ワクワクプリキュア!   作:ネフタリウム光線

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 キュアパンプに覚醒したマナミちゃんとともに、スノウの強襲を退けた私たち。ついに、いえ、再びプリキュアが2人揃ったことにはなったけど、これはさらなる不思議と憶測、波乱を呼ぶことになりそうでー?

 そんなことを考えさせる暇もなく、クラウドは新たな刺客を送り込んできた!悪い人たちが勢ぞろいしている、帝国カバークラウダーでも謹慎を受けているような極悪人らしく!?
 
 もう!まだ部活も満足に見学していないし、生徒会選挙も始まるし、これから中学生活も本格的に忙しくなるって時に、人の事情も知らないで!どういうつもりなのよ〜!!


第7話「轟く雷鳴!?強敵サンダー降臨!!」

第7話「轟く雷鳴!?強敵サンダー降臨!!」

 

 

 

「ふうむキュアパンプ。水色のプリキュア、ですか」

 

 クラウドはため息をつきながら、スノウの提出した電子報告書のホログラムを、自らの正面で開き、指先でスライドするようにページを捲りながら眺めていた。

 

「確かに予想の範疇の外でした。ともなると、面倒ですね。プリキュアはただでさえ2人揃うと脅威と言うのに、複数パターン出現する可能性も出てきた。ここまで出現した3パターンは、全てキサトエナジーを、例えば電撃や炎、水などに変化させて使用してくるのを見るに、異なる性質を持った戦士の登場が今後あり得ることも想定しなくてはいけませんね。我々の送り込むクライナーによって、相性のいい戦士の組み合わせを使い分ける、なんて戦術も取れるでしょう。小癪なクリア王国の妖精もついているんです、中学生だけでその発想には至らなくても、彼らが参謀となれば十分想定できる」

 

 クラウドはゆっくりと、彼の後ろで腕を組むストーム、そして近辺で跪いているスノウにも聞こえるようにそう分析した。

 

「やはりクリアハートの奪取が必要不可欠ですね。片方でもこちらの手中に収めれば、候補生はいくらでもいるとしても、戦闘に参加できるプリキュアは1人です。あの時、レインが片方だけでも持ち帰っていれば……使えないヤツめ」

 

 スノウがそう言った。あくまでも、自分の敗戦はレインのせいだ、とも言いたげな表情だ。

 

「一概には言い切れぬ。レインの報告には、遠く離れた場所で控えていたはずのレインの所持するクリアハートが、キュアイラーレに共鳴するかのように、1人でに戦場に向かったとある。我々が人間界から離れた場所で管理するとしても、同じことが起こる可能性は捨てきれぬ」

 

 しかしこれに、ストームがそう応えた。

 

「どうするクラウド?候補生を未然に潰し、今後の脅威を排除するか?それとも、なんなら俺が出向き、まだ未熟な小娘戦士どもを早々に叩き潰すのもアリだ。ガキとはいえ腐ってもプリキュア。戦闘経験を積めば積むほど、成長するだろう。手に負えなくなるぞ」

 

「ストーム、そう早まらないでください。我々の目的はあくまで、エンシャントウエポンを揃えることです。プリキュアは邪魔だから排除したいのであって、彼女らを潰すのが最優先事項ではないでしょう。それに、プリキュアはまだ泳がせておきたいですね。彼女らが光のエンシャントウエポンを集めてくれるまでは」

 

「……方針は理解した。ならば我々も下手に動かないほうがいい。無駄な戦闘は避けよう。余計に経験を積ませたり、新しい戦士を発現させてやる必要はないはずだ」

 

「そうしたいのは山々なんですけどね。ある程度は積ませる必要があるんですよ。それに、人間界にもウエポンは眠っている。人間界に遠征するなら戦闘は避けられない。あまりこちら側の都合通りになることを期待してはいけません」

 

「経験を積ませる?なぜだ。我々の首が閉まるだけではないのか」

 

「いずれわかります。私を信じなさい。これまでに私が間違ったことがありますか?つべこべ言わず、までは言いませんけど、従っておけばいい。何か、そこに文句のある方は?」

 

 クラウドは少々面倒くさげな面持ちでそう吐き捨てた。質問ばかりで疲れたのだろう。

 

「……おっしゃる通りでございます」

「そうだな……。案ずるな。疑問があっただけだ。俺はお前に従うつもりだ」

 

 2人の部下は肯定するほかなかった。実際に、疑問はあるが不信感はない。この国を短期間で大きなものへと成長させたのはほかでもない、このクラウドという統率者なのだから。

 

 謎が多い人物ではある。どこで伝説を知ったのか、その杖、カオス・ロッドをどこで手に入れたのか。伝説の書もどのような経緯で入手したのだろう。なぜ、このタイミングでエンシャント・ウエポンの回収をし始めたのだろう。謎しかない。

 

 エンシャントウエポンは、全てを揃えれば世界をも変えてしまうほどの力が手に入るという。だが、漠然としすぎている。『世界を変える』とは具体的に何を指すのか。『力』とは。クラウド自身は何かを知っていそうだが、彼らには聞かされていなかった。

 

 

「今後の人間界はどうしましょうか。スノウに引き続き任せるのもアリですが……せっかくダークブレードを掘り出したのに、あなたではその力を引き出せなかった。どれほどの能力を秘めているのかのデータは欲しいです。これはどちらかというと、パワー系のレインの方が適合するかもしれません。試しにレインを送りましょうか」

 

「いや、レインはエンシャントウエポンの捜索に向かわせたばかり。こちらの都合で、将軍の肩書を持つ男の配置転換を頻繁に行なっていれば反感を買う。レインはしばらくそのままがいいだろう」

 

「そう、ですか。しかしスノウではデータが取れない。……あぁ、そういえばあの男がいたのでは?謹慎中ではありますが、特例として出してあげましょう」

 

 クラウドはポンっと両手を叩いてそう言った。

 

「サンダーのことか……?俺はあまり気が乗らないが……」

 

 クラウドの提案に対し、ストームは表情を強張らせた。クラウドはサラッと言っていたが、謹慎処分を受けているほどの男らしいので、間違いなく危険な人物なのだろう。

 

「別にいいでしょう。パワーだけならレインをも凌ぎます。まぁ、頭があまり回らないのでたまに困りますが」

 

「ありゃ失敗作だからな……。まぁ、新しい、水を操るキュアパンプとやらの相性は相当良いだろうし、おそらくキュアイラーレの炎にもビクともせず、キュアスパークの体術も圧倒できるほどの高いスペックはある。試すのも面白いか」

