。細かい口出しはしないわ。助言ならするけど。だから、今度は自分が好きなように、書いてみてちょうだい」

 

「わ、わかった……!私っぽくていいんだね!」

 

 よし、と意気込み、私は改めて鉛筆を動かし始めた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 その日の夜のことだった。原稿はなんとか完成し、それに一度目を通したカスミは、私の良さを引き出したい、とは言っていたものの、流石に自分の性格やイメージとは全く異なる、私らしさ全開の演説原稿に若干引き顔ではあったが、マナミがとにかくギャップ受けが狙えるからいけるよ!と強く推したためにこれを承諾。まぁ、たかが応援演説だし、と割り切ったのだろう。

 

 しかし、されど応援演説。カスミ自身、どこかでマナミの述べたことに納得してもいたのだろう。自分自身の演説や選挙活動だけでは、どうしても真面目すぎる、硬派すぎる印象を植え付け、そしてそれは、中学生相手にはあまり好まれないことだという事実も受け入れたのだろうか。その弱点を補い、かつ、あんな調子で応援演説をされれば、確かにその『ギャップ』ウケを狙えるに留まらず、堅すぎる、というイメージを払拭し、実はユニークな人間なのでは、と再注目される可能性も秘めている。

 

 神童と持て囃され続けはや13年な彼女ではあったが、最近といえば「安楽加清なら当然」と、あらゆる物事がそれだけで処理されることに少し疑問符がついているのだろうか。確かな成果を今でも絶えず残し続け、かつ周囲からは常に高評価を受けているとはいえ、プリキュアに興味津々であったりと、どこかまだこの上を求めているような描写もあったが。

 

 注目されることが当たり前となってしまい、それが彼女の中で所謂マンネリ化してきているのだろうか。今までとは一風変わった評価や注目を受けたい、という彼女の中に眠る願望が、ひょっとしたら、私という正反対の人間を応援者に選んだのかもしれない。というのは私にとっては都合の良すぎる解釈だったか。

 

「ただいま戻りました」

 

 威厳ある和風の我が家へと帰宅したカスミは、引き戸を開きながら、家の中にいるものへとそう挨拶をする。

 

「遅かったわねカスミちゃん。学校が忙しかったのかしら?」

 

 奥から出てきたのは、薄いピンクの上品な和服をまとい、その腰あたりまでに黒い髪をストレートにおろしている女性だった。

 

「はいお母様。生徒会選挙活動が活発になってくる頃ですので。今日は応援演説をしてくださる知人の手伝いをしていました。いいものに仕上げてくださり、ますます私の勝利が近づいてきているのも同然であり、嬉しく思うのとともにありがたい限りです」

 

「そうですか、それはよかったですね。お夕飯の準備はできてますよ、先に召し上がられる?」

「いえ、遅くなっておりますし、先にお風呂の方へー」

「カスミ、ちょっとこっちにきなさい」

 茶の間から父の声がする。

「は、はぁ。しかし、帰ってきたばかりな手前、お父様に対する礼儀といたしましても、先に風呂を済ませたほうがよろしいかと」

「いらん気遣いだ。口応えする暇があったらきなさい。すぐ終わる話だ」

「……では」

 

 カスミは、そばにいた母にバレない程度にため息をつく。父のことは深く尊敬している様子だが、威厳に溢れる人物でもある。話があると言われれば、まぁ、彼女であってもため息の一つや二つ、つきたくなるものであろう。

 

「なんでしょうか」

 

 茶の間に入り、父の向かい側に正座して腰をかける。

 

「応援演説者と言っていたな。誰にしたのだ?」

「……それは答えなければならない質問でしょうか?お言葉ながら私ももう小学生ではありません。お母様、お父様御二方には無論従いますが、私自身にも意志がー」

「言うようになったなカスミ。まぁ、年頃の娘は世間一般的にも反抗期だ。仕方のあるまい。だが質問には答えてもらいたいな。誰にしたのだと聞いている」

 食い気味にセリフを切断されるカスミ。

 

