突然教壇に立って叫び出した球子に一瞬、注目が集まる。それからすぐに皆の視線が外れて各々の作業に戻る。
なんだまた球子か。
皆の意識が一致した瞬間だった。
「待て待て待て待て! 何だか皆最近タマに冷たくないか!?」
「だって土居さんだし」
「まぁタマっち先輩だしね……」
「流石に私ももう慣れたぞ」
「このパターン、何回かやってますしね……」
「うーん……楽しいとは思うんだけどね」
「だってよ、可哀想な球子……」
「なかなかに酷いなお前たち!?」
球子がそれ以外の六人の連携にツッコミを入れる。なんやかんやでこのメンバーが揃ってから一年ほどだ。
長久は未だ彼女たちの友となるのか決めかねているが、それでもそれを決めるために一先ずはそれなりの距離を保ち続けることを決めた。
だから今はこうして全員が自然な距離感でコミュニケーションをとることができる。
そしてそうしてコミュニケーションを繰り返していれば、一定のノリも出来上がるというものである。
「それで、タマっち先輩は今回は何が言いたいの?」
最後にこうして杏が球子にちゃんと真意を問うまでがワンセット。球子が何か言い出した時はこれが基本だった。
「や、もうすぐ夏休みだろ? どうせなら皆で何かやって遊びたいよなーって」
「それは私も思ってた!」
球子の発案に友奈が元気よく手を上げて同調する。まぁ友奈ならそうだろうな、と長久は他のメンバーと顔を見合わせて苦笑した。
とはいえその発案自体を否定する気はない。友奈らしいな、と思っただけの話。
千景を除けば、長久を含め全体的に夏休みに何かやろう、というのは乗り気だった。
「とりあえずまずは皆の予定を確認しないといけませんね」
「タマは夏休みどの日も遊べるぞ!」
「いや、お前勇者システムのテストとかはあるからな?」
「えっ」
「あとは……若葉、勇者組は鍛錬の予定もあったよな?」
「そうだな、週に一回程度、合同での鍛錬を計画している」
「……えっ」
「さては球子、お前忘れてたな?」
長久の指摘に、球子が口笛を吹こうとして、失敗してただ音のしない息を吐き出すだけに終わる。
こいつ、と呆れながら長久は罰として球子のこめかみに拳を当てて力を込めた。
そしてその後ろでは愕然とした顔の友奈が、千景に呆れた顔で溜息を吐かれていた。
予定くらいはちゃんと把握しておいて欲しいと長久は大きく溜息を吐きながら、手帳を取り出し予定を確認する。長久は研究部の仕事と勇者のお付き、二つの仕事があるからその予定は結構詰まっている。
「俺の方は……まぁ学生、ってことを考慮してもらって基本的に土日は休みだから、そこに遊ぶしかないか」
「ああ、研究部の方には夏休みがないのね」
「あってお盆休みくらい。あとはまぁいつも通り作業かな」
好意的な職場ではあるため申請すれば休みになるだろうが、長久自身研究部での仕事はそれなりに気に入っている。だからそれこそ、他の全員の暇な日が一日しかない、みたいな場合で無い限り休みを取ることはないだろう。
趣味の一環のようなもの、みたいな感覚が長久にはあった。それを言ったら先輩たちには社畜と言われたのだが。
「それなら皆さんの予定を一度すり合わせましょうか。あ、若葉ちゃんの予定は大体把握してるので、若葉ちゃんは何も言わなくて大丈夫ですよ」
「ひなた!?」
冗談です、とおちゃめに笑うひなたに若葉は安堵の溜息を吐く。何が質が悪いってあながち冗談に思えないことだった。
実は若葉に黙っているだけで本当は若葉のスケジュール全把握してるのでは……? そんな密かな疑念を長久は抱きながら、とりあえず代表して全員の予定を手帳にまとめていく。
というか、手帳なんてものを持っているのが少数だったために選択肢が長久くらいしかなかったとも言う。
「うーん、こうして見ると意外と遊べる日が少ないですねぇ」
「俺が平日全部潰れちゃってるのがな……」
「しょ、しょうがないですよ、仕事ならどうしようもないですし……」
「……予定合わせるの大変そうだし、もう皆で遊ぶとかやらなくていいんじゃない?」
千景の提案に、残りの全員揃ってそれはない、と断言する。それにちょっとがっかりした感じでそう……と小さく呟いて千景が肩を落とす。
