このままじゃやばいよ!一体どうすればー
第4話「2人目の登場!?キュアイラーレ爆誕!!」
私=キュアスパークだけでは手に負えない強さのクライナーが出現し、窮地に陥ってしまった。そこにマナミたちが駆けつけ、彼女が2人目のプリキュアへと変身したーーはずだったのだが、なぜかそれは失敗に終わり、その隙にレインにクリアハートを奪われてしまった。
そして、今に至るわけである。
「……3人とも、これは一体どういうわけ?」
しょぼくれながら校舎へと戻った私たちを最初に待ち受けていたのは、担任の桑田先生だった。非常に険しい表情をしているがそれもそのはず。保健室にいたはずの私、そして教室に戻っていたはずのカスミとマナミ、3人とも外におり、かつ雨に晒されずぶ濡れなのだから、先生としては理解ができない事態だろう。
「これにはえーっと、ふか〜い事情がありまして……」
最初に口を開いたのは私だった。
「事情?未確認生物が出ました、みんなで逃げましょう、という時にわざわざ危険な外に、嘘をついてまで出て行く事情って、何かしら?」
先生は怒り心頭の様子である。
「私が説明します」
そう言いながらカスミが私を手で制し、一歩前に出た。
「まず、結果的に桑田先生を欺き、クラスメイトや先生方、多くの方にご迷惑とご心配をおかけすることになってしまったのは事実です。謝罪致します。本当に申し訳ありませんでした」
カスミが深々と頭を下げる。
「ほ、ほら私たちも!」
マナミが小声で私にも頭を下げるように促し、私も彼女たちに続いて同じようにした。
「……そこを怒っているわけじゃないのよ。迂闊にあなた達を列から外してしまったことは私の責任でもあるのだから。そうじゃなくてね、なんで危険なことをしたのかって聞いているの。心配もするじゃない。何かあったらどうするつもりだったの?」
先生の声が先ほどに比べると少し柔らかくなった。カスミが謝罪から入ったことで、怒りの感情が少し収まったのだろう。
「それに、その格好で立ち話をすると風邪を引いてしまうわ。職員室まで来なさい」
先生は私たちにタオルを手渡しすると、背を向け、先に職員室の方へと歩き始めた。私たちはとりあえず、さっと髪の毛に付着している水分を拭き取り、後に続いた。
職員室の奥にある応接用のスペースに招かれたが、そこはエアコンにより温められており、雨に濡れた私たちの身体も徐々に熱を取り戻し始めることができた。まだ春先で、少し肌寒い時期だからこそ、タイミングよく暖房が効いていたのだろう。ひとまず助かった。設けてあるソファに、私たちと先生が腰をかける。
「私たちは先生なの。生徒であるあなたたちに勉強を教えることはもちろん、学校生活を安全に、快適に送ってもらうための手助けをするのも仕事よ。勝手な行動で自ら危険なことをして、ほかのみんなに心配をかけることは、学校という社会の中で集団生活をする上であってはならないことだし、何よりも自分の身を大切にしないことはもっといけないことよ。そこは、理解してくれるかしら?」
先生の第一声がそれだった。大分落ち着いてきたのか、怒っているという様子ではない。
「おっしゃる通りです」
カスミがそう返す。
「……そうね、安楽さんはわかってくれているでしょう。大田さん、光山さん。2人も、ちゃんとそこはわかってくれているわよね?」
「……はい……」
2人同時に返事をした。
「なら、改めて訊ねるわ。なんで嘘をついてまで外に出たの?事情って何?」
「えーっと……」
プリキュアなので、怪物を倒すために飛び出しました、とは言えるわけがない。3人とも押し黙ってしまう。
「言えないの?安楽さん、どうなの?」
「……本当にすみません、うまく説明のできないことで……」
直接的には関係のないカスミばかりに喋らせている現状に申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、先生側としてもこの場で最も信頼している生徒が彼女でもあるため、必然的に質問される回数が私たちよりも多くなってしまうのだ。
「……これは取り調べでもなんでもないし、答えられないのなら無理に詮索はしないわ。でも、できればその事情っていうのを把握しておきたいのよ。もし、今後も授業中や、学校にいなければいけない時間帯に黙って外出されても困るのはわかるでしょ?」
先生の言うことはもっともである。教職者として、責任をもって生徒を管理しなければならない立場なのだから。だが、先ほども述べたように、こんな漫画やアニメのような、私が戦わなければみんなを守れない、という話ができるわけがない。黙秘せざるを得ないのも同様にもっともなことなのである。
「……じゃあ、今日はもういいわ。教室に戻りましょう。帰りのHRをしないと、クラスの他のみんなが下校できないわ。話せるようになったらでいいから、その時は教えてね。特にお咎めといったものはないから、安心してね。もしも次にまた無断で同じことがあったら、毎日早朝に登校してもらって、校内の清掃活動くらいはしてもらうことになるけど、とりあえず執行猶予処分って感じね」
「はい、寛大な処置をありがとうございます」
カスミがそう返答して立ち上がった。このようにして、私たちはひとまず解放された。優しい先生で本当によかったと胸をなでおろすと同時に、この先生だけには二度と心配や迷惑をかけてはいけないな、とも子供心ながらに感じたのであった。
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「おーほっほっほっほ!安楽加清、今の気分はいかがでして?」
教室に戻るや否や、月野紅羽が唐突に、上機嫌な面持ちでカスミに絡んできた。
「あなたには関係なくってよ」
カスミは相も変わらずの塩対応である。いつもの通り無表情のまま、自分の席に着いて、下校のための支度を始める。
「いえいえ、関係大有りですわ。あなた方のせいで、私たちは他のクラスよりも15分ほど下校が遅れておりますの。ねぇ皆さん、無関係ではないですわよね?」