 

「わ、私はあの男に近づきたくはないですが……」

 

 スノウが誰にも聞こえない程度の声量でボソッとつぶやく。

 

「なら、そうしますよ。サンダーを人間界へ送ります。その名の通り、カミナリを落としてもらいましょう」

 

 こうして、サンダーという危険な人物の投入が決定されたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ヒカルちゃん、結局部活はどうするの?」

 

 マナミがキュアパンプへと覚醒した翌日のことだ。教室で、彼女が私にそう訊ねてきた。

 そういえば、部活動のことを完全に忘れていた。最初の見学の日にクライナーが襲撃し、そこからバタバタとしていたので頭になかったのだ。確か、2人とも吹奏楽部に興味があるというところまでは話していたはずだが。

 

「あぁ……忘れてた。どうしよっか、紹介と見学って昨日とおとといだけだったような……」

「学校主催のものは、そうね。でも、個人でならいつでも行けるんじゃない?今日吹部見に行こうか?」

「なるほどぉそうか!うん、行こう!」

 

 吹奏楽といえば、ほとんどの場合が中学校から始める生徒が多いだろう。等しく同じスタートラインに立てるし、なんとなく、女子中高生としてほのかな憧れがある部活だ。もちろん、練習はきつそうだがー

 

「部活なんかするラエか?金持ちとカスミみたく、プリキュアがおろそかになっちゃうラエよ」

 

 周囲には聞こえない程度の声で、妖精が口を挟んで来た。

 

「あのねぇ。私たちはその前に中学生なの!部活くらいしていいでしょ!?」

 

「やるな、とは言ってないラエよ。でも、特にヒカルはすでに何度も戦闘したからわかると思うラエが、奴らは御構い無しにくるラエよ。部活をすれば、その中で友達ができたり、人付き合いが増えることもあるし、練習を積んだ先にはコンクールや大会もあるラエ。友達と遊んでる最中に、練習中に、そしてその集大成である大会の最中にでも、飛び出していける覚悟あるラエか?」

 

 急に真面目なことを語り始めた。だが、その通りではある。

 

「……それは……」

 

 誰だって、ある!と即答はできないだろう。

 

「まぁまぁヒカルちゃん、そんな小難しく考えなくてもよくってよ。攻めてくるあの人たちを迎え撃つ前提だから、そういう話になっちゃうのよ。ここは、2人揃って真価を発揮したプリキュアの力を持って敵国に潜入し、一気に叩き潰して、脅威を早々に排除すればいいのよ!クリア王国?ってところも救えるし、悪い人たちもやっつけられるし、最高の作戦でしょう!?そうと決まれば、いざ帝国カバークラウダーにー」

 

 マナミがそう威勢良く、右腕に力こぶしを作りながら言いかけたがー

 

「待て待て待て待てラエ!アホかいな!さては君、ヒカル以上の天然ラエか!?確かに戦力は整備できたラエが、今の君たちで向こうに行ったところで、カップラーメンができる前にやられるだけラエ!瞬殺ラエよ!」

 

 妖精ラエティガすかさずにツッコミを入れた。瞬殺される、の例えとしてカップラーメンを持ち出してきたが、クリア王国にもあるのだろうか?

 

「オーバーじゃない?今のは冗談で言ったけども、割と戦えるでしょ。あなたたち妖精さんもみたでしょ、2人揃った時のパワーを。雨男も雪女も目じゃなかったじゃない?」

 

「クラウドを舐めすぎラエ。それに、かつてプリキュアは何も、プリキュアだけの力でクライナーを封印したわけじゃない。古代兵器の力を使ってたらしいラエよ。今の所、僕たちの元にあるその古代兵器は、クリアハートというプリキュアに力を与える基本装置だけ。いわば、初期装備だけでラスボス倒そうとしてる感じラエ。それも、経験値が浅くてプレイヤーのレベルも低いのに。無理ラエ」

 

 妖精のくせに、先ほどから例え話がやけに人間界よりなものになっているところには触れないでおこう。

 

 クラウドは恐ろしい人物だと、妖精の口から嫌という程聞かされてはいるが、実際、私にもマナミと少し似ている考えはあった。実際に何度か敵を退けたからこそ抱いている感情だろう。

『ぶっちゃけどうにかなるのでは』そんな考えだ。百聞は一見にしかずという言葉があるが、どれだけ恐ろしい人物だと聞いたところで、実物を見たことがないのだから想像はつかない。逆に、妖精たちがプリキュアの力を見くびっている線だってあるのではないだろうか。

 

 どのみち、プリキュアとはキサトエナジーを原動力とする存在。やる前から恐れていては、キサトエナジーが弱まるどころか、ウィザパワーも生みかねない。今はこのくらいポジティブでいた方がいいだろう。

 

「それで?じゃあ部活するのやめる?」

 

 長らく訪れていた沈黙をはらったのはマナミだった。

 

「いやぁ、でも流石に、それは……そうだ!ラエちゃん、部活するのはプリキュア活動でもプラスになると思うよ!!」

 

 私の頭にとっさに、良いアイデアが浮かんできた。これなら、口うるさい保護者妖精だって言い丸めることができるかもしれない。

 

「どういうことラエ?」

 

「部活って、楽しいことも辛いこともたくさん経験できるものでしょう?辛いことは、仲間と乗り越えようとすることでいろんな力が身につくと思うし、それを乗り越えた上で、その先にある楽しいことを経験することで、自信もつくと思うんだ!人としても鍛えられるし、キサトエナジーだって今よりも大きくなるかも!それにそもそも!人間としての成長は、イコールプリキュアとしての成長にだってなるじゃない!!」

 

「……まぁ、お前にしちゃあ理屈は通ってるラエが……」

「えっへん!私はもともと、理屈?というか、正論みたいなことは前から言ってるつもり! 

