ワクワクプリキュア!   作:ネフタリウム光線

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 クラウドによって人間界に送り込まれた新たな刺客サンダーは、これまでの幹部とは核の違う強さを見せつけてきたの!私とマナミちゃん、2人揃って真価を発揮したプリキュア、その2人がかりでも倒せないんて……。マナミちゃんのクリアハートも奪われちゃった!

 そこにたまたま鉢合わせた安楽さんが、なんとサンダーに、そのクリアハートを譲って欲しいと迫りー?

 1度変身に失敗している安楽さんだけど、今度はどうなるんだろう??


第8話「百人力!?最強の戦士誕生!」

第8話「百人力!?最強の戦士誕生!」

 

「私は誰よりも自信があるわ。当然よ、誰よりも努力をした人間ですもの。現に、少なくともあの2人よりは結果も残しているわ。それに、あれ、持って行かれたらマズイんでしょう?私はこれから大事な生徒会選挙を迎えるの。プリキュアが1人になって、あいつを止められなくなって、この街ごと厄介なことに巻き込まれるのなら困るのよ。前は、プリキュアは光山さん1人いればいいじゃない、とは言ったけど、あれはどうも、1人じゃ無理そうだし」

 

 こう自信満々に発言したのは安楽加清。彼女は私のクラスメイトで幼馴染(と言っても、今は関わりが少ないのだが)で、この街、輝ヶ丘の神童と謳われる、将来は国の、世界のトップを目指している絵に描いたような優等生だ。プライドの高さゆえに、よく周囲の人間を苛立ててしまうことも珍しくはないのだが、彼女の場合、その桁外れの努力から生まれた力によるプライドの高さでもあり、それを知らぬ者はいないため、大きな反感を買っている、などということはなく、ある意味で『彼女はそういう人間だ』として処理されている。

 

 とはいえ、そのように若干敬遠されている所謂孤高の存在、というわけではなく、この長台詞のように、口を開けばよくしゃべる人物ではある。存在が大きすぎているため誰も近寄れず、結果的には親しい友人の少ないことにはなっているが、決して嫌われていることはないのだ。

 

「いいだろう。そこまでの自信があるのなら、面白い。ただ、変身失敗、などという興ざめなことはやめてくれよ。今はせっかく機嫌がいいからこうしてやるんだ。そんなことされたら、怒りのあまりこの都市を破壊し尽くすかもしれんな」

 

 キュアパンプを一撃で倒し、一度は奪ったクリアハートを、そう言いながらカスミへと投げ渡したのは強敵、サンダーだ。2人が揃い、真価を発揮できる状態になった伝説の戦士、プリキュアを相手に単身で互角以上に、いや優位に戦い、なおもまだ、フルパワーの6割ほどしか出していないというのだから、恐ろしい相手だ。それもハッタリではなさそうで、私の全力の必殺技を受けたはずなのにピンピンとしている。

 

「どうもありがとう。案外、結構話のわかる人なのね」

 

「礼などはいい。とっとと、俺と戦ってみせろ」

 

「そう、わかったわ。合言葉は、プリキュア、エキサイティングフィーバー、だったかしら」

 

 その言葉とともに、彼女の身体は真白き光に包まれる。

 

「ほう、本当に変身できるようだな。安心したぜ」

 サンダーはニヤリと不敵に笑みを浮かべた。

 

「……これは、あの2人にも引けを取らない、いいオーラだ。いや、少なくともキュアパンプはゆうに超えている……!」

 

 敵の強さを『オーラ』というもので、ある程度は判別できる能力のあるらしいサンダーにとっては、まだ変身が完了していない時点でも、カスミの強さが大体推測できるのだろうか、彼は少し表情を引き締め、身構える。

 

 変身が完了し、彼女を包んでいた眩い光は徐々にその輝きを失い、光の破片となりあたりに飛散することで消え去った。

 その中心に立っていたのは、尻にまでかかるほどの長い、濃い紫紺のポニーテールが特徴的な、紫色の戦士だった。フリフリな衣装であるキュアスパークと比較すると、衣装は無駄がなく動きやすそうで、かつスタイリッシュなものとなっており、より戦闘向きにも見える。

 基本的な色調は紫と、黒という、どこか大人っぽい雰囲気も醸し出している。

 

『楽しむ心!キュアジョイフル!』

 

 紫の戦士の第一声はそれだった。変身者は常時クールなカスミであったが、この名乗りはいつもの彼女からは考えられないほど弾んでおり、エネルギッシュなものであった。テンションが高まっているのだろう、これもキサトエナジーの効力か。

 

「キュアジョイフル、それが貴様の名か。いいぞ、そのオーラ、貴様のようなものが、まさか人間界にいたとはな……。プリキュア、どいつもこいつも驚かされるぜ。まぁ、俺の敵ではないが」

 

 サンダーは、またも現れた強敵を目にしてテンションの高まりが止まらないようだ。

 

「どんなに自信があるのか知らないが、その自信も全て力でねじ伏せてやる。貴様のようなプライドの高そうなやつを痛めつけ、絶望に満ちた表情にさせることが、どれだけの快感かわかるか?」

 

『さぁ、興味ないから知らないわ。あと、怪我はさせないでちょうだいね、お父様に叱られるし、2度と変身もできなくなってしまうわ。まぁ、この戦いではひとつの傷も負わないつもりだけど』

 