「クレハ様のおっしゃる通りです!」
彼女の問いかけに対し、これまた彼女の取り巻きが大きな声でそう応える。
「……そうね。それは確かに私のせいだわ。ごめんなさい」
カスミは再び立ち上がり、その場で頭を下げた。
「あ、安楽さん……っ!」
流石に、カスミばかりが矢面に立ちすぎだ。私は思わず庇うように、彼女の前へと飛び出してしまった。
「安楽さんは何も悪くないの!全部私がー」
「あら光山さん、あの安楽加清が自分から頭を下げているのよ?こんな光景、長い人生でも指で数えられる程しかお目にかかれないわ。貴重なシーンなの、どいてくださる?」
「な……っ!そんな言い方……!」
これには、私が挑発を受けているわけではないとはいえ頭にカーッと血がのぼってしまった。このままでは、喧嘩が始まってしまうのではーーと、クラスが不穏な空気に包まれる。
「いいの光山さん、どいてくれていいわ。こういうのは、相手にした方の負けよ」
私にだけ聞こえるような小声で、彼女はそう囁いた。本当に、このデキた完璧少女は私と同い年なのだろうか。つい先日まで小学生だった者とは到底思えない。心底感心するばかりだ。
「で、でもー!」
「私が良いと言っているのだから良いの。私が過去に間違えてたことが一度でもある?それより放課後話があるわ。一緒に帰ってもいいかしら?」
「……それは、もちろんいいけど……」
「そう。なら、早く帰らなくちゃね」
「はいはいお待たせ、みんな、帰るわよー!」
そこでようやく、桑田先生が教室へと入ってきた。
「おほほほほ。先生もいらっしゃったことですし、この辺にしておいて差し上げますわ」
クレハは満面の笑みで、上機嫌に高笑いをあげながら自分の席へと戻って行った。
「……安楽さんは、月野さんにあんなに言われて、ムカついたりはしないの?」
私は席に戻る前に、一つだけそう疑問を彼女に投げかけた。
「私はあなたが思っているほどデキた人間ではないわ。もちろん、怒りはあるわよ。でも、自分の感情は自分で制御しなくてはならないの。彼女とは自分を磨ける勝負はするけど、なんの生産性もない、低俗な罵り合いは避けたいわね」
彼女は淡々とそう話してくれた。
「そ、そうなんだ……」
この2人の相性の悪さは最悪だ。まだ始まったばかりの新学期、早々に二度も一触即発のムードを作っている。これからの1年間、一体何が起こるのか、不安しかない。
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今日のところは、無事に進行された帰りのホームルームの直後、カスミと共に速やかに下校することでことなきを得た。
と、思われたのだが、次に『口撃』を喰らうのは私、ということになってしまった。
「ねぇ光山さん。単刀直入に聞くわ。あの力はなんなの?」
「プ、プリキュアのこと……?」
「そう、そのプリキュアって力よ。どこで手に入れたの?いえ、質問を変えましょう。なぜ、あなたが手に入れることができたの?」
グイグイと顔を近づけながら、彼女はそう訊ねてきた。
「え、えーっと……」
「僕が代わりに説明してやるラエ!」
ポケットからひょこっと顔を出したラエティが助け船を出してくれた。
「あなたは、廊下で見かけた……。あなたの仲間が大田さんにも力を授けようとしていたわね。あの力を司るのは、この生物……?」
「ちょっと違うラエね。まぁ、ヒカルがプリキュアになれた理由を知りたがっているみたいだし、それだけ教えてやるラエ。簡単に言えばアホだから、ラエ」
「……アホだから?」
「こっこいつ!アホって言うなって何回言えばいいわけ!?」
私はすぐにこの子生意気な口数の減らない妖精をとっ捕まえて、両こぶしで頭をグリグリと攻めた。
「あだだだだだだ!!ごめん、ごめんって言ってるラエ!」
かなり効いたようだ。あまりのダメージに、妖精は今までに発したことのないような悲鳴をあげている。流石にかわいそうなので、これ以上は勘弁してやることとした。
「何かのジョークなの?」
痛みから、まだ頭を抱えているラエティに対しても、カスミは容赦なく質問を続ける。
「いたた……冗談ではないラエよ。表現はまずかったけど、真理ではあるラエ」
「遠回しなのね。ズバリな答えを聞きたいのだけど」
「……素朴な疑問ラエが、なぜ知りたがるラエ?」
今度は質問返しだ。けれどもこれは、私も思っていたことだった。なぜ急に、プリキュアについて食いついたのだろうか。興味はなさそうであるが。
「考えてもごらんなさい。日々、周囲の期待に応えるために努力を怠らない私に、特別な力が褒美として天から与えられるのならば理解はできるでしょう?でも、その力を授かったのは、本人の前で言うのも申し訳ないのだけど、特に才能もなければ頭も良くはないし、これという努力もしていない、光山さんというわけ。おかしいじゃない。気になるのは当然でしょう」
「わ、わるぅござんしたね……」
目前でナチュラルに淡々と悪びれもない悪口を言われると、ただ顔が引きつるばかりである。
「君のいうことはもっともラエ。報われるべきは、確かに君ラエね」
ラエティは彼女に同調している。
「そうでしょう。だから疑問なのよ」
「それで、君もプリキュアになりたいと?」
しかし、その問いかけに対してはすぐに返事をしなかった。考えるような素振りを見せ、すこし間を開けてから話し始める。
「……光山さんがどのような志で怪物と戦っているかは存じ上げないけど、アレとは戦いたくないわね私は。危険なことはしたくないわ。大怪我なんかしてしまったら、両親や先生方の期待に応えるどころか、余計なご心配をおかけしてしまう」
首を少し傾け、拳を顎に添えながらそう語った。
「えぇ……つまりどうしたいラエか……?」
プリキュアの力を手にする、それはすなわちカバークラウダーを倒し、かつて闇を裂き光を取り戻したという伝説を再現しなければならないという使命を背負う形になる。それでいて戦いたくはない、とはどういうことなのだろうか。