ね!?いいでしょ!逆によ、部活とかしてなかったら、私たち中学生なんだし、戦士としての修行みたいなこともできないんだからプリキュアとして成長できないと思うよ?部活こそ修行場!!そうは思わない?」

「む、むぅ……わかった、わかったラエ。そもそも、僕もやるなと言ってたわけではないし……。まぁ、一理あるというか、プリキュアというものは伝説の戦士。君達はみんな、まだ伝説の戦士と呼ぶにはあまりにも中身が伴っていないラエ。レディとしての鍛錬という意味でも、まぁ、いいと思うラエよ」

 

 さりげなくディスられたが、こうして無事に部活を始めることはできそうだ。

 

「で、結局何部を始めるラエ?」

「私は第一希望吹部ね。まぁ、もっといろいろ見てみましょうよ」

「そだね!」

「……でも、僕が懸念しているような事態に陥るリスクは高まるし、その日は絶対くるラエ。やはり、戦力補強は必須ラエかね……。適合者であれば力を使えるかもしれない、というキュアパンプの示した可能性、仮説の検証はやはり進めるべきラエか……。でも加減がわからないラエ、頭がいたいラエよ」

 

 ウキウキしていた私たちをよそに、妖精は1人、ブツブツと呟きながら悩んでいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 輝ヶ丘中学の、一階奥隅にある生徒会室。

 ここでは今、全ての生徒会員、そして加えて、おなじみであるあの2人が揃っていた。

 2人は予め、入会希望の手続きは済ませてはいるのだが、今日が全員が揃う初めての日、ということで挨拶をしに来ていたのだ。

 

「君たちが今年の生徒会入会希望者だね。改めて、自己紹介からしようじゃないか。僕は現生徒会長、村田聖一、3年生。よろしく」

 

 少し明るめの茶髪で、パーマのかかったショートヘアの爽やかな男子学生がそう自己紹介をした。いかにも知的で、漫画に出てくる生徒会長のような雰囲気を醸し出している。

 

「同じく3年で書記の吉村裕子です」

「同じく3年。会計の金城辰巳です」

 

 その両脇に立っていた生徒たちも続けてそう名乗った。流石に生徒会、この3人だけでなく、部屋にいる全ての学生ーカスミらを除いて合計6人ーから、育ちの良さそうな、知的な雰囲気を感じる。放つオーラが、まるで中学生のそれではない。

 だが、それはこの2人も同じこと。

 

「初めまして。入会希望の安楽加清、1年生です」

「同じく入会希望、1年の月野紅羽ですわ」

 

「安楽くんと月野くんか。話には聞いているよ。2人とも、小等部にいる頃から有名だったからね。来てくれるとは思っていたよ。この輝ヶ丘中生徒会には、これ以上にない戦力補強だ」

 

 村田会長は嬉しそうに、にこやかな笑顔でそう言った。

 

「補強、ですか。お言葉ですが、少し違うと思います。補強とは補い強くすると書きます。意味的には、足りない、弱い部分を補う、と。……いいえ。私はここに生徒会長になるために来ました。補うためではなく、リーダーとして引っ張るために来たのです」

 

 カスミは真顔のまま、表情をピクリとも動かさずに、はっきりと言い切った。

 

「右に同じくですわ。もっとも、安楽加清にも、それ以外の候補者にも負けるつもりはありませんことよ」

 

 クレハも同じであった。もちろん、1年生が最初の挨拶からこう飛ばしているので、上級生たちはあまり快くも思っていないようでー

 

「大きく出たな1年生。神童だか優秀だか知らんが、礼儀もわきまえていないとなると、人の上に立つのは難しいのではないか?」

 

 2年生の会員がそう指摘する。

 

「先輩は私が礼儀をわきまえていない、と。……楯突くようで申し訳ないのですが、先ほど述べたことに何か、失礼に値する発言がありましたでしょうか。会長の発言に対し、私の意見を述べたまでだと思いますが」

 

「……そういうところではないのかな?」

 

「おっしゃっておられることの趣旨がわかりません。抽象的ではなく、具体的な該当箇所があるのですかとお尋ねしています」

 

「まぁまぁ。安楽くん、君の言うとおりだ。私は別に、失礼な発言だと捉えてはいないよ。1年生ながら、このような場面で一切の緊張を見せず、自分の主張をはっきりと通せる。さすが、噂通りの生徒ではないか。我が校の生徒会には未だ、1年生会長の前例はないが、ぜひ、そこを目指し、目標通り、リーダーになれるよう努めてもらいたい」

 

 村田会長はにこやかな笑顔を浮かべたまま、そう言った。とても優しげな少年である。

 

「ちなみに、今発言していた彼、谷繁くんはすでに今季の会長選挙に立候補することが決まっている。君たち2人のライバルでもある存在だね。それはそうと、入会希望者、という位置づけだった君たちだが、当然だが入会は承認です。今この瞬間より、生徒会役員となります」

 

「ありがとうございます」

「感謝しますわ」

 

「続いて、ですが。もう2人とも意思は固いようじゃないか。なんならば、ここで早速出馬の宣言をしてもいいですよ。もちろん、後日改めて書類などの提出もしていただきますが、せっかくこの場に谷繁候補がいるんだ。お互いに意識し合う、いい機会だとは思わないかい?」

 

 村田会長はそう提案した。

 

「そうですね。……谷繁先輩、先程は気分を害するような真似をしてしまったようで、申し訳ございません」

 カスミは谷繁の方に体を向けると、まずは深々と頭を下げた。

 

「ですが負けるつもりは毛頭ありません。必ず私が勝ち、私が会長になります」

「と、先程無礼な真似をしたこの安楽加清が申しておりますが、会長になるのは安楽加清でもなく先輩でもなく、この月野紅羽でありますわ。オホホホホホ」

 

 たった今入会が承認されたばかりだというのに、この生徒会室は彼女ら2人が支配しているのでは、とすら思わされる。谷繁はじめ他の上級生は皆、静観はしているものの、やはり初っ端からマイペースを飛ばしまくる下級生を良くは思っていないようだ。

 だが、村田会長はこれを、むしろ頼もしいと感じているのだろうか。そのニコニコな笑顔を崩さない。

 

「良くも悪くも噂通りだな。まぁ、いいだろう1年生、このままでは立候補者は俺1人となり、特に選挙することもなくあっさり会長となってしまうところだったぜ。そこにイキのいいのが2人も現れ、それもどちらも下級生となれば、俄然燃えるというものだ。いい勝負にしよう」

 

 谷繁はそういうと、彼女らに向かって手を差し出した。意外にも、ライバルとして認めてくれたようである。

 

「よろしくお願いします」

「お手柔らかにお願い申し上げますわ」

 

 2人は交互に握手を交わした。

 

「さて、では立候補者3人も決まった。いい生徒会選挙にしよう。実施日はすでに決まっている。1ヶ月後の5月10日だね。今よりその前日である5月の9日まで、選挙活動をすることを認めます。なお、立候補者各位は、各々1人、応援演説を行う生徒をつけること。我が校の生徒であれば誰でも可能ですが、現役の生徒会役員は原則避けてください。活動は、輝ヶ丘内であれば校外でも構いませんが、校外活動の場合、必ず制服で行うこと。また、大人の手助けを借りることも認められていますが、金銭のやりとりなどを行わないこと。そのほかには特にルールはありません、比較的自由に活動できると言っていいでしょう」