「……覚えておられでしょうか?光山輝さんです」

 

 父にとっては予想外であっただろう人物の名を、彼女は、彼の顔色を伺うように、小さな声で、ゆっくりと口に出した。

 

「あぁ、覚えている。そして、昨日、彼女たちと遊んでいたのだよな?」

 

 予想外だったのは、この返しであった。

 

「……どこからそれを……で、ですが、彼女は悪い人間ではありません。確かに頭は足りてませんし、けして上品でもない。お父様の指示したような友人ではありませんし、むしろ、お父様としては付き合って欲しくない人間になるでしょうが、しかしー」

 

 あのカスミともあろう人物が、明らかに動揺している。幼い頃から友人は選べと。また、親の指示する人間と付き合えと言われ続けていた身分であるから、明らかに彼女の父の構想の中ではこれに該当しない私と付き合いをしていると知られたことには、流石に平静を保てないか。

 

「落ち着け。私も光山くんの批判をしたいわけではない。だが、だ。光山くんでお前の応援が務まるのか。この安楽加清の応援が務まるのか?そこが気が気でならぬ。まぁ、もう今更応援者を変えるというのは遅いのだろうが、それで選挙に負けたらどうする気だ?月野家の娘さんも、例によって出馬するのだろう?月野さんの娘に負けるともなれば、お前自身のプライドも傷つくはずだ。そういう経験も大事かもしれん。負けを知るのも大事かもしれんが、今じゃない。今はまだ負けるべき時でも、お前を負かすにふさわしい人間もおらんのだ。まだ勝ち続けないといけない時だ。そこはお前の知るところでもあるだろう。……なぜ光山くんなのだ」

 

 父はゆっくりと、そう語った。怒鳴っているわけではない。怒り、ではなく、本当に、シンプルに疑問に感じたのだろう。

 

「……勝つためです。私は勝つために光山さんを選びました。光山さんは、少なくとも負けにつながるようなことはしません。必ず私の勝利をより確実とする働きをしてくださる。確信しているからです。私はお父様の娘、ゆえに間違えません。私に間違いはないのです。そう教わったように、私は私の、個人の正しさを、この世の、全体の正義にします」

 

 これは後付けの理由だった。私がカスミの勝利の役に立てるかもしれないと判明したのはついさっき、放課後の出来事なのだから。だが、今は本気でそう思っているのか、だからこそ、でまかせではない。真に迫る語気がそこにはあった。

 

「具体的にどの点を評価した?納得行く理由があれば、私の疑問は解決される」

 

「お父様のお考えになられているとおり、私と光山さんはまず、普通に生活していれば相容れぬ存在です。目指す場所も生きてる世界も、価値観も性格も趣味に友人関係、全てが異なる」

 

「そうだろうな。少なくとも、お前の人生にはプラスになる人間ではない。だから、付き合わせようとはしなかったさ」

 

 あくまで個人を批判したいわけではない。この父親は、娘の今後において利益があるかないかで彼女の周囲の人間を見ているに過ぎないのだろう。

 

「そこに目をつけました。もちろん、私には付き合うように、と指示され、小学生の間は仲良くしていたクラスメイトはいます。ですが、その方々とも異なる、今までにない視点から私を語れる、そこに可能性を見出しました。私と光山さんは知っての通り、全くの無関係ではないですし。これも何かの縁だと。そして彼女は私の狙い通り、素晴らしい原稿を用意しました。ことにお父様、私はいずれ全ての頂点に立つ人間です。あらゆる人材からあらゆる可能性と力を引き出すことは大切なはず。それをまさにやってのけた。私はむしろ、自信と誇りを感じています」

 

 先程までの動揺していた様子からは一変し、流石の口のうまさを、というと失礼だが、演説力を見せつけたカスミ。

 

「……なるほど、さすがは我が娘。しっかりとしたビジョンに基づいていたか。だがまぁ、それもそうだ。なんたって、お前は安楽加清なのだからな」

 

「それに、別の策もすでに打ってあります。ご安心を。私の人生には勝利しかありませんから。私はトップに立つ者です。いずれ、お父様とも対等以上な存在になるでしょう」

 

