Vinculum semper vivat   作:天澄

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十八頁目.日々の暮らし:海水浴

海水浴。

俺にしては珍しく楽しめた。

まぁ正直、男一人なのは辛かったが……。

それでも悩みを一時とはいえ忘れられた。

俺がこんなに楽しんでいいのか。

そんな迷いはあるけれど……。

それでも、俺は皆で過ごせる時間が好きだった。

 

大赦書史部・巫女様
勇者御記 二〇二〇年七月

 検 閲 済
白芥子長久記

 


 

 長久は困っていた。それもう、大変困っていた。

 正面には見渡す限りの海。夏の連休、ということもあって人々で賑わっている。

 無論、長久も水着を着て、現在は一応上にパーカーを羽織っている。

 夏休み何をするかの相談後しばらく。結局先に海に行って、後々の連休で山に遊びに行くことになったのだが。

 こうして実際に海に来てようやく長久は気づいたことがあった。

 

 ――俺以外皆女子しかいねぇ。

 

 あまりにも今更な事実だった。

 しかし長久としては日頃から関わる相手が同年代では勇者たちだけであり、クラスメイト、友達としての認識が強すぎるために異性としてはあまり気にしていなかったのだ。

 こうして水着で他の皆が来る、という段階になってようやく長久は勇者の面々を異性として意識したのだった。

 皆が来たら似合ってるくらい言った方がいいのか……? いやしかし今更俺が言っても……? 長久の頭の中は軽いパニック状態である。

 

 だがそんな風に悩んでいる間にも時間は進む。

 

「ひゃっほーーー!!」

 

 何かが長久の隣を勢いよく駆け抜けて行く。その何かはそのまま勢いで海へと飛び込み、直後に気持ちいいぞー、と声を上げながら海から顔を出した。

 

「ん? あ、長久ー!」

 

 海に飛び込んだ少女――球子は大きく長久に向けて手を振ってくる。

 セパレートタイプの、上はオレンジ系の装飾が少ない胸下までのショートタンクトップ型、下は同色のショートパンツ型という球子らしいスポーティな水着になっている。

 それを見て長久は大きく安堵の溜息を吐く。ボーイッシュな球子は女性としてあまり意識しなくて済む。長久としてはありがたい限りだ。

 

 あと何より胸が平原なのが大きい。悲しいくらいの平原だから意識しなくて済む。

 

 だが問題は、と長久はこの後のことを考えて思わず顔を覆う。

 

「もう……タマっち先輩は相変わらずなんだから……」

 

 来た、と長久はついビクつく。一番見たくて見たくない相手だ。球子が来た以上は次に来るとは思っていたが、覚悟を決めるには時間が足りなかった。

 

「あ、長久さん」

 

 声をかけられたなら振り返らなければならない。視線を海から更衣室の方向へと向ける。

 

「……ッ」

 

 声音からわかってはいたが、そこにいたのは杏だった。……杏だった、のだが。

 長久は声を出すことができなかった。

 

「長久さん?」

 

「こんなのってねぇよ……!」

 

 そこにあったのは圧倒的暴力だった。ホルターネックタイプに、下はパレオと正面からのパッと見の露出度は高くない。

 しかしその胸部は圧倒的な大きさを誇っており、水着になったことでもはやそれは視界への暴力と化していた。

 その圧倒的な力に長久は女性として意識する云々以前に、杏と最も仲がいい球子の平原と比較してしまい……気づけば涙を流してしまっていた。

 

「え、あの……長久さん……?」

 

「神樹様も惨いことをしやがるッ……!!」

 

「何してるのよ……」

 

 涙を流しながら青空を仰いでいると、長久にとって聞き慣れた呆れた声がかけられる。

 残りのやつらも来たのか、そう思って長久は声の方に視線を向け――そして再び、この世の残酷さに直面した。

 

 続いてやってきたのは千景とひなたの二人。どちらも可愛らしくよく似合った水着を着ているのだが……しかし長久の意識はそこではなく、ある一点へと集中していた。

 そう、再び現れた平原と山脈。あまりにも悲しすぎる現実。ここに年齢のことも加味すると目も当てられない。

 そっと長久は千景の肩へと手を置いて笑みを浮かべた。

 

「……何そのアルカイックスマイル。よくわからないけどムカつくわね」

 