 

 村田会長は緩い表情を少し締めつつそう言った。

 

「大人を使えるのですね。これは、私の勝利の方程式も見えてくるというものですわ」

 クレハがニヤリとしながら呟く。

「金銭のやり取りの話は聞いていたかしら?あなたの家や関係者に無償で動く方はいるの?」

 すかさずカスミも小声でツッコミを入れる。

「執事を使えばいいではないですか」

「その執事さんは、あなたの家からお金をもらっているわけだと思うけど」

「あぁ。そうでしたわね。でも私が直接払っているわけではありませんわ?」

「グレーゾーンね。後から詳細を訊ねておいたほうが安心よ。私を倒すと公言している人が、反則で退場は悲しいわ」

「おっしゃる通りですわね。小細工など使わなくともあなたを倒しますわ!!……とは言いませんわ。使えるものは全て使いながらあなたを倒すのです。しかしながら、使用不可を使用して反則負けは嫌ですわね」

 

「1年、コソコソと話すな」

 

 上級生がそう指摘する。

 

「まぁまぁ。では、今日はこの辺で解散でいいでしょう。立候補者の皆さんは頑張ってくださいね。生徒会選挙を楽しみに待っています」

 

 こうして、生徒会選へと向けた戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ドンっという、雷のような音が一瞬、輝ヶ丘の街に鳴り響いた。それに気がつき空を見上げた住民こそちらほら見受けられたが、天気は晴天のままであり、その後は何も起きなかったので、多くの人が気のせいだろう、と、興味を失っていた。

 

「ここが人間界……そして、プリキュアのいる都市か……」

 

 低く、威勢のある声でそう呟いた男は、ストームにも匹敵しようとする大柄な体格で、上半身には衣服を着用しておらず、その代わりに、岩山のように発達した筋肉に纏われている。肌の色は金色に近い明るい黄色であり、白く染まった髪の毛は逆立っているが、おそらくこれは全身から時折放たれている青白いスパークのようなものが原因だろう。

 

「そ、そうだぞサンダー。道案内はしてやった。あたしはもう帰るよ!」

 

 どうやら彼が、冒頭でクラウドたちが話していたサンダーのようだ。彼をここまで導いたスノウは、関わりたくなかったのか、早々に引き上げようとするがー

 

「待てスノウ。俺は長いことテンペストプリズンに収監されていた身分だ。状況を知らん。どいつがプリキュアなのか、もな。伝説の戦士なのだろう?俺は敵の強さを、その者が放つオーラで判断できる。この街にある大きなオーラは貴様のものくらい。そのほかではとても、戦士と呼べるほどのオーラを放っている反応はない。本当に、ここにプリキュアがいるのか?」

 

「プリキュアってのは、普段はただの人間なんだ。だから当然、今は反応をキャッチできなくて当然さ。だが見くびるな、私もレインも、一度負けている」

 

「貴様ら雑魚と一緒にするな。では、人間から『変身』してもらい、おびき出す必要があるな」

 

「あぁ、だからクライナーを作らねば。媒体を探せ」

 

「クライナーだと?必要ない。あれはクラウド様の見出した、本来は戦争をする際に物量で攻める手段として使用する兵器のはずだ。戦士の1人や2人を相手にするのには向いていない。だから貴様らは負けている」

 

「何!?それは、クラウド様の方針への批判として捉えていいのか!?」

 

 スノウはサンダーを睨みつける。

 

「違う。貴様らの要領が悪いのだ。それともなんだ、貴様らは生身では、クライナーよりも弱いのか?」

 

「クライナーは確かに本来はその使い方が正解だ。だが、プリキュアはキサトエナジーを利用する戦士。クライナーがいたほうが効率よく非戦闘員からもウィザパワーを生成し、そしてプリキュアのキサトエナジーの弱体化にもつながるのだ。火力だけで考えるな」

 

「要はプリキュアに絶望を与え、キサトエナジーの効力を失わせればいいということだな。なら、俺だけで十分だ。あのクラウド様でさえ、この俺を恐れたのか、遠いテンペストプリズンに封じ込めてたくらいだしな。おい、とっととダークブレードとやらを渡せ」

 

「チッ、この脳筋が……だが忘れるなサンダー。我が帝国では、正当防衛ややむを得ない場面以外での非戦闘員の故意殺害は違反行為。お前はそれを6度も破ったためにプリズン行きだったんだよ。次は死刑かもわからんぞ。せっかく出されたんだ、今度こそクラウド様の怒りを買うな!」

 

 スノウは彼に向かってダークブレードを投げ渡しながらそう忠告した。

 

「ふん。だが、俺の場合はやむを得んのだ。俺が強すぎるのでな」

 

 彼は不敵に笑うと、大剣を担ぎ、市街地へと飛んで行った。

 

「ったく、ありゃ絶対何人か殺すな。ていうか、殺される奴には悪いけど、それくらい暴れてもらって、死刑を執行したほうが今後のためだよ……。クラウド様は奴の何に期待して、生かしているのだろう」

 

 スノウはそう吐き捨てると、巻き込まれたくなかったのか、足早に撤退した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「こ、これは!?」

 

 放課後、私とマナミが部活動の見学に行こうとしていた時、急にレティツが大きな声をあげた。

「しっ、静かにしてよびっくりするじゃん……」

「どうかしたの?」

 

「……こ、これほどまでのウィザパワーを感じるのは、クラウドを前にした時以来ラエ……!2人とも!見学は後日でもいいラエか!?レインやスノウのウィザパワーとは桁が違う反応があるラエ!」

 

 次に叫んだのはラエティだった。

 

「ま、また先送り〜?」

 

 私はとほほという顔でそう嘆いたが、ラエティとレティツの表情はいつになく強張っていた。その様子を見て、私の顔も自然と引き締まって行く。この場を、緊張感が一瞬で支配してしまった。

 

「へぇ、つまりボス級ってこと?ちょうどいいじゃない。乗り込もうとしてたのに、向こうから来てくれるなんて。ここでやっつけて、平和な学校生活を心置きなく楽しまなきゃね」

 

 マナミはニヤッと笑いながらそう言った。全く、肝っ玉の座りすぎである。

 

「とにかく、急ぐレティ!このまま走って向かっても、間に合わないかもしれないレティね。どこかに隠れて変身して、プリキュアの身体能力を使って一気に向かおうレティ」

 

