結局。あの後ビーチバレーは接戦ながらも長久・若葉チームが勝利した。正直勇者相手に接戦するとかあいつら何なんだ、みたいに長久は思ったが、それはそれとして楽しかったので気にしない。
そのあとは合流した球子も参戦、チームメンバーを入れ替えつつ何度か試合を行った。その結果、試合が凄すぎて観客ができ始め、他にも色んな人が参加し出す一大イベントと化したがそれもまた面白かったのでよし。
夕暮れ頃、解散の流れができ始めた時に長久たちは共に遊んだ人たちとハイタッチしたり、悠一たちとは連絡先を交換したりしながら帰路へとつく。
「あー、遊んだ遊んだ!」
「タマっち先輩、凄い楽しそうだったね」
「おう、楽しかったぞ!」
大社職員の用意した車との合流地点へと向かう道を歩く先頭で、球子と杏がそんな会話している。確かに球子は運動好きでコミュニケーション能力が高いこともあり、このメンバーの中では特に今回のビーチバレーを楽しんでいたように長久は思う。
無論長久も楽しんではいたが……それでも、球子に比べればまだまだだと思えた。
「……あれだけ試合をやってよく元気が残ってるわね……」
逆に一番参加率が低かったのは、最後尾で友奈、長久と共に歩く千景だ。彼女はそもそもインドア派であるし、見知らぬ人と積極的にコミュニケーションを取るタイプでもない。
一応、友奈に連れられてビーチバレーには何回か参加していたが……それだけでもう、千景はどっと疲れていたようだった。
「まぁでも、俺と組んで若葉と友奈チームと戦った時は割と本気だったからな……。疲れるのもわからなくもない」
実際、長久としてもその試合はかなり疲労が凄かった。千景がやけに気合が入っていたのもあって、引きずられるように気づけば長久も本気で参加していた。
いくら鍛錬していると言っても、長久はあくまで一般人で勇者ではない。他三人は全員勇者、というのは基礎能力の段階で差があり長久としてはかなり辛い状況だった。
「確かにあの試合は一番盛り上がりましたねぇ」
「そういうひなたは試合には一切参加していなかったようだが、どこにいたんだ……?」
「ふっふっふっふ……」
長久は知っている。休憩中に偶然見かけただけだが、人と人の間を素早い動きで通り抜けながら試合をする若葉を激写していたひなたの姿を。
なんやかんやでひなたもかなり突き抜けてるよなぁ、と長久は前を歩く若葉とひなたを呆れた目で見つめた。
「あ、そういえば長久くん」
「ん?」
「今日泊まる予定のところってどうなってるの?」
あー、と長久は声を漏らす。実は長久も宿泊先を知らないのだ。
大社からは車で連れて行くから気にしなくていいと言われており、また今日までに調べる時間も確保できなかった。
だから長久もどんなところ……とは説明できないのだが。しかし長久だから予測できることはあった。
「なんていうか……まぁ、覚悟しておいた方がいいと思うぞ」
「覚悟……?」
長久の言うことにいまいちピンと来なかったのか首を傾げる千景とひなた以外の皆。それに対しどうやら千景とひなたは察したらしく、あぁ……と声を漏らす。
長久は研究部に所属しているために大社という組織にどのような人間が多いかをある程度把握している。そしてそれは普段からよく話す千景と、巫女という立場から大社職員と接することの多いひなたには伝わっていた。
だからだろう、長久の忠告をこの場で理解できた人間は千景とひなただけであり、また長久も確証があるわけではないので全てを語ることはしなかった。
「……と、待ち合わせはここか」
既に迎えは来ているのかと周囲を見渡せば、お待ちしていましたと声がかけられる。長久たちも見かけたことがある大社の職員だ。以前、長久とひなたが大社本部へと向かう時に運転していた人でもある。
この人であれば案内人を騙る偽物ではないことも分かる。車には出発前に用意していた宿泊用の荷物もちゃんと積まれていることだし、間違いないだろう。長久たちは大型車へと乗り込み、車に揺られながら宿泊先へと進んでいく。
道中、長久は端末でマップを起動して向かう方向からなんとなく目的地のあたりを付ける。それから思わず、あ、ふーん……と真顔になった。
「……ん?」
そしてしばらく経てば、目的地も見えてきて他の面々も一体自分たちがどんなところに宿泊することになるのか理解し始める。
