そう言い出した妖精たちを止められずに、中学生活二日目にして早速スリリングな登校をすることとなった私、光山輝。2人目のプリキュアを探すためとはいえ、いつバレるか不安で不安で、気が気じゃないっていうか、心配っていうか!こんなんで授業に集中できるわけないし!
しかも悪い予感は的中し、彼らが月野紅羽に見つかったりしてー?
第3話「募集中!2人目のプリキュアは誰!?」
入学式を終え、二日目の今日が授業初日となる。
とはいっても、ほとんどの授業が初回はオリエンテーションだった。
この科目ではこのようなことをしますよ、であるとか、中学生からは予習も大事ですよ、だとか。そういった説明ばかりとなっている。
個人的に、数学担当の原先生という、まだ大卒2年目の若き女性教師とは相性が良さそうだと感じた。美人だし、優しそうだし。逆に、体育の中畑先生はいかにもな、絵に描いたような熱血教師という第一印象で、あれは苦手そうだ。すでに体育を受けるのが億劫である。
午後には英語と国語のコマが入っていたか。昼食の後に言語学二連発とは、これは居眠りするなという方が難しいような組み合わせだが大丈夫だろうか。特に授業についていける自信のない私なのだ。本格的に授業が始まる来週からは、寝てしまい怒られる、という光景が脳内で鮮やかに描けてしまうのも情けない限り。
けれども、今心配なのはそのことではなく「彼ら」の動向である。
「ヒカルちゃん、今日ずっとボーッとしてるけど、寝不足?ちゃんと先生たちの話聞いてた?」
昼休み、教室で一緒にお弁当を食べていた親友、マナミがそう話しかけてきた。
「え?あっあぁ!もちろん聞いてたよ!大丈夫だよ!」
「本当かなぁ?ヒカルちゃん、嘘つくとそのアホ毛がピンってハネるからもうバレてるよ?」
「うそ!?私そんな癖あったの!?」
私は慌てて髪を押さえつけた。
「あ、アホって言ったことにはツッコマなかったね?」
親友はニタニタとにやけている。
「いや、ちょっ、アホじゃないし!」
「マジウケるんですけど。やっぱり面白いなぁヒカルちゃんは。ずっと側に置いときたいわね。飽きないし」
「すっごく馬鹿にされてる気がするんですけど……」
キーッと睨みつける。
「さぁ、気のせいじゃない?もちろん、友達としてずっと一緒にいたいって意味ですけど?」
「……それは嬉しいけど、でも、ぶっちゃけ馬鹿にはしてるでしょ?」
「まぁ、そりゃあ……ヒカルちゃんだからねぇ。ほんのちょっとくらいは」
またもニヤつきながらそう続けた。
「……ぐぬぬムカつく!でもマナミちゃん、私を馬鹿にできるのも今だけだからね!なぜなら私はプ……!」
そこまで言いかけて慌てて口を閉じた。危うく口を滑らすところだったからだ。
「プ……?なになに、言ってみなさいよ?」
「い、いやその……なんでもないよ!」
「髪、ハネてますけど」
「ま、まぁなんだっていいじゃない!早く食べないと昼休み終わっちゃうよ!」
「……なら、そういうことにしといてあげる」
よかった、どうやらこの場はやり過ごせそうだ。
しかしこの子、以前にも増して人を煽るスキルが高まっている気がする。まったく、末恐ろしい人物である。
さてその彼ら、妖精たちであるが、朝のホームルーム以降、行方がわからないのである。気づくと、カバンの中から姿を消していたのだ。私に迷惑はかけないとは言っていたが、もしあんな新種の珍獣が他の誰かの目にでも留まったら、もしくは怪しい人物に捕獲されていたらと、いろいろ考えてしまい気が気でないのだ。側からはボーッとしているように見られても仕方がない。
今どこで、どういう動きをしているのだろう。
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「午前中の3時間でいろいろな子を見たラエが……ズバリもう候補はかなり絞れたラエ」
同じ頃、校舎の屋上の端で、ヒソヒソと小声で話し合う妖精たちの姿があった。
「本当レティか?流石ラエティレティ!」
「でも、ヒカル並みの莫大なキサトエナジーを持つ子は遂には見つからなかったラエ。そこだけは類い稀なポテンシャルの持ち主ラエね。これは褒めるべきなのか、単に何も考えていないポジティブバカってだけなのか……」
「でもプリキュアとしてならめっちゃ強くなれる存在ってことレティ。褒めてもいいレティよ!」
「……女子中学生ってのは難しい年頃と聞いているラエ。各々それなりに強いキサトエナジーこそあれど、心の何処かにウィザパワーの種も潜ませている。それはヒカルにも同じことが言えるラエが、あの子は多少の悩みや不安なら、いつの間にか消え去っているタイプラエ。確かに、プリキュアとしては申し分ない。クラウドたちに負の面を利用されるリスクも限りなくゼロに近い。ある意味無敵の存在ラエ……」
アホとはいえ、良く言えば事柄を難しく考えようとしないため、深い絶望に陥りにくいという性格でもある。そのため、常時高い水準のキサトエナジーを維持することができるのだ。これも一つの才能である。最も、人間界でのこの能力を見抜き、評価するのは難しいだろうが。
