Vinculum semper vivat   作:天澄

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十頁目.勇者たちの戦い:試運転Ⅱ

 大きく、千景は一度息を吐く。それから鎌を握る手が震えているのを自覚し、傍から見れば球子と死角を補うように。実際は自身の震える手を隠すために球子へ背を向けた。

 

 大きく、球子は一度息を吐く。緊張はない。自分は杏を守るのだ――その意思がある限り、球子が戦いに恐怖を覚えることはない。とはいえ、少しばかり今回は骨が折れそうだとは思う。

 

 球子と千景の周囲には、多くのバーテックスの姿がある。そのせいで仲間の若葉と友奈の姿を確認することはできない。また間を縫って合流を目指すのは難しいことも、千景はゲームでの経験から。球子は直感的に理解していた。

 必要なのはどうにか敵の数を減らし、合流への道を作ること。また可能な限り被弾しないことも、条件の一つとなる。

 防御力を高めたため、一撃程度であれば耐えられるだろうと長久は言っていた。しかし敵のこの数、一撃でもくらえばそれにより動きが一瞬鈍り、敵にたかられてしまうのは球子も千景も目に見えていた。

 

 だから基本は専守防衛――しかしその戦術が頭に浮かびつつも、球子は性に合わないと大きく一歩を踏み出した。

 

「くらえぇ!!」

 

 球子の武器は、神屋楯比売(かむやたてのひめみこと)。旋刃盤としての形をとったそれは投げれば敵を切り刻み、腕と旋刃盤はワイヤーで繋がっているため引っ張れば球子の元へと戻ってきてくれる。

 故に球子は踏み出した勢いも利用して、全力で旋刃盤を敵の群れへと投げ込み、そして大きく腕を横に振るうことで旋刃盤で敵を一気に薙ぎ払った。

 

「ふん、大群ならタマは得意なんだ。タマに任せタマえ、ってな!」

 

 一度戻した旋刃盤を再度投擲、腕とワイヤーで繋がっていることを利用し、腕の動きから旋刃盤を縦横無尽に駆けさせる。

 しかしそれでもバーテックスはその数を減らさない。いいや、減らしてこそいるのだが、周囲にいた数が多過ぎるのか、常に補充されて行ってしまう。

 もし抵抗しなければ、これ以上の数が一気に自分たちの元へ押し寄せてきていたのかと思うと、球子は背筋が凍る思いだった。

 

 これでは自分一人では他二人と合流するのも難しい。そう判断した球子は、いけ好かない相手ではあるがこの際気にしてはいられないと、千景の方へと視線を向ける。

 

「――何やってんだよ、あんた!!」

 

 そして思わず。普段はつけている敬語もかなぐり捨てて、球子は叫んでいた。

 千景は寄ってきたバーテックスの隙だらけな噛み付きを、カウンターで斬り裂くこともなく飛び退って避けるだけ。それどころか、避ける動作すらどこか覚束ないように球子には見えた。

 戦う気がないようにも見え、一瞬球子は千景が裏切ったのではないかと思うも、ならばそもそも勇者として選ばれないはずだと頭を横に振る。

 その間にも球子自身にもバーテックスは襲い掛かってきており、千景を気にしている場合ではないと、球子は再びバーテックスへと旋刃盤を投げた。

 

 そんな球子の叫びを聞いて。それでもなお、千景はバーテックスと戦うことができなかった。

 戦わないのではない。戦えないのだ。恐怖で身体が思うように動かないという状態を、千景は初めて味わっていた。

 

 長久を助けた時は、目の前で襲われている人がいて、考える間もなく動いたために。不思議な力を手に入れ若干舞い上がっていたり、敵がそもそも少なかったというのもあって攻撃することができた。

 しかしこうして、敵が大量にいて。しかもそれらが自分へと殺意を向けてくる状況に、千景は完全に委縮してしまっていた。むしろここまで幾度かの攻撃を避けれていたというのが奇跡だった。

 

「あっ……」

 

 事実、委縮した身体は千景の意思が完全に反映されることはなく。敵の攻撃から飛び退いた先で、自らの片足にもう片足が引っかかり後ろへと倒れ込んでしまった。

 そして同時。光を放ち、千景の身体を包んでいた勇者装束が消えて普段の制服姿へと戻されてしまう。

 それは突然の事態ではあったが、しかし。千景自身は不思議に思うことも驚くこともなかった。

 防御能力を失い、敵に簡単に殺される可能性もある現状。そんな状態だからこそ、千景は奇妙な冷静さを抱いていた。

 

 勇者とはすなわち、勇ましき者。勇気を持たぬものに神樹は力を貸してくれないのだろう。

 つまり自分は見限られたのだ、そう倒れ込んだまま千景は自嘲した。

 