「おっけー!ひかるちゃん、行くわよ!私たちのスーパーコンビネーションで2分くらいで片付けて、部活見学に戻りましょう!」

「う、うん!」

 

 私たちはグラウンドに出て、物陰に隠れ、周囲に誰もいないことを確認したのち、クリアハートを握りしめた。

 

「プリキュア!エキサイティングフィーバー!!」

 

 同時にそう叫ぶ。次の瞬間、私たちはプリキュアへと変身が完了していた。

 

『行こう!パンプ!』

『おっけースパーク!ラエちゃん、敵の場所は!?』

「こっちラエ!」

 

 ラエティは私の肩に乗ると、北を指差した。タイミングを同じくして、レティツもパンプの方に乗る。

 

『了解!ひとっ飛びで行くわよ!それ!!』

 

 2人で同時に地面を蹴り飛ばし、大きくジャンプして目的地へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 再び、ドンっという大きな音を響かせながら、サンダーは市街地へと着陸した。その場所には、軽いクレーターのようなものが形成されてしまっている。

 

「人間界、とはこんなものか。ここにいるのは全て非戦闘員だとはいえ、皆オーラが虫ケラ以下だ。目を瞑って歩いていれば、誰にも気がつかないレベルだぜ」

 

 サンダーは周囲を見渡しながら、ため息をついた。周りの人々は、突然空から地面に穴を開けながら降り立った、上半身裸の金色の大男を前に、ただただ唖然としている。

 

「さて、少し準備運動をしよう。その過程でプリキュアも俺の存在に気がつき、こちらへと向かってくるはずだ。まずは、屈伸から始めよう」

 

 しばらくぶりに謹慎を解かれ、監獄ではなく広い世界へと降り立ったのだ。まずは、鈍った体を慣らさなければならないのだろう。彼は、大剣を背負ったまま、その場で屈伸運動を始めたが、一度膝を曲げた瞬間、クレーターはさらに大きく広がり、半径10メートルほどに渡って、地面に蜘蛛の巣状のヒビが走る。

 

「……人間界というのは、地面の耐久力も虫ケラ以下なのか?これではまともに動けぬ。空中で運動するか」

 

「な、なんだあいつは!」

 

 その光景を見た人々は、流石にこう着状態から解き放たれたのか、一斉に彼から勢いよく離れ始めた。サンダーはそれを特に気にもとめず、身体を宙に浮かせながら、運動を続けていく。だがその動きが一瞬固まった。何かを察知したようだ。

 

「急激に大きな反応が現れたな。2つ。禍々しいほどのキサトエナジーを感じる。音に聞くプリキュアか。想像以上にでかいオーラを持っているな。楽しめそうだ」

 

『ハァァァァァァァァ!!』

 

 私たちはその場に、叫びながら宙より到着した。彼の前方へと着陸し、各々その場でポーズをとる。

 

『弾ける心!キュアスパーク!!』

『高鳴る心!キュアパンプ!!』

『闇に染まった心に元気と天気を取り戻す!輝け!ワクワクプリキュア!』

 

 ビシッと決めセリフも決まった。最初から2人揃っていれば、怖いものはないのである。

 

「オーラは想像以上だが、同時にやかましさもだな。まぁいい。おい、プリキュアとやら!選択肢を与えてやる。1分コース、2分コース、3分コースだ。どれがいい?」

 

『なんの話?』

 私がそう聞き返す。

 

『カップラーメンなら、実は3分よりも2分が美味しかったりするわね。よし、2分コースにしましょう』

 パンプがそう言った。

『……絶対そういうことじゃないでしょ……』

『まぁいいじゃない?私もさっき、2分くらいで帰ろうって言ったし』

 

「……2分でいいんだな?このオーラの戦士を2人、2分で片付けられるくらいのパワーは……」

 

 サンダーは呟きながら身構えた。するとウィザパワーがさらに高まり始め、ついには彼の周りに紫色のオーラとなり既視可された。

 

「このくらいか……。お手柔らかに頼むぜプリキュア。まだ準備運動が満足にできていないんだ。少し鈍っているのでな」

 

『……妖精さんと違って、ウィザパワーを感知とかはできないけど、それでも相当な力を感じるわね……』

 

 キュアパンプは表情を引き締め、身構える。

 

『そうだね……。でも、私たちなら負けないよ!』

 

 私も同じく戦闘態勢に入った。私たちも同様にキサトエナジーを高め、全身からこれを放出し、目にで確認できる黄色のオーラとしてまとい始めた。キュアスパークこと私が、前回のスノウ戦で使用した、キサトエナジーの鎧だ。攻撃力も防御力も跳ね上がる。同時に、消耗も当然ながら、目に見える量のエナジーを常に放出しているため激しくなるが。

 

『先手必勝!こっちから行くわよ!ハァァァァァ!!』

 

 先に動いたのは、キュアパンプだった。目では追えないほどの高速で移動しているため、まるで瞬間移動をしているかのようである。

 

 瞬時に金色の大男の背後に回り込み、回転しながら勢いをつけた蹴りを撃ち込もうとするがー

 

「遅い」

 

 その蹴りは空振りしてしまった。

 

『消えた!?』

「貴様と同じだ。俺は魔法使いでもなんでもないのでな、ただ動いただけだ」

 

 その声は、キュアパンプの後方から聞こえてきた。後ろをとったつもりが、とられていたのである。

 

「我が名はサンダー。その名の通り、いや、その名をも凌駕する。俺は稲妻よりも速く、そしてー」

 

 サンダーはまた、その場から姿を消した。

 

「雷より強く、全てを破壊し尽くす」

 

 今度は、地面で待機していた私、キュアスパークの背後からその声が聞こえた。あまりにも速すぎる。 

 

「貴様ら、やる気はあるのか?オーラだけなら大したものだな。レインとスノウが負けるのも頷ける。だが、遅すぎるな。止まって見える。あぁだがお前は、実際に止まったままだったな」

 

 そう言うと、彼は一瞬のうちに拳を私の無防備の背中に打ち込んできた。

 

『キャッ!!』

 

 そのまま高速で吹き飛ばされ、向かいのビルに大きなクレーターを形成しながら激突する。

『スパーク!?』

 

『だ、大丈夫……』

 

 キサトエナジーの鎧が、突き、壁への激突ともにダメージを軽減してくれたため、なんとか一発KOは避ける頃ができたが、それがなければまずかった。

 これまで対峙してきたどのクライナーよりも、どの幹部よりも格段に強い。

 妖精たちの語るクラウドという男は、これよりも強いということだろう。部活動なんて、さっきはあのようには言ったが、本当にやっている暇はあるのだろうか。

 