「大した自信だ。その自信が貴様をさらに強くするわけだ。プリキュア、全く都合が良くて羨ましい限りのシステムで動いてやがる。貴様もキサトサイクルに入れるのか?ならば厄介だな」

 

『そういうあなたも、今はワクワクしてるみたいだけど、それはキサトエナジーにはならないの?さっき光山さんが、怒りからウィザパワーを生み出して弱体化してしまったようだけど、あなた達はキサトエナジーを生み出すことでの弱体化とかは、ないわけ?』

 

 ジョイフルの投げかけた疑問は当然のものではあった。

 

「いい質問だ、着眼点がいい。俺も詳しいことは知らんが、俺の場合は、これはキサトエナジーとは少し違う。貴様らのようなキサトエナジー溢れる輩どもを絶望させることが気持ちいいのでな。絶望させてやりたい、それだけだ。だから、そういうことにもならんのだろうよ」

『あら、それならば都合いいのはそちらの方のようね』

 

「ふん、俺は貴様とトークショーをするためにわざわざクリアハートを譲ったわけではないのだ。とっとと攻撃してこい。どれほどの力なのか見せてみろ!」

 

『どれほどの力か、ね。応えてあげたいのは山々だわ。でも、私も今変身したばかりで、自分でも把握してないのよ。だから、組手をお願い。私には、幼少期より空手に柔道、合気道くらいは黒帯のキャリアがあるから、武術の心得はあるつもりよ』

 

「組手?組手といったか?この俺を、練習試合の相手にしたいと言っているのか?」

 

 ジョイフルはまたもサンダーの思いもがけないことを言い出し、彼を驚かせた。

 

『組手で鳴らしながら、戦いへと移していきましょう。あなたはさっき、2人を相手に軽い準備運動くらいはできているかもしれないけど、私はまだよ?不公平じゃない。戦いは公平であるべきだわ。さっきの不意をついた、大田さんへの一撃は邪道も邪道。恥ずかしくないのかしら?』

 

「何が公平だ。俺は軍人だ、武道家ではない!ふん、世界のトップを目指していると自称する割りには、頭の中にはお花畑が広がっている様子じゃないか。女の子らしくて可愛いかもしれないが、そんな甘っちょろい考えで世を統べられると思っているのか?」

 

『そういう考えの人間が多いからこそ、戦わなければ、卑怯な手でも使わなければ上に立てず、そしてそのようなものが上に立つから〜という図式だというのが、中学生なりの現在の私の見解だけど。まぁ、あなたみたいな、比喩ではなくそもそも脳みそに花でも咲いているのかしら、オツムの悪そうな方と論争しても不毛だわ』

 

 お互い、未だに拳を交えず、煽り合いをしているだけである。

 

「少々、口が過ぎるぞ小娘。いいだろう、組手にも乗ってやる。組手とはいえ、手は抜かん、最中に倒してしまうかもしれないが、恨むなよ!」

 

 そう叫ぶと、サンダーは地を蹴り、ジョイフルの方へと殴りかかりに行く。

 

『やっぱりあなた、話はわかる人みたいね、感謝するわ。あと、その忠告はそっくりお返しするわね。私はまだ、己のプリキュアとしての力量は理解していないけれどー』

 

 こう呟きながら、ジョイフルは戦闘体制に入った。空手家のような構えだ、隙がない。

 腕を大きく振りかぶり、拳を繰り出した彼の利き腕を紙一重で、最小限の動作で回避すると、空振りにより隙の生まれた瞬間を逃さず、流れるように彼の身体を受け流し、これを地面へと叩きつけた。

 

 ドスンッという音を上げ、サンダーはその勢いのままに倒れこむ。

 

『さっきも言ったけど武術の心得はあるの。素人である2人と同じ括りにしないでね』

 

「あのサンダーを投げ飛ばした!?」

 

 いつの間にか、活動限界から変身が解除されていた私は思わず叫んだ。

 

「いや、見た所ジョイフルにはキュアスパークと違ってそこまでの怪力はないレティ……。テクニックか何かを使ったレティね、その、習っていた武道の技みたいなものを……」

 

 レティツの見解では、そういうことらしい。

 

『流石は妖精さんね。そうよ。今のは柔道で言う所の、返し技の技術を用いたのよ。もっとも、この人が隙だらけで助かった要素はあるけれど。練習より簡単に決まったわ』

 倒れこむサンダーを冷たい視線で見下ろしながら、彼女はそう解説してくれた。

 

「お、おのれ!はぁっ!」

 

 サンダーはすぐに起き上がり、またもジョイフルへと飛びかかる。今度は大振りではなく、小刻みにパンチやキックを仕掛けてくるが、これも全て一切の余計な動作をせずに、紙一重でかわし続けて行く。

 「ちぃ、スピードには自信があるようだな……だがこれでは、どうかな?」

 

 サンダーは不敵に笑うと、攻撃の速度をさらに上げた。これには流石のジョイフルも躱すだけ、というわけにはいかないらしく、一部攻撃を両腕をたくみに扱いながら弾いて行く。だんだんと、組手らしい図になってきた。

 

 この攻防はいつの間にか空中での格闘へと発展し始めた。武道の経験者である彼女にとって、地上での攻防は、超高速化しているため経験してきたものとは大きく違うとはいえ、まだ慣れている様子だったが、そこに上下の空間が加わる空中では、やはり不慣れなようでー

 

「隙ができているぞ!キュアジョイフル!」

『……!』

 