 そんな逃げる素振りも見せない千景をバーテックスが放っておくわけもなく。一度光に包まれたところで怯んでこそいたものの、それが収まってしまえば知性の低いバーテックスでは躊躇う理由もない。

 周囲を取り囲むように存在していた一体のバーテックスが大口を開けて飛びかかっていったのを皮切りに、一気にバーテックスたちが千景へと襲い掛かっていく。

 それを見て千景は、諦めたように目を閉じ、ふと大勢でなくてもいいからせめて誰かに自らの存在を肯定して欲しかったと、そんな願いを自覚して――

 

「――どぉおおりゃぁぁ!!」

 

 噛み砕かれる痛みの代わりに、鼓膜が破れそうな大音量による痛みを味わった。

 

「何諦めてるんだ!! いつものスカした態度はどうしたんだよ!!」

 

「……ッ……」

 

 球子が叱咤と共に、千景へと襲い掛かってきたバーテックスを蹴り飛ばす。そこから更に旋刃盤を飛ばし、周囲のバーテックスを蹴散らしていく。

 そんな千景を守るように戦う球子を見ながらも、それでも千景は戦う勇気を持てなかった。

 

 普段、千景は球子たちを無視することが多い。それは単純に普段のノリが合わないというのもあるし、そもそも千景が他人とコミュニケーションをとるのが苦手というのもあった。

 同時に、バーテックス襲撃の日に球子に守られたという杏などに対しては、自分は長久を守った側であったという自信から見下しているところもあった。

 それが実際はこうして戦うこともできずに、変身すら維持できなくなってしまった。そして挙句の果てには逆に守られる始末。

 情けなさから。そして何よりも自分がかつて村の人間に言われてきた言葉が間違っていなかったかのようで、もはや自分に生きる価値もないように思えてきてしまっていた。

 故に千景には立ち上がる気力がない。守ってくれている球子にすら、普段球子のことを邪険に扱っていた自分など放っておけばいいのにという思いすら抱いていた。

 

「しっかりしてくれよ、先輩だろあんた!!」

 

 けれど球子にとってはそうではなく。例えそりが合わない千景であっても、球子にとっては勇者という仲間であり、杏ほどではないにしても守るべき存在であった。

 盾にもなる旋刃盤が武器となったことに表れているように、誰かを守ることに命を懸けられる。それが土居球子の在り方だった。

 そのため、本来無辜の人々を守るべき存在である勇者の千景が、生きることを諦めているのが球子には気に食わない。

 今までの態度は、自分のように騒がしいタイプの人間が苦手な人もいるだろうと、気に食わないが許容してはいた。

 しかしこれだけは、生きることを諦めるのだけは球子は許せなかった。

 

「なんで勇者のあんたが諦めてるんだ!!」

 

 球子は許せない。長久を始めとして、勇者ではない人も、勇者を守るために全力を尽くしているのを知っていた。

 そこに球子の理解できない技術が使われていても、理解できないからこそ、自分にはできないからこそ球子は尊敬の念を抱いていた。

 だからそれを無為にするかのように、生きることを諦めている千景が許せなかった。

 

 そして何よりも。

 

「あんたは長久のヒーローなんだろ!? そんなあんたが何で今、戦うことを諦めてるんだ!!」

 

 球子は知っていた。以前、球子がつい千景のいない場で千景に文句を言った時に、千景を庇うようにしてその出会いを語った長久を。

 何でもないことのように語っていた長久だったが、それでも球子には分かったのだ。長久にとっての千景と、杏にとっての球子が同じだということが。

 長久と千景の関係性に、球子は杏と自らの関係性を重ねていた。だから守る側である千景が諦めていることが尚更許せない。

 

「守るべき奴がいるのに諦めてるんじゃねぇ!!」

 

「――――――」

 

 年上相手に口が悪くなっているのを自覚しながらも全力で思うことを吐き出して。球子は体当たりしてきたバーテックスを、千景を守るために旋刃盤で防ぐ。

 そして次の瞬間、自身の周囲が暗くなったことから直上にバーテックスが来ており、追い込まれていることを自覚した。

 

「だぁッ! クソ――」

 

 慌てて正面のバーテックスを力技で弾き飛ばして、何とか直上のバーテックスへの対応が間に合うかと行動を起こそうとし――

 

 一気に周囲数体のバーテックスが、両断された。

 

「……ごちゃごちゃと、うるさいのよ」

 

 千景が大鎌を振り終えた体勢から、軽く手元で回してから肩へと担ぐ。そこにはもう、先ほどまでの情けない姿はない。球子のよく知っている、ムカつく先輩の姿がそこにはあった。

 

「……遅いっすよ、先輩」

 

「ちょっと調子が悪かっただけ。もう問題ないわ」

 

