Vinculum semper vivat   作:天澄

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十九頁目.日々の暮らし:山遊びⅡ

「よし、それじゃあサバゲーやるぞ!」

 

 午前中の宣言の後、登ってきた山道を戻り、昼食を食べてからしばらく。各々軽く運動ができる程度には時間が経った頃、球子がそう切り出した。

 それに千景が非常に嫌そうに球子を見る。多分、これ以上動きたくないのだろう。が、そんな千景をガン無視して球子は言葉を続ける。

 

「まずは準備として着替えからだな」

 

 そう言って、シンプルな白いTシャツが各々に配られる。どうやら水鉄砲を利用するため、濡れたことがわかりやすいようにらしい。

 ……ちなみに。女子陣は全員、ちゃんとキャミソールなどを中に着ていた。黒のもの着ている人なんかは、濡れる前から色の関係上見えていたため気づけた事実である。

 濡れ透けなんてない、現実はこんなもんである。

 

 それから改めてコテージの外に集まった長久たちは、球子主導のもと、試合の準備を進めていく。

 

「そしたら次はチーム分けだな。今回は七人だから、申し訳ないけどひなたには審判を頼む」

 

 わかりました、とひなたが頷く。まぁひなたに関しては巫女であり、長久のように個人で鍛えているわけでもない。実際、午前中の山登りだけで疲労が溜まっているようだし妥当な判断だろう。

 

「まぁ山がフィールドになるし、水鉄砲を使う以上は当たったかどうかもわかるだろうけど……念のためだな」

 

 審判、と言っても大した仕事ではないと球子は言う。どちらかと言えば、脱落者の回収や非常時の救護が仕事になるらしい。

 そういうことならと用意してあったらしい救急箱を取りに行くひなたを見送ってから、球子は更に説明を重ねていく。

 

「今回はチーム戦にしようと思う。そのあと時間あったら個人戦な」

 

「チーム戦と言うと……どうチーム分けするつもりなんだ?」

 

 若葉の質問に、うむ、と頷いた球子は右手の人差し指を宙で回しながら、当初の予定では、と自らを指さす。

 

「タマが勝手に決めようと思ったんだがな」

 

 そこまで言った球子は苦笑しながら肩を竦めた。流石にそれは独断が過ぎるからやめた、という球子の意見には長久も賛成だった。

 それに、主催者として行うチーム分けというものは存外難しいと長久は思う。これが、球子は主催だけであり、参加しないというなら話は別だ。

 だが同時に参加者である以上、どうしても自チームへ贔屓をしたくなるものだ。球子に関しては、そこら辺、苦悩してしまうタイプだと思っている。

 

「だからリーダーを一人決めて、指名式で決めて行こうと思う」

 

 まぁそのあたりが妥当か。長久はリーダーとなるなら主催者の球子と、平時から勇者内でのリーダーである若葉あたりがリーダーだろうか、とあたりを付ける。

 次点でコミュニケーション能力の高い友奈か、参謀としての能力が高い伊予島か。そんな風に考えていると、まず、と球子が自分自身を指さしながら言う。

 

「今回企画したのはタマだからな、タマがリーダーをやろうと思う。それでもう一人は……」

 

 予想通り、それならもう一人の予想も当たるだろうかと長久が次に指名されるのは誰か呑気に考えていると……。

 

「長久だ」

 

「……えっ」

 

 球子が次に指さしたのは長久だった。

 思わず確認のために長久が首を傾げながら自らを指さすと、球子から返ってくるのは大きな頷き。

 嘘だろ、と思わず呟く長久に対し、他の面々は特に異論もないようで頷いたり納得の表情を見せている。

 完全に予想外なその状況に、長久は思わず待て待て、と声を上げながら確認のため球子へと問いかける。

 

「なんで俺……?」

 

「ん? そりゃ長久は勇者システムの実験とかでタマたちの動きはよく見てるだろ?」

 