 少し隙の生まれた彼女の身体に大振りの攻撃を仕掛けるサンダー。だが、これもギリギリで回避し、今度は一旦距離を置くことで一度間合いをとることにしたようだ。

 

『身体の使い方はだいたい分かってきたわ。便利な身体ね』

 

 今の回避動作で、どうやら空中での身のこなし方もマスターしたようだ。戦闘センスがすば抜けすぎである。

 しかし、常軌を逸した大ジャンプこそできても、飛行や空中浮遊のできないスパーク、パンプと違い、ジョイフルにはどうやらその能力があるようだ。よくみると、腰に小さく透明な、キサトエナジーで生成された羽のようなものが出現している。私たちのキサトエナジーの鎧と似たような原理なのだろうか。

 

「調子にのるなよ!かわしてばかりでどう反撃するつもりだ!?組手なのだろう!?」

『確かにさっきに比べれば隙がない……。最初からこのくらいできなさいよ、私のことを下に見ていたのかしら?まぁ、いいわ』

 

 ため息交じりに呟きながら、彼女は次の瞬間姿を消した。

 

「何!?」

 

『確か、あなたや大田さんも、こんな感じで高速移動していたわよね。どうぞ、お望みの反撃よ』

 

 そしてサンダーの背後に現れた彼女は、彼の背中めがけて、両手のひらをがっちりと固めて作り出した拳の塊を思い切り打ち付けた。勢いよく地面へと突き飛ばされた彼は、あまりの落下速度に受け身姿勢をとることすら許されず、モロにコンクリートの道路へと激突してしまう。

 

 彼ほどの大男がこれだけの勢いで叩きつけられたのだ。地球のコンクリートくらいでは全く受け止めきれず、そこにあったはずの道路は跡形もなく吹き飛び、窪んだ荒地へと急変していた。

 

「い、今のも力任せの体術に見えてそうではないラエ……。もちろん、パワーもすごいラエが、それ以上にやはりあいつは戦い方をわかっている……サンダーの体重をうまいこと利用して、ダメージを増幅させてるラエね」

 

「す、すごい……これもう、私たち2人分よりも強いんじゃ……」

 

 私はただ口をポカーンと開けることしかできなかった。

 

「笑わせるな、確かに、想像以上に強かったが、まだこの俺の足元にすら及ばぬ」

 

 私の呟きをこう否定したのは、ゆっくりと起き上がったサンダーだった。身体に土ほこりこそ多量に付着しているが、全くどうともなさそうで、ピンピンとしている。

 

『あら、結構効いたかと思っていたけど』

「実際、少しやばかった。地面に激突する前に、ウィザパワーを増幅させていなければマズかった。プリキュアめ、面白いじゃないか。今まで戦ってきたどんな敵国のどんな戦士よりも圧倒的に強い。心底驚いているぜ」

 

 語尾を荒げながら、彼は手のひらの上に雷を帯びた黄色のエネルギー弾を作り出し、これをジョイフルへと投げつける。

 

『お褒めにあずかりまして』

 

 これを明るい紫色をしたキサトエナジーを帯び、パープルに光るブレードのように変化させた利き腕を使って後方へと弾き飛ばすと、彼女はそのまま地面へと降り立ち、彼を正面から睨みつける。

 

『もう組手はいいわ。本気で戦いましょう』

「いいだろう……と言いたいところだが、今日はやめだ」

 

 サンダーはそう吐き捨てると、高めていたウィザパワーを急速に鎮めたのだろうか、途端に先程までの、禍々しいまでの威圧感のようなものが消え去った。

 

『……どういうこと?』

 

「この俺としたことが、ダサい言い訳にはなるが……もう少し準備がいるようだ。本気が出せぬ。身体がなまったままだ。とはいえ、それでも人間界ごとき楽勝だとは思っていたのだが、3人もの伝説の戦士との連戦は、しばらくぶりに動かす身体には堪える。はっきり言おう、貴様らを舐めていた」

 

『降参ってこと?それはこっちが興ざめってものよ。……それで、準備期間を私が与えるとでも?確かに、本気は出せていないようね。その体格や秘めてるエネルギーには見合っていない攻撃や動きだったわ。でも、本気を出させたら驚異的なことに変わりはないですもの。ならば今ここで、確実に倒させていただくわ』

 

 ジョイフルはそう言いながら再び身構え、キサトエナジーを高め始めた。いまにも、飛びかからんとしている。

 

「勇ましいな。だが、できるかな?俺の見立てではー」

 

 しかし、ジョイフルからもまた、急激に、先ほどまでのキサトエナジーを感じられなくなった。それどころが、突然変身が解除されてしまう。

 

「あら?」

 

「貴様もエネルギー切れだろう、とちょうど言おうとしていたところだったが、当たっていたようだ」

 

「……なぜかしら。私はまだ、変身してそこまで時間も経過していないはずだけど」

「そのクリアハートを、先ほどまでキュアパンプも使用していたから、だろう。変身者を交代するだけで、クリアハートのエネルギーがフル回復するのなら、危なくなったらローテーション、という手法をとれば半永久機関となりうる。そこまで都合がいいはずはないだろう」

 

「……それがわかっていて、組手に応じたというのならば、あなた、見かけによらず結構な頭脳派じゃない?」

 

「どうだかな。まぁ、でも楽しかったぞ。次はこうはいかぬ。俺も出し惜しみなく戦えるだろう。次会うときが貴様らの命日だ。残りの人生を、せいぜい楽しんでおけ。あぁそうだ、いい戦いを見せてくれた褒美だ。街と人間の記憶は修復しておいてやる」