「長久さん、女性の身体的特徴をネタにするのは最低ですよ」

 

「うっ!?」

 

 至極真っ当なひなたのツッコミに長久は胸を抑えて崩れ去る。反論の余地がない、完全に長久が悪だった。

 とはいえ長久としてはこうして茶化していないと気恥ずかしいのだ。ネタにしなければやってられない。

 今まで普通の友人だったのがいきなり異性と意識させられれば当然という話だった。

 

 しかしそれはあくまで長久からの視点の話。それでネタにされた側はたまったものではない。

 そしてそれは長久も理解しているところ。これ以上やるのは流石によくないよな、と大きく一つ溜息を吐く。

 何、簡単な話である。ただ長久が全部表面に出さなければ済むことだ。

 

「……何故長久は崩れ落ちてるんだ?」

 

「砂浜熱くない?」

 

「実はバリあちぃ」

 

 長久は立ち上がりながら膝に付いた砂を払う。ビーチサンダルを履いていたせいで気づかなかったが、当然ながら砂浜は素肌で触れるには熱すぎた。

 いや、マジで熱かったな……。長久はそう独りごちながら最後にやってきた若葉と友奈の方へと視線を向ける。

 若葉はまぁ球子同様スポーティなタイプの水着だろうな、なんて長久は油断していたが、ところがどっこい。

 藍色ベースのフリルがあしらわれたビキニタイプだった。あ、これひなたが着せたやつだな? となんとなく察しながらどことなく恥ずかしそうにする若葉に長久は思わず顔を覆う。

 そういうギャップはよくない。なまじ日頃の鍛錬のおかげで引き締まった美しい身体が白日の下に晒されているので大変よろしくない。

 

 長久は若葉から視線を逃がすようにして友奈の方へと視線を泳がせる。しかし残念ながらそれも悪手。

 友奈の水着は、他の面々に比べれば比較的露出が少ない。ビキニタイプでこそあるが、面積は大きめ、かつ下はスカートタイプだ。

 ピンクという色も相まって、女の子らしい可愛らしさが前面に押し出された水着である。正直、長久としては肌が見えるよりこういうタイプの方が弱い。

 

「くっ、もはや一種の地獄ッ……!!」

 

 いや、男の子的には天国ではあるのだが。実際状況的にはハーレムみたいなものなのだ。まぁ状況だけで恋愛感情は互いに一切存在してないのだが。

 というかもし仮に誰かとそんな関係になった場合、長久の精神は死ぬ。自己評価極低の長久が勇者と恋仲になることを許容できるわけがなかった。

 しかしそんな長久自身の思考と、男としての欲求は話が別である。それはそれとして可愛い、あるいは美しいものには男として反応せざるを得ないのだ。

 

「……俺、ちょっと浮いてくるわ」

 

「浮いてくる?」

 

「なんか……こう、一回空っぽになりたい」

 

「あ、うん……うん? 沖に流されないように気をつけてね?」

 

 長久の言ってることをひたすら疑問に思いながらも心配してくれる友奈に、長久は軽く手を上げて大丈夫と伝えながらパーカーとビーチサンダルを脱いでから海へと足を漬けていく。

 冷たい海水が火照った身体に心地よい。苦悩まで海水に流されていってしまう、なんて言えるほど簡単な思考をしていない長久だが、それでもいつもと比べればその心は比較的穏やかである。

 そのままある程度の深さがあるところまでついたら、あとは身体を浮かせて、目を瞑って……波に流されるまま――

 

 日差しが強いから時々潜ったりしながら過ごすことしばらく。海流で沖に流されるのだけは洒落にならないのでそこだけ注意しながら、ある程度落ち着くまで過ごした長久は一度浜の方へ戻ることにする。

 海から上がり、パラソルが刺された場所へと向かう。荷物もそこにあるため、誰か荷物番もいるだろうと思いながら行けばそこには見慣れた人物が一人。

 パラソルが作り出した日陰で携帯ゲームで遊ぶのは千景だ。海まで来てこいつ、と思い呆れ顔になるも、だからこそ千景らしいとも言える。

 だから特に何か言うこともなく、仕方ないと苦笑しながら長久は千景の隣へと腰を下ろした。

 

「もう浮くのはいいの?」

 

「十分浮いたよ。……ていうか多分、あんまり続けると体の前だけ焼けちゃうから……」

 