「本当に言うようになったな。面白い。反抗期の優秀な娘とは、退屈しないからいいものだ」

 父はハハッと笑いながらそう言った後、葉巻に火をつけた。

 

「我々親はお前を縛り付けたいのではない。まだまだ子供なお前に少しでもいい環境を提供してやっているだけだ。だが、先程お前も述べていたように、中学生にはなったわけだ。子供だが、幼稚ではない。賢さを得た子供、大人もどきってところか。……今日のようにもっと言い返してこい。私が求めているのは私らの人形になるお前ではない。私らが育てた安楽加清なのだからな。その歳で親とこのような話し合いができる子供がこの世に何人おろう。見事なものだ。さぁ、もう良い。長くなってしまったな。風呂にでも入っておれ」

 

「……よく覚えておきます。では、失礼します」

 

 その場を離れると、彼女は風呂場へと向かった。お腹も空いていることだし、さっさとシャワーで済ませて、ご飯も食べてしまうことにしたようだ。

 

「……まだまだ子供、大人もどき、ね」

 

 シャワーを浴びながら、彼女は先程言われたことを頭の中で反芻していた。

 

「……それではいけない。私は特別、私は周りとはひと回りもふた回りも格が違う存在よ。そのようなところに留まってはいけない。早くお父様に、1人の大人として認められなくては。いずれは親をも配下にする、正真正銘文字通りの頂点、それが私のなるべきかつ親の求めている未来像。それには邪魔な人たちもいるわね……異世界だかクラウドだか知らないけれど、親にバレる前に、とっとと片付けないと」

 

 カスミはそう静かに決心を固めていた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「ただいま〜」

 

 カスミが家についたのと同じ頃、私もやはり家に帰宅していた。流石に、ぐったりと疲れている。これほど疲れたのはいつぶりだろうか。小学生の頃は一応、ソフトボールという運動部にはいたが、言ってしまえば所詮は小学校の部活動。街の外の他校と行うような練習試合の後は疲れていても、こういう、なんでもない普通の平日の夜にこうも疲弊して帰宅するなどは稀であった。それも、身体的な疲労ではなく、珍しく頭をフル回転させた結果の疲労である。

 

「お姉ちゃんおかえり!」

 

 まず最初に迎えてくれたのは、弟のテルキだった。

 

「ただいまテルキ〜!お姉ちゃん疲れた〜今日夕ご飯何?」

「お姉ちゃんも大好きなコロッケだよ!」

「本当!?こりゃテンションも上がるってもんですわ!!」

 

 こんなことで一瞬で疲れがある程度飛ぶから、私も単純である。

 

「ヒカル、遅かったのね。……まさか、お勉強でなんかやらかして居残り……?」

 そのあとに、怪訝そうな顔をして母が出てきた。

 

「違うよ!人聞きの悪い!私は今日はとても真面目な理由で遅くなったの!」

「真面目な理由?」

「そう!この光山輝の人生始まって以来の栄誉ある理由でね!」

「……なんだかよくわからないけど、まぁ、宿題忘れて罰として、とかではなさそうだしいいわ。テルキったら、お姉ちゃん帰ってくるまで僕も夕ご飯はまだ食べないんだ〜なんて言っちゃってたのよ。この子が待つなら、お母さんも待つしかないしねぇ。さ、早く手を洗ってきなさい。食べてしまいましょう」

「テルキ待っててくれたの!?ごめんね!」

「だって、夕ご飯はみんなで食べないとつまんないよ?」

 

 まぁまぁこれは、姉想いというか、家族想いの可愛い弟なこと。私との歳の差は4つ。つまり、今年から小学3年生。ついこの間まで小学生同士だったこと、特に彼は低学年だったことを考えると、このように可愛く無邪気であることにはなんの不思議はない。ただ、ここからが怖いものである。いつまでも露骨に家族が大好きすぎる様子を全面に出していれば、これをからかってくるくだらない連中が周囲にちらほらと出てくるのも、だいたいこの年頃からであろう。