 

 それだけ言い残すと、彼はダークブレードを背に背負い、その場から姿を消した。

 彼の最後のセリフ通り、みるみるうちに街から戦いの傷跡が消え、元の姿へと戻っていく。

 

「た、助かったレティか……?」

 

「どうでしょうね。あの男、正直、今の私や、光山さん、大田さんと2人がかりでも精々刺し違えるので精一杯よ。私の失態だわ。彼が私たちを舐めていて、本気を出していなかったここで、仕留めておくべきだったわね」

 

 カスミはため息交じりにそういうと、クリアハートをレティツへと差し出した。

 

「これ、あなたと大田さんのでしょ。返すわ」

「か、返すって……また力を貸してくれるレティよね!?」

 

 レティツは不安げにそう訊ねる。月野クレハのように、一度きりで放棄されても困るのだ。特に、この妖精のバディはコロコロ変わりすぎである。

 

「えぇ。私は常に頂点にあるべき存在なの。あの男に負けっぱなしは許されないし、あの男よりも強いのだっているって話でしょう?全員にこの私が1番だと、そう思い知らせるまでは、力を貸すわ。それに、戦いにも協力しましょう。プリキュアは現時点で、月野さんを含めて4タイプ。戦場にいけるのは2人まででも、様々な組み合わせや戦術が取れるわ。作戦の立案なら、私に任せることね」

 

「やけに協力的ラエね。それに、あの金持ちはもう変身はしないラエよ」

 

 ラエティは嫌味を含んだような声色でそう言った。まだ彼女のことを信頼していない様子である。

 

「協力的なのは当たり前でしょう。生徒会選挙の邪魔をされるのも困るし、次期生徒会長筆頭候補として、そもそも敵が出現するたびに本校の生徒が授業中にも関わらず戦闘に出なければならない、という状況は見過ごせなくてよ。早いうちに処理をして、平和かつ円滑な学校運営をしなくてはならないの。十分な動機でしょう?月野さんだって、私がプリキュアであることを明かせば、すぐにまた気が変わるわ。……もういいかしら?この後も忙しいし、私はこの辺で」

 

 そういうと、彼女はこちらに背を向け、自宅の方へとゆっくり歩き始めた。

 

「……行っちゃった……」

「まぁ、食えないやつラエが、たった1人で、それもエネルギー残量の少ないクリアハートでサンダーと互角に渡り合った戦士の加入は、素直に喜ばしいラエね。でも、奴だってまだ本気を出していなかった。このままじゃ、絶対に勝てないラエ」

 

 ラエティの表情は、いつになく険しいものであった。恐ろしい敵だ、あれでも十二分に驚異的な存在だったのだ、あれでまだフルパワーでないというのだから、正直自信を無くしかけてはいる。自信を保たなければキサトエナジーが減少し、出せる力も出せなくなるのだが、あれを見せられてまだ戦意もやる気もある、というほど、私もそこまでお気楽ではないのだ。

 

「このままじゃ勝てない、のはわかったけど、でもどうするの……?」

「……強くなるしかないラエ。もちろん、君たちが心も体も鍛えることで、プリキュアとして成長していくことも必要ラエが、やはり、1番の近道はー」

 

「近道は?」

 

「大いなる力を、光の古代兵器を手に入れるラエ」

 

「光の古代兵器……でも、どう探せばいいんだろう……」

 

 ひとまず、周囲の人々も徐々に目を覚まし始めているのだ。ここから離れなくては。私は、まだ気を失っているマナミを背負うと、妖精たちとともに自宅を目指した。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 漆黒の超高層ビルが立ち並んではいるものの、それ以外は特に何もないという殺風景な都市。

 ここが帝国、カバークラウダーの首都『ネブリーナ』だ。

 いつもは上空を分厚い雲で覆われ、激しい突風や雷雨に見舞われる、年中嵐の吹きつけるような街なのだが、今日は天気は曇っているだけでおとなしく、代わりに濃ゆい霧がかかっている。

 

 それ以外は特に何もない、とは表現したが、このネブリーナには帝国の頭首、クラウドの住まう、西洋風の巨大な城が構えてある。これは街の最奥部に建設されており、どの建物よりも高さがあるため、街の入り口に立っても、城はその立ち並ぶビルらの奥に、このように霧がかかっている日でも、うっすらとは確認できる。

 

 日本の東京の中心部と比較しても遜色ないほどの発展具合であり、カバークラウダーの国力の高さを伺える都市となっている。軍事大国らしく、ビルのほとんどは軍の関連施設である。

 

「まったく!奴は何をしているのだ!!」

 

 今日は雷鳴の代わりに、軍幹部のストームの怒声が響き渡った、そんな城の内部である。

 

「まぁまぁ、しかし面白いではありませんか。あのサンダー、強面ですが、女の子には優しい、という意外な一面があった、そういうことですかね」

 

 言っていることだけなら呑気なものだが、そう発したクラウドの声色からは、かなりの苛立ちを感じ取れる。

 それもそのはず。奪えたはずのクリアハートをあろうことか自ら返還し、挙句新たな、それも強力な戦士を生み出し、戦うことを途中で放棄し、街をもとに戻して行方をくらます。

 終始、この城からこの戦いの様子を見ていた2人が苛立つのも当然のことではある。

 

「あのキュアジョイフルというプリキュア、かなりのやり手に見えるぞ。レインやスノウでは歯が立たないのではないか!?」

 