 だから全員の能力を正しく把握してるかなーって。そう続けられる球子の言葉に、長久は思わずなるほどと声を漏らす。

 リーダーシップがあるなどではなく、全員の能力を分析した経験があるから、というのは流石に長久も納得がいく発想だ。

 勇者たちを指揮するなど、自分にその資格はないと騒ぐ自分もいるが……。所詮は遊びだ、ここで抵抗してその思考が勇者たちに露呈する方がマズいと、長久はリーダーをやることを仕方なしに受け入れた。

 

 そうしてリーダーが決まったことで、今度はチームメンバーをどちらが先に指名するかを決めることになる。

 決める方法はじゃんけん。子供でも分かる、シンプルな勝負だ。……しかしここでの勝ち負けに関しては、長久の読みが正しければそこまでこだわるところではない。

 球子と二人、声を揃える。ぽん、という声と共に出された手は、球子がグー。長久がチョキだ。

 

 じゃあタマからだな、そう言って球子は特に迷うこともなく、一人の人間を指さす。

 

「杏! 杏はタマのチームだ!」

 

 だろうな、と長久は苦笑する。球子がリーダーの段階で、最初に指名するのは杏だと思っていた。戦力は度外視で、単純に一番の友人として選ぶだろうと。

 杏は勇者の中でも貴重な頭脳派だ。それは別に他の面々が脳筋というわけではない。

 しかし杏は単純な読書量からくる知識の多さ。加えて臆病さ故の状況分析力といったところから参謀としての能力が高い。

 あまり敵に回って欲しい相手ではない、そういう意味ではとられたくなかった人材ではあった。

 

 だがまぁ、大きな問題ではない。長久は球子同様、最初から決めていた人間を指さし指名する。

 

「千景。お前だ」

 

「……私?」

 

「おう」

 

 自分が指名されるとは思ってなかったのか、首を傾げる千景に対し、早く来いと手招きする。

 それに対し千景は訝し気な顔のまま、長久の方へと歩み寄っていく。

 隣に来ても未だ納得できないらしい千景が視線で問いかけてくるが、まぁ面倒なのでスルー。とりあえず、そこら辺の説明はチームが決まってから作戦会議を兼ねてになる。

 

 この段階で残っているのは若葉と友奈。戦力的な話をするのであれば、どちらであっても大差はないと長久は思っている。

 しかし千景のモチベーションという点において、できれば若葉よりも友奈を味方に引き入れたいところではあるが。

 その長久の願いに神樹が応えたのか、次に球子が指定したのは若葉。必然的に長久のチームには友奈が加わることになる。

 

 構成としては、長久・千景・友奈に対し、球子・杏・若葉の図。

 長久の見立てでは……自チームが不利だろうか。そもそも、球子と敵対した段階で不利なのは確定だ。

 故に、今回はそこからどう差を覆すかが重要になる。

 

 球子に案内され、フィールドの範囲を確認する。レジャー用にか、ある程度木を間引いて走れるように、けれど多少の障害物は残しつつと言った風に整備された場所が今回のフィールドらしい。

 それから互いの初期位置は公開情報。ただしその場所自体は木々に隠れており、距離もあって直接見ることはできない。初動に関しては隠すことができるというわけだ。

 また、高さも極力近くしているようで、高低差による有利不利も発生しないようになっている。球子が考えたにしては、思っていたよりもしっかりしているようだった。

 球子は意外とおバカな子ではない……? 長久は予想外の事実に戸惑いつつも、まずは試合開始前に用意された十分間で作戦会議を行うことにする。

 

「とりあえず、現状確認だ。まず初期位置における有利不利はなし。戦力的には拮抗、ただし球子が得意とする山という地形を加味すると俺達が若干不利ってところだ」

 

 ここまでは大丈夫か確認を取れば、千景、友奈共に頷きが返ってくる。若干おバカの入っている友奈も理解できているようなので、今度はここからそれを踏まえてどう動くかの話に入っていく。

 

「さて、正直なところ。そもそも球子が敵に回った段階で結構厳しいものがあるんだが……」

 

 何かアイデアはあるか、長久のその問いかけに、千景がその前に少し、と言いながら小さく挙手をする。

 まぁなんとなく、言いたいことは分かる。千景は現在関係が近い人間の中で、唯一長久とその性質や精神状態が近いと言える人間だ。

 だからなんとなくにはなるが、長久は千景が言わんとすることを察し、答えを用意しながら千景に言葉の続きを促す。

 

