Vinculum semper vivat   作:天澄

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十八頁目.日々の暮らし:海水浴Ⅱ

 杏を探してしばらく。後から動いているために軽く駆け足気味で移動をする。

 売店、所謂海の家の場所ならなんとなくではあるが把握している。人混みではあるが、迷うこともないだろう。

 故にだからこそ杏が戻ってくるのが遅いという事実が長久には気になったわけだが。海の家が混んでいたという可能性だってあるので、ただの杞憂かもしれない。

 

 戻ってくる杏とすれ違ってしまう可能性も考慮しながら周囲に注意を払いながら歩く。人が多いと言えど、杏は見慣れた相手。

 ……なんて思っていたわけだが。海の家近くになっても杏の姿が見えないために少しばかり長久は不安を抱く。

 実はうっかり見落としているのでは。若干の恐怖を抱いていると、ふと長久は視界に見覚えのあるクリーム色の色合いを見かける。

 

「……あれ」

 

 あの髪色は杏、と一瞬思うも見覚えのない男たちと会話しているのを見て、それが本当に杏なのか自信を失う。

 杏はどちらかと言えば控えめな性格だ。コミュニケーション能力に難がある、というほどではないがそれでも初対面の人、それも男性相手に話すだろうかと疑問に思う。

 あるいは丸亀城に来る以前の知り合いというならばまだ納得がいく。そんなことを思いながら、とりあえず何にせよ戻ってくるのが遅いのが心配だったのだ。間に入るぐらい許されるだろう、と声をかけるため長久は近づく。

 

「――頼むよ、少しの間でいいからさ。ね?」

 

「え、と……その」

 

 ん? と長久は首を傾げる。近づくにつれ会話の内容に違和感を覚えたからだ。

 両者の様子から知り合いという感じはあまりしない。むしろ杏の方は迷惑そう……とまでも言わないまでも、少し困った様子ではある。

 もしかしてこれは所謂ナンパというやつでは? 何となく状況を察した長久は杏に声をかける。

 

「杏、何してるんだ?」

 

「あ、長久さん」

 

「ん、え、もしかして彼氏?」

 

 片手を上げつつ声をかければ、長久に気づいた杏が声をあげる。同時、杏に声をかけていた男も声をあげる。

 しかしその内容は予想外なものであり、杏と長久は一瞬きょとんとした後、揃って苦笑する。海辺で男女の組み合わせ、となるとやはりそういうのを連想してしまうのだろうか。

 あるいは自分がナンパをしているから、そういう発想に至ったのだろうか。まぁどちらにしても、長久としては返す言葉は決まっている。

 

「恋人がいたなら申し訳ないことをした。それなら――」

 

「待て待て。別に恋人じゃないですよ」

 

「……え、あれ違うの?」

 

 首を傾げる男性に、違う違うと杏と二人否定する。それからあくまで一グループとして来てるだけであると、軽く説明する。

 その際、長久は自分以外は女性であることは黙っておいた。ナンパに踏み切るような相手だ、嫉妬される可能性もあったからだ。一応、傍から見れば恵まれた環境だという自覚は長久にもあった。

 

「グループか……」

 

「そうそう、この子……杏も一人ってわけじゃないし、できれば諦めてくれると助かるんですけど……」

 

 説得のため長久がそう言うが、しかし男性いや待て、と言葉を置く。

 それから首を何度か首を傾げたあと、一人勝手に納得したのかうんうんと頷いてみせる。

 

「じゃあうちのグループとそっちのグループで混ざって遊ぼう!」

 

「うん……うん?」

 

 思ってたのと違う。長久が杏と顔を見合わせている間も男は妙案と言わんばかりに目を輝かせて言う。

 

「なぁ頼むよ。俺らのグループ男しかいないんだ。花が、見目麗しい花が欲しいんだよ……!」

 

 馬鹿正直か、と思うと同時に長久は今まで杏がこの男の頼みを断り切れなかった理由を理解する。

 余りにも必死で……正直、哀れなのだ。よく漫画などで見るような軽かったり高圧的なものではなく、低姿勢で必死な頼みよう。

 どうにも可哀想に思えて……また、どこか憎めない彼の姿に強く出られなかったのだろう。実際長久も、無理と断ずるのは些か躊躇われた。

 

「あの……長久さん。私は少しだけなら付き合ってあげてもいいかなって……」

 

「だけど……皆から同意取れるかわからないぞ。俺たちだけで判断するわけには……」

 

「確かに……」

 

 どうしようか、と長久と杏が話し合う。そこから漏れ聞こえてくる内容を聞いて、男性はわかりやすく表情で一喜一憂を示していた。

 その姿はコミカルで、どうにも長久と杏には彼が悪い人間には思えない。だがそれが絶対という保証もないし、と判断に迷っていたところ。

 