「落ち着いてください、ストーム。それは2人を過小評価しすぎです。やりようはありますし……色々と面白い存在になるでしょう。まぁ、それになんだかんだでエンシャントウエポンの威力は見せてくれました。見たでしょう?キュアパンプを、一撃で変身解除に持ち込みました。すごい代物ですね」

 

「だが、この失態は、いや、失態なんて話じゃない。命令違反、頭首クラウドへの反逆行為だ。早急にこの城に呼び戻し、死刑を言い渡し、即日執行すべきである!」

 

「だから落ち着いてくださいと。どうしてあなたはそう、血の気が盛んなのです?」

 

 クラウドはため息をつきながらそう言った。彼の方は、苛立ちながらもまだ冷静の様子だ。

 

「あれだけの力の持ち主。フルパワーで戦えば、単純な火力だけならレインよりも上。ここで殺すのは、戦力ダウンも甚だしい」

 

「だが、命令を聞かぬのならば意味がなかろう!それだけの力をこちらに向けてくる可能性だって、これでわからなくなったのだぞ!」

 

「一理ありますが、まだ彼は使います。万一の時は、最悪私がこの手にかけます。もともとその予定だったものを、今回は特例として再び前線に立たせているのです、いくら頭が弱くとも、そのくらいはわかっているはず。私への敬意は最低限あるでしょう。ダークブレードの試運転もしてますし、厳密には命令違反とはできません」

 

「……甘くないか?」

 

 命令を出したのは他でもない、このクラウドだ。ストームは、自身の憤り具合と、頭首の落ち着きようのギャップに少々戸惑っている様子でもある。

 

「私はこれでも怒ってます。が、この責任は自分で仕事を遂げることで果たしてもらいますよ。この場合、処刑するのが最適解でないという話です。仮にこれ以上、あなたの目に余ることをしでかせば、お好きに、あなたの手で処するとしても止めはしませんよ」

「……俺はクラウドの意思に従うまでだ。そういうことならば、もう少しだけ様子を見るとするか」

 

「流石はストーム、物分りが良くて助かります。それに、サンダーの脅威を思い知らされたプリキュア側が、これでようやく光のエンシャントウエポン探しに乗り出してくれることにもなるでしょう。それも大事なことです。結果的に、長い目でみれば悪いことばかりではないのですよ」

 

「全てはクラウド、お前の手の平の上ということかな?」

 

「どうでしょうね。……ストーム、少しだけ仕事振ってもいいですか?今はあなたにしかお願いできない」

 

 クラウドは一度間をとると、そのように切り出した。その手の中には、小さな植物の種のようなものが握られている。

 

「断る道理はない。それは、カオスシードか?レインかスノウに植え付けるのか?レインには以前渡していたな……ならばスノウか。あの2人にも、もう少し仕事をしてもらう必要はあるからな」

 

「いえ、その推測は当たっていません。これから私の指す、人間に使用してください」

 

「……人間か。それは予想外だが、わかった。従おう。どいつだ?」

 

 クラウドはストームの耳に顔を近づけると、指示を耳打ちで伝えたようだ。

 

「……どういうことだ?何を企んでいる?」

 

「後からのお楽しみですよ。ですが、まだです。もう少し様子を見て、私の指示するタイミングでお願いします。これは、大きな武器になりますよ。先を想像するだけで笑みがこぼれます」

 

 クラウドはいつになく、笑みを浮かべている。彼にとって都合のいい何かのための、布石となり得るということだろう。

 

「承知。ではそのようにしよう。だが、その人間には俺も興味がある。しばらく、俺もそいつの様子を見させてもらおう」

 

「構いません。いずれは、あなた直属の支配下に置くことまで構想しています。お好きにどうぞ」

 

 何やら、彼らによる、新たな怪しげな企みが始動しようとしているらしい。次から次へと、実に様々なことを仕掛けてくる、本当に厄介な連中である。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 翌日のことだった。生徒会選挙を一ヶ月後に控えた、私たちの通う学校、輝ヶ丘大学附属中学校では、朝から次期生徒会長候補等による選挙活動が始まっていた。流石に、まだ演説をするような時期ではないので、そのような活動をしている立候補者はいなかったが、昨日まではなかったはずの、いつの間にこれほどの数を準備したのだろうか。やたら目を惹くポスターを校内中に貼り付けていたのが、他でもない月野クレハとその一味である。

 

「月野クレハ様をよろしくお願いしま〜す!」

 

 月野『様』と呼びながら、ビラのようなものを配っているのは、彼女の取り巻きたちだ。彼女の財力や権力に惹かれて支配下に回った、おおよそ、数ヶ月前まで小学生だったとは思えないほどの、なんともまた、可愛げのない人たちだが、こういうときにものを言うのは数の力。この期間に限れば、強力な存在となり得るだろう。

 

「やっぱり、月野さんと安楽さんは立候補するんだね〜」

 

 安楽加清にはまだ目立った活動はないが、立候補していることは、昨日の口ぶりからも間違いだろう。それに、この2人であれば本当に異例の1年生会長になってもおかしくないだけの能力や人望がある。もっとも、片方にはあまり就任して欲しくはないのだがー

 

「ヒカルちゃん的には、やっぱり安楽さんがいいの?」

 

 それを見透かされたのだろうか、急にマナミが話しかけてきた。

 