「特別な力は欲しいわ。でも、危険なことはできない。それだけよ」
その答えは極めてシンプルなものだった。
「呆れるほどわがままな娘ラエね……」
「あ、安楽さんってこんな人だったっけ……」
昔からプライドは誰よりも高かった。しかしそれも彼女が相応の、他には真似できないほどの努力を積み重ねた結果のものであることは誰の目にも明らかであり、こうして得た自分の力を何よりの根拠にできる、そんなカスミのかっこよさに憧れていた。
しかし、決してわがままな性格ではなかったはずだ。
プリキュアの話になった途端に、人が変わったような気さえするーというのは大袈裟かもしれないが、私の勘がそう言っている。
「要するに、自らの能力の一部として、プリキュアの力が欲しいってことラエか?」
「言い方は心外だけれど大体合っているわ。それで、どうしたら手に入るの?」
「……悪いけど、君はプリキュアにはなれないラエ。僕も候補の1人とは考えていたけれど、見込み違いだったみたいラエね。幻滅したラエよ。ヒカルの方が100倍プリキュアとしての適性があるラエ。ヒカル、とっとと帰るラエよ」
そう吐き捨てると、ラエティは少し怒った顔で私のポケットへと戻ってきた。
「ちょっと、どういう意味?」
「プリキュアは人々の希望と平和を守る伝説の戦士なんだラエ!ステータスになる資格かなにかと勘違いしているみたいだけど、全然違うラエよ!君は確かに計算高く、大人に評価されやすい、正しい人生を歩んでいるかもしれない。でも、だからこそプリキュアにはなれない。自分ファーストな性格じゃ無理無理。おとといきやがるラエ!」
「……そう。……光山さん、ごめんなさいね」
「……え?な、なんで私に謝るの?」
「さっきは悪いことを言ったわ。それに、プリキュアってものを誤解していたみたい。小馬鹿にするような真似をしてしまって、ごめんなさい」
そう言いながら彼女はちょこんと頭を下げると、数秒後にはテクテクと早歩きで私から離れるように去って行った。
「わ、わかってくれたのかな……?」
「まぁ、素直に自分の非を認めて即座に謝罪する真面目さは評価してやるラエ。とんでもないやつだと思ったラエが、あの金持ちよりは100倍マシラエね」
「もともとは、あんな子じゃなかったんだよ。とても素敵で、同級生なのにお姉さんみたいな感じで……勘なんだけど、何か焦ってる様子にも見えたような……」
一応彼女は幼少期には仲良くしていた、いまでも私にとっては憧れの対象なのだ。ラエティの中でカスミの人物像が悪い印象で固まってしまわないように、フォローを入れておいた。
「焦り、ラエか。確かに言われてみれば……」
「……安楽さんみたいに、私なんかから見ればなんでもできる人でも、あんな風に何かを欲しがるんだね」
私は、ふとそう思い、ボソッと呟いた。
「そりゃ、いくら天才少女といえども欲望はあるに決まってる。ただ、ちょっと放ってはおけないかもしれないラエ」
「……なんで?」
「……彼女は、根拠のある強い自信に満ちているラエ。つまり、キサトエナジーも周囲よりは頭一つ抜けてるラエよ。でも、さっき会話した時少しウィザパワーの気配を感じたラエ。焦りというのは的確かもしれないラエね。欲望は、育て方次第でキサトエナジーにもウィザパワーにも変化する混沌の種。下手したら、クラウドに利用される可能性もあるラエ」
なるほど、それはそうだ。欲しいものを手に入れるために努力すること、そして結果得ることができれば大きな自信や満足感が手に入る。これが大きなキサトエナジーとなる。
だが、手に入れるための手段を間違えたり、得られなかった場合は強い負の感情も生む。これがウィザパワーになると、この二つのエネルギーの仕組みは、私も大方理解しているつもりだ。
「欲望……何をそんなに求めてるんだろう?」
「評価されたい、とでも考えているんじゃないラエか?例えば、プリキュアのような力は持っているだけで自尊心は満たされるだろうし、みんなから感謝もされる。手っ取り早く特別な存在になれるラエ」
「でも、もうとっくに超高評価だと思うけど」
「きっと足りてないラエよ。君から見て高評価でも、彼女目線だとまだ相応な評価じゃない、ということだと思うラエ。プライドも相当高いようだから、的外れな推測ではないと思うラエが」
「そんなもんなのかなぁ。私だったらもう大満足って感じだけど」
「よく言えるラエ」
「……本当に口数減らないよね、あなたって子は」
相変わらず、流れるように辛辣な言葉を並べるこの生意気な妖精に腹は立たせながらも、ここは私も我慢してやることとした。
カスミ曰くの低俗な挑発に乗らない、を実践すれば、私もちょっぴり大人に近づけるかもしれない。その練習相手だと思えば、この妖精と今後も共に過ごしていくことも悪くはないだろう。
「……これは……すごいことを聞いてしまいましたわ!見てしまいましたわ!」
その時、後方でこのやり取りを盗み聞きしている人物がいたことには、私たちは気づいていなかったのであった。
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輝ヶ丘という街は、その周囲を山に守られるように囲まれており、これが他の街との“街境”の役割も果たしている。
そんな山の一つの雑木林の奥深くに、怪しい影がふたつ、佇んでいた。
この一帯の山々は人の手の介入を最低限に留めているため、豊かな自然を保てているが、反面土地の所有者や行政関係者以外の人間が滅多に立ち入らない場所ともなっている。そのため、このような怪しい人物が隠れ家として身を隠すのに適したエリアでもあるのだ。
「へぇ、やっぱり将軍ってのは伊達じゃないのね。見直したわ」
「舐めてんじゃねぇぞ!こんなの朝飯前だってんだよ!」
レインとスノウ。帝国カバークラウダーの幹部である。
スノウは任務の途中、レインの様子を見にきていたのだが、思いがけないことに彼はすでに一つのクリアハートを所持していたのだ。しっかり戦果を挙げている彼を見て、煽りなどを抜きにして心底感心している様子だ。