初陣となった昨日も、強い恐怖を感じてはいたが、それでも自己の判断で動けない弟を抱え、さらには危険を顧みず親友の元へと向かった。
肝っ玉が据わっているからであろうか。そうではない、とラエティは踏んでいる。おそらくだが、特に深くは考えず、本能的に今すべきことを選択していたのだ。
この行動について、捉えようはいくらでもある。反対に悪く言えば思いつきでしか行動ができないということにもなるだろう。咄嗟の判断であれだけ動ける13歳は確かに貴重な逸材でもあるが、同時に常に危険がつきまとうのも避けられない。だからこそー
「キサトエナジーはあの子ほどじゃなくても、無鉄砲な彼女を正しい方向へ導ける、賢い存在が2人目として相応しいラエ。候補は3人。まずは、第1候補に接近するラエよ」
「それはどの子レティ?」
「大田愛海。ヒカルには絶対にダメだと念を押されているラエが、やっぱりあの子が適任ラエ」
その口から出てきたのは、親友の名だった。
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「ヒカル、ヒカル!」
昼食を終え、マナミと次の授業のある視聴覚室へ向かう途中に小声ではあるが、私の名を呼ぶ声が耳元ではっきりと聞こえた。だが、彼女の前で彼らに対して返事をするわけにもいかない。ここは、無視することとする。
「ヒカルってば!なんでシカトするラエ!」
しかししつこい。これでは、無視を貫くと余計に面倒である。仕方がないので、お手洗いによるから、とマナミだけを先に行かせ、廊下の隅で話を聞くこととした。
「ちょっと、学校で話しかけるなんてどういうつもりなの!?」
「ごめんラエ。でも、大事なことを伝えておこうと思って」
「大事なこと?」
「……君の友達、マナミにレティツをつける」
「え……!?ちょ、ダメって言ってるでしょ!?」
あれほど念を押したというのに、何を考えているのだこの妖精は。私がこのように誰かを怒鳴るのは実に久しぶりだ。冷蔵庫の奥底にしまい、密かに楽しみにしていたプリンを知らぬ間に母に食べられていた時以来だろう。
「でも、やっぱりあの子しか!現状最高のパートナーになれるのはあの子だけラエ!」
「そうかもしれないよ!私とマナミちゃんは親友だもん。一番仲がいいんだもん、あなたのいう通り最高のコンビになるかもしれない!けどそういうことじゃないの!友達だからこそ、危ないことさせたくない!」
「友達じゃなかったら、危険なことさせてもいいってラエか!?」
「そうでもなくて!!あーもう、なんて言ったらわかってくれるの!?」
私はトーンを下げ、怒鳴りつけるのをやめた。絶対に彼女をプリキュアにさせてはいけない。そのためには全力で説得しなければならないのだが、セリフが出てこない。頭の悪さと語彙のなさをこの時ばかりは悔やんだ。
「……僕は彼女こそが相応しいと本気で信じているラエ。プリキュアは伝説の戦士ラエ。その戦士が、私情で戦友を選別するだなんてことは許されない。例えパートナーが親友でも、顔も名前も知らないような人であったとしても、受け入れるほかない。そして、共に戦うしかないラエ。押し付けてばっかりで本当に悪いラエが、それがプリキュアというものラエ。割り切らないと、やっていけないラエよ。じゃあ、また後でラエ」
それだけ語っていくと、彼はまたどこかへと飛んで行った。
「……私だって、あの時はテルキを、街を、マナミちゃんを助けたくて、無我夢中で、たまたまプリキュアになっただけなのに、そんな言い方ないんじゃないの……。あんな、帝国だの何だのの危なさそうな話を聞いて、親友をその危険な場所に連れ出そうなんてこと、できるわけないじゃん。ラエちゃんには、心ってものがないわけ?」
ブツブツと彼に対する愚痴を、小声で吐き出していく。
「光山さん、こんなところでなにをしているの?遅れるわ」
急に、背後から聞き覚えのある声がした。その声質だけで、育ちの良さがヒシヒシと伝わってくるこの感じ、『安楽加清』に間違いない。
「カ、カスミちゃ……じゃなくて、安楽さん!ごごご、ごめん!すぐ行く!」
慌てて振り返ったと同時に、動揺しすぎて抱えていた筆箱を落としてしまった。カシャっという音を立て、筆記用具があたりに散らばる。
「……別に、今更苗字で呼ばなくてもいいのに。それにしてもその様子、昔から変わっていないようね」
そう言いながら、彼女はその場にしゃがみ込み、自らの近くに転がっていた私のボールペンを拾ってくれた。私もすぐにしゃがみ、同じく筆記用具を拾い上げていく。
「あはははは……」
安楽加清、幼少期はよく遊んでいた仲だった。小学校に上がると同時に接点は徐々になくなり、今ではお互いに認識だけはしている、くらいの関係になってしまったが。
昔から、周囲の子供とは何かが違う、1人だけ大人びていた少女だった。しかし今では、もうはるか雲の上、遠くへと行ってしまった届かない存在である。
