Vinculum semper vivat   作:天澄

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十二頁目.コミュニケーション:土居球子

初めて、長久と長い時間一緒にいた。

長久はいつも小難しい本を読んでいたり、

若葉や友奈と鍛錬してたりで、なんというか……。

そう、クソ真面目って言葉がピッタリなやつだと思う。

タマとはちょっと、縁がないタイプだと思ってた。

だけど深く関わってると……なんか、こう、心配?

みたいな気持ちが生まれてきた。

これが何でなのかはいまいち自分でもわからないけど、

タマは難しいことを考えるのは苦手だし、どうでもいい。

心配なら気にかければいいだけだ。

とりあえずタマに任せタマえ!

 

大赦書史部・巫女様
勇者御記 二〇二〇年四月

 検 閲 済
土居球子記

 


 

 ――杏が変身できなかった理由や、千景の変身が一度解除された原因らしきものに予想が立った。

 

 勇者とはすなわち、勇ましき者。戦う意思を示せない者に神樹は力を貸してくれないらしい。

 それはシステム的な問題ではなく、長久ではどうにもできない部分であった。

 杏も、千景も変身できなかった瞬間、戦うことに対して恐怖があったという。他の人に迷惑はかけられないからと現場では黙っていたそうだが、後々長久が個別で聞くことでそれが判明した。

 

「とはいえ放っておくには致命的な欠陥だよな……」

 

 変身のシステムは実物の勇者衣装に着替えているのではなく、神樹の力によって擬似的に着替えているだけだ。言い換えれば、上から勇者衣装のテクスチャを貼り付けていると言ってもいい。

 そうなったのは大社の技術では勇者服の瞬間展開を実装できなかったからであり、技術的に不可能な部分は神樹の力に頼りきっている。

 そのため神樹の意思が勇者システムに影響を及ぼし過ぎるという難点が、現状の勇者システムには存在していた。それこそ、今回の一件がいい例である。

 とはいえ、それ自体の対策の構想は既に長久の中にあった。何らかの形で外部に神樹の力をストックしてしまえばいいのだ。

 勇者服を生み出すために、神樹の力を留まらせる技術が必要となったため、それ自体はある。それを応用するだけで、あとは入れ物を用意できればどうにかなると長久は考えていた。

 だから、現在長久の頭を悩ませているのは別の問題だった。

 

「土居、ちょっとこないだの戦闘について聞きたいことがあるんだけど」

「前から気になってたけど、タマのことは名字じゃなくていいぞ」

「あ、そう? ならお言葉に甘えて……まぁ、シンプルに下の名前で呼ぶよ」

 

 長久の個室にて。長久はとりあえず研究のためにと招いた球子の呼び方を定める。それからそれでだな、と後頭部をかきながら言葉を置いてから改めて本題へと入る。

 

「こないだ、千景と二人一緒に戦った時。妙な力を感じなかったか?」

「妙な力……? うーん……なんか覚えがあるような……?」

「あの時の戦闘、今後のためにデータ収集もしてたんだが、ログを確認したらお前と千景が異常な数値を出してたんだ。以前、実験の一環で最大出力の計測をしただろ? あの時の倍近い数値が計測されてて、加えて言うなら設計的にもそれだけの出力が出るはずがないんだ。勇者システムでの能力向上はあくまで神樹の力の循環を――」

「あ、うん?? 待て、タマなら大丈夫だから、一旦待つのだ」

「ごめん、完全に研究部の人らと話す時の感覚だった」

 

 長久は自らの眉間を揉みながら、球子の方へ手を翳し一度ストップをかける。それから長久は一度、自分の思考を整理することにする。

 長久が研究部に所属しているのは、腕を見込まれてではない。勇者と同年代がいれば、システムの説明や使用感のフィードバックなどがしやすいため、長久は研究部に所属することになったのだ。

 全く技術がないわけではないし、現在進行形で学んでこそいるが、一番の目的はそこにある。

 故に、長久は専門的な内容を噛み砕いて、知識がない人に伝える技術を学んでいた。そしてそれを利用し、長久は球子でもわかるような説明をしようと頭を捻る。

 計器の計測結果や、そもそもの勇者システムの仕様についての話はいらない。そこは勇者たち自身が把握する必要がある部分ではないと、長久は情報を削っていく。

 

「そうだな……球子は、千景と一緒に戦っている時にこう、不思議と力が湧いてくるみたいな感覚はなかったか?」

「ああ、それならタマも覚えがあるぞ。あの戦いの時は、千景と一緒に戦い始めてからは何ていうか……こう、なんか行けそうな気がした」

「曖昧が過ぎる……」

 