 小学3年生くらいが1番生意気どが加速する年頃だと私は思っている。まだ二分の一成人でもないくせして、周りより少しでも大人な俺かっこいい!と言いたくなるお年頃に差し掛かるのだろう。やれ僕はもうヒーロー番組は卒業しただの、やれクルクルコミックはもう読まないだのと、何かと子供っぽいことをバカにして、僕はもう大人だぞと、示したくなるものだ。そういう子に限って、実はまだまだ子供っぽいものが大好きなところはまぁ、可愛いことには可愛いが。

 そのような周囲に影響されて欲しくはない。いつまでも可愛いテルキでいて欲しいものだ。

 

 さて、家族で夕ご飯を食べ終わり、風呂にゆたーっと浸かった後、私はあくびをしながら自分の部屋に入った。明日からは1人で喋る練習も必要だし、一応応援者として、カスミがなんらかの選挙に関するアクションを起こすのならば手伝うことだってしなければ。それらに備えて、今日はとっとと寝てしまおう、とした時だったのだがー

 

「遅かったラエね。居残りでもしてたラエか?」

 

 暇そうに、私のベッドの上をゴロゴロとしていたラエティが、抑揚のない声でそう喋りかけてきた。母にしろこの妖精にしろ、私をなんだと思っているのか……

 

「違うよ!って、もうさっきもお母さんに突っ込んだばっかりだし、もういいや……それよりあなたね!何勝手に人のベッドに上でくつろいでんのよ!この間、あなた用にクッションを押入れから引っ張り出してきてやったじゃない!」

 

 あのサイズ感が寝付くのにはちょうど良さそうな、ベッド代わりに用意した、マヌケな面をしたカバさん型のクッションは、床の上に放置されている。

 

「それはそれラエ。こっちの方が寝心地いいラエからね」

「わがままな子……。ていうか、あなたオスなんでしょ??女の子のベッドに無断でゴロゴロってこう、なんかこう、ないの!?」

「クリア王国の同じ種族間であったら異性に関しては、おそらく人間と同じくらいの意識をするときはするラエが、ヒカルは別になんとも感じないラエ」

「……まぁ、私もゴロゴロしているハムスターがオスだろうとメスだろうと気にしないけどもね、全く、私の気持ちにもならない?疲れて帰ってきたら、安住の地であるベッドが生意気なチビちゃんに占拠されてるってさ!」

 

「別に占拠はしてないラエよ。ヒカルがこっちにくればいいラエ?」

 

 真顔から一転、生意気な妖精は私を煽るような顔でこう発した。

 

「ぐぐぐ……あ、そういえば、今日なんかレティちゃんと調べるものがあるって言ってなかった?それはどうだったの?」

 

 ここで話題を変えることとする。

 

「あぁ、大事なことラエ。それを伝えなくちゃいかんかったラエよ。心して聞くといいラエ。古代兵器を効率よく回収するために、レティツと調査したものがあるラエがー」

 

 こう口を開こうとした瞬間、彼の長い耳がピクッと動いた。

 

「ーが、先に片付けないといけない案件が出たみたいラエね」

「またクライナー?もう、面倒な人たちだね……」

「夜も遅いし、今から金持ちとカスミを呼ぶのも気がひけるラエ。ちょうどレティツは今マナミの家に戻ったところ。2人で頼むラエよ」

「おっけー!私も早く寝たいし、とっとと懲らしめてやりますか!」

 私はラエティを肩に乗せると、窓から屋根へと躍り出た。ここで変身して飛んで行く方が無難だろう。こんな時間に玄関から堂々と家を出ては非行少女と親に心配されてしまう。もっとも、今から私は大ジャンプによる跳躍移動とはいえ、飛行するのだが。

 同じことを考えていたのだろうか。何軒かとなりの大田家の屋根上にマナミの姿が見て取れた。私たちはアイコンタクトを取ると、ご近所迷惑にならないよう、小声で合言葉を唱える。

 

「プリキュア!エキサイティングフィーバー!!」

 