「……ちょっと見たいわね」

 

 勘弁しろ、と宙で腕を振りながらもう片方の腕で置いてあるミネラルウォーターを取る。新品のそれをピキピキと音を鳴らしながら開けて一口。

 冷たい水で水分補給をしながら長久は一息吐く。浮いてるだけ、とは言ったが沖に流されそうになったら泳いで戻ったりもしてたので体力はそこそこ使っている。

 だからこうしてゆっくりと休むのもまた、心地がいい。

 

「そういや千景、他の皆は?」

 

「土居さんは高嶋さんを連れて遊びに、伊予島さんが休憩がてらアイスを買いに行って、乃木さんは……」

 

 ああ、あそこよ、と千景によって指さされた先を長久は見る。大きく身体を伸ばす若葉の姿。

 どうやら泳ぐにあたり準備運動をしているらしい。美少女故、周囲から注目を集めているが……準備運動に集中しているらしく若葉自身は気づいていないようだった。

 

「……あれ、ひなたは?」

 

「よく見てみなさい」

 

 若葉がいるなら近くにひなたもいそうなものだが。ましてや珍しい水着姿の若葉だ。ひなたが放っておくとは思えず、長久が千景に問えば返ってきたのは変わらず若葉の方を指さしての言葉。

 どういうことだ、そう思いながら目を凝らして改めて若葉周辺を見て――気づく。

 

「あー……そういう、ね」

 

 若葉よりも遠く。岩場の方からキラリと光が見えたと集中して見てみれば、カメラを構えたひなたの姿。

 なるほど、より自然体の若葉を撮影するために盗撮することにしたのか。

 ……そう一瞬ナチュラルに納得しかけて、いや盗撮はマズいだろうと思い直す。

 現に今、この海岸の監視員に注意されて……そこから更に大社の職員がやってきて何かを監視員に渡したかと思えばひなたを残して大社職員と監視員が歩き去っていった。

 

「ふ、不正の現場を見てしまった……!」

 

「今見たものは全て忘れるのがきっと賢い生き方よ」

 

 落ち着いた様子でゲームをプレイし続ける千景に言われた言葉に、一応頷いておく。

 犯罪を見逃していいのか、と良心が長久自身に問うてくるが、まぁひなたと若葉だしなと長久は己を納得させた。

 

「しかし、まぁ」

 

 結局この二人か、と言葉にするのを長久はやめた。

 なんやかんや、長久は全員と仲良くなった。千景もまた、当初の様子から考えると意外なほど仲間たちと仲良くなっただろう。

 だけど落ち着く時間、となるとこうして二人でゆっくりと時間を過ごす時なのだろう。

 ひたすら千景がゲームをやって、偶にその画面をのぞき込んだ長久が茶々を入れる。

 そうやって海辺で二人で過ごしながらふと、長久は一つ伝えそびれていたことを思い出す。

 

「ああ、そうだ千景」

 

 それは千景の生い立ちをなんとなくとはいえ把握しているだから言わなければならないこと。

 

「水着、よく似合ってるぞ」

 

 君の水着姿には何もおかしなところはないと、長久はそうはっきりと千景に伝えておかねばならなかった。

 女の子に対してこんなことを言うのは些か気恥ずかしかったが、それでも長久はそれを千景へと伝えたのだった。

 

「ん……そう」

 

 言葉だけならあまりにも素っ気ない言葉。だが千景の耳や頬は赤らんでいて照れているだけだと長久には分かる。

 ちゃん長久の意図は伝わっている。それがわかった長久は照れ臭さと、千景が落ち着く時間を作るために立ち上がって一つ伸びをしてから言う。

 

「そしたら俺、ちょっと杏探してくるわ。俺が来るより前に買い物に行ったわりには戻ってくるの遅いし、俺もアイス欲しいし」

 

「……そ、いってらっしゃい」

 

 変わらず素っ気ない千景に苦笑しながら長久はパーカーを羽織り、杏を探して歩き始めた。




正直大学生パロの方に引っ張られた。
そんなわけで水着回にして、長久が割合はっちゃけてる回。
もう一話海水浴回やし、しばらくは夏休みで遊ぶお話やね。
しかし何でこいつ生意気にも水着姿の美少女に囲まれてるの??
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