「いや、どうだろう。安楽さんがどんな学校にしたいかまでは、まだわからないし……」

「間違いなく、月野さんよりはいいと思いけどね……」

「決めつけは良くないよ。まぁ、私もそんな気はしてるけど……。それに、立候補者は2人だけじゃなくて、谷繁さんっていう先輩もいるんだから」

「なんならひかるちゃん立候補してみるとか?部活じゃなくて、生徒会って手もありよね?」

 

 マナミがニヤニヤと笑い、私の顔を覗き込むようにしながらそう言った。

 

「なっ!?す、するわけないでしょ!?」

「冗談冗談。そんなムキにならないでよ。でも、面白そうだとは思わない?」

「それは、面白そうというか……。ただ、自分から進んで学校をよくしていこうと思えることがすごいというか。私、思ったことないし。歳もそんなに変わらないのに、すごいなぁ、とは」

「ヒカルちゃんらしからぬ真面目な回答ね……」

「私をなんだと思ってるの!?」

「天然のアホ」

「……」

 

 真顔でそう返されると、なんとも言えない気持ちになるものである。

 

「あっ!アホって言ったのに怒らなかったね!」

「マナミちゃんから言われるのはもう慣れちゃったというか、いちいち怒ってると疲れるというか……」

「でもそれだとヒカルちゃんらしくないわね。もっと、顔を真っ赤にしてアホじゃないし〜って言うところが可愛いのに。ていうか、今日ちょっと暗くない?具合悪いの?」

 

「い、いや、暗いというか、心配なことがあるというか。あのサンダーって人に、勝てるのかなっていうか……。古代兵器と言われても、どこにあるのか、どんなものなのかもわからないし……」

 

 私は正直に今の気持ちを述べた。気が沈んてるというよりは、単にこれから先への不安が大きいのである。もしも、またあの男のように勝てそうにない相手がまた続々と攻め込んできたらどうなるのだろうか。私は自分の家族や友達、この街引いてはこの世界を守れるのであろうか。そのような不安が大きい。

 

「まあ確かに。私も気がついたらヒカルちゃんのうちで目を覚ましてたけど、記憶が正しければ一撃でノックアウトされた身。キサトサイクルに入ってどうにか一泡吹かせたヒカルちゃん、渡り合ったと噂の安楽さんと違って、私は何もできていなかったし……」

 

「な、何もできなかったなんてそんな!マナミちゃんの技がなければ、私のパンチも当たらなかったわけだし!私たちは2人で1人なんだよ!?」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私が何もできなかったのは事実よ。でも心配はご無用。私はしょぼくれてるわけじゃないわ。次こそ、私もあいつに一矢報いる!なんなら、私の手で倒すわ。プリキュアの中で、ぶっちゃけ今1番あいつに舐められてるのはこの私よ。雪辱は自分の手で果たしてみせるわ!」

 

「いい心意気レティ!プリキュアとして、とても大事なことレティね!」

 

 マナミのポケットから、レティツがひょこっと顔を出した。

 

「ヒカル!君もラエよ!君の1番の取り柄は前向きな心ラエ!サンダーに、キサトエナジーの永久機関とまで言わせた君が、そんな不安を抱えていてはダメラエ!古代兵器なら任せるラエ!僕たちはある程度の知識を持ってる!君たちが学校に行ってる間、僕たちで探すこともできるラエ!」

 

 今度は私のポケットの中からラエティが顔を出し、そう言った。

 

「それは危険よ」

 

 その会話に後ろから割り込んできたのはカスミだった。

 

「その古代兵器ってのは、敵も探しているんでしょう?なら、万一妖精さんだけの時に敵に遭遇する可能性を残すのは危険。なおかつ、私が敵の参謀ならば、光の古代兵器の回収はある程度プリキュアに任せるわ。どのみち起動できるのはプリキュアでしょ?それに、クリアハートのように、プリキュアに導かれるように出現する可能性だってある」

 

 カスミはカバンからノートを取り出し、簡単な図解を鉛筆で作成しながら話を続けて行く。

 

「ならば、いつ出現しプリキュアに導かれてもいいよう、出現のタイミングでの強奪の機会を虎視眈々と伺うために、街を襲う戦闘員とは別に人員を用いて、プリキュアの行動を監視下に置こうとするはず。私ならそうするわ。でも、プリキュアは現在時点で、月野さんを含めなくとも3人。3人のうち2人しか同時には変身できない。そのうちの2人誰かにヤマを張って人間界を監視できるほどの人材余裕はないはず。なら、手取り早いのは妖精の監視。妖精なら、あなたたち二匹しかいないのは確定事項だし、大した反撃も受けない。格好の的よ。万一プリキュアの手に、強奪できないまま古代兵器が渡ったとしても、妖精を人質に交換条件として手に入れるという算段もあるし、この方がむしろ簡単。長くなったけど、要するにあなたたちは迂闊に動かない方がいい。動くときは、クリアハートの持ち主と動き、守ってもらうことね。もっとも、それはつまり一緒に行動している人間が現在プリキュアに変身できる者、ということにもなるから注意は必要だけども」

 

 かなり説得力のある仮説のようなものだった。確かに言われてみればその通りで、これでは妖精だけでの古代兵器捜索は無謀だと、頭の弱い私でもすぐに理解できた。

 

「その合理的な考え方、クラウドのこれまでの異世界での侵略や外交政策のやり方にそっくりラエ。やっぱり、人の上に立つもの、またはそのように英才教育を受けてきた人間は考え方も似るものラエかね。だからこそ説得力はある。確かに、クラウドならやりかねんラエ」