「見えてきました、あちらが今回勇者の皆様の宿泊先になります」
「ねぇ……気のせいじゃなければあれ……」
「なんか……こう……景観が良さそうな建物ですね……」
「おう、オメーら現実見ような」
必死で視線を逸らす何名かにツッコミを入れつつ、長久は若干死んだ目で運転手が示した建物を見る。
山の緩い傾斜面に建てられた白く綺麗な建物。言うまでもなく、ホテルである。
車はその建物が存在する山を登りはじめてしまったので、もう勘違いでも何でもない。
「泊まるなら民宿だと思っていたんだがな……」
「大社はそこら辺頭悪いぞ」
長久はどうせいいところの旅館かホテルだとは思っていた。そのため他の面々に比べれば驚きは少ない。
……決して長久は値段とか見ていない。一人あたり最低二万から三万後半だとか見ていない。
社会人ならともかく、学生には高すぎる値段だったとかいう事実はないのだ。
ちなみに実は勇者陣の給料から考えるとそこまで高い値段ではなかったりする。
それでも少し前までは普通の学生であったために、そこまで金銭感覚が狂った人間はこの場にはいなかった。だからどれだけ給料がよくても皆高いものは高いと感じてしまう。
「正直気後れしちゃって休むどころじゃなくなっちゃいそうです……」
「まぁ……でも皆で遊んで疲れてるし、すぐに寝ちゃいそうだよね」
「それは、そうかもな」
長久は来る以前は宿泊先でゆっくり休めるか不安であったが、実際のところは思ったより身体に疲れが残っているため自然と休むことにはなりそうではある。
今だって車での移動中に若干の眠気が来ている。しばらく過ごせば慣れてくるだろう、と長久は諦めることにした。
そんな風に休めるかどうかを話しているうちに、長久たちの乗った車はホテルの前へと辿り着く。
「……前言撤回かな。実際に目の前にしたら私も緊張してきちゃった」
「俺もだわ。外観もそうだけど、少しだけ見えるロビーが……」
幾つも見える質の良さげなソファに、根本だけ見えるあれは何かの樹木だろうか。見える限りは背丈も高そうな樹木だ、ロビーは吹き抜けになっているのだろう。
「では受付に行ってきます。皆様はしばしお待ちを」
「しばしお待ちを、と言われてもな……」
苦笑する若葉に、皆が同調する。一応、立っているのも疲れるのでソファに座ったのだが、どうにも落ち着かない。場違いではないか、という意識がどうにも抜けなかった。
しかしここでふと、球子が何かに気づいたようでハッとした顔をする。それから真剣な顔で口を開く。
「よくよく考えてみたら、タマたちはお城に住んでるんだし、それに比べたら大したことないのでは……?」
その言葉に全員が揃って確かに、と納得を示す。ホテルとお城、どう考えてもお城に住んでる方がよっぽど豪勢だった。
個室単位ではあまり豪華なわけではないが、それでもお城に住んでいるという段階で豪華な感じがする。日々を過ごす中で完全に慣れてしまって忘れていた。
「タマたちはここに宿泊してる人たちより良い生活してるのか……。つまりタマたちの方が圧倒的勝ち組」
「た、タマっち先輩!」
「マウント取るのやめーや」
へっ、と鼻で笑う球子を杏と二人がかりで長久は諌める。幸い、球子の言ったことは周囲の人間には聞こえていないらしい。慌てて周囲の様子を確認してしまったが、一先ず安心。
とはいえ球子が言っていたこともあながち間違いではなく、建物だけで見れば確かに自分たちの方が勝っているのだろう。
その事実に気づいたからか、長久たちは先程までに比べてある程度の落ち着きを得ることができた。
「土居さんの言うことにはあまり賛成できないけれど。マシにはなった、のかしらね」
「あはは……まだ夕食や部屋自体のことを考えると緊張しますけどね」
千景と杏の会話を聞きながらふと、長久はそういえば部屋はどうなっているのだろう、と疑問に思う。
今更ではあるが長久は男で、他は女性ばかりだ。普段何気なく一緒に生活してるために、また長久自身が自らを抑制しているため忘れがちであるが、勇者たちは長久にとって異性である。
となれば流石に部屋自体は別で大社も用意しているだろう。しかしその場合、自分は一人部屋になるのだろうか。それともまさか、運転手だった大社の職員と同室? 流石にそれは勘弁して欲しい、と長久は密かに苦笑を浮かべた。