 真白き光に全身を包んだ私たちは、その次の瞬間には姿が変わっていた。伝説の戦士、プリキュアとしての姿である。

 

『さて、今日はどこに行けばいいのかしら?』

 

 キュアパンプ=マナミが相棒のレティツにそう尋ねる。

 

「ここから東の方に反応があるレティ。このウィザパワーの感じは……」

「間違いなくスノウラエ。なかなか厄介なやつラエね」

 

『あの妖怪厚化粧な雪女ね。確かに手強いわ』

 マナミはふむふむと頷きながらそう呟いた。

 

「奇抜なバブル野郎の次は妖怪厚化粧って、やっぱり人間はすぐに変なあだ名つけるから怖いラエ……」

「ラエティも裏では妖怪おしゃべりタヌキとか言われてるかもしれないレティね」

『それを言うなら妖怪でしゃばり解説員じゃない?』

 私が意地悪な笑顔を浮かべながらそう言う。

『なら間をとって、妖怪しゃしゃりタヌキだね!』

「……全員後から覚えとくラエよ……とにかく、クライナーを倒さないといかんラエ!」

 

『もちろん!よし、スパーク!とっとと行きますか!』

『オッケー!とう!』

 

 私たちは腰を低くし、足の裏に一気に力を蓄え、そのまま大ジャンプで現場へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

『クライナァァァァァァァ!!』

 

 巨大な氷塊のような怪物、クライナーは雄叫びをあげながら、その場に佇んでいた。なんともご近所迷惑な唸り声である。しかし、夜の静かな住宅街にこのような声が響き渡るのだ。街を破壊するような行動で無駄なエネルギーを消費せずとも、立っているだけで周囲の人間からウィザパワーを集められるのだから効率的でもある。

 

「その調子だよ!クライナー!プリキュアどもが来る前にウィザパワーを充満させておやり!……私がさらに力をつけるには、将軍レインが失態の連続で隙を作っている今しかない。そんな好機を、あんな男に横取りされてたまるかってんだよ!今日こそ、私がこの手でー!」

 

 あんな男、とはサンダーのことを指すのだろう。相変わらず幹部間での、よくいえば切磋琢磨な競争ー現状は醜い出しぬきあいに留まっているがーそれが彼らを駆り立て、積極的に戦場へ赴く動機にもなっているようだ。

 

『うるさーい!!』

『時間帯ってものを考えなさいっつーの!!』

 

 そしてそこに、クライナーの口を塞ぐように、奴の頬目掛けて同時にキックをお見舞いしてきた二つの影があった。

 

『弾ける心!キュアスパーク!!』

『高鳴る心!キュアパンプ!!』

 

『闇に染まった心に元気と天気を取り戻す!輝け!ワクワクプリキュア!』

 

 それらは着地とともに、ビシッとポーズを決めながら名乗りをあげた。私たちプリキュアである。

 

「チッ、もう来たのかい!だが、まあいいさ。キュアスパークにキュアパンプの組み合わせかい。それなら、私とも相性がいいってもの!クライナー!氷漬けにしておしまい!」

 

『クライナァァァァァ!!』

 

『一回負けてるくせによく相性がいいだなんて言えたものね。スパーク、私が惹きつけるから、隙を見てどでかいの一発かましてあげて!』

 そう言うとパンプは、空中に躍り出た。

『オッケー!ハァァァァァ……』

 私はその間、利き腕にキサトエナジーを集中させて行く。

 

「好きにさせてたまるか。スパークは単体では馬鹿力は凄まじいが、機転も利かなければ機動力も欠ける。隙だらけってもの!」

 

 スノウはクライナーの頭の上から離れ、私の方へと狙いを定め、攻撃体制に入った。

 

『まぁ、そう来るよね。でも、時間ならいくらでも稼いであげるから、スパークは安心して!プリキュア!パンプスライダー!!』

 