 とはいえ、である。球子の曖昧な言葉であっても、長久にとっては十分な収穫であった。

 球子の言葉は感覚的であったが、それはつまり()()()()()()()()()、明確に勇者システムの出力が上がっていたということだ。そしてそれは、千景と二人で戦い始めてからだという確認も取れた。

 

「その時、何を考えてたとかはあるか?」

「うーん……確か、敵を倒そうってくらいだったかなぁ? あとは……まぁ、その」

 

 基本的にはっきりと喋る球子が珍しく言葉に詰まる。そっぽを向いて頬をかく姿はわかりやすく照れてる姿であり、あまり球子が見せる姿ではない。

 珍しいものを見た、内心長久は驚きながらも続く言葉を待つ。こういうのは急かしたりすると、照れからやっぱりやめたなどと言って話を切り上げてしまうことがあるのを、長久は経験則で知っていた。

 

「……千景がいるからか、負ける気がしなかったっていうのは、ちょっとあった」

 

 ちょっと、ちょっとだぞ、と付け足す球子を見ながら、長久は意外だなと内心だけで思う。球子と千景は、正直仲が一番悪いと長久は思っていた。試運転の際に分断された時など、通信での会話を聞きながら冷や汗をかいたものだった。

 それが言い争っていたと思えば、いきなり出力が上がって連携をし始めたのだ。長久としては戸惑うしかなかった。

 とはいえ、安心も長久にはある。千景はどうにも人と距離をとっていたから、これを機会にせめて勇者の仲間とは関わっていって欲しいと長久は願う。

 

「他には? 何か感じたこと、思ってたこととかはないか?」

「そうだなー……こいつの前で無様な姿は見せたくないとか、対抗心みたいなのがあったくらいか?」

 

 球子の話から推察できるのは意思の統一、信頼、対抗心程度だろうか、と長久はあたりをつける。

 長久は恐らく今回の出力上昇は勇者システムの共鳴だと考えている。故に求めているのはその共鳴のトリガーであり、球子の感覚的な話であっても、情報としてはかなり有用であった。

 あとは千景の方にも確認を取り、二人の意見を照らし合わせて再現性があるか確認し、そこから条件を割り出して――そう、ぶつぶつと呟きながら長久が今後の予定を組み立てていると、ふと、球子が長久のこと見つめているのに気づく。

 

 球子はその男勝りな性格で忘れがちだが、顔立ちも整った可愛らしい女の子である。年頃の長久も内心、まとめている髪を下ろしたら可愛いだろうな、なんて思ったこともある。

 そんな女の子に見つめられては、流石の長久も気恥ずかしい。自己評価の低さから決して恋愛に結びつけることはないが、流石に長久にも照れはあるのだ。

 

「……どうしたんだよ?」

「いや……なんというか」

 

 じっくりと。球子が目を細めて長久の顔を見る。それはもはや睨むのに近く、しばらくすると長久の周囲をぐるぐると回り出してやけに長久のことを観察してくる。

 意図が読めない長久としては戸惑うしかなく、しばらくの間、観察されるのを受け入れる。ただそのまま何もしないのもむず痒いので、とりあえず天井を仰いで染み数えでもしてみることにした。

 

「うーん……長久さ、最近外で運動したか?」

「運動? それなら若葉や友奈と一緒に鍛錬やってるけど」

 

 球子は観察して何を言うのかと思えば、投げかけられた問いは長久からすれば実に拍子抜けなもの。そこにどんな意図があるのかいまいち掴みきれずに答えを返せば、そういうことじゃなくて、と球子は頭をかく。

 

「外で息抜きとかしてるかってこと。長久はいっつも研究してるか、鍛錬してるかだろ?」

「息抜きなら読書とかしてるし大丈夫だぞ。確かにちょっとタスクに追われてはいるけど、ちゃんと適度な運動と休息は挟んでる」

「あー、だからそういうことじゃなくって!」

 

 頭を抱えて首を振る球子に対し、長久としてはやはり戸惑うしかない。何が言いたいのか、いまいちピンと来なかった。

 そんな長久に業を煮やしたのか、あーもうっ、と声を上げた球子はビシリと音が聞こえてきそうなほどにまっすぐと長久に右手の人差し指を突きつけて言う。

 