「あら、舐めてなんかいないのよ。戦闘だけなら、レインには敵わないし」
「戦闘だけなら、か。まるで他の要素は全て俺より優っている、みたいな言い分だな」
「事実でしょ?あんたみたいな脳筋には、戦いしかないんだし」
上下関係の上では、レインの方が立場は上なはずなのだが、どうもスノウは彼のことを見下しているようだ。
「……好き勝手に言えるのも今のうちだ。すぐに俺に舐めた口聞いたこと後悔させてやるぜ」
「あらそう。それで、なぜこんなところで道草食っているんだい?クリアハートを本国に持ち帰らない理由はなんだ?クラウド様はそれを一刻も早く我が手にと望んでおられるのよ」
スノウは、この理由を確かめにここまで来ていたのだった。
「ふん、わかってねぇなぁ、だからこそだぜ。クラウド様はクリアハートを二つとも手中に収めることを望んでおられる。中途半端に一つだけ持ち帰っても、その場のご機嫌を取ることしかできねぇんだぜ。俺が持っている以上、プリキュアはキュアスパークのみだ。増えることもあり得ない。それに、奴だけなら潰せる。手応えは得られた。奴は戦士と呼ぶには程遠い、ただの未熟者だぜ」
「その未熟者に一回負けているくせに。……まあ、回収できるのならそれでいいんじゃない?好きにすれば?じゃ、私は私の仕事に戻るから、アデュー」
そう別れの挨拶を告げると、彼女はその周囲に巻き起こった吹雪の中へと消えていった。
「けっ、クソ生意気な女だぜ……!」
レインはググッと硬く拳を握り直した。日頃からこのように舐められているのだろうか、相当彼女に対するフラストレーションは溜まっている様子である。
それでも、腐っても目下の者だ。同じ組織内の目下の女性に、感情任せに手を挙げるなどということは将軍としてのプライドが許さないのだろう。
「イライラはプリキュアにぶつければいいんだぜ……!キュアスパーク!次こそ絶対に倒す!」
彼は気合を入れ直し、立ち上がった。
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元々が少し生活水準の高い街である輝ヶ丘内でも特に、豪勢な住宅が立ち並ぶ南に位置するエリア。ここに、月野紅羽の家族も家を構えている。
その家というと、まさに『豪邸』という言葉がふさわしいものでーーいや、もはや一見、家には見えないレベルだ。例えるのなら、首都東京にある国会議事堂や、インドのタージマハルのような造りをしている。国の重要建築物のような物件だ。
当然、部屋一つ一つの大きさも半端ではない。特に一人娘として溺愛されている彼女の部屋は学校の教室よりもさらに一回りも広い。
こんな環境でここまで13年間育ってきたのだ。あのような性格になってしまうのも妙に納得できてしまう気もする。
「おほほほほほ……聞いてしまいましたわ……!ついに!ついに安楽加清の弱点を知ってしまいましたわぁ!!」
帰宅するや否や高らかに笑うと、居間のソファへと腰掛けた。
「お嬢様。今日はいつにも増してご機嫌のご様子で」
執事だろうか、整えられた光沢のある黒髪をオールバックにしたタキシード姿の若い男性が、彼女のそばへと歩み寄ってきた。
「当然よ久義。私の永遠のライバルにして宿敵!安楽加清の弱点を見つけたんですもの!」
「それは先ほども聞きました。安楽様の弱点、でございますか?いったい、何でしょう?」
久義、とは下の名前だろう。そう呼ばれた執事が訊ねる。
「具体的にはわからないわ!でも、何かを求めようと焦っている……!久義!月野家の執事総動員で調べて欲しいものがあるわ!」
「……何なりと」
「プリ……プリなんとかってのを探すのよ!!」
クレハは先ほど聞こえてきた単語を完全には思い出せなかったようだ。それだけ命令する。
「……プリンでしたら、東のエリアにお嬢様も贔屓にされておられる名店がー」
「違う!!後、喋る新種の動物も探すのよ!!あいつが何か知っているはずだわ!やっぱり、あの時捕まえておくべきでしたわね!」
「お、お嬢様、何をおっしゃっておられるのか、私にはさっぱり……」
「何なりとって言ったじゃない!ぜーったいに探し出すのよ!安楽加清が求めているその何かを、私が先に手にしてみせる!そうすれば、私はついにあの安楽加清から一歩リードを奪うことができるのよ!私のためなの!なんとしてでもやりなさい!」
クレハはそう早口にまくし立てると、テクテクと早歩きで自室へと向かって行った。全く、どこまでも自分勝手な人物である。
「久義、お嬢様はどのようなご命令を?」
わけのわからない命令を下され、ポカーンとしている彼の側に、同じ格好をした執事が数名集まってきた。先ほどの彼女の大声を聞きつけ、やってきたのだろう。
「それが……喋る新種の動物と、プリなんとかってものを探せと言われまして。杉内さんは何かご存知でしょうか?」
「はて?どちらも今初めて耳にしたが……」
ビシッとオールバックに整えられた白髪が格好良く目立つ、最年長と思わしき杉内と呼ばれた執事はそう首を傾げた。
月野家に仕えて30年以上のこの男でも、今回のクレハの要望についてはピンときていないらしい。
「そうですか……困ったものです」
わがままなお嬢様の無茶振りのような要求に、執事一同はただただ困惑していた。
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街の南方に構えられている月野家とは対照的に、北方のエリアにあるのが安楽家だ。洋風な造りである前者とは大きく異なり、この街では異色な、昔ながらの日本家屋風の造りとなっている。もちろん街の住宅全てが洋風な建築物、というわけではないのだが、大きな、それも屋根付きの門が出迎えてくれる、平安時代の貴族の住む家のような物件はこの安楽宅のみである。
月野家ほどの圧倒的な財力はなくとも、この家が醸し出している通り歴史のある由緒正しい家系で、その血を辿れば戦国時代の大名にまで辿り着くのだとか、そういう噂まである。
「ただいま戻りました」