千景自身、こうなるのはわかったいたようなので酷く落胆した様子ではないが、それでもやっぱり残念さはあるらしい。
コミュニケーションは取るようになったが、それでもあまり能動的でないのは変わらないらしい。まぁそこら辺は性根の問題だろう、と長久は苦笑する。
「まぁでもそれでも機会だけで言えば土日で約十日、加えて祝日もあるから夏休みって期間から考えると少ないかもしれないけど、そこそこあるんじゃないか?」
「それなら全員揃って遊ぶ日だけは決めようよ! あとどこ行くか、とかさ!」
「それがいいと私も思う。予定は余裕をもって立てておくべきだろう」
それなら、と長久は手帳のとある箇所を指差して皆に見せる。
「ここ、二十三日から二十六日。祝日を合わせると四連休だしいいんじゃない?」
「四連休か! いいないいな、四日とも皆で遊ぼう!!」
「ちょっと待って。流石に四日間も拘束されるのは――」
「えー、私ぐんちゃんと一緒に遊びたいな!」
「――う、ぐぅッ……。高嶋さんが言うなら、仕方ないわね……!」
こいつ……チョロいな……?。
友奈に抱きつかれそう言われただけで手のひらを返した千景を見て、残りの全員の心の内が揃う。
これからは千景を説得する時は友奈を使おう。ちょっと黒い部分がある人間は内心だけでそう判断し、改めて全員の同意が取れた段階で相談へと戻る。
「そしたら次はどこに行くか、だな」
「山! タマは山に行きたいぞ!!」
「タマっち先輩が山なら私も山かな」
「私は海がいいですねぇ。あ、若葉ちゃん、海水浴場によっては海の家に骨付き鳥があるらしいですよ?」
「ん、む……ならば私も海に一票だな」
とりあえず山二票と海二票を手帳のメモ欄に記載する。
この場にいるのは総計七人だ。同数票で結論が出ない、ということはない。
だから何となく、オチが見えたなぁと思いながら長久は議論の行く末を見守る。
「私は……どうしてもどちらかに行く、というなら海は嫌よ。山にして」
「うーん……私は海かなぁ」
千景と友奈が追加で答えて、三対三の同数。次の瞬間向けられる、それで長久は? という視線にそうなるよなぁと長久は溜息を吐く。
それから長久はどちらの方がいいだろう、と思案する。それからふむ、と一つのことに気づく。
「……どっちも行けばいいのでは?」
長久がポツリと言った言葉に他の全員が怪訝な顔をする。それに長久はいやさ、と自分の思いつきを語っていく。
「まず七月の四連休でどっちか行くじゃん? そんで、八月の三連休かお盆休みでもう片方行けば万事解決では?」
長久のそのアイデアにおぉ、と球子と友奈が声を漏らす。しかしそんな二人に対し、苦い顔をしたのは残りのメンバーだ。
「しかしな……二箇所も行くとなると流石にお金が……」
「勇者や巫女と言っても、特別大きな額を貰っているわけではありませんし」
そんなことを言うのは若葉とひなただ。発言こそしなかったが、杏も同意見であり、最初は賛同していた球子と友奈も言われてみれば、という顔をしていた。
なんやかんやで仕事がある長久以外は全員ただの高校生だ。一応バイトができない代わりに勇者という立場でお金は貰っているそうだが、それも一般的な高校生レベルでしかないらしい。
だから流石に連休に何度も遠出となるとお金が底をついてしまう。とはいえ、その辺りは長久も把握しているところ。無論、解決策だってある。
「お金に関しては大社を叩けば出てくるから問題ないよ」
「叩けば出てくる!?」
驚いた様子の長久以外だが、茶化してこそいるが実際ちょっとお願いすればお金はいくらでも出てくるのだ。
そもそも大社の中には年頃の少女に重い使命を課していることを悔いている人間が一定数いる。だから勇者たちが望むならある程度は無茶もしてくれるのだ。
長久に関しては大社と勇者、両者に半々で足を突っ込んでいるので、勇者たちが納得し、かつ大社が対応可能な範囲を理解している。
そのため、今回の件に関しては大社は普通に対応してくれるであろうし、勇者たちも説得すれば簡単に納得してくれるだろうという理解があった。
「皆の給料が今の額なのは、学生のうちにあんまり高額持たせて金銭感覚が狂わないように、ってのがあるんだってさ」