「お前! 頭使いすぎ!!」

「えぇ……?」

「真面目過ぎるんだよ! もっと頭空っぽにしろ!!」

 

 よくわからないが、何かとんでもないことを言われているのだけは長久にもわかった。いや、やっぱりよくわからない。

 頭使いすぎとは、と長久は自らの生活を振り返る。

 基本的に日々やることはまず授業。これはまぁ、確かに頭を使っている。とはいえ勉学なのだから仕方ない。

 続いて研究。これも毎日やっていることではあるが、仕事なのだからこれもまた仕方ないだろう。

 しかし、頭を使っているのはこの程度だろうと長久は頭を横に振る。それから例えばだ、と適当に頭を使っていない日課を考える。

 例えば、週に四、五回程度やっている居合や格闘の鍛錬。あれは頭を……。そこまで考えて長久はそういや身体の動きを意識したりで、あれも頭を使っていたなと自覚した。

 いやいや、と長久は再び頭を横に振る。他にも何かあるはずだ、と。

 そう、杏から勧められて始めた読書という趣味があるじゃないか、と長久は思わず手を叩く。あれは頭を使って……使って……?

 長久は気づく。文字から情景をイメージするなど、読解力なんて言葉もあるくらいなのだし読書も頭は使うのでは、と。

 そしてなんなら長久は食事中なども、一人の時は研究関連のことを考えていた。

 

 つまりもしかして、脳を休ませているのは寝てる時のみなのでは?

 

 ここに来て初めて長久は自分の脳の酷使っぷりを自覚した。

 

「ま、待て……そんなはずはない……ないと言ってくれ……」

「長久って結構研究バカだよな」

 う゛ っ 

 

 球子の正直な感想が長久の心を抉る。そんな思わず床へと倒れ伏した長久をつんつん指先で突っつきながら、球子は大きく溜息を吐いた。

 その溜息が本当に自覚していなかったのかと呆れているようで、長久の心は更にダメージを負っていく。

 

「しょーがないなぁ……タマに任せタマえよ」

 

 そう言って立ち上がった球子を、長久は床に伏したまま視線だけで追う。見れば何やら肩をぐるぐると回しており、明らかに何かの準備をしているようであった。

 その光景に長久が思わず首を傾げていると、再び球子が呆れたように溜息を吐いて、それに長久の心が抉られる。

 

「何やってんだ、早く運動着に着替えて外行くぞ」

「……へ?」

 

 説明されても、やっぱり長久には状況が理解できなかった。

 ――そして言われるがまま、連れ出された丸亀城の芝生広場にて。長久は恐怖を味わうことになった。

 

「いくぞ長久!!」

「ぬおおおおぉぉぉぉ!?」

 

 突如迫りくる豪速球!!

 使い慣れぬ野球グローブ!!

 バシィィンと響くボールを捕球したとは思えない音!!

 

 長久は左手を軽く振って痺れを払いながら、目の前で軽く肩を回して調子が悪いなどと宣う少女に恐れ慄いた。

 突然連れ出されたと思えば、球子から渡されたのは野球グローブ。軽い運動ということでキャッチボールをしよう、という話だったので気軽に受けたのが運の尽き。

 オメー勇者の力まで使ってない?? と疑問に思うほどの豪速球が当たり前のように投げられて、長久としては信じられないものを見るかのような目を球子に向けるしかなかった。

 とはいえ幸いなのは、旋刃盤という投擲武器を使っているからか、はたまた単純な運動神経の良さか。球子のコントロールが抜群に良く、グローブを一箇所に留めるだけでボールの方から飛び込んできてくれるのだけは長久としては助かっていた。

 

「あ」

 

 まぁどうにもグローブを使うのに慣れなくて、ボールを受け止めることはできても、ポロリと落としてしまうことが多々あったのだが。

 

「はぁー……まったく、情けないぞ長久!」

「いや、そんなこと言われても初めてだし……」

「仕方ない、今日はタマの投げたボールを確実に取れるようになるまでやるぞ!

「……えっ?」

 

 以降、キャッチボールに限らず、長久はちょいちょい球子に連れ出されて運動に付き合わされようになった。毎度球子の全力に長久が振り回されているのは言うまでもないことである。




息抜き回。戦闘があったからしばらくはゆったりと日常パートよ。

あとちょっと確認したいことあるんで、アンケートに答えてもらえると助かります。

十二頁目から台詞間の空行無くしたけど、空行有り無しどっちが読みやすい?

  • 空行有りの方が読みやすい。
  • 空行無しの方が読みやすい。
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