「ほう。結構力を込めて突き飛ばしたつもりが、まだ立てそうだな。だが、俺も2分と宣言してしまったしな。あと1分と少ししかない。もう少し飛ばすぞ。ついてこれるかな?」

 

 サンダーはニヤリと笑いながら再び身構えた。私たちの背中に、緊張から、そして恐怖から冷や汗が流れ始める。

 

「こ、この男!サンダー!思い出したラエ!かつて軍事大国をたった1人で落としながらも、非戦闘員を必要以上に大量殺戮し、クラウドから謹慎処分を受けていた、帝国カバークラウダーの中でもずば抜けた極悪人ラエ!!こ、ここは逃げるラエ!勝てないし、勝てないは愚か、最悪の場合……!」

 

 ラエティは、それ以上は言わなかった。

 

「案ずるな。逃がしはしないし、殺しもしない。それをしてしまえば、今度こそ俺はクラウド様に消される身分。だが、やはり相手がガキで、それも女となると俺も調子は狂うものだ。クリアハートを差し出すのならば、敗走も見逃そう。クラウド様がお求めになっておられるものは、貴様らの命ではなく、クリアハートだ」

 

 サンダーは身構えたまま、そう言った。

 

『……それで、私たちがクリアハートを差し出すとでも?』

 

 流石にキュアパンプ……いや、マナミといったところか。再び地面へと降り立ちながら、この撤退の最大のチャンスとも言える通告に対し、強気で言い返す。

 

「いい度胸だ。そうこなくては面白くない。では、戦うのだな?」

 

『とはいえ、あいつに私たちを本気で殺すことはできないわ。クラウドというやつから、そういう命を受けてるみたいだし。圧倒的な力の差があるとき、半殺しってのは殺害よりも難しいらしいわね。なんかのバトル漫画にそういう事が書いてあったわ。まぁ、何にせよ、ここは最強のコンビネーションを見せつける時よ!ヒカルちゃん!私が陽動をするから、あなたの力任せの体術を叩き込んで!』

『わかった!』

 

 私たちの作戦は固まった。ちょうどよく、奴が動き始める。

 

「覚悟は決まったか!?いくぞぉ!サンダータックル!!」

 

 紫色に、目に見える量までに溢れ出たウィザパワー、そしてさらに激しさを増した、全身から放電されている青白いスパークを纏い、その技名通りタックルの姿勢に入り、今度はキュアパンプへと攻撃をするために、彼女へと高速で体当たりを仕掛けにいく。

 

『まともに喰らうとやばそうね。まぁ、このマナミちゃんに任せなさい!プリキュア!パンプスライダー!!』

 

 そう叫ぶと、キュアパンプに纏われていたキサトエナジーが青色に変色し、さらに大量の水へと変化した。水は6本の柱となり、それぞれがサンダーへと襲いかかる。

 

「こんなものでどうするつもりだ?」

 サンダーはタックルの体勢のまま、水流の柱を次々に躱していく。

 

「……いや、これは本命の攻撃ではないのか?まあいい、どんな小細工も力でねじ伏せるのみ!」

 

 6本中5本をあまりにあっさりと回避することができたため、サンダーには一瞬、迷いが生じたようだが、やはり力任せに、御構い無しに突っ込んでくる。

 彼女と激突する寸前で、残る1本が、パンプを守るように現れた。だが、どう見ても強引に突破されてしまいそうに見えるがー

 

 しかし、次の瞬間、サンダーの軌道が大きく変わった。水に押し流され、パンプの目前で右側へと軌道を逸らされたのだ。彼女は一歩も動かずして、彼の攻撃を回避したことになる。

 

「攻撃ではなく、防御の技だったか!だが、それがどうした!?」

 

 すぐにタックルの体勢を一旦解除し、足を使いブレーキを効かせ、身体を反転させながら、彼女の背後より攻撃を繰り出さんと動き始めるが、ここまでが私たちの作戦通りだった。キュアパンプばかりに目が行っていたサンダーは、彼女の後ろで待ち構えていた私の存在に気がつくのが一瞬、遅れたのだ。

 

「何!?この水を使うプリキュアは、ただの陽動だと?」

 

『隙あり!!プリキュア!スパークナックル!!』

 

 全身に纏っていたキサトエナジーを、利き腕の拳に一極集中し、メリケンサックのような形状に変化させ、威力を高めたパンチを隙の生まれたサンダーへと撃ち込んだ。

 

「ぬおおおお!!」

 

 バリバリッという、雷が炸裂したかのような音を響かせ、サンダーの身体が、地面をえぐりとりながら吹き飛んでいく。

 

『はぁ……はぁ……、決まった……!』

 

 全身から放出させていたキサトエナジーを一気に消費した、会心の一撃だった。私はいまの動作で、肩で息をするほどまでに消耗してしまったが、流石の、筋肉に覆われた大男といえどもこたえたはずだ。

 

「……今のは効いたぞ……貴様、キュアスパークと名乗ったか?覚えておこう。かなりの体術だ……。この俺をここまで吹き飛ばしたのは、ストームとクラウド様以外では貴様が初めてだ」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら、彼はそう言った。全身に土ほこりを浴びている。

 

『今の攻撃でも、やっつけることまではできてないか……』

 パンプは顔をしかめた。まずい、今の私たちでは、これ以上の打撃を与えるのは難しい。2人のエナジーを合わせた合体の必殺技こそ、まだ切り札として残してはいるものの、それで確実に決めるためには、サンダーの体力をまだ削る必要もある。

 

「2分で片付けられると思っていたが、無理だったな。少し甘く見ていた。少しは本気を出さないと、いけないかもな。いい準備運動にはなったよ」

 

『……どうするパンプ?あのセリフも、あのおじさんの様子を見る限り、ハッタリじゃなさそうだけど。正直、かなり厳しいんじゃ……』

『弱気にならないで、スパーク。キサトエナジーが弱まるわ。私の力では、決定力にかける。最後にはスパークのパワーが必要なの』

『うん、ごめん、そうだね。まだ、負けたわけじゃないんだから!』

 

 パンプの言葉を受けて、私は再び自らを奮い立たせた。大きく消耗したばかりだというのに、またも、身体の芯から多くの力が溢れてくる感覚を覚えた。心臓と共鳴しているクリアハートが、さらにキサトエナジーを分泌させているのだ。

 