「長久まで戻ってくるのが遅いと聞いて様子を見に来たが……どういう状態だ?」

 

 呆れの溜息と共にそんな言葉が放たれる。視線をやれば、そこには若葉がいた。

 確かに結構な時間長久たちはここにいる。長久が来る前から、ということを考慮すれば杏は特にだ。

 そりゃ心配もされる、と思いながら長久と杏は掻い摘んで若葉に事情を説明する。

 

「なるほどな……」

 

「実際、どうしようかね。若葉としてはどうだ?」

 

「……まぁいいんじゃないか? 私にも悪い人間には見えないしな」

 

 球子あたりは気にしないだろう、と続いた言葉に長久はなるほど、と納得する。

 それなら互いのグループから遊びたい人だけ遊ぶ、という形だろうか。そう長久が全員に確認を取れば返ってくるのは肯定の返事。……と歓喜の声。

 それを見てあはは、と呆れを滲ませながら杏が他の面々に知らせに行く、とその場を離れる。

 

「で? 実際問題何をして遊ぶんですか?」

 

 長久の問いに男性がうーん、と言って悩みだす。この場に残ったのは長久と若葉だ。できれば人数的に困らないものがいいのだが、と思っていると男性が何かに気づいたようで突然手を上げて声を出す。

 

「あ、悠一(ゆういち)!」

 

 どうやら誰かを、おそらく同じグループだという人間に声をかけたらしい。男性の視線を追えば、悠一と呼ばれた男性がこちらに気づいたような仕草を見せたあと、明らかにドン引いた表情を見せた。

 それから避けるようにそそくさと去ろうとするが、それを見抜いた呼びかけた側の男性が即座に近づいて腕を掴んでこちらへと強制連行してくる。

 

「お前……流石に彼氏持ちをナンパするのはどうかと思うわ……」

 

「流石の俺もそんなことはしねぇよ!?」

 

 開口一番に放たれた悠一の言葉に、なるほどだからあんなに引いていたのかと長久と若葉は事情を理解する。

 

「流石に分別くらいは付くと思ってたんだがな……」

 

「おっと? さては俺の話を聞いてないな?」

 

 目の前で繰り広げられるコント染みたやり取りに、長久は既視感を得る。ああ、ノリが研究部の人たちと似ているのだ。長久はなんとなく彼らがどういう人間か察してしまった。

 

「と、まぁ冗談はここまでにして。そういや名乗ってなかったし、自己紹介でもするか」

 

 そう言って、まず最初に杏に声をかけていた男性が軽く片手を上げつつ名乗る。

 

「俺は(いぬい)翔馬(しょうま)、二十歳の大学生だ。よろしくな。んでそっちが」

 

藍葉(あいば)悠一(ゆういち)だ。同じく二十歳の大学生な。……で、翔馬のやつが迷惑かけてないか?」

 

「いの一番にその確認かよ」

 

 悠一の問いに長久は別に迷惑はかけられていないと答えようとして、よくよく考えてみたらこの状況が既に迷惑なのでは……? と思わず首を傾げる。

 それを確認した悠一はジト目で翔馬を見る。そして翔馬の方は迷惑だった!? と慌て始めた。

 愉快な人らだな、と長久は苦笑しつつ、悠一たち側のグループは二人だけなのか、と問う。

 

「ああ、俺達はあと一人後輩がいるんだけど……。あいつはパラソルの下で休んでるとか言いそうなんだよな」

 

 ちょっと連絡取ってみる、と電話をかけ始める悠一を見つつ、暇だったのか翔馬の方がそもそもどうしてこうして海に遊びに来ているのか、ナンパなんて始めたのかを説明し始める。

 曰く、暇だったから大学の知り合いで勢いだけで遊びに来たそうだ。そして来たはいいけど、カップルを見かける度に男所帯であることに絶望した結果らしい。しばらくの間彼女がいないから余計に、だそうだ。

 

「……お待たせ、案の定だったよ。もう一人は面倒だからパスだってさ」

 

「それならどうします? うちのメンツが誰か来るまで待ちますか?」

 

 長久の問いにどうしようか、と翔馬以外が翔馬へと視線を向けるが、翔馬は首を傾げるだけ。どうやら翔馬は一緒に遊ぼうとノリで言っただけで具体的な考えは一切なかったらしい。

 仕方ない、と全員で何かないか考え始めるが、特にいい案は思いつかない。海入って水掛けあってもすぐに飽きるしなぁ、と長久が思っているとあ、と若葉が声を漏らす。

 

「ビーチバレー、はどうだろうか」

 