 

「しかしわからないことはあるわ。敵の今の動きの動機よ。古代兵器が欲しいのならば、まだプリキュアを倒せはしないはず。なのに、サンダーのような、今の私たちでは絶対に勝てない敵をいきなり導入してきている……。クリアハートを奪ったところで、プリキュアを倒したところで、その先の野望が叶わないんじゃないの?」

 

 カスミにもわからないことがあるようで、人間なので当たり前なことではあるのだが、私はこの人にもわからないこともあるのだなあ、と少しそのような気持ちも抱いた。

 

「サンダーに関しては、おそらくスノウでは試せなかったダークブレードの力を見たかっただけレティね。久々の実戦で体が鈍ることは想定済み、あのように、なあなあで戦いが終わる、そこまでは読めていたと思うレティ。まあ、それでも流石に、せっかく奪ったクリアハートを返上して余計な脅威をうむ、までは想定外だったと思うレティが……」

 

 レティツが、今回のサンダーの来襲についてそのような見解を述べてくれた。

 

「目的、レティが、そもそもクラウドは、クリア王国に秘密裏に保管されていたクリアハートを奪おうと侵攻してきたレティ。結果的にプリキュアが人間界に出現してしまったことで、今は光の古代兵器はプリキュアに任せる、そういった方針も取れるようにはなったレティが、恐らくはー」

 

「自分たちの手で、自らの支配下における、カバークラウダーの戦力としてのプリキュアを発現させよう、そのように企んでいた可能性があると踏んでるラエ」

 

 妖精たちの見解は、耳を疑うようなものだった。

 

「プリキュアを、あの人たちが?」

 

 私は思わず、少し大きな声で言ってしまった。教室中の視線が一度こちらに向けられたが、慌ててなんでもない、とごまかし、再びヒソヒソ話を続けて行く。

 

「それなら説明がつくラエ。光と闇の伝説を知っているクラウドは、敵対関係にあるプリキュアをも自らの戦力として懐柔することを企んでいたに違いない。クラウドらしい、非常に合理的な考え方ラエ」

 

「なるほど、クラウドって人が自ら選んだ人間にクリアハートを与え、そして光の古代兵器を回収させ、用が済んだらそこでおさらば。脅威となりうる敵はいなくなるし、計画も支障なく進むはずだった、そういうわけね」

 

 カスミは納得している様子だ。

 

「あくまで私たちの推測レティがね。おおよそ、間違いではないと思うレティ」

 

「僕らがあの時クリアハートを持ち人間界に逃走していなかったら、おそらくクリアハートはクリア王国もろとも奴に奪われ、秘密を知る我が王から色々聞き出して、そのあと自ら、古代兵器回収要員としてプリキュアを蘇らせる、そんな手はずだったに違いないラエ」

 

 ラエティは、ほぼ確信めいたものを抱いているようだ。違いないとまで言い切っている。

 

「でもプリキュアはキサトエナジーの戦士でしょ?ウィザパワーとついをなすキサトエナジーの戦士。いくら彼が選考し、洗脳のようなものを施したとしても、限界はあるでしょう?そのクラウド支配下のプリキュアが反旗を翻さない保証はどこにもないんじゃない?」

 

 マナミは、それでもまだ納得しかねている様子だ。

 

「最もラエ。けどクラウドはカオスロッドを持っている。抜け道はあったかもしれないラエ」

 

「カオスロッドって?」

 

 今度は私が訊ねる。

 

「混沌の杖。キサトエナジーとウィザパワー、両エネルギーを同時に引き出し扱える伝説の秘宝とされているラエが、詳しいことは聞かされてないラエ。その杖の先端についている水晶から、100年に一度、一粒の種が生まれるとされていて、その種を植えられた者は、混沌の存在となり、両エネルギーを使いこなし、また『両者の反比例である関係性の影響を受けない存在』となる。その力だけならば、神の領域に近づけるだとか。そう国では教えられているラエ」

 

「……例えば、サンダーとの戦いで、光山さんは最後、怒りによるウィザパワーが発現し、キサトエナジーの効力が弱まり弱体化してしまった。でも、混沌の存在、というものになれば、ウィザパワー増幅によるキサトエナジーの減少という、反比例な関係を受けないから弱体化せず、むしろ自身のエネルギーとして引き出せるから、あの場面で更なるパワーアップができた、とか?」

 

 カスミが訊ねる。

 

「さすがに飲み込み早いラエね。そんな感じらしいラエ。その混沌の種というのも、伝説上の存在にすぎないラエが、カオスロッドが存在しているのならば、あっても不思議じゃないラエ。それに、仮に存在し、伝説通りに100年に一度種が生まれていて、その種をクラウドが全てを持っているとしたらー」

 

「選考したプリキュア候補生に植え付けることで、その人たちを混沌の存在とし、ウィザパワーでも戦えるプリキュアにできる。どちらの力も引き出せるとはいえ、クラウドのことだから最初から負の感情の強い人間に目をつける。混沌の存在、神の領域に近づくとは言っていたけど、実際は『影響を受けない』の点に着目し、ウィザパワーのみでも動ける戦士が欲しかっただけでしょうね。そしてキサトエナジーも最低限扱えれば、古代兵器も探し出せる。反旗をひるがえす恐れもない、まさに都合の良すぎる存在」

 