かと言って一人部屋、というのも些か寂しい。流石に部屋は別でいいので、せめて食事くらいは一緒がいいななどと長久が思っていると、部屋のキーを持った大社の職員が受付から戻ってくる。
「勇者様方はこちら、長久さんの鍵はこちらになります」
「ん? 長久だけ別部屋なのか?」
「いや、長久は男なんだから当然だろう……」
若葉のツッコミに、あ、そっか、と球子が盲点だったという顔をする。そもそも長久としては勇者たちと恋愛関係になるべきではない、と考えているが、それにしてもここまで男として見られていないと流石に引っかかるものがあった。
とはいえそれで怒ることでもない。呆れ顔で球子を見ながらも、まだ何か言うべきことがある様子の大社職員の言葉を待つ。
「それから荷物に関しては大社の者がお部屋まで運び、お食事に関しては勇者様と同じ部屋で長久さんも食べる手筈となっています」
「お、流石にぼっち飯ではないのか」
「よかった、ご飯は皆で食べた方が美味しいもんね!」
そう言って微笑みを浮かべる友奈。この子、普通の学校に通ってたら多感な年頃の男子を大量に勘違いさせてそうだよな……なんて長久は他人事のように思う。
「また大社職員も数人、ここに宿泊しておりますので何かあればそちらにお伝えしていただければ、と」
それでは失礼します、と去っていく大社職員を見送りながら、長久は事務的だなぁと若干の呆れ顔になる。
どちらかと言えば勇者に対しては今の職員の方が一般的なのだが、普段接している研究部のせいで長久の中での大社職員のイメージは若干おかしくなっていた。
その後、一先ず食事の時間までは自由行動となり、長久は割り当てられた部屋へと向かうことにする。
鍵を開け、部屋に入ればそこには広い和室、十二畳ほどだろうか。視線を置くに向ければ開放感がある大きな窓から街の夜景が見渡せる。
……どう考えても一人用の部屋ではない。手元の端末で調べてみればどうやら一人か二人で宿泊できる部屋、ということらしかった。そりゃ広いわけである。
「うーん……落ち着かないな」
座椅子に座りながら長久は独りごちる。二人で過ごすことを想定した十二畳、それも家具のほとんどない十二畳だ。一人で過ごすには余りにも広すぎる。
意味もなく畳の上をごろごろしてみたりもしたが、やはり落ち着かない。
そもそも長久については日頃が仕事やら鍛錬やらで何かをしているためにこうして休息をとる、というのに慣れていないというのもあるのだが。本人には自覚がなかった。
そして加えて。
「………………」
長久は今日一日を思い出す。海辺に着いてから、海に浮いてゆっくりして、ビーチバレーで大騒ぎして。なんやかんやで全力で遊んでいたように思う。
意外と自分も全力で遊べるんだな、とか。自分がのうのうと遊んでいていいのか、なんてことも思ったりはするわけだが。しかしそれ以上にである。
「ッッッはぁぁぁぁー……」
長久は思いっきり息を吐き出す。部屋で一人になってしばらく。ようやく落ち着いてきたからこそというか、やっと気が抜けるというか。
長久の気が緩んだことでポロリと本音が口から漏れる。
「みんな女の子だった……!!」
思春期男子の苦悩だった。
球子ほどではないが、勇者たちを努めて女子として意識しないことで長久は普段の女子に囲まれた生活を乗り切っているところはある。そしてそれが無意識にできる程度には、もう慣れた。
しかしそこで水着姿なんてものを放り込まれればいくら長久でも異性として意識しないわけがない。
若葉や友奈、球子は運動することもあって健康的な美しさがあったし、杏やひなたは女性的な体つきで余りにも暴力的だった。引きこもり気味の千景ですら、色白だしモデル体型だしで長久としてはたまったものではない。
皆がいた手前、見た時は茶化して誤魔化したが一人になれば思い出してしまってダメだった。
しかしこの後食事の際に顔を合わせることを考えると、今のうちにいつも通りの意識に戻しておかねばならない。
あまり気は進まないが長久は自分がどういう人間なのかを改めて反芻し、どうにかこうにか一旦煩悩を追い出すことに成功したのだった。
……ちなみに。食事のために他の面々と顔を合わせた際の長久は、明らかな低テンションであり皆に心配されてしまった。
長久くんも男の子。そんなわけで海水浴編終了です。
正直日常パートくっそ書きづらいわ……ヨゴレキャラがいないから……。
現状一番書きやすいのは研究部の面々。