カスミの帰宅時の挨拶がこれだ。
「カスミ、こっちへ来なさい」
帰るや否や、奥の方から威圧感のある男性の声が聞こえてきた。
「お父様?帰っておられるのですか?」
その声に対し、カスミはそう訊ねる。
「いいから来なさい。話がある」
彼女は、周囲に聞こえない程度にため息を吐くと、言われた通りに父の待つ書斎に向かい歩き始めた。まだ夕方の5時前後という時間帯、この時間に帰宅しているなど通常ではあり得ない。声からも怒りの感情を汲み取ることができる。
察するに、校外に飛び出した例の件が彼女の父の耳にも入っており、これに対する説教のために仕事を放り出してまで帰って来た、ということだろう。娘の教育のためならばなんでもする男であるため、その可能性が濃厚だ。
「失礼します」
彼女は書斎の襖の前に正座し、これを静かに開け入室した。
「カスミ……。教員から聞いたぞ。なんの話か、わかるな?」
「はい」
「……なら答えだけ聞こう。一体何があった?」
「……」
彼女は黙り込んだ。いくら父であれ、このことは話せば長くなるーいや、話すと余計にこじれる。それだけの非日常で非科学的な案件だ。
「私には言えぬか?澄子には言えるのか?」
澄子、とは彼女の母の名である。
「いえ、お母様にも……」
いつもであれば、どんなことにも正直に素直に、そしてハキハキと報告をする娘が、こうもおとなしいのは珍しい。父は大きく息を吐いた後、葉巻に火をつけ、口に咥えた。
「学校に迷惑をかけるのは構わん。むしろとことん迷惑をかけろ。お前はすべてを踏み台にしてこの国の頂点にまで登り詰めればいい。だが、自分の身を危険に晒すようなことだけはするなと、昔から口酸っぱく言ってきたつもりだ!それを破っていることに憤りを感じておるのだ!わかるか?」
「……はい」
彼女は短く返答する。
「いいか?お前は誰よりも優れているのだ。学力、運動能力、容姿、何をとっても敵なしという安楽家の誇る宝なのだ!それがどう血迷ったら、自ら危険な目に遭いにいこうとするのだ!?何か、お前をたぶらかしている輩が近くにおるのか!?あれほど友人関係には気をつけろと、私たち親が選んだ者以外とは付き合うなと教えてきたはずだ!我が娘の輝かしい、汚れなき人生に泥を塗ろうとしているのはどこのどいつだ!」
「……いいえ、他人は関係ありません。これは私の問題です」
「……お前はこれまで一度も嘘をついたことがなかったな。ならば、その言葉も真実であろう。念を押しておくが、お前の人生はお前だけのものではない。お前の命もだ。それだけわかったのならばもういい。戻れ」
「はい。ではまた、夕食の際に」
入室時と同じように静かに退室すると、彼女はそのまま自室に向かった。
「お父様の言うとおりね。プリキュア……あの特別な力に興味はあるけど、危険が伴うのなら必要ないわ。私が為すべきことは、ご期待に応えること。そうすれば、自ずと私が欲しがっている評価というものもついてくるものよ」
彼女は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、机の前に腰掛け、分厚い参考書を取り出し勉強を始めた。明日は土曜日、学校は休みだ。休日にどれだけ自分を磨く努力ができるか、その時間配分なども考えながら、彼女はペンを進めていった。
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「さて、今日は土曜日?かなんか知らんけど、学校は休みらしいぜ」
山の頂上から、レインがそう呟きながら街を見下ろしている。
「今回の目的はキュアスパークを確実に仕留めることだぜ。休日ってんなら、絶好の機会だぜ。クライナー、準備はできてるな?」
『クライナァァァァ……』
いつの間にか、彼の隣には大きな怪物が佇んでいた。あのタバコのクライナーだ。
「悪いが、今日俺は欠席だ。クリアハートを所持している俺が奴らの近くに出向けば、何かの拍子に第二のプリキュアを生んでしまう可能性もありそうだからな」
この点は考慮しているようだ。意外に賢いのかもしれない。
「そういうわけだ。目標キュアスパーク。奴をおびき出し、潰してこい!」
『クライナァァァァァァァ!!』
彼の命を受け、怪物は街へと飛んで行った。
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輝ヶ丘でも一番規模の大きい、カガヤキ総合公園。
今日は毎日のように利用している高齢者に加え、休日ということもあり遊びに来ている家族連れ、さらに、この公園は現代では珍しくボール遊びも許可されているため、簡単なサッカーやキャッチボールを楽しむ高校生や大学生といった若者たちもいるなど、大変賑わっている。
特に公園のシンボルでもある、中央広場の大きな噴水の前は、小さな子どもたちで溢れており、この街の平和さや明るさというのがこの一箇所に表されているとしても過言ではない光景を生み出している。
「今日のワクワクステーションは、このカガヤキ総合公園からお送りいたしまーす!」
それだけに留まらず、人気ローカル番組までやって来ていたようだった。
「この街に住む方なら知らぬ人はいないでしょうこの公園は、今日もたくさんの人で賑わっています!来月には、この中央広場に、アメリカのグライシン大使も来訪予定ということもあり、全国からも注目が集まっています!」
なんの縁があって大使がやってくるかまでは知らないが、そういうことらしい。これは、前にも述べた学校の制度などの影響により、どこか他の自治体に比べて閉鎖的な雰囲気もある輝ヶ丘にとってはいい取り組みだろう。
「輝ヶ丘という、誇るべき美しい街を世界に発信するチャンスにもなります!この機会をー」
ここまで語った時だった。噴水と、元気に遊んでいる子供達によりキラキラと輝いている空間に、じわじわと白い煙が立ち込み始めた。
「ゲホッゲホッ!……し、失礼しました、この匂い……タバコ?ちょっと、ここは禁煙ですよ」