「ただ、計画通りに事が運んだかは微妙ラエ。君たちの変身の瞬間は見てきたラエが、やはり強い正の感情がなければ変身はできない可能性が高い。いかに混沌の存在となり、両エネルギーを同一のエネルギーとして扱える神の領域になったとしても、クリアハートがキサトエナジーにしか反応しないのなら、計画は空振りに終わるラエからね」

 

「な、なるほどね〜」

 

 私は、この何を言っているのかさっぱりわかりにくい会話に対し、正直内容のほとんどを理解できてはいなかったのだが、とりあえずわかってる風な相槌を打っておくことにした。

 

「つまり、混沌の存在っていうのは、本来反比例の関係にあるキサトエナジーとウィザパワーを足し算して力を増幅させることができるから、その圧倒的な力が神様レベルになってしまうってことね。で、そいつらはウィザパワーが使えるから、あいつらの支配下プリキュアを誕生させるのも理屈上では可能で、それをクラウドは狙っていた。けど今は結果的にプリキュアは私たち。そして私たちは当然従う気はないし、むしろ打倒クラウドを狙っている。それじゃ困るから、私たちからクリアハートを奪い、また自らの支配下におけるプリキュアを誕生させてみようと企んでたのね」

 

 マナミも納得した様子だ。これで、カスミとマナミは、敵が今何を目論んで行動しているのか、というカスミの投げかけた疑問に対する答えを得たようだ。

 

「……反比例って何?」

 

 私はこっそりと、マナミに耳打ちしながら訊ねる。

 

「塾で習ったんだけど、片方が二倍になるともう片方は半分になるっていう関係のことでー」

 

「反比例の話は今度でいいわ。授業で習ってちょうだい。……まぁ、そういうことならば、すでにクラウドは自らにタネを植え付けて、混沌の存在になっている可能性、高いんじゃないの?」 

 

 カスミはそう推測する。

 

「かもしれないラエ。あれだけの力があり、伝説の戦士たるプリキュアまでをも支配下におけるだけの自信があるのならば、もう奴は神の領域の力を手に入れているとしか……」

 

「仮にもう神に近い存在になっているのならば、これ以上何を求める、というのかしらね?そもそも、古代兵器を全て揃えたらどうなるの?」

 

「わからんラエ……。そればかりは謎だらけラエ。大いなる力が手に入る、としか伝説には明記されていないラエね。もしかしたら、神の領域に近づくに終わらず、奴自身が神となり、異世界もこの人間界も、ひいては全宇宙を支配しようだとか、そんなとこかもしれないラエ」

 

「……私たち、そんなにすごい人を相手にしようとしてるの……?」

 

 神だの伝説だの宇宙を支配だのと、先ほどから話のスケールが大きすぎて、私の脳では処理が追いつかない。

 

「聞き捨てならないわね。神なんて非現実的な存在だし、人の上に立つのは同じく人よ。なんにせよ、クラウドって人にこの世界の長の座は渡さないわ。頂点に立つのは、私1人で十分よ」

 

 こんな話を聞かされてもなお、相変わらずあくまでその姿勢には変化のないカスミもまた、スケールの大きな人間である。先ほどからもこのにわかには理解しがたい会話に普通についていけてるし、本当に中学1年生なのかと疑ってしまう。1人だけ、世界を救う、みんなを守る、クリア王国を救う、だのという私たちの戦闘動機からはズレていて、あくまで自分が上に立つため、という頑なな自己中心的な意思は尊敬の域に達している。これだけ強い芯があるから、プリキュアとしても、強いのかもしれない。

 

「まぁ、話はややこしくなってしまったラエが、そう簡単にクラウドの思い通りにさせるわけにはいかないラエ。ここは奴の望み通り、古代兵器を集めてやるラエ!そしてその力を持ってして、必ずクラウドを倒し、野望を阻止してやるラエよ!」

 

「そだね!なんかよくわからないのが本音だけど、とにかく、私はみんなを守るために戦うし!負けたくもないし!」

 

 そうだ、とりあえずのところ、戦って勝ち続けるしかないのである。

 

「ヒカルちゃんだけだと危なっかしいし、私もヒカルちゃんを守るために戦わないとね!」

 

 マナミも気合十分の様子だ。

 

「まぁ、世界の頂点に立つ前に、まずは生徒会長、この学校の頂点に立たなければ。選挙の邪魔させるわけにはいかないし、サンダーは私が倒すわ。譲らないわよ」

 

 カスミも、珍しくニヤリと笑った。

 

「混沌だかウィザパワーだか知らないけど、みーんながキサトエナジーを持った世界なら、あいつらも大きな顔できないし、楽しくて平和な世界になると思うんだ!みんながキサトエナジーを生み出せる、正の感情に満ちた、ワクワクに溢れる世界にしよう!」

 

「それでワクワクプリキュアってわけね。やっと理解したわ。なんでそんなネーミングなのだろうかと……」

 

 マナミはようやく納得したのか、両手をぽんっと叩いて感心したようにそう言った。

 

「い、いや、これは今思いついたやつで、名乗りをした時には無意識のうちに言っていたというか……」

 

「まぁなんでもいいレティ。そんな感じでチーム名もあったほうがそれっぽくなるレティよ!」

 

「なら、決定だね!ワクワクプリキュア、これからも頑張るぞ!」

 

「まぁ、私はあくまでも生徒会メインに動くから、そこのところは大目に見てよね」

 

 私たちは周囲の生徒たちに気づかれない程度に3人で手を合わせると、小さく笑い合い、これからの共闘を誓い合うのだった。

 

 

次回、新章突入

 


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