そんな彼女に、昔から変わっていない、と言われると顔が真っ赤になる。
理由は二つあり、一つは、今や街の神童とも謳われ、将来が約束されている彼女に、昔のことまで覚えてもらえていることが素直に嬉しいということ。一つは、その神童に、この慌ただしい姿を見られてしまったこと。昔から変わらない、それは「アホでドジでおっちょこちょいなところ、まだ治っていないのね」と言われているような感覚になり、恥ずかしいからである。
「はい。仕草の乱れは心の乱れ。中学に上がったばかりで緊張しているのかもしれないけど、落ち着いて。ここは他と違って、みんな一緒。先生方はともかく、クラスに知らない顔ぶれがいるわけでもないでしょう?怖がることはないのよ」
彼女は先ほど拾ってくれたボールペンを、私に手渡しながらそう言った。どうやら、私のこの動揺の様子を、進級したてほやほや状態特有の緊張からだと勘違いしているらしい。
いや、これも当たってはいるのだが。
「あ、ありがとう……」
まだ顔が赤い。この表情を見られたくないので、私は顔を伏せたまま、小さくお礼を言った。
「これくらい、お礼を言うまでもないことよ。……先に行っているわ」
彼女はそう言うと、クルッと、髪を靡かせながら私に背を向け、歩き始めた。
「あ、安楽さん!そ、その!今年もよろしくね!」
どういう意図でこんなことを言ったのかは覚えていない。もしかしたら、また彼女と友達になれるかもしれない、とでも思ってしまったのだろうか。
彼女は私のこの言葉に対し、立ち止まってもう一度私の方へと顔を向け、無言のまま微笑んでくれた。そして再び歩き出し、廊下の角を曲がったところでその姿は見えなくなった。
「……なんか、久しぶりにカスミちゃんと喋ったな……」
今の私と彼女では、住んでる世界が違うにもほどがある。それでも、確かに昔は友達だった、と思う。少なくとも私はそうだと認識している。この懐かしい感覚の余韻に浸っていたいが、早く視聴覚室へ向かわなければ遅刻になってしまう。急がなくては、と立ち上がったがー
「……そういえば、視聴覚室ってどこだっけ?」
この瞬間、遅刻が確定したのであった。
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「背丈からして小学生程度のガキだと思っていたが、中学生だったか。まぁ、んなことどうでもいいんだ。この街には幸いにも中学は一つしかない。キュアスパーク……あいつは間違いなく、あそこにいる」
高層ビルの屋上に佇む男ーレインが、そう呟きながら、私たちの学校を見下ろしていた。
「よくもこのレイン様の戦績に泥を塗ってくれたな……!きっちり落とし前をつけてやる……と、言いたいところだが、今の任務はあくまでクリアハートを奪うことだぜ。奴らが2人揃ったら、俺に勝ち目はない、とクラウド様は仰っていたか。癪だが、自信持っての反論はできねえ。プレーンのクライナーとはいえ、たった1人の小娘にあっさり倒されたという現実は、重く受け止めなければならないだろうぜ」
この男、プライドこそ高いが流石に将軍、現状の戦力の差を漠然とではあるが理解しているようであった。少なくとも、今のままでは2人のプリキュアを相手に圧倒することは難しいと判断している。
「ならばやはり、もう一つのクリアハートを、2人目のプリキュアよりも先に手に入れる必要がある。だができるか……?……下手な小細工は考えるだけ無駄か。なら、とっとと始めなくちゃな!」
レインは自身を鼓舞するようにそう叫ぶと、ウィザパワーを探すために屋上から飛び降り、街を物色することとした。
「万が一のこともある。そう上手くことは進まなねぇしな。強いクライナーを作るのに越したことはない」
ブツブツと独り言を唱えているうちに、彼の眉がピクンと何かの電波を受信したかのように動いた。ウィザパワーを感じとった時に起こる反応のようである。
「……あった!よし、利用させてもらうぜ!」
彼はその反応がある場所へと方向転換し、ヒュンッと音を立てて飛んで行った。
「はあ……最近はどこもかしこも厳しすぎるぜ」
その発信源は、どうやらこう呟く、スーツ姿の中年男性のようだった。その手にはタバコの箱が握られている。
「喫煙スペースも少なくなってきたしな……子どもがいるから家で吸うわけにはいかないし、会社では白い目で見られる。……これは、辞めどきなのかもしれないな。時代に合わないんだ」
タバコに火をつけ咥えると、煙とともに深いため息をつく。
「俺はそうは思わねえけどな」
その背後に、ふとレインが着地した。
「う、うわぁ!!なんだ君は!?」
「落ち着けよ。お前の味方だ。タバコか、いつから吸っている?」
「……就職してから、になる。15年ほどかな」
「そうか。15年、長い年月だ。タバコはそれだけ長い間、お前の相棒だったんだろう。疲れやストレスから救ってくれる相棒だったんだろう。それをなぜ辞めようとする?世間を気にして、なのか?馬鹿馬鹿しいとは思わないのか?」