キャスターが、カメラが回っているのにも関わらず、喫煙者を注意しようとするがー
「あ、あれ?誰も吸ってない……?」
それもそのはずだった。煙を吐き出しているのは人間ではなく、クライナーなのだから。
『クライナァァァァァァァ!!』
バシャーンという派手な音と水しぶきをあげ、怪物は噴水の中に勢いよく飛び込んで来た。
「わぁっ!な、なにあれ!ちょっとカメラ回し続けるのよ!なんか出たわ!」
「い、いやヤバそうですよあれ!離れましょう!」
「ていうか水かかって、お化粧が崩れちゃってるわ!私は映さないで、あれを映すのよ!」
このスタッフの方々は、番組が生放送であることをわかっているのだろうか。
「く、クライナーが!」
家でゴロゴロと、テレビを通じてその様子を見ていた私はバッと起き上がった。
「ヒカル!早く行くラエ!」
「う、うん!」
クリアハートをポケットに押し込み、私は妖精を連れて一目散に外へと飛び出した。しかし、公園までは、全力で走っても15分はかかってしまう。
「もういっそここで変身して、プリキュアの身体能力で行った方が早いラエ!」
「そ、それもそうかも!」
「2人とも〜待つレティ〜!!」
ここで変身しようと身構えた私の後方から、もう一匹の妖精レティツの声が聞こえて来た。
「レティツ!何してたラエ!クライナーが出たラエよ!ヒカルと一緒に現場に……」
「いや、待つレティ!そのクライナー、この間ヒカルが倒せなかった相手レティよ?やっぱり、マナミも一緒に連れて行くレティ!」
「でもマナミはプリキュアに変身できなかった!言い方は悪いが、ヒカルが守らなくちゃいけない対象が増えるだけ……足手まといが増えるだけラエ!」
この妖精たち、仲は良さそうに見えるが度々意見が衝突しているような気がする。
「ちょっと、マナミちゃんにそんな言い方ないでしょ!」
「事実ラエ!って、こんなところでなんか言ってる時間なんかないラエよ!急ぐラエ!」
「……そ、それはそうだね……よし!プリキュア!エキサイティングフィーバー!!」
私はクリアハートを握りしめ、変身のための所謂『合言葉』を叫んだ。
これを合図に、私の身体が、そしてそれを纏う衣服が大きく変化していく。衣装は黄色いフリフリのド派手なもの。髪の毛については、色はそのままだが毛量が倍以上に増加。ついでに、何も手を加えていないのに勝手にツインテールになっている。これがプリキュアとしての私、キュアスパークの姿だ。
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『よし、パパッとやっつけるよ!!』
ビュンッという音を立て、私は空へと舞い上がった。ある程度の高度に達したところで体を捻らせ、足を畳み、勢いよく蹴り出す。
この結果、とてつもない速度を得た私は、瞬く間に公園の噴水の中に、先ほどのクライナーがそうしたような着地ーいや、着水をすることができた。走れば15分の距離でも、飛べば30秒である。
ただ、頭から突っ込んでしまったため、顔面が強打の影響で真っ赤に腫れ上がり、全身に思い切り水をかぶってしまうこととなった。なんとも格好のつかない、ヒーローの到着である。
『は、弾ける心……キュアスパーク……』
頭の上にお星様を浮かべながら、フラフラのまま私は締まらないポーズと名乗りを行なった。
『クライナァァァァァァァ!!』
だがあのタバコの怪物はそんな私が落ち着くまで待ってくれるわけもなく、私の姿を見るや否やすぐに襲いかかって来た。この間よりも強い殺気を感じる。
『うわっ!』
強襲の体当たり慌ててジャンプすることで避け、一旦距離をおく。
『ラエティ!どうやって戦えばいいか……な?あれ?いない……』
今の今まで忘れていたが、そういえば、プリキュアの力でここまでの時間短縮が可能だったのは私だけであった。妖精たちを置いてけぼりにしてしまっていたようである。
「な、なんでしょうか!少女が、1人の少女があの怪物と対峙しています!!」
『へっ!?』
さらにもう一つ忘れていたことがあった。カメラが回っていたのである。
「これは、何かのショーなのでしょうか……?しかし、それにしてはよくできて……」
キャスターは困惑している様子だが、この場をうまく乗り切るためには、それこそヒーローショーを演じているふりをするほかないだろう。そうと決まれば、遣り切るしかない。
『て、テレビの前のいいこのみんな!!私はこの輝ヶ丘の平和を守る正義の味方!キュアスパーク!この煙を撒き散らす迷惑な怪物をやっつけるから、応援してねー!!』
我ながら恥ずかしい限りだが、これならどうにかなるはずだ。
「おお!やはりご当地ヒロインか何かのショーのようです!流石は大使を迎えることが決まっているこの輝ヶ丘!注目を集めるための活動は多岐にわたっている模様です!」
「へぇ、キュアスパーク……。プリなんとか……キュアスパ……?もしかして、あれが安楽加清の求めている、プリキュアってものかしら……?」
この中継を自室で眺めている紅羽は、顔をぐいっと画面へと近づけた。興味津々の様子だ。
『てやーっ!プリキュア!スパークキック!』
キサトエナジーを右足へとチャージし、バチバチと弾けるオーラをまとったその足で怪物めがけて飛び蹴りを行う。
『クライナァァァァァァ!!』
見事に腹部に命中し、数十メートルに渡り吹き飛ばすことができた。
だが、さすがに先日は苦しめられた相手だ。これだけで終わってくれるはずはなく、すぐに起き上がると、体中からもくもくと、タバコの煙を漂わせ始めた。一気に視界が悪くなる上、呼吸も苦しくなるほど咳き込むことで、集中力も散漫してしまう。
それだけではなかった。クライナーは咆哮し、雨雲を呼び出し、大粒の雨をもふらせ始めた。レインから作られた個体には、等しくこのようなオプションも付いてくるらしい。
『クライナー!!』
奴は不意に背後から現れた。今度は強烈なパンチを無防備の背中に食らってしまった私が吹き飛ばされる。
『きゃっ!』