 ふむ、と長久は考える。四人なら偶数だから綺麗にチームは分けられるし、ボールも海の家が傍にあるので買えるだろう。場所さえ確保できれば悪い案ではないかもしれない。

 そう思ったのは長久だけではないようで、残りの二人も頷いて肯定の意を見せる。ならルールの緩い、お遊びビーチバレーで決定だろうと四人で場所を探して歩き出す。

 その間にチーム分けも決めてしまうことにする。とりあえず最初のチームは連携の取りやすさも考慮して長久と若葉、悠一と翔馬にすることになる。

 そうしてチーム分けを話し合っている間に、ビーチボールも買え、都合よく人がいない場所を見つけ簡単に線を引いてビーチバレーの準備が整う。

 

 ……そこまで来て長久はふと一つのことに気づいた。相手は男子大学生、体格で言えば女子がいる上に年下であるこちらが不利である。

 しかしよくよく考えてみると、若葉は勇者として鍛えているし、長久はそれに付き合っているのだ。

 更に言えば、変身の影響で神樹の力が若葉たちには残留しており、素の身体スペックが高めになっている。これ、ゲームバランス崩壊するのでは……?

 

 そんなことを思っている間にも試合は始まってしまう。高々とボールを宙へと放る若葉。そこから美しいモーションで飛び上がったと思えば、次の瞬間バゴンッ、とビーチボール相手に出す音ではない音を響かせて相手コートにボールがめり込んだ。

 

「……え?」

 

「ん? ……んん??」

 

「む、加減を間違えたか?」

 

「あー……」

 

 まぁこうなるよね、と長久は苦笑する。勇者相手じゃ仕方ない。

 ルール的にはあれだが、お遊びなのでサーブを替わって加減すべきかな、と思い長久は悠一たちの方を見る。

 

「……っしゃ」

 

「ちょっと真面目にやるかぁ!」

 

 しかしそこにいたのは既に驚きから立ち直り、やる気で満ちた様子の二人。今のを見てやる気なのか、と少々長久は驚きつつもそういうことならと長久も本腰を入れることにする。

 ――続いて、若葉のサーブ二本目。威力は変わらず、ジャンピングサーブから放たれた一撃。しかし今度はそれを辛うじて悠一が拾う。それに長久は驚きながらも、ボールが返ってくることを警戒する。

 翔馬のトス、そこから悠一がスパイクを決めようとするが、砂浜であるからか思ったように跳べなかったらしく軽いボールが長久のもとへと飛んでくる。

 これなら簡単に拾える、安定してレシーブ。そこから長久が打ちやすい位置へと綺麗に若葉がトスを上げ、それに合わせて長久が跳躍。

 

「あー……一応、ごめんなさい」

 

 やる気があるなら本気でやらなければ失礼だろうと、謝りつつも長久は全力でスパイクを叩き込む。

 それを拾おうとした翔馬であったが、速度に対応できず完璧に拾うことができずボールが外へと零れていった。伊達に勇者と共に鍛錬していない、ということだ。

 これで長久・若葉チームが二点。このままワンサイドゲームで終わる――そう思われたがしかし。

 

「……うし、大体掴んだ」

 

「お、悠一も? よっしゃ、じゃあやるか!」

 

 長久・若葉チームが十点ほど先取したところでそんなことを悠一たちが言い始める。掴んだ、とはどういうことだろうかと長久たちは首を傾げる。

 しかしやることは変わらないと若葉がサーブを放つ。威力が落ちることはなく、むしろ砂浜での動きに慣れてきたのかその威力は上がっている。

 だが次の瞬間、悠一がステップからの位置調整でボールの落下地点へと陣取り、綺麗にボールを上へとレシーブする。

 そこから翔馬がトスで繋ぎ――悠一が跳躍。バシッ、と長久や若葉よりも弱いがそれでも強力なスパイクを決める。

 狙いは……コートの線ギリギリ、ちょうど若葉と長久から同じ距離ほど離れた位置だ。それに一瞬、若葉と長久はどちらが行くべきか躊躇い、結果的に動き出しが遅れたことでボールが砂浜へと落ちてしまう。

 

「おっしゃあ!」

 

「マジかよ……」

 

「これは……やられたな」

 

 身体能力では若葉と長久が圧倒的に上。しかしどうやらボールコントロール、判断力は向こうが上だったらしい。

 ならば何故、今までそれをやらなかったのか……。掴んだ、という言葉から想像するにおそらく砂浜での動き方を掴んだことで、コントロールを発揮できるようになったのだろう。

 これは思ったよりも楽しい試合になるかもしれない。思わず若葉と長久は顔を見合わせて笑みを浮かべたのだった。




 作者は本編では苦労してたりするキャラが、何事もなく呑気に人生を楽しんでるIFとかが好きです。誰がどうとは言わないけど。

 そんなわけで水着回パート2。多分もう1パート書く。
 基本的に同日だったりすると冒頭の勇者御記はカットです。
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