「……大した奴だ、驚いたな。奴はキサトエナジーの永久機関なのか……?またあの技を食らうとまずい。が、奴らのスピードでは、陽動がなければこの俺に指一本触れることもできないし、同じ手にはかからない。俺の勝ちはほぼ決定的だな。しかしキュアスパークとやら、ここでプリキュアの力を奪ってしまうのは惜しいとすら感じる。奴をこのまま鍛えていけば、いずれ本気の俺と渡り合えるだけの戦士へと育てることもできそうなものだが……」

 

 サンダーは誰にも聞こえない程度の声量でボソボソと呟いていた。

 

『次はどうやって攻撃しようか。普通にやっても、追いつけないよ』

『そうね。特に、私が陽動役ってのがバレている以上、作戦だって相当練らない限り、なかなか通用してくれないわよ』

「やっぱり、分は悪いレティね……。特に、見るからにスパークと似たような電撃の使い手、水を使うパンプじゃ、相性も最悪レティ」

『前にスノウにやったみたいな、水を利用した広範囲電撃も、むしろ敵のリーチを広げるだけの恐れもあるわね。……確かにこれでは、戦力差もそうだとしても、それ以上に相性が悪すぎるわ。あのスパークナックルで倒せていない時点で、私たちの勝機は……』

 

『何言ってるの、パンプ!ついさっき自分がなんて言ったか忘れたの?やるしかない、でしょ!ここで逃げたら、この街は誰が守るの!?』

 

 私は、溢れ出てくるキサトエナジーの効力もあり、いつになく勇気に満ちていた。このエナジーは、正のエネルギーであるため、正の感情を強く持っていれば持っているほど、その量も相対的に増加する。

 さらに加えて、このエナジーをエンジンとするプリキュアに変身しているときは、キサトエナジーが勇気や自信、希望といった正の感情を高めるため、今のようにハマれば、先ほどサンダーが評していた『永久機関』のごとく力が湧いてくるシステムだ。

 このような状態を、妖精ラエティは『キサトサイクル』と呼んでいた。

 

「キュアスパーク、放置しておけばさらに力を高めそうだ。当たらんとはいえ、仮になんかの拍子にかすりでもしてしまえば、またダメージを負いそうだな。惜しいなどと感じている暇もない。これでは将来が楽しみどころか、脅威になり得る存在だ」

 

「キサトサイクルに入ったヒカルは、そう簡単には倒せないラティよ!それに今回は、パンプの支援もあるから、無防備になる展開も防ぎやすい。マナミ!ここはヒカルへのサポートに徹するラエ!あいつの、馬力に賭けるしかないラエ!」

 

『……わかったわ。そうね、私が弱気にならないでって言ったんですもの。援護は任せて!』

 

 キュアパンプのキサトエナジーも高まってきた。これだけの強敵を相手に、怯んで力が弱まるどころか、高まらせている。これがプリキュアの伝説の戦士たる所以でもあるのか。圧倒的だったはずの戦力差を、戦いながら埋めつつあるのだ。

 

『じゃあ、行くよ!サンダー!!』

「こい!キュアスパーク!!」

 

 両者が同時に地を蹴り飛び出した。

 

『てやぁぁぁぁぁ!!』


 

「やはり遅い!」

 

 私の飛び蹴りは、寸前で躱されてしまう。だが、敵が速いのはもう充分にわかっていることだった。この蹴りは、外れる前提で繰り出したのだ。本命の攻撃はー

 

『ここ!!』

 

 私はすぐに身体を反転させ、背後に現れたサンダーに対し、回転蹴りをお見舞いした。

 

「なにぃ!?」

 

 キュアパンプによる最初の攻撃も、そして私に繰り出した突き攻撃のときも、奴は背後を取るように移動していた。目で追えない速度とはいえ、ワンパターンであるのならば、奴が次に現れる場所の大体の目星はつくものである。

と、如何にもしっかりと攻撃を当てるために策を考えていたかのような、物言いではあるが、実はそういうことではない。キサトサイクルに入っていたことで、本能的にそう動いていたのだろう。

 

 なんであれ、これで、奴は再び、私の攻撃で吹き飛ばされたことになる。

 

『これが、ストーム?とか、クラウドって人以外に吹き飛ばされた、記念すべき2回目ね。前回から、案外早かったけど』

 

「なめやがって!この俺を怒らせたな!?」

 勝手に怒られるのも理不尽なものではある。

「貴様……面白い!この俺が6割の力で相手してやる。光栄に思え、滅多にないことだ!1つの軍事大国を攻め入ったときですら、5割程度にとどめていたのだからなぁ!」

 

『10割の方がいいんじゃない?私のことバカにするのなら、また吹き飛ばすよ!』

 

「ほざけ小娘!!」

 

 ストームは眉間に怒りマークを浮かばせると、背中に背負っていた大剣を装備した。スノウが使っていた、ダークブレードという代物だ。彼女では扱えていなかったが、これまでのパワフルな戦闘スタイルをみるに、彼には難なく扱えそうなため、警戒が必要だ。

 

「しかしまぁ、キサトサイクルに入ったヒカルは人が変わるレティ……」

「キサトエナジーにいい意味で支配されてるラエからね。一種のドーピングみたいなものラエ」

 

 妖精たちは、若干引いている様子ではあった。

 

『これ、私の援護、必要なのかしら』

 

 パンプも引きつり笑いをしている。

 

「ダークブレードのデータを取るのも任務のうちだったか。こんなものなくとも奴を葬ることなど容易いが、命令ならば仕方ない。この剣の力を見せてやる!はぁっ!」

 

 スノウは両手で握っていたこのダークブレードだが、彼は片手で振り回していた。剣は彼のウィザパワーと共鳴したのか、同じように紫色のオーラを纏い始める。

 

『丸腰相手に武器だなんて、卑怯じゃないの!?』

「戦いに卑怯も堂々もあるものか。勝った方が正義だ!覚悟せよ!プリキュア!!」

 

 サンダーが、剣を構え、私に襲いかかるー

 と、誰もが思っていたそのときだった。彼の剣は、私ではなくキュアパンプを襲った。

 

「オラァ!ダークスラッシュ!!」

 

 オーラをまとった剣を一振りすると、そこからウィザパワーのエネルギーに満ちた、紫色のかまいたちのような斬撃が飛んだ。これが、キュアパンプに直撃する。

 

『キャアッ!』

 

『パンプ!?』

 

 禍々しい紫のエネルギーに覆われた彼女は、そのまま吹き飛ばされ、向かいのビルに激突した。エネルギーの塊は、ビルとの衝突と同時に消滅し、彼女も解放されたのだが、次の瞬間、彼女の変身は解除されていた。