すぐに体制を整え、反撃したいところなのだが、クライナーは上手く煙の中に溶け込んでいる。それに、大雨の雨音で敵の足音などの移動音も聞こえてこない。本当に、敵の居場所がつかめないのだ。
『……やっぱり、2人揃わないと無理なのかな……』
そう考えた瞬間だった。心の底から常に湧き上がり、身体中に供給されていたはずの『力』がふと送られてこなくなった。弱気なことを考えたがために、キサトエナジーが弱まった証拠である。プリキュアは100%キサトエナジーで身体を動かしていると妖精たちは話していたが、こういうことだったのか。
『……ううん、1人でもやらなきゃ!今この街を守れるのは、私だけなんだから!!』
再び力が湧いてきた。結構単純なシステムである。
とはいえ、何か策を練らなければ、いくらパワーがあっても攻撃が当たらない。どうすればー
ーーーーーーーーーー
「久義、車を出すのよ」
テレビの画面は、ただただ延々と広がる白い煙の空間を映しているだけで、それからの状況をつかむことはできない、という具合だった。
だが、そこからでもなんとなくキュアスパークの劣勢を感じ取ったのだろうか。紅羽は執事に命じながら立ち上がると、外出用の上着を羽織った。
「今外は危険な様子ですよ。どちらへ向かわれるというのです?」
「あなたが知る必要はないのよ。私が出せって言ったら出せばいいの。なんなら小遣いもあげるわ。早く、パパに言いつけてクビにするわよ?」
「……かしこまりました」
久義は解せない、といった表情のままではあったが、渋々従うこととした。
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勉強の合間に居間でテレビを見ていたカスミも同様だった。やはり、ヒカルのピンチを察したのだろう。
「お父様、お母様。外出してもよろしいでしょうか?1時間ほどで戻ります」
「何?今テレビに何が映っているのかわからんのか?ショーと言っていたが、こんなもの、ショーでもなんでもない。私には、本物の化け物が暴れまわっているようにしか見えんぞ。第一、本当にショーならば、公園の器物を破壊まではしないであろう。昨日も言ったはずだ。危険なことだけはするなよと」
「……わかってます。しかし危険なことではありません。危険な状況に陥っているであろう友人の様子を伺いに行くだけです。私が、危機に陥っている友人を救ったともなれば、私の評判は上がります。プラスにはなってもマイナスにはなりません。それに私も馬鹿ではありません。危険と判断すれば何よりも自分の保身に動きます」
カスミは静かにだが強い言葉で、父に対抗する。
「ふん、反抗期のようだな。まぁいい、友人を救う、か。状況はよくわからんが、そういうエピソードの一つや二つ、持っているのも悪くはないかもな。いいだろう。ただし1時間を破れば、二度とこのような外出はさせない」
「ありがとうございます。では」
こうして、カスミとクレハは奇しくも同じタイミングで家を出たのであった。
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『きゃっ!』 私はというと、相変わらず、見えない敵からの攻撃をただ耐え忍ぶしかなかった。やはり私の頭では、どうにも打開策が見つからない。こういう面でも、確かに2人そろったほうが効率がいいだろう。しかしないものをねだったところで何の解決にも繋がらない。私がやるしかないのだ。
とはいえ伊達に攻撃を受け続けたわけでもない。あるパターンのようなものも掴みかけているところだ。例えば、背後からの攻撃の後はー
『左!!プリキュア!!スパークパンチ!!』
弾けるオーラをまとった利き腕で、思い切り左方向にパンチを入れた。
『クライナァァァァ!!』
バチィンッという音とともに、命中した手応えを感じた。張ったヤマが当たったようである。ようやく、反撃らしい反撃ができた。
まだ安心するには早い。これを学習してパターンを帰られでもしたら、また振り出しに戻ってしまう。それでは身体が持たない、今度こそやられてしまうことにもなるだろう。
「へえ、これが噂のプリキュア。生で見るとなかなかの迫力ですわ。安楽加清が欲しがる気持ちもわかる気がしますわね。しかし、まさか化け物と戦う力のことだったとは」
背後から聞き覚えのある声がした。
『つ、月野さん!?なんでここに?』
「あら、私のことを知っているの?……よくよく見ると、どこかで見た覚えのある顔立ちですわね……?」
「あの人は光山さんだから、それもそのはずよ」
さらに、その隣にカスミまでもが現れた。
「安楽加清……!やはりプリキュアが気になる様子ね。……正直驚きましたわ。あなたが評価や名声を欲しがっているのは存じ上げていますわ。そのために、あれほどの派手な力を求める理屈もわかる。でも、怪物と戦うなんていう危険も伴うのに」
「確かに痛いのは嫌だし、怪我でもしようものならお父様に叱責されるし、危険なことなんてごめんよ」
「……なら、なぜそれをわかってて、その危険な場所に、のこのこと出てきたのかしら」
「心外ね、私だって人間よ。街が壊されたり、同級生が身を呈して頑張っている姿だったりを見たら心くらい動くわ。そして気がついたら身体が動いてた。それだけよ」
「あら、柄にもないことをおっしゃるのね」
「……そういうあなたも興味津々みたいだけど、そんな月野さんにいいことを教えてあげるわ。プリキュアの力は、後ひとつ枠が空いているの。もう1人、あの力を手にできるのよ」
「……!へぇ、そうなの……」
「どう?どちらが先にプリキュアの力を手に入れるか、とか。たまにはこういった勝負があっても面白いとは思わない?」
カスミの口から、予想だにもしていなかった言葉が飛び出した。
「……どうしたのよ安楽加清。今日はちょっと様子がおかしくてよ?柄にもないことを言うし、あなたから勝負まで仕掛けてくるなんて。これまで70回ほど勝負しましたけど、あなたからの申し入れはこれが初めてでよ」