「だが……やはり家族や他人に迷惑がかかるんだ。俺は好きだし気も楽になるが、自分が良ければそれでよし、なんて自分勝手なことが許される社会ではないだろう?仕方ないのさ。これも時代の流れだよ」
遠くを見つめながら、タバコをふかしていく。
「はぁ、しけった親父だなぁ、てめぇはよぉ。……俺は今、偶然ここにいるわけじゃない。お前の心の叫びを聞いて駆けつけたんだ。本当は、辞めたくなんかないんだろう?もっと自由に、気の向くままに喫煙したいんだろう?お前の心はそう叫んでいるぜ。解放しろよ、この喫煙者に対する風当たりの強い世の中への憎悪をよ!」
レインはそう叫ぶと、掌をいっぱいに開いた右腕を男性へとまっすぐに向けた。
「な、なんだ!?」
男性の胸が紫色に光り始める。大量のウィザパワーが目視できる状態となったのだ。
「召喚!クライナー!!この者の心にかかる雨雲を力に変え、絶望の雨を降らすのだ!!」
『クライナーー!!!』
男性を媒体として出現したクライナーは、先日現れたものとはかなり異なっており、身長もひとまわり大きい、タバコの箱の体をした、大量の煙を常時撒き散らす個体だった。
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「ったく、本当ドジなんだから。オリエンテーションとはいえ、最初の授業に遅刻するなんて普通ないわよ。それも、5時間目の授業でよ。いきなり先生に目を付けられたんじゃないの?」
5時間目の英語を終え、私のクラスメイトたちは視聴覚室からクラスルームへと戻っていたのだが、その道中、私はマナミから説教を食らっていた。
「はい……言い返すセリフもございませぬ……」
「私を先に行かせるからこうなるのよ。一緒なら迷うことなんてないのに。あなたって子はねぇ、そういうところがあるから危なっかしいのよ。一般的に、高い行動力は長所よ。でも、あなたの場合は最大の短所でもある気がするわね」
「……やっぱり?最近似たようなこと、ほかの人にも言われてさ。その行動力とかは褒めてくれたけど、お気楽なアホとかひどいこと言ってきたんだよ!?」
人というより齧歯類系の小動物ではあったが。
「……いい?つまり、ヒカルちゃんを見て私と同じことを思う人が、少なくともその1人はいるってわけ。でも安心しなさい?私たちはまだピカピカの中学1年生。これからいくらでも治していけるに決まってるじゃない」
「……そうかなぁ?」
「そんな下向いてちゃらしくないわよ。ヒカルちゃんのいいところは、行動力とか、そういうところもだけど他にもあるでしょ?何よりも、その明るさとポジティブシンキングじゃん。お気楽なアホも良く言えば底なしの明るさ。どんな場面でも、とりあえず前を向ける。これは大きな武器になるわよ!」
マナミが珍しく私を褒めている。慰めてくれているのだろうが、親友に面と向かって高評価をされると気恥ずかしいものだ。
「そうかなぁ?デヘデヘへ……」
お説教から一転、お褒めの言葉へと変わった彼女の言葉を聞きながら、私は今までにないほど表情筋を緩め、間抜けな面をして頭をかいていた。
「……ちょっと引くわよその顔。調子にのるとまたドジ踏むから、気をつけてね?」
「はーい!よし、気を取り直して頑張るぞー!」
「流石はヒカルちゃん。そうこなくっちゃ」
さて、このやり取りを廊下の天井に張り付きながら見守る影があった。二匹の妖精である。
「うん、僕の見込んだ通りラエ。ヒカルをうまく扱えているラエね」
「そんな、ヒカルをモノみたいに言っちゃダメレティ」
すかさずレティツがそうツッコミを入れる。
「まぁまぁ。……!!レティツ!気付いたラエか!?」
突然、ラエティがピンっと耳を立て、隣にいるピンクの妖精に訊ねる。
「う、うん。この感じ……」
レティツの耳も、無意識のうちに同じく立っていた。
「クライナーが出たラエ……こんな時に!ヒカルはまだ学校が終わってないから、行かせられないラエ!」
「……でも、マナミを試すいい機会でもあるレティ。どうせ今日は全授業オリエンテーション、最悪受けさせなくてもいいレティよ」
「何言ってるラエ!プリキュアは伝説の戦士!学校サボってまで出動して、その伝説に非行と言う名の傷をつけるわけにはいかないラエよ!第一、伝説の戦士たるもの、一人前の女性としての教養を蓄えー」
「そんなこと言ってる場合レティか!?じゃあ誰がクライナーからみんなを守るレティ!?」
「……それはそうラエが……」
「こうしている間にも、怖い思いをしている人がいるかもしれないレティよ!今やつを倒せるのはヒカルだけレティー!!」
口論が激しくなった結果、レティツの発した声も大きいものへとなってしまっていた。この叫びのような声に、生徒がざわつき始める。
「ねぇ今の誰の声?」
「聞いたことない語尾だったけど、あんな口調の子、うちのクラスにいたかしらね」