 

「マナミ!!」

 

 レティツが慌てて、彼女の元へと駆けつける。

 

「あの卑怯者……。無警戒だったマナミもマナミラエが、あのタイミングでヒカルではなく彼女を攻撃するなんて……」

 

「はっはっはっはっは!!いま言ったばかりだろう!勝った方が正義だ。さあ、そのクリアハートはいただくぜ」

 

 変身解除とともに、その場へと投げ出されたクリアハートを、サンダーは難なく回収した。

 

『あなた!!絶対に許さない!!』

 

 私は思わず、何も考えなしにサンダーの元へと特攻してしまった。だが、何かがおかしい、先程までのような力が出せない。

 

「どうした?オーラが、さっきまでの凄まじいものから格段に落ちているぞ?まぁ、それもそのはず……」

 

 彼は突っ込んできた私を表情1つ変えずに受け流した。クリアハートが1つ手に入ったので、もう用はない、とでも言いたげな表情だ。

 

「怒り、それは負の感情、ウィザパワーの根源だ。正のエネルギー、キサトエナジーと対をなす感情。怒れば強くなるやつも多く存在するが、貴様らプリキュアのような存在は全くの逆だ。ウィザパワーが増えるため、プリキュアとしての力は落ちる」

 

 そういうことだったのか。

 

「今日のところはこの辺にしておいてやる。だが、お前の力は素晴らしい。いつかまた手合わせを願おう。次は、1分で倒す」

 

『ま、待って……!』

 

 私は、急激に力が弱まった反動で身体にどっと押し寄せた疲労感に潰され、その場に片膝をついてしまったが、だが逃がしてはいけない。どうにか立ち上がらなければ、でも、動けない。

 

「まずいラエ、せっかくプリキュアが2人揃える状況になったのに、また奪われては…」

 ラエティも青ざめている。

 

「待ちなさい」

 

 次の瞬間、その場に聞き覚えのある、少女の声が響いた。

 

「うん?」

 

 サンダーもおもわず、声のした方へとゆっくり振り返る。

 

 その視界に入ったのは、安楽加清だった。

 

「家に帰ろうとしていたら、近くで大騒ぎがあって、来てみたらやっぱりプリキュア絡みのものだったわね。しかし、どういうことかしら?なぜ、大田さんが変身を?」

 

 カスミは、マナミが最初、変身に失敗していたことを知っている人物だ。そして同時に、自らも変身に失敗した経緯を持っている。

 

「こ、こんな時に、面倒な奴に見つかったラエ……」

 

 ラエティは、青ざめた表情のまま、頭を抱えた。クリアハートと条件さえ揃えば、誰でもプリキュアに変身できるという仮説が有力視されている段階なのだ。彼女がこの力を欲する懸念はあった。

 強大な「敵」は異世界からのみやってくるわけではない。今後の人間界の情勢を考えても、まだカスミに見つかってはいけなかった。これが引き金となり、クリアハートの争奪戦が人間、異世界人の間だけではなく、人間同士の真柄でも起きてしまう可能性がある。

 

「ただの人間の小娘か。下がれ、貴様の出る幕ではない」

 

「あなた、大田さんからその、プリキュアの力が宿ったアイテムを強奪した様子ね。しばらく戦いを安全な場所から見守らせてもらったけど、強い敵と戦うと燃えるタイプ、にも見受けられるわ」

 

「だからどうした?」

 

「私は、そこにいる光山さん、大田さんよりも、強いプリキュアになれる自信があるわ。当然よ、人間としての中身が違う。どうかしら?それを私に譲ってみない?面白い戦いになることを、約束してあげるわ」

 

 カスミは、予想だにもしていなかったことを言い出した。

 

「な!?何言ってるラエ!?君は一度、変身に失敗したー」

「それは大田さんも同じことよ。どういう経緯があったのかは知らないけど、彼女が大丈夫なら、私だって可能性はあるじゃない」

「そ、それはそうかもしれないラエが!」

 

「私は誰よりも自信があるわ。当然よ、誰よりも努力をした人間ですもの。現に、少なくともあの2人よりは結果も残しているわ。それに、あれ、持って行かれたらマズイんでしょう?私はこれから大事な生徒会選挙を迎えるの。プリキュアが1人になって、あいつを止められなくなって、この街ごと厄介なことに巻き込まれるのなら困るのよ。前は、プリキュアは光山さん1人いればいいじゃない、とは言ったけど、あれはどうも、1人じゃ無理そうだし」

 

 カスミは淡々とそう述べた。少なくとも、肝っ玉は誰よりも座っている。プリキュアに変身しておらず、キサトエナジーの恩恵もそこまで受けていないのにこれであるのだから、変身さえできれば、その絶対的な努力量から現れる、ヒカルとは異なる「根拠のある自信」から、膨大なキサトエナジーを生み出し、本当に最強のプリキュアとなることだってありえなくはないだろう。

 

「でも、危険を伴うことはわかっているラエね?君、怪我をすることなどをかなり懸念に持ってたけど」

 

「えぇ。確かに、怪我までするのは困るわ。お父様に怒られてしまう。でも、怪我をしなければ済む話よね」

 

 大したものである、さすがは安楽加清と言ったところか。このサンダーを相手に、どうやら無傷で戦うつもりらしい。

 

「一度は興味を失った特別な力。でも、手にできる可能性があるのなら、やっぱり欲しいもの。さて、どうかしら、黄色の筋肉男さん。私に、譲ってくれないかしら?」

 

 カスミは、手のひらを彼の方へと差し出した。

 

「いいだろう。そこまでの自信があるのなら、面白い。ただ、変身失敗、などという興ざめなことはやめてくれよ。今はせっかく機嫌がいいからこうしてやるんだ。そんなことされたら、怒りのあまりこの都市を破壊し尽くすかもしれんな」

 

 サンダーはそう言いながら、本当にカスミへとクリアハートを投げ渡した。

 宙へと放り出されたクリアハートは、しばらくはそのまま物理法則に従った運動を続けていたが、ふと、ひとりでにカスミの方へと向かい始めた。

 

 選ばれた、ということだろうか。

 

「どうもありがとう。脳筋に見えて、結構話のわかる人なのね」

 

「礼などはいい。とっとと、俺と戦ってみせろ」

 

「そう、わかったわ。合言葉は、プリキュア、エキサイティングフィーバー、だったかしら」

 

 その言葉とともに、彼女の身体は真白き光に包まれたのだった。

 

 

                                    続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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