「……繰り返すけど私だって人間よ。学校では先生に、家ではお父様に叱責されたことで、ちょっと落ち込んでるの。落ち込んだ心には刺激が必要なの。あなたみたいな方がいると、それも受けやすい」
「……光栄ですわ。よくってよ。どのみち、私たちのうち誰かが加勢しないと、光山さんが負けてしまいますし」
2人は互いの目を合わせ、ニヤりと笑みを浮かべあった。相性は最悪、常に対立し喧嘩することもしばしばだが、互いに良き好敵手として認め合っていることには間違いないようだ。
「それで、どうすれば手に入るのかしらね」
クレハが素朴な疑問を投げかけた。
「残念ながら私は存じ上げないわ。でも御覧なさい、力を得ることができた光山さんには、強い正義感があるわ。鍵になるのは、あのような強い意志かもしれないわね」
「なるほど。あながち的外れではなさそうですこと。なら、私の方が有利ね。私はあなた以上に、あなたには負けないという強い意志がありますわ。そこで指を咥えてみていなさい、この月野紅羽が、あなたよりも一歩先に行く瞬間をね!」
「心外ね。あなたはどう足掻いたって私には勝てない。永遠の2番手だってことを思い知らせてやるわ」
先程までのいいライバル同士、というムードは一転、2人の間に漂う雰囲気はいつもの緊張感にあふれるものへと変貌した。どちらも呆れるほどの負けず嫌いである。
「ヒカル〜大丈夫ラエか〜!?」
そこに、ようやく妖精たちが追いついてきた。
「喋る新種の動物……やはり関係者でしたのね」
「お、お前はあの金持ち!なんでここにいるラエ!し、しかもカスミまで……」
「昨日は悪かったわ。プリキュアを小馬鹿にしたことを言ってしまって。危険なことをしたくない、あくまでステータスとしてあの力が欲しい。その考え方そのものは変化してないけど、流石にこのまま光山さんをただボーッと眺めているわけにはいかないわ。この間、大田さんが言っていたことがわかる気がする」
「そして私は、何があっても安楽加清に負けるわけにはいかない。プリキュアの力をこの方よりも先に手にしてみせる。そう思ってここに来ましたの」
「……不純な動機ラエが、2人とも充分なキサトエナジーラエね。僕は君達2人とも好きじゃないラエが、確かにこのままじゃヒカルがやばいラエ。君らに賭けるしかないみたいラエね」
「でも、クリアハートはレインが持っているレティ。あいつ、ここには来てないレティよ。きっと2人目の出現を予防してるんだレティ」
「いや、希望はある。2人が、クリアハートをこちらへ引き寄せる、それだけの強い意志があればなんとかなるラエ。この際動機は問わないラエ!2人とも強く力を求めるラエ!ヒカルを助けて、敵を倒してくれるのなら今日のところは許してやるラエ!」
「なんであれプリキュアが揃えばクリア王国だって取り戻せるレティ。私は、私欲にまみれた自己中な戦士も嫌いじゃないレティよ」
「と、いうわけらしいわね」
「負けませんわ!」
2人は、目を閉じ、胸の前で手を合わせた。次第に、彼女たちの体は、各々から溢れ出したキサトエナジーによる黄色いオーラに包まれ始めた。
ーーーーーーーーーーー
「な、なんだ!?クリアハートがひとりでに……?」
山頂でゆったりとくつろいでいたレインは、急に光り始め、宙へと浮かび上がったクリアハートを驚嘆の目で見つめていた。
「ま、待ちやがれ!どこに行きやがる!?まさかー!?」
ハート型の装置は、そう叫ぶレインを置き去りに目にも留まらぬ速さで街の方へと飛んで行った。
ーーーーーーーーーーー
「クリアハートが!こっちに飛んで来たレティ!」
「2人が引き寄せたラエよ!一体、どっちがプリキュアに……!?」
二匹の妖精が固唾を飲んで見守る中、クリアハートは、クレハの元へと舞い降りたのだった。
「……な!?まさかあの金持ちがー!?」
「クレハ!合言葉を叫ぶレティ!プリキュア、エキサイティングフィーバーっと!」
「そんな……!私じゃなくて、彼女が選ばれたっていうの!?」
隣で目を丸くするカスミに対し、彼女はニヤッと短く笑った後その言葉を叫んだ。
「プリキュア!エキサイティングフィーバー!!」
彼女を包んでいたオーラは、合言葉とともに燃え盛る紅蓮の炎のような形状へと変化した。黄をベースとしたスパークのものとは色違いの、橙色を基調とした衣装に様変わりし、髪も真紅に染め上がり、前髪は目にかからない程度、後ろは背中を覆い隠すほどの量と長さになった。
これが、クレハのプリキュアとしての姿である。
『高貴な心!キュアイラーレ!!』
『つ、月野さんが……もう1人のプリキュア!?』
『加勢しますわ光山さん!プリキュア!イラーレフレイム!!』
降り注ぐ大雨の中でも全く勢いの衰えない炎が、立ち込める煙を全て吹き飛ばした。
『す、すごい……』
『おーほっほっほ!!見ました!?見ましたかこの私の力を!!どうです!?安楽加清!!私は今、あなたの一歩先にいますわ!!』
後ろでただ眺めることしかできないカスミの方を向き、そう高らかに笑うキュアイラーレ。
「イラーレ!!君の相手はカスミじゃなくて、クライナーレティ!」
『わかっていますわ!光山さん、いえ、スパーク!エナジーを合わせましょう!』
『う、うん!!』
私たちは手を繋ぎ、2人の持ち合わせる力を、その繋ぎあった手に込めていく。
まさか、クレハと手をつなぐような日が来るとは。私は彼女のことが苦手、嫌いというところまであるが、今は溢れ出て来るキサトエナジーが、そのことを忘れさせていた。
『プリキュア!!スパークイラーレエキサイト!!』
繋いだ手から解き放たれた虹色の光線が、クライナーを包み込んだ。
『……タノ……シィ……ナァ……』
そう呟きながら、怪物は消え去った。同時に雨とこれを降らせていた雲は綺麗さっぱり消え去り、周囲は太陽の光によって明るく照らされ始めた。
「……なんで……なんでこの私を差し置いて、あの2人がプリキュアなの……」
だが、カスミの心は晴れるどころか、さらなる分厚い雲に覆われていたようである。
プリキュアは無事に揃った。だが、まだ一波乱、いや、ふた波乱は起こりそうだ。
続く