 パンプはそう叫ぶと、両手の平を空へと向け、そこにそれぞれ水色の光の球体を生み出した。球体は膨張しながら各々次第に5つに分裂し、そこから勢い良く、水流となり宙をかけ始めた。計10本の激流がムチのようにしなりながら、クライナーとスノウの進路を阻む。

 

「チッ、攻撃用の技に見せかけた防御技か……!触れたものをその勢いで押し流す言わば水のバリア。小賢しい技だね!でも、私のクライナーには意味がないよ!」

 

『クライナァァァァァ!!』

 

 クライナーは口からウィザパワーでできた光の球体をあたり一体に吐き散らかした。これらがパンプスライダーと激突するが、スライダーはその瞬間、凍結してしまい、一瞬にして水のバリアは氷の柱と化してしまったのだ。

 

『……くっ、そう上手くは行ってくれないみたいね……』

 

 氷の柱が妨げとなる事実は変わらないはずだが、巨大な怪物にとってそんなものはなんの足かせにもならないようで、それらを体当たりで砕きながら、パンプへと迫って来る。

 スノウはスノウで、身丈は私たちと大差がない人型。柱の合間を器用にスイスイとくぐり抜けながら、こちらは私の方へと突っ込んで来る。

 

「ハハッ、お得意のコンビネーションってのもそんなもんかい!?お前の攻撃は当たらなければ怖くない!さぁ、仲間の援護なしで、この私に命中させることができるかな!?」

 

『……くっ、まだ力を込め終わってない……!ラエちゃん!何か手は!?』

 

「一応あるラエ!とにかく今はこの間合いをどうにかしないと!パンプ!あたりを水浸しにするラエ!」

 

『了解!プリキュア!スプラッシュフィールド!!』

 

 パンプは妖精の指示通り、今度は同じように作り出した水色の球体を破裂させ、あたり一体に疑似的な雨のようなものを降らせ、水で湿らせた。これでー

 

「これはーあの時と同じ!スパークの電気のキサトエナジーを一帯に放電するための仕掛けか!クライナー止まるんだよ!チッ!」

 

 スノウは瞬間的にそれを察知し、大きく反転すると、私たちと再び距離をとった。放電が届かないと見込まれる安全地帯まで引いたのだろう。

 

「……芸のない奴らだねぇ。同じ手を簡単に喰らう私ではないよ!それに、ならば遠距離から攻撃すればいいこと!スパークに遠距離の攻撃手段はない!目先の防御のために、自らの武器を潰すとは、とても、いい采配だとは思えないねぇ」

「さすがに、この作戦はバレていたレティ……」

 

「いや、距離を置いたことに意味があるラエ」

『どういうこと?妖怪厚化粧の言う通り、これじゃこっちは攻められないし』

 私の隣に着地したパンプがそう尋ねる。

「い、今妖怪厚化粧だって!?誰のことを言ってるんだい!?」

 

 向こうで突っ込みが聞こえてきたが、私たちはそれをスルーしてラエティの次の言葉を待った。

 

「シャイニングバードで一気にカタをつけるラエ。アレには、別に一撃必殺の大技を放つことしかできないわけじゃない。本当の効果的な使い方ってものを教えてやるラエ」

「教えるったって、ラエティは知ってるレティ?」

「逆にレティツはそんなことも知らないラエか。ちゃんと王様に習ったことは復習しとくラエ!まあとにかく、スパーク、前みたいに、これを背中につけるラエよ」

 

『う、うん』

 

 私は背中に小さな羽のような形をした古代兵器=エンシャント・ウエポン、シャイニングバードを装備した。するとやはり、全身からゾワッと、急激にキサトエナジーが湧き上がり始め、これに反応した、小さかったはずの羽は、私の身体よりも大きな翼にへと姿を変える。

 

『う、うおおおおお……!か、身体が重いいい……』

 

 前回は変身解除寸前にまで追い込まれた、ヘロヘロの状態の時にこの装備をしたため、急激なキサトエナジーの上昇は私の変身態を一時的に回復させる役割も担っていたが、今日のようにまだほぼフルパワーが残っている状態で身に纏うと、おそらくキャパオーバーということか。これまでに感じたこともないような膨大なエネルギーに背中から潰されてしまいそうになる。