「……チーム分けの時、何で最初に私を選んだの?」

 

 やはりそれか、と長久は苦笑する。千景は、基本的に自己評価が低い。それが触りだけ聞いている、彼女の生い立ちが原因なのは長久も理解しているため仕方ないとは思うのだが。

 それでも、彼女には胸を張って欲しいというのが長久の願いだった。なぜなら彼女のそれは環境のせいであり、彼女自身が悪いわけではないのだから。

 

 ――そう、自分とは違って。

 

 だから長久は千景の背を押すために、彼女を選んだ理由をはっきりと告げる。

 

「千景には、参謀をやってもらいたいんだ」

 

「参謀……?」

 

 確認をするように首を傾げる千景に、ああ、と一つ頷いて返してみせる。それから、そう難しい話ではないと、千景を選んだ理由を具体的に話していく。

 

「今回のこれは、水鉄砲を利用してるだけでベースはサバゲーだろ? だからFPSとか、そういうゲームに精通してる千景の知識は重要だと思ってな」

 

「それは……」

 

 必要なのは明確な理由だ。彼女が自らの意思で身につけた技術を具体的に肯定する、それを繰り返すことで彼女自身がそれを肯定できるようにしてやる。

 彼女の自己否定感が他人が原因であるならば、肯定感を生み出してやれるのもきっと他者だけだ。

 だから彼女の背を押し続けなければいけない。……彼女は、自分と同じ場所にいていい人間ではないのだから。

 それが長久の考えであり、千景への願いだった。

 

「まぁ現実での戦いにどこまで利用できるのかって話ではあるんだけど……。それでもあるとないとじゃ違う。千景の力を貸して欲しい」

 

 真っ直ぐに、千景の目を見て断言する。

 そんな長久の視線を向けられた千景は、不安そうに視線を揺らす。けれど、おずおずとではあるが長久の頼みに頷いてみせる。

 

「……そこまで言うなら、やってみるわ」

 

 まだ千景の瞳には迷いがある。けれどこうして、周りの人間が肯定し続けてあげれば、きっと。

 そう思いながら長久は笑みを浮かべて、頼んだぞ、と千景に返した。

 

「ねぇねぇ長久くん、私は頼りにしてないの?」

 

「友奈は……ちょっと頭が残念なので……」

 

 酷い、と大げさに驚いてみせる友奈。けれど話が一段落したところで話し始めたあたり、多分、空気を軽くするためなのだと思う。

 勉強はともかく、そういうところを察して動ける彼女はきっと本当は常日頃から色々考えているのだろう。本当の意味で、頭が悪いわけではきっとない。

 だけど、それを察しつつも長久は友奈に憐れみの目を向けた。友奈が作った空気に乗ったのだ。……でもちょっとだけ、勉強に関してだが本音は混じっていた。

 

「よし、それじゃあ本格的に作戦を立てていこうか!」

 

 パン、と手を打ち合わせて一鳴らし。友奈が作った少し軽くなった空気を利用して、完全に一度雰囲気を切り替える。

 ここからは真面目な作戦会議だ。遊びであっても、こういうことは本気でやるから楽しめると長久は思っている。

 折角球子が皆が楽しめるように、と企画したのだ。ならばそれをちゃんと成功させるのが自分の役目だろうと長久は定めていた。

 

「じゃあまずは千景、ゲームとかでこういう地形でのセオリーは?」

 

「高所を取ること……かしらね」

 

 視界の広さ、回避のしやすさ……諸々、有利になる点が多いと千景は言う。あくまで理論上ではあるが、と付け加えてはいたが納得のいく部分も多いためわかる話ではあった。

 

「特に今回は水鉄砲を使う分、高所からだと射程の差が生まれると思う。だからできれば高所をとりたいのだけれど……」

 

 そこで言い淀む千景。それに友奈は首を傾げるが、長久はすぐに千景が詰まった理由を察した。

 故にそうか、と呟いてから確認のために言葉にする。

 