声の正体を探そうと、生徒たちのざわめきは徐々に大きなものへと変化していく。
「あの子たち……!人のことアホって言える立場なのそれ……」
当然その声は私の耳にも入っていた。
「ヒカルちゃん?どうかしたの?」
この呟きが少し聞こえたのか、マナミが私の顔を覗き込む。
「い、いやなんでも……」
私は髪の毛を立たせながらそう誤魔化していた。
人語を話す小動物などが中学生に見つかってしまえば、その話は光よりも早くそこら中に拡散されてしまう恐れがある。そうなると非常にまずい。こういうハプニングが起こりうるから、どうしても学校には連れてきたくはなかったのに。
「あら、天井に何かいますわ。ぬいぐるみ、かしらね?斎藤さん、捕まえて頂戴」
「本当ですわ!お任せくださいクレハ様!この斎藤、必ずやひっ捕らえて見せますわ!」
最初に妖精たちを見つけたのは、あろうことか私が最も苦手とする相手『月野紅羽』だった。取り巻きの1人を使い、彼らを捕えようとしている。
「ヒエッ!こっちくるラエ!」
「逃げるレティ!」
そしてさらに最悪の事態を招いた。動こうとした上に、発声までしてしまったのだ。ここはぬいぐるみのふりをするのが最良の手だったはずだ。いや、ぬいぐるみが浮いていることもそれはそれで怪奇事件にはなるのだが、自ら生き物であることを公表してどうするのだ。
「喋りましたわよクレハ様!やはり、先ほどの声はあれが!」
「えぇ聞きましたわ斎藤さん。つまりそれはぬいぐるみではなく、新種のネズミですわね。槇原さん、あれはいくらで買えますの?ペットにしたいわね」
「見当もつきませんが、月野家の財力があれば支障ないでしょう」
クレハのグループが勝手に盛り上がっている。個人的感情ではあるが、あの人たちの手に渡すわけにはいかない。ここは、なんとか誤魔化さなければ。しかし、今更どう誤魔化せばいいのか。
「月野さん、そういうことは褒められたことではないわよ。よしたほうがいいわ」
捕まえようとする斎藤の腕を掴み、押さえ込みながら、カスミが彼女らをそう牽制する。
「……安楽加清……!あなたはいつも私の邪魔をしますのね」
「いつも、とは心外ね。私は、間違っていると思うことを止めているだけよ。無理やり捕まえようだなんて、あの子たちも怯えているわ」
「……それなら公平に多数決を取りましょうか。私に賛成するのか、安楽さんに賛成するのか。クラスメイトたちの意見を取り入れることは大切でしょう?」
「公平?小学生の時、児童会選挙で大量の票を“購入”していた過去のある、あなたの提案する多数決に、公平さは感じられないけど」
2人が睨み合う。
いつもこうだ、この2人はいつも何かと喧嘩をしている。最高に相性が悪いのだ。これではとても、私が口を挟めるような空気ではない。だが、一つ安心していることがあった。これで、妖精たちがクレハたちに捕まるということはなくなったのだから。
「く、クレハ様、もうやめておきましょう!あ、安楽さん相手にすると後々面倒ですって!」
「……まぁ、次の授業もありますしね。早く教室に戻らなければ。行きましょう」
クレハはあっさり新種のネズミの獲得を諦め、さっさと教室へと歩き始めた。先程までの食い付き具合が嘘のようである。
だいたい、このような結果になるのが常だ。昔は、もっと激しい論争に発展することもしばしばあったのだが、クレハは何度もカスミに言い負かされ続けているため、最近では、自分が不利と判断した場合は言い争うことそのものを棄権し始めている。
加えて、カスミには目に映るものすべてを凍てつかせてしまいそうなほどの目力がある。そして自分が正義と強く自信を持っているため、言葉にも真に迫ってくる圧が生じる。少なくとも同年代には、彼女と対等に論争ができる存在などいないであろう。
それでも何故かクレハは諦めない。何かとカスミに挑み続けようとしている。このようなことだけではなく、学力、運動能力、部活動。学生のステータスとなる項目であれば果敢に勝負を申し込んでいる。要するに、強くライバル視しているのだ。カスミもそれを感づいているのか、クレハには負けまいと、以前にも増して努力するようになっている。
負けず嫌いで互いに切磋琢磨することは結構なことなのだが、そこに周囲を巻き込むことも稀ではないため、彼女らの近くにいると少々疲れるのである。
「た、助かったラエか?」
ラエティが、他の子にバレないように私に近づき、そう囁いた。
「まぁ、今のところはね……。でもみんなの記憶には強く焼きついたと思うよ……」
「すまないラエ……。それと、君に伝えることがあるラエ」
「マナミちゃんはプリキュアにはさせないからね?」
「それじゃないラエ。クライナーが出たラエ。今、行けるラエか?」
「えぇ!?」
今度は私の発した大きな声に、みんなが一斉に振り返る。私は慌ててラエティを鷲掴みすると一瞬でその手を後ろに回すことでこれを隠した。
「ヒカルちゃん、やっぱり今日おかしいよ?まぁ、いつもおかしいけど」