だから大社が実際払うべきだとしている額は違ってな、と長久は肩を竦めながら言葉を続ける。
「ちょっと旅行費用とかぐらいなら頼めば、本来支払うべき額の分ってことで出してくれるんだよ」
それならまぁ、とそこら辺真面目な勇者たちも納得を見せる。
なおちなみにの話であるが、本来払うべき額と現在払われている額の差分は成人してから支払われる予定である。
そしてこれに関しては完全に勇者には伏せられている情報である。成人したら勝手に口座に振り込む予定だそう。
「まぁそんなわけで費用面に関してはあんまり気にしなくていいぞ。なんなら連休丸々、三泊四日で行ける」
「うーん、そこまでとなると申し訳なさ感じちゃうかなー……」
「……ふむ。まぁ私もあまり頼り過ぎるのは気になるが、実際に職員の方に相談してから判断すればいいだろう」
「そうですね、長久さんも大丈夫だろうってまだ想定の段階ですよね?」
「ああ、だから実際どれだけの期間になるかは職員も交えて話し合ってからになると思う」
まぁまず連休全部になるとは思う、というのは内心だけに留める長久。
大社全体として見れば勇者が貴重な戦力であるために、機嫌を損ねたくないという打算もある。
そのため、大社の一部の申し訳なさを感じている職員と、仕事に忠実な職員の利害は今回に関しては合致するのだ。だから間違いなく大社は機嫌を取りにくると長久は読んでいた。
「とはいえ申請を出すにしても、最低限どこに行きたいかくらいは決めといた方がいいと思う」
「山と海、それぞれどこに行くか、ですか……」
「そもそも、山と一概に言っても登山なのかキャンプなのか、色々あるだろう。どうするんだ?」
「タマはキャンプだ! キャンプがいい!」
「私はタマっち先輩の希望通りでいい、かな。特に山でやりたいっていうのがあるわけじゃないし……」
「私もタマちゃんの希望に合わせていいよ!」
長久の意見を受けて、皆が行き先についての議論を始める。しかしその中に千景は存在しない。
千景は一人、少し離れた地点でしかめっ面をして立っている。
今回の一件、千景の意見はほとんど無視されたようなものだ。
最初のそもそも行きたくない、という意見。山と海ならどっち、という問いに対しても千景の場合はどちらかを選ぶなら、というよりは海は嫌だ、といった感じだったように長久は思う。
だから千景の意見は今回の遊びに行く、というアイデアにほとんど反映されてないと言える。しかめっ面になるのも、わからなくはない話だった。
「……不満か?」
「それは、ね。山には虫がいるだろうし、海だと日差しはキツイだろうし……」
そもそもゲームができないし、とげんなりしながら言う千景。長久は最後のが一番大きい要因だろうな、と思いながら同時に何となくそれだけでないというのも察する。
今言った理由だけでは海だけやけに拒否した理由が見えない。両方とも平等に嫌な理由を上げただけだ。
だがそれを指摘するという選択を長久は取らなかった。言いたくないなら言わなくていい。色々黙っていることのある長久からするとそれは当然の判断だった。
代わりに、長久は適当な提案をして話題を変えることにする。
「それならまぁ、いっそのこと海には行かず、宿で過ごしてみるか?」
「……無理ね、多分高嶋さんに引きずり出されるわ」
それは確かに、と長久は諦めたように溜息を吐く千景を見て苦笑する。
だけど千景の口には笑みも浮かんでいることに気づいて、懸念があるだけで皆で過ごすの自体は嫌ではないのだろう、と理解する。
かく言う長久だって、悩みを抱えたままでも楽しみなものは楽しみだ。
皆で過ごす夏休みが、すぐそこまでやってきていた。
月に二回は更新したいのです、というわけで更新。
最近はコラボに向けての作業とか、提出用の原稿用意したり、仮面ライダー見たりと忙しかったのでギリギリでの更新よ。
クウガ、いいよね……。今オーズ見てるわ。
そんなわけでコラボ企画がちびちび進行中です。とはいえ本編の進行度の関係上、詳細はもっと後かなぁ……と。
夏休みの話してからもまだまだ書くことあるからね。いや、だってまだ原作の時系列入ってないし……。