 そう言って、軽く敵を斬り裂いた千景が、今度こそ正しく球子と背中合わせに立つ。それに今なら背中を預けられると、球子も信頼して後ろは振り返らないことを決めた。

 

「あと、もう敬語はいらないわ」

 

「それはタマとしてはありがたいけど……どうしたんだ?」

 

「あそこまで色々言われた相手に、今更敬語を使われても気持ち悪いのよ」

 

 ハッ、と球子は笑った。ふっ、と千景は笑みを零した。互いに相手のことは気に食わないが、嫌いではないかもしれないと、少しだけ思った。

 

「……何とかして合流する道を作る、なんてまどろこっしいことは言わないわ」

 

 先ほどまでの様子が嘘のように不敵な笑みを浮かべた千景が言う。

 

「私たちで、全部蹴散らすわよ」

 

「オッケー、タマ好みだ!!」

 

 それに力強く球子が頷き、二人同時、弾かれるようにして飛び出す。

 そのまま千景は大鎌を一閃、球子は旋刃盤の刃をバーテックスへと叩きつける。互いに一体仕留めたのを合図に、戦闘が再開。

 千景はもはや恐怖などないと言わんばかりに勇猛果敢に敵へと踏み込み、大鎌を扱っているとは思えない速さで敵を斬り裂いていく。

 縦振り、そこから身を捻って横一閃。手元で大鎌を回転させ、近くにいたバーテックスに斬撃を浴びせながら後ろへと宙返りと同時に斬り上げ。

 

「郡センパイ!」

 

「敬称も、いらないわよ!」

 

 球子によって蹴り飛ばされてきたバーテックスを、身を捻って躱すと共にすれ違いざまに斬り捨てる。

 そしてお返しと言わんばかりに大鎌を振り回して、刃に限らず柄に引っかかったバーテックスをまとめて球子の方へと放り投げた。

 

「全部、まとめてぇ!!」

 

 そうしてまとめられた敵を、球子が旋刃盤を振り回して一気に蹴散らす。それによってそれなりに数は減ったが、それでもまだ若葉や友奈に合流するには敵が多い。

 しかし流れが千景たちの方へと傾いてきているのも事実。故に千景は球子の方へと駆け寄りながら、声を上げる。

 

「いくわよ、土居さん!」

 

「タマに任せタマえ、ってね!!」

 

 跳躍。叩きつけるようにして宙のバーテックスを両断しながら、千景が大鎌を地面へと振り下ろす。そして着地した千景の頭上を通すようにして、周囲のバーテックスを薙ぎ払うように球子の旋刃盤が振るわれる。

 そこから再び千景が飛びあがり、空中に浮かぶバーテックスを斬り裂き、地面近くにいるバーテックスを球子が旋刃盤で倒していく。それはそれなりのペースでバーテックスを倒していく。

 だがそれなりのペースでは、周囲のバーテックス全てを殲滅するには些か時間がかかる。故に、千景と球子は荒業に出る。

 千景が旋刃盤の刃のない部分を掴み、その状態で千景を振り回すように球子が回転を始める。それは徐々に回転のペースを上げていき、千景の大鎌と球子の旋刃盤で多くの敵を斬り裂いていく。

 

「土居さん!」

 

「よっし、フィニッシュだ!」

 

 そして千景の掛け声に応じて、球子が今までの勢いを乗せて千景を上空へと放り投げる。勢いもあり、高く飛び上がった千景は上空にいたバーテックスをも追い抜き、宙へと上がり。そこから逆に速度を出して地上に向けて落下していく。

 その途中、千景は縦回転することでバーテックスを巻き込みながら落下していき……千景はとある確信と共にそのまま全力で地面へと大鎌を叩きつけた。

 それと同時、千景が地面に大鎌を叩き付けた衝撃が広がると共に――神樹の力が、炸裂するようにして辺りへと広がった。

 バーテックスたちを倒すために武器に宿った神樹の力。それが辺りに勢いよく広がったことで、周囲にいたバーテックスは神樹の力を叩きつけられる形となり、衝撃で絶命していく。

 その勢いは先ほどまでの殲滅速度の比ではなく、大規模な範囲攻撃で残っていたほとんどのバーテックスを倒していた。

 

「よっしゃぁ!!」

 

「……ん」

 

 そんな光景に、球子は元気よくガッツポーズをし、千景へ向けてハイタッチをしようとし。

 千景は澄ました顔で、しかし少しだけ照れ臭そうに応じるのだった。




やっぱ戦闘描写は楽しい。

今回の戦闘では、キングダムハーツ2の連携技を参考にして書いてました。
BGMもそれに合わせて、書く時聞いてたのは『Tension Rising』。
それっぽくできてたらいいなぁ、と思いつつ次回は戦闘後のお話。
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