「だ、大丈夫だって、心配するほどのことでは……」
急遽こしらえた作り笑いで切り抜けようと試みる。
「……ちょうどいいラエ。君も来るラエ!」
何を考えているのだろうか、ラエティが私の手の中を脱出し、マナミの肩の上に乗ったのだ。
「え!?さっきのネズミ!?」
「ちょ、何やってんの!?ていうか、まだ私が返事してないし!?」
「やっぱりヒカルちゃん、このネズミのこと何か知っていたのね」
いけない、この狭い空間には収まりきれないほどの情報量が溢れている。どこから、そして誰から順番にツッコミを入れるべきなのか、判断ができない。
「どうせ授業は中止、今からみんなで避難レティよ」
そこにレティツも現れた。
「どういうこと?」
「言葉のまんまレティ」
その次の瞬間、何かが爆発する音が鳴り響いた。音源はかなり近いように感じる。
『クライナァァァァァ!!』
聞き覚えのある、例の怪物の遠吠えも、うっすらとだが耳に入ってきた。近い。
「……ヒカル、君だって、成り行きで半ば強引にこの運命を背負わせられた被害者かもしれない。それでも、今この学校をクライナーから守るということは、君にしかできないこと。君にしか頼めないことレティ。行ってくれるレティか?」
「……私は最初から、戦うことは嫌がってないでしょ?やめてって言ってるのは、マナミちゃんを巻き込むことただそれだけ。だから、私1人で行くから。連れてこないでよね!」
私はそれだけ言い残すと、外に出るため、玄関へと走った。
「ちょ、ヒカルちゃん!?……ネズミさん」
「レティツレティ」
「……レティツさん、ヒカルちゃんはどこへ……?」
「知りたいのなら腹をくくるレティ、大田愛海。ヒカルはあぁ言っていたけど、私たちは君を強く推薦している。現場にも連れて行くレティよ」
二匹の妖精が、マナミの顔付近まで接近する。
「近いし……ていうか、ここじゃ人目につくわ。あんたたち珍獣なのよ、少しは身を隠したらどうなの?」
そこに、背後から私たちの担任、桑田先生が駆け寄ってきた。
「みんな、聞いて!近くに未確認生物が出たわ!それも、かなり危険で、すでに街にも被害が出ているらしいの!……避難訓練すらまだやっていないから難しいかもしれないけど、本番の避難よ!出席番号順に列を作って逃げるわ!」
「先生、お言葉ですが、緊急時にわざわざそのように整列するのは逆に時間のロスかと考えます。点呼を取り、二列にして避難時の混乱を避けることは重要ですが、その順序は問わなくていいのではないでしょうか?」
カスミがそのように声を上げる。
「そ、そうね。とにかく、授業帰りでしょ?なら全員いるわね。すぐに並んでー」
「せんせーい!光山さんがいません!」
「な、なんですって!?誰か、光山さんを見ていないかしら!?」
桑田先生の顔色が少し青くなったように感じた。無理もない、担当するクラスから逃げ遅れを出すわけにはいかないのだろう。
「さっきまでそこにいなかったっけ?」
「あの黄色いちんちくりんでしょ?いたはずだけど」
確かに印象には残りやすい髪をしているが、そのような認識だったとは。
「先生、光山さんは体調悪いみたいで、保健室に向かいました。おそらく、保健の駒田先生と一緒に避難していると思います」
マナミがそのように返答した。とりあえず、これでこの場は落ち着くだろう。
「そ、そう。安心したわ。さぁ、逃げるわよ!」
クラスメイトたちは速やかに二列に並び、桑田の誘導に従って動き始めた。偶然にも、その二列のうちの一角が、マナミとカスミという組み合わせだったことが、その後の事態をさらにややこしくさせていくことになるのだが。
「大田さん。光山さん、保健室に行った感じではなかったわよね。本当はどこに行ったの?」
カスミは既に感づいていたようだ。
「さぁ、私も詳細は知らない。少なくとも保健室ではなさそうだけどね」
詳細は、ポケットに押し込んだ小動物たちが知っているのだろう。現場に向かわせるとまで言っていたが、成り行きでこうなってしまった以上、それも難しい。
「そう。無事ならいいんだけど、何か不自然だとは思わない?」
「安楽さんもそう思う?流石に怪しいよね」
「そもそも、現れたという未確認生物と、急遽変わった天気。今日は晴天予報のはずよ。なんで土砂降りになっているのかしらね。それに、はっきりとは覚えていないけど、昨日もこのような光景を見た気がするわ。夢……にしては鮮烈に記憶に残りすぎている。街が異常なのかしら」
「昨日、か。確か、私も突然倒れてて……言われてみれば確かに、倒れる前に怪物を見た気がするわ。それをヒカルちゃんに教えようと電話して……夢だと思っていたけど、確かに鮮明に覚えてる。いや、思い出そうとすればするほど、鮮明に記憶が浮かんできているんだわ」
マナミはそう言った。もし、あれが現実に起こっていたことだとするとー
「倒れてた?外傷とかは?大丈夫だったの?」
カスミがその話に食いついた。
「え、えぇ心配ないわ。無傷よ」