 

「な、なんだいこの、この量のキサトエナジーは……うっ、一気に頭痛が……!あの巨大な羽はなんだ!?アレが、キサトエナジーの塊だというのか…これが世に聞く光のエンシャントウエポン、想像を遥かに凌駕している……!」

 

 スノウはすっかり恐怖に支配された顔へと変わっていた。ウィザパワーをエネルギーにする彼らにとって、これほどまでのキサトエナジーは有毒以外の何物でもない。

 

「耐えるラエ!このエネルギーを一気に光線として、この間のように解き放つのもまた作戦ではあるラエが、それは敵があのようにノーマークの時にしても避けられてしまうかもしれないラエ。それに古代兵器には色々種類があるラエ。シャイニングバードの場合、本来の効果は装備者の身体能力の大幅な底上げ。ちょっと飛んでみるラエ」

 

『と、飛んでみるって、こんなに体が重くて、今にも倒れそうなのに飛ぶなんて無茶な…』

「いいから!ちょっとジャンプというか、背伸びをする感覚でも構わんラエ!意識を上に!」

 

『う、上に……背伸びをするかんか……ひゃあっ!?』


 次の瞬間、私は巨大な翼を1度だけはためかせた後、気がつくと成層圏付近にまで一気に高度を上昇させていた。1秒前までは地面に足をついていたはずなのだが。

 

「……あ、アレだけ重さに苦しんでいたスパークが一瞬であんな遠くに……ちょっとこれは、僕も想像以上ラエ……」

『えぇ……』

 

 マナミは言葉もなくただドン引きしている様子である。

 

「なんだあの速度は…!アレほどまでのスピードにキサトエナジー……丸腰でまともに相手にできるわけがない!こちらにもエンシャントウエポンがなければ、どうすることも……クソがっ!今日のところはこの辺にしておいてやる!」

 

「スパーーーク!!聞こえるラエか!!スノウのやつ逃げる気ラエ!クライナーだけでも浄化しないと、街の記憶を元に戻せないラエ!急ぐラエ!!」

 

『待てえええええええ!!』

 

 徐々に大きくなるその声とともに、私は急降下しまっしぐらに戻ってきた。身体が重い分、落ちるほうが楽ではある。

 

『プリキュア!!スパークメテオスタンプ!!』

 

 もちろんこれも即興での技の命名である。

 そのまま目にも留まらぬ速さでクライナーの頭上に落下。そのままの勢いでやつを地中へと埋め込み、そのあまりのキサトエナジーに耐えきれなかった怪物の肉体は、次の瞬間には消滅していた。

 例のごとく、クライナーの消滅により、あたりの地形や外観、人々の記憶はそれの出現前時点にまで改修されていた。

 

「……!?おのれ……プリキュア!!覚えてろ!!」

 

 スノウは捨てセリフだけは忘れずに吐き終えると、そのまま一目散に姿を消した。

 

 しかし、消滅したのはクライナーだけではなかった。私も、気がつくと変身が解除されていたのだ。

 

「な、なに、この打切り漫画に最後の方にありがちな、急激なバトルのパワーインフレみたいなのは……?」

 

 同じく変身を解いたマナミは、ついていけなかったのか、ただ引き顔でそう呟く。

「いや、どうやら、そんなに単純な話ではないみたいラエ……」

 ラエティも想定外の事態への混乱が解けないまま、私に視線を向けながらそう答えた。その視線の先で、私は気を失い倒れていたらしい。

 

「ちょ、ヒカルちゃん!?大丈夫!?」

「女子中学生の肉体で受容できるようなキサトエナジーではなかったということレティか?この間はたまたま、本人のキサトエナジーが減少していたから、どうにかなったというだけで……」

「……わからんラエ。とにかく、ヒカルを家まで運ばないと…マナミ、頼むラエ!」

 

 スノウを強大な力で退けたものの、なんとも後味の悪い余韻が残ってしまったのだった。

 

 

                                          続く

 


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