「……球子、だな?」

 

「ええ」

 

 苦々しい顔で肯定する千景に、気持ちはわかると長久は思わず苦笑した。

 今回のフィールドである山は、言ってしまえば球子のフィールドだ。慣れが重要というのは前回の海でのビーチバレーで長久にもよくわかっていた。

 その足場に慣れてるかどうかで、人の動きは数段変わる。そのため今回の試合、初動の早さでは間違いなく相手チームに負けてしまう。つまり、である。

 

「高所有利は相手も同じ。その状況で球子が敵にいる以上……」

 

「機動力で負けて、上から撃たれるのは目に見えてるわね」

 

 だよなぁ、と大きく溜息を吐く。やはり、敵に球子がいるというのが厄介だった。

 加えて、相手には杏もいるため、ある程度こちらの作戦は見抜かれるだろう、というのも考慮しなければならない。

 そうなれば初動で高所を取りに行く、というのはかなり危険な賭けに思えた。

 

「一応、高所の相手に勝つ術がないわけじゃないけれど……。元戦力で負けてる以上、かなり難しい話になるわね」

 

 こうまで言われれば、流石に初動高所取りは諦めざるを得ない。かと言って現状では代案も思いつかない。

 どうしたものか、長久はしばし考え……そしてふと、思いついたことを千景に問う。

 

「だったら……こういう場所でのセオリーじゃなくて、自分たちより強い相手と戦う時のセオリーってあるか?」

 

 それを聞いてハッとした顔の後、考え込む千景。行き詰まった時、考え方を変えるのは大事だ。

 何か、強者を相手にするにあたってのセオリーがあれば、作戦も思いつくかもしれない。

 長久は千景が可能性を提示してくれるのを期待しながら、考え込む彼女を見つめた。

 

「セオリーというか、当たり前の話になるけど……大丈夫かしら?」

 

 充分である。今は何もヒントがない状況だ。少しでも新しいアイデアが欲しい。

 長久は構わない、そう告げて千景に続きを促す。

 

「格上相手だと、どう足掻いても正攻法で戦っても勝てないわ。だから、方法は二つ」

 

 指を立てて示されたのは二という数字。一つでもあれば御の字という状況だったのだ。二つもあるならありがたい。

 一つは、そう言って今度は人差し指だけ立てた千景が言う。

 

「奇策を使う。予想外の状況に追い込んで、相手が戸惑っているうちに倒す」

 

 なるほど、と長久と友奈が頷く。そもそも相手が実力を発揮する前に倒すということか。

 それならば確かに戦力差はひっくり返せる。ただそもそもそんな簡単に奇策が思いつくか、本当にその相手が驚いている間に倒し切れるか、様々な問題がある。

 即断でそれを採用できるほどの案ではない。故に長久はもう一つの方法について問う。

 

「もう一つは……所謂ハメ技を使うこと」

 

 ハメ技、それは一撃入れば相手の体力がなくなるまで無限にコンボを続けられる技などを指す言葉だ。

 確かにそれなら一撃でもいれればいいのだから、格上にも勝てるだろう。しかし今回はそもそも一撃で脱落になるルールだ、不利なフィールドで使えるハメ技など、現実に都合よくあるだろうか……?

 

 長久は少しだけ、考え込む。作戦会議に使える時間は限られている、あまり長い間それに費やすことはできない。

 このチームのリーダーは長久だ。作戦は長久が決めなければならない。

 友奈は作戦立案という点ではあまり期待できないし、千景は参謀とは言ったものの、人を動かす能力が高いわけじゃない。

 このメンバーで最終的な作戦を定めるのは、長久にしかできないのだ。

 

 ……だから、思索から帰ってきた長久は、少しだけ迷いながら二人へと告げた。




そんなわけで結局山遊び編三話構成になりました、夏休み回が長引いてるが許せ。

最近、コラボ先が連載中の二作のうちコラボに関係ない方を完結させて、コラボする方の作品に注力し始めたので、ちょっと焦りを覚えてます。
更新……更新しなきゃ……。
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