「目が覚めた時は?1人だったの?」
「いや、ヒカルちゃんに起こしてもらって……。うん?私は確か、塾の近くで倒れたはずよ。なんであの時、違う場所で起こされたのかしら……」
「光山さんに、ね。そして今日も、このタイミングで光山さんが消えた。彼女がこの異変となんらかの関係がある疑いは濃厚よ。彼女を追うべきだわ」
「なんであれ普通に気になるしね。でも、そのためにはまず、この列を上手く抜け出さないと」
「そうね。まぁ、私に任せて。先生方は私の言葉を疑わない。私はそれだけ厚い信頼をされているから」
カスミはそう言うと、サッと挙手をした。
「先生、私と大田さん、教室に忘れ物をしてしまったみたいです。取りに引き返してもよろしいでしょうか?」
「え、えぇ!?ダメに決まってるじゃない!早く逃げないとー」
「どうしても大切なものなのです!それとも、この安楽加清の言うことが、信用に値しないのでしょうか?」
カスミは真剣な眼差しで先生の眼を見返した。
「……そ、そんなことはないわ!わかった、早く戻ってくるのよ」
「ありがとうございます。大田さん、行くわよ」
2人は列を抜け出し、正面玄関へと急いだ。
「ご、強引な手を使うのね……。それに先生も先生だわ。あんなにチョロくていいのかしら」
「私が日頃から模範的優等生であり続けるために、必要な努力は全てしてきているからよ。それがいざという時に役に立つの。私たち子供は、まだしばらくは大人に管理される存在。だから、その管理側にどれだけ好かれるかでこの期間の人生が変わってくるわ。現に、今こうして抜け出せた」
カスミはそう淡々と述べた。
「もっと真面目なキャラかと思っていたけど、案外したたかなのね」
「心外ね。想像の通りとても真面目よ。真面目でなければ、この日々の努力はできない。私の成績や校内での待遇を羨ましがる人もいるようだけど、私と同じ日々を歩めば得られるものよ。全ては努力が産んだ結果。私とあなたたちの差はそれだけ。……口がすぎたわ。急ぎましょう」
靴を履き替え傘をさし、2人は外へと飛び出した。
「安楽さん、確かに想像通りお固いキャラではありそうだけど、面白いのね。私あなたのこと、ちょっと誤解していたかも」
「……どのように誤解していたのかは後日伺うわ。まずは彼女を探さないと……」
「僕たちが案内するラエ!」
ラエティが、マナミのポケットの中から顔を出した。
「あなたはさっきの……大田さんの腹話術?」
「んなわけあるかい!……私もよくわからないけど、ヒカルちゃんの知り合いみたい」
「へぇ。あぁ見えてあの子、顔が広いのね。こんな珍獣ともお友達とは……」
「珍獣じゃないラエ!神聖なる妖精ラエよ!」
ラエティは顔を真っ赤にして怒っている。確かに先ほどから、やれ新種のネズミや珍獣など、好き放題言われていたので仕方がないだろう。
「とにかく、こっちラエ!ついてくるラエよ!」
「あ、待って!」
先に向かったラエティの後を追うために、彼女たちは走り出した。
ーーーーーーーーー
『ハァァァァァ!!』
『クライナァァァァァァ!!』
私は既にクライナーの元へと到着し、戦闘に入っていた。敵は昨日戦ったものとは異なり、背丈も大きくガタイもいい。なにより大量のタバコのようなものを両手で握っており、口にも数本くわえているのが大きな特徴だろう。
『クライナァァァァァァ!!』
ボフッと、大量の煙を一気に吐き出してくる。
『うわっ!ゲホッ、ゲホッ!』
これだけの雨が降っているというのに、奴のタバコの火は消える気配がなく、煙も御構い無しに襲ってくる。特殊なモノとなっているのだろう。
『……!!か、身体が動かない!』
煙が落ち着き、反撃に出ようとしたのだが、どういうわけか全く動けないのである。
『クライナァァァァ!!』
『キャッ!』
その隙を見事につかれ、私は太いバットのようなタバコに、ピンポン球のように吹き飛ばされてしまった。民家の壁に激突し、ようやく止まることができたが、かなりのダメージだ。すぐに立ち上がることができない。
『……強い……!』
「ふん、どうだタバコクライナーの味は。あの副流煙には一時的に神経を麻痺させる毒が仕込んである。少しでも吸えば、お前は5秒間動けなくなる。クライナーのサンドバックになるんだぜ!」
レインはこの光景にご満悦の様子だ。
「な、何あれ!あれが未確認生物!?」
そこに、2人と妖精たちが駆けつけた。
「……全部思い出した!私は昨日、確かにこいつに似た怪物に……!」
マナミはこれを見て、ようやく全ての記憶が鮮明に浮かんできたようだ。
「そうレティ。そして君をあの怪物から守ったのが、伝説の戦士プリキュア、レティ」
「ぷ、プリキュア……?」
同時に、今日の昼休みに私と交わした会話までを思い出したようだ。
ーー「なぜなら私はプ……!」
「まさかとは思うけど、そのプリキュアって……」
「そのまさか、光山ヒカルラエ」
2人は耳を疑った。
「つまり、今もあの怪物と光山さんが戦ってー」
『プリキュア!スパークルショット!』
バッと空中に躍り出た私は、腕にキサトエナジーを集中し、それを電撃に変化させ解き放った。
『クライナァ!!』
それを受けて、怪物は数十メートル吹き飛んでいく。
『ちょ、ラエちゃん!連れてきちゃダメって!!』
その次の瞬間に、私の視界には彼女たちが入っていた。あれほど言ったのに、なぜー
「申し訳ないけど、やはりマナミを試させてもらうラエ」
「私を、試す?」
「そうレティ。君にも、プリキュアの力を与えたい。そう考えているレティ」
レティツが、彼女にクリアハートを差し出した。
『……もう止めても無駄ってことかぁ……』
私はもう諦めていた。これから何度止めたって、彼らはマナミを勧誘するだろう。それならばいっそ腹を括ったほうがいい。
「……ヒカルちゃんと一緒に戦えってこと?」
「そう言いたいみたいね」
カスミはというと、傘をさしたまま腕を組み、この場を静観していた。驚いてはいないのだろうか。
「……そうか!お前が2人目のプリキュアか!!させるか!!」
そこに突如レインが乱入してきた。一気にマナミへと襲いかかる。
「キャーッ!なになになに!!」
「こ、こいつも敵レティ!追い払うには、変身するしかないレティよ!!」
「んなこと言われても……」
私の時よりも必要な説明がはぶられている。アレだけ渡されても、使い方がわからないのだからテンパることしかできないのは当然だろう。
『もう!だから言ったのに!!てやぁぁ!!プリキュア流星キック!!』
そう叫びながら、レインの横っ腹を蹴っ飛ばしこの窮地を救ったのが私だった。
「グオッ!?」
「ひ、ヒカルちゃん!」
『大丈夫!?無理して変身なんかしなくていいから、早く逃げて!』
「……大田さん、ここは光山さんに従いましょう。まずは情報を整理する必要があるし、なにより彼女のような力がない私たちは、ここにいては危険よ」
カスミがマナミの腕を取り、この場を離れようと走り出す。
「ま、待って!ヒカルちゃんは!?ヒカルちゃんはもっと危険なんだよ!?あの子化け物と戦っているのよ!?」
「でも、だからと言って私たちにできることはないわ。精々、彼女が気を散らさずに戦えるよう、この場から消えるくらいしか」
「できること、あるかもしれないんでしょう!?これを使えば、加勢できる!」
マナミは今一度、クリアハートを握りしめた。
「……本気?なら止めはしないわ。私は先に逃げているから。怖くなって気が変わったら、すぐにこっちに来るのよ」
「バカにしないでよね。友達が戦っているところを見捨てて逃げるわけないでしょ!」
「……つまり私を非難しているわけ?心外ね」
「そうは言ってないって!とにかくよ、妖精さん!これどう使うの!?」
マナミは覚悟を決め、レティツを呼び出した。
レティツが簡潔に、そして口早に変身方法を説明し終える頃、起き上がったクライナーとレインが再び襲いかかって来る。変身させてはいけない、その使命感が彼らを駆り立てていた。
「そいつを渡せぇぇ!!」
『クライナァァァァァ!!』
『む、むむぅこうなったら!邪魔をしないで!』
私はというと、咄嗟にマナミを庇うように躍り出て、1人と一体の突進を、それぞれ片腕で受け止める。
『ぐぐぐぐ……』
だが無理をしすぎた。とても抑え切れるようなパワーではない。
「へっ、一対一ならともかく、二対一でしかもその姿勢!お前に勝ち目はねぇんだぜ!腕の骨折りたくなかったら、そこをどけ!」
「マナミ!ヒカルを助けたいのなら急ぐレティ!!」
「わ、わかった!……プリキュア!!エキサイティングフィーバー!!」
変身するための合言葉だ。これを叫んだ瞬間、体中のキサトエナジーが目覚め、プリキュアとしての力を解放するーはずなのだが。
「……な、何も変わらないんだけど!」
「そんなはずは……!まさか、クリアハートはマナミを選ばなかった……!?」
二匹の妖精が思いもがけぬ事態に目を丸くしている間に、レインは私の腕を振り切り、猛スピードでマナミに接近すると、彼女の腕からクリアハートを強奪した。
一瞬の出来事だった。たった一瞬で勢力は大きく逆転してしまうこととなった。
最悪なことに、もう一つのクリアハートはレインの手へと渡ったのだ。
「ヒャッハー!!これでこいつは俺様のものだ!!全ては思い通り!!目的は果たされた!!今日のところは、この辺にしておいてやるよ!!満足だからなぁ!!帰るぞ、クライナー!!」
彼は上機嫌に叫びながら、クライナーと共に姿を消した。
『……そんな……!!』
私はその場に膝から崩れた。結構な被害を出しておきながらも、遂にはクライナーを倒すことができなかったため、街は修復されていない。奴がこの場から消えたため、天気こそ元には戻っていたが。
しかし、敵を倒せないどころか、思う壺にはまってしまったそのような私よりも、後ろにいる彼女たちの方が狼狽している様子だった。
これからもまた、ややこしい事態となりそうな予感がする。
続く